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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1253273
審判番号 不服2010-1833  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-27 
確定日 2012-03-07 
事件の表示 特願2005-186968「有機薄膜トランジスタ及び液晶表示装置用基板並びにそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月30日出願公開、特開2006- 86502〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年6月27日(パリ条約による優先権主張2004年9月15日,大韓民国)の出願であって、平成21年2月20日付けで拒絶理由が通知され、同年5月1日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月27日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年8月27日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年9月15日付けで同年8月27日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。
それに対して、平成22年1月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成23年4月20日付けで審尋がなされ、それに対する回答はなされなかった。

第2 平成22年1月27日に提出された手続補正書による補正についての却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年1月27日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?27(平成21年5月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?27)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?23と補正するとともに、発明の詳細な説明を補正するものであり、そのうちの補正前後の請求項1に係る発明は次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
基板上に形成された第1の厚さを有するゲート電極と、
前記基板及び前記ゲート電極上に形成され、前記基板上では第2の厚さを有し、前記ゲート電極上では2000Åないし5000Åの第3の厚さを有する有機絶縁層と、
前記有機絶縁層の上部に形成される半導体層と、
前記有機絶縁層の上部に形成され、前記半導体層と接触するソース電極及びドレイン電極と
を含み、
前記第1の厚さは、5000Å以上であり、
前記有機絶縁層は、2.6ないし4程度の誘電率を有し、ベンゾシクロブテン、フォトアクリル、ポリビニールフェノール中、一つでなる
ことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。」

(補正後)
「【請求項1】
基板上に形成された第1の厚さを有するゲート電極と、
前記基板及び前記ゲート電極上に形成され、前記基板上では第2の厚さを有し、前記ゲート電極上では2000Åないし5000Åの第3の厚さを有する有機絶縁層と、
前記有機絶縁層の上部に形成される半導体層と、
前記有機絶縁層の上部に形成され、前記半導体層と接触するソース電極及びドレイン電極と
を含み、
前記第1の厚さは、5000Å以上であり、
前記有機絶縁層は、2.6ないし4程度の誘電率を有し、ベンゾシクロブテン、フォトアクリル、ポリビニールフェノール中、一つでなり、
前記第2の厚さは、9000Å以上であり、
前記ゲート電極は、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の空間領域に完全に覆われている
ことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。」

2 本件補正についての検討
(1)補正の目的の適否及び新規事項の追加について
本件補正を整理すると次のとおりである。
[補正事項1]
補正前の請求項1、9、17及び22に、「前記第2の厚さは、9000Å以上であり、前記ゲート電極は、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の空間領域に完全に覆われている」との記載をそれぞれ付加する補正をする。
[補正事項2]
補正前の請求項2、10、18及び23を削除する。
[補正事項3]
補正前の請求項3?9、11?17、19?22及び24?27を、それぞれ請求項2?8、9?15、16?19及び20?23として、項番号を繰り上げる。また、これにともない、各請求項が引用する請求項の項番号を補正する。
[補正事項4]
発明の詳細な説明の段落【0019】?【0022】を補正する。

以下、補正事項1ないし4について検討する。
ア 補正事項1について
補正事項1は、補正前の請求項1、9、17及び22に係る発明の発明特定事項である「前記基板及び前記ゲート電極上に形成され、前記基板上では第2の厚さを有し、前記ゲート電極上では2000Åないし5000Åの第3の厚さを有する有機絶縁層」について、「前記第2の厚さは、9000Å以上であり」という構成を追加して技術的に限定するとともに、補正前の請求項1、9、17及び22に係る発明の発明特定事項である「基板上に形成された第1の厚さを有するゲート電極」について、「前記ゲート電極は、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の空間領域に完全に覆われている」という構成を追加して技術的に限定する補正であり、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしている。

また、補正事項1により補正をされた事項は、本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「当初明細書等」という。)の段落【0028】、【0037】、【0042】及び【0046】、並びに図3に記載されており、補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

したがって、補正事項1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たしている。

イ 補正事項2及び補正事項3について
補正事項2及び補正事項3は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当するから、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしている。
また、補正事項2及び補正事項3が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

ウ 補正事項4について
補正事項4により補正された事項は、当初明細書の段落【0028】、【0035】、【0037】、【0042】及び【0046】?【0048】、並びに図3に記載されており、補正事項4は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項4は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

