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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1253101
審判番号 不服2011-7021  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-04 
確定日 2012-03-05 
事件の表示 特願2005-250161「等速自在継手用シャフト」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月15日出願公開、特開2007- 64323〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯

本願は、平成17年8月30日の出願であって、平成23年1月20日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年4月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

【2】平成23年4月4日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年4月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成23年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
等速自在継手の内輪と嵌合するスプラインが形成された軸部と、リング状の嵌合部を有するヨーク部とを備え、締め付け部材の締め付けによる前記ヨーク部の嵌合部の縮径を可能とすると共に、前記軸部に等速自在継手の外方部材との接触を回避するための小径部を設けた等速自在継手用シャフトにおいて、
前記等速自在継手は、内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内輪を有する内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器とを備えた固定式であり、
前記軸部とヨーク部とを中炭素鋼にて一体成形するとともに、前記軸部と前記内輪とは別部材にて構成し、少なくとも前記小径部に高周波焼入れを施して硬化層を形成し、さらに、この硬化層深さをγとすると共に、小径部の軸径をdとしたときに、d/4≦γ≦d/2としたことを特徴とする等速自在継手用シャフト。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「等速自在継手」について、「前記等速自在継手は、内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内輪を有する内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器とを備えた固定式であり」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に日本国内において頒布された刊行物は、次のとおりである。

刊行物1:特開2005-226812号公報
(公開日:平成17年8月25日(2005.8.25))
刊行物2:特開2005-36865号公報
(公開日:平成17年2月10日(2005.2.10))
刊行物3:特開2005-163118号公報
(公開日:平成17年6月23日(2005.6.23))
刊行物4:特開2001-280360号公報
(公開日:平成13年10月10日(2001.10.10))

(1)刊行物1(特開2005-226812号公報)の記載事項

刊行物1には、「等速自在継手」に関し、図面(特に、図5)とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールを保持器によって保持したトルク伝達ボール式の等速自在継手に関し、より詳しくは、外方部材又は内方部材から延在させるトルク伝達用の連結部材を、外方部材又は内方部材に対して一体的に取付ける構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、入出力軸間の角度変位のみを許容する固定型と、角度変位および軸方向変位を許容する摺動型に大別され、それぞれ用途・使用条件等に応じて機種選定される。
【0003】
図8は、固定型等速自在継手の一種であるツェッパ型継手1’(以下、継手1’という。)を例示している。以下、この継手1’を例に挙げて従来の等速自在継手について説明する。継手1’は、軸部11の片端に球状内面12を有するカップ部13を設け、カップ部13の球状内面12に複数のトラック溝14を形成した外方部材10と、軸部21の片端に球状外面22を有する内輪23を設け、球状外面22に複数のトラック溝24を形成した内輪23と軸部21とからなる内方部材20と、両トラック溝14,24間に配置した複数個のボール30と、外方部材10の球状内面12に対応した球状外面42及び内方部材20の球状外面22に対応した球状内面44を有し、ボール30を保持する複数のボールポケット46を周方向に所定間隔を隔てて形成した保持器40とを主要な構成要素としている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
図9は、上記の継手1’を自動車のステアリング装置71に適用した場合を例示している。ステアリング装置71は、ステアリングホイール72に接続した入力軸73とステアリングギア74との間に継手1’を配設し、入力軸73とステアリングギア74に作動角をつけた状態で、ステアリングホイール72によって付与した回転トルクをステアリングギア74に伝達するものである。
【0005】
図9において、50a?50cは連結部材としてのヨークである。ヨーク50aは、ステアリングホイール72側の継手1’から延在した外方部材10の軸部11と、ステアリングギア74側の継手1’から延在した内方部材20の軸部21とをトルク伝達可能に連結するためのものである。ヨーク50bは、入力軸73と、ステアリングホイール72側の継手1’から延在した内方部材20の軸部21とをトルク伝達可能に連結するためのものである。ヨーク50cは、ステアリングギア74側の継手1’から延在した外方部材10の軸部11と、ステアリングギア74とをトルク伝達可能に連結するためのものである。これらのヨーク50a?50cを始め、継手1’と継手外部の軸とをトルク伝達可能に連結する連結部材は、加工上の要請及び仕様変更容易性という観点から、外方部材10等とは別に成形され、外方部材10等に対してトルク伝達可能に結合させてある。
【0006】
図10は、ステアリングギア74側の継手1’の外方部材10の軸部11とヨーク50cの結合構造を示している。従来の継手1’は、外方部材10の軸部11及びヨーク50c間でトルクを伝達させるために、外方部材10の軸部11の外径側とヨーク50cの内径側に、互いに噛合う軸方向の突条からなるスプライン等のトルク伝達手段S_(1),S_(2)を形成して、軸部11及びヨーク50cをトルク伝達可能に嵌合させると共に、圧入、溶接、接着、ボルト締め等の適宜な手段により軸部11及びヨーク50cを固着してある。なお、ステアリングホイール72側の継手1’の第1及び軸部11,21、並びにステアリングギア74側の継手1’の軸部21に対してヨーク50a,50bを結合させる場合については、図10の場合とほぼ同じであるから図示及び説明を省略する。
【0007】
ところで、上記のステアリング装置71では、ステアリンホイール72の回転をステアリングギア74に精度よく伝達するために、回転ガタを防止するという課題がある。このように回転ガタを嫌う用途においては、継手1’の外方部材10等とヨーク50a?50cとの間の回転ガタを防止することが求められる。
【0008】
外方部材10等に対してヨーク50a?50cを圧入固定する場合において、両部材間の回転ガタをトルク伝達手段S_(1),S_(2)のみで抑制しようとすると、トルク伝達手段S_(1),S_(2)の相互間のラジアル隙間をできるだけ狭くする必要がある。しかし、ラジアル隙間を狭くすると、両部材の嵌合に過大な圧入荷重を要するため、組付け作業性が低下すると共に、かかる過大な圧入荷重が外方部材10から保持器40を介して内方部材20に作用して、外方部材10の球状内面12、保持器40の球状外面42及び球状内面44、並びに内方部材20の球状外面22に圧入痕がつき、継手1’の品質が低下するおそれがある。かかる事情からトルク伝達手段S_(1),S_(2)の相互間のラジアル隙間を完全に無くすことができず、ボルト締めをする必要がある。
【0009】
他方、外方部材10等とヨーク50a?50cとを溶接によって固着した場合は、両部材間に回転ガタが生じない反面、溶接箇所が高温に曝されるために、ひずみによる継手内部の精度低下やひび割れが生じて、継手1’の歩留りが低下するおそれがある。
【0010】
また、接着による場合は、接着剤の経年劣化に伴いトルク伝達手段S_(1),S_(2)の相互間のラジアル隙間が徐々に大きくなって、回転ガタが発生するおそれがある。ボルト締めによる場合は、ステアリングギア74側から伝わる振動でボルトが緩み、回転ガタが発生するおそれがある。
【0011】
このように、従来の継手1’では、ヨーク50a?50cを外方部材10及び内方部材20に対して固着しても、回転ガタが発生するか、或いは回転ガタを防止できても歩留りが低下するおそれがあるから、ヨーク50a?50cの結合構造を改善することが要望されている。」

