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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61H
審判 全部無効 特174条1項  A61H
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61H
管理番号 1252349
審判番号 無効2009-800218  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-10-19 
確定日 2012-03-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第3590629号発明「椅子型マッサージ機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第3590629号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成9年4月25日に出願した特願平9-109692号の一部を平成16年1月26日に新たな特許出願とされ、平成16年8月27日にその発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成21年10月19日に請求人(株式会社フジ医療器)より無効審判の請求がなされ、被請求人(ファミリー株式会社)より平成22年1月12日付けの答弁書が提出され、請求人より平成22年2月24日付けの上申書が提出された。
その後、請求人より平成22年4月14日付けの口頭審理陳述要領書が提出され、被請求人より平成22年4月27日付けの口頭審理陳述要領書が提出され、平成22年5月10日に口頭審理が行われ、請求人及び被請求人よりそれぞれ平成22年5月31日付けの上申書が提出され、さらに被請求人より平成22年6月22日付けの上申書が提出されたものである。

II 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたつぎのとおりのものである。
「【請求項1】
座面部の前部にフットレストを備えた椅子型マッサージ機であって、
前記フットレストは、
脚の背面が対向する内底面と、
前記内底面の左右両側にあって脚の左右外側面が対向するよう立設された対向内側面と、
左右両側の対向内側面の間にあって脚の左右内側面が対向するよう立設された分離丘と、
前記内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップと、
を有し、
前記フットレストは、ふくらはぎに対するマッサージ動作を行うふくらはぎ用マッサージ駆動部を備えているとともに、当該フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となるように前記座面部の前部に揺動可能に取り付けられ、
前記足裏支持ステップは、前記分離丘によって左右に区切られ、
前記分離丘によって左右に区切られた前記足裏支持ステップの左右のそれぞれの領域には、内部に空気が供給されることで伸長して足裏を指圧するマッサージ駆動部としてのエアセルが設けられ、
前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されていることを特徴とする椅子型マッサージ機。
【請求項2】
前記座面部内部には、マッサージ駆動部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の椅子型マッサージ機。
【請求項3】
左右の対向内側面と、分離丘の左右の側面に設けられ、内部に空気が供給されることで伸長して左右の脚の両側面を挟持状に指圧するエアセルを備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の椅子型マッサージ機。
【請求項4】
前記足裏支持ステップは、ステップ裏底側に機械収納部が形成され、
前記機械収納部には、足裏を指圧するためのエアセルの配管機器が収納されていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の椅子型マッサージ機。」

III 請求人及び被請求人の主張の概略
A 請求人の主張
請求人の主張は、つぎのとおりである。
1 本件発明1?4は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1?4についての特許は無効とすべきである(以下、「無効理由1」という。)。
2 本件特許は、特許法44条1項の規定に違反した特許出願に係るものであり、同条第2項に規定された、その出願はもとの特許出願の時にしたものとみなすとの適用を受けることができないものであり、本件発明1?4は、甲第11号証、及び甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1?4についての特許は無効とすべきである(以下、「無効理由2」という。)。
3 本件特許は、その当初明細書等に新規事項を追加することにより特許法17条の2第3項補正要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、本件発明1?4についての特許は無効とすべきである(以下、「無効理由3」という。)。
4 本件発明1?4は明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、不明確であるから、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号及び2号に適合するものではなく、また、発明の詳細な説明には当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号に適合するものではなく、本件発明1?4についての特許は無効とすべきである(以下、「無効理由4」という。)。

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開平8-89540号公報
甲第2号証:実願昭63-133472号(実開平2-54447号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開昭53-104359号公報
甲第4号証:特開2004-113832号公報
甲第5号証:特許3590629号公報
甲第6号証:平成16年1月27日付けの手続補正書(本件特許の出願経過書類)
甲第7号証:平成16年1月27日付けの早期審査に関する事情説明書(本件特許の出願経過書類)
甲第8号証:平成16年4月6日付けの拒絶理由通知書(本件特許の出願経過書類)
甲第9号証:平成16年6月14日付けの意見書(本件特許の出願経過書類)
甲第10号証:平成16年6月14日付けの手続補正書(本件特許の出願経過書類)
甲第11号証:特開平10-295753号公報
甲第12号証:拒絶査定不服審判(不服2006-5262)の審決公報
甲第13号証:特開平9-56766号公報
甲第14号証:特開平8-112325号公報
甲第15号証:特開平7-124220号公報
甲第16号証:特開平7-124213号公報
甲第17号証:実願平5-67498号(実開平7-37160号)のCD-ROM
甲第18号証:特開平8-38562号公報
甲第19号証:特開昭60-75059号公報
甲第20号証:特許庁編「特許・実用新案審査基準」第III 部,第I節,5.2(3)
甲第21号証:特許庁編「特許・実用新案審査基準」第III 部,第IV節,事例41
甲第22号証:特許庁編「特許・実用新案審査基準」第III 部,第I節,4.2(1)

B 被請求人の主張
被請求人の主張は、つぎのとおりである。
1 本件特許は、その出願は、特許法44条第1項の規定に該当し、同条第2項の規定の適用を受けることができるものであり、また、本件発明1?4は、いずれも進歩性を備えたものであるから、本件特許は無効となり得ず、維持されるべきものである。
2 本件特許は、その当初明細書等に新規事項を追加するものではないから、本件特許は無効となり得ず、維持されるべきものである。
3 特許請求の範囲における、本件発明1?4は、明細書の発明の詳細な説明に記載されており、明確であり、また、発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件特許は無効となり得ず、維持されるべきものである。

