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審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01G |
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管理番号 | 1253185 |
審判番号 | 不服2010-4470 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-03-01 |
確定日 | 2012-03-08 |
事件の表示 | 特願2005-270857「導電性ペースト,積層セラミック電子部品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月29日出願公開,特開2007- 81339〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成17年9月16日の出願であって,平成21年1月9日付けの拒絶理由通知に対して,同年3月23日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年11月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年3月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,その後,当審において平成23年8月24日付けで審尋がなされ,同年10月27日に回答書が提出されたものである。 第2 平成22年3月1日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年3月1日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容と補正目的の適否 (1)平成22年3月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の請求項1を,補正後の請求項1として, 「ブチラール樹脂を含む厚さ3μm以下のセラミックグリーンシートと,導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層とを,交互に複数重ねたグリーンセラミック積層体を用いて製造され, 内部電極層と,厚さ2μm以下の誘電体層と,を有する積層セラミック電子部品であって, 前記導電性ペーストが,導電性粉末と,有機ビヒクルとを含み, 前記有機ビヒクル中の有機バインダが,エチルセルロースを主成分とし, 前記有機ビヒクル中の溶剤が,イソボニルプロピオネート,イソボニルブチレートおよびイソボニルイソブチレートから選択される1種以上を主成分とし, 前記有機ビヒクル中の有機バインダが,前記導電性粉末100重量部に対して1?10重量部含有されていることを特徴とする積層セラミック電子部品。」とする補正内容を含むものである。 (2)上記補正は,補正前の請求項1の「前記有機ビヒクル中の溶剤が,イソボニルプロピオネート,イソボニルブチレートおよびイソボニルイソブチレートから選択される1種以上を主成分とすることを特徴とする」との記載を,補正後の請求項1の「前記有機ビヒクル中の溶剤が,イソボニルプロピオネート,イソボニルブチレートおよびイソボニルイソブチレートから選択される1種以上を主成分とし, 前記有機ビヒクル中の有機バインダが,前記導電性粉末100重量部に対して1?10重量部含有されていることを特徴とする」と,技術的に限定するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)そこで,補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。 2 独立特許要件について (1)本願補正発明 本願補正発明は,平成22年3月1日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載されたとおりのものであり,再掲すると,次のとおりである。 「ブチラール樹脂を含む厚さ3μm以下のセラミックグリーンシートと,導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層とを,交互に複数重ねたグリーンセラミック積層体を用いて製造され, 内部電極層と,厚さ2μm以下の誘電体層と,を有する積層セラミック電子部品であって, 前記導電性ペーストが,導電性粉末と,有機ビヒクルとを含み, 前記有機ビヒクル中の有機バインダが,エチルセルロースを主成分とし, 前記有機ビヒクル中の溶剤が,イソボニルプロピオネート,イソボニルブチレートおよびイソボニルイソブチレートから選択される1種以上を主成分とし, 前記有機ビヒクル中の有機バインダが,前記導電性粉末100重量部に対して1?10重量部含有されていることを特徴とする積層セラミック電子部品。」 (2)先願明細書に記載された発明 (ァ)先願明細書の記載内容 原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前の他の出願であって,その出願日後に出願公開された特願2005-9801号(特開2006-202502号公報参照)の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書」という。)には,「導電性ペースト」(発明の名称)に関して,以下の事項が記載されている。(なお,下線は,引用箇所のうち特に強調する部分に付加した。以下,同様。) 「【0001】 本発明は,積層セラミックコンデンサー,多層セラミック基板などの多層セラミック電子部品を製造する際に使用される導電性ペーストに関するものである。 【背景技術】 【0002】 多層セラミック電子部品に使用されるセラミック積層体は,通常,誘電層となるセラミックグリーンシートの上に導電性ペーストをスクリーン印刷し,それを交互に数十層積み重ね同時焼成して得られる。多層セラミック電子部品は,このセラミック積層体に外部電極を塗布,焼き付け加工して得られる。 【0003】 セラミックグリーンシートは,セラミック誘電体粉末にポリビニルブチラール樹脂などの有機バインダーおよびエタノールなどの有機溶剤を加え混合したセラミックスラリーをドクターブレード法によりシート状に成形したものが使用される。また,導電性ペーストは,Ni,Cu,Ag,Pdなどの金属粉末などの導電性材料を,エチルセルロース樹脂などの有機バインダーおよび溶剤に溶解した有機ビヒクルに分散させたものが使用される。 【0004】 導電性ペーストに使用される溶剤としては,通常,テルピネオール,メチルエチルケトン,ブチルカルビトールアセテート,ケロシンなどの溶剤が使用されてきた(特許文献1)。 【0005】 また,セラミックグリーンシート上に導電性ペーストを印刷した際,溶剤がセラミックグリーンシート層に含まれる有機バインダーを溶解することにより生じるシートアタック現象を解決する方法として,特許文献2に水素添加テルピネオール,特許文献3にはイソボルニルアセテートおよびノピルアセテート,特許文献4には水素添加テルピネオールアセテートを使用するペースト溶剤が提案されている。 しかしながら,これらの溶剤は,ポリビニルブチラール樹脂に対する溶解性が高く,完全にシートアタック現象を抑制することができていないのが現状である。今後,さらに欠品の削減や多層セラミック電子部品の薄膜化,高密度化に対応するためには,有機ビヒクルのエチルセルロース樹脂に対する溶解性を維持したままで,ポリビニルブチラール樹脂に代表される有機バインダーに対する溶解性をさらに下げる必要がある。 【0006】 すなわち,これらの溶剤を使用した導電性ペーストでは,シートアタック現象が生じ,積層時にシートアタック現象が発生するとセラミック誘電層に穴や皺などが発生したり,膜厚の変動などにより焼成時に層間剥離現象(デラミネーション)と呼ばれる現象が生じ,積層セラミックコンデンサーの場合は,耐電圧性を低下させたり,静電容量不足が発生するなどの不具合が生じる。 また,このような耐電圧性の低下や静電容量不足は,積層セラミックコンデンサーのヒビやカケ破断の原因にもなっている。 【特許文献1】特開平2-5591号公報 【特許文献2】特開平7-21833号公報 【特許文献3】特開2002-270456号公報 【特許文献4】特許第2976268号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は,多層セラミック電子部品を製造する際に,シートアタック現象による層間剥離が生じない,電気的特性の劣化の発生しないセラミック積層体を製造するための導電性ペースト用の溶剤を提供することを目的とする。」 「【0018】 本発明のボルナン骨格含有カルボン酸付加物について説明する。 本発明の導電性ペーストは、溶剤成分として、式(I)で表されるRの炭素数が2?4のボルナン骨格含有カルボン酸付加物を含有するものである。上記式(I)のRの炭素数が1のボルナン骨格含有カルボン酸付加物、つまりイソボルニルアセテートではポリビニルブチラール樹脂に対する溶解性が高くシートアタック現象を完全に回避することが難しく、また炭素数が5以上のボルナン骨格含有カルボン酸付加物になるとエチルセルロース樹脂に対する溶解性が低下しペースト溶剤として好ましくない。エチルセルロースを溶解し、ポリビニルブチラール樹脂を溶解しない溶剤について、鋭意検討した結果、ボルナン骨格を含有するエステル化合物で、上記式(I)のRの炭素数が2?4であることが非常に重要であることが判明した。 【0019】 製造方法は特定の方法に限定されないが、例えば、本発明のボルナン骨格含有カルボン酸付加物は、カンフェンやトリシクレン、ボルネンにカルボン酸を酸触媒下において付加反応させる、あるいはボルネオールやイソボルネオールとカルボン酸の脱水縮合反応などによって得ることができる。」 「【0030】 本発明の導電性ペーストについて説明する。 