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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A21B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A21B
管理番号 1252580
審判番号 不服2010-21602  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-27 
確定日 2012-02-21 
事件の表示 特願2003-579576号「水分含有空気衝突を行うコンベヤ式オーブンおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月9日国際公開、WO03/82024、平成17年7月21日国内公表、特表2005-521395号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年3月27日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2002年3月27日及び2002年5月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年5月18日付け(発送日:同年5月25日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年9月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成22年9月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「入口ポートと出口ポートとの間でオーブン室を介して食品を搬送するコンベヤと、加熱された空気流を供給するファン・ブロワ、該空気流を加熱するヒータ、および加熱されかつ水分を含ませた空気流を供給するために加熱室内において水分から蒸気まで迅速な蒸発をもたらすようにファン・ブロワの加熱された表面と接触するように水分を運ぶよう配置された水分給送装置と、
該入口ポートと該出口ポート間に設置されており、加熱されかつ水分を含んだ空気流を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の垂直噴流に変換する空気衝突組立体であって、食品の表面のところで空気と水分の混合物を発生させるように配置された空気衝突組立体と、
を含む、コンベヤ・オーブンであって、
空気および水分からなる前記垂直噴流が、食品表面のところで合体する空気流パターンで食品の表面に衝突し、空気と水分からなるブランケット状混合物を形成するものであり、前記空気衝突組立体が加熱された水分含有衝突空気の前記垂直噴流を供給するためにコンベアの上方に配置された1つまたはそれ以上の噴射フィンガを含むコンベヤ・オーブン。」(下線部は補正個所を示す。)

2.補正の目的
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「空気衝突組立体」に、「加熱された水分含有衝突空気の前記垂直噴流を供給するためにコンベアの上方に配置された1つまたはそれ以上の噴射フィンガを含む」との限定を付加するとともに、「水分含有衝突空気の噴流」が「垂直噴流」であり、該「垂直噴流」が「食品表面のところで合体する空気流パターンで食品の表面に衝突し、空気と水分からなるブランケット状混合物を形成するものであ」ることを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1.引用例の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、特表昭62-501750号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「本発明のもう1つの実施態様は、第10図に示されているような電気加熱式ジェット衝突オーブンである。このオーブンにおいては、温度制御された水槽が、非常に効果的な熱伝達と水の蒸発とを与えるため水面に衝突する空気ジェットを有する。
この凝縮熱伝達とその後の制御された表面コンディショニングとが、空気-固体界面にジェットを衝突させることにより著しく高められることを記録することが重要である。周知の加速熱伝達に加えて、水蒸気が凝縮した後に残っている空気が空気ジェットによって急速に掃いのけられ、従って水分を含んだ新鮮な空気が表面と接触するという事実により、凝縮熱伝達が著しく高められる。従って、食品が加熱サイクルの終りに近づくとき、濃縮した水蒸気を掃いのけることによって乾燥しているジェット空気が食品の表面に近づく。衝突するジェットの加速した空気-固体熱伝達により、低い空気温度を用いて部分的な乾燥や褐色に焦がすなどの所望の最終的表面効果を達成することができ、これらの低い温度は、局部的な乾燥しすぎや過熱を避けるように、はるかに大きい許容範囲の作業をすることを可能とする。
第10図は、コンベヤ204上に置かれた食品を衝突加熱するためのジェットフィンガ202を採用したコンベヤ化された強制対流オーブン200の一部断面正面立面図を示す。第10図は、更に、加熱空気をオーブン200内のジェットフィンガ202へ再循環させるためのプレナム208の下に配置された水槽206を示している。オーブン200を通して空気を再循環させる際に使用するためのファン210が仮想線で示してある。電気ヒータ212と外部給水管214とが第10図に示されており、これらは、水槽206内の水の温度を制御するための制御装置216と組み合わせて用いるためのものである。水槽206を横切る空気の流れを増大させるためにディレクタ218が設けてある。
第10図のオーブンにおいて、空気ジェットが水面に向けられ、再循環する空気中の所望の水蒸気含有量を維持するため必要に応じて水蒸気の追加や除去の加速を行なう。」(4ページ右下欄19行?5ページ左上欄22行)
イ 「対流オーブン内の空気中の水蒸気含有量の制御は、水の沸点より高い温度においてさえも、所望の熱伝達効果と食品表面効果とを達成するために非常に重要であることが多い。飽和空気の水分含有量に対するオーブン内の空気の水蒸気含有量(相対湿度)もまた、伝熱効果と表面効果に対して非常に重要である。制御された水蒸気含有量と、過熱蒸気での雰囲気の加熱即ちいわゆるスチーミング(Steaming)との間には、結果において著しい差がある。
若干の効果が、350°F(177℃)の温度のオーブンに入る100°F(38℃)の温度の試験済みのパン生地によって示されており、そのオーブンの中の水蒸気含有量は、170°F(77℃)の水蒸気で飽和された空気に等しい、冷たい生地がオープンに入るとき、水蒸気が表面上に凝縮し、急速で均一な熱伝達と表面の湿りを与える。熱伝達と湿りの程度は、100°F(38℃)と沸騰水温度との間の温度範囲内にある空気中の水蒸気の量に非常に応答する。この水分含有量は、温度が上昇するにつれて極端に増大する。第1図と第2図は、飽和空気の水分含有量を示している。
フランスパンのような食品については、表面での湿気の凝縮は、滑らかで光沢のあるパンの堅い外皮の形成を助ける。パンが焼けるとき、その表面が水の沸点より高い温度に加熱され、凝縮した水が蒸発する。更に加熱すると、乾いた堅い外皮が形成され、次いで、最後には、堅くて砕け易く且つ褐色となる程に加熱される。」(3ページ左上欄1行?22行)

