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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N |
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管理番号 | 1252729 |
審判番号 | 不服2008-18303 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-17 |
確定日 | 2012-02-22 |
事件の表示 | 特願2000-619602「イソチアゾロン/アミンオキシド木材防腐剤」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月30日国際公開、WO00/71313、平成15年 1月 7日国内公表、特表2003-500373〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2000年5月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 1999年5月24日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成19年9月21日付けで拒絶理由が通知され、平成20年3月21日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月24日に手続補足書が提出されたところ、同年4月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月17日に審判請求がされるとともに、同年8月18日に手続補正書と上申書が提出され、平成22年8月25日付けで審尋が通知され、平成23年2月23日に回答書が提出されたものである。 第2 平成20年8月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成20年8月18日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成20年8月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、 「【請求項1】(A)アミンオキシド及び(B)イソチアゾロンを含み、該アミンオキシドが(1)トリアルキルアミンオキシド; (2)N-アルキル環状アミンオキシド; (3)ジアルキルピペラジン ジ-N-オキシド; (4)アルキルジ(ポリ(オキシアルキレン))アミンオキシド; (5)ジアルキルベンジルアミンオキシド; (6)脂肪性アシルアミドプロピルジメチルアミンオキシド; (7)ジアミンオキシド; (8)トリアミンオキシド;及び (9)上記いずれかのあらゆる組合せ から成るグループから選ばれる、木材基材の防腐及び防水処理用組成物。」 を、 「【請求項1】(A)アミンオキシド及び(B)イソチアゾロンを含み、該アミンオキシドが、 (1)トリアルキルアミンオキシドであって、式R^(1)R^(2)R^(3)N→Oを有し、ここで、R^(1)が、直鎖状、分岐状、環状又はそれらのいずれかの組合せのC_(8)からC_(40)の飽和又は不飽和基であり;R^(2)及びR^(3)が、独立して、直鎖状、分岐状又はそれらのいずれかの組合せのC_(1)からC_(40)の飽和又は不飽和基であるもの; (2)N-アルキル環状アミンオキシドであって、式R^(4)R^(5)R^(6)N→Oを有し、ここで、R^(4)は上記R^(1)のように定義され、そしてR^(5)及びR^(6)は結合して環状基を形成し、該環状基は、4個から10個の炭素原子を含有し、そして、酸素、硫黄、窒素又はこれらの組み合わせを含有してよいもの; (3)ジアルキルピペラジン ジ-N-オキシドであって、次式: 【化1】 を有し、ここで、R^(8)は上記R^(1)のように、そしてR^(9)は上記R^(2)のように定義されるもの; (4)アルキルジ(ポリ(オキシアルキレン))アミンオキシドであって、次式: 【化2】 を有し、ここで、R^(10)は上記R^(1)のように定義され;R^(11)及びR^(12)は、独立して、水素又はメチル基であり;そしてm及びnは、独立して、1から10までの整数であるもの; (5)ジアルキルベンジルアミンオキシドであって、式R^(13)R^(14)R^(15)N→Oを有し、ここで、R^(13)は上記R^(1)のように、そしてR^(14)は上記R^(2)のように定義され;そしてR^(15)はベンジルであるもの; (6)脂肪性アシルアミドプロピルジメチルアミンオキシドであって、次式: 【化3】 を有し、ここで、R^(16)は上記R^(1)のように定義されるもの; (7)ジアミンオキシドであって、次式: 【化4】 を有し、ここで、R^(17)は上記R^(1)のように定義され;そして、mは独立して1から10までの整数であるもの; (8)トリアミンオキシドであって、次式: 【化5】 を有し、ここで、R^(18)は上記R^(1)のように定義され;そして、m及びnは、独立して、1から10までの整数であるもの;及び (9)上記いずれかのあらゆる組合せ から成るグループから選ばれる、木材基材の防腐及び防水処理用組成物。」