(イ) 「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる実情に鑑み創案されたものであって、その目的は、外方部材又は内方部材に対する連結部材の結合構造を改善し、等速自在継手の回転ガタを防止すると共にその歩留りを低下させないことにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の等速自在継手は、上記目的を達成するため、内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器と、外方部材又は内方部材に嵌合した連結部材とを備えた等速自在継手において、外方部材又は内方部材と連結部材の少なくとも一方の部材の嵌合部に軸方向の突条を設けて他方の部材に隙間嵌合させると共に、外方部材又は内方部材と連結部材のうち少なくともいずれか一方の部材を塑性変形させて他方の部材に係止させることで、外方部材又は内方部材と連結部材をトルク伝達可能に一体的に結合させた。
【0015】
このように、外方部材(又は内方部材)及び連結部材を隙間嵌合させると、これらの嵌合時に外方部材の内径面(又は内方部材の外径面)などの継手性能を左右する部位に過大な力が作用しないから、継手の品質が低下しない。そして、外方部材(又は内方部材)及び連結部材のうち少なくともいずれか一方の部材を塑性変形させることで両部材がトルク伝達可能でかつ一体的に結合され、両部材間に塑性変形に伴う締付け力が作用するので、回転ガタも抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、前述の如く、外方部材及び連結部材又は内方部材及び連結部材の両部材を隙間嵌合させると共に塑性結合させるようにしたから、両部材の嵌合時に圧入痕やひずみ、ひび割れが発生せず、等速自在継手の回転ガタを防止できると共にその歩留りを向上できる。」