そして、第10図には、記載アに関連して、水槽で水分を供給された加熱空気のジェットを食品に衝突させ衝突加熱を行うコンベヤ化された強制対流オーブン200が図示されている。第10図において、コンベヤ204の左右端部はオーブンの加熱室から左右に突きだしていることから、オーブン200には、コンベヤ204のための入口端と出口端があることが明らかである。また、コンベヤ204の上方と下方に、それぞれ複数(4個)のジェットフィンガ202が配置されている。

上記記載事項について検討すると、記載アには、電気加熱式ジェット衝突オーブンが記載されている。
この電気加熱式ジェット衝突オーブンは、食品を置くコンベヤ204と、加熱空気を再循環させるファン210と、加熱空気に水分を含有させるための水槽206と、オーブン200の加熱室内の食品表面に衝突する水分を含有した加熱空気のジェットを発生するジェットフィンガ202と、水分を含有した加熱空気をジェットフィンガ202に再循環させるプレナム208(なお、プレナム208とジェットフィンガ202とを含む構造体を、以下、便宜上「空気ジェット発生構造体」と呼ぶ。)とを、有する。
ここで、この電気加熱式ジェット衝突オーブンが、水槽の水を加熱するための電気ヒータ212を備えることは、記載アに記載されているものの、空気を加熱するための手段を備える旨の明示的記載は引用例1にはないが、オーブンが空気を加熱する手段を備えることは、その目的から見て自明であるといえる。また、食品を置くコンベヤ204が、食品を搬送するものであることも自明である。

なお、記載アに、電気加熱式ジェット衝突オーブンにおいて、「衝突するジェットの加速した空気-固体熱伝達により、低い空気温度を用いて部分的な乾燥や褐色に焦がすなどの所望の最終的表面効果を達成することができ」と、加熱の最終段階で、実質的に100℃以上の加熱を行うことが記載されているが、記載イには、より具体的に、引用例1記載のオーブンにより、パン生地を対象として、170°F(77℃)の水蒸気で飽和された空気に等しい水蒸気含有量をもつ350°F(177℃)の加熱空気で食品を加熱することが記載されており、これにより、フランスパンのような食品が、最終的に「その表面が水の沸点より高い温度に加熱され」、「堅くて砕け易く且つ褐色となる程に加熱され」た外皮をもつパンに焼き上げられることが記載されている。

