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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1252734
審判番号 不服2008-31096  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-08 
確定日 2012-02-22 
事件の表示 特願2007-326424「分泌及び膜貫通ポリペプチドとそれをコードしている核酸」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月24日出願公開、特開2008-167749〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2000年(平成12年)12月1日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年12月1日 米国、1999年12月2日 米国、他37件)とする特願2001-542531号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願とする特願2005-264293号の一部を、さらに特許法第44条第1項の規定により平成19年12月18日に新たな特許出願としたものであって、その請求項2に記載された発明は、平成20年5月2日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、以下のとおりのものである。

「【請求項2】以下の(a)又は(b)のヌクレオチド配列を含んでなる単離された核酸:
(a)配列番号:81に示されるヌクレオチド配列、及び
(b)配列番号:81に示されるヌクレオチド配列の核酸に対し相補的なヌクレオチド配列からなる核酸と高度の緊縮性条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、かつ前記ヌクレオチド配列からなる核酸が大腸癌に過剰発現するヌクレオチド配列。」(以下、「本願発明」という。)

2.原査定の理由
原査定における拒絶の理由の概要は、
(イ)本願の発明の詳細な説明には、本願請求項1?3に記載の発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、
(ロ)本願請求項1?3に記載の発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、本願は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない、
というものである。

3.当審の判断
(1)実施可能要件
本願発明は、核酸という化学物質に係る発明であり、化学物質に係る発明を当業者が実施することができるとは、当該発明に係る物質を作ることができ、かつ、使用することができることである。
すわなち、化学物質としての核酸にどのような有用性(機能)があるかが明細書に記載され、あるいは明細書の記載から類推できなければ、その化学物質をどのような産業上の利用ができるか、使用できるかについて記載されていないことになり、該発明について当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明に記載されていないことになる。

(2)本願明細書の記載
本願明細書の段落【0161】の実施例4には、「上記の実施例1から3に記載されている技術を用いて、ここに開示されているように、多くの全長cDNAクローンがPROポリペプチドをコードしているものと同定された。」と記載され、また、図81には、「天然配列PRO4395cDNAのヌクレオチド配列(配列番号:81)」と記載されていることから、本願発明の「配列番号:81に示されるヌクレオチド配列」とは、実施例1から3に記載の方法でクローニングされ、分泌あるいは膜貫通タンパク質であると推定されるPRO4395と名付けられたポリペプチドのcDNAであると解される。
そして、このPRO4395の機能、有用性に関する記載としては、本願明細書の実施例30に、「本実施例では、癌性腫瘍で過剰発現しているポリペプチドを同定するための試みとして、非癌性ヒト組織に関連するPROポリペプチドコード化遺伝子発現のために、種々のヒト組織から誘導された癌性腫瘍が研究された。2セットの実験データーが作成された。 …(途中省略)… 二番目のセットのデーターでは、任意の種々の異なるヒト腫瘍を得て、肝臓、腎臓、及び肺を含む上皮由来の非癌牲ヒト組織をプールすることによって調製される「普遍的」上皮コントロール試料と比較した。プールされた組織から単離されたmRNAは、これら異なる組織での発現遺伝子産物の混合物を示す。プールされたコントロール試料を用いたマイクロアレイハイブリダイゼーション実験は、二色分析において直線的なプロットを生じた。次いで、二色分析において生じたこの線の傾斜を、各実験の(試験:コントロール検出)の比率を標準化するために用いた。次いで、種々の実験の標準化された比率を比較し、そして遺伝子発現の集積牲を同定するために用いた。従って、プール化された「普遍的なコントロール」試料は、単純な二つの試料の比較における有効で相対的遺伝子発現の判定を可能にするだけではなく、幾つかの実験に渡る複数の試料の比較をも可能にする。
本実験では、ここに記載のPROポリペプチドコード化核酸配列から誘導された核酸プローブをマイクロアレイの作製に用い、上記に列挙した腫瘍組織のRNAをさらにハイブリダイゼーションに用いた。標準化比:実験比に基づく値は、「カットオフ」と命名された。このカットオフを上回る値のみを重要であると判定した。下記の表8は、これらの実験の結果を示しており、本発明の種々のPROポリペプチドが非癌牲ヒト組織コントロールと比べて種々のヒト腫瘍組織において著しく過剰発現していることを示している。上記にて記載のように、これらのデーターは、本発明のPROポリペプチドが一つ以上の癌牲腫瘍の存在を示す診断マーカーとしてだけではなく、これら腫瘍の治療のための治療上の標的としての機能も果たすことを示している。」(段落【0214】)と記載されている。
しかしながら、該表8にはPRO4395について
「分子 過剰発現している箇所 比較の対象