(ウ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1実施例の等速自在継手1を示す要部縦断面図である。この等速自在継手1は、外方部材としての外輪10と、内方部材20と、ボール30と、保持器40と、連結部材としてのヨーク50とを主要な構成要素としている。
【0019】
外輪10は、保持器40を介して内方部材20を嵌合させるカップ状に形成され、内方部材20との嵌合側とは反対側(図面上側)にヨーク50との嵌合部となる貫通孔15を設けた部材である。外輪10の貫通孔15は、外輪10の端面側に形成された小径孔15aと、外輪10の内面側に形成された大径孔15bとの二段構成になっている。小径孔15aは、その内径面にスプライン等のトルク伝達手段S_(1)を形成してある。小径孔15a及び大径孔15bの境界には段状の係合部15cが形成されている。
【0020】
内方部材20は、軸部21を内輪23の内径側に嵌入すると共に、軸部21の先端部に弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部25を設けた部材である。押圧部25は、有蓋円筒状に形成した筐体25aと、筐体25aの内部に配設され、筐体25aの片端面に設けた窓孔から筐体25aの外部へその一部を突出させた球体25bと、筐体25aの内部であって球体25bの奥側に配設され、球体25bに軸方向の押圧力を作用させるコイルバネ等の弾性部材25cとを具備し、軸部21の先端面に軸部21と同軸状に設けた嵌合孔21aにスライド可能に挿入してある。
【0021】
ボール30は、外輪10のトラック溝14と内輪23のトラック溝24との間に形成されたボールトラックの各々に配置してある。
【0022】
保持器40は、外輪10と内輪23の間に配置され、奥側の端面開口を覆う蓋状の受け部48を取り付けてある。受け部48は、その中央部に球面部48aを有し、かつ、その周縁部に保持器40に対する取付け部48bを環状に形成してある。球面部48aは、内面及び外面をともに球面状に形成し、その内面で押圧部25からの押圧力を受けるようになっている。このように内方部材20の押圧部25と保持器40の受け部48との間に軸方向の押圧力を作用させると、内方部材20と保持器40がその軸方向に相対移動し、ボール30を介して両トラック溝14,24間のアキシャル隙間が詰められ、回転バックラッシュが発生しない。
【0023】
ヨーク50は、筒部51の片端側に連結部52を設けると共に、筒部51の他端側に外輪10の貫通孔15に嵌入する嵌合部53を設けた部材である。なお、図中、54はシール部材で、筒部51の内部に設けて継手内部の潤滑剤が流出するのを防止するためのものである。ヨーク50の嵌合部53aは、筒部51の外径よりも小径に形成され、筒部51との境界に、外輪10の外面部に当接させる段差部55が形成されている。また、ヨーク50の嵌合部53aは、外輪10の小径孔15aよりも長く形成され、ヨーク50の段差部55を外輪10に当接させた状態で、図1の破線で示すように、嵌合部53aの先端部が外輪10の大径孔15b内に延在するようになっている。この状態で、嵌合部53aの先端部をプレス機等の適宜な手段により全周に渡って外径側に塑性変形させて加締め部51aを形成し、この加締め部51aを、図1の実線で示すように、貫通孔15内の段状の係合部15cに隙間なく係止させてある。これにより、外輪10及びヨーク50が一体的に結合する。なお、嵌合部53aの外径面には、外輪10のトルク伝達手段S_(1)と噛合うスプライン等のトルク伝達手段S_(2)を形成してあり、これらトルク伝達手段S_(1),S_(2)の相互間には所要のラジアル隙間を設けて外輪10及びヨーク50の圧入荷重を抑制してある。
【0024】
このように、外輪10に対してヨーク50を塑性変形させることで両部材10,50を結合させると、外輪10及びヨーク50間にヨーク50の塑性変形に伴う締付け力が作用する。すなわち、ヨーク50の嵌合部53aを外径側に塑性変形させると、嵌合部53aの塑性変形部位及びその周辺部が拡径し、外輪10の小径孔15aとの間にその半径方向の締付け力が作用する。また、外輪10の小径孔15aの両端部分には、ヨーク50の嵌合部53aの先端部と段差部55とによって軸方向の締付け力が作用する。これにより、外輪10及びヨーク50間における軸方向のガタ及び回転ガタが抑制される。
【0025】
また、外輪10及びヨーク50のトルク伝達手段S_(1),S_(2)の相互間に所要のラジアル隙間を設けてあるから、これらを圧入嵌合する際に、過大な圧入荷重を必要とせず、外輪10の球状内面12、保持器40の球状外面42及び球状内面44、並びに内方部材20の球状外面22に圧入痕がつかない。さらに、ひずみや割れ等の不具合も発生しないから、継手1の歩留りを向上できる。」

