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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1252608
審判番号 不服2008-19764  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-05 
確定日 2012-02-23 
事件の表示 特願2007-7538「蛍光体及びそれを用いた発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月13日出願公開、特開2007-231250〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成19年1月17日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。
平成19年11月28日 出願審査請求
平成20年 4月 9日付け 拒絶理由通知
平成20年 6月16日 意見書・手続補正書
平成20年 7月 7日付け 拒絶査定
平成20年 8月 5日 審判請求
平成20年 9月 2日 手続補正書
平成22年11月 8日 審尋
平成23年 1月11日 回答書
平成23年 8月18日付け 補正の却下の決定・拒絶理由通知(最後)
平成23年10月20日 意見書・手続補正書

第2 平成23年10月20日付けの手続補正について
平成23年10月20日付けの手続補正は、本審決と同日付の却下の決定により、却下されることとなった。その理由は、以下のとおりである。

1.補正の内容
平成23年10月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成20年6月16日付け手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載よりみて、その補正前の特許請求の範囲の請求項1である
「組成が下記の一般式で表現されることを特徴とする蛍光体。
(M^(1)_(1-y)R_(y))_(a)MgSi_(b)O_(a+2b)Cl_(2)(ただし、M^(1)はCa、Sr、Ba、Mnから選択されるCa及びMnを必須とする少なくとも2種、Rは希土類元素から選択されるEuを必須とする少なくとも1種を有する。y、a、bは、0.0001≦y≦0.3、8.5≦a≦8.7、b=4である。Mnのモル比は、0.1?0.5である。)」を、
「色調x/y=0.377/0.583、色調x/y=0.383/0.589、色調x/y=0.389/0.586、色調x/y=0.400/0.577、色調x/y=0.395/0.575内に発光色を有する、組成が下記の一般式で表現されることを特徴とする蛍光体。
(M^(1)_(1-y)R_(y))_(a)MgSi_(b)O_(16)Cl_(2)(ただし、M^(1)はCa、Sr、Ba、Mnから選択されるCa及びMnを必須とする少なくとも2種、Rは希土類元素から選択されるEuを必須とする少なくとも1種を有する。y、a、bは、0.0001≦y≦0.3、8.5≦a≦8.7、b=4である。Mnのモル比は、0.3?0.5である。)」とする補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)目的要件
本件請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)である「…蛍光体」を「色調x/y=0.377/0.583、色調x/y=0.383/0.589、色調x/y=0.389/0.586、色調x/y=0.400/0.577、色調x/y=0.395/0.575内に発光色を有する…蛍光体」とする補正(補正事項1)、蛍光体の一般式のOの原子数を「a+2b」から「16」に変更する補正(補正事項2)、および、 一般式のMnのモル比を「0.1?0.5」から「0.3?0.5」に変更する補正(補正事項3)を含むものである。
以上の補正事項のうち、補正事項1は「蛍光体」を発せられる蛍光の観点から限定する補正、補正事項3は「Mn」の数値範囲を狭い範囲に限定するものであり、いずれも、その補正前と補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
一方、補正事項2は、補正前の蛍光体の一般式のOの原子数が、a、bの数値範囲が8.5≦a≦8.7、b=4であることから換算すると、「16.5?16.7」であったところ、これを「16」に変更する補正であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえない。
また、補正前の蛍光体の一般式のOの原子数「a+2b」は、a、bの数値範囲が「8.5≦a≦8.7、b=4」と規定されているから、不明瞭とはいえず、補正事項2は、同項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明に該当するともいえない。そして、同項第1、3号に規定する請求項の削除、誤記の訂正に該当しないことは明らかである。
以上のとおりであって、補正事項2は平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定するいずれの事項を目的とするものともいえないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に適合するものとはいえない。

(2)独立特許要件
上記(1)のとおり、補正事項2は平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定するいずれの事項を目的とするものとも認められないが、仮に、同項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当した場合について一応検討する。
その場合、本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。また、本件補正後の明細書を「本件補正明細書」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。この点について検討すると、以下の<理由>で本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、前記請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものとはいえない。

