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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1252952
審判番号 不服2010-8473  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-21 
確定日 2012-02-29 
事件の表示 特願2005-122032「データ転送方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月 4日出願公開、特開2005-310155〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年4月20日(パリ条約による優先権主張2004年4月22日、台湾)に出願したものであって、平成20年2月7日付けの拒絶の理由の通知に対して、同年6月12日付けで手続補正がなされ、その後、平成21年4月24日付けの拒絶の理由の通知に対して、同年7月7日付けで意見書が提出されたが、平成22年1月18日付けで拒絶をすべき査定がされ、これに対し同年4月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされたので、当審において、平成23年5月24日付けで拒絶理由を通知したところ、同年8月19日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年6月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
差動信号データ伝送システムによりデータを転送する方法であって、
第1の対の差動入力信号を選択し、第1のデータビットを生成するとともに、前記第1の対の差動入力信号に基づく第1のDC電圧レベルを第1の差動出力信号とするステップと、
第2の対の差動入力信号を選択し、第2のデータビットを生成するとともに、前記第2の対の差動入力信号に基づく第2のDC電圧レベルを第2の差動出力信号とするステップと、
前記第1の差動出力信号および前記第2の差動出力信号を第3の対の差動入力信号として、前記第3の対の差動入力信号に応じて第3のデータビットを生成するステップと
を含む、差動信号データ伝送システムによりデータを転送する方法。」

3.引用例に記載された発明
これに対して,当審による拒絶の理由に引用された、特開2002-204272号公報、平成14年7月19日公開(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

