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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C |
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管理番号 | 1252746 |
審判番号 | 不服2010-2543 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-02-05 |
確定日 | 2012-02-22 |
事件の表示 | 特願2004- 74913「曲げ加工性に優れる溶融Zn-Al系合金めっき鋼材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月29日出願公開、特開2005-264188〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成16年3月16日の特許出願であって、平成21年11月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年2月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、それと同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成23年8月18日付けで拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由」という。)がなされ、同年10月24日付けで手続補正書及び意見書が提出され、同年11月1日付けで明細書の記載を補正する手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1?6に係る発明は、平成23年10月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 建材、自動車、家電用途に使用される溶融めっき鋼材(但し、Crを3質量%以上含有するCr含有鋼を基材とする溶融めっき鋼材を除く)であって、 質量%で、 Al:25?85%、 Cr、Mnの1種又は2種の合計量:0.05?5%、 Si:Alの含有量の0.5?5% を含有し、残部はZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有し、かつ、めっき表面のスパングルサイズの平均値が1.0mm以上であることを特徴とする曲げ加工性に優れる溶融Zn-Al系合金めっき鋼材。」 3 引用例の記載事項 当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1?4(以下「引用例1?4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (1)引用例1(特開2002-356759号公報) (1a)「【請求項1】 質量%で、 Al:25?75%、 Cr:0.05?5%、 Si:Alの含有量の0.5?10%を含有し、残部はZn及び不可避的不純物からなるめっき層を表面に有することを特徴とする耐食性に優れる溶融Zn-Al-Cr合金めっき鋼材。 【請求項2】 前記めっき層が、Mg:0.1?5質量%を、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れる溶融Zn-Al-Cr合金めっき鋼材。 【請求項3】 前記めっき層と鋼材との界面に、Crを含有する合金化層を、さらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐食性に優れる溶融Zn-Al-Cr合金めっき鋼材。」(【特許請求の範囲】) (1b)「【発明の属する技術分野】本発明は、建材、自動車、家電用途に使用される溶融Zn系めっき鋼材に関するものである。特に、主として建材用途分野で要求される高耐食性能を有する耐食性に優れる溶融Zn-Al-Cr合金めっき鋼材に関するものである。」(【0001】) (1c)「【0008】 【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の耐食性に優れる溶融Zn-Al-Cr合金めっき鋼材は、めっき層の組成としてAl:25?75質量%、Cr:0.05?5質量%、Si:Al含有量の0.5?10質量%を含有し、残部はZn及び不可避的不純物であることを特徴とし、Mg:0.1?5質量%を、さらに含有することが好ましい。