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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1252962
審判番号 不服2010-24585  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-01 
確定日 2012-03-01 
事件の表示 特願2001-157454「化粧シート」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月 4日出願公開、特開2002-347185〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成13年5月25日に出願されたもので、平成21年5月29日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した明細書又は図面についての同年8月3日付け手続補正書が提出されたものの、平成22年7月30日付けで、補正却下され、同日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として平成22年11月1日に請求されたもので、上記明細書又は図面についての同日付け手続補正書が提出されている。

2.当審の判断
2-1.平成22年11月1日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、以下に詳述するように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2-1-1.本件補正の内容
本件補正は、以下の補正事項aを有するものと認める。
補正事項a;特許請求の範囲の記載につき、以下(cl)を(CL)と補正する。
(cl);「【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる基材シート上に、熱接着性樹脂層を介して、表面にエンボス模様を有するガラス転移温度が90℃以上、110℃以下である熱可塑性アクリル系樹脂からなる厚さが10?100μmの表面保護シート層を少なくとも具備してなることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記表面保護シート層が、熱可塑性樹脂からなる基材シート上に、熱可塑性樹脂からなる中間シート層と、熱接着性樹脂層とを介して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記熱接着性樹脂層が、アクリル-ポリエステル-塩化酢酸ビニル系樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記中間シート層が、ガラス転移温度が90℃未満の熱可塑性アクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項2または3に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記基材シートが、ランダムポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の化粧シート。」

(CL)「【請求項1】
熱可塑性のランダムポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン樹脂からなる基材シート上に、熱接着性樹脂層を介して、表面にエンボス模様を有するメタクリル酸メチルを主成分とするガラス転移温度が90℃以上、110℃以下である熱可塑性アクリル系樹脂からなる厚さが10?100μmの表面保護シート層を少なくとも具備してなることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記表面保護シート層の厚さが50μmであることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記表面保護シート層が、熱可塑性のランダムポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン樹脂からなる基材シート上に、熱可塑性樹脂からなる中間シート層と、熱接着性樹脂層とを介して設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記熱接着性樹脂層が、アクリル-ポリエステル-塩化酢酸ビニル系樹脂からなることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項5】
前記中間シート層が、ガラス転移温度が90℃未満の熱可塑性アクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項3または4に記載の化粧シート。」

ここ「2-1」では、本件補正前の請求項1を旧【請求項1】といい、本件補正後の請求項1を新【請求項1】という。

2-1-2.本件補正の適否
補正事項aは「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下、「限定的減縮」という。)を目的としたものであるが、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、以下に述べるように、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

1)新【請求項1】に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、新【請求項1】に記載された事項により特定されるもので、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
熱可塑性のランダムポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン樹脂からなる基材シート上に、熱接着性樹脂層を介して、表面にエンボス模様を有するメタクリル酸メチルを主成分とするガラス転移温度が90℃以上、110℃以下である熱可塑性アクリル系樹脂からなる厚さが10?100μmの表面保護シート層を少なくとも具備してなることを特徴とする化粧シート。」