A.「【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、MPU(Micro Processing Unit )やメモリなどの高速化に伴い、近年、バスのデータ転送速度を高速化する要求が高まってきている。そして、これに伴って電磁放射ノイズや消費電力の増大が顕著となってきている関係上、一般的にはシリアル線路に用いられていた差動信号伝送技術(低ノイズ・低消費電力が特徴である)をパラレル線路に適用することも提案されている。
【0008】しかしながら、上記特開平7-240757号に開示される従来技術をそのままパラレル差動線路に拡張すると、回路構成が複雑であることから、ピン数および回路規模の増大を避けることができない。すなわち、上記従来技術で単純にパラレル差動線路を実現すると、一対の差動線路あたり、周波数選択性終端装置2ピン×2・二次送受信装置3ピン×2・同相ノイズ除去フィルタ群の追加が最低必要になる。
【0009】また、シングルエンド信号伝送の同相ノイズを上記同相ノイズ除去フィルタ群で除去する手法も、差動線路が信号用グランドでシールドされている場合のみ有効である。すなわち、差動線路が信号用グランドでシールドできない場合、上記従来技術では同相ノイズ除去フィルタ群を用いることができないため、シングルエンド信号伝送の同相ノイズを排除することができない。
【0010】本発明は、上記従来の事情に基づいて提案されたものであって、簡単な回路構成で実現でき、かつ、シングルエンド信号伝送の同相ノイズを排除できるようにした信号伝送装置およびシステムを提供する。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために以下の手段を採用している。すなわち、本発明は、図1に示すように、2本で一対の信号線100を介して差動信号とシングルエンド信号とを伝送する信号伝送装置102において、上記一対の信号線100のそれぞれの終端抵抗118・120の中間電位点P1に接続されたシングルエンド送受信回路124を備えたことを特徴とする。
【0012】以上のように、本発明では、シングルエンド送受信回路の端子を1端子のみとし、この端子を一対の信号線の終端抵抗の中間電位点に連結することにより、この一対の信号線を介して差動信号とシングルエンド信号とを伝送するようになっている。すなわち、本発明によれば、シングルエンド信号送信回路が1つで済むため、装置全体のピン数を削減できる結果、LSI全体の小型化を図ることができる。
【0013】また、図2に示すように、2対の信号線200・201を備えるとともに、上記シングルエンド送受信回路を相互に逆相となした構成(すなわち、シングルエンド信号についても差動信号伝送技術を適用した構成)を採用してもよい。このようにすれば、差動線路がグランドでシールドされていることの有無に依存することなく二対の信号線に共通して混入する同相ノイズを排除できる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に従って詳細に説明する。
(実施の形態1)図1は、本発明を適用した信号伝送システムの構成図であり、この信号伝送システムは、抵抗118・120・119・121で終端された一対の信号線100の一方端に信号伝送装置102を接続するとともに、この信号線100の他方端に信号伝送装置103を接続してなる。
【0015】ここで、上記信号伝送装置102(103)は、以下に説明する差動送受信回路122(123)とシングルエンド送受信回路124(125)とで構成されている。
【0016】すなわち、差動送受信回路122(123)は、差動信号を送受信する一対の差動端子対104・106(105・107)と、差動信号を送信する差動信号送信回路108(109)と、差動信号を受信する差動信号受信回路110(111)とからなる。また、シングルエンド送受信回路124(125)は、シングルエンド信号を送受信するシングルエンド端子112(113)と、シングルエンド信号を送信するシングルエンド信号送信回路114(115)と、シングルエンド信号を受信するシングルエンド信号受信回路116(117)とからなる。
【0017】ここで、上記差動信号送信回路108(109)と上記差動信号受信回路110(111)とは上記差動端子対104・106(105・107)に接続されており、この差動端子104・106(105・107)は、一般的な差動伝送と同様、上記一対の信号線100の一方端(他方端)に連結しておく。また、上記シングルエンド信号送信回路114(115)と上記シングルエンド信号受信回路116(117)とは上記シングルエンド端子112(113)に接続されており、このシングルエンド端子112(113)は、上記一対の信号線100の終端抵抗118・120(119・121)の中間電位点P1(P2)に連結しておく。
【0018】すなわち、本発明では、差動信号の中間電位点にシングルエンド信号を印加することによって、差動信号の並列終端抵抗をシングルエンド信号の直列終端抵抗と兼用するようにしている。これによって、完全にインピーダンスが整合されるわけではないが、信号反射を低減する効果はあるため、上記従来のような周波数選択性終端装置が不要となる。
【0019】以下、上記信号伝送システムが差動信号とシングルエンド信号とを同時に伝送する様子を図7に示す信号波形を用いて説明する。なお、以下の説明は、信号伝送装置102の差動信号送信回路108から信号伝送装置103の差動信号受信回路111へ差動信号が伝送され、それと独立に、信号伝送装置103のシングルエンド信号送信回路115から信号伝送装置102のシングルエンド信号受信回路116へシングルエンド信号が伝送されている場面を想定している。
【0020】まず、上記したようにシングルエンド端子113は一対の信号線100の終端抵抗119・121の中間電位点P2に連結されているため、このシングルエンド端子113から送信されるシングルエンド信号705(図7(d)参照)は差動信号の中間電位をスイングさせることになる。すなわち、差動信号送信回路108から送信される差動信号送信波形700・701、及び、差動信号受信回路111で受信される差動信号受信波形702・703の中間電位は、図7(a)及び(b)に示すように、上記シングルエンド信号705の変位に追従するようにスイングする(なお、上記差動信号送信波形700と701、及び、上記差動信号受信波形702と703とは相互に逆相である)。
