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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
管理番号 1252397
審判番号 不服2010-19677  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-01 
確定日 2012-02-16 
事件の表示 特願2005- 74874「電気自動車およびこの制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開,特開2006- 94689〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成17年 3月16日(優先日,平成16年 8月25日)の出願であって,平成22年 6月 1日付けで拒絶査定がなされ,この査定を不服として,同年 9月 1日に本件審判請求がなされた。
一方,当審において,平成23年 6月 2日付けで拒絶理由を通知し,応答期間内である同年 8月 1日に意見書が提出され,再度当審において,同年 8月26日付けで拒絶理由を通知し,これに対して,応答期間内である同年10月19日に意見書が提出されたところである。
そして,この出願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成22年 5月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりものと認められる。
「【請求項1】
電動機からの動力により走行可能な電気自動車であって,
前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と,
前記蓄電手段から供給される電力により駆動する補機と,
前記蓄電手段から供給される電力により駆動しステアリング機構に操舵用トルクを出力可能な操舵補助手段と,
前記蓄電手段の電圧を検出する電圧検出手段と,
該電圧検出手段により検出される電圧が前記操舵補助手段の駆動に必要な最低駆動電圧より高い電圧として設定されてなる第1所定電圧以下となったときに前記蓄電手段から前記補機への電力の供給を停止し,前記検出される電圧が前記第1所定電圧より低い第2所定電圧以下となったときに前記蓄電手段から前記電動機への電力の供給を停止する制御手段と,
を備える電気自動車。」

2.引用例とその記載事項
当審における拒絶の理由で引用された実願昭62-95884号(実開昭64-1171号)のマイクロフィルム(以下,「引用例1」という。)には,「電動式パワーステアリング装置付電動車両」に関し,図面とともに次の事項が記載又は示されている。

(ア)「(産業上の利用分野)
本考案はバッテリフォークリフト等の電動式パワーステアリング装置付電動車両に関し,特にそのバッテリ電源電圧が異常低下した時の保護装置に係わる。」(明細書第1ページ第19行?第2ページ第3行)

(イ)「(従来の技術)
この種車両はバッテリ電源からの電力により走行するのは勿論であるが,舵取操作のパワーアシスト,つまりパワーステアリングもバッテリ電源からの電力によりこれを行う。
ところでバッテリ電源が電力消費により異常な電圧低下をきたしているにもかかわらず,尚も走行やパワーステアリングを継続して過放電に至ると,バッテリ電源が寿命を縮められたり,再充電不能となる。
そこでバッテリ電源電圧の異常低下時走行用電力及びパワーステアリング用電力を遮断してバッテリ電源を保護するが,この保護に当り走行用電力とパワーステアリング用電力を同時に遮断したのでは,走行用電力遮断後車両が惰性で走行する間パワーステアリング不能により操舵力が重くなり,危険である。
従って一般的には第3図に示すように,バッテリ電源電圧V_(B)が上方設定値V_(B1)以下になる瞬時t_(1)に走行電力遮断指令を,又バッテリ電源電圧V_(B)が下方設定値V_(B2)以下になる瞬時t_(2)にパワーステアリング電力遮断指令を夫々発するようになして両指令間に時間遅れΔT_(1)を設定するのが普通であった。」(明細書第2ページ第4行?第3ページ第7行)

