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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1253269 |
審判番号 | 不服2009-18215 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-09-28 |
確定日 | 2012-03-07 |
事件の表示 | 特願2004-163887「ケフィアグレインを用いた発酵産物の製造方法及び当該方法によって得られる発酵産物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日出願公開,特開2005-312424〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成16年4月30日の出願であって,平成21年2月5日付けの拒絶理由通知に対して,同年5月11日に意見書が提出され,その後,同年6月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月28日に拒絶査定に対する不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成23年5月23日付けで審尋がなされたものである。 第2 平成21年9月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定 1 補正の却下の決定の結論 平成21年9月28日付けの手続補正を却下する。 2 理由 (1)補正の内容 平成21年9月28日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1である, 「以下の工程を含む,豆乳発酵産物の製造方法: 1)豆乳に下記A群およびB群の双方から選択される助剤を添加し,撹拌する工程, A群:Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤, B群:グルコース,ラフィノース,ガラクトース,トレハロース,シュークロース,サリシン,ラムノース,フルクトース,セルロース,マルトース,マンノース,リボース,キシロース,セロビオース,メリビオース,ソルビトール,スターチ,メレチトース,グルコネートからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤, 2)ケフィアグレイン,またはケフィアグレインを発酵して得られる液体もしくは粉体,またはケフィア構成微生物よりなるものを上記撹拌した混合物に添加し,よく撹拌する工程, 3)上記で得られた混合物を静置発酵する工程。」 を, 「以下の工程を含む,豆乳発酵産物の製造方法: 1)豆乳に下記A群およびB群の双方から選択される助剤を添加し,撹拌する工程, A群:Ca,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエーからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤, B群:グルコース,ラフィノース,ガラクトース,トレハロース,シュークロース,フルクトース,セルロース,マルトース,ソルビトールからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤, 2)ケフィアグレイン,またはケフィアグレインを発酵して得られる液体もしくは粉体,またはケフィア構成微生物よりなるものを上記撹拌した混合物に添加し,よく撹拌する工程, 3)上記で得られた混合物を静置発酵する工程。」 に補正することを含むものである。 (2)新規事項の有無及び補正の目的 上記補正は,「A群:Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤」を「A群:Ca,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエーからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤」とし,さらに,「B群:グルコース,ラフィノース,ガラクトース,トレハロース,シュークロース,サリシン,ラムノース,フルクトース,セルロース,マルトース,マンノース,リボース,キシロース,セロビオース,メリビオース,ソルビトール,スターチ,メレチトース,グルコネートからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤」を「B群:グルコース,ラフィノース,ガラクトース,トレハロース,シュークロース,フルクトース,セルロース,マルトース,ソルビトールからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤」とするものである。 かかる補正事項は,A群から「P」及び「乳糖」の選択肢を削除すると共に,B群から「サリシン」,「ラムノース」,「マンノース」,「リボース」,「キシロース」,「セロビオース」,「メリビオース」,「スターチ」,「メレチトース」及び「グルコネート」の選択肢を削除するものであり,願書に最初に添付した明細書の記載からみて新規事項を追加するものではなく平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第3項の規定に適合するものである。