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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1253160
審判番号 不服2007-35086  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-27 
確定日 2012-03-08 
事件の表示 特願2003- 16358「ポリフェノール含有飲料の沈殿防止方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月12日出願公開、特開2004-222640〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,平成15年1月24日を出願日とする特許出願であって,平成19年7月20日付けで拒絶理由通知が出され,同年9月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,当審において,平成23年6月7日付で拒絶理由通知書を出したところ,同年8月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され,さらに,同年10月6日付けで最後の拒絶理由通知書を出したところ,同年11月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成23年11月29日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成23年11月29日付け手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本件発明
本件補正は,補正前(平成23年8月3日付け手続補正)の
「【請求項1】
ポリフェノール含有飲料(但し,グアバ,クワ,ビワ及びイチョウから選ばれる植物抽出物を含有する飲料を除く)にクエン酸の塩又はそれらを含む天然物を配合し,且つ当該飲料のpHを5.0より大きく7.0以下の範囲に調整することを特徴とする,ポリフェノール含有飲料の沈殿防止方法。」

「【請求項1】
ポリフェノール含有飲料(但し,グアバ,クワ,ビワ及びイチョウから選ばれる植物抽出物を含有する飲料を除く)にクエン酸の塩又はそれらを含む天然物を配合し,且つ当該飲料のpHを5.0より大きく7.0以下の範囲に調整することを特徴とする,ポリフェノール含有飲料におけるポリフェノール沈殿防止方法。」と補正することを含むものである。
なお,下線は,補正箇所を示す。以下,補正後の請求項1に係る発明を「補正発明」という。

当該補正は,補正により沈殿の種類を「ポリフェノール沈殿」とするものである。

2 新規事項について
(1)本願明細書記載の事項
そこで,沈殿について願書に最初に添付した明細書及び図面(以下,「当初明細書」という。)の記載事項を精査する。
当初明細書には,次の事項が記載されている。
(本-1)「【0004】
緑茶飲料やコーヒー飲料等,飲料としての商品化が以前から行なわれているものについては,沈殿の原因についても多数の報告がなされており,1つの要因として,製品保存時における抽出液中のポリフェノールの重合(ポリフェノールと他の成分,例えば蛋白質との重合も含む)が挙げられており,このため,遠心分離,珪藻土濾過(特許文献2参照),吸着樹脂等によるポリフェノール等の吸着(特許文献3参照),タンナーゼ処理によるタンニンの分解(特許文献4参照),EDTAやグルコン酸等のキレート剤若しくはイオン交換樹脂による鉄やカルシウム等の無機塩類の除去(特許文献5参照),無機塩類の添加による沈殿物の除去等,さまざまな沈殿抑制法が報告されている。
【0005】
しかしながら,これらポリフェノール含有飲料では,ポリフェノールが呈味成分や各種生理活性の有効成分として働いている場合も多いため,その除去は風味劣化や製品の有用性の低下が生じてしまうこともあった。具体的には,遠心分離や無機塩の添加塩類の除去では経時的な沈殿の抑制効果が全くないかほとんどなく,珪藻土濾過,ポリフェノール吸着樹脂による濾過,タンナーゼ処理によるタンニン類の分解,無機塩類の添加による澱出しでは,茶類飲料の呈味成分や有効成分であるポリフェノール類の量が低下してしまうため,適用の範囲が限られていた。このように従来の製造方法では,呈味成分やポリフェノール含量を維持しながら沈殿の発生を抑制した状態でポリフェノール含有飲料を長期保存するのは困難であった。」

(本-2)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は,ポリフェノール含有飲料について,その呈味成分やポリフェノール含量を低下させることなく,しかも風味を維持したまま,長期にわたり沈殿の発生を抑制する方法,及び当該沈殿の発生が抑制された安定な飲料を提供することを目的とする。」

(本-3)「【0022】
得られたポリフェノール含有飲料は,PETボトル等の透明容器,紙容器,缶容器等に充填し,容器形態によっては後殺菌を行って製品とすることができ,斯かる製品は,長期保存してもその呈味成分やポリフェノール含量が低下せず,しかも風味を損なうことなく,沈殿や白濁を生じることもない。」

(本-4)「【0069】
【発明の効果】
本発明の沈殿防止方法によれば,ポリフェノール含有飲料について,その呈味成分やポリフェノール含量を低下させることなく,しかも風味を損なうことなく,長期にわたり沈殿の発生を抑制することができ,沈殿の発生が抑制された商品価値の高い安定な飲料を提供することができる。」

(本-5)「【0056】
【表6】


【0057】
表6から明らかなように,本発明品6のポリフェノール類の量は,比較品4と比べてほとんど変わらず,また,その風味を保っていた。」

(本-6)「【0058】
試験例7沈殿量の測定(1)
実施例6と比較例4で得たコーヒー飲料を37℃で6ヶ月間静置保存し,沈殿の発生時期と沈殿量を調べた。結果を表7に示す。
【0059】
【表7】