(ウ)「第1図は本考案の一実施例を示す車両の走行制御系及びパワーステアリング制御系で,1は車両のセレクトレバー,2はアクセルペダル,3はステアリングホイール,4は走行用モータ,5はパワーステアリング用モータを夫々示す。
セレクトレバー1は運転者が前進走行希望時F位置に,停車希望時N位置に,又後退走行希望時R位置に操作するもので,アクセルペダル2は走行速度の上昇を希望する時運転者が踏込むものである。又,ステアリングホイール3は図示せざるステアリングギヤを介し車両の操舵輪を転舵するものである。
走行用モータ4は正転により車両を前進させ,逆転により車両を後退させるものであるが,そのためコイル4aの両端をトランジスタ6?9で構成される通電方向制御回路を介しトランジスタ10のエミッタに接続すると共に,サイリスタチョッパ11を介してアースする。トランジスタ10は走行電力遮断手段を構成し,そのコレクタをバッテリ電源12に接続して電圧V_(B)を印加する。
トランジスタ6?9のON,OFFはセレクトレバー1の操作位置を検出するレンジセンサ13により制御され,セレクトレバー1のN位置では全てのトランジスタ6?9がOFFでコイル4aへの通電を行わず,セレクトレバー1のF位置ではトランジスタ6,8のON,トランジスタ7,9のOFFによりモータ4を正転させ,セレクトレバー1のR位置ではトランジスタ7,9のON,トランジスタ6,8のOFFによりモータ4を逆転するものとする。サイリスタチョッパ11はアクセルペダル2の踏込み量に比例してコイル4aへの通電量を加減し,モータ4の回転数制御により車速をアクセルペダル踏込量に応じたものにする。
パワーステアリング用モータ5は正転により左操舵をパワーアシストし,逆転により右操舵をパワーアシストして軽快なパワーステアリングを可能にするもので,そのためにコイル5aの両端をトランジスタ14?17で構成される通電方向制御回路を介しトランジスタ18のエミッタに接続すると共に,アースする。トランジスタ18はパワーステアリング電力遮断手段を構成し,そのコレクタをバッテリ電源12に接続して電圧V_(B)を印加する。
トランジスタ14?17のON,OFFを操舵負荷センサ19により制御し,このセンサはステアリングホイール3による操舵中操舵負荷を検出して操舵負荷が発生しない非操舵中全てのトランジスタ14?17をOFFし,左操舵中トランジスタ14,16のON,トランジスタ15,17のOFFによりモータ5を正転させ,右操舵中トランジスタ15,17のON,トランジスタ14,16のOFFによりモータ5を逆転するものとする。
トランジスタ10,18のON,OFFは以下の回路によりこれを制御する。即ち,抵抗20及びツェナダイオード21で構成される定電圧源22を設け,バッテリ電源電圧V_(B)から一定電圧V_(C)を作り出す。又,この一定電圧V_(C)を抵抗23,24により分圧して一定の基準電圧V_(R)(但しV_(R)<V_(C))を作り,これを電圧低下検出手段としての比較器25及び計時手段としての比較器26に入力する。比較器25の他入力には,バッテリ電源電圧V_(B)を抵抗27,28により分圧してレベル合せした電圧V_(B)′を供給し,比較器25はV_(B)′がV_(R)未満となるような電源電圧V_(B)の異常低下時,出力をLレベルに転ずるものとする。」(明細書第6ページ第1行?第9ページ第9行)

(エ)摘記事項(ア)?(ウ)の記載及び第3図からみて,「電動車両が走行用モータからの動力により走行可能なこと」,「バッテリ電源は,走行用モータに電力を供給可能なこと」,「パワーステアリング用モータが,バッテリ電源から供給される電力により駆動すること」,「走行電力遮断指令,または,パワーステアリング電力遮断指令を発する制御手段が存在すること」は,明らかである。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,上記引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「走行用モータからの動力により走行可能な電動式パワーステアリング装置付電動車両であって,
前記走行用モータに電力を供給可能なバッテリ電源と,
前記バッテリ電源から供給される電力により駆動しステアリングホイールの操舵をパワーアシストするパワーステアリング用モータと,
バッテリ電源電圧の電圧低下検出手段と,
バッテリ電源電圧が上方設定値V_(B1)以下となったとき,走行電力遮断指令を走行電力遮断手段に発し,バッテリ電源電圧が下方設定値V_(B2)以下になったときにパワーステアリング電力遮断指令をパワーステアリング電力遮断手段に発する制御手段と,
を備える電動式パワーステアリング装置付電動車両。」

当審における拒絶の理由で引用された特開平5-32121号公報(以下,「引用例2」という。)には,「電気自動車用空調装置」に関し,図面とともに次の事項が記載されている。

(オ)「【請求項2】走行用モータと,前記走行用モータに電力を供給するバッテリーと,前記バッテリーの残容量を検出するバッテリー残量検出手段とを具備する電気自動車に用いられ,電気入力によって駆動されるモータを内蔵した電動コンプレッサーと,車室内外の環境条件に応じ少なくとも前記電動コンプレッサーの回転数を制御する制御装置と,前記制御装置からの制御信号に従い前記電動コンプレッサーを駆動する駆動装置とを具備し,前記制御装置に前記バッテリーの電圧を検出するバッテリー電圧検出部と,前記バッテリー電圧検出部で検出された電圧が許容値より小さくなったときに前記電動コンプレッサーの回転数を下げてエアコンの出力を制限するエアコン出力制限部と,前記バッテリー電圧の許容値を前記バッテリー残量検出手段で検出されたバッテリーの残容量に応じて変更するバッテリー電圧許容値変更部とを設けた電気自動車用空調装置。」