【0021】このように差動信号とシングルエンド信号とが重畳して伝送される一方で、差動信号受信回路111は、上記重畳された差動信号受信波形702・703の差を抽出し、図7(c)に示すように差動信号704を復元する。
【0022】また、信号線100の終端抵抗118・120の中間電位点P1に連結されたシングルエンド信号受信回路116は、図7(e)に示すように、上記重畳された差動信号受信波形702・703の中間電位の変位706を観測し、この観測結果と内部のリファレンス電位Vrefとを比較することでシングルエンド信号を復元する。
【0023】以上のように、本実施の形態では、シングルエンド送受信回路の端子を1端子のみとし、この端子を一対の信号線の終端抵抗の中間電位点に連結することにより、この一対の信号線を介して差動信号とシングルエンド信号とを伝送するようになっている。すなわち、本実施の形態によれば、シングルエンド信号送信回路が1つで済むため、装置全体のピン数を削減できる結果、LSI全体の小型化を図ることができる。
【0024】なお、上記の説明では、差動信号とシングルエンド信号の両方が双方向に伝送される場面を想定しているため、差動送受信回路およびシングルエンド送受信回路が共に送信回路と受信回路の両方を備える構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、差動信号とシングルエンド信号とがそれぞれ単方向に伝送できればよい場面なら、各々のチャネル(図1中、破線で囲んだ部分が1チャネルに相当する)で送信側は送信回路のみ、また受信側は受信回路のみ備える構成であればよい。
【0025】また、上記の説明では、各抵抗118・120・119・121の抵抗値について特に言及していないが、これら抵抗値は、一対の信号線100の差動インピーダンスをZdとするとR=Zd/2の値とするのが好ましい。このようにすればインピーダンスが整合されて信号の反射を抑えることができるからである。
【0026】更に、上記差動信号送信回路108(109)および上記差動信号受信回路110(111)には特別なものを用いる必要はなく、通常の差動ドライバおよび差動レシーバを用いればよい。
【0027】同じく、上記シングルエンド信号送信回路114(115)および上記シングルエンド信号受信回路116(117)にも特別なものを用いる必要はなく、通常のプッシュプルタイプのCMOSドライバおよび差動レシーバを用いればよい。
(実施の形態2)以下、図2を用いて、本実施の形態における信号伝送システムの構成を上記実施の形態1と異なる点のみ説明する。
【0028】まず、この信号伝送システムは、二対の信号線200・201の一方端に信号伝送装置202を接続するとともに、これら信号線200・201の他方端に信号伝送装置203を接続してなる。なお、上記二対の信号線200・201は、それぞれ抵抗230?233・234?237で終端されている。
【0029】ここで、上記信号伝送装置202(203)は、以下に説明する第1の差動送受信回路238(239)と第2の差動送受信回路240(241)とシングルエンド送受信回路242(243)とで構成されている。
【0030】すなわち、第1の差動送受信回路238(239)は、差動信号を送受信する一対の第1の差動端子対204・206(205・207)と、差動信号を送信する第1の差動信号送信回路208(209)と、差動信号を受信する第1の差動信号受信回路210(211)とからなる。同じく、第2の差動送受信回路240(241)は、差動信号を送受信する一対の第2の差動端子対212・214(213・215)と、差動信号を送信する第2の差動信号送信回路216(217)と、差動信号を受信する第2の差動信号受信回路218(219)とからなる。
【0031】また、シングルエンド送受信回路242(243)は、正相のシングルエンド信号を送受信する第1のシングルエンド端子220(221)と、逆相のシングルエンド信号を送受信する第2のシングルエンド端子222(223)と、正相のシングルエンド信号を送信する正相シングルエンド信号送信回路224(225)と、逆相のシングルエンド信号を送信する逆相シングルエンド信号送信回路226(227)と、正相および逆相のシングルエンド信号の差分信号を受信する差分信号受信回路228(229)とからなる。なお、逆相のシングルエンド信号とは、正相のシングルエンド信号の論理が反転した信号をいう。
【0032】ここで、上記第1の差動信号送信回路208(209)と上記第1の差動信号受信回路210(211)とは上記第1の差動端子対204・206(213・215)に接続されており、この第1の差動端子対204・206(213・215)は、一般的な差動伝送と同様、上記一対の信号線200の一方端(他方端)に連結しておく。同じく、上記第2の差動信号送信回路216(217)と上記第2の差動信号受信回路218(219)とは上記第2の差動端子対212・214(213・215)に接続されており、この第2の差動端子対212・214(213・215)は、一般的な差動伝送と同様、上記一対の信号線201の一方端(他方端)に連結しておく。
【0033】また、上記正相シングルエンド信号送信回路224(225)は上記第1のシングルエンド端子220(221)に接続され、上記逆相シングルエンド信号送信回路226(227)は上記第2のシングルエンド端子222(223)に接続され、上記差分信号受信回路228(229)は上記第1のシングルエンド端子220(221)と上記第2のシングルエンド端子222(223)の両方に接続されている。そして、この第1のシングルエンド端子220(221)は、上記一対の信号線200の終端抵抗230・232(231・233)の中間電位点P3(P4)に連結し、第2のシングルエンド端子222(223)は、上記一対の信号線201の終端抵抗234・236(235・237)の中間電位点P5(P6)に連結しておく。
【0034】以上のように、本実施の形態では、二対の信号線を介して差動信号とシングルエンド信号の差分信号とを伝送する構成を採用している。すなわち、シングルエンド信号についても差動信号伝送技術を適用するようにしたので、差動線路がグランドでシールドされていることの有無に依存することなく二対の信号線に共通して混入する同相ノイズを排除できる。
【0035】また、シングルエンド信号を差分で受信するようにしているため、受信感度のマージンも大きくなり、よりノイズ耐性を強くできるという効果もある。
(実施の形態3)以下、図3を用いて、本実施の形態における信号伝送システムの構成を上記実施の形態1と異なる点のみ説明する。」(段落【0007】-【0035】)

