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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1252745
審判番号 不服2010-1693  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-26 
確定日 2012-02-22 
事件の表示 特願2006-343787「インクジェットプリントヘッド及びその駆動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 2日出願公開、特開2007-190911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年12月21日(パリ条約による優先権主張2006年1月21日、大韓民国)の出願であって、原審において、平成20年12月19日付けで拒絶の理由が通知され、平成21年3月24日付けで手続補正がなされ、同年5月22日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同年8月26日付けで手続補正がなされ、同年9月28日付けで同年8月26日付け特許請求の範囲及び明細書についての手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年1月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
その後当審において、平成23年3月15日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月14日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年6月14日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの次のものであると認める。
「【請求項1】
圧力チャンバを有する流路形成基板と、前記流路形成基板の上部に形成されて、前記圧力チャンバにインクを吐出するための駆動力を提供する圧電アクチュエータとを備えるインクジェットプリントヘッドにおいて、
前記圧電アクチュエータは、
前記流路形成基板の上部に前記各々の圧力チャンバに対応するように隙間を空けて配置されつつ各々が長尺に設けられる圧電膜と、
前記各々の圧電膜の長手方向に交互に配列される複数の共通電極及び複数の駆動電極と、
前記流路形成基板と前記圧電アクチュエータとの間に設けられる絶縁層と、を備え、
前記圧電膜の長手方向に直角方向に、複数の圧力チャンバが並んで配置され、
前記複数の共通電極及び前記複数の駆動電極は、長尺な前記圧電膜同士の隙間に設けられる前記絶縁層の上部に形成されるとともに当該絶縁層の上部から前記圧電膜の上部に延びて形成されることを特徴とするインクジェットプリントヘッド。」

第3 引用刊行物
1 本願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由において引用された刊行物である、特開2002-59544号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部に振動板を介して圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に関する。」
(1b)「【0049】(実施形態1)図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、圧力発生室の並設方向の断面図及びそのA-A’断面図である。
【0050】図示するように、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には異方性エッチングすることにより複数の隔壁11により区画された圧力発生室12が形成されている。」
(1c)「【0055】また、各圧力発生室12の長手方向両端部近傍の充填層100には、インクの流路となるインク連通路101,102が開口している。このインク連通路101,102は、圧力発生室12の幅より小さい径で充填層100を貫通して設けられており、エキシマレーザ等によるレーザ加工、あるいはドライエッチング等により形成されている。」
(1d)「【0063】このように接合された接合基板110のインク連通孔111,112が開口する面には、各インク連通孔111に連通するノズル開口21と、各インク連通孔112に連通するインク供給連通口22とが穿設されたノズルプレート20が接合されている。このノズルプレート20の接合方法は、例えば、接着剤又は熱溶着フィルムを介した接着や陽極接合による接合等、特に限定されない。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1?1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5?4.5[×10^(-6)/℃]であるガラスセラミックスからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10を覆い、シリコン単結晶基板である流路形成基板10を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たしている。