(【化1】?【化5】の化学式は略) とする補正を含むものである。 上記補正は、補正前の請求項1に記載された(1)?(8)のアミンオキシドについて、補正前の明細書の段落【0011】、【0013】、【0015】?【0020】の記載に基づいて限定するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」といい、本件補正後の明細書を「本願補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 2.刊行物及び記載事項 (1)刊行物(1)?(3) 刊行物(1)?(3)は次のとおりであり、以下の事項が記載されている。 刊行物(1):特開平8-39514号公報(原査定における刊行物2) 刊行物(2):米国特許第4,382,105号明細書(同刊行物3) 刊行物(3):国際公開第97/01423号パンフレット(同刊行物4) 刊行物(1):特開平8-39514号公報 (1a)「【請求項1】(a)少なくとも1つの有機水不溶性木材防腐化合物、(b)硫酸化アニオン性物質;スルホン化アニオン性物質;スルホスクシネート化アニオン性物質;第4アンモニウムカチオン性物質;及び両性物質からなる群から選ばれる1以上の界面活性剤からなる界面活性剤系、及び(c)前記木材防腐化合物の融点が25℃以下である場合は任意であり、木材防腐化合物の融点が25℃より高い場合は必須とされる1以上の非極性有機溶媒、を含む組成物。」 (1b)「【請求項3】 前記化合物が、2-n-オクチル-3-イソチアゾロン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン、プロピコナゾール、テブコナゾール、フェンブコナゾール、ミクロブタニル、アザコナゾール、ヨードプロパルギルブチルカルバメート、2-チオシアノメチル(チオ)ベンゾチアゾール、クロロピリフォス、クロロタロニル、ペルメトリン、ジクロフルアニド、シフルトリン、シペルメトリン、銅-8-キノリノレート、s-フェンバレレート、ビフェントリン、o-フェニルフェノール、ジエチオカルバメート化合物、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、亜鉛アシペタクス、トリブチルチン酸化物、ペンタクロロフェノール、及び第4化合物からなる群から選ばれる請求項1記載の組成物。」 (1c)「【0001】発明の背景 発明の分野 本発明は木材防腐組成物及び防腐方法に関する。」 (1d)「【0005】・・・水へ暴露すると、従来の方法及び組成で塗布される有機木材防腐化合物では、全て、防腐剤が非常に大きな割合で木材から浸出するという問題を生じると信じられている。 【0006】本発明の概要 本発明は、(a)少なくとも1つの有機水不溶性木材防腐化合物;(b)硫酸化アニオン性物質;スルホン化アニオン性物質;スルホスクシネート化アニオン性物質;第4アンモニウムカチオン性物質;及び両性物質からなる群から選ばれる1以上の界面活性剤からなる界面活性剤系;及び(c)任意に非極性有機溶媒、を含む濃縮状態又は水希釈状態の組成物であって、従来の水性組成物及び方法で達せられるものより、有機防腐化合物の浸出割合を低くさせることに関して、改良された特性を有する処理木材をもたらす木材処理法において有用である組成物を提供する。」 (1e)「【0008】・・・適当な有機溶媒としては、ベンジルアルコール、酢酸ベンジル、パイン油、フェネチルアルコール、キシレン、フェノキシエタノール、ブチルフタレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、アルキルベンゼンの混合物、P9油、長鎖アルキルアクリレートエステル、及びミネラルスピリットが挙げられる。」 (1f)「【0009】木材防腐化合物は、好ましくは、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロンか、又はこの化合物と、前記他の化合物のいずれか、特にプロピコナゾールとの組み合わせである。」 (1g)「【0017】好ましい両性界面活性剤は、N-アルキルアミノプロピオネート、N-アルキルイミノプロピオネート、N-アルキルベタイン、N-アルキルグリシネート、カルボキシグリシネート、アルキルイミダゾリン、アルキルポリアミノカルボキシレート、ポリアンホカルボキシグリシネート(polyamphocarboxy glycinates)、アミン酸化物、ココアンホカルボキシプロピオネート(cocoamphocarboxypropionate)、コカミドプロピルベタイン(cocamidopropyl betaine)、ココアミノプロピルスルホベタイン(coco aminopropyl sulfobetaine);又はコカンホカルボキシグリシネート(cocamphocarboxy glycinate)である。」 (1h)「【0019】界面活性剤系が、木材防腐剤系の低浸出特性を獲得するのに重要であることがわかった。」 (1i)「【0024】以下の表及び実施例で使用されている略語は次のとおりである。 木材防腐化合物 AI1=4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン AI2=プロピコナゾール AI3=CCA(クロム酸化砒酸銅)」 刊行物(2):米国特許第4,382,105号明細書(訳文で示す) (2a)「1.以下のIからIVの工程からなり、木材繊維の中に、本質的に非浸出性のクロロフェノールを入り込ませて沈着させることで、木質物を処理・防腐する方法 I.(A)から(E)を混合することにより、処理・防腐溶液を作製する (A)ペンタクロロフェノール、テトラクロロフェノール、及びそれらの混合物から選ばれたクロロフェノール、約0.1?約50重量% (B)1?6個の炭素原子を有する、あるいはその混合物である脂肪族アルコール、約1?約97重量% (C)約10?約32の炭素原子を有する、脂肪酸アミンオキシド、約0.2?約35重量% (D)水、約1?97重量% (E)アンモニウムヒドロキサイド、トリエチルアミン、トリメチルアミン、メチルアミン、メチルジエタノールアミン、これらの混合物から選ばれたアミン、約0.2?約35重量% II.熱と圧力をかけて、木質物にしみ込ませる III.木質物を溶液から分ける IV.処理された木質物を乾燥させる」(特許請求の範囲の請求項1) (2b)「クロル化されたフェノールは、有効性、適用の容易さ、そして効果の持続性の点から、広く用いられてきている。特に優れた殺菌性と殺虫性を示すことから、ペンタクロロフェノールは木質材料の商業的防腐剤として広く用いられている。」(1欄43?47行) (2c)「問題は、ペンタクロロフェノールは、単に水と混合しただけでは、殆どあるいは全く溶解しないことであった。」(1欄59?61行) (2d)「この発明に従うと、新規なペンタクロロフェノール-脂肪族アルコール-脂肪酸アミンオキシド系、あるいは、テトラクロロフェノール-脂肪族アルコール-脂肪酸アミンオキシド系は、水と親和性であり、水に溶解することが明らかである。これらの系は、アンモニア及び/又は水酸化ナトリウムを含んでもよい。脂肪族アルコールは1?6の炭素原子を有するが、特にブチルアルコールは、それ自体は殆ど水に溶けないのに、ペンタクロロフェノールを水に可溶にするのに必須の成分である。系中の脂肪酸アミンオキシドもまた、木材繊維の中に効果的に浸透し、安定性を与えるのに、必須の成分である。接触させ、セルロース性物質に浸透させ、乾燥工程を経ることで、木質材料の中の防腐剤は固定され本質的に非浸出性となる。」(2欄11?27行) (2e)「脂肪族アルコール-ペンタクロロフェノール-脂肪酸アミンオキシド水可溶系は、アンモニウムヒドロキサイドあるいは他の低級アミンなどを添加することで、pHコントロールが高められることがわかった。」(3欄15?20行) (2f)「約10?約32の炭素原子を有する脂肪酸アミンオキシドの代表例は、通常約12?約20の炭素原子を含むジメチルココアミンオキシドのような脂肪族アミンである。」(3欄59?62行) (2g)「例1 ・・・ 40lb TCP 50lb ブチルアルコール 10lb ジメチルココアミン オキシド」(6欄25?31行) 刊行物(3):国際公開第97/01423号パンフレット(訳文で示す) (3a)「次の成分からなる、安定な水溶性の抗菌性組成物: (a)1つ以上の有機スズ化合物 (b)本質的に次の群から選ばれた、水中に前記有機スズ化合物を溶解させるための、1つ以上の界面活性剤 (i)次式の非イオン性エチレンオキシド-プロピレンオキシドブロックコポリマーからなる界面活性剤 ・・・ (ii)下式のアミノ酸からなる界面活性剤 ・・・ (iii)下式のアミン-オキシドからなる界面活性剤 ここで、R^(2)は分岐鎖または直鎖のC_(10)-C_(18)アルキル基; または、これらの混合物」(特許請求の範囲の請求項1) (3b)「この発明は、有機スズ化合物を含有する抗菌性組成物に関する。 