また,上記したように選択肢を削除するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)独立特許要件の検討 そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 ア 刊行物1に記載された事項 原査定で引用例1として引用され,本出願前に頒布された刊行物である「特開2003-310154号公報」(以下,「刊行物1」という。)には,以下の事項が記載されている。 なお,下線は当審にて付記したものである。 (刊1-1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】ケフィアグレインを用いた豆乳発酵産物。 【請求項2】ケフィアグレインが,少なくともラクトバチルス・ケフィラノファシエンス,ラクトバチルス・ケフィリ,及びラクトバチルス・メセンテロイデスの三種類の乳酸菌;並びにカンジタ・ケフィル,カンジタ・ホルミ,及びサッカロミセス・ウニスポラクスからなる郡より選択される一種類の酵母を含むものである,請求項1に記載の豆乳発酵産物。 【請求項3】新たなケフィアグレイン発酵産物を調製するための添加剤として使用するための,請求項1又は2に記載の豆乳発酵産物。 【請求項4】抗ガン作用,抗ストレス作用,抗血栓作用,免疫力増強作用,抗酸化作用又はDNA修復促進作用によって改善される状態又は疾患を処置するための,請求項1又は2に記載の豆乳発酵産物。 【請求項5】凍結乾燥物の形態である,請求項1?4のいずれか1項に記載された豆乳発酵産物。 【請求項6】以下の工程を含む,豆乳発酵産物製造方法: 1)殺菌した牛乳に100gに対し,0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)のケフィアグレインを接種し, 2)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で培養してスターターを調製し; 3)以下の成分を含む殺菌した配合物100gに対し,スターター0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)を接種し: 3a)豆乳,又は加水した豆乳; 3b)Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1又は2以上を含む助剤 ;及び 3c)所望により,ペプトン,又は動物性タンパク質; 並びに 4)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で8?72時間,及び/又は乳酸酸度が0.55?1.50(好ましくは0.60?1.20,より好ましくは0.65?0.90)になるまで発酵させる。 【請求項7】ケフィアグレインが,少なくともラクトバチルス・ケフィラノファシエンス,ラクトバチルス・ケフィリ,及びラクトバチルス・メセンテロイデスの三種類の乳酸菌;並びにカンジタ・ケフィル,カンジタ・ホルミ,及びサッカロミセス・ウニスポラクスからなる郡より選択される一種類の酵母を含むものである,請求項6に記載の豆乳発酵産物製造方法。」 (刊1-2)「【0006】ケフィアグレインによる大豆豆乳発酵物の調製は,例えば,特開2000-166467号の実施例1に記載されている。しかしながら,ここに記載されているように,単に牛乳の代わりに豆乳を使用し,通常の方法で発酵物を調製しようとしても,ケフィアは栄養要求性が独特であるためか,発酵が充分に進まないことが本発明者らの検討により判明してきた。ケフィアの発酵には,何らかの動物由来の成分が必要であるとも推測された。このように,ケフィアグレインによる豆乳発酵物の調製には種々の困難が存在したために,豆乳原料とした実用的なケフィアグレイン発酵食品は現在まで開発されていない。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者らは,豆乳を用いたケフィアグレイン発酵生産物について鋭意検討を続けてきた結果,本発明を完成した。本発明はすなわち,現在まで実行可能な培養手段が存在せず,得ることができなかった,ケフィアグレインを用いた豆乳発酵産物を提供する。」 (刊1-3)「【0010】必要な時間が経過し,又は必要な酸度に達したならば,5?2℃まで冷却して,発酵の進行をとめる。工程3において用いられる豆乳配合物は,豆乳,又は加水した豆乳以外に,発酵助剤を含む。この助剤により,豆乳配合物の組成を牛乳に近いものとするとよい。本発明に用いる助剤としては,市販されている発酵助剤,例えばヨーグルト,チーズ等の製造の際に用いられるものを単独で又は組み合わせて用いることができるが,好ましくはCa,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩及び乳糖からなる群より選択される成分の1又は2以上を含むものであり,より好ましくは,少なくともP,Fe,K,Cl及び乳糖を含むか,またはこれらの7成分のすべてを含むものである。」 (刊1-4)「【0014】本発明の方法により得られた豆乳発酵産物には,驚くべきことに,豆乳独特の臭いがまったくないか,かなり低減される。したがって,非常に食しやすいものである。 【0015】本発明の方法により得られた豆乳発酵産物は,乾燥して,粉末,又は顆粒等の形態とすることができる。乾燥のための手段は,当業者によく知られた通常の方法を用いることができるが,凍結乾燥することが好ましい。」 (刊1-5)「【0022】<実施例1> (1)ケフィアグレインを用いたスターターの調製:90℃達温殺菌した牛乳に,コーカサス地方のケフィアグレインを1.5%(重量比)接種し,20℃で20時間培養し,スターターを得た。 