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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1252767
審判番号 不服2009-17484  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-17 
確定日 2012-02-24 
事件の表示 平成11年特許願第 39556号「マグネットロール及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月 8日出願公開,特開2000-243620〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成11年2月18日の出願であって,平成20年6月16日付けで拒絶理由が通知され,同年8月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成21年6月12日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年9月17日に審判の請求がされるとともに,同日付けで手続補正書が提出され,その後,当審において平成23年6月15日付けで審尋がなされ,同年8月17日に回答書が提出されたものである。

2 本願発明
(1)手続補正
平成21年9月17日付け手続補正書による補正は,実質的に,特許請求の範囲に関して,補正前の請求項5を削除し,更に補正前の請求項5の削除に伴い補正前の請求項6,7の項番を繰り上げる補正であり,また,特許請求の範囲の補正に対応して,発明の詳細な説明の記載を補正するものであるから,特許法第17条の2第3項及び第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項及び第4項)の規定に適合し,適法になされたものである。

(2)請求項1に係る発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年9月17日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】 フェライト磁性粉とバインダー樹脂とからなる,外周面に複数の磁極を形成した円筒状又は円柱状のフェライト樹脂磁石体からなるマグネットロールにおいて,前記円筒状又は円柱状のフェライト樹脂磁石体の外周面の長さ方向に設けた凹溝に,希土類合金磁性粉とバインダー樹脂としてエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂とを押出成形して得られる希土類樹脂磁石体を固着したことを特徴とするマグネットロール。」

3 引用例の記載と引用発明
(1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平3-8305号公報(以下「引用例1」という。)には,「マグネットロールおよびその製造方法」(発明の名称)に関して,第1図とともに,次の記載がある(下線は当審で付加したもの。以下同様。)。
「(発明の実施例)
平均粒径1.0μmのフェライト粉末89重量部,ナイロン樹脂11重量部との混合物を用いて,外径20mm,軸径6mm,長さ320mmの円筒プラスチック磁石1を成形し,その表面に,幅5mm,深さ6mmの凹溝1個を長手方向に形成した。
別に,平均粒径100μmのNd-Fe-B合金粉末94重量部,ナイロン樹脂6重量部との混合物を用いて,幅5mm,厚み6mm,長さ320mmの板状プラスチック磁石を主極片2として成形した。
ついで,円筒プラスチック磁石の凹溝に主極片を嵌め込んで固定し,表面の仕上げ加工を施し,第1図に示したように4極の着磁極を形成して本発明のマグネットロールを得た。」(3ページ右上欄16行?同ページ左下欄9行)

(2)引用発明
引用例1の発明の実施例に注目すると,引用例1には,次の構造を有するマグネットロールが開示されている(以下,引用例1に開示された発明を「引用発明」という。)。
「フェライト粉末,ナイロン樹脂との混合物を用いて,円筒プラスチック磁石を成形し,その表面に,凹溝1個を長手方向に形成し,別に,Nd-Fe-B合金粉末,ナイロン樹脂との混合物を用いて,板状プラスチック磁石を主極片として成形し,ついで,円筒プラスチック磁石の凹溝に主極片を嵌め込んで固定し,4極の着磁極を形成したマグネットロール。」

(3)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-223625号公報(以下「引用例2」という。)には,「ボンド磁石用組成物及び該組成物を用いたマグネットローラ」(発明の名称)に関して,図1とともに,次の記載がある。
「【0010】以下,本発明につき更に詳しく説明する。本発明のボンド磁石用組成物は,上述のように,バインダーとして変性ポリオレフィンを含有するものを用い,これに磁性粉を混合したものであり,また,本発明のマグネットローラは,少なくともそのマグネット本体をこの変性ポリオレフィンを含有するバインダーを用いたボンド磁石用組成物で成形したものである。」
「【0012】この変性ポリオレフィンは,バインダー成分として本発明ボンド磁石用組成物に用いられるものであり,この場合この変性ポリオレフィンのみでバインダー成分を構成するようにすることもできるが,通常は他の熱可塑性樹脂と混合してバインダー成分とすることが好ましく,特に他の熱可塑性樹脂を主材とし,この変性ポリオレフィンを添加剤的に用いることが好ましい。この場合,他の熱可塑性樹脂としては,ボンド磁石組成物にバインダーとして通常用いられている樹脂を使用することができ,具体的にはナイロン6,ナイロン12等のポリアミド樹脂,エポキシ樹脂,ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリスチレン,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリフェニレンサルファイド(PPS),エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA),エチレン-エチルアクリレート(EEA),エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)など,種々の熱可塑性樹脂を単独で又は2以上を組み合わせて用いることができるが,本発明においては特に高結晶化ポリプロピレン,より具体的には結晶化度60?85%,特に65?80%のポリプロピレンが好ましく用いられる。・・・」