〈証拠方法〉
乙第1号証:知財高裁判決(平成20年(行ケ)第10096号)
乙第2号証:特開平8-38567号公報

IV 当審の判断
A 無効理由1について
1 刊行物
(1)甲第1号証には、つぎのとおり記載されている。
(1-1)「【請求項1】上面および前後両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する本体と、前記凹部の底面から立ち上がって相対向する凹部側面の少なくとも一方に取付けられた空気袋と、この空気袋に連通して設けられ前記空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置とを具備したエアーマッサージ機。」
(1-2)「【0001】
・・・本発明は、空気袋の膨脹・収縮によって人体の肢体(脚および腕)に対するマッサージを行うエアーマッサージ機に関する。」
(1-3)「【0002】
【従来の技術】例えば足をマッサージするエアーマッサージ機として図8?図11に示されるブーツタイプのものが従来知られている。このものは、脚の足Aが入れられる足収納部1aに、脚の下腿Bが入れられる下腿収納部1bを連ねて側面から見た形状が略L字状をなす本体1を備えている。足収納部1aの先端と下腿収納部1bの上端とは夫々開口されている。本体1にはその下腿収納部1bの上端開口を通して脚が出し入れされる。
【0003】図9および図10に示されるように足収納部1aの内面には、底部に配置される第1空気袋2と、側部に配置される一対の第2空気袋3とが取付けられている。図9および図11に示されるように下腿収納部1bの内面には、この内面を略一回りするように第3空気袋4が取付けられている。各空気袋2?4は足収納部1aの先端開口を通るチューブ5(図8参照)を介してエアー給排気装置6に接続されている。エアー給排気装置6は空気袋2?4に対してエアーを給排気して、これら空気袋2?4を膨脹・収縮させるものである。
【0004】このようなブーツタイプのエアーマッサージ機を使用する時には、その内部に図9中2点鎖線に示されるように脚を挿入してから、エアー給排気装置6を動作させて、空気袋2?4を膨脹・収縮させればよい。それにより第1、第2の空気袋2、3で足Aの裏および甲をマッサージできるとともに、第3空気袋4で下腿Bのふくらはぎ回りをマッサージすることができる。」
(1-4)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし従来のものはブーツタイプであるために、脚以外に例えば腕をマッサージすることはできず、汎用性に欠けるという問題がある。
【0006】また、従来のものは、筒状をなす本体1に対して脚を出し入れしなければならないから、取扱いが面倒であるという問題がある。・・・
【0007】本発明の第1の目的は、汎用性を高めることができるとともに、容易に取扱うことができるエアーマッサージ機を得ることにある。」
(1-5)「【0016】
・・・、図1および図2を参照して本発明の第1実施例を説明する。図1に示されるように本実施例のエアーマッサージ機は、本体11と、空気袋12と、エアー給排気装置13とを備えている。
【0017】図1および図2に示されるようにマッサージ機本体としての本体11は、互いに平行な一対の側壁14とこれらの間に設けられた中間壁15とを備えているとともに、一対の施療凹部16を有している。一方の施療凹部16は、中間壁15と一方の側壁14との間に形成され、他方の施療凹部16は、中間壁15と他方の側壁14との間に形成されている。各施療凹部16は上面および前後両端を夫々開放して正面から見た形状が略U字形となる凹状に形成されている。これら凹部16の幅および深さは使用者の脚および腕の各部が入り得るを大きさとしてある。また、本体11は使用者の全体重に耐え得る剛性を有して形成されている。空気袋12は、前記凹部16の底面から立ち上がって相対向する凹部側面、すなわち、中間壁15および側壁14の向かい合う垂直状の側面15a、14aに夫々が取付けられている。相対向する空気袋12は、収縮時に前記側面14a、15aに沿うように配置されるとともに、膨脹時に互いに近付く方向に膨れ、しかも、図2に示されるように施療凹部16に収容された使用者の足Fの甲からくるぶし部分にわたり接するように設けられている。
【0018】各施療凹部16の底面には図1および図2に示されるように上向きの施療突起17が夫々一つ以上突設されている。施療突起17は半球状をなしている。
【0019】図1に示されるエアー給排気装置13は、図示しないが圧縮空気を生成するエアーコンプレッサ、生成された圧縮空気を蓄えるエアータンク、ローターリバルブ等を有している。このエアー給排気装置13はホース18を介して本体11に接続されている。ホース18は本体11内において複数に分岐され、その夫々が各空気袋12に接続されている。
【0020】このエアー給排気装置13を動作させることにより、前記ロータリーバルブは、その回転で前記エアータンクとホース18とを連通させ、或いはホース18と外気とを連通させる。それにより、空気袋12に対する空気の供給と排出とが繰り返され、空気袋12が膨脹・収縮を繰り返してマッサージを行うようになっている。」
(1-6)「【0024】・・・、前記エアーマッサージ装置の構成においては、足Fなどの被施療部がセットされる本体11の施療凹部16をその上面および前後両端が開放された構成としてある。言い換えれば、本体11は、施療凹部16に被施療部をセットする動作に対して邪魔になる部分を備えていないから、本体11の上方から足Fなどの被施療部を施療凹部16に収容配置できる。
【0025】そのため、使用者の脚の足Fだけに限らず、脚の下腿、大腿、または腕の上腕、前腕等の被施療部を、施療凹部16に容易に収容できるとともに、同様に施療凹部16に対してその上方に容易に出すことができる。したがって、従来のブーツタイプのように足などの出し入れが面倒ではなく、取扱いが容易であるとともに、既述のように脚および腕についてのマッサージもできるので、汎用性が高いものである。」
(1-7)「【0026】・・・、この第1実施例のエアーマッサージ機は、施療凹部16の底面に施療突起17を設けているから、空気袋12を膨脹・収縮させない場合でも、この施療突起17により足裏などを刺激してマッサージをすることができる。
【0027】特に、図2に示されるように足Fをセットして空気袋12を膨脹・収縮させて既述のマッサージ動作を行なった場合、相対向する一対の空気袋12の膨脹力が足Fの甲に作用するから、それに伴い足Fを施療突起17に押し付けることができる。それにより、足踏み等の格別な努力を要することなく施療突起17による足裏などの刺激作用を高めてマッサージをすることができる。」
(1-8)「【0030】・・・、本発明のエアーマッサージ機は、第1実施例のように単独で使用することに代えて、次に説明する第2実施例のように椅子の座部前側に配置して椅子の構成の一部をなして使用してもよい。」
(1-9)「【0031】図3?図7は本発明の第2実施例を示しており、この第2実施例に係る椅子式エアーマッサージ機の全体構成を示す図3中符号21で示すマッサージ機本体としての椅子本体は、座部22と、背凭れ部23とを有している。・・・
【0033】座部22の前部には椅子本体21に座った使用者の腿部をマッサージするための腿用空気袋24が設けられ、座部22の後部には前記使用者の尻部をマッサージするための尻用空気袋25が設けられている。これら空気袋24、25は、気密性を有するとともに軟質材料を用いて細長い偏平な袋に形成されていて、夫々座部22の幅方向に延びて配設されている。これら空気袋24、25に対する後述の圧縮空気の給排気に伴い空気袋24、25は膨脹・収縮をする。」
(1-10)「【0037】椅子本体21の前端部には脚載置部32が連結されている。この載置部32は、椅子本体21の両肘掛部22aの前端部直下に位置して一対の支持脚21bに渡って横架された枢軸34に取付けられていて、座部22の前端部に連なって設けられている。
【0038】脚載置部32は、例えば枢軸34を中心として回動可能に設けられているとともに、図示しないラチェット機構等からなる位置決め手段により複数の傾斜角度に位置決めされるように設けられている。それにより、脚載置部32を図示しないが座部22の前端に連なってその前方下側に傾斜した状態にして前方に突出させて位置決めし、この位置で固定でき、使用者が座部22に腰掛けたとき、脚を傾斜配置の脚載置部32上に載置できるようになっている。なお、図3は脚載置部32を椅子本体21の前端部下部に収納配置した状態である。
【0039】脚載置部32は、その幅方向両側に夫々側壁32a、32bを有しているとともに、幅方向中央位置に中間壁32cを有している。これら各壁32a?32cは平行であって、隣接する側壁32a、32c間に略U字状の施療凹部32dと、隣接する側壁32b、32c間に略U字状の施療凹部32eとを夫々形成している。施療凹部36d、36eは、その上面および長手方向両端(前後両端)が夫々開放された構成であって、その内部に使用者の下肢fを収納支持するのに使用される。なお、施療凹部36d、36eは、下肢fの任意部分での太さ方向の断面の大きさの略全体を収納できる大きさに形成されている(図6参照)。
【0040】側壁32aと中間壁32cの互いに対向する凹部側面、および側壁32bと中間壁32cの互いに対向する凹部側面とには、夫々施療凹部36d、36eに収納載置された下肢fをマッサージするための脚用第1空気袋35a、35b、および36a、36bが配設されている。これら空気袋35a、35b、36a、36bは、前記空気袋24、25と同様に気密性を有するとともに軟質材料を用いて偏平な袋に形成されていて、圧縮空気の給排気に伴い膨脹・収縮をするものであり、膨脹したとき下肢fを両側から包み込むような大きさに形成されている。」
(1-11)「【0045】・・・、施療凹部36d、36eの底面には、これら凹部36d、36eに収納載置された下肢をその裏側からマッサージするための底部空気袋としての脚用第2空気袋37a、37bが個別に取付けられている。これら空気袋37a、37bは、施療凹部36d、36eの長手方向に延びて設けられ、その膨脹は脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの膨脹完了時期よりも遅く完了するようになっている。この膨脹完了時期のタイミングをずらすために、脚用第2空気袋37a、37bの容積を脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの容積より大きくしてもよいが、本実施例においては後述のエアー給排気装置により給気タイミングを制御することで実現している。」
(1-12)「【0047】脚用空気袋35a、35b、36a、36b、37a、37bおよびそれ以外の非脚用空気袋は図示しないが給排気口を有し、これらには夫々対応する給排気管45?52(図7参照)が後述のように接続されている。これらの管45?52は軟質ビニル管等の可撓性を有するエアーチューブ等からなる。
【0048】前記椅子本体21の下部、つまり座部22の下側空間にはユニット化されたエアー給排気装置53が配置されている。この装置53は、図7に示されるようにエアーコンプレッサー38、フィルタータンク39、分配切換器41、電磁開閉弁42、43および制御装置44を備えて形成されている。・・・
【0052】電磁開閉弁42には脚用の給排気管51が接続され、この管51は一対の分岐給排気管51a、51bに分岐されている。一方の分岐給排気管51aはさらに分岐されて前記脚用第1空気袋35a、35bに個別に接続され、他方の分岐給排気管51bはさらに分岐されて前記脚用第1空気袋36a、36bに個別に接続されている。・・・
【0053】同様に、電磁開閉弁43には脚用の給排気管52が接続され、この管52は一対の分岐給排気管52a、52bに分岐されている。一方の分岐給排気管52aは前記脚用第2空気袋37aに接続され、他方の分岐給排気管52bは前記脚用第2空気袋37bに接続されている。・・・」
(1-13)「【0060】・・・、施療凹部36d、36eの凹部側面に取付けられた脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの膨脹で、施療凹部36d、36e内の下肢fをその側面方向から圧迫できることに加えて、施療凹部36d、36eの底面に取付けられた脚用第2空気袋37a、37bの膨脹で、施療凹部36d、36e内の下肢fのふくらはぎ部分を施療凹部36d、36eの底面側から圧迫できる。このように、本実施例のエアーマッサージ機が備える脚載置部32においては、多方面から確実に下肢fを圧迫してマッサージすることができる。」

