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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D |
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管理番号 | 1253205 |
審判番号 | 不服2011-2649 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-02-04 |
確定日 | 2012-03-08 |
事件の表示 | 特願2001-163309「ダイカストマシン用射出スリーブ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月 4日出願公開、特開2002-346719〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成13年5月30日の出願であって、平成22年8月20日付けで拒絶理由が通知され、同年10月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年2月4日付けで拒絶査定を不服とする審判請求がなされたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成22年10月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「内筒と外筒からなる二層構造を備えるとともに、内筒が、先端近傍以外の部分を占める第一部分と、先端近傍を占め第一部分とは組成が異なる第二部分とで構成されたダイカストマシン用射出スリーブであって、 前記外筒は、鋼で構成され、 前記内筒の第一部分は、Siが4.0wt%以上5.1wt%以下、Moが15wt%以上26wt%以下、Bが2.5wt%以上3.6wt%以下で、残部がNiからなる第一のニッケル合金で構成され、 前記内筒の第二部分は、Siが4.5wt%以上6.5wt%以下、Moが8wt%以上13wt%以下、Bが1.3wt%以上2.3wt%以下で、残部がNiからなる第二のニッケル合金で構成され、 前記内筒の第一部分及び第二部分が、前記外筒の内周面上に、熱間静水圧プレス法を用いて焼結と同時に接合されていること、 を特徴とするダイカストマシン用射出スリーブ。」(以下、「本願発明」という。) 第3.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本出願前に頒布された刊行物1(特開平11-300459号公報)、刊行物2(特開平6-71406号公報)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。 (1)刊行物1:特開平11-300459号公報 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】鋼製の外筒部と、 溶湯に対する耐食性を備えた合金製の内筒部とから構成されるダイカストマシン用スリーブであって、 前記内筒部の熱伝導率(300℃)が、10W/m・K以上、25W/m・K以下であることを特徴とするダイカストマシン用スリーブ。 …… 【請求項4】前記内筒部は、Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金により形成されることを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン用スリーブ。 …… 【請求項7】前記内筒部は、前記外筒部を構成する筒状部材の内周面に、熱間静水圧処理法または熱間押出法を用いて、原料粉末を焼結接合することにより形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のダイカストマシン用スリーブ。」(第2頁第1欄第1行-第33行) (1b)「(例2)次に示す工程でダイカストマシン用スリーブを製作した。 【0029】a.図6に示す形状を備えた外筒部21を、マルテンサイト系ステンレス鋼JIS-SUS420J2を用いて、機械加工により製作した。図7に示す形状を備えた中子25を、機械構造用鋼JIS-S25Cを用いて、機械加工により作製した。 【0030】b.図8に示す様に、外筒部21の外周部及び底部を缶体17で覆い、外筒部11の中に中子25をセットした。 c.外筒部21と中子25の間の環状の間隙部に、原料粉末23をガスアトマイズして充填した。なお、この原料粉末の組成は、Mo:20wt%、Si:4.6wt%、B:3.1wt%、Ni:残部、であり、粒径は1000μm以下であった。 …… 【0032】f.この結果得られた被処理体を、熱間静水圧処理装置(HIP)にセットし、1000気圧、900℃の条件で原料粉末23の焼結を行って内筒部22を形成した。また、これと同時に、外筒部21、内筒部22及び中子25を一体に接合した。」(第4頁第5欄第49行-第4頁第6欄第24行) (2)刊行物2:特開平6-71406号公報 (2a)「【請求項1】NiとMoの複硼化物、NiとWの複硼化物およびNi、MoおよびWの複硼化物の一種以上を主とする硬質相と、Niに主にMoが固溶した金属結合相とで構成される円筒状のサーメット焼結体からなり、サーメット焼結体の硬質相の含有量が50重量%以上90重量%以下であることを特徴とするダイカスト用射出スリーブ。」(第2頁第1欄第2行-第8行) (2b)「円筒状のサーメット焼結体の射出スリーブがダイカスト金型と接触する部分は、射出スリーブを固く押し付けて固定する必要上、角欠けが起きやすい。しかし、この部分は接触しているため金型(冷却を効かしてある。)側に熱を奪われるため浸食が緩やかであるので、この部分の金属結合層の含有量を増やして靭性を大きくしておくことにより、角欠けの問題を避けることができる。 このような構成からなる本発明の射出スリーブは、前述のアイソスタティクプレスによっても製造でき、」(第5頁第7欄第28行-第38行) 第4.引用刊行物1記載の発明 引用刊行物1には、上記記載事項によれば、 「内筒と外筒からなる二層構造を備えるダイカストマシン用射出スリーブであって、 前記外筒は、鋼で構成され、 前記内筒は、Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金により形成され、 前記内筒が、前記外筒の内周面上に、熱間静水圧プレス法を用いて焼結と同時に接合されているダイカストマシン用射出スリーブ。」(以下、「引用刊行物1発明」という。)が記載されている。 第5.対比・判断 本願発明と、引用刊行物1発明とを対比すると、両者は、 「内筒と外筒からなる二層構造を備えるダイカストマシン用射出スリーブであって、 前記外筒は、鋼で構成され、 前記内筒は、ニッケル合金により形成され、 前記内筒が、前記外筒の内周面上に、熱間静水圧プレス法を用いて焼結と同時に接合されているダイカストマシン用射出スリーブ。