(エ) 「【0030】
図3は、本発明の第3実施例の等速自在継手1を示す要部縦断面図である。なお、第3実施例では、第1及び第2実施例の等速自在継手1と同一部位には同一符号を付して詳しい説明を省略し、以下、第1及び第2実施例との相違点を中心に説明する。
【0031】
図3において、10は外輪で、内方部材20との嵌合側とは反対側から筒状に形成した嵌合部16を軸方向に延設した点で、第1及び第2実施例の外輪10と相違している。嵌合部16は、その内径側にスプライン等のトルク伝達手段S_(1)を形成してある。ヨーク50は、筒部51及び嵌合部53bの外径を外輪10の嵌合部16の内径と略同径に形成した点で、第2実施例のヨーク50と相違している。
【0032】
この等速自在継手1は、ヨーク50の嵌合部53bを外輪10の嵌合部16の内底部に当接させた状態で、外輪10の嵌合部16の端部を内径側に塑性変形させて加締め部16aを形成し、この加締め部16aをヨーク50の溝状の係合部53b1に隙間なく係止させることにより、外輪10及びヨーク50を一体に結合してある。
【0033】
このように、外輪10を塑性変形させることによりヨーク50を固着させると、外輪10及びヨーク50間に外輪10の塑性変形に伴う締付け力が作用する。すなわち、外輪10の嵌合部16の縮径に伴ってヨーク50の半径方向に作用する締付け力と、外輪10の嵌合部16の内底部及び加締め部16a間でヨーク50の軸方向に作用する締付け力とによって、外輪10及びヨーク50間における軸方向のガタ及び回転ガタが抑制される。これにより、外輪10及びヨーク50のトルク伝達手段S_(1),S_(2)の相互間にラジアル隙間を設けて、外輪10及びヨーク50を嵌合する際の圧入荷重を低減できるから、外輪10、内輪23及び保持器40に圧入痕がつかない。したがって、等速自在継手の回転ガタを防止できると共にその歩留りを向上できる。
【0034】
なお、第3実施例では、外輪10の嵌合部16にヨーク50を嵌入する場合について説明したが、その逆も可能である。すなわち、図4に示すように、外方部材10が、ヨーク50との嵌合部となる軸部11の片端側に、保持器40を介して内方部材20に嵌合させるカップ部13を設けた部材である場合において、ヨーク50の筒部51の端部を外方部材10の軸部11の外径側に嵌装する嵌合部とし、ヨーク50の筒部51の端部を内径側に塑性変形させて加締め部51aを形成し、この加締め部51aを外方部材10の軸部11の外径側に周方向に設けた溝状の係合部11aに隙間なく係止させる。
【0035】
また、第3実施例で説明した外輪10とヨーク50の結合構造は、図5又は図6に示すように、内方部材20とヨーク50の結合にも適用可能である。
【0036】
図5において、20は内方部材で、片端側にヨーク50との嵌合部21bを有する軸部21と、軸部21の他端側に設けられ、図示しない保持器40を介して外方部材10に嵌合させる内輪23とからなる部材である。内方部材20の嵌合部21bは、外径側にスプライン等のトルク伝達手段S_(3)を形成すると共に、トルク伝達手段S_(3)の基端側に溝状の係合部21cを周方向に設けてある。ヨーク50は、筒部51の内径寸法を内方部材20の嵌合部21bの外径寸法とほぼ同径に形成した点で、図4のヨーク50と相違している。この等速自在継手1は、ヨーク50の筒部51を内方部材20の嵌合部21bの外径側に嵌装させ、ヨーク50の筒部51の端部を内径側に塑性変形させて加締め部51aを形成し、この加締め部51aを内方部材20の軸部21に設けた溝状の係合部21cに隙間なく係止させることにより、内方部材20及びヨーク50を一体に結合してある。」

上記記載事項(エ)の段落【0036】の「図5において、20は内方部材で、片端側にヨーク50との嵌合部21bを有する軸部21と、軸部21の他端側に設けられ、図示しない保持器40を介して外方部材10に嵌合させる内輪23とからなる部材である。」との記載及び図5の記載を参酌すれば、上記軸部21と上記内輪23とは別部材にて構成されているものと認められる。また、図5の記載を参酌すれば、上記軸部21には小径部が設けられているものと認められる。更に、軸部21と内輪23との関係について、上記記載事項(ウ)の段落【0020】には、「内方部材20は、軸部21を内輪23の内径側に嵌入すると共に」と記載され、当該記載とともに図5の記載を参酌すれば、上記軸部21は、等速自在継手1の内輪23と嵌合するものと認められる。
また、上記記載事項(エ)の段落【0036】には、「この等速自在継手1は、ヨーク50の筒部51を内方部材20の嵌合部21bの外径側に嵌装させ、ヨーク50の筒部51の端部を内径側に塑性変形させて加締め部51aを形成し、この加締め部51aを内方部材20の軸部21に設けた溝状の係合部21cに隙間なく係止させることにより、内方部材20及びヨーク50を一体に結合してある。」と記載され、当該記載とともに図5の記載を参酌すれば、上記軸部21とヨーク50とは一体に結合したものであり、その一体に結合する手段は、ヨーク50の筒部51の端部を内径側に塑性変形させて加締め部51aを形成し、この加締め部51aを内方部材20の軸部21に設けた溝状の係合部21cに隙間なく係止させることであるものと認められる。また、上記ヨーク50の構成について、上記記載事項(ウ)の段落【0023】には、「ヨーク50は、筒部51の片端側に連結部52を設けると共に」と記載されている。
更に、等速自在継手1の構成に関し、上記記載事項(イ)の段落【0014】には、「内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器と、……を備えた等速自在継手」と記載されている。そして、等速自在継手の型式について、上記記載事項(ア)の段落【0003】には、「図8は、固定型等速自在継手の一種であるツェッパ型継手1’(以下、継手1’という。)を例示している。」と記載されている。図8の記載と、図1、図3及び図4の記載とを、それぞれ対比すれば、いずれの等速自在継手1も、固定型等速自在継手の一種であるツェッパ型継手、すなわち固定式であるものと認められる。

よって、上記記載事項(ア)?(エ)及び図面(特に、図5)の記載を総合すると、刊行物1には、
「等速自在継手1の内輪23と嵌合する軸部21と、連結部52を設けたヨーク50とを備え、上記軸部21に小径部を設けた、上記軸部21とヨーク50とを一体に結合したものにおいて、
上記等速自在継手1は、内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器とを備えた固定式であり、
ヨーク50の筒部51の端部を内径側に塑性変形させて加締め部51aを形成し、この加締め部51aを内方部材20の軸部21に設けた溝状の係合部21cに隙間なく係止させることにより、上記軸部21とヨーク50とを一体に結合するとともに、上記軸部21と上記内輪23とは別部材にて構成した、上記軸部21とヨーク50とを一体に結合したもの。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特開2005-36865号公報)の記載事項