摘記事項(1-10)の段落【0039】、摘記事項(1-11)の段落【0045】及び図3?6の記載から、施療凹部32dの底面と施療凹部32eの底面は、それぞれ下肢の裏側に対向する面といえるものである(以下、施療凹部32dの底面と施療凹部32eの底面とを併せて「底面」という。)。
摘記事項(1-10)の段落【0039】及び図3?6の記載から、施療凹部32dに係る凹部側面のうちの側壁32a側の凹部側面(以下、「側壁32aの内側側面」という。)は、一方の下肢の外側面が対向するよう立設されているといえるものであり、施療凹部32eに係る凹部側面のうちの側壁32b側の凹部側面(以下、「側壁32bの内側側面」という。)は、他方の下肢の外側面が対向するよう立設されているといえるものである。
また、同じく摘記事項(1-10)の段落【0039】及び図3?6の記載から、施療凹部32dに係る凹部側面のうちの中間壁32c側の凹部側面は、一方の下肢の内側面が対向するよう立設されているといえるものであり、また、施療凹部32eに係る凹部側面のうちの中間壁32c側の凹部側面は、他方の下肢の内側面が対向するよう立設されているといえるものである。
したがって、側壁32aの内側側面と側壁32bの内側側面は、底面の左右両側にあって下肢の左右外側面が対向するように立設されているといえるものであり、また、中間壁32cは、側壁32aの内側側面と側壁32bの内側側面との間にあって下肢の左右内側面が対向するよう立設されているといえるものである。

また、摘記事項(1-10)の段落【0037】の記載と図4の記載とを併せてみて、脚載置部32は、垂下させ、座部22の前端部に揺動可能に取り付けられているといえるものである。

よって、摘記事項(1-4)、(1-8)?(1-13)及び図3?7の記載から、甲第1号証にはつぎの発明が記載されている(以下、「甲第1号証発明」という。)。

「座部22の前端部に脚載置部32を連結した椅子式エアーマッサージ機であって、
前記脚載置部32は、
下肢の裏側が対向する底面と、
前記底面の左右両側にあって下肢の左右外側面が対向するよう立設された側壁32aの内側側面と側壁32bの内側側面と、
側壁32aの内側側面と側壁32bの内側側面との間にあって下肢の左右内側面が対向するよう立設された中間壁32cと、
を有し、
前記脚載置部32は、ふくらはぎに対するマッサージ動作を行う脚用第2空気袋37a,37bを備えているとともに、垂下させて前記座部22の前端部に揺動可能に取り付けられている椅子式エアーマッサージ機。」

また、摘記事項(1-3)及び図8?11の記載からみて、甲第1号証には、「脚の足Aが入れられる足収納部1aに脚の下腿Bが入れられる下腿収納部1bを連ねて、側面から見た形状が略L字状をなす本体1を備えたブーツタイプのエアーマッサージ機において、前記足収納部1aの内面に、第1空気袋2と第2空気袋3とを取付け、前記下腿収納部1bの内面に第3空気袋4を取付け、それにより第1の空気袋2及び第2の空気袋3で足Aの裏および甲をマッサージするとともに、第3空気袋4で下腿Bのふくらはぎ回りをマッサージすること」が記載されている(以下、「技術事項1-1」という。)。

また、図2の記載からみて、一対の施療凹部16の底面はそれぞれ足裏が対向する面であり(以下、それぞれの足裏が対向する2つの底面を併せて「足裏支持面」という。)、足裏支持面は、中間壁15によって左右に区切られる態様も記載されている。
したがって、摘記事項(1-4)?(1-7)及び図1?2の記載からみて、甲第1号証には、「エアーマッサージ機本体11であって、足裏が対向する足裏支持面を有し、前記足裏支持面は、中間壁15によって左右に区切られ、前記中間壁15によって左右に区切られた前記足裏支持面の左右のそれぞれの領域には、足裏を刺激する施療突起17が設けられること」が記載されている(以下、「技術事項1-2」という。)。