【0060】
表7から明らかなように,比較品2では約3ヶ月で沈殿が発生するのに対し,本発明品6では沈殿がほとんど発生しなかった。」

(本-7)「【0061】
試験例8
実施例6と比較例4で得たコーヒー飲料について,苦渋味が変わりないかどうかをパネル10名の官能検査によって比較した。比較品4を基準とし,本発明品6と比較品4についてその苦渋味の強度を5階の評点で評価した。その結果は表8に示すとおりであった。
【0062】
【表8】


【0063】
表8から明らかなように,本発明品6は比較品4と比べ,コーヒー飲料の風味の重要な要素である苦渋味の強度について低下することがなかった。また5%の危険率で有意差はみられなかった。」

(本-8)「【0064】
試験例9沈殿量の測定(2)
実施例6?10及び比較例5及び6で得たコーヒー飲料を37℃で6ヶ月間保存し,沈殿の発生時期と沈殿量を調べた。結果を表9に示す。
【0065】
【表9】


【0066】
表9から明らかなように,本発明品6?10は比較品5及び6と比べ,沈殿がほとんど発生しなかった。このことからpHが5.0を下回るか7.0を超えると沈殿防止効果が弱まってしまうことがわかった。また,pH5.5?6.8,特に5.7?6.6で沈殿防止効果が顕著であった。」

(本-9)「【0067】
試験例10風味評価
試験例9で沈殿量を測定したコーヒー飲料について,以下の指標に従い,パネル10人の官能評価を行った。結果を表10に示す。
<指標>
+2:風味がよい,+1:風味がややよい,0:普通,
-1:風味がやや悪い,-2:風味が悪い
【0068】
【表10】


(2)新規事項についての検討
(本-5)?(本-9)記載の実施例をみても,結果的に沈殿が抑制されたことは確認されているが、抑制された沈殿がポリフェノール沈殿であることを分析したデータは提示されておらず、沈殿の成分自体不明である。
また、(本-2)?(本-4)、沈殿について言及はあるが、ポリフェノール沈殿との明示の記載はない。
そして、(本-1)に「緑茶飲料やコーヒー飲料等,飲料としての商品化が以前から行なわれているものについては,沈殿の原因についても多数の報告がなされており,1つの要因として,製品保存時における抽出液中のポリフェノールの重合(ポリフェノールと他の成分,例えば蛋白質との重合も含む)が挙げられており」と記載されているように、ポリフェノールの重合は、沈殿の一つの要因となっていたことが理解されるが、要因の一つであるからポリフェノールが全く含まれない沈殿がある可能性も否定できず、これまでの当初明細書の記載事項からは、防止する沈殿の対象が「ポリフェノール沈殿」であるとまではいえない。
しかし、(本-1)に「EDTAやグルコン酸等のキレート剤若しくはイオン交換樹脂による鉄やカルシウム等の無機塩類の除去(特許文献5参照)・・・等,さまざまな沈殿抑制法が報告されている。」と特許文献5(特開平10-165096号公報)が引用されており、特許文献5の段落【0002】には,次のように記載されている。
「【従来の技術】茶飲料,特に緑茶飲料は製造後の長期保存において濁りや沈澱を生じることがあり,このことは特に透明容器詰め飲料とする場合に問題であった。この現象は茶葉に含まれるポリフェノール,カフェイン,タンパク質,ペクチン,多糖類,カルシウムイオン等の様々な成分が関与していると言われており,特に茶葉に含まれる金属イオンは,同じく茶葉に含まれるタンパク質,ペクチン,ポリフェノール等と結合して沈澱物を形成するために問題視されてきた。すなわち,茶葉に含まれる金属イオンを除去することは茶飲料における沈澱物生成阻止の重要な鍵であった。」
つまり,金属イオンは,ポリフェノールと結合して沈殿を形成するが,ポリフェノール以外にもタンパク質やペクチンと結合しても沈殿を形成することが理解され,これらを原因物質する沈殿も同時に起きることが理解される。
そうすると、本件補正の「ポリフェノール沈殿」とは、ポリフェノール単独の成分からなる沈殿を意味するのではなく、「ポリフェノールをその成分の一部に含む沈殿」と解釈するのが技術常識からみて自然なことといえる。
さらに、下記刊行物A?Eに記載のように、ポリフェノール飲料をコーヒーに限ってみても、長期保存により生じる沈殿は、ポリフェノールが関与することが本出願前から技術常識となっており、「ポリフェノールをその成分の一部に含む沈殿」と解釈することとに反するものではない。

以上のことを総合すると、(本-1)の記載事項及び本出願前の技術常識を参酌すれば、沈殿の防止対象として、「ポリフェノール沈殿」、すなわち、ポリフェノールをその成分の一部に含む沈殿が必ず含まれていると理解されるから、上記補正事項は、本出願前の技術常識からみて自明なことであるといえる。
よって、本件補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができ,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第3項の規定を満たすものである。

刊行物A:特開平4-45745号公報
(刊A-1)「 それらの形態の中で,コーヒー抽出液は,コーヒー製造業者がコーヒー豆からコーヒーを抽出し,容器に充填して販売されている。このコーヒー抽出液は高温で瞬間殺菌又はレトルト殺菌において,濁り及びくすみか発生しやすく,商品の致命的な欠陥になりかねない。
この濁りの発生メカニズムの詳細は不明であるが,コーヒーの場合,繊維質,蛋白質,ポリフェノール類等が関与していると考えられる。」(1頁右下欄4?11行)