4 本願発明と引用発明との対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係
ア 引用発明の「フェライト粉末」,「ナイロン樹脂」,「Nd-Fe-B合金粉末」は,それぞれ,本願発明の「フェライト磁性粉」,「バインダー樹脂」,「希土類合金磁性粉」に相当する。
イ 引用発明の「フェライト粉末,ナイロン樹脂との混合物を用い」たことは,本願発明の「フェライト磁性粉とバインダー樹脂とからなる」ことに相当する。
ウ 引用発明の「4極の着磁極を形成した」ことは,本願発明の「外周面に複数の磁極を形成した」ことに相当する。
エ 引用発明の「円筒プラスチック磁石」は,フェライト粉末,ナイロン樹脂との混合物を用いて成形されているので,本願発明の「円筒状又は円柱状のフェライト樹脂磁石体」に相当する。
オ 引用発明の「円筒プラスチック磁石を成形し,その表面に,」「長手方向に形成し」た「凹溝」は,本願発明の「円筒状又は円柱状のフェライト樹脂磁石体の外周面の長さ方向に設けた凹溝」に相当する。
カ 引用発明の「Nd-Fe-B合金粉末,ナイロン樹脂との混合物を用いて,」「主極片として成形し」た「板状プラスチック磁石」は,本願発明の「希土類合金磁性粉とバインダー樹脂」「とを」「成形して得られる希土類樹脂磁石体」に相当する。
キ 引用発明の「凹溝に主極片を嵌め込んで固定し」たことは,本願発明の「凹溝に,」「希土類樹脂磁石体を固着した」ことに相当する。

(2)一致点及び相違点
上記(1)の対応関係によれば,本願発明と引用発明とは,
「フェライト磁性粉とバインダー樹脂とからなる,外周面に複数の磁極を形成した円筒状又は円柱状のフェライト樹脂磁石体からなるマグネットロールにおいて,前記円筒状又は円柱状のフェライト樹脂磁石体の外周面の長さ方向に設けた凹溝に,希土類合金磁性粉とバインダー樹脂とを成形して得られる希土類樹脂磁石体を固着したことを特徴とするマグネットロール。」
である点で一致し,次の点で相違する。

《相違点1》
本願発明は,希土類合金磁性粉のバインダー樹脂が「エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂」であるのに対して,引用発明は,ナイロン樹脂である点。
《相違点2》
本願発明は,希土類合金磁性粉とバインダー樹脂とを「押出成形」しているのに対して,引用発明は,成形方法が特定されていない点。

5 相違点についての検討
(1)マグネットロールに関する周知技術
上記相違点1,2を検討するにあたり,まず,本願の出願当時のマグネットロールに関する周知技術について確認する。
本願の出願当時の周知技術又は当業者の技術常識を開示する周知例としては,例えば,以下のものがある。