(2)甲第2号証には、つぎのとおり記載されている。
(2-1)「(1)基台部と、その上部の互いに分離された左右の脚乗せ部とからなる脚乗せ台と、該脚乗せ台をその脚部内に収納可能とした椅子と、前記脚乗せ台を前記椅子の前方に伸縮させる伸縮機構と、前記基台部に対し左右の脚乗せ部が上下方向に移動出来るようにした上下方向駆動手段と、その左右の脚乗せ部が互いに離反する水平方向に移動出来るようにした水平方向駆動手段とを備えた脚乗せ台。」(実用新案登録請求の範囲)
(2-2)「本考案は椅子、長椅子等に腰掛けたとき使用する脚乗せ台に関する。」(1頁15?17行)
(2-3)「第1図は本考案の脚乗せ台とその脚乗せ台を収納する椅子の斜視図、第2図はその側面図で、これらの図において符号1は椅子、長椅子等の腰掛け、2は脚乗せ台である。」(4頁4?7行)
(2-4)「前記脚乗せ台2は基台部21と、その上部の互いに分離された左右の脚乗せ部22・23とから構成され、その基台部21には前記伸縮機構13・14によって前後に移動しやすいようにその下端にキャスタ24が設けられている。」(4頁16?20行)
(2-5)「また前記左右の脚乗せ部22・23には、突起27が設けられ、足を乗せたときばね28によって常に足の裏を押圧するように構成されている。」(5頁12?12行)
(2-6)「更に足の裏を押圧する突起を設ければ足の裏のつぼを刺激して指圧の効果が得られる等の利点がある。」(6頁8?10行)

以上から、甲第2号証には、「腰掛け1と突起27を有する脚載せ台2とからなり、腰掛け1に腰掛けた状態で、足の裏を脚載せ台2に設けられたばね28で付勢された突起27で押圧することにより、足の裏のつぼを刺激すること」が記載されている(以下、「技術事項2」という。)。

(3)甲第3号証には、つぎのとおり記載されている。
(3-1)「底板(3)と二枚の側板(2)とで椅子本体(1)を形成し、・・・前記側板(2)に夫々座部材(7)を平行に設け、該座部材(7)の前端に脚掛部材(8)を、また後端に背もたれ部材(9)を夫々回動自在に設け、前記座部材(7)の下方に前記脚掛部材(8)と背もたれ部材(9)を連結部材(10)にて略々平行四辺形状に連結し、前記各部材(7)、(8)、(9)の間に網域は布等(11)を張り付け、前記椅子本体(1)内に減速機付可逆電動機(17)を設け、該可逆電動機(17)に角度調節板(18)を取り付け、該調節板(18)に作動杆(19)を介して前記背もたれ部材(9)の下端部を連結し・・・てなる枢動式案楽椅子。」(1頁左欄5?19行)
(3-2)「この発明は主に寝たきり老人用の枢動式案楽椅子に関するものである。」(1頁右欄1?2行)
(3-3)「この発明を添付図面の実施例につき説明すると、1は椅子本体で、底板3と二枚の側板2とよりなり、・・・。
前記側板2に夫々座部材7を平行に設け、該座部材7の前端に脚掛部材8を、また後端に背もたれ部材9を夫々回動自在に設け、前記座部材7の下方に前記脚掛部材8と背もたれ部材9を連結部材10にて略々平行四辺形状に連結する。前記各背もたれ部材9の間から脚掛部材8の間にかけてナイロン等の網或いは布、レザー等11を張り付けて背もたれ部12、座部13、脚部14を形成する。前記脚部14の下端に足台15、背もたれ部12の上端に移動調節自在な枕16を設ける。」(1頁右欄18行?2頁左上欄12行)
(3-4)「前記椅子本体1内に減速機付可逆電動機17・・・を設け、該可逆電動機17の駆動軸に略々扇状に角度調節板18を軸着し、該調節板18に作動杆19を介して前記背もたれ部材9の下端部を連結する。また前記側板2のひじ掛部2aには前記可逆電動機17を駆動する押ボタンスイッチ20が設けられ、押ボタンスイッチ20のボタン20aを押すと電動機17により調節板18を矢印A18方向に回動し、前記背もたれ部材9を第2図中実線で示した寝た状態の位置から二点鎖線で示した直立した状態の位置まで回動し、また押ボタン20のボタン20bを押すと前記調節板18を矢印A18の反対方向に回動し、背もたれ部材9を直立した状態から寝た状態の位置まで回動させる。」(2頁左上欄13行?右上欄7行)
(3-5)「前記椅子本体1の後部には電動マッサージ器23が設けられ、背もたれ部材9が寝た状態のとき、ちょうど座った人の背中に当たるように設けられる。」(同頁右上欄18?20行)
(3-6)「この発明は上述のとおりであり、体の不自由な老人でも簡単に体の傾きを変えることができ、床づれなどを防止することができる。・・・従ってこの発明の椅子は療養用として、また病院用として最適である。尚、寝たきり老人等が使用するのはもちろんのこと、通常の人が使用できるのはもちろんである。」(同頁右下欄12?19行)

第1図の記載から、脚部14の表面が平坦であることが窺える。
第2図の2点鎖線で記載された脚掛部材8及び足台15の記載からみて、脚掛部材8は、垂下させたときに足台15が水平となるように座部材7の前端に取り付けられている構造が窺える。

以上から、甲第3号証にはつぎの発明が記載されている(以下、「甲第3号証発明」という。)。
「座部材7の前端に脚掛部材8を設けた、背中をマッサージする電動マッサージ器23を有する枢動式安楽椅子であって、
前記脚掛部材8は、
平坦な表面の脚部14と、
前記脚部14の下端に設けられた足台15と、
を有し、
前記脚掛部材8は、当該脚掛部材8を垂下させて前記足台15が水平となるように前記座部材7の前端に回動自在に取り付けられている背中をマッサージする電動マッサージ器23を有する枢動式安楽椅子。」

2 本件発明1について
請求人は甲第1号証発明を主引例とする場合と、甲第3号証発明を主引例とする場合とにより、無効理由1の主張を行っているので、それぞれについて検討する。

(1)甲第1号証発明を主引例とする場合
(1-1)対比
甲第1号証発明と本件発明1とを対比する。
甲第1号証発明の「座部22」、「前端部」、「脚載置部32」、「連結した」、「椅子式エアーマッサージ機」は、それぞれその構造または機能からみて、本件発明1の「座面部」、「前部」、「フットレスト」、「備えた」、「椅子型マッサージ機」に相当する。
甲第1号証発明の「下肢」、「裏側」、「底面」、「側壁32aの内側側面と側壁32bの内側側面」は、それぞれ本件発明1の「脚」、「背面」、「内底面」、「対向内側面」に相当する。
甲第1号証発明の「側壁32aの内側側面と側壁32bの内側側面」は、本件発明1の「左右両側の対向内側面」に相当する。
甲第1号証発明の「中間壁32c」、「脚用第2空気袋37a,37b」は、それぞれ本件発明1の「分離丘」、「ふくらはぎ用マッサージ駆動部」に相当する。

したがって、本件発明1と甲第1号証発明とは、
「座面部の前部にフットレストを備えた椅子型マッサージ機であって、
前記フットレストは、
脚の背面が対向する内底面と、
前記内底面の左右両側にあって脚の左右外側面が対向するよう立設された対向内側面と、
左右両側の対向内側面の間にあって脚の左右内側面が対向するよう立設された分離丘と、
を有し、
前記フットレストは、ふくらはぎに対するマッサージ動作を行うふくらはぎ用マッサージ駆動部を備えているとともに、前記座面部の前部に揺動可能に取り付けられている椅子型マッサージ機。」である点で一致し、つぎの点で相違する。

相違点1
フットレストについて、本件発明1は「(前記)内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップ」を有する構成であるのに対し、甲第1号証発明は本件発明1に係る上記構成を有していない点。

相違点2
足裏支持ステップについて、本件発明1は「(当該)フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となるように」され、また「前記足裏支持ステップは、(前記)分離丘によって左右に区切られ、前記分離丘によって左右に区切られた前記足裏支持ステップの左右のそれぞれの領域には、内部に空気が供給されることで伸長して足裏を指圧するマッサージ駆動部としてのエアセルが設けられ」る構成を有しているのに対し、甲第1号証発明は本件発明1に係る上記構成を有していない点。