<理由>
(A)本件補正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
(B)本件補正発明は、その出願前に頒布された、下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることがないものである。

(A)特許法第36条第6項第2号について
本件補正明細書の特許請求の範囲の請求項1には「(M^(1)_(1-y)R_(y))_(a)MgSi_(b)O_(16)Cl_(2)(ただし、M^(1)はCa、Sr、Ba、Mnから選択されるCa及びMnを必須とする少なくとも2種、Rは希土類元素から選択されるEuを必須とする少なくとも1種を有する。y、a、bは、0.0001≦y≦0.3、8.5≦a≦8.7、b=4である。Mnのモル比は、0.3?0.5である。)」の一般式で表される蛍光体が記載されている。
ここで、技術常識に照らせば、上記一般式の化合物を構成する各イオンの電価数は、それぞれ、M^(1)は+2価、Rは+2価または+3価、Mgは+2価、Siは+4価、Oは-2価、Clは-1価であり、それにしたがって上記一般式の化合物の電価数を計算すると、
Rが+2価の場合は、
[(+2)×(1-y)×a+(+2)×y×a+(+2)+(+4)×4+(-2)×16+(-1)×2]=[2×a-16]となり、8.5≦a≦8.7であることを考慮すると、[2×a-16]=+1.0?1.4となる。
また、Rが+3価の場合は、
[(+2)×(1-y)×a+(+3)×y×a+(+2)+(+4)×4+(-2)×16+(-1)×2]=[(2+y)×a-16]となり、0.0001≦y≦0.3、8.5≦a≦8.7であることを考慮すると、[(2+y)×a-16]≒+1.0?4.0となる。

一般に、安定に存在する化合物は、正負の電価数が等しく全体としての電価数は0であることは技術常識と認められるから、上記一般式の化合物は、この技術常識に照らし不合理である。
そうすると、上記一般式で表される蛍光体を使用することを発明特定事項とする本件補正明細書の特許請求の範囲の請求項1は、発明の詳細な説明および技術常識を考慮しても、蛍光体の組成式の点で発明が明確といえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件補正発明は、特許法第36条第6項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(B)特許法第29条第2項について
ア.刊行物
刊行物a.特表2003-535478号公報(原査定における引用文献2である。)
周知例b.「蛍光体ハンドブック」蛍光体同学会編(オーム社)昭和62年12月25日発行、第105頁、第108頁、第204?205頁

イ.刊行物a、周知例bに記載された事項
[刊行物a]
(a1)「【請求項1】光源として少なくとも1つのLEDを備え、前記のLEDは300?470nmの領域内の一次放射線を発光し、このLEDの放射線はLEDの一次放射線にさらされる蛍光体によって部分的に又は完全により長波長の放射線に変換される白色発光照明ユニットにおいて、この変換は、緑色に発光しかつEu活性化カルシウム-マグネシウム-クロロシリケートのクラスからなる少なくとも1種の蛍光体と、黄色に発光しかつCe活性化希土類-ガーネットのクラスからなる少なくとも1種の蛍光体とを利用して行われることを特徴とする白色発光照明ユニット。
【請求項2】緑色に発光する蛍光体が次の実験式
Ca_(8-x-y)Eu_(x)Mn_(y)Mg(SiO_(4))_(4)Cl_(2)[式中、xはx=0.005?x=1.6であり、yはy=0?y=0.1である(それぞれ切り捨て値を含める)]により表される、請求項1記載の白色発光照明ユニット。」(【特許請求の範囲】)

