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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1252343
審判番号 不服2010-7832  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-13 
確定日 2012-02-17 
事件の表示 特願2003-342506「固体電解コンデンサの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-109249〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年9月30日の出願であって、平成21年7月23日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月1日に意見書が提出されたが、平成22年1月5日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年4月13日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。
「弁作用金属からなる陽極体の表面に誘電体酸化皮膜を形成したコンデンサ素子を、重合性モノマー溶液に浸漬した後、酸化剤水溶液に浸漬することにより、誘電体酸化皮膜表面に導電性高分子よりなる固体電解質を形成する固体電解コンデンサの製造方法において、
前記酸化剤水溶液として、有機スルホン酸遷移金属塩と有機スルホン酸アルカリ金属塩を溶解した水溶液を用いることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」


3.引用刊行物に記載された発明
(1)引用例1
(1-1)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平11-251191号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。以下同じ。)。

a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エチレンジオキシチオフェン(以下、EDTと記す)を化学酸化重合することによって固体電解質層を形成した固体電解コンデンサに係り、特に、その重合方法に改良を施した固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。」

b.「【0007】また、固体電解質層を形成する場合に、金属ペレットを、溶媒として有機溶媒を用いたEDTと酸化剤の混合溶液に浸漬した後、この混合溶液から引き上げて空気中で重合させるので、金属ペレットに付着した混合溶液が、直方体の金属ペレットの各面において、液体の表面張力により球状になろうとする。そのため、金属ペレットのエッジ部における混合溶液の付着量は、他の部分に比べて少なくなる。
【0008】その結果、金属ペレットのエッジ部に形成されるポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDTと記す)の量が少なく、PEDTが金属ペレット上の酸化皮膜を完全に覆う状態になっておらず、このPEDT層の表面にカーボン、銀接着剤を塗布してコンデンサを形成した場合、酸化皮膜が覆われていない部分を通じて電流が流れるため、漏れ電流(LC)が増大したり、場合によっては、カーボンと酸化皮膜とが接触して、ショートが発生するという問題があった。
【0009】本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、その目的は、重合工程、洗浄工程等の作業環境の改善を図り、金属ペレットの表面に均一な固体電解質層を形成した、優れた電気特性を有する固体電解コンデンサを提供することにある。また、本発明の別の目的は、重合工程、洗浄工程等の作業環境の改善を図り、金属ペレットの表面に均一な固体電解質層を形成することができる、信頼性の高い固体電解コンデンサの製造方法を提供することにある。」

c.「【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討を重ね、EDTと酸化剤の混合溶液の溶媒として水を用いることを試みたが、EDTは水に溶けないため、EDTと酸化剤の混合溶液の溶媒として水を用いることはできなかった。そこで、本発明者等は、誘電体酸化皮膜を有する金属ペレットをEDT溶液に浸漬して、誘電体酸化皮膜上にEDTを付着させた後、前記金属ペレットを酸化剤の水溶液に浸漬し、酸化剤をEDTに付着させて酸化重合を行わせようとした。しかしながら、EDTは水とはなじみが良くないため、EDTを付着させた金属ペレットを、短時間、酸化剤水溶液に浸漬しただけでは酸化剤がEDTに付着しなかった。そこで、本発明者等は、前記金属ペレットを酸化剤水溶液中に浸漬し続けたところ、重合が良好に進行し、PEDTの固体電解質層が形成されることを見い出したものである。
【0011】すなわち、誘電体酸化皮膜を有する金属ペレットを、EDTまたは所定の濃度のEDT溶液に所定時間浸漬して、誘電体酸化皮膜上にEDTを付着させた後、前記金属ペレットを所定の濃度の酸化剤水溶液に所定時間浸漬し、酸化剤をEDTに付着させ、その後、水、温水、有機溶剤等で洗浄し、乾燥させる。そして、上記EDTまたはEDT溶液に浸漬?乾燥までの工程を所定回数繰り返す。その後、カーボン、銀ペーストを塗布し、銀接着剤で陰極端子を引き出し、樹脂外装してエージングを行う。この場合、金属ペレットをEDTまたはEDT溶液と酸化剤水溶液に交互に浸漬する回数は1?20回、好ましくは3?10回、酸化剤水溶液に浸漬する時間は5分?5時間、好ましくは15分?3時間である。
【0012】ここで、本発明に用いられる酸化剤としては、ペルオクソ二硫酸及びそのNa塩,K塩,NH_(4 )塩等のペルオクソ二硫酸塩、硝酸セリウム(IV)、硝酸セリウム(IV)アンモニウム、硫酸鉄(III) 、硝酸鉄(III) 、塩化鉄(III) 、p-トルエンスルホン酸第二鉄等の第二鉄塩、過酸化水素等が挙げられる。なかでも、ペルオクソ二硫酸塩及び第二鉄塩は酸化力が強いため、本発明の酸化剤として、特に好ましいものである。なお、酸化剤水溶液の濃度は、5?50wt%、酸化剤水溶液の温度は、0?60℃が好ましい。
【0013】また、EDT溶液の溶媒としては、一価アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等)が用いられる。なお、EDT溶液としては、任意の濃度のものを用いることができる。
【0014】次に、陽極に使用する弁作用を有する金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンあるいはこれら金属を基質とする合金等の弁作用を有する金属を使用することができる。また、陽極は、これら金属の多孔質焼結体、エッチング等で表面処理された板(リボン、箔等を含む)、線等、その形状は特に限定されない。さらに、この金属ペレットの表面に誘電体酸化皮膜を形成する方法としては、従来から公知の方法を用いることができる。例えば、タンタル粉末の焼結体を使用する場合には、リン酸水溶液中で陽極酸化して、焼結体に酸化皮膜を形成することができる。」