ウ 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(2)独立特許要件について
ア 本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、上記「1 本件補正の内容」の「(補正後)」の箇所に記載したとおりである。

イ 刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2004-128469号公報(以下「刊行物1」という。)には、「電界効果トランジスタ」(発明の名称)に関して、図1ないし図9とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付加したもの。以下同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機半導体を用いた電界効果トランジスタに関する。」
「【0027】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して本発明の電界効果トランジスタの実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
本発明の電界効果トランジスタは、絶縁体層と、この絶縁体層により隔離されたゲート電極及び有機半導体層と、この有機半導体層に接するように設けられたソース電極及びドレイン電極とを、絶縁性支持基板上に有するものであり、その構造には特に制限はなく、図1に示すボトムゲート・ボトムコンタクト型、図2に示すボトムゲート・トップコンタクト型、図3に示すトップゲート・ボトムコンタクト型などが挙げられる。
【0029】
本発明においては、このような電界効果トランジスタにおいて、絶縁性支持基板1としてポリエチレンテレフタレート(PET)基板を用い、絶縁体層3は、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シアノ基を有する炭化水素樹脂及びフェノール樹脂、並びにこれらの樹脂を構成する単量体成分を含む共重合樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂を主成分とする樹脂組成物で構成する。」
「【0031】
絶縁体層を構成するポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シアノ基を有する炭化水素樹脂及びフェノール樹脂は公知のものを使用することができる。シアノ基を有する炭化水素樹脂としては、シアノプルラン等のシアノ基を有する多糖類が挙げられる。また、これらの樹脂を構成する単量体成分の2種以上からなる共重合体であってもよい。また、これらの樹脂の2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
絶縁体層を構成する材料として好ましいのは、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂、メタクリル樹脂)、エポキシ樹脂、シアノ基を有する炭化水素樹脂及びフェノール樹脂である。さらに、電気抵抗が高い、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、シアノ基を有する炭化水素樹脂及びフェノール樹脂が好ましく、特に高誘電率絶縁材料という観点からシアノ基を有する炭化水素樹脂が好ましく、トランジスタ積層の塗布工程で基板や有機半導体層を侵したり、基板や有機半導体層によって絶縁体層が侵されることなく積層できる観点からポリビニルフェノール、及びフェノール樹脂が好ましい。」
「【0036】
このような絶縁体層の厚みは0.1μmから4μmが好ましく、0.2μmから2μmが更に好ましい。」
「【0046】
これらゲート電極、ソース電極、ドレイン電極の厚みは0.01μmから2μmが好ましく、0.02μmから1μmが更に好ましい。」

以上、図1?図9を参酌してまとめると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「絶縁性支持基板1上に形成されたゲート電極2と、
前記絶縁性支持基板1及び前記ゲート電極2上に形成され、厚みは0.1μmから4μmであり、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シアノ基を有する炭化水素樹脂及びフェノール樹脂、並びにこれらの樹脂を構成する単量体成分を含む共重合樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂を主成分とする樹脂組成物で構成される絶縁体層3と、
前記絶縁体層3の上部に形成される有機半導体層4と、
前記絶縁体層3の上部に形成され、前記有機半導体層4に接するように設けられたソース電極5及びドレイン電極6と
を含み、
ゲート電極2の厚みは、0.01μmから2μmである
有機半導体を用いた電界効果トランジスタ。」

ウ 対比
本件補正後の請求項1に係る発明と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「絶縁性支持基板1」、「有機半導体層4」は、それぞれ補正発明の「基板」、「半導体層」に相当する。
b 引用発明の「ポリビニルフェノール」は補正発明の「ポリビニールフェノール」に相当するから、引用発明の「ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シアノ基を有する炭化水素樹脂及びフェノール樹脂、並びにこれらの樹脂を構成する単量体成分を含む共重合樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂を主成分とする樹脂組成物で構成される絶縁体層3」は、補正発明の「2.6ないし4程度の誘電率を有し、ベンゾシクロブテン、フォトアクリル、ポリビニールフェノール中、一つでな」る「有機絶縁層」に相当する。
c 引用発明の「前記有機半導体層4に接するように設けられたソース電極5及びドレイン電極6」は、補正発明の「前記半導体層と接触するソース電極及びドレイン電極」に相当する。
d 引用発明の「電界効果トランジスタ」は、「絶縁性支持基板1上」に薄膜状に形成されたものであり、しかも、「有機半導体を用いた電界効果トランジスタ」であるから、引用発明の「有機半導体を用いた電界効果トランジスタ」は、補正発明の「有機薄膜トランジスタ」に相当する。