有機スズ化合物(特に、トリブチルスズ酸化物のようなトリアルキルスズ化合物)は、真菌類のような微生物の成長に対して木質材料を保護するために、抗菌剤として用いられてきている。ほとんどのこれらの有機スズ化合物は、水への溶解性が小さいために、雨や雪に晒されても、適用された表面に残存するからである。 有機スズ化合物は水に難溶性であるため、主として有機溶媒とともに用いられてきた。しかしながら、環境への安全性という観点から、水性組成物としての有機スズ化合物が望まれてきている。」(1頁6?18行) (3c)「概して、この発明は、1つ以上の有機スズ化合物と、有機スズ化合物を水に溶解するための1つ以上の界面活性剤を含む、安定な水性の抗菌性組成物を特徴とする。界面活性剤は、本質的に次の群から選ばれる。 (i)・・・ (ii)・・・ (iii)・・・」(1頁21行?2頁8行) (3d)「界面活性剤の目的は、通常は水に不要の(あるいは、殆ど水に溶けない)有機スズ化合物を水性媒体に溶解させることである。」(5頁15?17行) (3e)「第3の群・・・ ・・・R^(2)がラウリル基である、商標”RhodamoxLO”なるアミンオキシド界面活性剤」(7頁7?15行) (3f)「それは、種々の手段によって、木質の基材や石の表面に適用される」(9頁6?7行) (3g)「例9 界面活性剤としてRhodamoxLO(5g)を用いた以外は、例8と同様に行った。」(11頁13?15行) (3h)「例10 ・・・ 組成物D:例9の抗菌性組成物」(11頁17?末行) (2)刊行物(ア)?(カ) 以下に、アミンオキシドが両性界面活性剤でもあることを示す周知文献(ア)?(ウ)と、木材の防水・耐水技術に関する周知文献(エ)?(カ)を、記載内容と合わせて示す。 刊行物(ア):特表平4-502618号公報 「適当な両性界面活性剤の例としては、ラウリルジメチルアミン酸化物、」(7頁左上欄5?6行) 刊行物(イ):特開平6-305920号公報 「【0012】・・・両性界面活性剤としては、アルキルアミノトリメチルグリシン、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩等が挙げられる。」 刊行物(ウ):特表平9-512042号公報 「本発明に使用する両性イオンの界面活性剤つまり両性界面活性剤は、β-N-アルキルアミノプロピオン酸、n-アルキル-β-イミノジプロピオン酸、イミダゾリンカルボン酸塩、n-アルキルベタイン、アミンオキシド、スルホベタイン(sulfobetaines)、サルタイン(sultaines)を含む。」(18頁16?19行) 刊行物(エ):特開平5-138615号公報 「【0006】・・・ (c)前記○3(審決注:「○3」は、「丸付き数字の3」)の方法では、含浸させた樹脂が乾燥、硬化後も依然として水に易溶性であるため、木材の吸水・吸湿により樹脂が木材表面に溶出し、性能が低下する。すなわち、木材の耐水・耐湿性等の耐候性が低くなる。」 「【0008】そこで、この発明は、高度な寸法安定性を有し、耐水・耐湿性等の耐候性に優れるとともに、表面の木質感が失われていない改質木材を効率良く得ることができる方法を提供することを課題とする。」 刊行物(オ):特開平7-256610号公報 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、木材に長期間に亘る耐水寸法安定性を付与し得る改質木材の製造方法に関するものである。」 「【0009】 【作用】アルキレングリコールグリシジルエーテル水溶液は木材に対しての浸透性が良く、木材の微細な空隙まで容易に浸透する。木材にアルキレングリコールグリシジルエーテル水溶液を浸透させると、木材内部でアルキレングリコールグリシジルエーテル同士がエポキシ結合し、耐水性を有する化合物として木材空隙内に充填される。さらに、木材成分中の一部の水酸基やカルボキシル基とアルキレングリコールグリシジルエーテルのエポキシ基がエーテル反応し、硬化後においては水分に接しても木材から分解や脱落が生じ難くなる。」 刊行物(カ):特開平7-52106号公報 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明はこれらの欠点を解消すべく開発されたもので、木材内部の水分と脂肪酸処理液若しくは無機物処理液を置換含浸した後に木材内部で脂肪酸と無機物を複分解反応させ、石鹸様固体、若しくは粉末様固体を形成して固形油脂による撥水性によって耐水性を持たせる同時に、他の薬剤或は樹脂を加えて防腐効果、歪み防止に優れ或は助長させて屋外利用に適した木材を提供しようとするものである。」 3.