d.「【0015】(効果)上述したような本発明の固体電解コンデンサの製造方法によると、金属ペレットをEDTまたはEDT溶液に浸漬し、その後に酸化剤水溶液に浸漬し、この酸化剤水溶液中で重合を行うため、有機溶媒を用いていた従来の製造方法に比べて、重合工程、洗浄工程等の作業環境が大幅に改善される。また、酸化剤水溶液中で酸化重合を行わせるので、直方体の金属ペレットの各面及びエッジ部に形成されるPEDT層が均一化される。従って、従来から問題になっていた、金属ペレットのエッジ部においてPEDT層が薄くなるということがなく、均一なPEDT層が得られるので、コンデンサの漏れ電流(LC)を低減することができ、また、ショートの発生も防止することができる。
【0016】また、EDT溶液と酸化剤水溶液をそれぞれ別個に調製するため、酸化剤水溶液の濃度・量とは独立して、任意の濃度のEDT溶液を使用することが可能となる。さらに、EDTと酸化剤の混合溶液の寿命を考慮する必要がないため、固体電解質層の形成工程を高精度で、信頼性の高いものとすることができる。」

e.「【0017】
【実施例】[1.第1実施例]以下、本発明による固体電解コンデンサの製造方法の第1実施例、及びその製造方法によって得られた固体電解コンデンサの初期特性を示す。なお、本実施例は、酸化剤として、酸化力の強いことで知られているペルオクソ二硫酸塩を用いたものである。また、比較例として、EDTとp-トルエンスルホン酸第二鉄(FePTS)のブチルアルコール溶液の混合溶液に金属ペレットを含浸し、空気中で重合を行った固体電解コンデンサを用いた。
【0018】[1-1.使用試薬例]
モノマー:エチレンジオキシチオフェン(EDT)
酸化剤:ペルオクソ二硫酸アンモニウム、ペルオクソ二硫酸ナトリウム
【0019】[1-2.適用条件]
酸化剤溶液濃度:5?60wt%
酸化剤溶液温度:0?60℃
【0020】[1-3.製造方法]図1のフローチャートに示したように、タンタルペレット(Aサイズ用、粉末CV=30k,41FV,3.6μF)を、室温で2分間、50%EDTのイソプロピルアルコール溶液に浸漬する。次に、このタンタルペレットを酸化剤水溶液(水:ペルオクソ二硫酸アンモニウム=2:1<wt>)に浸漬し、室温で3時間放置して重合する。その後、10分間水洗し、100℃で20分間乾燥する。この操作を6回繰り返し、カーボン、銀ペーストを塗布した後、銀接着剤で陰極端子を引き出し、その後、樹脂で封止し、105℃,16Vで1時間エージングを行った。」

(1-2)上記摘記事項cによれば、引用例1には、酸化剤として、p-トルエンスルホン酸第二鉄は、特に好ましく用いられる物質として記載されていることは明らかである。
また、摘記事項eの実施例等からみて、PEDTの固体電解質層が形成される誘電体酸化皮膜を有する金属ペレットが、タンタル等の弁作用を有する金属であることも明らかである。