【0023】(2)豆乳発酵物の調製:豆乳(日本ビーンズ社製)900gを70℃達温殺菌し,冷却した(10℃)。他方,表1の組成の助剤34g,ペプトン2gを水64gに溶解したものを殺菌し,殺菌済み豆乳に加えた。スターターを1.5%(重量比)接種し,20℃で培養した。 【0024】接種14時間後,非常に固いカードが形成されていた。接種22時間後に冷却した。酸度の変化を下表に示した。」 イ 刊行物1に記載された発明 上記刊行物1の摘示(刊1-1)には, 「【請求項6】以下の工程を含む,豆乳発酵産物製造方法: 1)殺菌した牛乳に100gに対し,0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)のケフィアグレインを接種し, 2)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で培養してスターターを調製し; 3)以下の成分を含む殺菌した配合物100gに対し,スターター0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)を接種し: 3a)豆乳,又は加水した豆乳; 3b)Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1又は2以上を含む助剤 ;及び 3c)所望により,ペプトン,又は動物性タンパク質; 並びに 4)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で8?72時間,及び/又は乳酸酸度が0.55?1.50(好ましくは0.60?1.20,より好ましくは0.65?0.90)になるまで発酵させる」との記載がある。「接種し」,「調製し」及び「発酵させる」を,それぞれ,「接種する工程」,「調製する工程」及び「発酵させる工程」と言い換えると,刊行物1には, 次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明1) 「以下の工程を含む,豆乳発酵産物製造方法: 1)殺菌した牛乳に100gに対し,0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)のケフィアグレインを接種する工程, 2)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で培養してスターターを調製する工程; 3)以下の成分を含む殺菌した配合物100gに対し,スターター0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)を接種する工程; 3a)豆乳,又は加水した豆乳; 3b)Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1又は2以上を含む助剤 ;及び 3c)所望により,ペプトン,又は動物性タンパク質; 並びに 4)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で8?72時間,及び/又は乳酸酸度が0.55?1.50(好ましくは0.60?1.20,より好ましくは0.65?0.90)になるまで発酵させる工程。」 ウ 対比 本願補正発明と引用発明1とを対比する。 (ア)引用発明1に係る,豆乳に接種するケフィアグレインは,「1)殺菌した牛乳に100gに対し,0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)のケフィアグレインを接種する工程, 2)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で培養してスターターを調製する工程」によって得られたものであるから,牛乳で培養してスターターに調製したものである。 一方,本願補正発明に係る,豆乳に接種するケフィアグレインは,「2)ケフィアグレイン,またはケフィアグレインを発酵して得られる液体もしくは粉体,またはケフィア構成微生物よりなるもの」であって,その調製法については何らの特定もなされていないから,牛乳で培養したものを排除するものではない。 そうすると,引用発明1における「1)殺菌した牛乳に100gに対し,0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)のケフィアグレインを接種する工程, 2)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で培養してスターターを調製する工程」によって,得られたスターターは,本願補正発明の「2)ケフィアグレイン,またはケフィアグレインを発酵して得られる液体もしくは粉体,またはケフィア構成微生物よりなるもの」に相当する。 (イ)引用発明1の「3)以下の成分を含む殺菌した配合物」には,本願補正発明の「B群」に相当する助剤は含まれていないものの,「豆乳」と「3b)Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1又は2以上を含む助剤」が含まれている。また,通例「配合」といえば,成分が均質に配合されたものを意味するから,引用発明1の「配合物」は,攪拌したものであると理解するのが自然である。 上記引用発明1の配合物の成分うち,「3b)Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1又は2以上を含む助剤」は,本願補正発明の「A群:Ca,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエーからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤」に相当することは明白である。 