【0064】ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0065】また、各圧力発生室12と後述する共通インク室31とは、ノズルプレート20に形成されたインク供給連通口22を介して連通されており、インクはこのインク供給連通口22を介して共通インク室31から供給され、各圧力発生室12に分配される。
【0066】また、共通インク室31に供給されるインクは、ノズルプレート20の共通インク室31に対向する領域に形成されたインク導入口23により供給される。」
(1e)「【0069】一方、圧力発生室12が形成された流路形成基板10上には、例えば、二酸化シリコン等の絶縁層からなる、厚さ1?2μmの弾性膜50が設けられている。この弾性膜50は、一方の面で圧力発生室12の一壁面を構成している。
【0070】このような弾性膜50の上の各圧力発生室12に相対向する領域には、厚さが例えば、約0.5μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる弾性膜とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0071】また、圧電素子300の個別電極である上電極膜80は、上電極膜80上から弾性膜50上まで延設されたリード電極90を介して図示しない外部配線と接続されている。」
(1f)「【0093】このように構成したインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口23からインクを取り込み、共通インク室31からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない外部の駆動回路からの記録信号に従い、下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。」
(1g)図1及び図2から、圧電体層70が、流路形成基板10の上部に各々の圧力発生室12に対応するように隙間を空けて配置されつつ各々が長尺に設けられていること、及び、圧電体層70の長手方向に直角方向に、複数の圧力発生室12が並んで配置されていることが看取できる。

上記記載事項(1a)?(1g)及び図面の記載からみて、引用例1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部に振動板を介して圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドであって、
シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には異方性エッチングすることにより複数の隔壁11により区画された圧力発生室12が形成されている流路形成基板10を備え、
圧力発生室12が形成された流路形成基板10上には、例えば、二酸化シリコン等の絶縁層からなる、厚さ1?2μmの弾性膜50が設けられていて、この弾性膜50は、一方の面で圧力発生室12の一壁面を構成しており、
このような弾性膜50の上の各圧力発生室12に相対向する領域には、厚さが例えば、約0.5μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成しており、
圧電素子300の下電極膜60を共通電極とし、上電極膜80及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして、上電極膜80を個別電極とし、
パターニングされた上電極膜80及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部といい、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになり、
圧電体層70が、流路形成基板10の上部に各々の圧力発生室12に対応するように隙間を空けて配置されつつ各々が長尺に設けられていて、
圧電体層70の長手方向に直角方向に、複数の圧力発生室12が並んで配置されており、
外部インク供給手段と接続したインク導入口23からインクを取り込み、共通インク室31からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、外部の駆動回路からの記録信号に従い、下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する、