刊行物(1)に記載された発明 刊行物(1)には、「(a)有機水不溶性木材防腐化合物、(b)硫酸化アニオン性物質;スルホン化アニオン性物質;スルホスクシネート化アニオン性物質;第4アンモニウムカチオン性物質;及び両性物質からなる群から選ばれる1以上の界面活性剤からなる界面活性剤系、及び(c)前記木材防腐化合物の融点が25℃以下である場合は任意であり、木材防腐化合物の融点が25℃より高い場合は必須とされる1以上の非極性有機溶媒、を含む組成物。」(摘示(1a))が記載されている。 ここで、「(a)有機水不溶性木材防腐化合物」は、「2-n-オクチル-3-イソチアゾロン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン」等のイソチアゾロン化合物を含み(摘示(1b))、「好ましくは、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン」とされ(摘示(1f))、実施例で「木材防腐化合物 AI1=4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン」(摘示(1i))が使用されていることからすると、「(a)有機水不溶性木材防腐化合物」の好ましいものとして、「イソチアゾロン化合物」があるといえる。 「(b)硫酸化アニオン性物質・・・両性物質・・・界面活性剤系」については、「好ましい両性界面活性剤は、・・・アミン酸化物」(摘示(1g))と記載されていることからすると、「アミン酸化物」は好ましいもののひとつといえる。 「(c)・・・非極性有機溶媒」は、「アルコール、エステル」(摘示(1e))等が適当であるとされている。 そして、刊行物(1)に記載された組成物は、「木材防腐組成物」(摘示(1c))であるから、刊行物(1)には、 「有機水不溶性木材防腐化合物であるイソチアゾロン化合物、界面活性剤系であるアミン酸化物を含み、アルコール、エステル等の有機溶媒を用いることもある、木材防腐組成物」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 4.対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 本願補正発明は、「(A)アミンオキシド及び(B)イソチアゾロンを含み、該アミンオキシドが、 (1)トリアルキルアミンオキシドであって、式R^(1)R^(2)R^(3)N→Oを有し、ここで、R^(1)が、直鎖状、分岐状、環状又はそれらのいずれかの組合せのC_(8)からC_(40)の飽和又は不飽和基であり;R^(2)及びR^(3)が、独立して、直鎖状、分岐状又はそれらのいずれかの組合せのC_(1)からC_(40)の飽和又は不飽和基であるもの; から選ばれる、木材基材の防腐及び防水処理用組成物。」を包含するから、これを、「本願補正発明1」とし、本願補正発明1と引用発明とを対比する。 両者ともイソチアゾロンを用いており、イソチアゾロンについて、本願補正明細書の段落【0023】には、「好適なイソチアゾロンには、・・・4,5-ジクロロ-2-オクチル-3(2H)-イソチアゾロン、2-オクチル-3(2H)-イソチアゾロン」と例示され、溶媒について本願補正明細書の【0024】には、「アルコール;グリコール;エステル」と例示されているから、これらに関して両者に差異はない。 また、「アミンオキシド」と「アミン酸化物」とは同じものといえるから、両者ともに「アミンオキシド」を用いるものである。 そうすると、両者は、 「アミンオキシド及びイソチアゾロンを含み、場合によってはアルコール、エステル等の有機溶媒を含む木材基材の防腐処理用組成物」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (i)「アミンオキシド」が、本願補正発明1においては、「トリアルキルアミンオキシドであって、式R^(1)R^(2)R^(3)N→Oを有し、ここで、R^(1)が、直鎖状、分岐状、環状又はそれらのいずれかの組合せのC_(8)からC_(40)の飽和又は不飽和基であり;R^(2)及びR^(3)が、独立して、直鎖状、分岐状又はそれらのいずれかの組合せのC_(1)からC_(40)の飽和又は不飽和基であるもの」であるのに対し、引用発明においては、単に「アミンオキシド」である点 (ii)「組成物」が、本願補正発明1においては、「防腐及び防水処理用組成物」であるのに対し、引用発明においては、「防腐組成物」であって「防水処理用」であるか明確でない点 5.判断 (1)相違点(i)について 引用発明は、そもそも有機水不溶性木材防腐化合物を用いるものであり、(1a)に摘示した組成物とすることにより、「濃縮状態又は水希釈状態の組成物であって」、従来の、「防腐剤が非常に大きな割合で木材から浸出する」という問題を解決し、「従来の水性組成物」よりも、「有機防腐化合物の浸出割合を低く」したもの(摘示(1d)、(1h))といえる。 