2)本件審判に係る出願前に頒布された刊行物であることが明らかな特開2000-326451号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の記載a?fが認められる。
a;「【特許請求の範囲】
【請求項1】熱可塑性樹脂からなる基材シート上に熱接着性樹脂層を介して熱可塑性樹脂からなる表面樹脂層が積層されてなる化粧シートにおいて、前記熱接着性樹脂層がアクリル-ポリエステル-塩酢ビ系樹脂からなることを特徴とする化粧シート。」
b;「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅等の建築物の内外装材や、造作材、建具等の建築資材、家具什器類、車両内装、住設機器や家電製品等の表面化粧等に使用するための化粧シートに関するものであり、特に、例えば玄関引戸等の耐候性や耐熱性が必要とされる建築部材の表面化粧用として好適な化粧シートに関するものである。」
c;「【0019】ポリオレフィン系樹脂としては上掲したものを始め種々の単独重合体や共重合体が知られているが、中でも化粧シート用基材シートの素材として最も好適なのはポリプロピレン系樹脂、すなわちポリプロピレンを主成分とする単独又は共重合体であり、具体的には、例えばホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂、及び、ポリプロピレン結晶部を有し、且つプロピレン以外の炭素数2?20のα-オレフィン、好ましくはエチレン、ブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1又はオクテン-1、のコモノマーを15モル%以上含有するプロピレン-α-オレフィン共重合体などを例示することができる。」
d;「【0020】また、アクリル系樹脂としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル等のアクリル酸誘導体を主成分として単独又は共重合して得られる各種の熱可塑性樹脂を挙げることができる。中でも、メチルメタクリレート等のメタクリル酸エステルを主成分とする樹脂であって、例えばメタクリル酸ブチル等のメタクリル酸の長鎖アルキルエステルや、アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸又はアクリル酸等から選ばれる単量体を共重合成分として添加したり、スチレン-ブタジエンゴム又はメタクリル酸メチル-ブタジエンゴム等のゴム成分をグラフト共重合、ブロック共重合若しくはブレンドして、柔軟性や熱成形性を改善してなる樹脂などを好適に使用することができる。」
「【0022】なお、基材シート1を構成する熱可塑性樹脂と、表面樹脂層4を構成する熱可塑性樹脂とは、同一であっても良いし、異なっていても良い。例えば、基材シート1を比較的安価で加工性の良いポリオレフィン系樹脂から構成しつつ、表面樹脂層4をアクリル系樹脂から構成して耐候性を付与したり」
e;「【0029】基材シート1や表面樹脂層4の厚さには特に制限はなく、例えば従来の一般の化粧シートにおけるそれらと同様の厚さとすることができる。具体的には、化粧シートの用途や樹脂の種類にもよるが、一般的には基材シート1の厚さは20?300μm程度、より好ましくは50?200μm程度、表面樹脂層4の厚さは10?200μm程度、より好ましくは10?100μm程度の範囲内とするのが良い。」
f;「【0046】表面樹脂層4の表面には、従来公知の如く、必要に応じて所望の適宜の模様のエンボスを設けることもできる。」

3)引用刊行物1には、記載aによれば、熱可塑性樹脂からなる基材シート上に熱接着性樹脂層を介して熱可塑性樹脂からなる表面樹脂層が積層されてなる化粧シートが記載され、記載cによれば、基材シートの素材として最も好適な例としてホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂が例示され、記載dによれば、基材シートを加工性の良いポリオレフィン系樹脂から構成しつつ、表面樹脂層をアクリル系樹脂から構成して耐候性を付与する組み合わせが示され、記載eによれば、表面樹脂層の厚さは、より好ましくは10?100μm程度の範囲内とするのが良いとされ、記載fによれば、表面樹脂層の表面には、従来公知の如く、必要に応じて所望の適宜の模様のエンボスを設けることもできるとされているのであるから、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「熱可塑性のランダムポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン樹脂からなる基材シート上に、熱接着性樹脂層を介して、表面に模様のエンボスを有するアクリル系樹脂から構成した熱可塑性樹脂からなり、厚さが10?100μm程度の表面樹脂層を設けた化粧シート。」

4)次に、補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「表面に模様のエンボスを有するアクリル系樹脂から構成した熱可塑性樹脂」「表面樹脂層」は、それぞれ、補正発明の「表面にエンボス模様を有する・・・熱可塑性アクリル系樹脂」「表面保護シート層」に対応し、更に、引用発明1の「10?100μm程度」という厚さは、補正発明の「10?100μm」という厚さに対応しているということができる。
以上のことから、補正発明は、引用発明1とは、
「熱可塑性のランダムポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン樹脂からなる基材シート上に、熱接着性樹脂層を介して、表面にエンボス模様を有する熱可塑性アクリル系樹脂からなる厚さが10?100μmの表面保護シート層を少なくとも具備してなる化粧シート」である点で一致し、以下の点において相違していると認められる。

相違点a;表面保護シート層の熱可塑性アクリル系樹脂について、補正発明は、メタクリル酸メチルを主成分とするガラス転移温度が90℃以上、110℃以下であるものに特定されている点。

