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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1253159 |
審判番号 | 不服2007-21367 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-08-02 |
確定日 | 2012-03-08 |
事件の表示 | 平成10年特許願第 72449号「IL-6アンタゴニストを有効成分として含有する感作T細胞関与疾患の予防・治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月 8日出願公開、特開平10-324639〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成10年3月20日(優先権主張平成9年3月21日)の出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】インターロイキン-6(IL-6)受容体に対する抗体を有効成分として含有する,多発性硬化症,ぶどう膜炎,慢性甲状腺炎,遅延性過敏症,接触性皮膚炎またはアトピー性皮膚炎である感作T 細胞関与疾患の予防または治療剤。」 (以下「インターロイキン-6」を単に「IL-6」と記載することもある。) 2.引用刊行物及びその記載事項 これに対して,当審で通知した平成23年9月9日付け拒絶理由通知書に引用された,本願優先権主張日前に頒布されたことが明らかな刊行物A?F,及び,各刊行物の記載事項は以下のとおりである。 刊行物A:特開平8-208514号公報 刊行物B:国際公開第95/27499号 刊行物C:特表平7-502977号公報 刊行物D:国際公開第96/40230号 刊行物E:国際公開第96/06068号 刊行物F:特開平3-141261号公報 (1)刊行物A(特開平8-208514号公報)の記載事項 (A-1)特許請求の範囲 「【請求項1】 インターロイキン-6アンタゴニストを有効成分とする慢性関節リウマチ治療剤。 … 【請求項5】 前記インターロイキン-6アンタゴニストがインターロイキン-6レセプターに対する抗体であることを特徴とする請求項1の慢性関節リウマチ治療剤。」 (A-2)【0069】?【0071】 「【0069】実施例2.マウス関節炎モデルでの関節炎発症に対するIL-6レセプター抗体の抑制効果を調べた。0.1N酢酸水溶液に溶解したウシII型コラーゲン(コラーゲン技術研究会)溶液(4mg/ml)と完全アジュバントH37Ra(DIFCO)を等量ずつ混合し,アジュバントを作成した。このアジュバント100μlを8-9週令の雄性DBA/1Jマウス(日本チャールズリバー)の尾根部の皮下に注射した。更に,21日後に背部皮下に100μlを注射して関節炎を誘導した。 【0070】マウスIL-6レセプター抗体MR16-1は,1回目のコラーゲン感作時にマウス一匹あたり2mgを静脈内投与し,その後1週間毎に,マウス一匹あたり0.5mgを7週間皮下注射した(n=5)。なお,コントロールとして同じアイソタイプの抗DNP抗体KH-5(中外製薬)を使用した(n=5)。関節炎発症の程度は,関節炎点数(arthritic index)で評価した。一肢につき4点満点,一個体16点満点で評価した。評価の基準は以下のとおりである。0.5:関節の一箇所に紅斑が観察される。1:関節の二箇所に紅斑が観察される,または甲が赤変しているが腫張は認められない。2:軽度の腫張が認められる。3:手足の甲に重度の腫張が認められるが,全ての指にそれが至らない。4:手足の甲および指に重度の腫張が認められる。 【0071】結果を図4に示す。IL-6レセプター抗体投与群ではコントロール抗体投与群に比べて関節炎発症初期から関節炎の発症が明らかに抑制された。一方,マウスの血中抗II型コラーゲン抗体価を測定した結果,IL-6レセプター抗体投与群ではコントロール抗体投与群に比べて関節炎発症初期から著明に減少していた(図5)。」 (2)刊行物B(国際公開第95/27499号)の記載事項(英文のため訳文で記載する) (B-1)明細書第1頁16?24行 「哺乳動物の自己免疫疾患は,関連する免疫応答(または免疫反応)のタイプに基づいて,一般に異なる二つのカテゴリー,すなわち細胞仲介性(T細胞仲介性)疾患と抗体仲介性疾患の一方に分類される。