そこで、記載アの記載事項及び第10図の図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「入口端と出口端との間で加熱室を介して食品を搬送するコンベヤ204と、加熱空気を再循環させるファン210と、空気を加熱する手段、および加熱空気に水分を含有させるための水槽206と、
該入口端と出口端間に設置されており、水分を含有した加熱空気を再循環させ、加熱室内の食品表面に衝突する水分を含有した加熱空気のジェットを発生する空気ジェット発生構造体と、
を含む、電気加熱式ジェット衝突オーブンであって、
水分を含有した加熱空気のジェットが、食品表面に衝突するものであり、前記空気ジェット発生構造体が、水分を含有した加熱空気のジェットを供給するためにコンベア204の上方に配置された1つまたはそれ以上のジェットフィンガ202を含む電気加熱式ジェット衝突オーブン。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、特開平10-215754号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ウ 「【従来の技術及びその課題】コンベクションオーブンにおいて蒸気発生装置を備えたものは、蒸気を含む加熱空気を焼成室内に循環させて、例えばフランスパンなどの被焼成物の焼成を行うことができる。従来のコンベクションオーブンは、オーブン本体の外部に別に設けてある蒸気発生装置により蒸気を発生させて、蒸気送給手段を介してオーブン本体に蒸気を送給するという構造のものが一般的であった。しかし、このコンベクションオーブンは、装置全体が大型になってしまうという課題があった。
本発明は、上記課題を解決するもので、蒸気発生手段を簡易化することにより装置全体をコンパクトにし、更に焼成室内に蒸気化しなかった湯玉が飛散して被焼成物に付着することを防止したコンベクションオーブン、コンベクションオーブンに使用する湯玉飛散防止装置及びコンベクションオーブンにおける蒸気供給方法を提供することを目的とする。」(段落【0002】?【0003】)
エ 「(作 用)コンベクションオーブンの送気室に備えてある遠心送風機を作動させると、加熱空気供給手段から供給される加熱空気が吸込まれて遠心方向へ吹き出される。これに伴って遠心送風機の羽根等が加熱される。遠心送風機の羽根等の温度が高温になったところで、散水手段から水を遠心送風機に散水して蒸気を発生させる。蒸気は加熱空気と共に遠心送風機の遠心方向へ吹き出される。蒸気化されなかった湯玉は遠心送風機から遠心方向へ吹き出され、遠心送風機の吹き出し方向または加熱空気の流通部に配設されている湯玉流入防止手段によって、例えば取り込まれて留保され、焼成室に流入することが防止される。遠心送風機により吹き出された蒸気を含む加熱空気は送気室から隔壁に備えられた通気部を通過して焼成室に送給され、被焼成物を焼成する。」(段落【0009】)
オ 「送気室61の後壁部15側には、後述する回転軸30を回転中心とする遠心送風機であるプレートファン3が取り付けてある。プレートファン3は円板の一方の面に中央部を除いて放射状に羽根を設けた構造で、円板の中央部は吸込部32となっている。なお、後壁部15の上部には、送気室から外部に導出された排気筒150が設けてある。プレートファン3を回転させるモーターMの回転軸30には軸冷却装置31が設けてある。軸冷却装置31はアルミニウム製の円板を一定の間隔で連設したもので、放熱効果に優れ、回転軸30の過熱を防いで、回転部のベアリングの寿命を延ばすことができる。また、モーターMの回転軸30の回転速度及び回転方向は制御できるようにしてあり、これによりプレートファン3の風量及び風向が制御できる。
送気室61には散水装置4が配設されている。散水装置4は外部から水を導入する給水管40を備えている。給水管40の先端部には散水ノズル41を備えている。散水ノズル41はプレートファン3の吸込部32のやや前方に配置してあり、プレートファン3に向けて散水できるようにしてある。また、プレートファン3の遠心方向にあたる送気室61の側壁部11、12には湯玉流入防止手段を構成する湯玉留保部材5が配設してある。」(段落【0015】?【0016】)

上記記載事項について検討すると、記載ウには、従来技術として、蒸気発生手段として蒸気発生装置を別途備え、蒸気を含む加熱空気を焼成室内に循環させて、フランスパンなどの被焼成物の焼成を行うコンベクションオーブンが知られていたことが記載されており、また、引用例2記載の発明は、かかる蒸気発生手段を簡易化することにより装置全体をコンパクトにすることを目的とする旨記載されている。
記載エには、コンベクションオーブンの送気室に備えてある遠心送風機の羽根を加熱空気で送風に伴い加熱し、ここに散水手段から水を供給して蒸気を発生させることにより、焼成室に送給する蒸気を含む加熱空気を作り出すことが記載されている。
記載オは、加熱空気を焼成室に送り出す送気室に取り付けた遠心送風機であるプレートファン3の吸込部32のやや前方に散水装置4の散水ノズル41を配置し、プレートファン3に向けて散水できるようにした蒸気発生手段が記載されている。