相違点3
本件発明1は、「(前記)フットレストを垂下させて(前記)足裏支持ステップが水平となっている状態で、(前記)座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において(前記)対向内側面と(前記)分離丘との間に脚が位置して、(前記)ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行える」ように構成されているのに対し、甲第1号証発明は本件発明1に係る上記構成を有していない点。

(1-2)判断
(相違点1について)
a まず、甲第1号証に、甲第1号証発明のフットレスト(脚載置部32)において、足裏支持ステップを設けることに関し示唆等が存在するかどうかについてみる。
甲第1号証にはつぎの(a)?(d)が記載されている。
(a)従来技術としてのブーツタイプのエアーマッサージ機は足の裏および甲、下腿のふくらはぎ周りをマッサージするものであるが、汎用性に欠け、また、取り扱いが面倒であるという問題を有していたこと(摘記事項(1-4)を参照。)。
(b)上記の問題を解決するため、エアーマッサージ機を「上面および前後両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する本体と、前記凹部の底面から立ち上がって相対向する凹部側面の少なくとも一方に取付けられた空気袋と、この空気袋に連通して設けられ前記空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置とを具備したエアーマッサージ機。」とすること(摘記事項(1-1)を参照。)。
(c)第1実施例は、上記のエアーマッサージ機を単独で使用するものであり、本体11と空気袋12とエアー給排気装置13とからなるものとし、足Fの甲からくるぶしを空気袋12によりマッサージするとともに足裏を施療突起17により刺激してマッサージするものであること(摘記事項(1-5)?(1-8)を参照。)。
(d)第2実施例は、上記のエアーマッサージ機を、椅子の構成の一部をなして使用するものであり、当該エアーマッサージ機を椅子の座部前側に配置した脚載置部32と、脚用第1空気袋35a,35b,36a,36b及び脚用第2空気袋37a,37bと、エアー給排気装置とからなるものとし、下肢fの側面及びふくらはぎ部分をマッサージするものであること(摘記事項(1-8)?(1-13)を参照。)。

以上から、第1実施例と第2実施例のエアーマッサージ機は、いずれもブーツタイプのエアーマッサージ機の汎用性に欠け、また、取り扱いが面倒であるという問題を解決するためのものであり、構成として「上面および前後両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する本体」を有するものである。なお、第2実施例のエアーマッサージ機は、図3の状態では、脚載置部32が座部22の前端部に垂下して連結されているから「上面および前後両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する本体」にかわって「椅子前方および上下両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する脚載置部32」となるものである。
ところで、仮に、図3の状態の第2実施例のエアーマッサージ機について、脚載置部32の下部に本件発明1のごとき足裏支持ステップを配置するとすれば、当該脚載置部32の施療凹部下端が開放されないものとなるから、「椅子前方および上下両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する」との構成を満足しないものとなってしまうことは明らかである。
したがって、第2実施例のエアーマッサージ機について、脚載置部32を「椅子前方および上下両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する」ものとしつつ足裏支持ステップを設けるのであれば、その点について記載が当然必要であると考えられるところ、甲第1号証には何らの記載も示唆も見あたらない。
そして、甲第1号証発明は第2実施例に係るものである。
以上のとおりであるから、甲第1号証には、甲第1号証発明のフットレスト(脚載置部32)に、足裏支持ステップを設けることに関し記載も示唆もない。

b つぎに、請求人の提出した証拠に、「フットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップ」についての記載あるいは示唆があるかどうかについてみる。

(甲第1号証について)
甲第1号証には、上記1(1)に記載したとおり、甲第1号証発明のほかに「技術事項1-1」及び「技術事項1-2」が記載されている。
しかし、技術事項1-1は、ブーツタイプのエアーマッサージ機に係るものであるところ、ブーツタイプのエアーマッサージ機はフットレストを有するものではない。
また、技術事項1-2は、第1実施例に係るエアーマッサージ機に係るものであるところ、当該マッサージ機は椅子型マッサージ機に関するものではないからフットレストを有するものではない。
したがって、甲第1号証にフットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップについて記載もしくは示唆があるとすることはできない。

(甲第2号証について)
甲第2号証には、上記1(2)に記載したとおり、「技術事項2」が記載されている。
しかしながら、技術事項2は、腰掛け1と脚載せ台2とからなるものに関するものであるところ、いずれもフットレストを有するものではない。
したがって、甲第2号証にフットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップについて記載もしくは示唆があるとすることはできない。

(甲第3号証について)
甲第3号証には、上記1(3)に記載したとおり、「甲第3号証発明」が記載されている。そして、当該発明は、脚部14と、当該脚部14の下端に設けられた足台15とを有している。
しかしながら、脚部14は、ふくらはぎに対するマッサージ動作を行うためのものでなく、また、脚掛部材8にナイロン等の網或いは布、レザー等11を張り付けて表面を平坦に形成されているにすぎない。
一方、甲第1号証発明のフットレスト(脚載置部32)はふくらはぎに対するマッサージ動作を行うためのものであり、そのため底面と、2つの内側側面と、中間壁32cとを備えるものである。
したがって、甲第3号証発明の脚部14は甲第1号証発明のフットレストに対応しない。
同様に、本件発明1のフットレストもふくらはぎに対するマッサージ動作を行うためのものであり、そのため内底面と、2つの対向内側面と分離丘とを備えるものである。
したがって、甲第3号証発明の脚部14は本件発明1のフットレストにも対応しない。

以上のとおりであるから、甲第1号証発明との関係でみても、また、本件発明1との関係でみても、甲第3号証にフットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップについて記載もしくは示唆があるとすることはできない。

(甲第13号証?甲第19号証について)
甲第13号証及び甲第14号証には足裏支持ステップについて記載されていないから、その詳細を見るまでもなく、「フットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップ」についての記載があるとすることはできない。

甲第15号証は「マッサージ機に於ける機体の展開装置」に関するもので、当該装置は枠状足掛け部5と足先係止部10とを有している。
しかしながら、当該甲第15号証には、枠状足掛け部5は、背当部と座部とともに水平状に並列しベッド体を形成するものであること、足先係止部10は、マッサージ機の背当部を展開してベッド体を形成するにあたり、使用者の身体がずれないように足先を係止するものであることが記載されているにすぎず(段落【0007】を参照。)、しかも、これら枠状足掛け部5及び足先係止部10とマッサージ装置との関係についての記載は見あたらない。
したがって、甲第15号証の枠状足掛け部5は甲第1号証発明と本件発明とのいずれのフットレストにも対応しない。
以上のとおりであるから、甲第15号証に「フットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップ」について記載もしくは示唆があるとすることはできない。

甲第16号証?甲第19号証にはフットレストについて記載されていないから、その詳細をみるまでもなく、「フットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップ」についての記載もしくは示唆があるとすることはできない。

よって、請求人の提出したいずれの証拠にも、「フットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップ」について記載も示唆もあるとすることはできない。

c 以上のとおり、甲第1号証には、甲第1号証発明のフットレスト(脚載置部32)に、本件発明1に係る足裏支持ステップを設けることに関し記載も示唆もあるとすることはできず、また、請求人の提出したいずれの証拠にも、「フットレストの内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップ」について記載あるいは示唆があるとすることもできない。