ここで、被めっき鋼材とは、鋼板、鋼管及び鋼線等の鉄鋼材料である。めっき層の組成として、Alは25?75質量%とする。Alが25質量%未満の場合は裸耐食性が低下し、一方、75質量%を超えると切断端面の耐食性が低下する。また、合金めっき浴の温度を高く維持する必要が生じ製造コストが高くなるなどの問題が生じる。 【0009】めっき層の組成として、Crは0.05?5質量%とする。Crが0.05質量%未満の場合は耐食性向上効果が不充分であり。5質量%を超えるとめっき浴のドロス発生量が増大する等の問題が生じる。耐食性の観点からは1質量%を超えて含有されることが好ましい。ここでCrは一部めっき層の最表層に濃化し、又めっき層と素地鋼板界面にFe-Al系合金化層を形成する場合は合金化層に大部分が濃化する。最表層に濃化したCrは不働態化皮膜を形成し主としてめっき層の初期耐食性を向上に寄与すると考えられる。又、Fe-Al系合金化層に濃化したCrは腐食進行に伴いめっき層が溶解し素地鋼材表面の一部が露出する段階で、Crによる不働態化作用により素地鋼材の腐食を抑制、耐食性を向上させるものと考えられる。 【0010】めっき層の組成として、SiはAl含有量の0.5質量%以上添加する。鋼板にめっき層を形成するにあたり、鋼板表面とめっき層との界面におけるFe-Al系合金層が過剰に厚く形成されることを抑制して、鋼板表面とめっき層の密着性を向上することができる。また、Al含有量の10質量%を超えて含有するとFe-Al合金化層の形成を抑制する効果が飽和すると共に、めっき層の加工性の低下を招くおそれがあるので、Al含有量の10質量%を上限とする。めっき層の加工性を重視する場合はAl含有量の5質量%を上限とすることが好ましい。 【0011】めっき層の組成として、Mgを0.1?5質量%含有させることにより、更に高い耐食性を得ることができる。0.1質量%未満の添加では耐食性向上効果が見られない。一方、添加量が5質量%を超える場合は耐食性向上効果が飽和するばかりでなく、めっき浴のドロス発生量が増大する等の問題を生じる。めっき層の組成としてAl、Cr、Siを除く残部は亜鉛及び不可避的不純物である。ここで不可避的不純物とは、Pb、Sb,Sn、Cd、Fe、Ni、Mn、Cu、Ti等のめっき合金原料の製造過程で不可避的に混入する元素及びめっき鋼材製造過程で鋼材より、又はめっき釜材料よりめっき浴中に溶解混入する元素を意味し、これら不可避的不純物の含有量が合計で1重量%迄含まれても良い。」(【0008】?【0011】) (1d)「【実施例】以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。表1に示す組成の溶融めっき金属槽に被めっき鋼材を浸漬することにより合金めっき鋼材を製造した。ここで、本発明例No.1?15及び比較例No.16?18は板厚0.8mmの冷延鋼板をめっき前にアルカリ脱脂、N_(2)-10%H_(2)雰囲気中で800℃迄加熱還元焼鈍し、続いて580℃迄冷却した後、600℃の溶融めっき金属層(審決注:「層」は「槽」の誤記。)に2秒間浸漬した。30℃/秒の冷却速度で冷却、合金めっき層を表面に形成した。めっき付着量は片面で約60g/m^(2)とした。実施例12は板厚2.0mmの熱延鋼板をめっき前にアルカリ脱脂、硫酸酸洗した後、塩化亜鉛及び塩化アンモニウムを含むフラックス処理を施した後、600℃の溶融めっき金属槽に10秒間した。30℃/秒の冷却速度で冷却、合金めっき層を表面に形成した。めっき付着量は片面で約60g/m^(2)とした。上記のようにして得られた合金めっき鋼材を、100×50mmの寸法に切断し、下記評価試験を行った。」(【0018】) (2)引用例2(特開平9-209109号公報) (2a)「一般に溶融めっき鋼板のスパングル粒径は、溶融めっき後の強制冷却時の風量を増大させて、冷却速度(従って、めっき皮膜の凝固速度)を高めると小さくなることが知られている。しかし、このようにめっき後に急冷しても、Zn-55%Al合金めっき鋼板の平均スパングル粒径を安定して0.8mmより小さくすることは困難であった。しかも、急冷により、めっき皮膜中の残留応力が増加し、めっき皮膜が脆くなり、その加工性が低下する上、母材鋼板自体にも、急冷により硬化や時効劣化の増大などが起きて、成形性、加工性が悪影響を受ける。」