以上の記載によれば、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「第1の差動送受信回路238(239)は、差動信号を送受信する一対の第1の差動端子対204・206(205・207)と、差動信号を送信する第1の差動信号送信回路208(209)と、差動信号を受信する第1の差動信号受信回路210(211)とからなり、
同じく、第2の差動送受信回路240(241)は、差動信号を送受信する一対の第2の差動端子対212・214(213・215)と、差動信号を送信する第2の差動信号送信回路216(217)と、差動信号を受信する第2の差動信号受信回路218(219)とからなり、
シングルエンド送受信回路242(243)は、正相のシングルエンド信号を送受信する第1のシングルエンド端子220(221)と、逆相のシングルエンド信号を送受信する第2のシングルエンド端子222(223)と、正相のシングルエンド信号を送信する正相シングルエンド信号送信回路224(225)と、逆相のシングルエンド信号を送信する逆相シングルエンド信号送信回路226(227)と、正相および逆相のシングルエンド信号の差分信号を受信する差分信号受信回路228(229)とからなり、
逆相のシングルエンド信号とは、正相のシングルエンド信号の論理が反転した信号をいい、
上記第1の差動信号送信回路208(209)と上記第1の差動信号受信回路210(211)とは上記第1の差動端子対204・206(205・207)に接続されており、この第1の差動端子対204・206(205・207)は、一般的な差動伝送と同様、上記一対の信号線200の一方端(他方端)に連結され、
同じく、上記第2の差動信号送信回路216(217)と上記第2の差動信号受信回路218(219)とは上記第2の差動端子対212・214(213・215)に接続されており、この第2の差動端子対212・214(213・215)は、一般的な差動伝送と同様、上記一対の信号線201の一方端(他方端)に連結され、
上記正相シングルエンド信号送信回路224(225)は上記第1のシングルエンド端子220(221)に接続され、上記逆相シングルエンド信号送信回路226(227)は上記第2のシングルエンド端子222(223)に接続され、
上記差分信号受信回路228(229)は上記第1のシングルエンド端子220(221)と上記第2のシングルエンド端子222(223)の両方に接続され、
この第1のシングルエンド端子220(221)は、上記一対の信号線200の終端抵抗230・232(231・233)の中間電位点P3(P4)に連結し、第2のシングルエンド端子222(223)は、上記一対の信号線201の終端抵抗234・236(235・237)の中間電位点P5(P6)に連結されており、
シングルエンド信号は差動信号の中間電位をスイングさせるものである、
二対の信号線を介して差動信号とシングルエンド信号の差分信号とを伝送する構成を採用している信号伝送システム。」