(1-3)以上によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「弁作用を有する金属からなり誘電体酸化皮膜を有する金属ペレットを、所定の濃度のEDT溶液に所定時間浸漬して、誘電体酸化皮膜上にEDTを付着させた後、前記金属ペレットを所定の濃度の酸化剤水溶液に所定時間浸漬し、酸化剤をEDTに付着させ、この酸化剤水溶液中でEDTを重合させ、PEDTの固体電解質層を形成する固体電解コンデンサの製造方法であって、前記酸化剤としてp-トルエンスルホン酸第二鉄を用いた固体電解コンデンサの製造方法。」

(2)引用例2
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開2003-109882号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特に、基板内蔵型とされて用いられる高分子固体電解コンデンサアレーに関する。」

b.「【0055】本発明において、固体高分子電解質層に含まれる導電性高分子化合物としては、置換または非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物よりなる群から選ばれる化合物を、原料モノマーとするものが好ましく、これらのうちでは、置換または非置換のπ共役系複素環式化合物を、原料モノマーとする導電性高分子化合物が好ましく、さらに、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフランおよびこれらの誘導体よりなる群から選ばれる導電性高分子化合物、とくに、ポリアニリン、ポリピロール、ポリエチレンジオキシチオフェンが好ましく使用される。
【0056】本発明において、固体高分子電解質層に好ましく使用される導電性高分子化合物の原料モノマーの具体例としては、未置換アニリン、アルキルアニリン類、アルコキシアニリン類、ハロアニリン類、o-フェニレンジアミン類、2,6-ジアルキルアニリン類、2,5-ジアルコキシアニリン類、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-プロピルピロール、チオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェンなどを挙げることができる。
【0057】本発明において、化学酸化重合に使用される酸化剤は、とくに限定されるものではないが、たとえば、ヨウ素、臭素、ヨウ化臭素などのハロゲン化物、五フッ化珪素、五フッ化アンチモン、四フッ化珪素、五塩化リン、五フッ化リン、塩化アルミニウム、塩化モリブデンなどの金属ハロゲン化物、硫酸、硝酸、フルオロ硫酸、トリフルオロメタン硫酸、クロロ硫酸などのプロトン酸、三酸化イオウ、二酸化窒素などの酸素化合物、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過酢酸、ジフルオロスルホニルパーオキサイドなどの過酸化物が、酸化剤として使用される。
【0058】本発明において、必要に応じて、酸化剤に添加されるドーパント種を与える化合物としては、たとえば、LiPF_(6)、LiAsF_(6)、NaPF_(6)、KPF_(6)、KAsF_(6)などの陰イオンがヘキサフロロリンアニオン、ヘキサフロロ砒素アニオンであり、陽イオンがリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属カチオンである塩、LiBF_(4)、NaBF_(4)、NH_(4)BF_(4)、(CH_(3))_(4)NBF_(4)、(n-C_(4)H_(9))_(4)NBF_(4)などの四フッ過ホウ素塩化合物、p-トルエンスルホン酸、p-エチルベンゼンスルホン酸、p-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メチルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、βーナフタレンスルホン酸などのスルホン酸またはその誘導体、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、2,6-ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウムなどのスルホン酸またはその誘導体の塩、塩化第二鉄、臭化第二鉄、塩化第二銅、臭化第二銅などの金属ハロゲン化物、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、リン酸、硝酸あるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、過塩素酸、過塩素酸ナトリウムなどの過ハロゲン酸もしくはその塩などのハロゲン化水素酸、無機酸またはその塩、酢酸、シュウ酸、蟻酸、酪酸、コハク酸、乳酸、クエン酸、フタル酸、マレイン酸、安息香酸、サリチル酸、ニコチン酸などのモノもしくはジカルボン酸、芳香族複素環式カルボン酸、トリフルオロ酢酸などのハロゲン化されたカルボン酸およびこれらの塩などのカルボン酸類を挙げることができる。
【0059】本発明において、これらの酸化剤およびドーパント種を与えることのできる化合物は、水や有機溶媒などに溶解させた適当な溶液の形で使用される。溶媒は、単独で使用しても、2種以上を混合して、使用してもよい。混合溶媒は、ドーパント種を与える化合物の溶解度を高める上でも有効である。混合溶媒としては、溶媒間に相溶性を有するものおよび酸化剤およびドーパント種を与えることのできる化合物と相溶性を有するものが好ましい。溶媒の具体例としては、有機アミド類、含硫化合物、エステル類、アルコール類が挙げられる。」