この点について、請求人は、「甲第1号証の「第2実施例」において、フットレストを、前記ブーツタイプのマッサージ機の左右の脚用の部分を一体化して足裏支持ステップを有するものと置換することにより、本件発明1と同様に前記構成要件A?Gを備えた椅子型マッサージ機とすることは、甲第1?3号証の記載より、当業者にとって容易である。」(請求書24頁、平成22年5月31日付け上申書2?5頁)と主張している。
しかしながら、甲第1号証発明は第2実施例に係るものであるところ、当該第2実施例のマッサージ機は、
従来技術としてのブーツタイプのエアーマッサージ機は足の裏および甲、下腿のふくらはぎ周りをマッサージするものであるが、汎用性に欠け、また、取り扱いが面倒であるという問題を有しているため、
エアーマッサージ機を「上面および前後両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する本体と、前記凹部の底面から立ち上がって相対向する凹部側面の少なくとも一方に取付けられた空気袋と、この空気袋に連通して設けられ前記空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置とを具備したエアーマッサージ機。」とし、
当該エアーマッサージ機を、椅子の構成の一部をなして使用するものであり、当該エアーマッサージ機を椅子の座部前側に配置した脚載置部32と、脚用第1空気袋35a,35b,36a,36b及び脚用第2空気袋37a,37bと、エアー給排気装置とからなるものとしたものである(上記a欄の(a)?(d)の記載を参照。)。
そうすると、甲第1号証発明に、技術事項1-2を考慮しつつ甲第1号証に記載のブーツタイプのマッサージ機を適用してみても、左右の脚用の部分を一体化したブーツタイプのマッサージ機を甲第1号証発明のフットレスト(脚載置部32)と置換した椅子型マッサージ機が得られるにすぎず、本件発明1にはならないことは明らかである。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

また、請求人は、「「第2実施例」の脚載置部32は、前記ブーツ型機の改良発明であり、ブーツ型機では本体が筒状をなすため足の出し入れが面倒であること(・・・)を解決しようとする課題とし、当該課題を解決するための手段として、脚の入る部分を従来の筒状から一部開放した形状にしたものである。
前記脚載置部32は、「足裏支持ステップ」相当部分を省略して下方にも開放した構成となっているが、前記課題は、「足裏支持ステップ」相当部分を残したままで、脚の前側に当たる部分と上端部を開放するだけでも解決可能なことは自明である。
前記課題解決のために筒状の構成の一部を省略して開放部分を設けるにあたり、前記脚載置部32については、最終形態として「足裏支持ステップ」相当部分も省略した構成を採用したのであるが、その開発過程において「足裏支持ステップ」相当部分を残した構成のものに到達していたであろうことは容易に推測できる。」(平成22年4月14日付け口頭審理陳述要領書5頁)と主張している。
しかしながら、甲第1号証の記載からは、従来技術としてのブーツタイプのエアーマッサージ機と第2実施例のエアーマッサージ機との関係について上記aに記載したとおりの事項が把握できるにすぎず、しかも、甲第1号証発明のフットレスト(脚載置部32)に、足裏支持ステップを設けることに関し記載も示唆もあるとすることもできないから、当該主張は理由がない。

また、請求人は、「甲1号証の「第1実施例」(図1及び2)は、被施療部を収容する施療凹部16を開放した構成としたうえで、足Fの足裏を施療することができるように配置した構成となっている。
「第2実施例」(主引例)及び「第1実施例」ともに、被施療部を収容する施療凹部を開放した構成としたうえで、施療凹部に対して被施療部を配置したり取り出したりする際に本体が邪魔にならず、取り扱い容易なエアーマッサージ機とすることを課題として見いだされた構成である点において共通する。さらに、両実施例ともに、施療凹部を下腿、大腿、上腕、前腕等の他の被施療部に適宜適用することを示唆している(・・・)。
よって、「第2実施例」(主引例)自体において、同実施例にかかるエアーマッサージ機について、他の被施療部(足裏)に適用するための構成(第1実施例)を見いだすための示唆がある。」(平成22年5月31日付け上申書7頁)と主張している。
しかしながら、甲第1号証には、上記aに記載したとおり、「上面および前後両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する本体と、前記凹部の底面から立ち上がって相対向する凹部側面の少なくとも一方に取付けられた空気袋と、この空気袋に連通して設けられ前記空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置とを具備したエアーマッサージ機。」を、単独で使用すること(第1実施例)と、椅子の構成の一部をなして使用すること(第2実施例)とが記載されているにすぎず、また、第2実施例のエアーマッサージ機と第1実施例のエアーマッサージ機とを併せることについて記載も示唆もみあたらないから、「第2実施例」自体において、同実施例にかかるエアーマッサージ機について、他の被施療部(足裏)に適用するための構成(第1実施例)を見いだすための示唆があるとはいえない。
よって、請求人の当該主張は理由がない。

d 以上のとおりであるから、甲第1号証発明のフットレストを、その内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップを有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるとはいえない。

(相違点2について)
a 相違点2は、甲第1号証発明が足裏支持ステップを有することを前提とするものであるところ、上記(相違点1について)において記載したとおり、甲第1号証発明のフットレストを足裏支持ステップを有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるとはいえない。
したがって、甲第1号証発明において相違点2に係る本件発明1の構成を有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるとはいえない。

しかしながら、事案に鑑み、仮に甲第1号証発明のフットレストが足裏支持ステップを有するものとした場合、甲第1号証発明において相違点2に係る本件発明1の構成を有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるかどうかについて、進んで判断する。

b まず、相違点2のうち、甲第1号証発明において「前記足裏支持ステップは、前記分離丘によって左右に区切られ、」とすることを当業者が容易になし得るものであるかどうかについて検討する。
甲第1号証発明は第2実施例に係るものであるところ、上記(相違点1について)aに記載したとおり、第2実施例に係るエアーマッサージ機は「椅子前方および上下両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する脚載置部32」であることを要するものである。
一方、甲第1号証発明のフットレスト下端に足裏支持ステップを設けたものにおいて、当該足裏支持ステップが分離丘(中間壁32c)により左右に区切られたものとすると、そのフットレストは下端が開放されたものとならなくなってしまうことは明らかである。
したがって、甲第1号証発明が足裏支持ステップを有するものとしても、「前記足裏支持ステップは、前記分離丘によって左右に区切られ、」とすることはできない。

請求人は、「「分離丘」については、「第2実施例」の脚載置部32が「足裏支持ステップ」相当部分を備えたものとすれば、「足裏支持ステップ」相当部分は、中間壁32cによって左右の領域に区切られることになる」(平成22年4月14日付け口頭審理陳述要領書4頁、平成22年5月31日付け上申書6頁)と主張しているが、上述したとおりであるから、当該主張は理由がない。

c 以上のとおりであるから、その余の相違部分についての検討をするまでもなく、甲第1号証発明は足裏支持ステップを有するものとしても、甲第1号証発明において「(当該)フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となるように」され、また「前記足裏支持ステップは、前記分離丘によって左右に区切られ、前記分離丘によって左右に区切られた前記足裏支持ステップの左右のそれぞれの領域には、内部に空気が供給されることで伸長して足裏を指圧するマッサージ駆動部としてのエアセルが設けられ」る構成を有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるとはいえない。