・周知例1:特開平10-270235号公報
原審の拒絶査定時に提示された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-270235号公報(以下「周知例1」という。)には,「プラスチックマグネット用組成物,その組成物より成るプラスチックマグネット,並びにその製造方法」(発明の名称)に関して,図1?4とともに,次の記載がある。
「【要約】
【課題】 寸法精度が高く,高磁力の得られるプラスチックマグネットを提供することを目的とする。
【解決手段】 エチレンエチルアクリレート共重体の粉体と磁性粉の混合物を押し出し成形機のシリンダ1に供給し,これを配向ダイ3を通して押し出してローラ状のプラスチックマグネットを製造する。」
「【請求項1】 エチレンエチルアクリレート共重合体を100重量%としてエチルアクリレート含量が20?40重量%であるエチレンエチルアクリレート共重合体からなるバインダーと,組成物全体を100重量%として90重量%以上の磁性粉から成るプラスチックマグネット用組成物。」
「【請求項5】 エチレンエチルアクリレート共重合体を100重量%としてエチルアクリレート含量が20?40重量%であるエチレンエチルアクリレート共重合体の粉体と,プラスチックマグネット全体を100重量%として90重量%以上の磁性粉からなる混合物あるいは混練物を磁場中押し出し成形することを特徴とするプラスチックマグネットの製造方法。」
「【0004】磁場中射出成形では溶融した樹脂材料に磁場を印加して配向を行った後,磁性粉の向きが保持される程度の粘度となるまで金型内で冷却を行うため,磁気特性は特に高い。一方,磁場中押し出し成形では,磁性粉の配向が乱れてしまう程度の粘度のまま押し出し成形機の出口であるダイからマグネットを押し出してしまうために,磁気特性が射出成形に比べて低くなるのが一般的である。しかしながら射出成形に比べると,押し出し成形には,(1)連続成形のためマグネット1個あたりの加工時間が短いことや,(2)金型(ダイ)の費用が安く,金型構造が簡単でかつ小型である等の利点があり,これらの利点を活かすために磁気特性の向上が課題となっている。」
「【0023】
【作用】請求項1に記載の発明によると,その組成物のバインダーは結晶化度が20%以下のエラストマーであり広い温度範囲での柔軟性があるため,組成物全体を100重量%として,磁性粉を90重量%以上含んでいても,かかる組成物を材料としてプラスチックマグネットを製造すると,その成形時にプラスチックマグネットにクラックや表面の荒れは発生せず,磁力の大きいプラスチックマグネットを得ることが可能となる。また,エチレンエチルアクリレート共重合体は低温でも強い衝撃強度を持ち,高温での含水率が小さいため,磁性粉を90重量%以上含み磁力が大きくても,環境変動下でもクラックを発生しないプラスチックマグネットを得ることが可能となる。
【0024】また,請求項1に記載の組成物を材料としてプラスチックマグネットを成形すると,そのバインダーは結晶化度が20%以下のエラストマーであるため,その成形を押し出し成形によって行うときも,その成形時に配向ダイから出てきた直後でもマグネット材料の粘度は大きいので,マグネットの変形,磁性粉の配向の乱れを小さくすることが可能となる。さらに,この組成物は融点付近でも充分な柔軟性を持つため,配向ダイ内で材料が固まることなく融点近くの温度で磁場中押し出し成形を行うことができる。融点近くの温度で成形できれば,配向ダイから出てきた成形品を迅速に融点以下まで冷え固まらせることができるので,成形品の変形や磁性粉の配向の乱れが生じるのを一層防ぐことができる。」
「【0034】実施例:マグネット材料の磁性粉として異方性ストロンチウムフェライト(戸田工業株式会社製FH801)945部(重量部)を用意した。バインダーとしては,エチレンエチルアクリレート100重量%としてエチルアクリレート含量が35%であるエチレンエチルアクリレート共重合体(以降EEAと表記)(三井デュポンポリケミカル株式会社製A-709)100重量部を用意した。また,滑剤としてポリプロピレン系ワックス(三井石油化学工業株式会社製NP055)5部を用意した。
【0035】磁性粉はバリウムフェライト,希土類金属間化合物等でも構わない。バインダーは,エチレンエチルアクリレート共重合体を100重量%としてエチルアクリレート含量が20?40重量%であるエチレンエチルアクリレート共重合体なら実施例以外のものでも構わない。滑剤は,ポリプロピレン系ワックスなら実施例以外のものでも構わないし,添加量も本実施例に限定されない。この他,酸化防止剤,可塑剤等の添加剤を加えても構わない。
【0036】これらの材料を混合機で混合したものを一軸混練機に投入し,その混練機のシリンダの温度を180℃とし,これによって材料を加熱溶融混練し,この混練機から出てきた材料を造粒機で4mmほどのペレットにした。このペレットを,図1に示した配向ダイ3を有する一軸押し出し成形機のシリンダ1に投入し,170℃で磁場中押し出し成形を行い,直径15mm,内径8mmのプラスチックマグネットを作製した。その後,この円筒形のプラスチックマグネットを長さ300mmになるよう切断し,プラスチックマグネット11を得た。そして,このプラスチックマグネット11内に芯金12を圧入し,マグネットローラ10とした。」
「【0051】請求項3に記載の発明によれば,プラスチックマグネットを押し出し成形により成形するときも,粉体のエチレンエチルアクリレート共重合体を磁性粉と混合あるいは混練することにより,押し出し方向で磁力・形状の変動が小さく,磁力の大きなプラスチックマグネットを得ることができる。」