(a2)「蛍光体のCa_(8)Mg(SiO_(4))_(4)Cl_(2):Eu^(2+)は学問的な文献から公知であり、この文献には具体的な適用が記載されていない。この蛍光体は本発明による白色LEDの適用のために特に適しており、特にUVの一次光源(300?390nm)により励起される、3色混色をベースとする白色LEDの適用のために適している。しかしながら、前記の蛍光体は青色の一次光源(430?470nm)を用いる白色LEDにおける特別な適用のためにも適している。ユウロピウムの割合xは有利にx=0.005?1.6、特にx=0.01?x=1.0の間にある。この場合、実験式としてCa_(8-x)Eu_(x)Mg(SiO_(4))_(4)Cl_(2)が想定される。Euの他のドーパントとしてMnの少量(Euのモル割合の約20%まで)での添加は、緑のスペクトル領域から若干長波長方向へ、つまり黄のスペクトル領域へ意図的にシフトさせる可能性を提供する。」(段落【0014】?【0015】)

[周知例b]
(b1)「[発光スペクトル]
蛍光ランプに要求される発光ピーク波長は近紫外から遠赤外までさまざまだが,蛍光体を選択すれば285?720nmの範囲内の任意の発光を得ることができる。ピーク波長の範囲は付活剤によりほぼ決まっている(図3.2.10図).

」(第204頁左欄?第205頁右欄)
(b2)「[5]Mn^(2+)蛍光体((3d)^(5))
(a)結晶場 Mn^(2+)の発光は500種以上の無機化合物中で知られていて,このうち数種がランプ用やブラウン管用に広く使われ,鉄族蛍光体の代表となっている。室温での発光バンドは,幅1000?2500cm^(-1)の構造のないもので,ピーク波長は490?750nmにある….」(第105頁右欄)
(b3)「Mn^(2+)濃度がある一定値を超えて増加すると,発光バンドが連続的に長波長シフトし,残光が減少することは,Zn_(2)SiO_(4)…などで見出されており」(第108頁左欄)

ウ.検討
(1)刊行物aに記載された発明
刊行物aには、Ca_(8-x-y)Eu_(x)Mn_(y)Mg(SiO_(4))_(4)Cl_(2)[式中、xはx=0.005?x=1.6であり、yはy=0?y=0.1である(それぞれ切り捨て値を含める)]の式により表される緑色に発光する蛍光体が記載されており(摘示a1)、これを構成元素の順番等を本願発明にならって記載すると、(Ca_(8-x-y)Mn_(y)Eu_(x) )MgSi_(4) O_(16)Cl_(2)[式中、xはx=0.005?x=1.6であり、yはy=0?y=0.1である(それぞれ切り捨て値を含める)]となるから、刊行物aには、
「(Ca_(8-x-y)Mn_(y)Eu_(x) )MgSi_(4) O_(16)Cl_(2)[式中、xはx=0.005?x=1.6であり、yはy=0?y=0.1である(それぞれ切り捨て値を含める)]の式により表される緑色に発光する蛍光体」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「Ca、Mn」、「Eu」、「MgSi_(4) O_(16)Cl_(2)」は順に、本件補正発明の「M^(1)…(ただし、M^(1)はCa、Sr、Ba、Mnから選択されるCa及びMnを必須とする少なくとも2種…」、「R_(y)…(…Rは希土類元素から選択されるEuを必須とする少なくとも1種…」、「MgSi_(b)O_(16)Cl_(2)(…b=4である。…)」に相当する。
また、引用発明のCa、Mnのモル比の合計が8-xであり、Euのモル比がxであり、x=0.005?x=1.6であることは、Ca、Mn、Euの合計のモル数を1とした場合のEuのモル比が0.000625?0.2(=0.005/8?1.6/8)であることを意味するから、本件補正発明の「0.0001≦y≦0.3」に相当する。
よって、両者は、
「組成が下記の一般式で表現されることを特徴とする蛍光体。
(M^(1)_(1-y)R_(y))_(…)MgSi_(b)O_(16)Cl_(2)(ただし、M^(1)はCa、Sr、Ba、Mnから選択されるCa及びMnを必須とする少なくとも2種、Rは希土類元素から選択されるEuを必須とする少なくとも1種を有する。y、…、bは、0.0001≦y≦0.3、…、b=4である。)」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件補正発明は、Mnのモル比が「0.3?0.5」である蛍光体であるのに対して、引用発明はMnのモル比が「0?0.1」(y=0?y=0.1)である蛍光体である点
相違点2:本件補正発明は、「色調x/y=0.377/0.583、色調x/y=0.383/0.589、色調x/y=0.389/0.586、色調x/y=0.400/0.577、色調x/y=0.395/0.575内に発光色を有する」蛍光体であるのに対して、引用発明は「緑色に発光する」蛍光体である点
相違点3:本件補正発明は、Ca及びMnを必須とするM^(1)とEuを必須とするR_(y)の合計のモル数を「8.5?8.7」(8.5≦a≦8.7)とするのに対して、引用発明はCa、Mn、Euの合計のモル数を8とする点