(相違点3について)
a 相違点3は、甲第1号証発明が足裏支持ステップを有するものであることを前提とするものであるところ、上記(相違点1について)において記載したとおり、甲第1号証発明のフットレストを足裏支持ステップを有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるとはいえない。
したがって、甲第1号証発明において相違点3に係る本件発明1の構成を有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるとはいえない。

しかしながら、事案に鑑み、仮に甲第1号証発明のフットレストが足裏支持ステップを有するものとした場合、甲第1号証発明において相違点3に係る本件発明1の構成を有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるかどうかについて、進んで判断する。

b 相違点3に係る「前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行える」(以下、「相違点3に係る構成」という。)について、請求人の提出した証拠をみる。

(甲第1号証?甲第3号証について)
甲第1号証には、上記1(1)に記載したとおり、甲第1号証発明のほかに「技術事項1-1」及び「技術事項1-2」が記載されている。
甲第2号証には、上記1(2)に記載したとおり、「技術事項2」が記載されている。
しかし、上記(相違点1について)bに記載したとおり、いずれの技術事項もフットレストを有するマッサージ機についてのものではない。
したがって、甲第1号証及び甲第2号証に相違点3に係る構成についての記載も示唆もあるとすることはできない。

甲第3号証には、上記1(3)に記載したとおり、「甲第3号証発明」が記載されている。そして、当該発明は、脚部14と、当該脚部14の下端に設けられた足台15とを有している。
しかし、上記(相違点1について)bに記載したとおり、甲第3号証発明の脚部14は甲第1号証のフットレストにも本件発明1のフットレストにも対応しない。
したがって、甲第3号証に相違点3に係る構成についての記載も示唆もあるとすることはできない。

(甲第13号証?甲第19号証について)
甲第13号証及び甲第14号証には足裏支持ステップについて記載されていないから、その詳細をみるまでもなく、相違点3に係る構成についての記載があるとすることはできない。
甲第15号証は「マッサージ機に於ける機体の展開装置」に関するもので、当該装置は枠状足掛け部5と足先係止部10とを有しているが、上記(相違点1について)bに記載したとおり、枠状足掛け部5及び足先係止部10とマッサージ装置との関係についての記載はみあたらない。
したがって、甲第15号証には、相違点3に係る構成についての記載があるとすることはできない。
甲第16号証?甲第19号証にはフットレストについて記載されていないから、その詳細を見るまでもなく、相違点3に係る構成についての記載があるとすることはできない。

以上のとおり、いずれの証拠にも、相違点3に係る構成についての記載も示唆も見あたらない。

請求人は、「甲第1号証には明示されてはいないが、座面部は、通常太ももからお尻の範囲を支持するためのものであり、足裏支持ステップは、通常足裏を支持するためのものであることを考慮すると、フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように各部の寸法を決める程度のことは、当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎない。」(審判請求書23?24頁、平成22年4月14日付け口頭審理陳述要領書8?9頁、平成22年5月31日付け上申書7頁及び9?11頁)と主張しているが、上記のとおり、いずれの証拠にも相違点3に係る構成についての記載も示唆もない以上、適宜なし得る設計的事項であるとすることはできず、当該主張は理由がない。

c 以上のとおりであるから、甲第1号証発明は足裏支持ステップを有するものとしても、甲第1号証発明において「前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行える」構成を有するものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項であるとはいえない。

(1-3)小括
以上のとおりであるから、甲第1号証発明を主引例とすることにより、本件発明1は甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるとすることはできない。

(2)甲第3号証発明を主引例とする場合
本件発明1と甲第3号証発明とを対比すると本件発明1のフットレストと甲第3号証発明の脚部14とは、脚の背面が対向する部分を有する部材である点で一応共通している。
しかしながら、上記「(1-2)(相違点1について)b(甲第3号証について)」の欄に記載したとおり、甲第3号証発明の脚部14は本件発明1のフットレストに対応するものではない。
したがって、甲第3号証発明は座面部の前部にフットレストを備えた椅子型マッサージ機であるとはいえない。
しかも、本件発明1は、当該フットレストを「前記内底面の左右両側にあって脚の左右外側面が対向するよう立設された対向内側面と、左右両側の対向内側面の間にあって脚の左右内側面が対向するよう立設された分離丘と、」を有するものとし、「ふくらはぎに対するマッサージ動作を行うふくらはぎ用マッサージ駆動部を備えている」ものとし、その上で「前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されている」ものである。
したがって、フットレストを有していない甲第3号証発明をフットレストを有するものとし、さらに当該フットレストを本件発明1に係る構成のフットレストを有するものとすることが容易になし得る程度の事項であるといえないことは明らかであるから、甲第3号証発明を主引例とすることにより、本件発明1は甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるとすることはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるとすることはできない。

3 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の構成をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、無効理由1により本件発明1?4についての特許を無効とすることはできない。

B 無効理由2について
1 請求人は、披請求人が本件特許に係る審査の過程において提出した、平成16年6月14日付意見書(甲第9号証)に「(作用効果2)フットレスト1を垂下させて前記足裏支持ステップ45が水平となっている状態で、足裏支持ステップに足裏を載せることができるため、脚の膝下の重量が足裏に作用した状態で、伸長動作により足裏を指圧するエアセルによるマッサージが行えるため、重力によって足の逃げを防止して、確実かつ効果的な足裏マッサージが行える」と記載していることに基づき、本件特許の原出願の出願当初の明細書には「脚の重量による足の逃げ防止効果」に関する技術思想は一切開示されていないから、本件発明1?4は原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内にないものを含むものであり、分割出願の要件に違反しているとし、その上で本件発明1?4についての特許は無効であると主張している(請求書31?32頁、平成22年4月14日付け口頭審理陳述要領書12?15頁、平成22年5月31日付け上申書11?12頁)。
そこで、本件特許に係る出願が分割出願の要件に違反しているかどうかについてみる。

2 本件特許に係る出願のもとの特許出願とされる特願平9-109692号に添付された明細書及び図面(甲第11号証を参照。以下、「原明細書等」という。)をみると、つぎのとおり記載されている。
「【0031】
・・・図8及び図9は、本発明に係る椅子型マッサージ機の第2実施形態を示している。この第2実施形態が上記第1実施形態と最も異なるところは、脚載せ部12に対して、脚11の足裏を支持可能なステップ45が設けられており、このステップ45における裏底側に機械収納部25が形成されている点にある。
【0032】
従って、この機械収納部25内に、マッサージ駆動部13の配管機器や配線機器等(図示略)を収納することができる。また、マッサージ駆動部13として、ステップ45に、足裏に対するマッサージ動作を行う第4指圧部46を設けることが可能になる。」

図8の記載から、フットレスト1を垂下させて前記足裏支持ステップ45が水平となっている状態で、足裏支持ステップに設けられた第4指圧部46に足裏を載せていることが窺える。

以上の記載からみて、フットレスト1を垂下させて前記足裏支持ステップ45が水平となっている状態で、足裏支持ステップに設けられた第4指圧部46に足裏を載せれば脚の膝下の重量が足裏に作用し、足裏が第4指圧部46を押圧する状態となるといえるから、原明細書等の記載から脚の重量により足の逃げを防止できるとの作用を奏することは十分に読み取ることができる。