なお、上記摘記A.段落【0032】には「ここで、上記第1の差動信号送信回路208(209)と上記第1の差動信号受信回路210(211)とは上記第1の差動端子対204・206(213・215)に接続されており、この第1の差動端子対204・206(213・215)は、一般的な差動伝送と同様、上記一対の信号線200の一方端(他方端)に連結されており」と記載されているが、引用例の【図2】の記載と比較すると、段落【0032】の記載は「上記第1の差動端子対204・206(205・207)」の誤記であると認められるので、上記の引用発明は、「上記第1の差動端子対204・206(205・207)」であるとして認定した。

4.対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明は、二対の信号線を介して差動信号とシングルエンド信号の差分信号とを伝送する構成を採用している信号伝送システムであるので、引用発明の信号伝送システムは、差動信号データ伝送システムによりデータを転送する方法を実現していると言える。
引用発明の第1の差動送受信回路238(239)は、差動信号を送受信する一対の第1の差動端子対204・206(205・207)と、差動信号を送信する第1の差動信号送信回路208(209)と、差動信号を受信する第1の差動信号受信回路210(211)とからなっているので、信号を伝送する場合に、本願発明における「第1の対の差動入力信号を選択し、第1のデータ」「を生成する」ことに相当する動作が行われることは明らかである。同様に、引用発明の第2の差動送受信回路240(241)は、差動信号を送受信する一対の第2の差動端子対212・214(213・215)と、差動信号を送信する第2の差動信号送信回路216(217)と、差動信号を受信する第2の差動信号受信回路218(219)とからなっているので、信号を伝送する場合に、本願発明における「第2の対の差動入力信号を選択し、第2のデータ」「を生成する」ことに相当する動作が行われることも明らかである。
引用発明は、二対の信号線を介して差動信号とシングルエンド信号の差分信号とを伝送する構成であり、第1のシングルエンド端子220(221)は、一対の信号線200の終端抵抗230・232(231・233)の中間電位点P3(P4)に連結し、第2のシングルエンド端子222(223)は、上記一対の信号線201の終端抵抗234・236(235・237)の中間電位点P5(P6)に連結されているので、引用発明の第1のシングルエンド端子220(221)は、一対の信号線200の差動信号に基づく電圧レベルが生じており、また、第2のシングルエンド端子222(223)は、一対の信号線201の差動信号に基づく電圧レベルが生じていることになる。そのため、引用発明は、本願発明の「第1の対の差動入力信号に基づく第1の」「電圧レベルを第1の差動出力信号とする」ことに相当する動作と、「第2の対の差動入力信号に基づく第2の」「電圧レベルを第2の差動出力信号とする」ことに相当する動作が行われると言える。
また、引用発明のシングルエンド送受信回路242(243)は、正相のシングルエンド信号を送受信する第1のシングルエンド端子220(221)と、逆相のシングルエンド信号を送受信する第2のシングルエンド端子222(223)と、正相のシングルエンド信号を送信する正相シングルエンド信号送信回路224(225)と、逆相のシングルエンド信号を送信する逆相シングルエンド信号送信回路226(227)と、正相および逆相のシングルエンド信号の差分信号を受信する差分信号受信回路228(229)とからなっており、第1のシングルエンド端子220(221)と第2のシングルエンド端子222(223)は、一対の信号線200の差動信号に基づく電圧レベルと一対の信号線200の差動信号に基づく電圧レベルの入力及び出力がなされていることになり、差分信号受信回路228(229)は、第1のシングルエンド端子220(221)と第2のシングルエンド端子222(223)からの電圧による信号を受信していることになる。
そのため、正相および逆相のシングルエンド信号の差分信号を受信する差分信号受信回路228(229)は、本願発明における「前記第1の差動出力信号および前記第2の差動出力信号を第3の対の差動入力信号として、前記第3の対の差動入力信号に応じて第3のデータ」「を生成する」ことに相当する動作を行っていると言える。