(3)相違点についての判断
(ア)相違点1
刊行物aには、「ユウロピウムの割合xは有利にx=0.005?1.6
…Euの他のドーパントとしてMnの少量(Euのモル割合の約20%まで)での添加は、緑のスペクトル領域から若干長波長方向へ、つまり黄のスペクトル領域へ意図的にシフトさせる可能性を提供する。」(摘示(a2))との記載があり、これから換算すると、Mnのモル数は最大約0.32モル(=1.6×約20%)であり、本件補正発明のMnのモル比「0.3?0.5」と重複する場合を含むから、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。
なお、蛍光体の種類によっては、Mnの添加量の増加によって蛍光が長波長へシフトする場合があることは周知の技術的事項と認められる(摘示(b3))から、本件発明の蛍光体において蛍光を長波長化させるために、Mnのモル数をさらに増量してみることも当業者が容易に想到し得たことと推認される。
(イ)相違点2
色調x/yの値よりみて、本件補正発明は緑色?黄色の色調のうち、黄色の色調の強い蛍光(黄色の波長領域は、573?584nm。)を発する蛍光体と認められる。
しかしながら、一般式Ca_(8)Mg(SiO_(4))_(4)Cl_(2):Eu^(2+)で表される蛍光体等において、Mnを添加することによって黄色の色調を強くすることは刊行物aに記載されており(摘示(a2))、また、周知例として示した摘示(b2)の「Mn^(2+)の発光は…ピーク波長は490?750nmにある」、(b1)の「ピーク波長の範囲は付活剤によりほぼ決まっている」、及び、(図3.2.10)の記載事項を参照すると、Mnの添加によって蛍光の色を黄色の波長領域(573?584nm)とすることが可能なことも周知の技術と認められるから、引用発明の「緑色に発光する」蛍光体についてもMnの添加によって、黄色の色調を強めて「色調x/y=0.377/0.583、色調x/y=0.383/0.589、色調x/y=0.389/0.586、色調x/y=0.400/0.577、色調x/y=0.395/0.575内に発光色を有する」ようにすることは刊行物aの記載事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことと認められる。よって、上記相違点2は格別の相違点とはいえない。
(ウ)相違点3
蛍光体の組成の割合を若干変更することは当業者が容易になし得たことであり、本件補正発明において、aの値を8.5?8.7とすることによって格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。
なお、請求人は、平成23年1月11日付け回答書において、出願当初の明細書の実施例35(a=8)と実施例36(a=8.5)とを比較して、a=8.5である実施例36は発光色が長波長化することを根拠にして本件補正発明が顕著な効果を奏することを主張しているが、これらの実施例はMnを含まない蛍光体の例であっていずれも本件補正発明の実施例ではないから、請求人の主張は認められない。
よって、上記相違点3は格別の相違点とはいえない。