以上のことをまとめると,引用発明1の「3)以下の成分を含む殺菌した配合物」であって,該「以下の成分」として「3a)豆乳,;及び 3b)Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1又は2以上を含む助剤 」であるものと,本願補正発明の「1)豆乳に下記A群およびB群の双方から選択される助剤を添加し,撹拌する工程, A群:Ca,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエーからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤, B群:グルコース,ラフィノース,ガラクトース,トレハロース,シュークロース,フルクトース,セルロース,マルトース,ソルビトールからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤」により得られたものとは,「1)豆乳に下記A群の助剤を添加し,撹拌する工程, A群:Ca,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエーからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤」という点で共通する。 (ウ)引用発明1の「スターター0.15?15g(好ましくは0.3?10g,より好ましくは0.5?4.5g)を接種する工程」について,スターターを添加した後に,被発酵物と均一に混合させるためよく攪拌することは技術常識であるから,引用発明1の「スターターを接種する工程」は,本願補正発明の「2)ケフィアグレイン,またはケフィアグレインを発酵して得られる液体もしくは粉体,またはケフィア構成微生物よりなるものを上記撹拌した混合物に添加し,よく撹拌する工程」に相当する。 (エ)刊行物1には,「【0024】接種14時間後,非常に固いカードが形成されていた。接種22時間後に冷却した。酸度の変化を下表に示した。」(摘示(刊1-5))との記載があり,接種後,非常に固いカードが形成されるには,発酵が静置発酵で実施されていることは,技術常識上明らかである。 よって,引用発明1の「4)5?30℃(好ましくは15?25℃,より好ましくは18℃?23℃)で8?72時間,及び/又は乳酸酸度が0.55?1.50(好ましくは0.60?1.20,より好ましくは0.65?0.90)になるまで発酵させる工程」は,本願発明の「3)上記で得られた混合物を静置発酵する工程」に相当する。 以上のことを総合すると,両発明は次の(一致点)及び(相違点)を有する。 (一致点) 「以下の工程を含む,豆乳発酵産物の製造方法: 1)豆乳に下記A群から選択される助剤を添加し,撹拌する工程, A群:Ca,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエーからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤, 2)ケフィアグレイン,またはケフィアグレインを発酵して得られる液体もしくは粉体,またはケフィア構成微生物よりなるものを上記撹拌した混合物に添加し,よく撹拌する工程, 3)上記で得られた混合物を静置発酵する工程。」 (相違点) A群の助剤に加えて,本願補正発明では,「B群:グルコース,ラフィノース,ガラクトース,トレハロース,シュークロース,フルクトース,セルロース,マルトース,ソルビトールからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤」が添加されている対して,引用発明1では本願補正発明のB群に相当する助剤が添加されていない点。 エ 判断 (ア)相違点について ケフィアは,ケフィールとも呼ばれ,下記刊行物Aの摘示(刊A-1)に記載されているように,乳酸菌と酵母により,発酵させたアルコール分を含む発酵乳であることは技術常識である。引用発明1においても,刊行物1の摘示(刊1-1)に「【請求項7】ケフィアグレインが,少なくともラクトバチルス・ケフィラノファシエンス,ラクトバチルス・ケフィリ,及びラクトバチルス・メセンテロイデスの三種類の乳酸菌;並びにカンジタ・ケフィル,カンジタ・ホルミ,及びサッカロミセス・ウニスポラクスからなる郡より選択される一種類の酵母を含むものである,請求項6に記載の豆乳発酵産物製造方法。」との記載があるように,乳酸菌と酵母により発酵が行われている。 ここで,乳酸発酵は,ヘテロ型とホモ型があることが知られているが,共にグルコース(ブドウ糖)を資化代謝し得るものであることが技術常識(下記刊行物Aの摘示(刊A-2)参照。)となっており,引用発明1の「ケフィアグレイン」に含まれる乳酸菌がいずれの乳酸発酵をするにせよ,グルコースを資化代謝し得ることは明らかである。 また,酵母も下記刊行物Aの摘示(刊A-3)に記載のように,グルコースを資化代謝し得る微生物であり,引用発明1の「ケフィアグレイン」に含まれる酵母が,グルコースを資化代謝し得ることは明白である。 そうすると,当業者であれば,助剤として,代謝の原料であるグルコース等の糖類を培地に添加すれば,発酵が旺盛となるであろうことは,上記周知の技術的事項から容易に想到し得ることであり,発酵促進を目的として,引用発明1において,更にグルコース等の糖類を含むB群に係る成分を添加し,本願補正発明のごとく構成することは,当業者にとって格別困難なことではない。 