ところで、刊行物(2)には、「木質物を処理・防腐する方法」について記載され(摘示(2a))、ペンタクロロフェノール防腐剤は水に難溶性という問題があったこと(摘示(2b)、(2c))、これに、脂肪族アルコール、脂肪酸アミンオキシド、水、アミンを加えることで、水に溶解するようになったこと(摘示(2d))が、記載されている。 さらに、脂肪族アルコールは、ペンタクロロフェノールを水に可溶にするものであり、脂肪酸アミンオキシドはペンタクロロフェノールを木材繊維の中に効果的に浸透させ、木の中に固定させ、非浸出性とするものであり(摘示(2d))、アミンにより、pHコントロールがなされること(摘示(2e))が、記載され、アミンオキシドの代表例として、「通常約12?約20の炭素原子を含むジメチルココアミンオキシドのような脂肪族アミン」が記載され(摘示(2f))、例1において実際に用いられている(摘示(2g))。 すなわち、刊行物(2)には、水難溶性防腐剤であるペンタクロロフェノールとジメチルココアミンオキシドをともに用いることによって、薬剤が木材に効果的に浸透しかつ木材から非浸出性となることが記載されている。 また、刊行物(3)には、木質などに適用される「水溶性の抗菌性組成物」について記載され(摘示(3a)、(3f))、水難溶性である有機スズ化合物抗菌剤について(摘示(3b))、環境への安全性から水性組成物とするために、アミンオキシド界面活性剤等が示され(摘示(3a)、(3c)、(3d))、具体的に、ラウリルジメチルアミンオキシドが例示され(摘示(3e))、これを実際に用いた抗菌性組成物(摘示(3g)、(3h))も記載されている。 すなわち、刊行物(3)には、環境への安全性から水性組成物が望まれるところ(摘示(3b))、水に難溶の有機スズ化合物がラウリルジメチルアミンオキシドによって水溶性となることが、記載されている。 ところで、ペンタクロロフェノールも有機スズ化合物も、刊行物(1)に「有機水不溶性木材防腐化合物」としてイソチアゾロンと並べて記載されているものであるから(摘示(1b)、「トリブチルスズ酸化物」、「ペンタクロロフェノール」を参照)、イソチアゾロンとともに用いるアミンオキシドとして、水難溶性のペンタクロロフェノールや有機スズ化合物を水溶性にし、木質材料に浸透させかつ非浸出とさせるという優れた性質を持つ、刊行物(2)、(3)に記載されたジメチルココアミンオキシドやラウリルジメチルアミンオキシドを用いることは、当業者が容易に想到するところといえる。 そうしてみると、引用発明において、「アミンオキシド」を、ジメチルココアミンオキシドやラウリルジメチルアミンオキシドなどを包含するところの、「トリアルキルアミンオキシドであって、式R^(1)R^(2)R^(3)N→Oを有し、ここで、R^(1)が、直鎖状、分岐状、環状又はそれらのいずれかの組合せのC_(8)からC_(40)の飽和又は不飽和基であり;R^(2)及びR^(3)が、独立して、直鎖状、分岐状又はそれらのいずれかの組合せのC_(1)からC_(40)の飽和又は不飽和基であるもの」とすることは、当業者にとって容易である。 (2)相違点(ii)について 本願補正発明1における「防水処理用」とは、本願補正明細書の「アミンオキシドがイソチアゾロンの木材防腐剤としての性能を増強させ、そして防水性を供することを見出した。」(段落[0006])、「アミンオキシドは、イソチアゾロンが木材基材への浸透を促進し、そして浸出抵抗を改善する。」(段落[0009])の記載からすると、木材基材中に薬剤を浸透させ、木材基材から浸出させないようにすることで、木材の防水性を供するものを意味していると認められる。 引用発明が、水不溶性の薬剤を、アミンオキシド等の界面活性剤を用いることで木材中に浸透させ、しかも、木材からの浸出を防止したものであることは、刊行物(1)に記載されるとおりである(摘示(1d)、(1h))。また、刊行物(2)にも、ペンタクロロフェノールやテトラクロロフェノール等の水難溶性の薬剤を、ジメチルココアミンオキシド等のアミンオキシド界面活性剤を用いることで木材中に効果的に浸透させ、安定性を与え、木材からの浸出を防止することが記載されている(摘示(2d))。 一方、木材の防水、耐水に関する技術として、木材中に薬剤を浸透させ、適当な手段を用いて水不溶性のものとし、木材から浸出させないことで、木材の防水性や耐水性を達成しようとするものであることは、当業者に周知であるといえる(必要なら、周知文献(エ)?(カ)等参照)。 すなわち、木材中に非浸出性の薬剤を入れることにより、防水処理に寄与するであろうことは、当業者が当然に着想することのひとつといえる。 