本発明の導電性ペーストは,貴金属電極層に相当するもので,有機バインダーとなる樹脂を有機溶剤(炭素数3?5のカルボン酸化合物から得られるボルナン骨格含有カルボン酸付加物)に溶解して得られる有機ビヒクル中に,Pdなどの金属粉末を分散させたものである。 有機ビヒクル中のボルナン骨格含有カルボン酸付加物は,60?95重量%であることが好ましい。より好ましくは,65?85重量%である。 60重量%未満では,エチルセルロースなどの溶解性が悪くなり,95重量%を超えると,有機ビヒクルの粘度が低くなり過ぎて好ましくない。 有機バインダーとしては,エチルセルロース,ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂や,ブチルメタクリレート,メチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂が使用される。 導電体ペースト中には,粘度調整用の希釈溶剤を使用してもよい。 導電体ペースト中における,該有機ビヒクルは,5?40重量%であることが好ましい。より好ましくは,10?30重量%である。 有機ビヒクルは,5重量%未満であると,乾燥膜の強度が弱くなり,40重量%を超えると,焼成後の電極厚さが薄くなりすぎて好ましくない。 具体的には,塗布膜厚などの粘度調製として,一般に回転粘度計において100回転での粘度が40,000cps以下になるようにエチルアルコール,トルエン,トリメチルベンゼンなどに希釈溶剤を加えていることが多い。」 「【0034】 合成例3 (式(III)で表される化合物の合成) カンフェン573g(ヤスハラケミカル(株)製YSカンフェン,純度95%,4モル)にプロピオン酸308g(4.16モル)を加え,攪拌しながら反応温度が50℃を越えないように硫酸54gを徐々に滴下し,終了後,35℃で,3時間攪拌した。 反応終了後,理論量の水酸化ナトリウム水溶液で中和し,水洗を行い,蒸留によって,式(III)で表される化合物イソボルニルプロピオネート(純度97%)633gを得た。 【0035】 合成例4 (式(III)で表される化合物の合成) カンフェン573g(ヤスハラケミカル(株)製YSカンフェン,純度95%,4モル)にイソ酪酸365g(4.15モル)を加え,攪拌しながら反応温度が50℃を越えないように硫酸61gを徐々に滴下し,終了後,35℃で,3時間攪拌した。 反応終了後,理論量の水酸化ナトリウム水溶液で中和し,水洗を行い,蒸留によって,式(III)で表される化合物イソボルニルイソブチレート(純度97%)651gを得た。 【0036】 合成例5 (式(IV)で表される化合物の合成) カンフェン573g(ヤスハラケミカル(株)製YSカンフェン,純度95%,4モル)に酪酸366g(4.16モル)を加え,攪拌しながら反応温度が50℃を越えないように硫酸61gを徐々に滴下し,終了後,35℃で,3時間攪拌した。 反応終了後,理論量の水酸化ナトリウム水溶液で中和し,水洗を行い,蒸留によって,式(IV)で表される化合物イソボルニルブチレート(純度97%)681gを得た。」 「【0043】 表1に示すように,本発明の溶剤(イソボルニルアクリレート,イソボルニルメタクリレート,イソボルニルプロピオネート,イソボルニルブチレート,イソボルニルイソブチレート)は従来の金属ペースト用溶剤として使用されているターピネオールやイソボルニルアセテート,ターピニルアセテートなどと比較して,エチルセルロースを溶解性しつつ,ブチラール樹脂を著しく溶かさないことが明らかである。従って,これら溶剤を用いた導電性ペーストは,従来のものと比較し,積層時のシートアタック現象やそれに伴うデラミネーション現象をより抑制することができる。」 以上によれば,先願明細書には,以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ポリビニルブチラール樹脂を含むセラミックグリーンシートと,導電性ペーストをスクリーン印刷し,それを交互に数十層積み重ねたセラミック積層体を用いて製造され,貴金属電極層と誘電層と,を有する多層セラミック電子部品であって,導電性ペーストは金属粉末を有機ビヒクルに分散したものが使用され,その有機ビヒクル中の有機バインダがエチルセルロースが使用され,有機ビヒクル中の溶剤が,イソボルニルプロピオネート,イソボルニルブチレート,イソボルニルイソブチレートのいずれかの溶剤を用いたことを特徴とする多層セラミック部品。」 (3)本願補正発明と先願発明の対比・判断 (ア)本願補正発明と先願発明の対比 (a)先願発明の「ポリビニルブチラール樹脂」,「導電性ペーストをスクリーン印刷し」たもの,「数十層積み重ねた」,「セラミック積層体」,「貴金属電極層」,「誘電層」,「多層セラミック電子部品」,「金属粉末」,「分散し」,「使用され」,「イソボルニルプロピオネート」,「イソボルニルブチレート」,「イソボルニルイソブチレート」は,それぞれ,本願補正発明の「ブチラール樹脂」,「導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層」,「複数重ねた」,「グリーンセラミック積層体」,「内部電極層」,「誘電体層」,「積層セラミック電子部品」,「導電性粉末」,「含み」,「主成分とし,」,「イソボニルプロピオネート」,「イソボニルブチレート」,「イソボニルイソブチレート」に相当する。 (b)先願明細書の【0030】には,「有機ビヒクル中のボルナン骨格含有カルボン酸付加物は,60?95重量%であることが好ましい。」及び「導電体ペースト中における,該有機ビヒクルは,5?40重量%であることが好ましい。」との記載があり,ここから計算すると,有機ビヒクル中の有機バインダが金属粉末100重量部に対して0.26?26.7重量部含有されるものと導かれ,仮に記載された数値の中央値(有機ビヒクル中のボルナン骨格含有カルボン酸付加物は,77.5重量%,導電体ペースト中における該有機ビヒクルは,22.5重量%)を採用すると,有機ビヒクル中の有機バインダが金属粉末100重量部に対して6.5重量部となるから,この点は重複しているものと認められる。 そうすると,両者は,「ブチラール樹脂を含むセラミックグリーンシートと,導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層とを,交互に複数重ねたグリーンセラミック積層体を用いて製造され, 内部電極層と誘電体層と,を有する積層セラミック電子部品であって, 前記導電性ペーストが,導電性粉末と,有機ビヒクルとを含み, 前記有機ビヒクル中の有機バインダが,エチルセルロースを主成分とし, 前記有機ビヒクル中の溶剤が,イソボニルプロピオネート,イソボニルブチレートおよびイソボニルイソブチレートから選択される1種以上を主成分とし, 前記有機ビヒクル中の有機バインダが,前記導電性粉末100重量部に対して1?10重量部含有されていることを特徴とする積層セラミック電子部品。」である点で一致し,以下の点で相違する。 [相違点1]本願補正発明は,セラミックグリーンシートが「厚さ3μm以下」であるのに対し,先願発明では,そのような限定がない点。 [相違点2]本願補正発明は,誘電体層が「厚さ2μm以下」であるのに対し,先願発明では,そのような限定がない点。 (イ)相違点1,2についての検討 先願明細書には,【0005】?【0007】に,多層セラミック電子部品の薄層化に対応すること,積層時のシートアタック現象に対処すること,を課題とすることが記載されている。したがって,先願発明の「セラミックグリーンシート」は当然,薄層化されていると認められる。 そして,下記の周知例1,2に記載されるように,誘電体グリーンシートの厚さを3μm以下とすること及び誘電体層の厚さを2μm以下とすることは周知である。なお,静電容量を大きくするため,または,小型化するために,グリーンシート及び誘電体層を,できるだけ小さくすることは周知の課題である。 したがって,先願発明と本願発明の相違点は,課題解決のための具体化手段における微差にすぎず,実質的なものではない。 (a)周知例1:特開2005-217000号公報には,図1とともに以下のような記載がある。 「【0016】 また,上記積層セラミックコンデンサの製法では,希土類元素としてYを選択し,また,BaTiO3粉末の平均粒径を0.4μm以下とし,さらに,誘電体グリーンシートの厚みを3μm以下,内部電極層の主成分を卑金属とすることにより,小型,高容量で低コストの積層セラミックコンデンサの製造が容易となる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0017】 本発明の積層セラミックコンデンサについて,図1の概略断面図をもとに詳細に説明する。本発明の積層セラミックコンデンサは,コンデンサ本体1の両端部に外部電極3を形成して構成されている。この外部電極3は,例えば,CuもしくはCuとNiの合金ペーストを焼き付けて形成されている。コンデンサ本体1は,誘電体層5と内部電極層7とを交互に積層してなるものである。この誘電体層5は結晶粒子11と粒界相13とからなり,その厚みは2.5μm以下が望ましく,特に,静電容量を高めるという点で2μm以下,一方,絶縁性を高く維持するという点で0.5μm以上,特に1μm以上が望ましい。さらに本発明では,静電容量のばらつきおよび容量温度特性の安定化のために,誘電体層5の厚みばらつきが10%以内であることがより望ましい。」 「【0026】 続いて,(c)このスラリーを用いてダイコータなどのシート成形法を用いて誘電体グリーンシートを形成する。誘電体グリーンシートの厚みは3μm以下,特に,2.5μm以下が好ましい。」 (b)周知例2:特開2005-197645号公報には,図1,2とともに以下のような記載がある。 「【請求項2】 厚みを0.5?3.0μmとした請求項1に記載の電極埋め込みセラミックグリーンシート。」 