よって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。

一致点
「差動信号データ伝送システムによりデータを転送する方法であって、
第1の対の差動入力信号を選択し、第1のデータを生成するとともに、前記第1の対の差動入力信号に基づく第1の電圧レベルを第1の差動出力信号とするステップと、
第2の対の差動入力信号を選択し、第2のデータを生成するとともに、前記第2の対の差動入力信号に基づく第2の電圧レベルを第2の差動出力信号とするステップと、
前記第1の差動出力信号および前記第2の差動出力信号を第3の対の差動入力信号として、前記第3の対の差動入力信号に応じて第3のデータを生成するステップと
を含む、差動信号データ伝送システムによりデータを転送する方法。」

一方、両者は次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、第1の対の差動入力信号に基づく第1のDC電圧レベルを第1の差動出力信号とするステップと、第2の対の差動入力信号に基づく第2のDC電圧レベルを第2の差動出力信号とするステップを有しているのに対し、引用発明は、第1の対の差動入力信号に基づく第1の電圧レベルを第1の差動出力信号とし、第2の対の差動入力信号に基づく第2の電圧レベルを第2の差動出力信号としているが、第1の電圧レベルと第2の電圧レベルが共にDC電圧レベルであることの特定がなされていない点。

(相違点2)
本願発明は、第1の対の差動入力信号を選択し、第1のデータビットを生成し、第2の対の差動入力信号を選択し、第2のデータビットを生成し、第3の対の差動入力信号に応じて第3のデータビットを生成するものであるのに対し、引用発明は、第1、第2、第3のデータを生成するものではあるが、それらのデータがデータビットであることの特定がなされていない点。

5.当審の判断

(相違点1について)
引用発明は、第1のシングルエンド端子220(221)は、一対の信号線200の終端抵抗230・232(231・233)の中間電位点P3(P4)に連結し、第2のシングルエンド端子222(223)は、一対の信号線201の終端抵抗234・236(235・237)の中間電位点P5(P6)に連結されており、また、シングルエンド信号は差動信号の中間電位をスイングさせるものである。
これに対し、本願発明は、差動入力信号に基づく第1と第2のDC電圧レベルを入力とするものであるが、本願の発明の詳細な説明の段落【0017】及び【図2】における電圧レベルP0およびN0とデータビットD0のDC電圧レベルVcom0を参照すると、本願発明で特定されているDC電圧とは、1対の差動入力の平均電位、すなわち中間電位を示すものであると認められ、この電圧をDC電圧レベルとして特定している。そうすると、引用発明では、DC電圧レベルという用語の明示はなされていないが、引用発明における第1と第2の対による正相と逆相のシングルエンド信号としての入力電圧と、本願発明における第1と第2のDC電圧レベルとの間に実質的な差異は認められない。

(相違点2について)
引用発明のような差分信号を伝送する信号伝送システムは、デジタル信号を伝送することは当然想定されているものである。ここで、複数の線路の信号間の差である差動信号を各ビットとして符号化して用い、かつ、線路の数よりも多いビット情報を伝送することを実現することは周知の技術である(特開平4-230147号公報:段落【0007】-【0018】(平成21年4月24日付け拒絶理由通知で引用した文献)、特開平11-234348号公報:段落【0003】-【0007】を参照。)。
したがって、上記の周知技術を引用発明に適用し、二対の信号線を介した差動信号とシングルエンド信号の差分信号による伝送の対象とするデータをデータビットとして、本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

なお、審判請求人は、平成23年8月19日付けの意見書の中で、引用発明は、信号の反射問題を解決しているものでありDCレベルを使ってデジタルデータをコード化する方法を開示するものではないとの主張をしている。 しかしながら、差動信号のDC電圧レベルの利用に関しては、相違点1について検討したとおりであり、また、引用発明は差動信号だけでなくシングルエンド信号も同時に伝送するための簡単な回路を提案するものであり、信号の反射問題の解決、ノイズの除去のみを提案する発明ではないので、審判請求人の主張は採用できない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-28 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-10-17 
出願番号 特願2005-122032(P2005-122032)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 佳弘  
特許庁審判長 大野 克人
特許庁審判官 稲葉 和生
安久 司郎
発明の名称 データ転送方法  
代理人 三澤 正義  

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