刊行物2には、「車両ステアリング装置用の等速ボール自在継手」に関し、図面(特に、図1?4、図7)とともに次の事項が記載されている。

(オ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2つの異なる向きの軸間に回転を伝達するための軸継手装置に関し、特に車両ステアリング装置用の等速ボール自在継手に関する。」

(カ) 「【0017】
図2は第一実施例の等速ボール自在継手2の正面断面図、図3は下側面図、図4における(A)は、図2のA-A断面図、(B)は同B-B断面図である。
【0018】
雄継手部材7には、円筒状をなす第1連結基部部分71と、この第1連結基部部分71の軸線上に設けられ、球状外面を有する外球面継手部分72とが備えられている。また、雌継手部材8には、円筒状をなす第2連結基部部分81と、この第2連結基部部分81の軸線上に設けられ、上記球状外面が嵌る球状空間823を有する内球面継手部分82とが備えられている。
【0019】
外球面継手部分72の球状外面には、外側ボール案内溝721が形成されており、内球面継手部分82の球状空間823内面には内側ボール案内溝821がそれぞれ形成されている。これら外側ボール案内溝721と内側ボール案内溝821とにはトルク伝達ボール881が嵌っており、これら案内溝によって案内される。外側ボール案内溝721、内側ボール案内溝821、トルク伝達ボール881の3者によって、回転が雄継手部材7と雌継手部材8との間に伝達でき、雄継手部材7と雌継手部材8との軸線方向が異なっていてもこのときの回転比を一定に保つことができる。
【0020】
ボール保持器882は、球状空間823に内側から、また、外球面継手部分72の球状外面に外側から嵌合しており、ボール保持器882に設けられた孔883内にトルク伝達ボール881を保持し、各案内溝からトルク伝達ボール881が離脱するのを防止している。
【0021】
第1連結基部部分71と上記第2連結基部部分81には、それぞれの円筒内部に達する少なくとも一つの幅1.5?6mm、好適には2?4mmのスリット711、811を備えており、このスリットの間を締め付けることにより等速ボール自在継手2はそれぞれ外部にあたる雄軸(等速ボール自在継手2への入力軸及びこれからの出力軸)と結合される。
【0022】
この締め付け構造は、以下のようである。すなわち、第1連結基部部分71と第2連結基部部分81とのスリット711、811の両側には、締め付けのための対をなすフランジ712、812がそれぞれ形成されており、フランジ712、812の各対には締め付け孔、この場合、一方にはボルト孔713、813が、他方にはバカ孔714、814、が同軸で形成されている。ボルト穴はJISのM8×1.25又はM10×1.25である。締め付けボルト21をバカ孔714、814側から通し、ボルト孔713、813に螺合させる。締め付けボルト21を締め付けることによりスリット711、811の間隔が狭まるため、雄軸(不図示)との間に結合関係が生じる。この結合は摩擦力によるものでもよいが、結合をより強固のものとするために、第1連結基部部分71と第2連結基部部分81との円筒内面には雌セレーション715、815が形成されており、雄軸の雄セレーションと幾何学的に係合させるようにしている。なお、セレーションに代えてスプライン、楕円形状、多角形等の形状による幾何学的拘束による結合も採用することができる。また、上記締め付け孔は両方をバカ孔とし、ボルトとナットで締め付けるようにしてもよい。」

(キ) 「【0027】
第三実施例
図7は、第三実施例の等速ボール自在継手2の正面断面図である。この実施例では、雄継手部材7を第1連結基部部分71と外球面継手部分72とを嵌合する2部品で構成し、嵌合部を溶接(溶接部73)したものである。他は第一、二実施例と同様なのでその説明を援用することとし、重複する説明を省略する。雄継手部材7の全長を長くする必要があるとき、この等速ボール自在継手2は、比較的低コストで製造できるメリットがある。第1連結基部部分71は冷間鍛造、温間鍛造、あるいは熱間鍛造及び機械加工により作られる。」

(3)刊行物3(特開2005-163118号公報)の記載事項

刊行物3には、「機械構造軸部品とその製造方法」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(ク) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波焼入れを施される機械構造用部品で、例えば等速ジョイント用アウターレース・ドライブシャフトなど、曲げ強度およびねじり強度が要求される機械構造軸部品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造用軸部品、例えば等速ジョイント用アウターレース型ドライビングシャフトをはじめとする自動車用のドライビングシャフトなどの動力用軸部品は、大きなねじり負荷と曲げ負荷とが繰り返し作用する環境下で使用されるため、静的強度と疲労強度とに優れていることが要求される。従来、こうした軸部品は、鋼材を熱間、温間あるいは冷間での加工(たとえば鍛造加工)により、所望の軸形状に成型された後、高周波焼入れにより表面に焼入れ硬化層を形成し、疲労強度を高めることが行われている。鋼材としては、例えばCを0.40?0.60質量%含有する中炭素鋼が一般的に使用されている。」