(【0006】) (3)引用例3(特開平11-100653号公報) (3a)「ミスト流速を67?270m/秒の範囲に設定するとき、得られた溶融亜鉛めっき鋼帯の表面に60?1000μmと適正な粒径をもつスパングルが形成されることを見い出した。スパングルの粒径がこのように調整された溶融亜鉛めっき鋼帯は、塗装下地材として好適であるばかりでなく、加工性にも優れたものとなる。これに対し、270m/秒を超える流速でミストを鋼帯に衝突させると、溶融亜鉛めっき層が過度の急冷効果を受けて微細化すると共に、衝突時のエネルギーによっても微細化が促進される。その結果、スパングルが60μm以下の粒径になり、曲げ加工等を施した場合に溶融亜鉛めっき層にクラックが入り易くなる。クラックの発生は、ミストの衝突によって局部的に大きな歪み又は応力が溶融亜鉛めっき層に持ち込まれることに由来するものと推察される。他方、67m/秒より遅い流速でミストを鋼帯に衝突させると、溶融亜鉛めっき層が十分に急冷されず、1000μmを超える大きなスパングルが生成し易くなる。」(【0011】) (4)引用例4(特開平10-152765号公報) (4a)「平均スパングル径の大きさは、めっき後の冷却速度の影響を受け、冷却速度が大きいと小さく、冷却速度が小さいと大きくなる。したがって、予め、冷却速度と平均スパングル径の大きさの関係を求めておき、この求めた関係にしたがって、冷却速度に応じて適正なスパングル径の範囲を定めることにより、スパングルの大きさの変動を低減できる。冷却速度とスパングル径を前記(7)式を満足するようにして製造すると、同一冷却条件で製造しためっき皮膜のスパングルの大きさの変動幅が0.25mm以内になり、実用的な観点から必要な表面外観の美麗さを確保できる。」(【0041】) (4b)「前記で得られたAl含有溶融亜鉛めっき鋼板の冷却速度と平均スパングル径の関係を図1に示す。図1において、2本の実線で挟まれる領域は、前記(7)式を満たす領域を示す。また、図1に、従来のAl含有溶融亜鉛めっき鋼板における平均スパングル径の変動範囲を2本の破線で参考的に示した。」(【0050】) (4c)図1は、以下のとおりである。図1には、横軸を「冷却速度C(℃/秒)」、縦軸を「平均スパングル径d(mm)」として、白丸、黒丸、実線、破線が描かれており、平均冷却速度15℃/秒以下であって平均スパングル径1.0mm以上の領域において、黒丸及び破線が記載されている。 上記3の記載事項(1a)?(4c)を、以下、「摘記事項1a」?「摘記事項4c」という。 4 引用例1に記載された発明 摘記事項1aによると、「質量%で、Al:25?75%、Cr:0.05?5%、Si:Alの含有量の0.5?10%を含有し、残部はZn及び不可避的不純物からなるめっき層を表面に有する・・・耐食性に優れる溶融Zn-Al-Cr合金めっき鋼材」(【請求項1】)が記載されている。 摘記事項1bによると、「建材、自動車、家電用途に使用される溶融Zn系めっき鋼材に関するものである」(【0001】)と記載されている。 摘記事項1cによると、被めっき鋼材は、「鋼板、鋼管及び鋼線等の鉄鋼材料である」(【0008】)と記載されており、基材の種類は特に限定されていない。 以上によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「建材、自動車、家電用途に使用される溶融めっき鋼材であって、 質量%で、 Al:25?75%、 Cr:0.05?5%、 Si:Alの含有量の0.5?10% を含有し、残部はZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する溶融Zn-Al-Cr合金めっき鋼材。」 5 対比 (1)本願発明は、基材とする溶融めっき鋼材の種類につき、いわゆる「除くクレーム」により、「Cr3質量%以上含有するCr含有鋼」を除外している。しかし、それ以外の鋼材からなる基材については、引用発明のものと重複するから、基材において両者の発明に実質的な差異はない。よって、引用発明の「建材、自動車、家電用途に使用される溶融めっき鋼材」は、本願発明の「建材、自動車、家電用途に使用される溶融めっき鋼材(但し、Crを3質量%以上含有するCr含有鋼を基材とする溶融めっき鋼材を除く)」に相当する。 本願発明と引用発明とは、めっき層の含有成分及び含有量の範囲が重複している。含有量範囲のうちAl及びSiの上限値において重複しない部分があるが、摘記事項1cに記載された引用発明におけるAl及びSiの各成分の含有量範囲を限定する添加理由は、本願発明における理由(本願明細書【0012】、【0013】)と同様であるから、めっき層の組成範囲において両者の発明に実質的な差異はない。