「【0014】 またこのような効果は非常に薄いセラミックグリーンシートを用いるようなセラミック電子部品を実現するときに発揮することができ,検討の結果その厚みは0.5?3.0μmの範囲にあるセラミックグリーンシートにおいて効果的であることを確認した。ここで,下限を0.5μm以下としたのは,これ以上薄い電極埋め込みセラミックグリーンシート14を作製することが困難なためである。また3.0μmより厚い電極埋め込みセラミックグリーンシート14においては本発明の効果は確認できなかった。 【0015】 次に,このような電極埋め込みセラミックグリーンシート14の製造方法について図2を用いて説明する。 【0016】 まず,セラミック原料に有機バインダ,可塑剤等を加えて溶媒中で十分に分散することによって誘電体スラリーとし,この誘電体スラリーをドクターブレード法によって厚みが異なる(0.5?1.5μm)セラミックグリーンシート11,13をPETフィルム23上にそれぞれ作製した。次に,前記セラミックグリーンシート11にスクリーン印刷によって電極パターン12を形成して厚みの異なる電極パターン形成済みセラミックグリーンシート21を作製した。」 「【0025】 一方,本発明品1においては誘電体層厚みが2.0μm以下の領域においてもショート率が低く抑えられているのが分かる。」 「【0034】 図5は誘電体層厚みが1.6μmである実施の形態2で作製された積層セラミックコンデンサ(本発明品2)と実施の形態1で作製した比較品1のうち誘電体層厚みが1.6μmである試料の絶縁破壊電圧分布の比較である。」 以上のとおり,先願発明と本願補正発明との相違点は実質的なものではないから,本願補正発明は,先願明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願補正発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,また,本願出願の時においてその出願人が上記先願明細書の出願人と同一とも認められないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。 (ウ)むすび 以上のとおり,請求項1についての補正を含む本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明の容易想到性 1 本願発明 平成22年3月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年3月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。 「ブチラール樹脂を含む厚さ3μm以下のセラミックグリーンシートと,導電性ペーストを用いて所定パターンで形成される電極層とを,交互に複数重ねたグリーンセラミック積層体を用いて製造され, 内部電極層と,厚さ2μm以下の誘電体層と,を有する積層セラミック電子部品であって, 前記導電性ペーストが,導電性粉末と,有機ビヒクルとを含み, 前記有機ビヒクル中の有機バインダが,エチルセルロースを主成分とし, 前記有機ビヒクル中の溶剤が,イソボニルプロピオネート,イソボニルブチレートおよびイソボニルイソブチレートから選択される1種以上を主成分とすることを特徴とする積層セラミック電子部品。」 2 先願明細書に記載された発明 先願明細書に記載された発明(先願発明)は,上記「第2,2(2)」において認定したとおりである。 3 本願発明と先願発明との対比・判断 本願発明は,前記第2で検討した本願補正発明から「前記有機ビヒクル中の有機バインダが,前記導電性粉末100重量部に対して1?10重量部含有されている」との構成を省いたもの(一致点であるには変わりない。)である。 そうすると,本願発明の構成をすべて含み,更に技術的に限定を加えた本願補正発明と,先願発明との相違点は前記第2,2(3)で検討したとおり,実質的なものではないから,本願発明と,先願発明との相違点も実質的なものではなく,本願発明は,先願明細書に記載された発明と同一である。 4 むすび 本願発明は,先願明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,また,本願出願の時においてその出願人が上記先願明細書の出願人と同一とも認められないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-12-26 |
結審通知日 | 2012-01-10 |
審決日 | 2012-01-23 |
出願番号 | 特願2005-270857(P2005-270857) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
Z
(H01G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 近藤 聡、酒井 朋広 |
特許庁審判長 |
齋藤 恭一 |
特許庁審判官 |
大澤 孝次 鈴木 匡明 |
発明の名称 | 導電性ペースト、積層セラミック電子部品及びその製造方法 |
代理人 | 前田 均 |