これら記載事項を総合すると、引用例2には、次の事項(以下「引用例2記載の事項」という。)が記載されている。

「オーブンの送気室において蒸気を含む加熱空気を発生させるように、加熱されたプレートファンに向けて散水するように配置された散水装置を備えた蒸気発生手段。」

3-2.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「入口端」は、本願補正発明の「入口ポート」に相当し、以下同様に、「出口端」は「出口ポート」に、「加熱室」は「オーブン室」に、「食品を搬送する」「コンベヤ204」は「食品を搬送する」「コンベヤ」に、「加熱空気を再循環させるファン210」は「加熱された空気流を供給するファン・ブロワ」に、「空気を加熱する手段」は「空気流を加熱するヒータ」に、それぞれ相当する。
引用発明の「加熱空気に水分を含有させるための」「水槽206」と、本願補正発明の「加熱されかつ水分を含ませた空気流を供給するために加熱室内において水分から蒸気まで迅速な蒸発をもたらすようにファン・ブロワの加熱された表面と接触するように水分を運ぶよう配置された」「水分給送装置」とは、いずれも「加熱されかつ水分を含ませた空気流を供給するための」「水分供給手段」である点で共通する。
引用発明の「該入口端と出口端間に設置されており、水分を含有した加熱空気を再循環させ、加熱室内の食品表面に衝突する水分を含有した加熱空気のジェットを発生する空気ジェット発生構造体」と、本願補正発明の「該入口ポートと該出口ポート間に設置されており、加熱されかつ水分を含んだ空気流を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の垂直噴流に変換する空気衝突組立体であって、食品の表面のところで空気と水分の混合物を発生させるように配置された空気衝突組立体」とを対比すると、まず両者は、「該入口ポートと該出口ポート間に設置されており、加熱されかつ水分を含んだ空気流を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の噴流に変換する」「空気噴流組立体」である点で共通する。そして、本願補正発明の上記「食品の表面のところで空気と水分の混合物を発生させるように配置された」について検討すると、引用発明の空気ジェット発生構造体も、食品表面に衝突する水分を含有した加熱空気のジェットを発生するものである以上、ジェットの衝突の結果、食品表面のところに水分を含有した加熱空気が発生することは明らかであるから、結局、両者は、「該入口ポートと該出口ポート間に設置されており、加熱されかつ水分を含んだ空気流を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の噴流に変換する空気噴流組立体であって、食品の表面のところで空気と水分の混合物を発生させるように配置された空気噴流組立体」である点で共通する。
次に、引用発明の「電気加熱式ジェット衝突オーブン」は、本願補正発明の「コンベヤ・オーブン」に相当する。
引用発明の「水分を含有した加熱空気のジェットが、食品表面に衝突するものであり」と、本願補正発明の「空気および水分からなる前記垂直噴流が、食品表面のところで合体する空気流パターンで食品の表面に衝突し、空気と水分からなるブランケット状混合物を形成するものであり」とは、「空気および水分からなる前記噴流が、食品の表面に衝突するものであ」る点で共通する。
そして、引用発明の「水分を含有した加熱空気のジェットを供給するためにコンベア204の上方に配置された1つまたはそれ以上のジェットフィンガ202」と、本願補正発明の「加熱された水分含有衝突空気の前記垂直噴流を供給するためにコンベアの上方に配置された1つまたはそれ以上の噴射フィンガ」とは、「加熱された水分含有衝突空気の前記噴流を供給するためにコンベアの上方に配置された1つまたはそれ以上の噴射フィンガ」である点で一致する。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「入口ポートと出口ポートとの間でオーブン室を介して食品を搬送するコンベヤと、加熱された空気流を供給するファン・ブロワ、該空気流を加熱するヒータ、および加熱されかつ水分を含ませた空気流を供給するための水分供給手段と、
該入口ポートと該出口ポート間に設置されており、加熱されかつ水分を含んだ空気流を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の噴流に変換する空気噴流組立体であって、食品の表面のところで空気と水分の混合物を発生させるように配置された空気噴流組立体と、を含む、コンベヤ・オーブンであって、
空気および水分からなる前記噴流が、食品の表面に衝突するものであり、前記空気衝突組立体が加熱された水分含有衝突空気の前記噴流を供給するためにコンベアの上方に配置された1つまたはそれ以上の噴射フィンガを含むコンベヤ・オーブン。」