(カ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,電動コンプレッサーを搭載した,電気自動車用空調装置に関する。」

(キ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】電気自動車はバッテリーを電源として走行しているので,一回の充電で走行出来る距離は,バッテリー容量に大きく依存する。従って走行中の残走行距離は,バッテリー残容量に依存する。また,エアコン用の電動コンプレッサーも同一のバッテリーを電源としているので,何らかの方法でバッテリーの残容量に応じてエアコンの出力を制限しておかないとエアコンを作動させることにより,バッテリーの残容量の減り方が予想を大きく上回り,目的地に行くまでに車が停止し動かなくなるという課題を有していた。本発明は上記課題を解決するもので,エアコンを作動させることにより,目的地に行くまでに車が停止し動かなくなるのを防止することを目的としている。」

(ク)「【0004】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために,本発明の電気自動車用空調装置は,電気入力によって駆動されるモータを内蔵した電動コンプレッサーと,車室内外の環境条件に応じ少なくともコンプレッサー回転数を制御する制御装置と,前記制御装置からの制御信号に従い前記電動コンプレッサーを駆動する駆動装置を具備し,前記制御装置に,バッテリ-から前記駆動装置へ供給されている直流電流を検出する直流電流検出部と,前記直流電流検出部で検出された電流が許容値を超えたときに電動コンプレッサーの回転数を下げてエアコンの出力を制限するエアコン出力制限部と,前記直流電流の許容値をバッテリーの残容量に応じて変更する直流電流許容値変更部を設けるか,またはバッテリー電圧を検出するバッテリー電圧検出部と,前記バッテリー電圧検出部で検出された電圧が許容値より小さくなったときに電動コンプレッサーの回転数を下げてエアコンの出力を制限するエアコン出力制限部と,前記バッテリー電圧の許容値をバッテリーの残容量に応じて変更するバッテリー電圧許容値変更部を設けるか,または直流電流検出部と,バッテリー電圧検出部と,前記バッテリー電圧検出部で検出された電圧と前記直流電流検出部で検出された電流から消費電力を演算検出する消費電力演算検出部と,前記消費電力演算検出部で検出された消費電力が許容値を超えたときに電動コンプレッサーの回転数を下げてエアコンの出力を制限するエアコン出力制限部と,前記消費電力の許容値をバッテリーの残容量に応じて変更する消費電力許容値変更部を設けたものである。」

(ケ)「【0007】図1は本発明の一実施例における電気自動車洋空調装置のブロック図である。図に示すようにバッテリー1は,走行用モータ2の電源であると同時に,空調用の電動コンプレッサー3の電源でもある。また制御装置4は,車内温度センサや車外温度センサ等の各種センサ5からの信号に基づき,各種空調用アクチュエータ6を制御し,また電動コンプレッサー3の制御信号を駆動装置7に出力し,電動コンプレッサー3を駆動している。またバッテリー残量検出手段8は,例えばバッテリーから出力される電流や電圧や電力等を監視することによってバッテリー残容量を検出し,制御装置4に信号を出力している。」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「電動式パワーステアリング装置付き電動車両」は前者の「電気自動車」に相当し,以下同様に,「走行用モータ」は「電動機」に,「バッテリ電源」は「蓄電手段」に,「ステアリングホイール」は「ステアリング機構」に,「パワーアシスト」は「操舵用トルク」に,「パワーステアリング用モータ」は「操舵補助手段」にそれぞれ相当する。
また,後者の「走行用モータに電力を供給可能なバッテリ電源」と,前者の「電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段」とは、「電動機に電力が供給可能な蓄電手段」である概念において共通する。
次に,後者の「バッテリ電源から供給される電力により駆動しステアリングホイールの操舵をパワーアシストするパワーステアリング用モータ」は,前者の「蓄電手段から供給される電力により駆動しステアリング機構に操舵用トルクを出力可能な操舵補助手段」に相当し,後者の「バッテリ電源電圧の電圧低下検出手段と,バッテリ電源電圧が上方設定値V_(B1)以下となったとき,走行電力遮断指令を走行電力遮断手段に発し,バッテリ電源電圧が下方設定値V_(B2)以下になったときにパワーステアリング電力遮断指令をパワーステアリング電力遮断手段に発する制御手段」と,前者の「蓄電手段の電圧を検出する電圧検出手段と,該電圧検出手段により検出される電圧が操舵補助手段の駆動に必要な最低駆動電圧より高い電圧として設定されてなる第1所定電圧以下となったときに前記蓄電手段から補機への電力の供給を停止し,前記検出される電圧が前記第1所定電圧より低い第2所定電圧以下となったときに前記蓄電手段から電動機への電力の供給を停止する制御手段」とは,バッテリ電源電圧が上方設定値V_(B1)以下で下方設定値V_(B2)よりも大きい場合にはパワーステアリング装置を機能させるものであるから,前記上方設定値V_(B1)は,「操舵補助手段の駆動に必要な最低駆動電圧より高い電圧として設定されてなる」電圧を意味することになり,「蓄電手段の電圧を検出する電圧検出手段と,該電圧検出手段により検出される電圧が操舵補助手段の駆動に必要な最低駆動電圧より高い電圧として設定されてなる所定電圧以下となったときに前記蓄電手段から前記電動機への電力の供給を停止する制御手段」という概念で共通する。
そうすると,両者は,
「電動機からの動力により走行可能な電気自動車であって,
前記電動機に電力が供給可能な蓄電手段と,
前記蓄電手段から供給される電力により駆動しステアリング機構に操舵用トルクを出力可能な操舵補助手段と,
前記蓄電手段の電圧を検出する電圧検出手段と,
該電圧検出手段により検出される電圧が前記操舵補助手段の駆動に必要な最低駆動電圧より高い電圧として設定されてなる所定電圧以下となったときに前記蓄電手段から前記電動機への電力の供給を停止する制御手段と,
を備える電気自動車。」
の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。