刊行物B:特開昭64-37251号公報
(刊B-1)「コーヒーなどを長時間保存しておくと濁りやおりなどの沈澱が生ずることがあり問題となることが多く,沈澱の発生が商品の致命的欠陥となることが多い。
しかし,コーヒーなどの溶液の沈澱は,長時間保存しなければ現れず,しかも冷やしたとき生じやすいため,製造時に気付かず出荷し,消費者の手に渡った後で見つかることもあり,その解決が望まれる。
沈澱の原因物質としてポリフェノール類が関与している。すなわち,ポリフェノール類を含有する飲料などの溶液を長時間保存しておくとポリフェノール類が重合,結晶化して沈澱を生ずると考えられる。」(1頁左下欄下から2行?同頁右下欄8行)

刊行物C:特開平1-165357号公報
(刊C-1)「コーヒーなどを長時間保存しておくと濁りやおりなどの沈澱が生ずることがあり問題となることが多く,沈澱の発生が商品の致命的欠陥となることが多い。
しかし,コーヒーなどの溶液の沈澱は,長時間保存しなければ現れず,しかも冷やしたとき生じやすいため,製造時に気付かず出荷し,消費者の手に渡った後で見つかることらあり,その解決が望まれる。
沈澱の原因物質としてポリフェノール類が関与している。すなわち,ポリフェノール類を含有する飲料の溶液を長時間保存しておくとポリフェノール類が重合,結晶化して沈澱を生ずると考えられる。」(1頁右下欄4?17行)

刊行物D:特開平5-304891号公報
(刊D-1)「【0002】
【従来技術】コーヒー飲料は,焙煎コーヒー豆から抽出したコーヒーエキスを容器に充填するが,ホット充填やレトルト殺菌等を行う場合に濁りが発生しやすく,また,長期間保存する場合においても濁りが発生しやすい。また,濁りが多いと沈殿物が生じるため,極端に商品価値を減じることになる。コーヒー抽出液を清澄化する従来技術として,「甘味剤を添加することによる濁りの緩和」,「タンニン・ゼラチンによるオリ下げ」,「繊維素分解酵素処理による方法」(特開昭61-293371号),「限外濾過膜による濾過」(特開昭59-63137号)等の技術があげられる。しかしながら,甘味剤の添加は,甘味剤の増粘効果によって単に濁りの発生を抑制するのみであり,コーヒー液中の濁りそのものを除去するものではない。また,甘みを添加したものは当然甘みを増すので,コーヒー本来の味覚を損ない,コーヒー愛好者の味の嗜好にマッチせず,商品選択の余地を狭めることとなり,マーケティング政策上も決して好ましいものではない。さらに,その他の方法についても,本発明者らは各種実験を行ったが,僅かな効果があるものの長期的に清澄なコーヒー液を得ることができるものではなかった。
【0003】何故ならば,コーヒー液の濁り及び沈殿はタンパク質とポリフェノール類の凝集や,あるいは,ペクチン・セルロース・リグニンなどの炭水化物が経時的に,きわめて複雑な反応経路を経て,濁り及び沈殿分子を形成しているものと考えられるからである。」

刊行物E:特開2001-78669
(刊E-1)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】コーヒー抽出後の冷却工程,保存中,濃縮液希釈時等において,濁りや沈澱は容易に発生するものである。この濁りや沈澱は,コーヒー抽出液本来に含有する構成物質(蛋白質,多糖類,脂質,カフェイン,クロロゲン酸等)であり,発生以前のいわゆるフレッシュなコーヒー抽出液においては,その風味に深味とコク味を与える重要な味覚物質である。

3 補正の目的
補正前の「沈殿防止方法」とあったのを「ポリフェノール沈殿防止方法」とすることは,沈殿防止の対象を特定するものであり,そして,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

4 独立特許要件について
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物記載の事項
当審において平成23年10月6日付けで通知した拒絶の理由で引用され,本出願日より前に頒布された,特開平7-50993号公報(以下,「刊行物1」という。)及び特表2002-521015号公報(以下,「刊行物2」という。)には,以下の事項が記載されている。
なお,以下の下線は,当審で付記したものである。