インクジェット式記録ヘッド。」(以下「引用発明1」という。)

2 本願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由において引用された刊行物である、特開平6-320723号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
(2a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明のインクジェットヘッドは、コンピュータ、ワードプロセッサ、ファクシミリ等に接続されるプリンタのうち、インク滴を噴射して被印画物上に画像を形成するインクジェットプリンタに使用されるヘッドに関するものである。」
(2b)「【0008】このようにして得られたインクジェットヘッドは、下電極81と上電極82間から供給された電気エネルギーによって薄膜圧電素子6が変形することで圧力室1の圧力を高め、圧力室1に充填されたインクをインク滴7として吐出することができるものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらこのような構成のインクジェットヘッドでは、図11に於いて下電極81と上電極82間で圧電素子6を介する電気エネルギーのリーク、即ち電極間でのショートによって歩留りが低下してしまうといった課題を有していた。以下に圧電素子6での絶縁性低下について説明する。
【0010】図12(a)?(c)は、図11に於ける圧力室1上の下電極81、圧電素子6上電極82を形成する場合の製造プロセスを示す断面図である。図12(a)に於いて、まず振動板5上に下電極81及び、薄膜圧電素子6を成膜する。この状態では、前述のように薄膜圧電素子6はアモルファス(非晶質)状態であり、電気エネルギーによる結晶構造の変化(圧電性)は示さない。従って、薄膜圧電素子6の場合も、一般的な圧電素子の固相反応による結晶化と同様に、焼成を行うことにより、結晶化を行う。図12(b)は、焼成を行った場合の薄膜圧電素子6の微細構造をモデル化して示してある。薄膜圧電素子6は、理想的には単結晶薄膜に結晶化することが望ましいが、一般的には図12(b)のごとく、微細な結晶粒61の集合体にとして結晶化する。この時、薄膜圧電素子6には結晶粒61間でピンホール10が形成されやすい。この後に図12(c)のごとく、上電極82を成膜するが、上電極82は、ピンホール10を通して下電極81まで到達してしまうため、上電極82と、下電極81がショートすることになり、上電極82と下電極81間に電位差を与えることができなくなってしまうことになる。
【0011】更に、上電極82により(審決注:「による」は「により」の明らかな誤記であるから訂正して摘記した。)駆動力が低下してしまうといった課題も有している。
【0012】これについて説明するのが図13(a)?図13(b)のモデル図であって、5、6、81、82は図11と同様である。また、図中の矢印は力の方向を示している。まず、図13(a)のごとく、上電極82と下電極83間から供給される電気エネルギーにより、薄膜圧電素子6は膜面方向と平行に収縮する力が働く。一方、振動板5、上電極82、下電極81は薄膜圧電素子6の変形に反発する反作用力が働く。この結果、バイメタル構造と同様にそれぞれの膜には膜面方向と直角方向の応力が生じ、図13(b)のごとく図中では下方向に変形することになる。この時、振動板5、下電極81、薄膜圧電素子6の応力方向は図中では下方向であるのに対し、上電極82の応力の方向は図中で上方向になってしまう。従って、本来必要な下方向の力を低下させることになる。
【0013】
【課題を解決するための手段】画像情報に応じて複数のノズルからインク滴を噴射することで被印画物に記録を行うインクジェットプリンタ用のヘッドであって、少なくとも複数のノズルと、該ノズルに対応した複数の圧力室と、圧力室の一部に形成された振動板と、振動板を変形させて圧力室に圧力を発生させる圧電素子と、前記圧電素子に個々に接続され、電気エネルギーを供給する信号電極と、前記圧電素子に共通に接続された共通電極と、圧力室にインクを供給するインク供給口と、から成るインクジェットヘッドに於いて、前記圧電素子に接続された前記信号電極及び共通電極が櫛歯状構造であることを特徴とする。」
(2c)「【0020】(実施例1)図1は本発明のインクジェットヘッドの分解斜視図であって、1は圧力室、2はノズル、21はノズルプレート、3はインク供給口、4はインク流路、5は振動板、6は薄膜圧電素子、83は共通電極、84は信号電極、9は基板である。振動板5と基板9は、実際には薄膜製造法で堆積するため予め付着しているが、図1では構造を明確に示すために分離して記入してある。