<相違点1>
本願発明では、「電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段」であるのに対して,引用発明では,走行用モータ(電動機)に電力が供給可能なバッテリ電源(蓄電手段)であるものの,それ以上の特定がなされていない点。

<相違点2>
本願発明では,「蓄電手段から供給される電力により駆動する補機」を有し,「電圧検出手段により検出される電圧が操舵補助手段の駆動に必要な最低駆動電圧より高い電圧として設定されてなる第1所定電圧以下となったときに蓄電手段から補機への電力の供給を停止し,前記検出される電圧が前記第1所定電圧より低い第2所定電圧以下となったときに前記蓄電手段から電動機への電力の供給を停止する」のに対して,引用発明では,「蓄電手段から供給される電力により駆動する補機」についての特定がなく,「電圧検出手段により検出される電圧が操舵補助手段の駆動に必要な最低駆動電圧より高い電圧として設定されてなる所定電圧以下となったときに蓄電手段から電動機への電力の供給を停止する」ものの,それ以上の特定がなされていない点。

4.相違点の検討・当審の判断
<相違点1について>
電気自動車の1種であるハイブリッド自動車において,「発電電動機(電動機)と電力のやりとりが可能なバッテリ(蓄電手段)」は慣用されており(以下,「慣用手段1」という。必要があれば,平成23年 8月26日付け拒絶理由で周知例として示した特開2003-250202号公報の段落【0024】,特開2004-36489号公報の段落の段落【0022】を参照のこと。),走行用モータ(電動機)に電力が供給可能なバッテリ電源(蓄電手段)を有する電動車両(電気自動車)である引用発明に該慣用手段1を適用して,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2について>
本願発明の課題は,バッテリ電圧の低下時には,補機の駆動に対して電動機の駆動を優先すると共にパワーステアリング駆動を確保することにより,操作性を安定させると共に運転フィーリングの悪化を抑制することである(平成23年10月19日に提出された意見書の第1ページ下から7行?下から2行を参照のこと。)
それに対して,引用発明は,バッテリ電圧の低下時には,電動機の駆動に対してパワーステアリング駆動を優先して確保することにより,操作性を安定させると共に運転フィーリングの悪化を抑制するものである。
また,一般的に,電源に接続される複数の負荷を有する制御装置において,電源の容量が不足する場合に,重要な負荷を停止させないように,より重要でない負荷から,電源との接続を断つことは,常套手段に過ぎない(必要であれば,特開昭54-110442号公報の特許請求の範囲の記載を参照のこと。)。
次に,上記引用例1には,補機に関する明記はないが,バッテリフォークリフト等の電動車両は,通常,バッテリ(蓄電手段)から供給される電力により駆動する補機を有することは技術常識である(必要であれば,特開2001-258104号公報の段落【0002】,【0003】,特開2000-201437号公報の段落【0002】?【0004】,特開2001-31392号公報の段落【0009】を参照のこと。)。
そして,上記引用例2には,上記摘記事項(オ)?(ケ)からみて,以下の事項が記載されていると認められる。
「走行用モータ(電動機)からの動力により走行可能な電気自動車であって,前記走行用モータ(電動機)に電力を供給可能なバッテリー(蓄電手段)と,前記バッテリー(蓄電手段)から供給される電力により駆動するエアコン(補機)用の電動コンプレッサーと,前記バッテリー(蓄電手段)の電圧を検出するバッテリ電圧検出部(電圧検出手段)と,該バッテリ電圧検出部(電圧検出手段)により検出される電圧が許容値(所定電圧)より小さくなったときに前記電動コンプレッサーの回転数を下げてエアコン(補機)の出力を制限するとともに,前記走行用モータは作動させる(前記蓄電手段から前記電動機への電力の供給は継続する)制御装置(制御手段)とを備える電気自動車。」
つまり,上記引用例2には,「バッテリー(蓄電手段)から供給される電力により駆動するエアコン(補機)用の電動コンプレッサーと,前記バッテリー(蓄電手段)の電圧を検出するバッテリ電圧検出部(電圧検出手段)と,バッテリ電圧検出部(電圧検出手段)により検出される電圧が所定電圧よりも小さくなったときに,エアコン(補機)の作動よりも走行モータ(電動機)の作動を優先させる制御装置(制御手段)を備えた電気自動車」が開示されているといえる。