細胞仲介性自己免疫疾患の非限定的な例は,多発性硬化症(MS),慢性関節リウマチ(RA),…および…を含む。」 (B-2)明細書第11頁20?26行 「感染しやすい哺乳動物の後根尾部へ,油中のヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)またはフロイント完全アジュバントを用いて免疫することは,ヒト慢性関節リウマチのモデルとして使用される疾患を誘発する。同様に,タイプIIコラーゲンと共にアジュバントで免疫しても,ヒト慢性関節リウマチのモデルとして使用できる疾患(コラーゲン誘発関節炎すなわち“CIA”)を誘発する。」 (B-3)明細書第43頁36行?第44頁6行 「実施例8:ラットのアジュバント関節炎(adjuvant Arthritis)の誘発における経口β-インターフェロンの効果 体重120-140gの雌のルイスラットに,上述した量のコラーゲンタイプII(CII)および/または5000単位のβインターフェロンを免疫前-10日目から一日おきに給餌した。0日目に,1mg/0.1mlのヒト結核菌(MT)を同様に注入した。+10日目から,関節炎の兆候に関して0から4までのスケールで評価した。各動物の関節炎のスコアは,4本の足のスコアの合計とした。 この結果を図9に示す。」 (B-4)明細書第46?47頁 「1.T細胞仲介型もしくはT細胞依存型の自己免疫疾患であると診断された哺乳動物を治療する方法であって,該方法は工程: 哺乳動物に,一定量の(i)バイスタンダー抗原を,一定量の(ii)タイプIインターフェロン活性を備えたポリペプチドと共に,前記一定量の(i)および(ii)が,組み合わせた場合に前記哺乳動物の自己免疫反応を抑制するのに効果的である量で経口または経腸投与することからなる,方法。 … 6.前記哺乳動物がヒトであって,前記疾患が多発性硬化症である,請求項1記載の方法。 … 11.前記疾患が,慢性関節リウマチおよびその動物モデルからなる群から選択され,前記バイスタンダー抗原が,タイプIコラーゲン,タイプIIコラーゲン,タイプIIIコラーゲン,これらのコラーゲンのフラグメント,およびこれらの少なくとも二つの組み合わせからなる群から選択された,請求項1記載の方法。」 (3)刊行物C(特表平7-502977号公報)の記載事項 (C-1)公報第2?3頁(請求の範囲43?52) 「43.免疫関連疾患から被験者を防御することができる防御T細胞を製造する方法であって、 (a)該被験者からT細胞を取出し; (b)工程(a)のT細胞を、請求項1に記載のペプチドの存在下の培養中で増大させて防御T細胞を生じ: (c)工程(b)の該増大したT細胞から該防御T細胞を製造する工程を含む上記方法。 … 51.前記の疾患が自己免疫疾患である請求項43…に記載の免疫関連疾患を治療する方法。 52.前記の自己免疫疾患が多発性硬化症である請求項51に記載の方法。」 (C-2)公報第3頁左下欄14?20行 「増加しつつあるヒト疾患は性質から自己免疫として分類がなされる…が,幾つかの例としてリウマチ性関節炎(RA),…多発性硬化症(MS),…が挙げられる。」 (C-3)公報第10頁右下欄16?18行 「多数のヒトおよび動物モデルの自己免疫疾患と関連する抗原は現在のところ公知である。タイプIIコラーゲンおよび結核菌65kDヒートショックタンパク質はリウマチ性関節炎と関連する抗原である。」 (4)刊行物D(国際公開第96/40230号)の記載事項(英文のため訳文で記載する) (D-1)明細書第1頁14?30行 「本発明は、自己免疫疾患およびアレルギー応答と結びつけられた免疫応答を阻害するための新規の組成物および方法に関する。… 望ましくない免疫応答が関与する数多くの病的応答が知られている。例えば、数多くのアレルギー疾患が特定のMHC対立遺伝子と関連づけられたり、あるいは自己免疫成分を有するのではないかと疑われている。その他の有害なT細胞媒介応答としては、異質遺伝子型宿主からの移植片または移植体として体内に、故意に導入される外来性細胞の破壊を含む。「同種移植片拒絶反応」として知られるこのプロセスには、外来性MHC分子と宿主T細胞との相互作用が関与する。広範囲のMHC対立遺伝子が同種移植片に対する宿主の応答に関与していることが非常に多い。」 (D-2)明細書第16頁29行?第17頁20行 「 慢性関節リウマチ(RA) ヒトにおいて,慢性関節リウマチに対する罹病性は,HLA D/DRと結びつけられる。