【0021】基板9を加工して形成された圧力室1に対応して、信号電極84及び、共通電極83による櫛歯構造11が形成され、櫛歯構造11によって薄膜圧電素子6を収縮、伸張させる。この薄膜圧電素子6の収縮、伸張によって、前述のごとく振動板5が薄膜圧電素子6と共に振動し、圧力室1内の圧力を変化させる。一方、インクはインク供給口3から供給され、インク流路4を経て圧力室1に導入される。従って、振動板5によって発生した圧力によって、インクはノズルプレート21に設けられ、各圧力室に対応したノズル2より吐出することになる。圧力室1の配列ピッチは通常141μm程度である。これは、1インチあたり180個に相当する。櫛歯構造の、櫛歯の幅、ピッチ及び本数は、圧力室1の長さ、必要な駆動力、製造プロセス能力等によって決まるが、通常櫛歯の幅は駆動力、圧力室1の長さに関係なく、細いほど好ましく、製造プロセス能力によって決定され、10μm程度が適当である。また、櫛歯間の距離は主に駆動電圧によって決定され、例えば30V程度の電圧で駆動する場合、20μm程度が適当である。また、櫛歯の本数は、インクジェットヘッドの外形から算出される圧力室1の長さと、必要な駆動力から算出、決定され、例えば圧力室1の長さが900μmであったとすると、櫛歯の幅10μm、櫛歯間の距離20μmの時、一つの圧力室1あたり30本の櫛歯(従って信号電極側15本、共通電極側15本)で構成できる。」
(2d)「【0027】図4(a)?図4(c)は本発明のインクジェットヘッドの動作原理を示すモデル図である。図4(a)は分極時のモデル図を示し、まず共通電極83をマイナス、信号電極84をプラスとして、分極処理を行う。この分極処理によって薄膜圧電素子6内では共通電極83側をプラス、信号電極84側をマイナスとした、薄膜圧電素子6の平面方向の分極が起こる。この状態を平面で見たものが図4(b)である。このようにして分極処理を行った薄膜圧電素子6を駆動する場合、図4(c)のごとく、分極処理の場合の電界と逆の電界をかけることで行う。即ち、共通電極83をプラス、信号電極84をマイナスにして電圧を印加すると、薄膜圧電素子6は、共通電極83、信号電極84間でそれぞれ収縮する力が働く。(同時に図4(c)に於いて上下方向に伸張する力も働く)これにより、従来技術2と同様に図4(c)に於いて下方向の応力が働き、下方向にたわむことになる。
【0028】また、図13(b)のように、従来技術2では上電極82によって、たわみ方向と逆の応力が発生し、駆動力を低下させることになっていたのに対し、本発明のインクジェットヘッドの場合、図4(c)で明らかなように、薄膜圧電素子6上の電極は分割されていることから、電極による上方向の発生力は少なく、駆動力の低下も少ない。
【0029】本発明のようにして得られたインクジェットヘッドは、上下に電極を配さず、一平面上に配された電極によって従来技術2と同様の動作が可能になるため、電極間のショートが無いため、歩留りがよく低コストのインクジェットヘッドの提供が可能である。また、電極面積の低下が可能になることにより(審決注:「による」は「により」の明らかな誤記であるから訂正して摘記した。)駆動力低下が低くなり、エネルギー効率の高いインクジェットヘッドが実現できる。」
(2e)「【0034】図8(a)?図8(b)はそれぞれ図1の圧力室部分の拡大平面図と断面図であって、1?2、21、5?6、9、83?84は図1と同様である。また、83-1は共通電極83の櫛歯共通部、84-1は信号電極84の櫛歯共通部、12は隔壁である。図8(a)に於いて、共通電極83及び信号電極84のうち、共通電極の櫛歯共通部83-1及び信号電極の櫛歯共通部84-1は面積が大きく、圧力室1上の振動部に形成された場合、駆動効率を低下させやすい。図8(b)は図8(a)のDD断面図であって、隣接する圧力室1の隔壁11上に共通電極の櫛歯共通部83-1及び、信号電極の櫛歯共通部84-1を配することで、駆動効率を低下させず、高効率なインクジェットヘッドを提供することが可能になる。」
(2f)上記(2e)及び図1?図3、図8の記載からみて、圧力室1を形成した基板9の上部に振動板5及び圧電素子6が積層され、共通電極83及び信号電極84のうち、共通電極の櫛歯共通部83-1及び信号電極の櫛歯共通部84-1は面積が大きく、圧力室1上の振動部に形成された場合、駆動効率を低下させやすいので、隣接する圧力室1の隔壁11上に配することで、駆動効率を低下させないようにし、共通電極の櫛歯共通部83-1から延びた共通電極83の部分及び信号電極の櫛歯共通部84-1から延びた信号電極84の部分は、隔壁11上から前記圧力室1の上部に延びて形成されていることが看取できる。

上記記載事項(2a)?(2f)及び図面の記載からみて、引用例2には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「インク滴を噴射して被印画物上に画像を形成するインクジェットプリンタに使用されるインクジェットヘッドであって、
下電極81と上電極82間から供給された電気エネルギーによって薄膜圧電素子6が変形することで圧力室1の圧力を高め、圧力室1に充填されたインクをインク滴7として吐出することができるものにおいては、