刊行物A:丸善食品総合辞典,丸善株式会社,平成10年3月25日 (刊A-1)「アルコール発酵乳・・・(略)・・・乳酸菌と酵母(SaccharomycesやTorula)により発酵させたアルコール分を含む発酵乳。バルカン諸国,中央アジア,南ロシア地方で古くから愛飲され,ケフィール,クーミスなどが著名。・・・(略)・・・」(55頁,「アルコール発酵乳」の項) (刊A-2)「乳酸発酵・・・(略)・・・微生物の作用により糖を分解して乳酸を生成する現象。・・・(略)・・・乳酸発酵はホモ型とヘテロ型発酵に大別される。1(当審注:○の中に1) ホモ型乳酸発酵:1分子のヘキソース(六炭糖)によりEPM(Embden-Meyerhof-Parnass)解糖経路を通り2分子の乳酸をつくり,副産物をほとんど生じない発酵,2(当審注:○の中に2) ヘテロ型乳酸発酵:ぶどう糖を発酵して乳酸,エタノール,酢酸,二酸化炭素やグリセロールやマンニトールを生成する発酵。ホモ乳酸発酵の機構は出発物質がヘキソースである点を除けば,解糖の機構とまったく同じ。グルコースを基質としたホモ発酵では,D-,L-,DL-形と菌によってさまざまの光学活性の異なる乳酸を生成するのに対し,筋肉の解糖系ではL-乳酸のみを生成する。」(807頁,「乳酸発酵」の項) (刊A-3)「アルコール発酵・・・(略)・・・酵母によるアルコール発酵では主生産物は,エタノールと二酸化炭素でグルコース100gより理論上はエタノール51.14g(64.35ml)と二酸化炭素48.86gが生成される。・・・(略)・・・」(55頁,「アルコール発酵」の項) (イ)本願補正発明の効果について 本願明細書の段落【0015】には「本発明の豆乳発酵産物の製造方法は,特定の助剤を組み合わせて使用することにより,スターター製造時に牛乳を用いずに,豆乳そのものにケフィアグレインを添加しただけで豆乳からケフィアを作ることが可能になった。さらに,このようにして製造した豆乳発酵産物をスターターとして,豆乳または牛乳に添加することにより各々の発酵産物を製造することも可能である。」と,効果が記載されている。しかしながら,「第2 2(3)ウ(ア)」で言及したように,本願補正発明は,スターターの調製法については何らの特定もなされていないから,前記効果に関する記載のうち「スターター製造時に牛乳を用い」ないというのは,本願請求項2に係る発明の効果であったとしても,本願補正発明の効果とはいえない。そして,かかる本願明細書記載の効果を含め,本願明細書を精査しても,本願補正発明の効果は,刊行物1及び上記周知の技術的事項から当業者が予測し得るものであるし,本願補正発明の効果が格別優れているともいえない。 なお,仮に,本願補正発明が「スターター製造時に牛乳を用い」ないものであるとしても,引用発明1により,豆乳発酵産物が得られており,豆乳に発酵が起きていることを意味する。スターターは発酵を起こすためのものであるから,引用発明1において,牛乳を用いたスターターに代えて,発酵が起きることが明白な引用発明1により得られた豆乳発酵産物をスターターとして用いることで,「スターター製造時に牛乳を用い」ないようにする程度のことは,当業者であれば容易に発明し得たものといえる。 (ウ)請求人の主張について 審判請求人は,審判請求書において,本願補正発明には,有利な効果がある旨を主張し,それを裏付けるために,次のようなデータを提出している。 (a 実験手法)「<本願発明の有利な効果> 審判請求人は,本願の有利な効果に関し,以下に示す実験結果を提出する。 豆乳発酵産物の調製: [方法] (1)各200mLの豆乳を冷蔵庫から出し,室温に戻した。 (2)豆乳各々に,0.8gの本願実施例1の方法で準備したスターターを添加した。 (3)(2)の豆乳に適宜,下記の助剤を添加した。 A:リン酸二水素ナトリウム Na量=3808.9mg/豆乳1L 酸化鉄(II)七水和塩 Fe量=609.5mg/豆乳1L B:グルコース0.3g/200ml C:A+B (4)上記豆乳をよく撹拌し,25℃に保温した。 (5)0hr,12hr,18hr,24hr,27hr毎に酸度を測定した。」(平成21年11月6日付け手続補正書(方式)3頁下から8行?9頁5行) (b 実験結果-1)「【表1】 」(平成21年11月6日付け手続補正書(方式)4頁) (c 実験結果-2)「【表2】 」(平成21年11月6日付け手続補正書(方式)5頁) (d 考察)「[考察] 配合Aと配合Cにおいて,配合Bに比較して酸度の上昇が見られ,発酵が充分に行われていることが分かった。一方,配合Bは,配合A及びCに比較して,固化の進行が早く認められた。固化の進行は,減量中のタンパク質が凝固するために生じるが,これは酸度の上昇よりpHの低下に依存していると考えられた。 発酵が早く進行し,かつ発酵が充分に進行した状態(酸度が高い状態)で同時に好ましいヨーグルト状の固さが得られている点で,配合Cが最も好ましいと考えられた。このような本願発明の効果は,引用文献1及び2のいずれにも記載されておらず,示唆されてもいない。よって,本願発明は,引用文献1及び2に対し,新規性・進歩性を有するといえる。本願の他の請求項に係る発明についても同様である。」(平成21年11月6日付け手続補正書(方式)5頁本文1?10行) しかし,上記摘示(b 実験結果-1)をみても,配合A(A群助剤:リン酸二水素ナトリウム+酸化鉄(II)七水和塩)及び配合C(A群助剤:リン酸二水素ナトリウム+酸化鉄(II)七水和塩及びB群助剤:グルコース)は,配合B(B群助剤:グルコース)と比較して酸度の上昇はみられるが,配合Aと配合Cとの間では,その差異が明らかでなく,むしろ同程度と解すべきである。 