・周知例2:特開平2-222110号公報
原審の拒絶査定時に提示された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平2-222110号公報(以下「周知例2」という。)には,「マグネットロール」(発明の名称)に関して,第1図とともに,次の記載がある。
「第1図に示す第1実施例において,8は本体であり,従来同様に例えば等方性の焼結フェライト磁石材料により中空円筒状に形成すると共に,外周面に複数個の磁極(図示せず)を設ける。次に8aは溝であり,本体8に設けた特定の磁極,例えばN極の位置に穿設する。9は磁石片であり横断面輪郭を凹字形に形成し,凹部9aを設け,前記溝8a内に,例えばエポキシ樹脂のような接着剤を介して固着する。なお磁石片9を形成するには,まずNd_(12.5)Fe_(79)B_(6.5)Al_(2)の組成の母合金をアーク溶解により作製し,この母合金を大気圧,Arガス雰囲気とした石英ノズル中において高周波溶解して,周速30m/秒の条件で単ロール法により,幅5mm,厚さ約30μmの薄帯に形成する。次にこの薄帯を真空炉中にて650℃×lhrの熱処理後,Arガス吹付けにより急冷後,30メツシュ以下に粉砕して磁性粉を作製する。
この磁性粉90重量部とエチレン-エチルアクリレート共重合体10重量部とを混練して押出成形により,磁石片9とするものである。」(4ページ右上欄末行?同ページ左下欄19行)

・周知例3:特開平2-226702号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平2-226702号公報(以下「周知例3」という。)には,「マグネットロール」(発明の名称)に関して,第1図とともに,次の記載がある。
「〔実施例〕
第1図は本発明の実施例を示す要部側面図であり,同一部分は前記第3図と同一の参照符号で示す。第1図において3は本体であり,フェライト系ボンド磁石材料からなる磁石ブロック1a?1eを軸2の外周に固着して形成する。N,Sは磁極を表し,矢印は異方性化の方向を示している。次に4は磁石片であり,横断面輪郭を略正方形に形成し,本体3の現像磁極となるべき例えばN極部に例えばエポキシ系の接着剤(図示せず)を介して固着する。なお磁石片4の形成に際しては,まずNd_(12.5)Fe_(79)B_(6.5)Al_(2)の組成の母合金をアーク溶解により作製し,この母合金を大気圧,Arガス雰囲気とした石英ノズル中において高周波溶解して,周速30m/秒の条件で単ロール法により,幅5mm,厚さ約30μmの薄帯に形成する。次にこの薄帯を真空炉中にて650℃×1hrの熱処理後,Arガス吹付けにより急冷後,30メッシュ以下に粉砕して磁性粉を作製する。この磁性粉90重量部とエチレン-エチルアクリレート共重合体10重量部とを混練して押出成形により磁石片4とするものである。」(4ページ左上欄4行?同ページ右上欄5行)