5)そこで、相違点aについて検討する。
引用刊行物1の記載dには、表面樹脂層、つまり表面保護シートに用いるアクリル系樹脂としては、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)等のメタクリル酸エステルを主成分とするものが好適であると示唆されており、引用刊行物1の記載bから耐候性や耐熱性を課題とする化粧シートであることが記載されているのであるから、樹脂化粧材の技術において、基材上に形成する熱可塑性樹脂フィルムとして、ガラス転移点を一定以上にすることで、成型物の温度変形を抑制すること、及びそのための樹脂として、メタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂を用いることが、共に周知技術であり(例えば、塗装代替樹脂外板の製造において、ガラス転移点100℃程度のアクリル樹脂を用いることが、特開2000-317976号公報【0001】【0012】に記載され、プラスチック成型用化粧フィルムとして、アクリル系ポリマーフィルム層として90?140℃のアクリル系ポリマーが好ましく、ガラス転移温度が60℃未満になると温度上昇で変形しやすくなること、該アクリル系ポリマー形成のためのアクリル系モノマーとしてはメタクリル酸メチル等が使用できることが、特開2000-102950号公報【請求項1】【0001】【0028】【0033】に記載され、メタクリル樹脂のもつ耐候性や表面硬度などの特徴を生かして内外装部材として用いることが有用であること、メタクリル酸メチルモノマーを主成分としてTgが95℃のものが形成されたことが、特開10-306192号公報【0010】【0011】【0022】実施例2,3【表1】に記載されている。)、ガラス転移温度の上限を設定することは、耐熱性、耐候性等が確保できる前提で成形性等の観点から当業者が実施にあたって適宜なしうる設計的事項であることを考慮すれば、引用発明1において、耐熱性、耐候性を確保するため、表面保護シート層の熱可塑性アクリル系樹脂として、同一文献に示唆のあるメタクリル酸メチルを主成分とするものを用い、同一乃至近接技術分野の前記周知技術を適用し、ガラス転移温度が90℃以上110℃以下のものを用いることは、当業者が容易に想到しうるものといえ、相違点aは容易に想到し得るものである。

また、適用したことによる作用効果を検討しても、本件明細書【0004】【0005】【0013】【0014】の記載から補正発明は、化粧シートの表面温度が60℃以上の高温に曝される場合の表面変化を問題としており、上限は、熱可塑性アクリル樹脂としての現実的可能性や柔軟性や耐衝撃性等から設定されたものにすぎず、【0056】?【0058】【0063】の実施例1,2、比較例1から用いる樹脂のガラス転移温度の低下に伴い表面光沢度が変化したことを示しているだけであり、特開2000-102950号公報【0028】等の記載及び、特開2000-062081号公報【0017】、特開06-055900号公報【0004】、特開01-249345号公報【従来技術】に記載されるように、表面形成したエンボスの加熱による消失が、当該技術分野において、当業者にとって技術常識の現象にすぎないことも考慮すると、当業者の予測を超える格別顕著なものとはいえない。

6)してみると、補正発明は、引用発明1及び前記周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-1-3.まとめ
補正事項aを有する本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するもので、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

2-2.原査定について
2-2-1.本件の発明
本件補正は、先に「2-1」で述べたように却下すべきものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の、願書に添付した明細書の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。
「熱可塑性樹脂からなる基材シート上に、熱接着性樹脂層を介して、表面にエンボス模様を有するガラス転移温度が90℃以上、110℃以下である熱可塑性アクリル系樹脂からなる厚さが10?100μmの表面保護シート層を少なくとも具備してなることを特徴とする化粧シート。」

2-2-2.引用刊行物1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1の記載事項は、前記「2-1-2 2)」に記載したとおりである。

2-2-3.対比・判断
本願発明は、前記「2-1」で検討した補正発明から基材シートの熱可塑性樹脂が「ランダムポリプロピレン樹脂又はホモポリプロピレン」であり、表面保護シート層の熱可塑性アクリル系樹脂が「メタクリル酸メチルを主成分とする」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明が前記「2-1-2」に記載したとおり、引用発明1及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

2-2-4.まとめ
本願発明は、引用発明1に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、原査定の拒絶理由は、相当である。

3.結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-21 
結審通知日 2012-01-04 
審決日 2012-01-17 
出願番号 特願2001-157454(P2001-157454)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 佐野 健治
瀬良 聡機
発明の名称 化粧シート  

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