ネイティブII型コラーゲンに対するマウス中の免疫応答が,ヒトRAに類似した多数の組織学的および病理学的特徴をもつ関節炎のための実験的モデルを確立するために用いられている。マウスにおけるコラーゲン誘発関節炎(CIA)に対する罹病性が,H-2 I領域,特にI-Aサブ領域にマップされている。… 別のモデルにおいては,ラットにおけるアジュバント関節炎が,ヒト関節炎の実験的モデルであり,そして細菌抗原により誘発された自己免疫関節炎のプロトタイプである…。アジュバント(MT)に対して反応性であるT細胞のクローンによるその伝染性により立証されるように,この疾患は,細胞媒介免疫応答の結果である;… ラットにおけるアジュバント病は,Pearsonによる記載のように,すなわち,いくつかのデポー部位内に,好ましくは皮内または足または尾の基部へ与えられるフロイントアジュバント(殺菌した結核菌またはその化学的分画,鉱油,および乳化剤)の単回注射により生み出される。アジュバントは,その他の抗原の非存在下で与えられる。」 (D-3)明細書第45頁12?25行 「24.患者における有害な免疫応答を阻害する方法であって,該患者に,アジュバントおよび免疫原性MHCポリペプチドを含む,免疫学的に有効量の薬学的組成物を投与する工程を包含する,方法。 25.前記有害な免疫応答が自己免疫疾患である,請求項24に記載の方法。 26.前記自己免疫疾患が多発性硬化症である,請求項25に記載の方法。 27.前記自己免疫疾患が慢性関節リウマチである,請求項25に記載の方法。」 (5)刊行物E(国際公開第96/06068号)の記載事項 (E-1)要約(式の下第5?14行) 「…本発明化合物,その光学異性体またはその塩はすぐれた免疫抑制作用を示し,たとえば…,関節リウマチ…,多発性硬化症…等の自己免疫疾患等における予防または治療剤として有用である。」 (E-2)第266?267頁「実験例7?8」 「実験例7(ラットアジュバント関節炎に対する抑制作用) アジュバントとして結核死菌(R35Hv-1株)0.5mgを0.1mlの流動パラフィンに懸濁し,8週齢のLEW系雄性ラットの尾根部皮下に接種する。アジュバント接種後21日目まで関節炎の発症の有無を観察し,関節炎の発症日および発症率を求める。また,足容積測定装置(TK-102;ニューロサイエンス株式会社)を用いてラットの右後肢足蹠の腫脹を経時的に測定する。さらに,21日目にラットの後肢のレントゲン写真を撮影し,関節破壊の程度を判定する。被験化合物はアジュバント接種日から21日間連日経口または静脈内投与する。 … 実験例8(ラットコラーゲン関節炎に対する抑制作用) 7?8週例のSprague-Dawley系雄性ラットにウシII型コラーゲンを2mg/ml含有する0.1N酢酸溶液とFreundの不完全アジュバントを容積比1:1で混和して作製したエマルジョンの1mlを皮内5箇所に分割して注射する。7日後に同様に作製したコラーゲンエマルジョンの0.2mlを尾根皮内に注射して追加免疫を行う。ラットの右後肢足蹠の腫脹を足容積測定装置(TK-102;ニューロサイエンス株式会社)を用いて経時的に測定する。 また,コラーゲンによる初回免疫後10日目および21日目に血液を採取し,血清中の抗II型コラーゲン抗体価をELISA法を用いて測定する。被験化合物は初回免疫日から21日間連日経口または静脈内投与する。」 (5)刊行物F(特開平3-141261号公報)の記載事項 (F-1)公報第24頁右上欄17行?左下欄末行 「目的化合物[I]とその塩は強い抗炎症,鎮痛,抗血栓作用を有し,ヒトあるいは動物での…,自己免疫疾患,種々の免疫疾患…の治療および/または予防に有用であり,特に関節・筋肉の炎症と疼痛[たとえば,慢性関節リウマチ,リウマチ性を椎炎,骨関節炎,痛風性関節炎など],…などの治療および/予防用剤として有用である。」 (F-2)公報第24頁右下欄6?第25頁左下欄末行 「[A]抗炎症作用 ラットのアジュバント関節炎に対する作用: (i)試験方法: 1群10匹の雌性スプラーグ・ドーリー系ラットを用いた。ヒト結核菌(青山B株)0.5mgを流動パラフィン0.05mlに懸濁し右後肢足に皮下注射した。マイコバクテリアアジュバントの注射によって局所の変症性変化(-次病変)が生し、約10日後に、注射をした足および注射をしなかった足の両方に二次病変が生した。アジュバントの注射前後の定容積の差が関節炎の指標であった。薬物は1日目から1日1回、連続23日間投与した。 … [C]抗リウマチ作用: マウスにおけるコラーゲン惹起性関節炎に対する作用: (i)試験方法: 1群8匹の雄性DBA/1マウスを用いた。