ア 刊行物1記載の事項
(刊1-1)「【0002】
【従来の技術】一般に,コーヒー飲料は,コーヒー生豆を焙煎,粉砕した後,熱水抽出することにより製造されている。上記焙煎前のコーヒー生豆中には,酸成分の主体として高分子のポリフェノール化合物であるクロロゲン酸が含有されている。このクロロゲン酸は,コーヒー生豆を焙煎する際の加熱により分解して,コーヒー酸,キナ酸等の高分子有機酸を生成し,これらがコーヒー抽出液において独特の酸味を発現させる。しかしながら,クロロゲン酸,高分子有機酸は,焙煎時に約200?225℃の高温にて加熱されることによって,酢酸,ギ酸,リンゴ酸,クエン酸等の低分子有機酸へと分解し易い不安定な状態となる。すなわち,過度に焙煎を行ったり,この焙煎コーヒー豆から得られるコーヒー抽出液に殺菌処理を行ったりする等の熱履歴が重なると,クロロゲン酸,高分子有機酸が,経時的に低分子有機酸に分解し,その結果,保存中にコーヒー抽出液中の酸量が増加する。上記低分子有機酸は,クロロゲン酸及び高分子有機酸の良好な酸味とは逆に,渋みを伴う酸味を有し,コーヒー抽出液の風味を著しく損なう。また,コーヒー抽出液においては,低分子有機酸量の増加に伴って,pHが5?6の低酸性領域にまで低下するため,経日と共に抽出液中に濁りが発生し,外観が悪くなるという問題があった。」

(刊1-2)「【0003】この問題は,特に缶コーヒー等のように,コーヒー抽出液を缶等の密封容器に充填して長期間保存した場合に顕著となり,商品価値を低下させる。すなわち,密封容器入りコーヒー飲料は,製造工程中に,コーヒー抽出液に対して,例えば,115℃にて20分間の高温長時間殺菌を施す必要があり,この加熱が,クロロゲン酸及び高分子有機酸の分解を促進するため,経日に伴う酸味の劣化,pH低下による濁りの発生が一層著しくなる。また,乳製品を加えたミルクコーヒーを製造する場合には,pHが低下して乳蛋白質の等電点に近づくと,乳成分が凝集してしまい商品価値が失われるという問題があった。
【0004】そこで,密封容器入りコーヒー飲料の保存中に発生する上記問題を防止する方法としては,従来,コーヒー抽出液に,pH調整剤として炭酸水素ナトリウム等のアルカリ塩を0.05?0.2重量%程度添加することによって,抽出液中の高分子有機酸等を中和し,抽出液中のpHを6?7の低酸性域に調整することが行われている。これによって,コーヒー抽出液中に含まれる有機酸は中和され,低分子への分解が抑制されるため,pHが低下せず,濁りの発生も防止される。しかしながら,抽出液に対して,アルカリ塩を添加し,有機酸の中和を行うと,アルカリ塩の塩味だけが強く感じられる風味となり,コーヒー豆から抽出された独特の酸味は全て打ち消されてしまう。」

(刊行物1記載の発明)
刊行物1には,摘記(刊1-1)からみて,焙煎コーヒー豆から得られるコーヒー抽出液に殺菌処理を行ったりする等の熱履歴が重なると,ポリフェノール化合物であるクロロゲン酸,高分子有機酸が,経時的に低分子有機酸に分解し,その結果,保存中にコーヒー抽出液中の酸量が増加することが理解される。そして,この酸量の増加により,pHが5?6の低酸性領域にまで低下し,経日に伴う酸味の劣化,濁りが著しくなることが理解される。
そして,摘記(刊1-2)には,密封容器入りコーヒー飲料は,経日に伴う酸味の劣化,pH低下による濁りの発生が一層著しくなることが理解され,このpH低下を防止するために,従来,コーヒー抽出液に,pH調整剤として炭酸水素ナトリウム等のアルカリ塩を0.05?0.2重量%程度添加することによって,抽出液中の高分子有機酸等を中和し,抽出液中のpHを6?7の低酸性域に調整することが行われていることが理解される。
以上のことから,刊行物1には次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリフェノール化合物であるクロロゲン酸を含有する焙煎コーヒー豆から得られるコーヒー抽出液に,pH調整剤として炭酸水素ナトリウム等のアルカリ塩を0.05?0.2重量%程度添加することによって,抽出液中の高分子有機酸等を中和し,抽出液中のpHを6?7の低酸性域に調整し,コーヒー抽出液の濁りの発生を防止する方法。」

イ 刊行物2記載の事項
(刊2-1)「【0017】
次にコーヒー抽出液は処方して液体コーヒー製品を得る。甘味料,フレーバ,緩衝剤などのような成分は添加でき,可溶性コーヒー固体濃度は所望量まで低減できる。通常,可溶性コーヒー固体濃度は約0.8%?約3.5重量%,一層好ましくは約2%?約3重量%に調整する。
【0018】
使用する場合,適当な緩衝剤の例は重炭酸ナトリウムおよびカリウム,リン酸2-ナトリウムおよび2-カリウム,およびクエン酸ナトリウムおよびカリウムを含む。これらの緩衝剤の各種組合せも使用できる。使用緩衝系は各国における規制如何で定まる。」

(2)対比
補正発明と刊行物1発明を対比する。
ア 刊行物1発明の「ポリフェノール化合物であるクロロゲン酸を含有する焙煎コーヒー豆から得られるコーヒー抽出液」は,補正発明の「ポリフェノール含有飲料(但し,グアバ,クワ,ビワ及びイチョウから選ばれる植物抽出物を含有する飲料を除く)」に相当する。