PRO4395 結腸腫瘍 普遍的で正常なコントロール
PRO4395 前立腺腫瘍 普遍的で正常なコントロール
PRO4395 肺腫瘍 普遍的で正常なコントロール
PRO4395 頚部腫瘤 普遍的で正常なコントロール」と記載され、過剰発現している4つの箇所が結腸腫瘍、前立腺腫瘍、肺腫瘍、頚部腫瘤であることが示されているだけであって、どの程度過剰に発現しているか、あるいは試験サンプル数、各腫瘍組織での発現量の分布、コントロールでの発現量の分布、実際に使用されたカットオフ値等の客観的な実験データは、本願明細書に記載されていない。

(3)当審における判断
上記(2)に記載のように、本願明細書には、分泌あるいは膜貫通タンパク質であると推定されるPRO4395ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸を単離したこと、及びDNAマイクロアレイ分析によって、PRO4395mRNAが結腸腫瘍、前立腺腫瘍、肺腫瘍、頚部腫瘤において、普遍的で正常なコントロールに比べて過剰に発現していることから、癌性腫瘍のマーカーとして機能すると記載されている。
しかしながら、PRO4395のmRNAの過剰な発現の検出が、癌の診断マーカーとして機能できるというためには、癌性組織と普遍的で正常なコントロールという正常組織とでのmRNAの発現量に差が見られるだけでは不十分である。癌性組織及び正常組織においても、特定遺伝子の発現量には多少の個体差あるいは生理的変動は当然に存在するから、これら発現量の有意差について統計的な検討がなされていなければ、癌の診断マーカーとして使用できるか分からないというのが、本願出願時の技術常識であり、本願明細書に、本願発明のPRO4395のmRNAの発現量と結腸腫瘍の間の大規模症例に基づく有意な関係が示されてない以上、PRO4395が癌性腫瘍のマーカーとして使用できるとはいえない。
また、結腸腫瘍組織における発現のコントロールとして用いた普遍的で正常なコントロールとは、上記(2)に記載のように、「任意の種々の異なるヒト腫瘍を得て、肝臓、腎臓、及び肺を含む上皮由来の非癌牲ヒト組織をプールすることによって調製される「普遍的」上皮コントロール試料と比較した。プールされた組織から単離されたmRNAは、これら異なる組織での発現遺伝子産物の混合物を示す。」と説明されているが、該コントロールは、混合比率不明のヒト組織の混合物であり、癌性腫瘍のそれぞれに対応する正常組織における発現量の平均値を表していない。遺伝子は正常組織であっても組織特異的に大きな発現量の差が存在し得るものであり、腫瘍組織における遺伝子の発現量をさまざまな正常組織の混合物における発現量と比較しても、各腫瘍組織での発現量の増加を定量的に示すものではない。
このように、癌のマーカーとして使用可能といえるためには、正常組織に比較して腫瘍組織でそのmRNAの発現が過剰であるだけでは足りず、さらに、大規模データを解析して統計的手法により検定する必要があることが、本願出願時の技術常識であるから、本願発明に係るPRO4395が癌のマーカーとして使用できることは、本願明細書に記載されておらず、かつ本願明細書の記載から類推できるものでもない。
また、癌のマーカー以外にどのような有用性(機能)があるかが本願明細書に記載されていないので、このようなPRO4395ポリペプチドの機能についての具体的記載を欠く本願明細書には、そのPRO4395ポリペプチドをコードするヌクレオチドを使用できるように記載されているとはいえず、本願の発明の詳細な説明には、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成20年5月2日付で意見書及び参考資料1、2を添付した手続補足書を提出し、該意見書中で「上記実施例30の表8に集約された実験結果は、本願発明に関する膨大な実験結果のダイジェスト(要約)としてまとめられたものであることにご注意下さい。
先ず、正常サンプルと比較して試験生物学的サンプルにおいて配列番号:82のポリペプチドをコードするPRO4395核酸の上昇したレベルを示す実験データとして、本書と同日に提出致しました手続補足書に添付した参考資料1をご参照下さい。このデータは、本願出願時に本出願人が実際に入手していた生データであり、コントロールと比較した大腸ガンサンプルにおけるPRO4395の遺伝子発現分析の実験結果を詳細に記録したものでございます。