つまり,引用発明1に相当するA群助剤のみを含む配合Aと,本願補正発明の実施例であるA群助剤とB群助剤の双方を含む配合Cとの間で,同程度であるということは,酸度上昇という点においては,引用発明1と本願補正発明の効果は同程度であるということを意味する。 また,上記摘示(c 実験結果-2)の評価において,引用発明1に相当するA群助剤のみを含む配合Aと,本願補正発明の実施例であるA群助剤とB群助剤の双方を含む配合Cとの間で,違いがあるのは,「18h」で,配合Aが「液状,粘り有り」であるのに対して,配合Cでは「液状,粘り有り,配合Aよりも固化が進行」との違いのみである。そして,「24h」で両者共に「固化進行,ヨーグルト状,気泡有り」という状態に進行することから,「18h」でみられた違いも「24h」になると,変わらなくなる程度の違いと理解される。 この程度の違いは,上記「第2 2(3)エ (ア)相違点について」で述べたように,乳酸菌や酵母は,グルコースを資化代謝し得る微生物であるという本出願前周知の技術的事項から説明することができる。つまり,固化は発酵の進行度とも関連することから,助剤として,資化代謝し得る成分であるグルコースを培地に添加すれば,発酵が促進され固化がより促進されることは予測できるものであって,その予測どおりの結果が観察されたものにすぎない。 したがって,請求人の提出する上記「実験結果」は,刊行物1及び上記周知の技術的事項から当業者が予測し得るものであるし,本願補正発明の効果が格別優れているともいえない。 オ まとめ 本願補正発明は,その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができるものではない。 以上のとおり,上記補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,この補正を含む本件補正は,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 平成21年9月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,出願当初の明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり,請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,下記のとおりである。 「以下の工程を含む,豆乳発酵産物の製造方法: 1)豆乳に下記A群およびB群の双方から選択される助剤を添加し,撹拌する工程, A群:Ca,P,Fe,Na,K,Mg,Cl,リン酸塩,ホエー,及び乳糖からなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤, B群:グルコース,ラフィノース,ガラクトース,トレハロース,シュークロース,サリシン,ラムノース,フルクトース,セルロース,マルトース,マンノース,リボース,キシロース,セロビオース,メリビオース,ソルビトール,スターチ,メレチトース,グルコネートからなる群より選択される成分の1種又は2種以上を含む助剤, 2)ケフィアグレイン,またはケフィアグレインを発酵して得られる液体もしくは粉体,またはケフィア構成微生物よりなるものを上記撹拌した混合物に添加し,よく撹拌する工程, 3)上記で得られた混合物を静置発酵する工程。」 第5 原査定の理由の概要 拒絶査定における拒絶理由の概要は,本願発明は,その出願前に頒布された特開2003-310154号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 第6 引用刊行物の記載事項 原査定で引用された「特開2003-310154号公報」は,上記刊行物1であり,その記載事項及び記載された発明は,上記の「第2 2 (3)ア 刊行物1に記載された事項」及び「第2 2 (3)イ 刊行物1に記載された発明」に記載されたとおりである。 第7 当審の判断 本願発明は,本願補正発明に係るA群に,「P」及び「乳糖」を選択肢に追加し,並びにB群に「サリシン」「ラムノース」「マンノース」「リボース」「キシロース」「セロビオース」「メリビオース」「スターチ」「メレチトース」及び「グルコネート」を選択肢に追加したものに相当する。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,上記「第2 2 (3)エ 判断」に記載したとおり,刊行物1及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第8 むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないので,本願は,その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-10 |
結審通知日 | 2012-01-11 |
審決日 | 2012-01-25 |
出願番号 | 特願2004-163887(P2004-163887) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今村 玲英子 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 ▲高▼岡 裕美 |
発明の名称 | ケフィアグレインを用いた発酵産物の製造方法及び当該方法によって得られる発酵産物 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 野▲崎▼ 久子 |