(ケ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、本発明の機械構造軸部品用鋼材により構成した、自動車用ドライビングシャフト機構に使用するスプラインシャフトの一例を示すものである。このスプラインシャフト12には、軸両端部にジョイント用の雄スプライン部64,66が形成されている。雄スプライン部64,66を含むシャフトの外周面全体に、高周波焼入れ硬化層12aが形成されている。
【0030】
この機械構造軸部品用鋼材の製造方法を説明する。まず、原料を溶解し鋳造する。鋳造時、鋳片中心部を2℃/分以上の冷却速度で凝固させ、製品圧延または鍛造により軸形状に加工する。製品圧延または鍛造は、分塊された素材を950?1050℃に加熱し、さらに加工中の温度を800?1050℃として行う。冷却速度を2℃/分とすることで、Nbを固溶した状態とし、また950?1050℃に加熱して製品圧延または鍛造を行うことにより、固溶しているNbを部分的に析出させることができ、これによって結晶微細化元素としての効果を得ることができる。
【0031】
次に雄スプライン部64,66の溝加工を転造あるいは切削により行う。さらに高周波焼入れ硬化層12aは、以下のようにして形成される。得られた軸部材を加熱用コイル内に挿入して、表層部を温度900?1100℃となるように周波数10kHzで高周波誘導加熱して10?40秒保持した後、水冷することにより高周波焼入れを行う。その後、大気炉にて180℃で60分保持した後、水冷することにより焼き戻し処理を行って、最終的な焼入れ硬化層12aとする。
【0032】
焼入れ硬化層の厚さtは、軸表面から半径方向において、マルテンサイト形成量50%に相当する硬さとなる位置までの距離にて定義される。この厚さtと軸半径Rとの比t/Rを硬化層比として定義したとき、このt/Rは、0.4?0.8、望ましくは0.5となるように調整した。t/Rがこの値から大きくずれると、ねじり疲労強度が却って低下する場合がある。」

(4)刊行物4(特開2001-280360号公報)の記載事項

刊行物4には、「等速自在継手の外側継手部材」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(コ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車や各種産業機械において動力伝達用に使用される等速自在継手の外側継手部材、およびその製造方法に関するものである。」

(サ) 「【0020】この外側継手部材1は、例えば中炭素鋼、あるいは浸炭鋼を材料として、図2の(a)?(h)の製造工程を経て製造される。上記鋼材料中の含有炭素量としては、0.4%?0.7wt%程度が望ましく、これに該当するものとして、中炭素鋼ではS48C、S50C、S53C、S55Cなどを、浸炭鋼ではSCr415などを挙げることができる。」

3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「等速自在継手1」は本願補正発明の「等速自在継手」に相当し、以下同様に、「内輪23」は「内輪」に、「軸部21」は「軸部」に、「ヨーク50」は「ヨーク部」に、それぞれ相当し、また、引用発明の「上記軸部21とヨーク50とを一体に結合したもの」は、その機能からみて、本願補正発明の「等速自在継手用シャフト」に相当する。
また、引用発明の「外径面に複数のトラック溝を形成した内方部材」は、具体的には、内方部材のうちの内輪23であるから、引用発明の「上記等速自在継手1は、内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器とを備えた固定式」であることは、本願補正発明の「前記等速自在継手は、内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内輪を有する内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器とを備えた固定式」であることに相当する。
更に、引用発明の「上記軸部21とヨーク50とを一体に結合する」ことと、本願補正発明の「前記軸部とヨーク部とを中炭素鋼にて一体成形する」こととは、「前記軸部とヨーク部とを一体にする」という点において共通する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「等速自在継手の内輪と嵌合する軸部と、ヨーク部とを備え、前記軸部に小径部を設けた等速自在継手用シャフトにおいて、
前記等速自在継手は、内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内輪を有する内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器とを備えた固定式であり、
前記軸部とヨーク部とを一体にするとともに、前記軸部と前記内輪とは別部材にて構成した、等速自在継手用シャフト。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
軸部の構成に関し、本願補正発明は、等速自在継手の内輪と嵌合する「スプラインが形成された」軸部であるにのに対して、刊行物1には、軸部21に、そのようなスプラインを形成することが明示的に記載されていない点において、本願補正発明の軸部と引用発明の軸部21とは、一応相違する点。

[相違点2]
ヨーク部の構成及び機能に関し、本願補正発明は、「リング状の嵌合部を有する」ヨーク部を備え、「締め付け部材の締め付けによる前記ヨーク部の嵌合部の縮径を可能とする」のに対して、引用発明は、「連結部52を設けた」ヨーク50を備えているものの、引用発明の上記連結部52が、本願補正発明のようなリング状の嵌合部で、本願補正発明のように機能するものであるか否か明らかでない点。

[相違点3]
軸部に小径部を設ける目的に関し、本願補正発明は、前記軸部に「等速自在継手の外方部材との接触を回避するための小径部を設けた」のに対して、引用発明は、軸部21に小径部を設けているものの、刊行物1には、引用発明の上記小径部を設ける目的が明示的に記載されていない点において、本願補正発明と引用発明とは、一応相違する点。

[相違点4]
軸部とヨーク部とを一体にする手段に関し、本願補正発明は、前記軸部とヨーク部とを「中炭素鋼にて一体成形する」のに対して、引用発明は、「ヨーク50の筒部51の端部を内径側に塑性変形させて加締め部51aを形成し、この加締め部51aを内方部材20の軸部21に設けた溝状の係合部21cに隙間なく係止させることにより」、上記軸部21とヨーク50とを「一体に結合する」点。