そして、両者は次の点で相違する(対応する引用発明の用語を( )内に示す)。
(相違点1)
水分供給手段が、本願補正発明では、加熱室内において水分から蒸気まで迅速な蒸発をもたらすようにファン・ブロワの加熱された表面と接触するように水分を運ぶよう配置された水分給送装置であるのに対し、引用発明では水槽206である点。
(相違点2)
加熱されかつ水分を含んだ空気流を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の噴流に変換する空気噴流組立体が、本願補正発明では、加熱されかつ水分を含んだ空気流を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の垂直噴流に変換する空気衝突組立体であるのに対し、引用発明では、水分を含有した加熱空気を再循環させ、加熱室内の食品表面に衝突する水分を含有した加熱空気のジェットを発生する空気ジェット発生構造体であり、実質的に、加熱されかつ水分を含んだ空気流(水分を含有した加熱空気)を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の噴流(水分を含有した加熱空気のジェット)に変換するものであるが、衝突空気の噴流(ジェット)が食品に向かって垂直に吹き出すものであるか明らかでない点。
(相違点3)
噴射フィンガについて、本願補正発明の噴射フィンガは、加熱された水分含有衝突空気の垂直噴流を供給するものであるのに対し、引用発明の噴射フィンガ(ジェットフィンガ202)は、加熱された水分含有衝突空気の噴流(水分を含有した加熱空気のジェット)を供給するものであるが、衝突空気の噴流(ジェット)が垂直の噴流であるか明らかでない点。
(相違点4)
本願補正発明では、空気および水分からなる垂直噴流が、食品表面のところで合体する空気流パターンで食品の表面に衝突し、空気と水分からなるブランケット状混合物を形成するものであるのに対し、引用発明では、空気および水分からなる噴流(水分を含有した加熱空気のジェット)が、食品表面のところで合体する空気流パターンで食品の表面に衝突し、空気と水分からなるブランケット状混合物を形成するものであるか明らかでない点。

3-3.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
本願補正発明と引用例2記載の事項を対比すると、引用例2記載の事項の「送気室」は、本願補正発明の「加熱室」に相当し、同様に「加熱されたプレートファンに向けて散水するように配置された散水装置」は、「ファン・ブロワの加熱された表面と接触するように水分を運ぶよう配置された水分給送装置」に相当する。
そして、引用例2記載の事項は、蒸気を含む加熱空気を焼成室内に循環させて焼成を行うオーブンにおいて、簡易化した蒸気発生手段を提供することを目的としたものであるので、蒸気を含む加熱空気を加熱室内に循環させるオーブンとして共通する引用発明において、加熱されかつ水分を含ませた空気流を供給するための水分供給手段として、水槽206に代え、加熱されたプレートファンに向けて散水するように配置された散水装置を適用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、請求人は、意見書等において、「引用文献1の装置は、コンベアオーブンの長さ方向かつオーブンの空隙下方に沿って延びている水槽80a、80bで水分の制御を行なうものです。水の温度は、入り口での食品の温度以上かつ循環空気の温度以下の温度に維持されます。各オーブン空間内における循環戻り空気は水面を横切って通過して水分を含むことになります。望む湿度を達成するために水温と循環する空気温度は両方とも、212°F以下、すなわち水の沸点以下に維持されます」と述べ、引用発明は、相対湿度を維持し、食品の乾燥を防ぐ目的で使用されるものであり、本願補正発明とその課題が異なったのものである旨主張している。
しかしながら、上記記載イにあるように、引用発明は、食品を実質的に100℃以上で加熱させることをも目的としたものであり、水槽による加湿も、水温が100℃以下に維持されていれば、100℃以上の加熱空気によっても沸騰を生じることなく適切な量の水分を供給することが原理的に可能であることから、請求人の上記主張は採用することができない。
したがって、引用発明に、引用例2記載の事項を適用するうえで、請求人が主張する課題の相違による阻害要因はない。