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 前記内筒が、本願発明では、「先端近傍以外の部分占める第一部分と、先端近傍を占める第一部分とは組成が異なる第二部分とで構成され」、前記第一部分は、「Siが4.0wt%以上5.1wt%以下、Moが15wt%以上26wt%以下、Bが2.5wt%以上3.6wt%以下で、残部がNiからなる第一のニッケル合金で構成され」、前記第二部分は、「Siが4.5wt%以上6.5wt%以下、Moが8wt%以上13wt%以下、Bが1.3wt%以上2.3wt%以下で、残部がNiからなる第二のニッケル合金で構成され」ているのに対し、 引用刊行物1発明では、「Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金により形成され」ている点。 上記相違点について検討する。 引用刊行物1発明は、上記のとおりの 「内筒と外筒からなる二層構造を備えるダイカストマシン用射出スリーブであって、 前記外筒は、鋼で構成され、 前記内筒は、Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金により形成され、 前記内筒が、前記外筒の内周面上に、熱間静水圧プレス法を用いて焼結と同時に接合されているダイカストマシン用射出スリーブ。」であるところ、上記記載事項(1b)によれば、具体的には、組成が、Mo:20wt%、Si:4.6wt%、B:3.1wt%、Ni:残部、であり、粒径は、1000μm以下である原料粉末を用い、熱間静水圧処理装置により、1000気圧、900℃の条件で原料粉末の焼結を行い内筒部を形成し、また、これと同時に、外筒部、内筒部及び中子を一体に接合することが記載されている。 そして、形成された内筒部を構成するNi合金について、その組織状態について明示はないものの、その組成、製造方法を勘案すれば、Ni基の結合相にMo、Niの硼化物が均一に分散した状態に成っているものと認められ、例えば、下記刊行物3にも記載されているとおりである。 刊行物3:特開平8-134569号公報 (3a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】重量%で、B 0.6?3.2%、Si 0.5?8%、Mo5?37%、残部Niおよび不可避的不純物からなり、Ni基の結合相にNi硼化物およびMo硼化物が分散していることを特徴とする、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金。 【請求項2】請求項1に記載のNi基合金と鉄鋼材とを金属結合により複合化させたことを特徴とする、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金複合材料。」(第2頁第1欄第1行-第9行) (3b)「【0013】Moは、Bと硼化物を形成し、耐摩耗性を高めると共にNiを主とする結合相の耐食性を改善する効果がある。…… …… 【0015】次に、本発明Ni基合金の製造法について説明する。Ni基合金は、B、Si、Mo、Niの粉末、もしくはこれらの元素のうち2種以上含有する合金粉を所定の分量秤量し、回転ボールミルによって48時間粉砕混合し、その後プレス成形し、焼結して製造される。 【0016】焼結は、真空中、還元性ガス中で行う。また、熱間静水圧焼結等の他の方法で行ってもよい。…… …… 【0017】焼結された合金は、MoB、Mo_(2)NiB_(2)、Ni_(2)B、Ni_(3)Bなど硼化物の微細粒子をNi結合相に均一に分散した組織になっている。Ni結合相には,MoおよびSiが固溶している。」(第2頁第2欄第49行-第3頁第3欄第28行) 一方、引用刊行物2には、上記記載事項(2a)、(2b)によれば、NiとMoの複硼化物、NiとWの複硼化物およびNi、MoおよびWの複硼化物の一種以上を主とする硬質相と、Niに主にMoが固溶した金属結合相とで構成される円筒状のサーメット焼結体からなり、サーメット焼結体の硬質相の含有量が50重量%以上90重量%以下であることを特徴とするダイカスト用射出スリーブにおいて、先端近傍を占める、金型との接触部分に角欠けが起きやすいこと、それを防止するために、先端近傍を占める部分の金属結合相の含有量を増やして靭性を大きくすることが記載されている。 とすれば、引用刊行物1発明に係るダイカスト用射出スリーブにおいても、上記角欠けの課題を有するものと認められるところ、引用刊行物2においても、内筒の金型との接触部分とそれ以外の部分を、外筒の内周面上にアイソスタティックプレスにより、焼結と同時に一体化しうることも示されていることから、Mo_(2)NiB_(2)等の硼化物の微細粒子をNi結合相に均一に分散した組織を有する点で共通する引用刊行物2と同様の解決手段、すなわち、先端近傍を占める部分の金属結合相の量を、それ以外の部分よりも大きくなるようにするという手段を適用することは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際、分散粒子を構成するMo、Bの含有量を、第二部分に相当する先端近傍を占める部分では、それぞれ、「8wt%以上13wt%以下」、「1.3wt%以上2.3wt%以下」とし、それ以外の第一部分では、それぞれ、「15wt%以上26wt%以下」、「2.5wt%以上3.6wt%以下」とすることで、第二部分の金属結合相の割合を高くすることは、所望とする靭性に応じて決定される設計的事項である。 そして、本願発明が、引用刊行物1及び2に記載された事項からは予測し得ない格別な効果を奏するものとも認められない。 よって、本願発明は、引用刊行物1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-12-26 |
結審通知日 | 2012-01-10 |
審決日 | 2012-01-25 |
出願番号 | 特願2001-163309(P2001-163309) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B22D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池ノ谷 秀行 |
特許庁審判長 |
鈴木 正紀 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 北村 明弘 |
発明の名称 | ダイカストマシン用射出スリーブ |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 村松 貞男 |