したがって、両者は、
「基板上に形成されたゲート電極と、
前記基板及び前記ゲート電極上に形成された有機絶縁層と、
前記有機絶縁層の上部に形成される半導体層と、
前記有機絶縁層の上部に形成され、前記半導体層と接触するソース電極及びドレイン電極と
を含み、
前記有機絶縁層は、2.6ないし4程度の誘電率を有し、ベンゾシクロブテン、フォトアクリル、ポリビニールフェノール中、一つでなる
有機薄膜トランジスタ。」の点で一致し、以下の3点で相違する。

(相違点1)
「ゲート電極」について、補正発明は、「第1の厚さを有するゲート電極」であって、「前記第1の厚さは、5000Å以上」であるのに対し、引用発明は、「ゲート電極2の厚みは、0.01μmから2μm」である点。
(相違点2)
補正発明においては、「有機絶縁層」について、「前記基板上では第2の厚さを有し」、「前記第2の厚さは、9000Å以上」であるのに対し、引用発明においては、「絶縁体層3」について、「厚みは0.1μmから4μm」である点。
(相違点3)
補正発明においては、「有機絶縁層」について、「前記ゲート電極上では2000Åないし5000Åの第3の厚さを有する」のに対し、引用発明においては、「ゲート電極2」上での「絶縁体層3」の厚さについて特定されていない点。

エ 判断
(ア)相違点に関連する本願の明細書の記載事項
相違点1?相違点3を検討するに当たり、本願の明細書において、「ゲート電極」の厚さ、並びに「有機絶縁層」の基板上での厚さ及びゲート電極上での厚さに関連した事項が記載されている事項を整理すると次のとおりである(下線は当審で付加したもの。)。