イ 刊行物1発明の「pH調整剤として炭酸水素ナトリウム等のアルカリ塩を0.05?0.2重量%程度添加することによって,抽出液中の高分子有機酸等を中和し,抽出液中のpHを6?7の低酸性域に調整」することと,補正発明の「クエン酸の塩又はそれらを含む天然物を配合し,且つ当該飲料のpHを5.0より大きく7.0以下の範囲に調整すること」を対比する。
刊行物1発明は,補正発明のようにクエン酸の塩を添加していないものの,「炭酸水素ナトリウム等のアルカリ塩」を配合しており,補正発明の「クエン酸の塩」とは「塩を配合」するという点で共通する。
そして,刊行物1発明における調整したpHの範囲は6?7であり,補正発明の「pHを5.0より大きく7.0以下の範囲に包含される。
よって,両者は「塩を配合し,当該飲料のpHを5.0より大きく7.0以下の範囲に調整すること」という点で共通する。

ウ 刊行物1発明の「コーヒー抽出液の濁りの発生を防止する方法」ことは,濁り,すなわち,不溶物であり,不溶物が生じなければ沈殿も生じることがないものであるから,沈殿防止方法ということもできる。しかし,濁りの原因物質は刊行物1に明記されておらず不明である。
よって,刊行物1発明の「コーヒー抽出液の濁りの発生を防止する方法」と,補正発明の「ポリフェノール含有飲料におけるポリフェノール沈殿防止方法」とは,「ポリフェノール含有飲料における沈殿防止方法」という点で共通する。

以上のことを総合すると,両発明の間には,次の(一致点)並びに(相違点1)及び(相違点2)がある。

(一致点)
「ポリフェノール含有飲料(但し,グアバ,クワ,ビワ及びイチョウから選ばれる植物抽出物を含有する飲料を除く)に塩を配合し,且つ当該飲料のpHを5.0より大きく7.0以下の範囲に調整することを特徴とする,ポリフェノール含有飲料の沈殿防止方法。」

(相違点1)
塩が,補正発明では「クエン酸の塩又はそれらを含む天然物」であるのに対して,刊行物1発明では炭酸水素ナトリウム等のアルカリ塩である点。

(相違点2)
沈殿が,補正発明では「ポリフェノール沈殿」であるのに対して,刊行物1発明では,原因物質が不明な点。

(3)検討・判断
ア 相違点1について
補正発明において添加されるクエン酸の塩は,請求項1を引用する補正発明3において「【請求項3】 クエン酸の塩がクエン酸のナトリウム塩,カリウム塩及びマグネシウム塩から選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の沈殿防止方法。」と特定されているように,補正発明におけるクエン酸の塩とは,クエン酸のナトリウム塩及びカリウム塩が包含されるものである。
他方,例えば,刊行物2の摘記(刊2-1)に記したように,コーヒー抽出液に,緩衝剤として重炭酸ナトリウム並びにクエン酸ナトリウム及びカリウムのような塩を加えることは周知の事項となっている。緩衝剤とは,マグローヒル科学技術用語大辞典,日刊工業新聞社,改訂3版第2刷,2001年5月31日発行によれば,「緩衝剤 bufferingagent pHを調節する目的で加工食品に加えられる乳酸,クエン酸,酢酸などの種々の酸のナトリウム塩のような化学物質。」と記載されているから,pH調整剤ということができる。
そうすると,刊行物1発明において,pH調整剤として炭酸水素ナトリウムに代えて,上記周知のクエン酸ナトリウム又はカリウムからなる塩を加えた緩衝剤を配合してpHを調整することで,補正発明のごとく構成することは,当業者が容易になし得たことといえる。

なお,請求人は,平成23年11月29日付け意見書6頁24?34行において,次のように主張する。
『しかしながら,刊行物1の段落[0004]には,「抽出液に対して,アルカリ塩を添加し,有機酸の中和を行うと,アルカリ塩の塩味だけが強く感じられる風味となり,コーヒー豆から抽出された独特の酸味は全て打ち消されてしまう」ことが記載され,アルカリ塩の添加による飲料のpH調整が,風味を損なう点で好ましくないことが示唆されています。
すなわち,刊行物1の記載は,そもそも,刊行物1記載の発明のような,抽出液(飲料)における「アルカリ塩を用いたpH調整による飲料の沈殿防止」という手段自体を否定しています。
従って,刊行物1の記載に基づくならば,アルカリ塩であるクエン酸ナトリウム又はカリウムを飲料に添加することによって飲料のpHを調整し,沈殿を防止するという発想が当業者に生じるはずがありません。』
そこで,検討するに,刊行物1の段落【0004】には,従来技術として,アルカリ塩を加える欠点が記載されているが,例示されているのは炭酸水素ナトリウムである。これに対して,クエン酸ナトリウムは有機酸塩であり,特開平8-89198号公報の段落【0016】に記載のように,柑橘類に含まれる酸味の成分である。そして,クエン酸ナトリウムが上記クエン酸緩衝剤として添加される場合には,クエン酸と共に添加され,両者共に,特開平11-217329号公報の段落【0030】に「前記酸味剤としては,例えばクエン酸,クエン酸ナトリウム・・・を挙げることができる。」と記載されているように,酸味剤であることは技術常識である。しかも,特開平4-36148号公報の2頁左上欄9?17行に「一般に,コーヒーの味を構成する一成分である酸味は,クロロゲン酸を主体としており,それに不揮発性の酸(リンゴ酸,クエン酸等),揮発性の厳(ギ酸,酢酸等),及びその他の酸によって生じ,それらの割合はほぼ73:18:7:2である。クロロゲン酸,リンゴ酸,クエン酸は,まろやかで,豊かなコクを持った独特の芳醇な酸味を呈するが,ギ酸,酢酸は刺激的な酸味を与えることが知られている。」と記載されているように,クエン酸は,コーヒーがそもそも有している酸味成分である。
上記技術常識を考慮すれば,刊行物1に接した当業者が,クエン酸塩を選ぶことを妨げるような事情はない。