(4)本件補正発明の効果について
請求人は、審判請求書において、本件補正発明は蛍光体にMnを特定量含有させることで黄色領域の発光色が得られるという効果を奏することを主張している。
しかしながら、一般式Ca_(8)Mg(SiO_(4))_(4)Cl_(2):Eu^(2+)で表される蛍光体等において、Mnを添加することによって黄色の色調を強くすることができることが刊行物aに記載されており(摘示(a2))、蛍光体にMnを添加することによって蛍光色を黄色(573?584nm)を含む波長領域にまで長波長化できることが周知の技術事項であること(摘示(b1)、(b2))を踏まえると、蛍光体にMnを特定量含有させることで黄色領域の発光色が得られるであろうことは、当業者が刊行物aの記載事項、周知の技術的事項に基づいて予測し得た効果と認められる。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、その出願前頒布された刊行物aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3.むすび
したがって、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に適合するものではなく、仮に、適合するものとしても、同条第5項おいて準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではないから、その余について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願に係る発明について
本件出願に係る発明は、平成20年6月16日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の記載のとおりのものであり、その請求項1に係る発明は次のとおりである(以下、「本件発明」という。)
「組成が下記の一般式で表現されることを特徴とする蛍光体。
(M^(1)_(1-y)R_(y))_(a)MgSi_(b)O_(a+2b)Cl_(2)(ただし、M^(1)はCa、Sr、Ba、Mnから選択されるCa及びMnを必須とする少なくとも2種、Rは希土類元素から選択されるEuを必須とする少なくとも1種を有する。y、a、bは、0.0001≦y≦0.3、8.5≦a≦8.7、b=4である。Mnのモル比は、0.1?0.5である。)」

第4 拒絶理由
当審における平成23年8月18日付け拒絶理由通知書によって、以下の内容を含む拒絶理由が通知された。
「…
本願明細書の特許請求の範囲の記載は下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。
…」

第5 当審の判断
本件発明は、「第3」に記載したとおりの蛍光体に係る発明であるが、その一般式は、「(M^(1)_(1-y)R_(y))_(a)MgSi_(b)O_(a+2b)Cl_(2)」であって、酸素原子の数は「a+2b」であり、8.5≦a≦8.7、b=4より計算すると、
「16.5?16.7」である。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明に記載された実施例1?33、36、39?43の蛍光体の酸素原子の数はいずれも「16」であって、本件発明の実施例に該当しないものである。
また、実施例34は酸素原子の数が「15」、実施例35は酸素原子の数が「15.5」、実施例38、44は酸素原子の数が「17」のものであるから、本件発明の実施例に該当しないものである。
実施例37は、酸素原子の数が「16.5」であって、本件発明の酸素原子の数の条件を満たす蛍光体(Ca_(8.8)Eu_(0.2)MgSi_(4)O_(16.5)Cl_(2))の例であるが、M^(1)にあたるCaの原子数が8.8であるから、M^(1)の原子数が[(1-y)×a](<8.7)であることを発明特定事項とする本件発明の実施例に該当しない。
してみれば、本願の発明の詳細な説明に記載された実施例の蛍光体の組成式は、いずれも、本件発明に係る蛍光体の一般式の条件を満たさないものと認められる。
そのほかの発明の詳細な説明の記載事項を見ても、本件発明の技術内容、すなわち、「(M^(1)_(1-y)R_(y))_(a)MgSi_(b)O_(a+2b)Cl_(2)(ただし、M^(1)はCa、Sr、Ba、Mnから選択されるCa及びMnを必須とする少なくとも2種、Rは希土類元素から選択されるEuを必須とする少なくとも1種を有する。y、a、bは、0.0001≦y≦0.3、8.5≦a≦8.7、b=4である。Mnのモル比は、0.1?0.5である。)」を開示したものとは、技術常識に照らしてもいえない。

よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とは認められず、本件明細書の記載は、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載、出願時の技術常識により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるとは認められない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明については特許法第36条第6項の規定により特許を受けることができないから、その余の点については検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-22 
結審通知日 2011-12-27 
審決日 2012-01-11 
出願番号 特願2007-7538(P2007-7538)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 木村 敏康
東 裕子
発明の名称 蛍光体及びそれを用いた発光装置  

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