「【0015】
・・・。ゲート絶縁膜60は、有機絶縁物質で構成され、コーティングして形成される。この時、前記コーティングによって形成された有機絶縁物質のゲート絶縁膜60は、一般的な液晶表示装置用アレイ基板内に形成される無機絶縁物質に比べて厚く、9000Å以上の第2の厚さt2を有する。このように厚い第2の厚さt2で形成される理由は、無機絶縁物質の酸化シリコンSiO_(2)またはSiNxを蒸着して形成する場合、通常、3000Åないし4000Å程度の厚さであることに比べて、コーティングによって形成される有機絶縁物質は、粘性が高いからである。」
「【0027】
ゲート電極154は、従来の2000Åないし4000Åの厚さよりは厚く、5000Å以上の第1の厚さt1で形成される。・・・
「【0028】
基板151上に位置するゲート絶縁膜160の第1部分は、基板151から9000Å以上の第2の厚さt2で形成される。
本発明の最も特徴的な部分は、ゲート電極154の上部に位置するゲート絶縁膜160の第2部分が第3の厚さt3を有することである。ゲート電極154の表面から半導体層165に至るまでのゲート絶縁膜160の厚さt3、すなわち、ゲート電極154と対応するゲート絶縁膜160の第2部分の第3の厚さt3が、2000Åないし5000Åの厚さであることが、最も特徴的なことである。
【0029】
ここで、ゲート電極154の上部のゲート絶縁膜160の第3の厚さt3と薄膜トランジスタTのオン(on)電流の特性との関係を説明する。
薄膜トランジスタTのドレイン電極174に流れる電流I_(ds)は、下記のとおりである。
I_(ds)=μ(WC/2L)dV_(g)^(2) (1)
【0030】
なお、μは移動度(mobility)、WはチャンネルCHの幅、Cはゲート電極154とチャンネルCH間の電気容量(以下、これをチャンネルCHの電気容量と称する)、LはチャンネルCHの長さ、V_(g)はゲート電圧、dV_(g)^(2) はゲート電圧の変化量を示している。
【0031】
前述した式(1)によると、ドレイン電極174に流れる電流、すなわち、薄膜トランジスタのオン電流I_(ds)は、他の条件が一定であるとすると、チャンネルCHの電気容量Cに比例する。
【0032】
この時、前記チャンネルCHの電気容量Cは、下記のように示すことができる。
C=ε(A/d) (2)
なお、εはゲート絶縁膜160の誘電率、AはチャンネルCHの面積、dはゲート絶縁膜160の第3の厚さt3である。
【0033】
式(2)によると、前記チャンネルの電気容量Cは、誘電率が大きいほど、絶縁膜の第3の厚さt3が薄いほど、大きくなる。
従って、前述した式(1)、(2)によると、他の条件が一定である時、薄膜トランジスタTのオン電流I_(ds)値を高めるためには、チャンネルの電気容量Cを高めなければならなく、このためには、ゲート絶縁膜160の厚さt3、換言するに、ゲート電極154とチャンネルCHを形成する半導体層165間のゲート絶縁膜160の第3の厚さt3を薄く形成しなければならない。
【0034】
薄膜トランジスタTのオン電流値を大きくする理由は、液晶表示装置の解像度が増加するほど、ゲート電極154をオン(on)させる時間、すなわち、走査時間が短くなるが、このように短い走査時間に薄膜トランジスタTをオンさせるための十分な電圧を供給するためには、オン電流I_(ds)値をできるだけ大きくすることが有利であるためである。この時、付加して前記第3の厚さt3が薄くなることによって、図面には示してないが、ストレージキャパシターの容量も増加させる効果がある。
【0035】
本発明は、例えば、液晶表示装置のアレイ基板において、誘電率が6.7程度の無機絶縁物質である酸化シリコンSiO_(2)を、通常の厚さの4000Åの厚さでゲート絶縁膜160を形成する時の前記ゲート電極154と半導体層165間の電気容量と類似するように形成している。本発明に利用される有機絶縁物質であるベンゾシクロブテンBCBと、フォトアクリル(photo acryl)、ポリビニールフェノール(poly vinyl phenol)PVPは、2.6ないし4程度の誘電率を有しており、これを無機絶縁物質の電気容量と同様な水準に形成するためには、前述した式(2)により、望ましくは、1500Åないし3000Åの厚さで形成する。
【0036】
ところが、ゲート電極154と対応するゲート絶縁膜160の第3の厚さt3を薄くすると、チャンネルCHの電気容量C値が高くなり、ゲート電極154に連結されたゲート配線(図示せず)における信号遅延の問題が発生する。従って、前述した薄膜トランジスタTのオン電流の大きさの向上及び信号遅延を共に適正な水準に維持するためには、ゲート電極154と半導体層165間の有機絶縁物質で構成されたゲート絶縁膜160の第3の厚さt3を、最も望ましくは、2000Åなしい5000Åの厚さで構成することが必要である。
【0037】
本発明によるフレキシブルな液晶表示装置用アレイ基板の有機薄膜トランジスタTに、有機絶縁物質を使用したゲート絶縁膜160を構成する際、前記有機絶縁物質が9000Å以上の厚い第2の厚さt2で形成され、この時、上部の半導体層165と下部のゲート電極154間の厚さ、すなわち、ゲート絶縁膜160の第3の厚さt3を2000Åないし5000Åの厚さで形成して、半導体層165のチャンネルCHとゲート電極154間の電気容量の大きさを適正水準に維持させるためには、ゲート電極154の厚さt1を5000Å以上になるように構成することを特徴とする。」
「【0042】
図6に示したように、前記第1の厚さt1のゲート電極154が形成された基板151上に、有機絶縁物質、例えば、・・・等のコーティング装備(図示せず)を利用して、全面に第2の厚さt2及び第3の厚さt3を有して、その表面が下部の段差に影響なしに平坦な構造を有するゲート絶縁膜160を形成する。この場合、前記コーティング装備(図示せず)の特性及び有機絶縁物質の粘性により前記第2の厚さt2が9000Å以上になる。」
「【0044】
本発明で最も重要な部分は、ゲート電極154の厚さt1を厚く形成することによって、前記ゲート絶縁膜160の第3の厚さt3が2000Åないし5000Åになるようにする特徴がある。
前述した有機絶縁物質とコーティング装備(図示せず)によりコーティングすることによって、形成されるゲート絶縁膜160の第2の厚さt2は、工程ファクター(factor)を調節することによって、例えば、スピンコータ(spin coater)の場合、回転速度及び塗布量等を調節することによって予め予測することができる。従って、本発明の特徴的な面は、以前工程、すなわち、ゲート電極154の形成時、追って形成されるゲート絶縁膜160の厚さを前もって反映することによって、前記ゲート電極154の上部に形成されるゲート絶縁膜160の厚さ、すなわち、第3の厚さt3を2000Åないし5000Åになるように形成することである。」
「【0053】
本発明の実施の形態2の第1の厚さt1、第2の厚さt2及び第3の厚さt3は、実質的に、本発明の実施の形態1の第1の厚さt1、第2の厚さt2及び第3の厚さt3と同様である。すなわち、本発明の実施の形態2では、第1の厚さt1は5000Å以上、第2の厚さt2は9000Å以上、第3の厚さt3は2000Åないし5000Åの厚さを有する。
従って、本発明の実施の形態1での有機薄膜トランジスタと実質的に同様な電気的特性を有する。」
「【0057】
次に、図14に示したように、ゲート電極254が形成された基板251上に、有機絶縁物質をコーティング装備(図示せず)を利用して、全面に第2の厚さt2及び第3の厚さt3を有して、その表面が下部の段差に影響しない平坦な構造を有するゲート絶縁膜260を形成する。この場合、第2の厚さt2を9000Å以上、第3の厚さt3を2000Åないし5000Åになるように形成することが、本発明の最も特徴的な面である。」