そうしてみると、引用発明において、「防腐組成物」に、当然に寄与するであろう用途を加えて「防腐及び防水処理用組成物」とすることは、当業者にとって容易である。 (3)効果について 本願補正発明1の効果は、本願補正明細書の段落【0006】、【0009】に記載されるとおりの、「アミンオキシドがイソチアゾロンの木材防腐剤としての性能を増強させ、そして防水性を供することを見出した。また、アミンオキシドはイソチアゾロンを水溶液に可溶化させる助けにもなる。」、「アミンオキシドは、イソチアゾロンが木材基材への浸透を促進し、そして浸出抵抗を改善する。更に、アミンオキシドは、イソチアゾロンを水に可溶化させる助けにもなる。その結果、1相のみを有するイソチアゾロン及びアミンオキシドを含有する水溶液が形成され得る。また、本発明の組成物は揮発性も低い。」というものであり、それを具体的に確認したのが実施例であるといえる。 この効果は、つまり、水不溶性防腐剤であるイソチアゾロンにアミンオキシドを加えることで、イソチアゾロンが水溶性となり、水性組成物ができ、木材基材に浸透し易くなり、しかも非浸出性となったことによるものと考えられる。 しかしながら、イソチアゾロン等の水難溶性の薬剤を、アミンオキシド等の界面活性剤を用いることで木材中に浸透させ、しかも、木材からの浸出を防止できることは、刊行物(1)に(摘示(1d)、(1h))、また、水難溶性の薬剤を、ジメチルココアミンオキシド界面活性剤により木材に効果的に浸透させ、安定性を与え、木材からの浸出を防止することや水性組成物とできることは、刊行物(2)(摘示(2d))、刊行物(3)(摘示(3c)、(3d))に、それぞれ記載されているから、上記の効果は、これらの刊行物の記載から当業者が予測し得るところである。また、「揮発性も低い」という効果は、水性組成物であって、有機溶媒を用いないことによる当然の結果といえる。 したがって、本願補正発明1の効果は、刊行物(1)?(3)に記載されたものから当業者が予測し得る程度のものであって、格別に優れたものであるとはいえない。 (4)請求人の主張について 請求人は平成23年2月23日に提出した回答書において、次の主張をしている。 ア.「そして、このような所定のアミンオキシドを構成要件としているので、該アミンオキシドが、イソチアゾロンの木材基材への浸透を促進して浸出抵抗を改善すること、そして、イソチアゾロンの水溶液への可溶化を助けることができます」 イ.「非イオン性のものが完全に排除されている以上、引用文献2(審決注:「刊行物(1)」に同じ。)の両性界面活性剤として使用されるアミン酸化物が、本願発明において非イオン性として使用されているアミンオキシドとは全く相違するものであることは明らかです。」 しかしながら、イソチアゾロン等の水難溶性の薬剤を、アミンオキシド等の界面活性剤を用いることで木材中に浸透させ、しかも、木材からの浸出を防止したものであることは、刊行物(1)に記載されているのであるから(摘示(1d)、(1h))、ア.で主張する本願補正発明1の特徴は、すでに知られていることといえる。 また、請求人は、上記回答書に先立ち、平成20年3月24日に手続補足書により参考資料1を提出し、アミンオキシドが非イオン界面活性剤であることを主張しているが、周知文献(ア)?(ウ)に、アミンオキシドが両性界面活性剤であることが記載されていることからすると、アミンオキシドについては、非イオン性であるとの認識も両性であるとの認識も、どちらも存在していたとするのが妥当といえ、そうすると、イ.の主張を直ちに採用することはできない。 以上のとおりであるから、請求人の主張によっても、上記(1)?(3)の判断に変わりはない。 (5)まとめ したがって、本願補正発明1は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(1)?(3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明1を包含する本願補正発明も、同様に、同刊行物(1)?(3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 平成20年8月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成20年3月21日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」といい、上記明細書を「本願明細書」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】(A)アミンオキシド及び(B)イソチアゾロンを含み、該アミンオキシドが(1)トリアルキルアミンオキシド; (2)N-アルキル環状アミンオキシド; (3)ジアルキルピペラジン ジ-N-オキシド; (4)アルキルジ(ポリ(オキシアルキレン))アミンオキシド; (5)ジアルキルベンジルアミンオキシド; (6)脂肪性アシルアミドプロピルジメチルアミンオキシド; (7)ジアミンオキシド; (8)トリアミンオキシド;及び (9)上記いずれかのあらゆる組合せ から成るグループから選ばれる、木材基材の防腐及び防水処理用組成物。」 