よって、引用発明の「Al:25?75%、Cr:0.05?5%、Si:Alの含有量の0.5?10%を含有し、残部はZn及び不可避的不純物」は、本願発明の「Al:25?85%、Cr、Mnの1種又は2種の合計量:0.05?5%、Si:Alの含有量の0.5?5%を含有し、残部はZn及び不可避的不純物」に相当する。 引用発明の「溶融Zn-Al-Cr合金めっき」は、本願発明の「溶融Zn-Al系合金めっき」に相当する。 (2)したがって、両者の発明は、次の点で一致する。 <一致点> 建材、自動車、家電用途に使用される溶融めっき鋼材(但し、Crを3質量%以上含有するCr含有鋼を基材とする溶融めっき鋼材を除く)であって、 質量%で、 Al:25?85%、 Cr、Mnの1種又は2種の合計量:0.05?5%、 Si:Alの含有量の0.5?5% を含有し、残部はZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する溶融Zn-Al系合金めっき鋼材。 (3)そして、次の点で相違する。 <相違点> 本願発明は、「スパングルサイズの平均値が1.0mm以上」であり、「曲げ加工性に優れる」溶融めっき鋼材であるのに対し、引用発明は、そのようなスパングルを有するのか明らかでなく、「耐食性に優れる」溶融めっき鋼材である点。 6 相違点についての判断 (1)スパングルの形成について 引用例1の摘記事項1dによると、冷延鋼板を溶融めっき金属槽に浸漬した後、30℃/秒の冷却速度で冷却して、合金めっき層を形成すること(【0018】)が記載されている。溶融めっき法に関する技術常識に照らせば、30℃/秒の冷却速度による上記の方法で形成されためっき層において、その表面にスパングルが形成されるとともに、当該スパングルのサイズとして何らかの平均値を有することは明らかである。 (2)「スパングルサイズの平均値が1.0mm以上」について 溶融めっき鋼材は、建材、自動車、家電などの各種製品に広く使用される素材であるから、高耐食性に加えて、製品形状に成形する場合の良好な加工性が要求されることは、溶融めっき鋼材における自明の課題である。そして、溶融めっき鋼材のめっき表面にはスパングル模様が形成されるところ、溶融めっき後のめっき層が凝固するまでの冷却の程度によって、当該スパングルの径が変化するとともに、溶融めっき鋼板の曲げ加工性にも影響することが知られている。 すなわち、引用例2の「一般に溶融めっき鋼板のスパングル粒径は、溶融めっき後の強制冷却時の風量を増大させて、冷却速度(従って、めっき皮膜の凝固速度)を高めると小さくなることが知られている。」(摘記事項2a)、及び引用例4の「平均スパングル径の大きさは、めっき後の冷却速度の影響を受け、冷却速度が大きいと小さく、冷却速度が小さいと大きくなる。」(摘記事項4a)によると、冷却速度とスパングル径は、冷却速度が大きいとスパングル径が小さくなり、冷却速度が小さいとスパングル径が大きくなる関係にある。 また、引用例2の「急冷により、めっき皮膜中の残留応力が増加し、めっき皮膜が脆くなり、その加工性が低下する」(摘記事項2a)、及び引用例3の「得られた溶融亜鉛めっき鋼帯の表面に60?1000μmと適正な粒径をもつスパングルが形成されることを見い出した。スパングルの粒径がこのように調整された溶融亜鉛めっき鋼帯は、・・・加工性にも優れたものとなる。・・・溶融亜鉛めっき層が過度の急冷効果を受けて微細化すると共に・・・その結果、スパングルが60μm以下の粒径になり、曲げ加工等を施した場合に溶融亜鉛めっき層にクラックが入り易くなる。」(摘記事項3a)によると、溶融めっき後の急冷によって、めっき層の加工性が低下したり、曲げ加工時にクラックが入り易くなること、スパングル径が適正な範囲であれば、優れた曲げ加工性が得られることが示されている。 さらに、引用例4の摘記事項4b、4cによると、Al含有溶融亜鉛めっき鋼板において、冷却速度15℃/秒以下の範囲で平均スパングル径1.0mm以上のものが得られている。 そうすると、引用発明の溶融めっき鋼材において、良好な曲げ加工性を付与するために、めっき工程の冷却速度を小さくするとともに、それにともない大きな径で形成されるスパングルサイズの平均値につき一定以上となるよう特定することは、引用例2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。