これらの記載を踏まえつつ、以下、上記相違点1?相違点3について検討する。

(イ)相違点1について
引用発明の「ゲート電極2」の厚さは「0.01μmから2μm」すなわち「100Åから20000Å」であるから、引用発明の「ゲート電極2」の厚さは、補正発明の「ゲート電極」の厚さである「5000Å以上」と数値範囲が重なる。
本願明細書には、ゲート電極の厚さt1について、段落【0037】には、「半導体層165のチャンネルCHとゲート電極154間の電気容量の大きさを適正水準に維持させるためには、ゲート電極154の厚さt1を5000Å以上になるように構成する」と、段落【0044】には、「本発明で最も重要な部分は、ゲート電極154の厚さt1を厚く形成することによって、前記ゲート絶縁膜160の第3の厚さt3が2000Åないし5000Åになるようにする」と記載されているが、上記段落を含め、明細書、特許請求の範囲及び図面全般を精査しても、補正発明において、ゲート電極の厚さt1の下限値を「5000Å」としたことにより格別の効果が生じているとは認められないから、「5000Å」という下限値に臨界的意義は認められない。
したがって、引用発明において、「ゲート電極2」の厚さを、補正発明のように「5000Å以上」とすることは当業者が容易になし得たことである。

(ウ)相違点2について
引用発明の「絶縁体層3」の厚さは「0.1μmから4μm」すなわち「1000Åから40000Å」であるから、引用発明の「絶縁体層3」の厚さは、補正発明の「第2の厚さ」である「9000Å以上」と数値範囲が重なる。
本願明細書には、基板上での有機絶縁層の厚さt2について、段落【0015】には、「ゲート絶縁膜60は、有機絶縁物質で構成され、コーティングして形成される。この時、前記コーティングによって形成された有機絶縁物質のゲート絶縁膜60は、・・・、9000Å以上の第2の厚さt2を有する。このように厚い第2の厚さt2で形成される理由は、・・、コーティングによって形成される有機絶縁物質は、粘性が高いからである。」と、段落【0042】には、「全面に第2の厚さt2及び第3の厚さt3を有して、その表面が下部の段差に影響なしに平坦な構造を有するゲート絶縁膜160を形成する。この場合、前記コーティング装備(図示せず)の特性及び有機絶縁物質の粘性により前記第2の厚さt2が9000Å以上になる。」と記載されているが、上記段落を含め、明細書、特許請求の範囲及び図面全般を精査しても、補正発明において、基板上での有機絶縁層の厚さt2の下限値を「9000Å」としたことにより格別の効果が生じているとは認められないから、「9000Å」という下限値に臨界的意義は認められない。
したがって、引用発明において、「絶縁体層3」の厚さを、補正発明のように「9000Å以上」とすることは当業者が容易になし得たことである。