4.本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「弁作用を有する金属」は、本願発明の「弁作用金属」に相当する。そして、引用発明の「金属ペレット」は、「弁作用を有する金属からな」るものであって、その上に誘電体酸化皮膜を有するものであるから、本願発明の「陽極体」に相当する。したがって、引用発明は、本願発明の「弁作用金属からなる陽極体の表面に誘電体酸化皮膜を形成したコンデンサ素子」に相当する構成を有していることは明らかである。

(2)引用発明の「EDT溶液」及び「PEDTの固体電解質層」は、各々、本願発明の「重合性モノマー溶液」及び「導電性高分子よりなる固体電解質」に相当する。また、引用発明の「PEDTの固体電解質層」が「誘電体酸化皮膜」の表面に形成されることは明らかであるのだから、引用発明は、本願発明の「重合性モノマー溶液に浸漬した後、酸化剤水溶液に浸漬することにより、誘電体酸化皮膜表面に導電性高分子よりなる固体電解質を形成する」に相当する構成を有していることは明らかである。

(3)引用発明の「p-トルエンスルホン酸第二鉄」は、本願発明の「有機スルホン酸遷移金属塩」に含まれるものである。また、引用発明において、前記「p-トルエンスルホン酸第二鉄」は、酸化剤として水溶液の状態で用いられるものであるから、引用発明は、本願発明の「前記酸化剤水溶液として、有機スルホン酸遷移金属塩」「を溶解した水溶液を用いる」という構成を有していることは明らかである。

(4)以上によれば、本願発明と引用発明とは、
「弁作用金属からなる陽極体の表面に誘電体酸化皮膜を形成したコンデンサ素子を、重合性モノマー溶液に浸漬した後、酸化剤水溶液に浸漬することにより、誘電体酸化皮膜表面に導電性高分子よりなる固体電解質を形成する固体電解コンデンサの製造方法において、
前記酸化剤水溶液として、有機スルホン酸遷移金属塩を溶解した水溶液を用いることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)酸化剤水溶液について、本願発明は「有機スルホン酸遷移金属塩と有機スルホン酸アルカリ金属塩を溶解」するものであるのに対し、引用発明は「有機スルホン酸遷移金属塩」は溶解しているものの「有機スルホン酸アルカリ金属塩」は溶解していない点。


5.相違点についての当審の判断
(1)引用例2には、高分子固体電解コンデンサアレーにおける固体高分子電解質の化学重合に用いられる酸化剤にドーパント種が添加されること、及び、該ドーパント種としてブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、2,6-ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウムといった有機スルホン酸アルカリ金属塩が用いられることが記載されている。
引用例2に記載の発明におけるドーパント種が固体電解質層の電気伝導度を向上させるために添加されるものであることは、技術常識からみて明らかである。そして、一般に、固体電解コンデンサにおいて、電解質の電気伝導度を向上させることは、当業者が常に念頭に置いている課題であるから、引用発明において、引用例2に記載された有機スルホン酸アルカリ金属塩からなるドーパント種を酸化剤に添加する技術を採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(2)なお、引用例2に記載された発明以外にも、固体電解コンデンサの固体電解質層を酸化重合によって形成する際の酸化剤水溶液に、ドーパントとして有機スルホン酸アルカリ金属塩を添加することは、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された下記の周知例1に記載されているように、当業者における周知技術にすぎないものである。