II型ウシコラーゲンを0.1M酢酸に可溶化し,フロイント完全アジュバント(CFA)に乳化した。CFA中のII型コラーゲン0.2mgをマウスの尾根部に皮内投与した。21日後に同じ方法で誘発した。誘発後10日日から薬物を1日1回,3週間経口投与し,関節炎の肉眼的徴候を週1回観察した。関節炎指数を用いて肢症状を0-3に段階づけし,関節腫脹と紅斑(段階1),目に見える関節障害(段階2),検出しうる関節強直(段階3)とした。」 3.対比 刊行物Aには,その請求項1には「インターロイキン-6アンタゴニストを有効成分とする慢性関節リウマチ治療剤」と記載されていて(A-1),さらに請求項5には「前記インターロイキン-6アンタゴニストがインターロイキン-6レセプターに対する抗体であることを特徴とする請求項1の慢性関節リウマチ治療剤」と記載されている(A-1)ことから,これらを併せ解釈すると,結局,刊行物Aには,「インターロイキン-6受容体抗体を有効成分とする慢性関節リウマチ治療剤」(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。 ここで,本願発明と引用発明とを対比すると,「インターロイキン-6レセプター」は「インターロイキン-6受容体」と同義であることから,両者はともに「IL-6受容体抗体を有効成分とする治療剤」の点で一致し,次の点で相違する。 [相違点] 対象とする疾患が,引用発明は「慢性関節リウマチ」であるのに対して,本願発明は「多発性硬化症,ぶどう膜炎,慢性甲状腺炎,遅延性過敏症,接触性皮膚炎またはアトピー性皮膚炎である感作T 細胞関与疾患」とされている点 4.当審の判断 上記相違点について検討する。 まず,本願発明は,対象疾患については「多発性硬化症,ぶどう膜炎,慢性甲状腺炎,遅延性過敏症,接触性皮膚炎またはアトピー性皮膚炎である感作T 細胞関与疾患」とされているが,ここでいう『感作T細胞関与疾患』とは,多発性硬化症を始めとする5つの疾患を意味するものと解されることは明らかであるから,仮に,引用発明に係る治療剤を,多発性硬化症の治療剤とすることが当業者にとって容易といえるならば,本願発明は容易になし得たといえる。 そして,引用発明が記載されている刊行物Aには,慢性関節リウマチが,活性化されたT細胞が関与する自己免疫疾患の一つであることについて明記がなされているものではない。 しかしながら,以下に示すように, (ア)慢性関節リウマチが多発性硬化症とともにT細胞関連の自己免疫疾患の一つであること,及び, (イ)刊行物Aにおいて「慢性関節リウマチ」に対する治療効果を確認した試験のうち実施例2の試験が,T細胞関連の自己免疫疾患の治療効果を確認する試験であること, は何れも,本願優先権主張の日前において当業者にとってよく知られていた事項である。 すなわち,(ア)については,例えば,刊行物B?Dは何れもT細胞関連の自己免疫疾患の治療剤について記載された文献である((B-4),(C-1)及び(D-1)参照)が,該刊行物B?Dに, 「細胞仲介性自己免疫疾患の…例は,多発性硬化症(MS),慢性関節リウマチ(RA)…」(B-1), 「増加しつつあるヒト疾患は性質から自己免疫として分類がなされる…が,幾つかの例としてリウマチ性関節炎(RA),…多発性硬化症(MS),…が挙げられる。」(C-2),及び, 「24.患者における有害な免疫応答を阻害する方法であって,該患者に,…免疫学的に有効量の薬学的組成物を投与する工程を包含する,方法。 25.前記有害な免疫応答が自己免疫疾患である,請求項24に記載の方法。 26.前記自己免疫疾患が多発性硬化症である,請求項25に記載の方法。 27.前記自己免疫疾患が慢性関節リウマチである,請求項25に記載の方法。」(D-3)と, それぞれ記載されている。(刊行物E(E-1)及び刊行物F(F-1)にも同趣旨のことが記載されている。) さらに,(イ)については,刊行物Aの実施例2(A-2)の試験は,ウシII型コラーゲンで関節炎を誘発させたマウスをモデル動物として,その治療効果を確認するものであるが,このようなマウスが,T細胞関連の自己細胞免疫疾患の治療効果を確認するモデル動物であることは,例えば,何れもT細胞関連の自己免疫疾患の治療剤について記載された刊行物B?Dに, 「感染しやすい哺乳動物の後根尾部へ,…免疫することは,ヒト慢性関節リウマチのモデルとして使用される疾患を誘発する。