(エ)相違点3について
上記(イ)及び(ウ)において検討したとおり、引用発明において、「ゲート電極2」の厚さを「5000Å以上」とし、「絶縁体層3」の厚さを「9000Å以上」とすることは、当業者が容易になし得たことである。そこで、例えば、これら2つの部材の厚さを、各々5000Å及び9000Åとした場合には、「ゲート電極2」上での「絶縁体層3」の厚さは4000Åとなり、補正発明の「第3の厚さ」の数値範囲である「2000Åないし5000Å」の範囲に含まれるから、引用発明において、「ゲート電極2」上での「絶縁体層3」の厚さを「2000Åないし5000Å」とすること自体に、格別の困難性がないことは明らかである。
一方、本願明細書には、ゲート電極上での有機絶縁層の厚さt3について、段落【0029】?【0034】で、ゲート電極154の上部のゲート絶縁膜160の第3の厚さt3と薄膜トランジスタTのオン電流I_(ds)の特性との関係の説明するとともに、段落【0033】には、「従って、前述した式(1)、(2)によると、他の条件が一定である時、薄膜トランジスタTのオン電流I_(ds)値を高めるためには、チャンネルの電気容量Cを高めなければならなく、このためには、ゲート絶縁膜160の厚さt3、換言するに、ゲート電極154とチャンネルCHを形成する半導体層165間のゲート絶縁膜160の第3の厚さt3を薄く形成しなければならない。」と、段落【0035】には、「無機絶縁物質の電気容量と同様な水準に形成するためには、前述した式(2)により、望ましくは、1500Åないし3000Åの厚さで形成する。」と、段落【0036】には、「従って、前述した薄膜トランジスタTのオン電流の大きさの向上及び信号遅延を共に適正な水準に維持するためには、ゲート電極154と半導体層165間の有機絶縁物質で構成されたゲート絶縁膜160の第3の厚さt3を、最も望ましくは、2000Åなしい5000Åの厚さで構成することが必要である。」と、段落【0044】には、「本発明で最も重要な部分は、ゲート電極154の厚さt1を厚く形成することによって、前記ゲート絶縁膜160の第3の厚さt3が2000Åないし5000Åになるようにする特徴がある。・・・、ゲート電極154の形成時、追って形成されるゲート絶縁膜160の厚さを前もって反映することによって、前記ゲート電極154の上部に形成されるゲート絶縁膜160の厚さ、すなわち、第3の厚さt3を2000Åないし5000Åになるように形成することである。」と記載されているが、上記段落を含め、明細書、特許請求の範囲及び図面全般を精査しても、補正発明において、ゲート電極上での有機絶縁層の厚さt3の数値範囲を「2000Åないし5000Å」としたことにより格別の効果が生じているとは認められないから、「2000Å」という下限値及び「5000Å」という上限値に臨界的意義は認められない。
したがって、引用発明において、「ゲート電極2」上での「絶縁体層3」の厚さを、補正発明のように「2000Åないし5000Å」とすることは当業者が容易になし得たことである。

(オ)判断についてのまとめ
以上検討したとおり、相違点1?相違点3は、いずれも当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。
したがって、補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

オ 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、補正発明が特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、請求項1についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しない。

3 補正却下の決定についてのむすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成22年1月27日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下され、平成21年8月27日提出された手続補正書による補正は原審において却下されているので、本願の請求項1ないし27に係る発明は、平成21年5月1日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし27に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
基板上に形成された第1の厚さを有するゲート電極と、
前記基板及び前記ゲート電極上に形成され、前記基板上では第2の厚さを有し、前記ゲート電極上では2000Åないし5000Åの第3の厚さを有する有機絶縁層と、
前記有機絶縁層の上部に形成される半導体層と、
前記有機絶縁層の上部に形成され、前記半導体層と接触するソース電極及びドレイン電極と
を含み、
前記第1の厚さは、5000Å以上であり、
前記有機絶縁層は、2.6ないし4程度の誘電率を有し、ベンゾシクロブテン、フォトアクリル、ポリビニールフェノール中、一つでなる
ことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。」

第4 刊行物に記載された発明
刊行物1に記載されている事項及び刊行物1に記載された発明(引用発明)は、「第2 2(2)イ 刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者の一致点は、「第2 2(2)ウ」に記載のとおりであり、両者は、前記(相違点1)の点で相違する。

第6 当審の判断
以下、相違点について検討すると、「第2 2(2)エ(イ)相違点1について」で検討したとおりである。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2ないし請求項27に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-29 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-10-17 
出願番号 特願2005-186968(P2005-186968)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河本 充雄  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 恩田 春香
松田 成正
発明の名称 有機薄膜トランジスタ及び液晶表示装置用基板並びにそれらの製造方法  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 上田 俊一  
代理人 古川 秀利  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  

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