[相違点5]
高周波焼入れを施した硬化層に関し、本願補正発明は、「少なくとも前記小径部に高周波焼入れを施して硬化層を形成し、さらに、この硬化層深さをγとすると共に、小径部の軸径をdとしたときに、d/4≦γ≦d/2とした」のに対して、引用発明は、そのような高周波焼入れを施して硬化層を形成したものであるか否か明らかでない点。

4.当審の判断

(1)相違点1について

等速自在継手の内輪と軸部とをスプライン等のトルク伝達手段を介して結合することは、本願出願前に周知の技術であるから(例えば、特開2003-130082号公報(以下、「周知例1」という。)の段落【0019】を参照)、引用発明の軸部21に、トルク伝達手段としてのスプラインを形成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について

刊行物2の上記記載事項(カ)の段落【0018】には、「雄継手部材7には、円筒状をなす第1連結基部部分71と、この第1連結基部部分71の軸線上に設けられ、球状外面を有する外球面継手部分72とが備えられている。」と記載され、同じく段落【0021】には、「第1連結基部部分71……には、……スリット711……を備えており、このスリットの間を締め付けることにより等速ボール自在継手2はそれぞれ外部にあたる雄軸(等速ボール自在継手2への入力軸及びこれからの出力軸)と結合される。」と記載されている。
刊行物2記載の「第1連結基部部分71」は、その構成及び機能からみて、引用発明の「ヨーク50」に相当するものと認められる。
そして、刊行物2の上記記載とともに図面(特に、図4)の記載を参酌すれば、刊行物2記載の第1連結基部部分71は、上記相違点2に係る本願補正発明と同様に、リング状の嵌合部を有するものと認められる。
また、刊行物2の上記記載事項(カ)の段落【0022】には、「この締め付け構造は、以下のようである。すなわち、第1連結基部部分71……のスリット711……の両側には、締め付けのための対をなすフランジ712……が……形成されており、フランジ712……の各対には締め付け孔、この場合、一方にはボルト孔713……が、他方にはバカ孔714……が同軸で形成されている。……締め付けボルト21を締め付けることによりスリット711……の間隔が狭まるため、雄軸(不図示)との間に結合関係が生じる。」と記載されており、刊行物2の当該記載事項は、上記相違点2に係る本願補正発明の「締め付け部材の締め付けによる前記ヨーク部の嵌合部の縮径を可能とする」という機能に実質的に相当する。
そうすると、引用発明のヨーク50と刊行物2記載の第1連結基部部分71とは、ともに等速自在継手のヨークとして共通するから、引用発明のヨーク50に、刊行物2記載の第1連結基部部分71の構成及び機能を適用することによって、上記相違点2に係る本願補正発明のヨーク部の構成及び機能とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について

上記周知例1(特開2003-130082号)の図4の記載を参酌すれば、軸部に設けられた小径部は、「等速自在継手の外方部材との接触を回避するため」の構成であることは、当業者にとって自明というべきことであり、引用発明の軸部21の小径部を、等速自在継手の作動角に応じて外方部材との接触を回避するために適宜設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点4について

刊行物2の上記記載事項(カ)の段落【0018】の「雄継手部材7には、円筒状をなす第1連結基部部分71と、この第1連結基部部分71の軸線上に設けられ、球状外面を有する外球面継手部分72とが備えられている。」との記載及び図2の記載を参酌すれば、刊行物2記載の第一実施例の「第1連結基部部分71」は、引用発明の「ヨーク50」に相当し、また同様に、「外球面継手部分72」は、「軸部21及び内輪23」に相当するから、刊行物2記載の雄継手部材7は、引用発明のヨーク50と軸部21と内輪23とを一体成形したものに相当する。
また、刊行物2の上記記載事項(キ)の段落【0027】の「この実施例では、雄継手部材7を第1連結基部部分71と外球面継手部分72とを嵌合する2部品で構成し、嵌合部を溶接(溶接部73)したものである。」との記載及び図7の記載を参酌すれば、刊行物2記載の第三実施例の「第1連結基部部分71」は、引用発明の「ヨーク50」に相当し、また同様に、「外球面継手部分72」は、「軸部21及び内輪23」に相当するから、刊行物2記載の雄継手部材7は、引用発明のヨーク50と軸部21及び内輪23とを2部品で構成し、ヨーク50と軸部21とを溶接により一体に結合したものに相当する。
そして、軸部とヨークとを一体にする手段の観点からみれば、刊行物2記載の第一実施例のように、引用発明の軸部21とヨーク50とを一体成形するか、あるいは、刊行物2記載の第三実施例のように、引用発明の軸部21とヨーク50とを2部品で構成し、両者を溶接により一体に結合するかは、当業者が適宜選択し得る設計事項といえる。
更に、刊行物3の上記記載事項(ク)の段落【0002】には、機械構造用軸部品には、中炭素鋼が一般的に使用されている旨が記載され、また、刊行物4の上記記載事項(サ)の段落【0020】には、外側継手部材1は、中炭素鋼を材料として製造される旨が記載されており、これらの記載によれば、軸部を含む部品を中炭素鋼にて成形することは、本願出願前に周知の技術であるといえる。
そうすると、軸部とヨークとを一体にする手段として、刊行物2記載の第一実施例のものを適用することにより、引用発明の軸部21とヨーク50とを一体成形するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、また、その際の材料として、中炭素鋼を採用することも、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)相違点5について