同様に,タイプIIコラーゲンと共にアジュバントで免疫しても,ヒト慢性関節リウマチのモデルとして使用できる疾患(コラーゲン誘発関節炎すなわち“CIA”)を誘発する。」(B-2), 「多数のヒトおよび動物モデルの自己免疫疾患と関連する抗原は現在のところ公知である。タイプIIコラーゲン…はリウマチ性関節炎と関連する抗原である。」(C-3),及び, 「ヒトにおいて,慢性関節リウマチに対する罹病性は,HLA D/DRと結びつけられる。ネイティブII型コラーゲンに対するマウス中の免疫応答が,ヒトRA(審決注;「RA」とは慢性関節リウマチの意。)に類似した多数の組織学的および病理学的特徴をもつ関節炎のための実験的モデルを確立するために用いられている。」(D-2), とそれぞれ記載されていることによっても示されるものであるし,かつ,実際にも利用されていたものである((B-3),(E-2)及び(F-2)など参照)。 このように,引用発明が記載された刊行物Aには,引用発明が対象とする疾患である慢性関節リウマチが,T細胞が関与する自己免疫疾患である旨について明記されていないが,そもそも慢性関節リウマチがT細胞関連の自己免疫疾患の一つとして当業者に周知されていて,しかも,刊行物Aに示された試験がT細胞関連の自己免疫疾患の治療効果を確認するモデル動物として,これまた当業者に周知されていたものであるならば,従来から慢性関節リウマチとは,T細胞関連の自己免疫疾患として共通するものと同列的に論じられてきた多発性硬化症に対して,引用発明に係る治療剤を使用することは,当業者が容易になし得ることといわざるを得ないものである。 したがって,引用発明に係る慢性関節リウマチに対する治療剤を,多発性硬化症に対する治療剤として使用することは当業者が容易になし得たものといえる。 また,本願発明の効果についても,当業者が予期し得ない格別のものとすることができない。 なお,請求人は,平成23年11月14日付け意見書において,慢性関節リウマチはT細胞以外の作用が関与することが知られていることから,T細胞の抑制だけで解決する問題ではないことを指摘し,刊行物AのCIAモデルの効果から短絡的にT細胞が関与すると思われる疾患全てに効果を示すとは到底考えることはない旨主張している。 しかしながら,慢性関節リウマチの発症にはT細胞以外の作用機序が関与することが知られていたとしても,T細胞関与の作用機序に基づいて発症することも広く認識されていたことは上記したとおりであって,しかも,引用発明において,その治療効果を確認するために使用した動物モデルも,T細胞関連の自己免疫疾患に対するモデルとして汎用されているものであることも上述したとおりである上,さらに対象疾患についても,従来より,T細胞関連の自己免疫疾患として,刊行物A記載の慢性関節リウマチと同列的に論じられてきた多発性硬化症であるならば,刊行物Aの記載に接した当業者であれば,当然に同様な治療効果を期待し投与することを考えるものといえるから,上記請求人の主張は採用できない。 なお,本願明細書において,本願発明に係る効果を裏付ける客観的なデータとして示されているものは,T細胞関連の自己免疫疾患の治療効果を確認する試験として,本願優先権主張の日前において,刊行物Aの実施例2の試験とともに当業者に周知されていた試験である,ミコバクテリウム・ブチリカム(審決注;結核菌の意。)の死菌により発症させたモデル動物(例えば,(B-2),(C-3),(D-2),(E-2)及び(F-2)参照)を用いた試験のみであり,より具体的に多発性硬化症等,本願発明において特定された各疾患に対する効果を確認したものであるとすることができない。 5.むすび 以上のとおり,本願発明は,上記刊行物A及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 以上 |
審理終結日 | 2011-12-22 |
結審通知日 | 2012-01-10 |
審決日 | 2012-01-23 |
出願番号 | 特願平10-72449 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大久保 元浩 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
内藤 伸一 荒木 英則 |
発明の名称 | IL-6アンタゴニストを有効成分として含有する感作T細胞関与疾患の予防・治療剤 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 福本 積 |