下電極81と上電極82間で圧電素子6を介する電気エネルギーのリーク、即ち電極間でのショートによって歩留りが低下してしまうといった課題や、上電極82により駆動力が低下してしまうといった課題を有していることから、
上下に電極を配さず、一平面上に配された電極によって従来技術と同様の動作が可能になり、電極間のショートが無いため、歩留りがよく低コストでの提供が可能であって、電極面積の低下が可能になることにより駆動力低下が低くなり、高いエネルギー効率を実現できるインクジェットヘッドであって、
圧力室1、ノズル2、ノズルプレート21、インク供給口3、インク流路4、振動板5、薄膜圧電素子6、共通電極83、信号電極84、基板9からなり、
基板9を加工して形成された圧力室1に対応して、信号電極84及び、共通電極83による櫛歯構造11が形成され、櫛歯構造11によって薄膜圧電素子6を収縮、伸張させ、この薄膜圧電素子6の収縮、伸張によって、振動板5が薄膜圧電素子6と共に振動し、圧力室1内の圧力を変化させるものであり、
圧力室1を形成した基板9の上部に振動板5及び圧電素子6が積層され、共通電極83及び信号電極84のうち、共通電極の櫛歯共通部83-1及び信号電極の櫛歯共通部84-1は面積が大きく、圧力室1上の振動部に形成された場合、駆動効率を低下させやすいので、隣接する圧力室1の隔壁11上に配することで、駆動効率を低下させないようにし、共通電極の櫛歯共通部83-1から延びた共通電極83の部分及び信号電極の櫛歯共通部84-1から延びた信号電極84の部分は、隔壁11上から前記圧力室1の上部に延びて形成されており、
薄膜圧電素子6上の電極は分割されていることから、電極による上方向の発生力は少なく、駆動力の低下も少ない、
インクジェットヘッド。」(以下「引用発明2」という。)

第4 対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「インクジェット式記録ヘッド」が本願発明の「インクジェットプリントヘッド」に、以下同様に「圧力発生室12」が「圧力チャンバ」に、「流路形成基板10」が「流路形成基板」に、「インク」が「インク」に、「圧電素子300」が「圧電アクチュエータ」に、「圧電体層70」が「圧電膜」に、「『共通電極』とされた『下電極膜60』」が「共通電極」に、「『個別電極』とされた『上電極膜80』」が「駆動電極」に、「『絶縁層』からなる『弾性膜50』」が「絶縁層」に、それぞれ相当している。
(2)引用発明1の「絶縁層(弾性膜50)」は、「流路形成基板(流路形成基板10)上に」「設けられていて」、「絶縁層(弾性膜50)の上の各圧力チャンバ(圧力発生室12)に相対向する領域には、厚さが例えば、約0.5μmの共通電極(下電極膜60)と、厚さが例えば、約1μmの圧電膜(圧電体層70)と、厚さが例えば、約0.1μmの駆動電極(上電極膜80)とが、積層形成されて、圧電アクチュエータ(圧電素子300)を構成して」いるから、引用発明1の「絶縁層(弾性膜50)」は、「流路形成基板(流路形成基板10)」と「圧電アクチュエータ(圧電素子300)」との間に設けられる点で、本願発明の「絶縁層」と一致する。
(3)上記(2)から、引用発明1の「共通電極(下電極膜60)」及び「駆動電極(上電極膜80)」は、「『絶縁層(弾性膜50)』の上部に形成される」点で、本願発明の「共通電極」及び「駆動電極」と一致する。

上記(1)?(3)から、本願発明と、引用発明1は、以下の点で一致している。
「圧力チャンバを有する流路形成基板と、前記流路形成基板の上部に形成されて、前記圧力チャンバにインクを吐出するための駆動力を提供する圧電アクチュエータとを備えるインクジェットプリントヘッドにおいて、
前記圧電アクチュエータは、
前記流路形成基板の上部に前記各々の圧力チャンバに対応するように隙間を空けて配置されつつ各々が長尺に設けられる圧電膜と、
共通電極及び複数の駆動電極と、
前記流路形成基板と前記圧電アクチュエータとの間に設けられる絶縁層と、を備え、
前記圧電膜の長手方向に直角方向に、複数の圧力チャンバが並んで配置され、
前記共通電極及び前記複数の駆動電極は、前記絶縁層の上部に形成されるインクジェットプリントヘッド。」

そして、以下の点で相違している。
(相違点)
「共通電極及び複数の駆動電極」について、本願発明では共通電極が「複数の共通電極」であり、「前記各々の圧電膜の長手方向に交互に配列され」、「長尺な前記圧電膜同士の隙間に設けられる前記絶縁層の上部に形成されるとともに当該絶縁層の上部から前記圧電膜の上部に延びて形成される」のに対し、引用発明1では共通電極が「複数の共通電極」ではなく、「前記各々の圧電膜の長手方向に交互に配列され」てはおらず、「前記絶縁層の上部に形成される」ものではあるが、「長尺な前記圧電膜同士の隙間に設けられる前記絶縁層の上部に形成されるとともに当該絶縁層の上部から前記圧電膜の上部に延びて形成される」ものでない点。

上記相違点について検討する。
(相違点について)
引用例2には、