この点について、請求人は、「原出願の当初明細に記載の発明においては、左右のエアセル29、35が脚11の両側面を扶持する構造となっており、脚11は「安定した状態」、すなわち動かないように固定された状態になるため、足裏を指圧するエアセルに脚の重量が加わることはないはずである。」(請求書32頁)と主張している。
しかしながら、図3の記載から、左右のエアセル29が脚から離れて待避している状態が窺え、また、図4の記載から、エアセル35により駆動される指圧片36が脚から離れて待避している状態が窺える。
また、技術常識に照らしてみて、フットレストにおいて脚をエアセルにより挟持するマッサージは必ず当該エアセルにより脚を両側面から挟持して動かないように固定された状態にしてしまうものとも認められない。
したがって、原明細書等に記載された左右のエアセル29及びエアセル35は脚を動かないように固定された状態にするものとはいえず、請求人の当該主張は理由がない。

以上のとおりであるから、「脚の重量による足の逃げ防止効果」は原明細書等に記載されているものであり、本件特許に係る出願は分割出願についての要件を満たすものである。

3 まとめ
請求人の主張は、その前提において理由がなく、無効理由2により本件発明1?4についての特許を無効とすることはできない。

C 無効理由3について
1 請求人は、本件特許に係る出願当初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0023】及び段落【0029】の記載に基づいて、「「脚の重量による足の逃げ防止効果」を奏する発明は、本件特許の当初明細書等にも一切開示されていないのであり、当初明細書等の記載から自明な事項でもないことは明らかである。
したがって、本件特許は同法第123条第1項第1号にも該当し、無効と
すべきである。」(請求書32?33頁、平成22年4月14日付け口頭審理陳述要領書12?15頁、平成22年5月31日付け上申書11?12頁)と主張している。

2 当初明細書等をみるとつぎのとおり記載されている。
「【0033】
・・・図8及び図9は、本発明に係る椅子型マッサージ機の第2実施形態を示している。この第2実施形態が上記第1実施形態と最も異なるところは、脚載せ部12に対して、脚11の足裏を支持可能なステップ45が設けられており、このステップ45における裏底側に機械収納部25が形成されている点にある。
【0034】
従って、この機械収納部25内に、マッサージ駆動部13の配管機器や配線機器等(図示略)を収納することができる。また、マッサージ駆動部13として、ステップ45に、足裏に対するマッサージ動作を行う第4指圧部46を設けることが可能になる。」

図8の記載から、フットレスト1を垂下させて前記足裏支持ステップ45が水平となっている状態で、足裏支持ステップに設けられた第4指圧部46に足裏を載せていることが窺える。
また、図3の記載から、左右のエアセル29が脚から離れて待避している状態が窺え、また、図4の記載から、エアセル35により駆動される指圧片36が脚から離れて待避している状態が窺える。
さらに、技術常識に照らしてみて、フットレストにおいて脚をエアセルにより挟持するマッサージは必ず当該エアセルにより脚を両側面から挟持して動かないように固定された状態にしてしまうものとも認められない。

以上から、フットレスト1を垂下させて前記足裏支持ステップ45が水平となっている状態で、足裏支持ステップに設けられた第4指圧部46に足裏を載せれば脚の膝下の重量が足裏に作用し、足裏が第4指圧部46を押圧する状態となるといえるから、当初明細書等の記載から脚の重量により足の逃げを防止できるとの作用を奏することは十分に読み取ることができる。
したがって、脚の重量により足の逃げを防止できる椅子型マッサージ機は当初明細書等に記載されているものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張は理由がなく、無効理由3により本件発明1?4についての特許を無効とすることはできない。

D 無効理由4について
1 請求人は、本件発明1の「前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されている」との構成について、「使用者がどのような体形の人間なのかが特定されておらず、また、使用者によって脚の長さには個人差があるものであって、足裏支持ステップの高さ調節機能を備えていない本件発明1の構成では、必ずしもフットレストを下位置へ垂下させて足裏支持ステップが水平となっている状態で、座面部に座っている使用者が足裏支持ステップに足裏を載せられるとは限らない。」(請求書33頁、平成22年4月14日付け口頭審理陳述要領書15?16頁)とした上で、本件発明1及びこれに従属する請求項に係る本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、不明確であるから、特許法第36条第6項第1号及び第2号の要件を満たしていないとし、また、発明の詳細な説明には上記記載を実現するために、座面部に座っている使用者の足裏をどのようにして足裏支持ステップに必ず載せられる状態にするのかについて具体的な構成が記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない、と主張しているので、その点について検討する。

2 特許法第36条第4項第1号について
本件特許明細書にはつぎのとおり記載されている。
「【0036】
図8に示すように、この椅子型マッサージ機2は、フットレスト1を垂下させて足裏支持ステップ45が水平となっている状態で、座面部3に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を座面部3に接触させたまま、膝を曲げて足裏支持ステップ45に足裏を載せたときに、当該フットレスト1の座面部よりの端部12bにおいて対向内側面16,16と前記分離丘17との間に脚11が位置して、ふくらはぎ用マッサージ駆動部27によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されている。」
また、図8をみると、フットレストを垂下させて足裏支持ステップが水平となっている状態で、座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されていることが窺える。
そして、これらの記載から把握される技術事項に関しては、使用者がどのような体形の人間であるか特定される必要がないものである。

以上から、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1の「前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されている」との構成について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるといえるから、本件特許明細書は特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものであり、請求人の当該主張は理由がない。

3 特許法第36条第6項第1号について
本件発明1?4における使用者は、請求項1の「前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されている」の記載から明らかなとおり、どのような体形の人間なのかまで特定されているものではない。
一方、上記2に記載したとおり、発明の詳細な説明には、どのような体形の人間なのかが特定されない使用者についての技術事項が記載されている。
したがって、本件発明1?4は発明の詳細な説明に記載したものであって、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものであり、請求人の当該主張は理由がない。

4 特許法第36条第6項第2号について
本件発明1?4についての「前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平となっている状態で、前記座面部に座っている使用者が、お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま、膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたときに、当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して、前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されている」との構成は、請求項1にそれ自体が記載されており、しかも当該記載は明確である。
一方、上記2、3に記載したとおり、本件発明1に関する上記構成を特定するにあたり、使用者に関して、どのような体形の人間なのか特定される必要がないことも明らかである。
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものであり、請求人の当該主張は理由がない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、請求人のいずれの主張も理由がなく、無効理由4により、本件発明1?4についての特許を無効とすることはできない。

V むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1?4についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-07 
結審通知日 2010-07-12 
審決日 2010-07-23 
出願番号 特願2004-17579(P2004-17579)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (A61H)
P 1 113・ 55- Y (A61H)
P 1 113・ 536- Y (A61H)
P 1 113・ 121- Y (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴江 陽介安井 寿儀  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 増沢 誠一
岩田 洋一
登録日 2004-08-27 
登録番号 特許第3590629号(P3590629)
発明の名称 椅子型マッサージ機  
代理人 三山 峻司  
代理人 辻本 希世士  
代理人 井上 周一  
代理人 畑 郁夫  
代理人 神吉 出  
復代理人 古川 安航  
復代理人 下村 裕昭  
代理人 重冨 貴光  
代理人 高田 真司  
代理人 古庄 俊哉  
代理人 辻本 一義  
代理人 森田 拓生  
代理人 木村 広行  
代理人 上野 康成  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 坂元 孝之  

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