・周知例4:特開平10-50510号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-50510号公報(以下「周知例4」という。)には,「円筒状樹脂磁石」(発明の名称)に関して,図1及び図4とともに,次の記載がある。
「【要約】
【課題】 高磁力の円筒状樹脂磁石を提供する。
【解決手段】 強磁性粒子と熱可塑性樹脂を含む原料混合物を磁場中で押出し成形することにより得られた円筒状成形体の表面に複数個の磁極を有する円筒状樹脂磁石において,前記混合物は磁気異方性を有する強磁性粒子90?93重量%と,エチレン-エチルアクリレート共重合体4?10重量%と,シリコーンオイル0.2?1.0重量%を含有する。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,例えば,電子写真や静電記録等において現像ロール用として使用されるマグネットロールを構成する円筒状樹脂磁石に関する。」
「【0010】樹脂成分としては,細長い円筒体を押出成形するために,エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)を用いる。・・・」

・周知例5:特開平9-306768号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-306768号公報(以下「周知例5」という。)には,「円筒状樹脂磁石の製造方法」(発明の名称)に関して,図1及び図5とともに,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,電子写真や静電記録等において現像ロール用として使用されるマグネットロールを構成する円筒状樹脂磁石の製造方法に関する。」
「【0010】樹脂成分としては,ポリエチレン,塩化ビニール,エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA),エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA),ポリアセタール(デルリン),ABS樹脂等の熱可塑性樹脂を用い得る。これらの内では,細長いものを押出成形することを考慮すると,EEAが好適である。」
「【0017】
【実施例】次に本発明を次の実施例及び比較例により更に具体的に説明する。まず平均粒径1μmのSrフェライト粒子93重量部と,エチレン-エチルアクリレート共重合体(日本ユニカ-社製MB-870)5重量部と,分散剤(アデカアーガス社製DH-37)1重量部,滑剤(日本化成社製スリパックスE)0.5重量部とをミキサーで混合し,得られた混合物を150℃で加熱混練し,冷却固化後直径5mm以下の粒子に粉砕し,シリコーンオイル0.5重量部(信越化学工業社製KF968)を添加した後150℃の温度で造粒する。なお混練と造粒は二軸混練押出機で行った。このように調整された原料を図1に示す成形装置に投入し,150?200℃の温度で混練しながら金型から押出し,所定長さに切断し,中心部に軸を固着した後非対称5極の着磁を施して図5に示す永久磁石部材が得られる。この永久磁石部材は外径16.5mm,長さ220mmの円筒状永久磁石の中心部に外径5mmの軸(SUM材)を固着したものである。上記押出成形時においては,第1の磁場発手段により70KOeの平行磁場を印加した後第2の磁場発生手段により40K0eの極異方性を有する磁場を印加することにより,永久磁石のN_(1)極の表面磁束密度は1600Gであり,他の磁極の表面磁束密度は1400Gであった。これに対して第2の磁場発生手段のみで異方性化処理した場合は,N_(1)極の表面磁束密度は1400Gであった。」

・周知例6:特開平6-168836号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-168836号公報(以下「周知例6」という。)には,「永久磁石部材の製造方法」(発明の名称)に関して,図1?3とともに,次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子写真や静電記録等において現像ロール用若しくはクリーニングロール用として使用されるマグネットロールを構成する永久磁石部材の製造方法に関するものである。」
「【0017】次に例えばストロンチウムフェライトからなる磁性粒子90重量部とエチレン-エチルアクリレート共重合体10重量部とを200?300℃で加熱混練した後,例えば2軸混練型押出成形機のホッパーに投入し,混練スクリューにより混練圧縮し,シュレッダを経て切断した混合材料を真空室において脱気する。この混合材料を図1に示す押出シリンダ11およびスクリュー12により,200?300℃の温度で押出成形用金型15から押し出して,中空円筒状かつ長尺の素材19を得る。得られた素材19は直ちに所定の長さに切断され,加熱状態においてシャフト(図示せず,図3における符号2参照)を挿入し,素材19の熱収縮によりシャフトを抱持固着させる。」