「インク滴を噴射して被印画物上に画像を形成するインクジェットプリンタに使用されるインクジェットヘッドであって、
下電極81と上電極82間から供給された電気エネルギーによって薄膜圧電素子6が変形することで圧力室1の圧力を高め、圧力室1に充填されたインクをインク滴7として吐出することができるものにおいては、
下電極81と上電極82間で圧電素子6を介する電気エネルギーのリーク、即ち電極間でのショートによって歩留りが低下してしまうといった課題や、上電極82により駆動力が低下してしまうといった課題を有していることから、
上下に電極を配さず、一平面上に配された電極によって従来技術と同様の動作が可能になり、電極間のショートが無いため、歩留りがよく低コストでの提供が可能であって、電極面積の低下が可能になることにより駆動力低下が低くなり、高いエネルギー効率を実現できるインクジェットヘッドであって、
圧力室1、ノズル2、ノズルプレート21、インク供給口3、インク流路4、振動板5、薄膜圧電素子6、共通電極83、信号電極84、基板9からなり、
基板9を加工して形成された圧力室1に対応して、信号電極84及び、共通電極83による櫛歯構造11が形成され、櫛歯構造11によって薄膜圧電素子6を収縮、伸張させ、この薄膜圧電素子6の収縮、伸張によって、振動板5が薄膜圧電素子6と共に振動し、圧力室1内の圧力を変化させるものであり、
圧力室1を形成した基板9の上部に振動板5及び圧電素子6が積層され、共通電極83及び信号電極84のうち、共通電極の櫛歯共通部83-1及び信号電極の櫛歯共通部84-1は面積が大きく、圧力室1上の振動部に形成された場合、駆動効率を低下させやすいので、隣接する圧力室1の隔壁11上に配することで、駆動効率を低下させないようにし、共通電極の櫛歯共通部83-1から延びた共通電極83の部分及び信号電極の櫛歯共通部84-1から延びた信号電極84の部分は、隔壁11上から前記圧力室1の上部に延びて形成されており、
薄膜圧電素子6上の電極は分割されていることから、電極による上方向の発生力は少なく、駆動力の低下も少ない、
インクジェットヘッド。」
が引用発明2として記載されている。(上記「第3 2」参照。)
ここで、引用発明1もインクジェットプリントヘッドに係る発明であって、歩留まりが低下しないものや、駆動力が低下しないものが望ましいことは当然である。
また、圧電アクチュエータの圧電膜を各々の圧力チャンバに対応するように隙間を空けて配置した場合、引用発明2の「共通電極83及び信号電極84のうち、共通電極の櫛歯共通部83-1及び信号電極の櫛歯共通部84-1は面積が大きく、圧力室1上の振動部に形成された場合、駆動効率を低下させやすいので、隣接する圧力室1の隔壁11上に配することで、駆動効率を低下させないようにし」との事項にもみられるように、圧力チャンバに対応する部分に、圧電アクチュエータの圧電膜の駆動に関係しない構成部材を設けることが駆動効率を低下させ、圧電アクチュエータの圧電膜の駆動に好ましくないことも当業者に明らかである。
したがって、共通電極としての下電極膜60、圧電体層70及び個別電極としての上電極膜80を含む部分を圧電素子300として備えた引用発明1において、共通電極を複数の共通電極とし、前記共通電極及び前記駆動電極を、圧電膜の上部に延びるよう形成し、圧電膜の駆動に関係しない部分を圧力チャンバの隙間に設けることにより、前記複数の共通電極及び前記複数の駆動電極を、前記各々の圧電膜の長手方向に交互に配列されるものとし、かつ、長尺な前記圧電膜同士の隙間に設けられる前記絶縁層の上部に形成されるとともに当該絶縁層の上部から前記圧電膜の上部に延びて形成されるものとして、相違点に係る構成を得ることは、引用発明2に基づき、当業者が適宜なし得たことである。

そして、本願発明の効果も引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということができない。
すなわち、本願発明は、当審拒絶理由に記載された引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当審拒絶理由に記載された引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-20 
結審通知日 2011-09-27 
審決日 2011-10-11 
出願番号 特願2006-343787(P2006-343787)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牧 隆志大塚 裕一  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 鈴木 秀幹
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 インクジェットプリントヘッド及びその駆動方法  
代理人 八田国際特許業務法人  
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