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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1253085
審判番号 不服2008-21526  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-21 
確定日 2012-03-05 
事件の表示 特願2004-523043「乳化液体組成物を含有するマスク組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年1月29日国際公開、WO2004/009042、平成17年11月24日国内公表、特表2005-535677〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年7月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年7月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年5月19日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年8月21日に拒絶査定不服審判がされるとともに同年9月19日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成20年9月19日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年9月19日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成20年9月19日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「(1)水不溶性基材と
(2)(a)油性成分;
(b)親水性界面活性剤;
(c)2,000mPa・s?15,000mPa・sの粘度を前記液体組成物に与える水溶性増粘化ポリマー;及び
(d)水性キャリア、を含む乳化液体組成物と
を含むことを特徴とするマスク組成物。」と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である水溶性増粘化ポリマーについて、「(c)500mPa・s?60,000mPa・sの粘度を前記液体組成物に与える水溶性増粘化ポリマー」とあったものを「(c)2,000mPa・s?15,000mPa・sの粘度を前記液体組成物に与える水溶性増粘化ポリマー」と粘度範囲を減縮するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前である平成14年4月16日に頒布された「特開2002-114664号公報」(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】水溶性高分子と、レモン、ハトムギ、プルーン、ニンジンから選ばれる植物のエキスの1種または2種以上とを含有する、ジェル状化粧料組成物を不織布に含浸させてなるシート状パック化粧料。
【請求項2】ジェル状化粧料組成物の粘度が、1500?15000mPa・s(30℃)である請求項1記載のシート状パック化粧料。
【請求項3】水溶性高分子が、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸メタクリル酸長鎖アルキル(炭素数10?30)共重合体、キサンタンガムの中から選ばれる1種または2種以上である請求項1または2記載のシート状パック化粧料。
【請求項4】さらに、ジェル状化粧料組成物にローヤルゼリーを含有する請求項1?3のいずれか1項に記載のシート状パック化粧料。
【請求項5】不織布が、水流絡合不織布であり、目付が20?150g/m^(2)である請求項1?4のいずれか1項に記載のシート状パック化粧料。」(特許請求の範囲)

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、不織布含浸タイプのシート状パック化粧料に関し、さらに詳しくは、不織布からの垂れ落ちがなく、特定の植物のエキスを含有するジェル状化粧料の保湿機能が、不織布による閉塞効果でさらに高まり、肌の状態を良好にするシート状パック化粧料に関するものである。」

(3)「【0009】本発明に用いられる水溶性高分子としては、化粧品用として一般に使用され得る、合成水溶性高分子、半合成水溶性高分子、天然水溶性高分子等が挙げられる。
【0010】合成水溶性高分子としては、・・・ポリエチレンオキシド等が挙げられる。これらの中でも使用性等の点から、アクリル酸メタクリル酸長鎖アルキル(炭素数10?30)共重合体(例えば、B.F.グッドリッチ社製の「PEMULEN TR-1」等)、カルボキシビニルポリマー(例えば、B.F.グッドリッチ社製の「カーボポール934」、「カーボポール940」、「カーボポール941」等)が好ましく用いられる。
・・・
【0012】天然水溶性高分子としては、例えば・・・キサンタンガム・・・等が挙げられる。これらの中でも使用性等の点から、キサンタンガムが好ましく用いられる。
【0013】これら水溶性高分子は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、アクリル酸メタクリル酸長鎖アルキル(炭素数10?30)共重合体、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガムが好ましく、特に好ましくは、アクリル酸メタクリル酸長鎖アルキル(炭素数10?30)共重合体と、キサンタンガムとを併用すると、アクリル酸メタクリル酸長鎖アルキル(炭素数10?30)共重合体によって増粘効果が増強され、さらにキサンタンガムによってべたつき感を解消できるので併用することが好ましい。上記水溶性高分子のジェル状化粧料組成物中への総配合量としては、0.05?2質量量%が好ましい。特に好ましくは0.1?1質量%である。」