ここで,審判請求人も,上記引用例2が「エアコン(補機)よりも走行モータ(電動機)の作動を優先させる制御装置(制御手段)を備えた電気自動車」であることを認めている(平成23年10月19日に提出された意見書の第4ページ下から13行?下から3行を参照のこと。)。
また,電気自動車の制御装置において,バッテリ(蓄電手段)の状態に基づいて,バッテリ(蓄電手段)からエアコン(補機)への電力の供給を停止することは,本願の優先権主張の日前の慣用手段に過ぎない(以下,「慣用手段2」という。必要があれば,特開平9-9411号公報の段落【0003】,【0039】を参照のこと。)
そうすると,引用発明は,上記技術常識をふまえると,補機を有するものであり、該引用発明に,上記引用例2に開示された事項を適用する際に,上記慣用手段を考慮して,エアコン(補機)の出力の制限において,蓄電手段からエアコン(補機)への電力の供給を停止することにより,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,引用発明と上記引用例2に開示された事項が,いずれもバッテリ(蓄電手段)に接続された走行用モータ(電動機)を制御する電気自動車において,バッテリ(蓄電手段)の電圧が所定値より小さくなった場合に,電気自動車の複数の制御手段を優先順位を決めて制御させるものである点で共通するものであることから,当業者が容易に想到し得たものである。
ここで,上記引用例2に開示された「バッテリ電圧の許容値」は,引用発明の「走行用モータ」への電力の供給の停止を行う「上方設定値V_(B1)」よりも高い電圧となることから,引用発明に上記引用例2に開示された事項を適用したものにおける「バッテリ電圧の許容値」は,必然的に,操舵補助手段の駆動に必要な最低駆動電圧より高い電圧となることは明らかである。

そして,上記相違点1,2を併せ備える本願発明により奏される作用効果について検討しても,引用発明,上記引用例2に開示された事項,上記技術常識,上記常套手段,及び上記慣用手段1,2から当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって,本願発明は,引用発明,上記引用例2に開示された事項,上記技術常識,上記常套手段,及び上記慣用手段1,2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,審判請求人は,平成23年10月19日に提出した意見書の第2ページ下から21行?第3ページ第12行において,「バッテリ電圧検出部」により検出された電圧のみでエアコンの出力を検出することの理由が全く記載されていないことから,上記引用例2に記載された請求項2に基づくものは,技術的な意義を有しないものである旨を主張しているが,エアコンの出力を検出する一例としてバッテリ電圧を検出することは,段落【0005】に明記されると共に,請求項2や段落【0004】には,「バッテリ電圧検出部で検出された電圧が許容値よりも小さくなったときに・・・エアコンの出力を制限すること」が,一発明として,かつ,課題を解決するための手段として明記されていることから,審判請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明,上記引用例2に開示された事項,上記技術常識,上記常套手段,及び上記慣用手段1,2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,本願の他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-13 
結審通知日 2011-12-20 
審決日 2012-01-05 
出願番号 特願2005-74874(P2005-74874)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 晋司  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 藤井 昇
神山 茂樹
発明の名称 電気自動車およびこの制御方法  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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