・周知例7:特開平10-256069号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-256069号公報(以下「周知例7」という。)には,「マグネットロールの製造方法」(発明の名称)に関して,図1とともに,次の記載がある。
「【要約】
【課題】 複雑な設備が必要なく,厳しい成形品精度も要求せずかつ確実に挿入でき,耐トルク性も高いマグネットロールの製造方法を提供する。
【解決手段】 マグネットロール材10を高分子化合物からなるバインダーとフェライトから形成し,芯金挿入孔13の直径は挿入する芯金11の径よりも小さく形成する。芯金挿入孔13の内径には高精度を必要としない。バインダーは耐ヒートショック性を重視するとエラストマー樹脂,高い磁束密度が必要な場合はエチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)が好ましい。マグネットロール材10に芯金11を挿入するには,マグネットロール材10を固定具12,12間に挟み,芯金挿入孔13の片側から十分な挿入力をもって芯金11を圧入して行き,所定の位置まで挿入して完了する。これだけで充分な耐トルク性を確保できる。」
「【0003】・・・押出成形においては,シャフト一体型成形よりも磁束密度の軸方向偏差の小さいパイプ形状のマグネットロール成形が行われることが多い。」

(2)相違点1,2について
ア マグネットロールの製造において,磁性粉にバインダとしてエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂を用いて押出成形することは,上記周知例1?7にも示されるように周知技術である。
特に,周知例2,3では,凹溝に設ける希土類樹脂磁石体の製造において,希土類合金磁性粉にバインダとしてエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂を用いて押出成形している。
イ さらに,周知例1には「【0051】請求項3に記載の発明によれば,プラスチックマグネットを押し出し成形により成形するときも,粉体のエチレンエチルアクリレート共重合体を磁性粉と混合あるいは混練することにより,押し出し方向で磁力・形状の変動が小さく,磁力の大きなプラスチックマグネットを得ることができる。」,周知例7には「【解決手段】・・・高い磁束密度が必要な場合はエチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)が好ましい。・・・」,「【0003】・・・押出成形においては,シャフト一体型成形よりも磁束密度の軸方向偏差の小さいパイプ形状のマグネットロール成形が行われることが多い。」と記載されている。ここで,「押し出し方向で磁力・形状の変動が小さく」及び「磁束密度の軸方向偏差の小さい」とは,軸方向でのリップル値が小さいことを意味していると解される。
すなわち,周知例1,7には,マグネットロールの製造において,磁性粉にバインダとしてエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂を用い押出成形すると,リップル値が小さくなることが示唆されている。
ウ 周知例4には「【0010】樹脂成分としては,細長い円筒体を押出成形するために,エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)を用いる。・・・」,周知例5には「【0010】樹脂成分としては,ポリエチレン,塩化ビニール,エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA),エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA),ポリアセタール(デルリン),ABS樹脂等の熱可塑性樹脂を用い得る。これらの内では,細長いものを押出成形することを考慮すると,EEAが好適である。」と記載されている。
すなわち,周知例4,5には,マグネットロールの製造において,細長い円筒体を押出成形するために,バインダー樹脂としてエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂を用いることが好適であることが示唆されている。
エ また,周知例1には「【0004】・・・射出成形に比べると,押し出し成形には,(1)連続成形のためマグネット1個あたりの加工時間が短いことや,(2)金型(ダイ)の費用が安く,金型構造が簡単でかつ小型である等の利点があり」と,押し出し成形におけるメリットが記載されている。
オ 以上の点を考慮すると,引用発明において,バインダー樹脂として引用例2に記載のエチレン-エチルアクリレートを利用するにあたり,上記イ?エの効果を得るために上記周知技術を勘案して,本願発明のように希土類合金磁性粉のバインダー樹脂を「エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂」とし,「押出成形」することは,当業者が適宜なし得たことである。

(3)小活
したがって,本願発明は,引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 結言
以上のとおり,本願発明(請求項1に係る発明)は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-06 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2012-01-04 
出願番号 特願平11-39556
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官
小野田 誠
松田 成正
発明の名称 マグネットロール及びその製造方法  
代理人 伊丹 健次  

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