(4)「【0014】不織布に含浸させるジェル状化粧料組成物の粘度としては、好ましくは1500?15000mPa・s(30℃)であり、さらに好ましくは2000?5000mPa・sである。1500mPa・s未満の粘度では、垂れ落ちの防止が十分に発揮されない場合があり、一方、15000mPa・sを超えると不織布への浸透性が悪くなる場合がある。」

(5)「【0016】上記ジェル状化粧料組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記成分以外に、必要に応じて、通常化粧品に用いられる多価アルコール等の保湿剤、油分、界面活性剤、香料、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、薬剤、水等が配合できる。」

(6)「【0017】本発明では、上記成分を含む化粧料組成物を不織布に含浸させるが、含浸の方法等は公知の手段によることが出来る。不織布にジェル状化粧料組成物を含浸させる時期としては、パック時に不織布にジェル状化粧料を含浸させることもできるが、使用者が用いる前に既にジェル状化粧料組成物をに不織布に含浸させたものであると、使用性に優れ、携帯性にも優れるので好ましい。
【0018】本発明で用いられる不織布としては、従来より、他の分野で不織布として用いられているものを任意に使用することができが、それらの中でも、不織布の繊維の結合方法として、バインダー接着方法や熱による熱接着方法等で製造された不織布を用いるよりも、水流絡合によって製造された、目付が20?150g/m^(2)である不織布が、ジェル状化粧料組成物の浸透含浸保持性が高く、肌への密着性がよく、肌触りがよいので好ましい。不織布を構成する繊維の材質としては、レーヨン、パルプ、綿、アサ、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステル、ポリプロピレン等、およびそれらの混合物が使用されるが、綿繊維100%で水流絡合した不織布が、特にジェル状化粧料組成物の浸透含浸保持性が高く、肌触りがよいので好ましい。
【0019】本発明のシート状パック化粧料、顔、首、腕、脚等の全体、局所の部位に密着させ、約5?20分放置後に剥がす。該シート状パック化粧料を使用する前に洗顔し、化粧水を塗付後に使用することが好ましい。使用後は乳液等を塗付することが好ましい。使用頻度としては、週に1?2回が好ましい。」

(7)「【0020】
【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。なお、配合量はすべて質量%である。
【0021】
【表1】

【0022】実施例1?6、比較例1、2
(1)?(9),(15)?(19)と、全量が100%となる精製水を加え混合した後(10)を加えて中和し、ホモミキサーで均一に分散した後、(11)?(14)を混合したものを添加し、さらによく分散してエッセンスを得た。レモンエキスは乾燥残分0.65質量%のもの、ハトムギエキスは乾燥残分0.3質量%のもの、ニンジンエキスはオタネニンジンの抽出物で乾燥残分2.5質量%のもの、プルーンフルエキスとしてはプルーン酵素分解物の乾燥残分30質量%のものを用いた。比較例1以外のエッセンスは何れもジェル状を呈していた。得られたたエッセンスを、綿100%の水流絡合不織布(目付60g/m^(2))に含浸させた。含浸量としては、フェイスマスク1枚約370mm^(2)に21gを含浸させた。」

(8)「【0025】また、表2の結果から実施例1、2の使用試験においても、不織布からのたれ落ちがなく、また図1から実施例2を用いた場合、翌日の肌の角質水分量が増加するという結果が得られた。尚、角質水分量はSkicon-200(IBC社製)用い測定した。」

これらの記載によれば、引用例には、上記(1)、及び(7)の実施例2からみて、
「(1)ジプロピレングリコール 15.0質量%
(2)ポリオキシエチレンメチルグルコシド 0.1質量%
(3)ポリエチレングリコール 0.4質量%
(4)メチルパラベン 0.15質量%
(5)フェノキシエタノール 0.3質量%
(6)エデト酸二ナトリウム 0.02質量%
(8)PEMULEN TR-1 0.2質量%
(9)キサンタンガム 0.2質量%
(10)水酸化カリウム 0.05質量%
(11)メチルポリシロキサン 0.1質量%
(12)メチルフェニルポリシロキサン 0.1質量%
(13)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル 0.1質量%
(14)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.3質量%
(15)ハトムギエキス 1.0質量%
(16)ローヤルゼリーエキス 1.0質量%
(20)精製水 to 100質量%
を含有し、粘度が3000mPa・s(30℃)であるジェル状化粧料組成物を不織布に含浸させてなるフェイスマスク」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
そこで、以下に本願補正発明と引用発明とを比較する。