a.周知例1:特開2003-257788号公報
上記周知例1には、以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に関するものである。さらに詳しく言えば、誘電体皮膜を有する弁作用金属基体を積層する固体電解コンデンサにおいて、コンデンサ素子の陽極部に溶接金属を設けた固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。」
「【0022】重合の手法は、電解重合でも、化学酸化重合でも、その組合せでもよい。また、誘電体皮膜上に導電性重合体でない固体電解質をまず形成し、次いで上記の重合方法で導電性重合体を形成する方法でもよい。
【0023】導電性重合体を形成する例として、3,4-エチレンジオキシチオフェンモノマー及び酸化剤を好ましくは溶液の形態において、別々に前後してまたは一緒に誘電体皮膜上に塗布して形成する方法(特開平2-15611号公報や特開平10-32145号公報)等が利用できる。
【0024】一般に導電性重合体には、ドーピング能のある化合物(ドーパント)が使用されるが、ドーパントはモノマー溶液と酸化剤溶液のいずれに添加しても良く、ドーパントと酸化剤が同一の化合物になっている有機スルホン酸金属塩の様なものでもよい。ドーパントとしては、好ましくはアリールスルホン酸塩系のドーパントが使用される。例えば、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラセンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸などの塩を用いることができる。」
「【0039】実施例1
11mm×3.3mmのアルミニウム化成箔(日本蓄電器工業株式会社製(箔種110LJB22B、定格皮膜耐電圧:4vf)以下、化成箔と称する。)を768枚用意した。この化成箔を先端から二分するように、化成箔の両面および両端にマスキング材(耐熱性樹脂)による幅1mmのマスキングを周状に形成した。陰極部(横3.3mm×縦4mm)と陽極部に分け、この化成箔の先端側区画部分である陰極部を、電解液としてアジピン酸アンモニウム10質量%水溶液を使用し、温度55℃、電圧4V、電流密度5mA/cm^(2)、通電時間10分の条件で化成し、水洗した。
【0040】その後、陰極部を、3,4-エチレンジオキシチオフェンのイソプロピルアルコール溶液1mol/lに浸漬後、2分間放置し、次いで、酸化剤(過硫酸アンモニウム:1.5mol/l)とドーパント(ナフタレン-2-スルホン酸ナトリウム:0.15mol/l)の混合水溶液に浸漬し、45℃、5分間放置することにより酸化重合を行った。
【0041】この含浸工程及び重合工程を全体で12回繰り返し、ドーパントを含む固体電解質層を化成箔の微細孔内に形成した。このドーパントを含む固体電解質層を形成した化成箔を50℃温水中で水洗し固体電解質層を形成した。」

(3)また、固体電解コンデンサの固体電解質層を酸化重合によって形成するに際し、有機スルホン酸遷移金属塩と有機スルホン酸アルカリ金属塩とを共存させることも、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された下記の周知例2及び3に記載されているように当業者によく知られた事項であることを考慮すれば、引用発明において引用例2に記載の発明を採用するに際し、ドーパント種としてブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、2,6-ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウムといった有機スルホン酸アルカリ金属塩を選択することは阻害されるものではない。

a.周知例2:特開2001-167980号公報
上記周知例2には、以下の記載がある。
「【0028】次に、エチレングリコールを10wt%含有する水溶液に複素環式モノマーとしてピロールを1.0mol/l、酸化剤としてp-トルエンスルホン酸第2鉄を0.75mol/l、ドーパントとしてアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムを0.15mol/lとなるように調整した混合溶液に5分間浸漬して引き上げて乾燥(120℃)した。この一連の操作を2回繰り返し行って第2の導電性高分子層を得た。その後カーボン層、導電性接着層を順次形成して陰極引出線を接続して、最後に陽極導出線及び陰極引出線の一部が外部に表出するように外装樹脂で被覆してタンタル固体電解コンデンサを作製した(Dサイズ:7.3×4.3×2.8mm)。」

b.周知例3:特開2002-313684号公報
上記周知例3には、以下の記載がある。
「【0088】次に、第3の固体電解質層形成工程は、懸濁液としてエチレングリコールを10wt%含有する水溶液にエチレンジオキシチオフェンを1.0mol/l、酸化剤としてP-トルエンスルホン酸第2鉄を0.75mol/l、ドーパントとしてアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムを0.15mol/lとなるように溶解させて調製したものを用い、上記第2の固体電解質層形成工程で固体電解質層が形成された陽極体を上記懸濁液に所定時間浸漬させ、その後引き上げて所定時間保持してから水洗または湯洗により余分の懸濁液を除去し、その後水洗または湯洗を行い乾燥することにより、陽極体にポリチオフェンからなる固体電解質層を形成する。」