第4 原査定の理由の概要 原査定における拒絶の理由の概要は、本願出願前に頒布された「先の刊行物2に記載のアミン酸化物として、刊行物3、4に記載のものを用いることは当業者が容易に行うことといえる」から、本願の請求項1?20に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。 第5 刊行物及び記載事項 原査定における「先の刊行物2」、「刊行物3、4」は、「第2 2.(1)」に示した刊行物(1)、(2)、(3)と、それぞれ同じであるから(以下、刊行物(1)、(2)、(3)、という。)、これらの刊行物及び記載事項は、「第2 2.(1)」に示したとおりである。 第6 当審の判断 1.刊行物(1)に記載された発明 刊行物(1)に記載された発明は、「第2 3.」に示したとおりである(以下、同様に、「引用発明」という。)。 2.対比 本願発明は、「(A)アミンオキシド及び(B)イソチアゾロンを含み、該アミンオキシドが(1)トリアルキルアミンオキシド; から選ばれる、木材基材の防腐及び防水処理用組成物。」を包含するから、これを、「本願発明1」とし、本願発明1と引用発明とを対比する。 「第2 4.」に示したのと同様に、両者は、 「アミンオキシド及びイソチアゾロンを含み、場合によってはアルコール、エステル等の有機溶媒を含む木材基材の防腐処理用組成物」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (i’)「アミンオキシド」が、本願発明1においては、「トリアルキルアミンオキシド」であるのに対し、引用発明においては、単に「アミンオキシド」である点 (ii’)「組成物」が、本願発明1においては、「防腐及び防水処理用組成物」であるのに対し、引用発明においては、「防腐組成物」であって「防水処理用」ではない点 3.判断 (1)相違点(i’)について 引用発明において、「アミンオキシド」として、ジメチルココアミンオキシドやラウリルジメチルアミンオキシドなどのアルキルジメチルアミンオキシドを包含するところの、「トリアルキルアミンオキシドであって、・・・であるもの」とすることが当業者にとって容易であることは、「第2 5.(1)」に示したとおりであるから、同様に、「アミンオキシド」として、「トリアルキルアミンオキシド」とすることは、当業者にとって容易である。 (2)相違点(ii’)について 相違点(ii’)は、「第2 4.」に示した「相違点(ii)」と全く同じであるから、「第2 5.(2)」に示したとおり、引用発明において、「防腐組成物」に、当然に寄与するであろう用途を加えて「防腐及び防水処理用組成物」とすることは、当業者にとって容易である。 (3)効果について 本願発明1の効果は、本願補正発明1の効果と同じであるから、「第2 5.(3)」に示したとおり、刊行物(1)?(3)に記載されたものから当業者が予測し得る程度のものであって、格別に優れたものであるとはいえない。 (4)まとめ したがって、本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(1)?(3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1を包含する本願発明も、同様に、同刊行物(1)?(3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-26 |
結審通知日 | 2011-09-27 |
審決日 | 2011-10-12 |
出願番号 | 特願2000-619602(P2000-619602) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01N)
P 1 8・ 575- Z (A01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 冨永 保 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
齋藤 恵 東 裕子 |
発明の名称 | イソチアゾロン/アミンオキシド木材防腐剤 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 長沼 暉夫 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 池田 幸弘 |