(1)引用発明の「不織布」と本願補正発明の「水不溶性基材」との対比
引用例には、引用発明の「不織布」について、上記2(6)に、「不織布にジェル状化粧料組成物を含浸させる時期としては、パック時に不織布にジェル状化粧料を含浸させることもできるが、使用者が用いる前に既にジェル状化粧料組成物をに不織布に含浸させたものであると、使用性に優れ、携帯性にも優れるので好ましい。」、「不織布を構成する繊維の材質としては、レーヨン、パルプ、綿、アサ、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステル、ポリプロピレン等、およびそれらの混合物が使用されるが、綿繊維100%で水流絡合した不織布が、特にジェル状化粧料組成物の浸透含浸保持性が高く、肌触りがよいので好ましい。」と記載されており、「不織布」はジェル状化粧料組成物を予め含浸させておけるものであり、レーヨンなどの素材からなる。
一方、本願明細書には本願補正発明の「水不溶性基材」について、「本発明のマスク組成物は水不溶性基材を含む。『水不溶性』とは、基材を水に浸したときに、溶解又は容易に分解しないことを意味する。水不溶性基材は、液体組成物を皮膚に送り届けるための手段又は媒体である。」(段落[0017])、「経済的であり、様々な材料で容易に入手できるので、好ましい実施形態は不織布基材を用いる。」(段落[0019])、「基材を、様々な天然材料及び合成材料で構成してもよい。本発明で有用な天然材料の非限定例としては、絹繊維;羊毛繊維及びラクダ被毛繊維などのケラチン繊維等;並びに木材パルプ繊維、綿繊維、麻繊維、黄麻繊維、及び亜麻繊維のようなセルロース繊維が挙げられる。本発明において有用な合成材料の非限定的な例としては、アセテート繊維;アクリル繊維;セルロースエステル繊維;ポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維のようなポリエステル繊維;ポリプロピレン繊維及びポリエチレン繊維のようなポリオレフィン繊維;ポリビニルアルコール繊維;レーヨン繊維;並びにポリウレタン発泡体が挙げられる。」(段落[0020])と記載されている。
これらのことから、引用発明の「不織布」は、本願補正発明の「水不溶性基材」に相当するといえる。

(2)引用発明の「ジェル状化粧料組成物」と本願補正発明の「乳化液体組成物」との対比

ア 本願補正発明の「乳化液体組成物」に含まれる「油性成分」、「親水性界面活性剤」、「水溶性増粘化ポリマー」、及び「水性キャリア」に関して
引用発明のジェル状化粧料組成物の配合成分のうち、「(11)メチルポリシロキサン」、「(12)メチルフェニルポリシロキサン」は油分、「(13)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル」、「(14)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」は水溶性界面活性剤、「(8)PEMULEN TR-1」、「(9)キサンタンガム」は増粘剤として機能する水溶性高分子として、以下に示すように化粧品の成分として用いられるものである。
すなわち、日光ケミカルズ株式会社他、化粧品ハンドブック、平成8年11月1日、78?80頁には、“ジメチルシリコーン油”、“メチルフェニルシリコーン油”の特徴・用途として化粧品の油性成分として広く使われること、同214?215頁、及び日光ケミカルズ株式会社他、化粧品原料辞典、平成3年11月29日、414頁には、“ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル”、“ポリオキシエチレンヒマシ油,硬化ヒマシ油”について、安全性の高い親水性の界面活性剤であることが記載されている。
そして、フレグランスジャーナル、1992年2月号、100頁には、“PEMULEN TR-1”について、中?高粘度のエマルションでの使用に適していて、製品の粘度を増加させたいときに有効であることが、日光ケミカルズ株式会社他、化粧品原料辞典、平成3年11月29日、128頁には、“キサンタンガム”の用途について、天然ガム質の増粘剤として広く化粧品、食用品として用いられていることが記載されている。