そして、当該一定以上の平均値として、その下限を「1.0mm」とした点は、めっき層の組成や必要とする加工性の程度に応じて当業者が適宜なし得る設定事項である。 そして、本願発明の特定事項によって良好なめっき層の曲げ加工性を奏するとの本願明細書【0010】記載の効果は、引用例1?4に記載された事項から予測できる範囲のものである。 (3)したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)なお、請求人は、平成23年10月24日付け意見書において、引用例2?4の記載内容から1.0mm以上のスパングルサイズを選択することに合理的な理由はないので、引用発明においてスパングルサイズ平均値を1.0mm以上に特定することは容易に想到し得た事項ではない旨主張する。 しかし、上記(2)で述べたように、溶融めっき工程において冷却速度が大きい場合めっき層の曲げ加工性が低下すること、冷却速度とスパングルサイズとは相反する傾向にあることが引用例2?4に記載されており、スパングルサイズを適正な範囲にすることにより曲げ加工性を優れたものとすることも引用例3に示唆されている。また、引用例4には平均スパングル径が1.0mm以上の範囲にあるものが具体的に開示されている。 これらの記載に照らせば、めっき層の曲げ加工性を良好なものとするために、小さい冷却速度の範囲を特定することに代えて、当該冷却速度に対応して形成されるスパングルサイズの範囲を特定することは、容易に想到できた事項であるし、スパングルサイズの範囲につき、下限値の1.0mmを特定することは、試験等により適宜なし得た事項であるというべきである。 他方、本願明細書には、スパングルサイズ平均値を「1.0mm以上」に限定した理由に関して、次の記載がある。 ・「スパングルサイズの平均値が1.0mm未満であると、めっき層を曲げ加工した際、クラックが多数発生し、曲げ加工性が低下する。また、本めっき鋼材の特徴であるスパングル模様が目視で認識できなくなり外観を損なう。尚、より高いレベルの曲げ加工性が要求される場合には、スパングルサイズの平均値を、より好ましくは3.0mm以上とすると良い。」(【0014】) ・「溶融めっき層の冷却凝固までの冷却速度を15℃/sec以下とすることで、スパングルサイズの平均値が1.0mm以上となり、良好な加工性が得られる。これを超える冷却速度とすると、スパングルサイズが微細化し、めっき層の曲げ加工性が低下するばかりでなく、表面外観も損なわれる。」(【0022】) 上記の記載によれば、スパングルサイズ平均値の下限を「1.0mm」とした理由は、曲げ加工性を良好にするというものであって、引用例2?4に記載された理由と実質的に異なるものではない。 そして、スパングルサイズ及び冷却速度に関しては、本願の出願当初明細書において、「スパングルサイズの平均値が0.5mm未満であると、めっき層を曲げ加工した際、クラックが多数発生し、曲げ加工性が低下する。・・・尚、より高いレベルの曲げ加工性が要求される場合には、スパングルサイズの平均値を1.0mm以上、より好ましくは3.0mm以上とすると良い。」(【0014】)、「溶融めっき層の冷却凝固までの冷却速度を20℃/sec以下とすることで、スパングルサイズの平均値が0.5mm以上となり、良好な加工性が得られる。」(【0022】)と記載されていた。 以上の点に照らせば、本願発明の「1.0mm以上」の技術的意義は、曲げ加工性とスパングルサイズ及び冷却速度との関係から予想できるものであって、「1.0mm」の数値に臨界的意義があるとは認められないから、本願発明の「1.0mm以上」としたことによる作用効果は、引用例2?4の記載から予測を超える格別のものともいえない。 よって、請求人の主張は、上記(3)の判断を左右するものではない。 7 まとめ 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-12-06 |
結審通知日 | 2011-12-13 |
審決日 | 2011-12-28 |
出願番号 | 特願2004-74913(P2004-74913) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 祢屋 健太郎、市川 篤 |
特許庁審判長 |
北村 明弘 |
特許庁審判官 |
田村 耕作 川端 修 |
発明の名称 | 曲げ加工性に優れる溶融Zn-Al系合金めっき鋼材及びその製造方法 |
代理人 | 椎名 彊 |