刊行物3の上記記載事項(ケ)の段落【0029】には、雄スプライン部64,66を含むスプラインシャフト12の外周面全体に、高周波焼入れ硬化層12aが形成されている旨が記載され、また、同じく段落【0032】には、焼入れ硬化層の厚さtと軸半径Rとの比t/Rを硬化層比として定義したとき、このt/Rは、0.4?0.8となるように調整した旨が記載されている。
そして、軸部品のねじりや曲げに対する疲労強度を向上させることは、当業者が配慮すべき一般的な課題であるから、引用発明の軸部21において、強度的に劣る少なくとも小径部に、刊行物3記載の高周波焼入れ硬化層12aを形成するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、上記相違点5に係る本願補正発明において、「この硬化層深さをγとすると共に、小径部の軸径をdとしたときに、d/4≦γ≦d/2としたこと」は、刊行物3記載の焼入れ硬化層の厚さtと軸半径Rとの比t/Rに換算すれば0.5?1.0(軸の半径をr(d=2r)として式を整理すると、1/2≦γ/r≦1(すなわち、γ/rは0.5?1.0))となり、上記刊行物3記載のt/Rの数値範囲0.4?0.8とは、0.5?0.8の範囲で重複するものであって、具体的構成に基づいて上記数値範囲の最適な値を見いだすことは設計事項にすぎない。
更に、上記数値範囲の下限値d/4に臨界的意義があるとはいえないし、また、上限値d/2は、小径部の径方向全範囲を硬化層とすることを意味するから、構造上の自明の上限値である。

(6)作用効果について

本願補正発明が奏する作用効果は、いずれも刊行物1ないし4に記載された発明及び上記各周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(7)まとめ

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし4に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(8)審判請求人の主張について

審判請求人は、平成23年4月4日付けで提出した審判請求書の請求の理由において、「刊行物1に記載のようにヨークと軸部と内輪とを別体としたものにおいて、刊行物2に接した当業者では、この刊行物2に記載の等速自在継手の利点をいかして、内輪と軸部とは一体化を維持したまま、軸部とヨークとを一体化するものとなる。すなわち、内輪と軸部(シャフト)とを別体に成形することは高作動角化を図る上で重要であり、シャフトとヨークとを一体化する際、内輪とシャフトが一体である刊行物2を適用したとしても、当業者といえども内輪とシャフトとを別体とする構成を導出することはできない。」((3)d.の項を参照)と主張するとともに、当審における審尋に対する平成23年9月1日付けの回答書においても同趣旨の主張をしている。
しかしながら、そもそも、刊行物1記載の発明(引用発明)の軸部21と内輪23とは別部材にて構成されており、このように軸部21と内輪23とを別部材にて構成するか、あるいは、刊行物2記載の発明のように、内輪と軸部とを一体化した外球面継手部分72とするかは、それぞれの利点と欠点とを考慮した上で、当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎないというべきである。また、ヨークと軸部とを一体とし、軸部と内輪とを別体とすることは周知の技術である(例えば、特開2005-133784号公報の段落【0020】、【0024】及び図1?3を参照)。
そうすると、上記「(4)相違点4について」で説示したように、軸部とヨークとを一体にする手段として、刊行物2記載の第一実施例のものを適用する際に、刊行物1記載の発明(引用発明)の軸部21と内輪23とが別部材にて構成されたものとすることは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成23年4月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成22年4月21日付け及び平成22年10月13日付けの手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
等速自在継手の内輪と嵌合するスプラインが形成された軸部と、リング状の嵌合部を有するヨーク部とを備え、締め付け部材の締め付けによる前記ヨーク部の嵌合部の縮径を可能とすると共に、前記軸部に等速自在継手の外方部材との接触を回避するための小径部を設けた等速自在継手用シャフトにおいて、
前記軸部とヨーク部とを中炭素鋼にて一体成形するとともに、前記軸部と前記内輪とは別部材にて構成し、少なくとも前記小径部に高周波焼入れを施して硬化層を形成し、さらに、この硬化層深さをγとすると共に、小径部の軸径をdとしたときに、d/4≦γ≦d/2としたことを特徴とする等速自在継手用シャフト。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし4とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、「等速自在継手」についての限定事項である「前記等速自在継手は、内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内輪を有する内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、外方部材と内方部材との間に配置してボールを保持する保持器とを備えた固定式であり」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定的に減縮した本願補正発明が、上記【2】3.及び【2】4.に記載したとおり、刊行物1ないし4に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1ないし4に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1ないし4に記載された発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-05 
結審通知日 2012-01-10 
審決日 2012-01-23 
出願番号 特願2005-250161(P2005-250161)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
所村 陽一
発明の名称 等速自在継手用シャフト  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  

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