よって、引用発明の「(11)メチルポリシロキサン」、「(12)メチルフェニルポリシロキサン」は、本願補正発明の「油性成分」、引用発明の「(13)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル」、「(14)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」は、本願補正発明の「親水性界面活性剤」、そして、引用発明の「(20)精製水」は、本願補正発明の「水性キャリア」に相当する。

また、引用例には、上記2(3)に、「特に好ましくは、アクリル酸メタクリル酸長鎖アルキル(炭素数10?30)共重合体(審決注:PEMULEN TR-1を含む)と、キサンタンガムとを併用すると、アクリル酸メタクリル酸長鎖アルキル(炭素数10?30)共重合体によって増粘効果が増強され、さらにキサンタンガムによってべたつき感を解消できるので併用することが好ましい。」と記載されていることからも、これらが引用発明のジェル状化粧料組成物に粘度を与える成分といえる。
本願補正発明の水溶性増粘化ポリマーは、請求項1の記載によれば「前記液体組成物」に粘度を与えるものと定義されているが、これより前に液体組成物は記載されていないことから、ここでいう液体組成物は乳化液体組成物を意味するものと認められる。
そうしてみると、引用発明の「(8)PEMULEN TR-1」、「(9)キサンタンガム」は、本願補正発明の「水溶性増粘化ポリマー」に相当し、「粘度を組成物に与える」点で共通する。

ここで、引用発明には、前記成分以外のものが含まれているが、上記2(5)のとおり、「上記ジェル状化粧料組成物中には、・・・通常化粧品に用いられる多価アルコール等の保湿剤、油分、界面活性剤、香料、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、薬剤、水等が配合できる。」ことが記載されており、これらは、保湿剤、防腐剤、キレート剤、中和剤、植物のエキスなどに相当する。そして、本願補正発明も、他の成分を含むことを排除しておらず、しかも、水溶性保湿剤や(段落[0047])、防腐剤などのその他の構成成分を更に含んでもよいことが記載されており(段落[0067])、実施例でもこれらの成分を含み、NaOHでpH6?8に調整したことが示されているから、この点は相違点とはならない。

イ 引用発明が「ジェル状」であり本願補正発明が「乳化液体」であることに関して
引用例には、上記2(7)にジェル状化粧料組成物の製造方法について、「(1)?(9),(15)?(19)と、全量が100%となる精製水を加え混合した後(10)を加えて中和し、ホモミキサーで均一に分散した後、(11)?(14)を混合したものを添加し、さらによく分散してエッセンスを得た。・・・比較例1以外のエッセンスは何れもジェル状を呈していた。得られたたエッセンスを、綿100%の水流絡合不織布(目付60g/m^(2))に含浸させた。含浸量としては、フェイスマスク1枚約370mm^(2)に21gを含浸させた。」と記載されている。
すなわち、(11)?(14)で示される油分と界面活性剤を混合したものと、それ以外の成分、すなわち水性成分を混合したものとを、混合してよく分散させてジェル状を呈するものを得ている。そして、それを不織布に含浸させている。
ここで、「含浸」とは、上記2(4)に「15000mPa・sを超えると不織布への浸透性が悪くなる場合がある。」と記載されているように、文字通り不織布にしみこませることを意味している。
また、上記2(1)及び(4)に、「不織布からの垂れ落ちがなく」、「1500mPa・s未満の粘度では、垂れ落ちの防止が十分に発揮されない場合があり」と記載されているように、「ジェル状を呈する」というものの、含浸させた不織布から垂れ落ちるという課題を考慮する必要のある状態ともいえる。
ところで、引用発明の「ジェル」という用語は、「ゲル」と同じことを意味することは当業者に自明な事項である。
しかしながら、一般に「ゲル」とは、「コロイド溶液が流動性を失い、多少の弾性と固さをもってゼリー状に固化したもの。寒天・ゼラチン・豆腐・こんにゃく・シリカゲルなどの類。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)として知られているものであり、不織布に含浸できるようなものを意味しないと解するのが自然である。
それに対し、引用例に記載されている「ジェル状を呈する」化粧料組成物は、先のとおり、不織布に含浸でき、かつ、垂れ落ちない程度の最適な粘度範囲に調整された流動性のある溶液と認められる。
そして、「ジェル状を呈する」化粧料組成物は、油分と水分とを含み、これらがよく分散した状態となるよう混合したものであり、このように互いに混じり合わない液体をその一方に他方が分散したような状態とした系のことをエマルションとよび、エマルションにする工程を乳化ということは技術常識である。
そうしてみると、引用発明の「ジェル状」とは、いわゆるゲルを指すものではなく、粘度を有する溶液と解するのが妥当であり、前記の組成物の製法からみても、本願補正発明の「乳化液体」に相当するといえる。