(相違点2?4について)
引用発明の電気加熱式ジェット衝突オーブンのような、いわゆる衝突加熱式オーブンの衝突フィンガ(本願補正発明の「噴射フィンガ」及び引用発明の「ジェットフィンガ202」に相当)において、加熱空気の噴流を、食品表面に実質的に垂直に噴射するようにしたものは、例えば、特開昭58-180120号公報(噴流フィンガ48のオリフィスプレート84に垂直チューブを取り付けたもの[7ページ左下欄1?8行]、食品の表面へのほぼ垂直な空気の噴射の衝突が、食品の表面と平行に移動する同一体積の空気の熱伝達の2倍乃至10倍の大きさの熱伝達率を達成するので、迅速な調理に好ましい旨の記載[2ページ右下欄3?9行])、米国特許第4338911号明細書(ピザ112の表面に実質的に垂直に加熱空気のジェット81を向けるとより高速に調理できる旨の記載[10欄18?23行、図6]、ジェットプレート385[13欄11?19行、図13,14]、コンベヤに対して空気のジェット柱の軸が垂直である旨の記載[13欄11?40行、図8])に示すように、周知のものである。
そこで、引用発明において、効果的な熱伝達を行わせるため、空気噴流組立体(空気ジェット発生構造体)と、その噴射フィンガ(ジェットフィンガ202)を、食品に向かって実質的に垂直に加熱された水分含有衝突空気の噴流(水分を含有した加熱空気のジェット)を供給するようにして、相違点2,3に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

そして、噴射フィンガ(ジェットフィンガ202)により、食品表面に、ほぼ垂直に複数の分離した柱状の噴流を衝突させた場合、例えば、上記米国特許第4338911号明細書にもあるように(9欄67行?10欄7行、図6,8)、衝突した噴流は、食品表面にそって、高圧の衝突部分からより低圧な部分に拡散し、そこで他の噴流と合流するため、結果的に食品表面を覆う、加熱空気の層、すなわちブランケット状の層が形成されることは、当業者が容易に予測し得た事項にすぎないので、相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることも、空気および水分からなる噴流を垂直噴流とすることに伴い当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明、引用例2記載の事項及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成20年12月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「入口ポートと出口ポートとの間でオーブン室を介して食品を搬送するコンベヤと、
加熱された空気流を供給するファン・ブロワ、該空気流を加熱するヒータ、および加熱されかつ水分を含ませた空気流を供給するために加熱室内において水分から蒸気まで迅速な蒸発をもたらすようにファン・ブロワの加熱された表面と接触するように水分を運ぶよう配置された水分給送装置と、
該入口ポートと該出口ポート間に設置されており、加熱されかつ水分を含んだ空気流を受け入れかつ前記オーブン室内において食品に向かって与えられる加熱された水分含有衝突空気の噴流に変換する空気衝突組立体であって、食品の表面のところで空気と水分の混合物を発生させるように配置された空気衝突組立体と、を含む、コンベヤ・オーブン。」

第4 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2」「3-1.」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、前記「第2」「1.」の本願補正発明から、「空気衝突組立体」の限定事項である「加熱された水分含有衝突空気の前記垂直噴流を供給するためにコンベアの上方に配置された1つまたはそれ以上の噴射フィンガを含む」との限定を省き、また、「水分含有衝突空気の噴流」が「垂直噴流」であり、該「垂直噴流」が「食品表面のところで合体する空気流パターンで食品の表面に衝突し、空気と水分からなるブランケット状混合物を形成するものであ」るとの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」「3-3.」に記載したとおり、引用発明、引用例2記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明、引用例2記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-12 
結審通知日 2011-09-20 
審決日 2011-10-03 
出願番号 特願2003-579576(P2003-579576)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A21B)
P 1 8・ 121- Z (A21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男井上 茂夫  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 稲垣 浩司
松下 聡
発明の名称 水分含有空気衝突を行うコンベヤ式オーブンおよび方法  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  

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