(4)さらに、モノマー溶液の酸化重合に際し、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等の有機スルホン酸アルカリ金属塩の添加が、該有機スルホン酸アルカリ金属塩の界面活性剤作用により重合速度の向上に寄与することも、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である周知例4及び5に記載されるように、当業者における周知技術にすぎないものである。
したがって、本願発明における「有機スルホン酸アルカリ金属塩」を溶解したことにより重合時間が短くなるという効果は、当業者が予測できる程度のものであり、格別なものとは認めることができない。

a.周知例4:特開平10-92699号公報
上記周知例4には、図1とともに以下の記載がある。
「【0079】以下、本発明の各実施の形態について、詳細に説明をする。
(実施の形態1)本実施の形態においては、まず、2x1.4x0.9mm^(3)のタンタル焼結体に対して、燐酸5mlを1000mlの水に溶解した溶液を用い、約90℃で40Vを印加して、陽極酸化により酸化皮膜誘電体皮膜を形成した。
【0080】この構成をコンデンサと見立て、化成液中の容量を測定したところ、18.0μFであった。
【0081】さらに、この構成を用いて、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)0.1mol/lと芳香族スルホン酸系界面活性剤であるアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム(平均分子量338)0.75重量%からなる45℃のモノマー水溶液に5分間浸漬後、硫酸第二鉄0.75mol/lを含む65℃の酸化剤溶液に60分間浸漬した。
【0082】ここで、EDOTは、ドイツのバイエル社から市販されているものを用いたが、EDOTを一般的な作製方法で合成してもよい。
【0083】この処理により、2価の硫酸イオンと1価のアルキルナフタレンスルホン酸イオンとがドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)からなる導電層を、誘電体被膜が形成されたタンタル焼結体上に形成した。
【0084】ここで、図1は、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムの添加量を変化させた場合に得られるPEDOTの収量と電気伝導度の変化を示す。
【0085】図1に示すように、このアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムを徐々に添加をしていくことにより、PEDOTの収量及び電気伝導度が増加していることがわかる。
【0086】これは、PEDOT中に、1価のアルキルナフタレンスルホン酸イオンがドープされていることに起因すると考えられる。
【0087】また、一方で、界面活性作用のないスルホン酸塩を添加した場合には、PEDOTの収量や電気伝導度は、ここまでは顕著に増加しなかった。
【0088】したがって、界面活性剤作用のあるスルホン酸塩を添加した方が、より重合速度を促進して収量を増大させる効果もあることも判明した。」

b.周知例5:特開平11-274006号公報
上記周知例5には、図1とともに以下の記載がある。
「【0056】本発明の実施の形態について、以下詳細に説明をする。(実施の形態1)本実施の形態1においては、まず、2x1.4x0.9mm3のタンタル焼結体に対して、燐酸5mlを1000mlの水に溶解した溶液を用い、約90℃で40Vを印加して、陽極酸化により酸化皮膜誘電体被膜を形成した。この構成をコンデンサと見立て、化成液中の容量を測定したところ、18.0μFであった。
【0057】さらに、この構成を用いて、3、4ーエチレンジオキシチオフェン(EDOT)0.1mol/lと芳香族スルホン酸系界面活性剤であるアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム(平均分子量338)0.75重量%からなる25℃のモノマー分散水媒体に5分間浸漬後、硫酸第二鉄0.75mol/lを含む65℃の酸化剤水溶液に120分間浸漬して、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を形成した。
【0058】このモノマー分散水媒体と酸化剤水溶液への、コンデンサ素子の浸漬を、表面がPEDOTで被覆されるまで繰り返した。被覆に要した繰り返し回数は20回であった。
【0059】ここで、EDOTは、ドイツのバイエル社から市販されているものを用いたが、EDOTを一般的な作製方法で合成してもよく、例えば、Polymer誌35巻7号(1994年)1347頁に開示されている方法によってもよい。この処理により、アルキルナフタレンスルホン酸イオンが支配的にドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)からなる導電層を、誘電体被膜が形成されたタンタル焼結体上に形成した。
【0060】ここで、図1は、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムの添加量を変化させた場合に得られるPEDOTの収量と電気伝導度の変化を示す。図1に示すように、このアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムを徐々に添加をしていくことにより、PEDOTの収量及び電気伝導度が増加していることがわかる。これは、PEDOT中に、アルキルナフタレンスルホン酸イオンがドープされていることに起因すると考えられる。また、一方で、界面活性作用のないスルホン酸塩を添加した場合には、PEDOTの収量や電気伝導度は、ここまでは顕著に増加しなかった。
【0061】したがって、界面活性剤作用のあるスルホン酸塩を添加した方が、より重合速度を促進して収量を増大させる効果もあることも判明した。」

(5)以上、(1)?(4)より、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6.むすび
以上のとおりであるから、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-16 
結審通知日 2011-12-21 
審決日 2012-01-05 
出願番号 特願2003-342506(P2003-342506)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 酒井 英夫
西脇 博志
発明の名称 固体電解コンデンサの製造方法  

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