(3)引用発明の「フェイスマスク」と本願補正発明の「マスク組成物」との対比
上記で検討したとおり、引用発明の「フェイスマスク」は、「不織布」とそれに含浸させる「ジェル状化粧料組成物」とからなり、本願補正発明の「マスク組成物」に相当する。

以上のことを総合すると、両者は、
「(1)水不溶性基材と
(2)(a)油性成分;
(b)親水性界面活性剤;
(c)粘度を乳化液体組成物に与える水溶性増粘化ポリマー;及び
(d)水性キャリア、を含む乳化液体組成物と
を含むマスク組成物。」
の点で一致し、以下の点で一応相違している。

[相違点]
「粘度を乳化液体組成物に与える水溶性増粘化ポリマー」が、本願補正発明では、「2,000mPa・s?15,000mPa・sの粘度」を与えるものと特定されているものの、この粘度を測定する温度について記載していないのに対し、引用発明では、「粘度が3000mPa・s(30℃)」のように、30℃での粘度に特定されている点。

4 判断
本願明細書には、粘度に関して次のように記載されている。
「本発明のマスク組成物に用いられる液体組成物は、マニュアルNo.M/92-161-H895に記載された操作方法に従って、ブルックフィールド・デジタル粘度計(Brookfield Digital Viscometer)、モデルDV-II+バージョン3.2により速度0.5rad/s(5.0rpm)で測定した場合、約500mPa・s?約60,000mPa・s、好ましくは約1000mPa・s?約30,000mPa・s、より好ましくは約2000mPa・s?約15,000mPa・sの範囲の粘度を有する。このような粘度は、適用中に顔から滴り落ちるのを防止ししつつ水不溶性基材に浸透するのに好適であると考えられる。このような粘度はまた、粒子状物質が含まれる場合、液体組成物に有効な様式でその粒子状物質を懸濁させ、皮膚に粒子状物質を有効に付着させるのに好適であると考えられる。」(段落[0034])
「(水溶性増粘化ポリマー)
本発明の液体組成物は、水溶性増粘化ポリマーを含む。本明細書の水溶性増粘化ポリマーは、水溶性又は水混和性ポリマーであり、組成物の粘度を高める能力を有し、組成物に使用される他の構成成分と適合性である。水溶性増粘化ポリマーは、本組成物の液体組成物が約500mPa・s?約60,000mPa・s、好ましくは約1000mPa・s?約30,000mPa・s、より好ましくは約2000mPa・s?約15,000mPa・sの所望の粘度を有するように選択される。水溶性増粘化ポリマーは、好ましくは液体組成物の約0.1重量%?約3重量%、より好ましくは約0.1重量%?約2重量%、更に好ましくは約0.2重量%?約2重量%の濃度で含まれる。」(段落[0041])
これらの記載からすると、本願補正発明の「2,000mPa・s?15,000mPa・sの粘度を前記液体組成物に与える水溶性増粘化ポリマー」とあるのは、“水溶性増粘化ポリマーにより乳化液体組成物の粘度が2,000mPa・s?15,000mPa・sにされている”ことといえる。
しかし、本願明細書には、これ以上の粘度に関する具体的な記載はなく、実施例でも粘度は測定されていない。
そうしてみると、粘度の測定温度は不明といわざるを得ないが、先のとおり、「このような粘度は、適用中に顔から滴り落ちるのを防止ししつつ水不溶性基材に浸透するのに好適であると考えられる。」と、粘度はマスク組成物を顔に適用したときの最適範囲を決定したものといえることから、人の顔面の温度程度での粘度と解するのが相当である。
一方、引用例にも、上記2(4)に、「不織布に含浸させるジェル状化粧料組成物の粘度としては、好ましくは1500?15000mPa・s(30℃)であり、さらに好ましくは2000?5000mPa・sである。1500mPa・s未満の粘度では、垂れ落ちの防止が十分に発揮されない場合があり、一方、15000mPa・sを超えると不織布への浸透性が悪くなる場合がある。」とあり、上記2(8)には、「実施例1、2の使用試験においても、不織布からのたれ落ちがなく」とあるように、引用発明の粘度も、本願補正発明と同様に、顔に適用したときに垂れ落ちがなく、かつ、不織布に浸透する範囲内の粘度として、30℃での粘度を特定したものといえる。
そうしてみると、本願補正発明の「2,000mPa・s?15,000mPa・sの粘度」と、引用発明の「粘度が3000mPa・s(30℃)」とは、同程度の温度で測定された粘度と解され、この点は実質的な相違点とはならない。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 平成22年10月12日付け審尋に対する平成23年4月14日付け回答書の補正案について