更にここで用いたcDNAマイクロアレイにおけるデータの標準化と分析のためのストラテジーの進め方を要約した文献を、本書と同日に提出致しました手続補足書に添付致しました参考資料2として提出致します。この文献は、本願の優先日以後に出版されたものですが、上記参考資料1のデータを解読するために最も適した資料であると考慮しましたので添付致しました。
当業者であれば、添付の参考資料1及び2から、PRO4395核酸が大腸ガンに特異的に検出される物質であることを容易に理解できるものと思料致します。」と主張し、提出された参考資料1には、コントロール及び各種癌を含む各組織におけるPRO4395の発現量の分析リストが記載されている。
しかしながら、上記(3)に記載したとおり、そもそも本願明細書には、PRO4395が過剰に発現している箇所として結腸腫瘍を含む4箇所が記載されているだけであり、その根拠となる具体的データ、例えば、何サンプル中何サンプルがカットオフ値を超えたのか、さらにカットオフ値の設定、すなわち正常組織の発現量といえる範囲がどの程度であるのか等、どのような過剰発現であったかの具体的な記載は存在していなかったから、参考資料1に記載の分析リストと本願明細書の記載の関連が不明であり、本願明細書又は図面の記載から当業者が推論できないデータである。そのような後から提出されたデータにより、本願の出願当初の明細書にPRO4395が大腸癌のマーカーとして使用できることが記載されていたということはできないから、審判請求人の上記主張は採用できない。
また、一応参考資料1について検討しても、本願発明のPRO4395が、結腸腫瘍の診断マーカーとして使用できるといえないのは、以下の理由による。
参考資料1には、結腸腫瘍を含む複数の組織サンプルのマイクロアレイの測定結果が記載されているものの、大部分が本願の原出願の出願日後のデータであり、「本願出願時に本出願人が実際に入手していた生データ」とはいえない。さらにそのうち、本願出願日前の実験日のデータについてみると、正常組織については数字が読み取れるものは1サンプルであり、0.41と記載されているだけであり、正常のサンプル数が1つでは、正常組織における個体差あるいは生理的変動の範囲を見積もることができず、カットオフ値が妥当であった、あるいは結腸腫瘍におけるPRO4395の過剰発現が有意であったとは認められない。さらに、参考資料1では、腫瘍に近接した正常と記載された13のサンプルと腫瘍と記載された37のサンプルの平均値は、それぞれ1.17と1.34となり、数倍(3.2倍)の範囲内であって、正常な結腸組織における発現量の中央値および範囲が明確でない状況では、正常組織と比較して有意に過剰発現しているとまではいえないから、PRO4395が大腸癌マーカーとして使用できるとはいえない。

(5)サポート要件について
上記(3)に記載した理由と同様の理由により、本願明細書には、本願発明のPRO4395が大腸癌の診断用マーカーとして使用できることを、当業者が理解できるよう記載されているとは認められないから、本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-26 
結審通知日 2011-09-27 
審決日 2011-10-11 
出願番号 特願2007-326424(P2007-326424)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 真由美  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 引地 進
鵜飼 健
発明の名称 分泌及び膜貫通ポリペプチドとそれをコードしている核酸  
代理人 実広 信哉  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  

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