イ 相違点2について
刊行物1において、防止の対象となる沈殿は、(刊1-2)に「一般に,コーヒー飲料は,コーヒー生豆を焙煎,粉砕した後,熱水抽出することにより製造されている。上記焙煎前のコーヒー生豆中には,酸成分の主体として高分子のポリフェノール化合物であるクロロゲン酸が含有されている。・・・(略)・・・しかしながら,クロロゲン酸,高分子有機酸は,焙煎時に約200?225℃の高温にて加熱されることによって,酢酸,ギ酸,リンゴ酸,クエン酸等の低分子有機酸へと分解し易い不安定な状態となる。すなわち,過度に焙煎を行ったり,この焙煎コーヒー豆から得られるコーヒー抽出液に殺菌処理を行ったりする等の熱履歴が重なると,クロロゲン酸,高分子有機酸が,経時的に低分子有機酸に分解し,その結果,保存中にコーヒー抽出液中の酸量が増加する。・・・(略)・・・コーヒー抽出液においては,低分子有機酸量の増加に伴って,pHが5?6の低酸性領域にまで低下するため,経日と共に抽出液中に濁りが発生し,外観が悪くなるという問題があった。」と記載されているように、一般的なコーヒーが長期保存の際に生じる沈殿である。
このような長期保存保存するコーヒー飲料において,ポリフェノールをその成分の一部に含む沈殿が生じることが技術常識であることは、上記「第2 2(2)新規事項についての検討」で言及したところであり、繰り返して言うなら、上記刊行物A?Eに記載のように本願出願前から技術常識となっていたことである。
そうすると、刊行物1発明の「沈殿」には、「ポリフェノールをその成分の一部に含む沈殿」であることは明白であり、相違点2は表現上の差異にすぎず、実質的に相違点とはいえない。

なお,請求人は,平成23年11月29日付け意見書5頁18?27行において,次のように主張する。
『(iv)さらに,刊行物1には,コーヒー抽出液の「濁り」の具体的な成分については一切明記されていません。しかも,段落[0002]の記載によれば,コーヒー抽出液の「濁り」は,クロロゲン酸の分解によって生じた低分子有機酸量の増加に伴って発生するものであるから,クロロゲン酸が分解されて減少した状態である程,「濁り」が増加しやすくなることが示唆されます。してみれば,当該「濁り」が,分解前のクロロゲン酸自体に起因するものでないことは明らかです。
またそもそも,刊行物1の段落[0002]の記載によれば,コーヒー生豆に含有されるポリフェノールであるクロロゲン酸は,焙煎の際にコーヒー酸,キナ酸等の高分子有機酸に分解されてしまうのであるから,刊行物1記載の発明の「コーヒー抽出液」は,ポリフェノールをそれほど含有していないと判断されます。
したがって、刊行物1の記載に基づくならば、刊行物1記載の発明の「クロロゲン酸分解物である高分子有機酸の分解から生じた低分子有機酸によりもたらされたpH低下に起因する濁り」は、本願発明における「ポリフェノール沈殿」とは相違するものと判断されます。』
しかしながら,刊行物1の段落【0002】に記載のクロロゲン酸の分解は,焙煎や抽出といった普通のコーヒーの製造工程で生じるものと理解され,請求人の主張するように,刊行物1記載の発明の「コーヒー抽出液」がポリフェノールをそれほど含有していないとするならば,普通のコーヒーにもポリフェノールが含まれていないこととなり,技術常識に反することとなる。
また、刊行物1記載の焙煎や抽出といった普通のコーヒーの製造工程で生じる沈殿が、本願発明でいう「ポリフェノール沈殿」とは相違するというのであれば、上記「第2 2(2)新規事項についての検討」で言及した、本件補正の根拠となる技術常識とも反することとなる。
よって,請求人の主張を採用することはできない。

刊行物A:特開平4-45745号公報
(刊A-1)「 それらの形態の中で,コーヒー抽出液は,コーヒー製造業者がコーヒー豆からコーヒーを抽出し,容器に充填して販売されている。このコーヒー抽出液は高温で瞬間殺菌又はレトルト殺菌において,濁り及びくすみか発生しやすく,商品の致命的な欠陥になりかねない。
この濁りの発生メカニズムの詳細は不明であるが,コーヒーの場合,繊維質,蛋白質,ポリフェノール類等が関与していると考えられる。」(1頁右下欄4?11行)