請求人は、上記回答書で補正の提案をしているので、その点についても検討する。
回答書の補正案は、本願補正発明の各成分の配合量を以下のとおり特定するとともに、マスク組成物を特定するものである。
「(1)水不溶性基材と
(2)(a)0.01重量%?10重量%の油性成分;
(b)0.01重量%?10重量%の親水性界面活性剤;
(c)2,000mPa・s?15,000mPa・sの粘度を前記液体組成物に与える0.1重量%?3重量%の水溶性増粘化ポリマー;及び
(d)水性キャリア、を含む乳化液体組成物と
を含むことを特徴とするマスク型パック組成物。」

しかしながら、引用発明は、油性成分に相当する「(11)メチルポリシロキサン」、「(12)メチルフェニルポリシロキサン」をそれぞれ0.1質量%、計0.2質量%で含有し、親水性界面活性剤に相当する「(13)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル」を0.1質量%、「(14)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」を0.3質量%、計0.4質量%で含有し、水溶性増粘化ポリマーに相当する「(8)PEMULEN TR-1」、「(9)キサンタンガム」をそれぞれ0.2質量%、計0.4質量%で含有するものである。
そして、上記2(1)にあるように、シート状パック化粧料であるから、引用発明のフェイスマスクは、マスク型パック組成物にも相当する。
よって、回答書の補正案も引用例に記載された発明である。

6 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
平成20年9月19日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成18年8月23日付の手続補正より補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「(1)水不溶性基材と
(2)(a)油性成分;
(b)親水性界面活性剤;
(c)500mPa・s?60,000mPa・sの粘度を前記液体組成物に与える水溶性増粘化ポリマー;及び
(d)水性キャリア、を含む乳化液体組成物と
を含むことを特徴とするマスク組成物。」

1 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「第2 2 引用例」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、前記「第2 3 対比」で検討した本願補正発明に対し、粘度を「500mPa・s?60,000mPa・s」に広げたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、そのうちの構成要件をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 4 判断」に記載したとおり、引用例に記載された発明であるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明である。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-05 
結審通知日 2011-10-07 
審決日 2011-10-19 
出願番号 特願2004-523043(P2004-523043)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安居 拓哉天野 貴子高橋 樹理  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 関 美祝
▲高▼岡 裕美
発明の名称 乳化液体組成物を含有するマスク組成物  
復代理人 田村 正  
復代理人 主代 静義  
代理人 阿部 和夫  
代理人 谷 義一  

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