刊行物B:特開昭64-37251号公報
(刊B-1)「コーヒーなどを長時間保存しておくと濁りやおりなどの沈澱が生ずることがあり問題となることが多く,沈澱の発生が商品の致命的欠陥となることが多い。
しかし,コーヒーなどの溶液の沈澱は,長時間保存しなければ現れず,しかも冷やしたとき生じやすいため,製造時に気付かず出荷し,消費者の手に渡った後で見つかることもあり,その解決が望まれる。
沈澱の原因物質としてポリフェノール類が関与している。すなわち,ポリフェノール類を含有する飲料などの溶液を長時間保存しておくとポリフェノール類が重合,結晶化して沈澱を生ずると考えられる。」(1頁左下欄下から2行?同頁右下欄8行)

刊行物C:特開平1-165357号公報
(刊C-1)「コーヒーなどを長時間保存しておくと濁りやおりなどの沈澱が生ずることがあり問題となることが多く,沈澱の発生が商品の致命的欠陥となることが多い。
しかし,コーヒーなどの溶液の沈澱は,長時間保存しなければ現れず,しかも冷やしたとき生じやすいため,製造時に気付かず出荷し,消費者の手に渡った後で見つかることらあり,その解決が望まれる。
沈澱の原因物質としてポリフェノール類が関与している。すなわち,ポリフェノール類を含有する飲料の溶液を長時間保存しておくとポリフェノール類が重合,結晶化して沈澱を生ずると考えられる。」(1頁右下欄4?17行)

刊行物D:特開平5-304891号公報
(刊D-1)「【0002】
【従来技術】コーヒー飲料は,焙煎コーヒー豆から抽出したコーヒーエキスを容器に充填するが,ホット充填やレトルト殺菌等を行う場合に濁りが発生しやすく,また,長期間保存する場合においても濁りが発生しやすい。また,濁りが多いと沈殿物が生じるため,極端に商品価値を減じることになる。コーヒー抽出液を清澄化する従来技術として,「甘味剤を添加することによる濁りの緩和」,「タンニン・ゼラチンによるオリ下げ」,「繊維素分解酵素処理による方法」(特開昭61-293371号),「限外濾過膜による濾過」(特開昭59-63137号)等の技術があげられる。しかしながら,甘味剤の添加は,甘味剤の増粘効果によって単に濁りの発生を抑制するのみであり,コーヒー液中の濁りそのものを除去するものではない。また,甘みを添加したものは当然甘みを増すので,コーヒー本来の味覚を損ない,コーヒー愛好者の味の嗜好にマッチせず,商品選択の余地を狭めることとなり,マーケティング政策上も決して好ましいものではない。さらに,その他の方法についても,本発明者らは各種実験を行ったが,僅かな効果があるものの長期的に清澄なコーヒー液を得ることができるものではなかった。
【0003】何故ならば,コーヒー液の濁り及び沈殿はタンパク質とポリフェノール類の凝集や,あるいは,ペクチン・セルロース・リグニンなどの炭水化物が経時的に,きわめて複雑な反応経路を経て,濁り及び沈殿分子を形成しているものと考えられるからである。」

刊行物E:特開2001-78669
(刊E-1)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】コーヒー抽出後の冷却工程,保存中,濃縮液希釈時等において,濁りや沈澱は容易に発生するものである。この濁りや沈澱は,コーヒー抽出液本来に含有する構成物質(蛋白質,多糖類,脂質,カフェイン,クロロゲン酸等)であり,発生以前のいわゆるフレッシュなコーヒー抽出液においては,その風味に深味とコク味を与える重要な味覚物質である。

ウ 効果について
(ア)本願明細書の効果についての記載事項
平成23年8月3日付け手続補正書で補正された明細書(以下,「本願明細書」という。)には,上記(本-4)に効果が記載されており,そして,コーヒー飲料についての実施例として(本-5)?(本-9)の効果があると記載されている。

(イ)本願明細書記載の効果のまとめ
以上のことから,本願明細書には次の効果が記載されていると理解される。
(i)ポリフェノール類の量が変わらない。(摘記(本-4)及び(本-5))

(ii)長期にわたり沈殿が生じない。(摘記(本-4),(本-6)及び(本-8))

(iii)苦渋味の強度について低下することがない。風味が損なわれない。(摘記(本-4),(本-5),(本-7)及び(本-9))

(ウ)補正発明の効果についての検討
そこで,上記効果について順に検討する。

[「(i)ポリフェノール類の量が変わらない。」効果について]
刊行物1発明において,pH調整剤として炭酸水素ナトリウムに代えて,上記周知のクエン酸ナトリウム又はカリウムからなる塩を加えた緩衝剤を配合してpHを調整することで,補正発明のごとく構成した場合,コーヒー抽出物に添加されるのはクエン酸ナトリウム又はカリウムからなる塩を加えた緩衝剤である。緩衝剤は一般的に物質を分解するような作用はないし,その目的も刊行物1の摘記(刊1-2)に記載のように,濁りの防止であり,かかる緩衝剤を添加しても,ポリフェノールが凝集して濁りとなることもない。
そうすると,刊行物1発明に刊行物2記載の技術的事項を適用しても,ポリフェノール類の量が変わることは無いことが予測される。

[「(ii)長期にわたり沈殿が生じない。」効果について]
刊行物1の摘記(刊1-2)に「この問題は,特に缶コーヒー等のように,コーヒー抽出液を缶等の密封容器に充填して長期間保存した場合に顕著となり,商品価値を低下させる。すなわち,密封容器入りコーヒー飲料は,製造工程中に,コーヒー抽出液に対して,例えば,115℃にて20分間の高温長時間殺菌を施す必要があり,この加熱が,クロロゲン酸及び高分子有機酸の分解を促進するため,経日に伴う酸味の劣化,pH低下による濁りの発生が一層著しくなる。」記載のように,長期保存で生じるpHの低下により,濁りの発生が一層著しくなるという問題点を指摘した上で,「pH調整剤として炭酸水素ナトリウム等のアルカリ塩を0.05?0.2重量%程度添加することによって,・・・pHが低下せず,濁りの発生も防止される。」という解決手段が記載されている。
よって,長期にわたり沈殿が生じないとする効果は,刊行物1から予測し得るものである。

[「(iii)苦渋味の強度について低下することがない。風味が損なわれない。」効果について]
クエン酸のナトリウム塩は,酸味料として,例示するまでもなく周知の食品添加物である。
他方,特開平4-36148号公報の2頁左上欄9?17行に「一般に,コーヒーの味を構成する一成分である酸味は,クロロゲン酸を主体としており,それに不揮発性の酸(リンゴ酸,クエン酸等),揮発性の厳(ギ酸,酢酸等),及びその他の酸によって生じ,それらの割合はほぼ73:18:7:2である。クロロゲン酸,リンゴ酸,クエン酸は,まろやかで,豊かなコクを持った独特の芳醇な酸味を呈するが,ギ酸,酢酸は刺激的な酸味を与えることが知られている。」と記載されているように,クエン酸がコーヒーの酸味の一部を担っていることは周知の事項となっている。
刊行物1発明に上記周知のクエン酸ナトリウム又はカリウムからなる塩を加えた緩衝剤を配合して補正発明のごとく構成したとしても,クエン酸自身はコーヒーにおいて「まろやかで,豊かなコクを持った独特の芳醇な酸味」を有するものであるし,クエン酸のナトリウム塩も酸味料であって,苦味や渋味を特段有するものでもないから,摘記(本-7)のように「苦渋味が変わりないかどうかをパネル10名の官能検査によって比較した」としても,苦渋味に特段の変化を与えないことが予測される。
また,風味においても,クエン酸は,コーヒーの成分の一つであり,pHを調節する程度にクエン酸のナトリウム塩を添加したとしても風味が特段損なわれるようなことはないと予測される。
よって,補正発明の効果は,いずれも刊行物1及び周知の技術的事項から当業者が予測し得るものであって,予測を超えて格別顕著なものとはいえない。

エ 小括
したがって,補正発明は,刊行物1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。よって,本件補正は,平成18年改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 当審の拒絶理由の概要
当審において平成23年10月6日付けで通知した拒絶の理由の概要は,本件出願の請求項1に係る発明は,本出願日より前に頒布された,特開平7-50993号公報(上記刊行物1)及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第4 本願発明について
本件補正は却下されたので,本願請求項1?4にかかる発明は,平成23年8月3日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲からみて,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりの事項により特定される発明であると認められる。
そして,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
ポリフェノール含有飲料(但し,グアバ,クワ,ビワ及びイチョウから選ばれる植物抽出物を含有する飲料を除く)にクエン酸の塩又はそれらを含む天然物を配合し,且つ当該飲料のpHを5.0より大きく7.0以下の範囲に調整することを特徴とする,ポリフェノール含有飲料の沈殿防止方法。」

1 刊行物記載の事項及び刊行物記載の発明
当審において平成23年10月6日付けで通知した拒絶の理由で引用した刊行物1及び刊行物2に記載の事項並びに刊行物1に記載された発明は,上記「第2 2(2)イ(ア)刊行物記載の事項」に記したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,上記「第2 2(2)イ 独立特許要件について」で検討した補正発明の「ポリフェノール沈殿防止方法」との特定事項から「ポリフェノール」との構成を省き,「沈殿防止方法」としたものである。
本願発明と刊行物1発明を対比すると,両発明は,上記「第2 2(2)イ(イ) 対比」で検討した(相違点1)で相違する。
しかしながら,上記「第2 2(2)イ (ウ)検討・判断」で検討したように,補正発明は,刊行物1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-22 
結審通知日 2012-01-10 
審決日 2012-01-25 
出願番号 特願2003-16358(P2003-16358)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
P 1 8・ 575- WZ (A23L)
P 1 8・ 561- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 明照  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 秋月 美紀子
杉江 渉
発明の名称 ポリフェノール含有飲料の沈殿防止方法  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 山本 博人  
代理人 村田 正樹  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 有賀 三幸  

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