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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1253276 |
審判番号 | 不服2010-14526 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-07-01 |
確定日 | 2012-03-07 |
事件の表示 | 特願2005-192727「CPP-GMR再生ヘッドおよびその製造方法、ならびにシード層」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月26日出願公開、特開2006- 24349〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成17年6月30日(パリ条約に基づく優先権主張2004年7月7日、米国)に出願したものであって、平成21年8月3日付で通知した拒絶の理由に対し、平成22年2月4日付で手続補正されたが、同年3月2日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年7月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2.本願発明について (1)本願発明 本願の請求項1乃至14に係る発明は,平成22年2月4日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項9に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「ニッケル鉄合金(NiFe)により構成された下部シールド層と、 シード層と、 イリジウムマンガン合金(IrMn)により構成された反強磁性ピンニング層と、 第1のピンド層と、 反強磁性結合層と、 第2のピンド層と、 非磁性スペーサ層と、 フリー層と、 保護層と、がこの順に積層された積層構造を有しており、 前記シード層が、 タンタル(Ta)により構成されていると共に0.3nm以上1nm以下の範囲内の厚さを有する第1のシード層と、 ニッケルクロム合金(NiCr)により構成されていると共に3nm以上6nm以下の範囲内の厚さを有する第2のシード層と、がこの順に積層された積層構造を有している ことを特徴とするCPP-GMR再生ヘッド。」 (2)引用例 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日(優先権主張の日)前に頒布された刊行物である、特開2003-218428号公報(以下、「第1引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、CPP(current perpendicular to the plane)型の磁気検出素子に係り、特に抵抗変化率(ΔR/R)の向上を効果的に図ることが可能な磁気検出素子に関する。」 「【0035】図1に示す符号10は、NiFe合金などの磁性材料で形成された下部シールド層10である。この実施形態では前記下部シールド層10が下部電極を兼ねている。 【0036】前記上部シールド層10の上には非磁性材料で形成された下地層11が形成されている。前記下地層11が下部ギャップ層を兼ねている。前記下地層11は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上で形成されることが好ましい。前記下地層11は例えば50Å以下程度の膜厚で形成される。 【0037】次に前記下地層11の上にはシードレイヤ12が形成される。前記シードレイヤ12を形成することで、前記シードレイヤ12上に形成される各層の膜面と平行な方向における結晶粒径を大きくでき、耐エレクトロマイグレーションの向上に代表される通電信頼性の向上や抵抗変化率(ΔR/R)の向上などをより適切に図ることができる。 【0038】前記シードレイヤ12はNiFe合金、NiFeCr合金やCrなどで形成される。前記シードレイヤ12は形成されていなくてもよい。 【0039】次に前記シードレイヤ12上には反強磁性層13が形成される。前記反強磁性層13は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。あるいは前記反強磁性層13は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnを含有する反強磁性材料により形成されることが好ましい。 【0040】これらの反強磁性材料は、耐食性に優れしかもブロッキング温度も高く次に説明する固定磁性層24との界面で大きな交換異方性磁界を発生し得る。また前記反強磁性層13は80Å以上で300Å以下の膜厚で形成されることが好ましい。 【0041】次に前記反強磁性層13の上には固定磁性層20が形成されている。この実施形態では前記固定磁性層20は5層構造で形成されている。 【0042】前記固定磁性層20を構成する符号14の単層、および符号19の多層は磁性層であり、前記第2磁性層14と第1磁性層19との間に、Ruなどで形成された非磁性中間層15が介在し、この構成により、前記第2磁性層14と第1磁性層19の磁化方向は互いに反平行状態にされる。これはいわゆる積層フェリ構造と呼ばれる。なおこの明細書においては、積層フェリ構造において、非磁性材料層21と接する側の磁性層を第1磁性層と、もう一方の磁性層を第2磁性層と呼ぶ。前記非磁性中間層15は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種またはこれらの2種以上の合金で形成されている。特にRuによって形成されることが好ましい。」 「【0046】前記固定第1磁性層19の上には非磁性材料層21が形成されている。前記非磁性材料層21は例えばCuなどの電気抵抗の低い導電性材料によって形成される。前記非磁性材料層21は例えば25Å程度の膜厚で形成される。 【0047】次に前記非磁性材料層21の上にはフリー磁性層26が形成される。この実施形態では、前記フリー磁性層26は磁性層の3層構造で形成される。また前記フリー磁性層26の全体の膜厚は、20Å以上で200Å以下程度の膜厚で形成されることが好ましい。 【0048】前記フリー磁性層26の上には、非磁性材料で形成された保護層25が形成されている。前記保護層25は上部ギャップ層をも兼ねる。前記保護層25は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上で形成されることが好ましい。前記保護層25は例えば50Å以下程度の膜厚で形成される。」 上記記載事項および図面の記載を総合勘案すると、上記第1引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「NiFe合金などの磁性材料で形成された下部シールド層、 Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上で形成され50Å以下程度の膜厚の下地層、 NiFe合金、NiFeCr合金やCrなどで形成されたシードレイヤ、 元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成される反強磁性層、 第2磁性層、非磁性中間層、第1磁性層の順に積層されてなる固定磁性層、 非磁性材料層、 フリー磁性層、 保護層がこの順に形成されてなるCPP型の磁気検出素子。」 同じく、原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2003-101102号公報(以下、「第2引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 「【請求項1】 下からシードレイヤ、反強磁性層、強磁性層の順に積層され、前記反強磁性層と強磁性層との界面で交換結合磁界が発生することで、前記強磁性層の磁化方向が一定方向にされる交換結合膜において、前記シードレイヤの下には、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上の元素で形成された下地層が形成されており、前記シードレイヤは、Crと元素X(ただし元素Xは、Fe、Ni、Co、Ti、V、Nb、Zr、Hf、Ta、Mo、W、Yのうち少なくとも1種以上)とを有して形成され、前記Crの組成比は80at%以上であり、前記シードレイヤの膜厚は20Å以上で130Å以下であることを特徴とする交換結合膜。」 「【請求項5】 前記元素Xは、Ni、Fe、Coから1種以上選択されて成る請求項1ないし4のいずれかに記載の交換結合膜。」 「【請求項21】 下からシードレイヤ、反強磁性層、固定磁性層、非磁性材料層、およびフリー磁性層の順に積層され、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子において、前記シードレイヤ、反強磁性層及び固定磁性層が請求項1ないし20のいずれかに記載された交換結合膜により形成されていることを特徴とする磁気検出素子。」 (3)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「NiFe合金などの磁性材料で形成された下部シールド層」に関し、「NiFe合金」以外の磁性材料が具体的に示されていないことから、引用発明の「NiFe合金などの磁性材料で形成された下部シールド層」は、本願発明の「ニッケル鉄合金(NiFe)により構成された下部シールド層」に相当するといえる。 引用発明の「下地層」、「シードレイヤ」、「反強磁性層」、「非磁性材料層」、「フリー磁性層」、「保護層」、「CPP型の磁気検出素子」は、 本願発明の、「第1のシード層」、「第2のシード層」、「反強磁性ピンニング層」、「非磁性スペーサ層」、「フリー層」、「保護層」、「CPP-GMR再生ヘッド」に相当する。 本願発明の「第1のピンド層と、反強磁性結合層と、第2のピンド層」に関し、「ピンド層20は、反強磁性ピンニング層22により磁化方向が固定されたものである。このピンド層20は、反強磁性ピンニング層22に近い側から順に、下部ピンド層13(反平行強磁性層(第1のピンド層)=AP2)と、反強磁性結合層14と、上部ピンド層15(反平行強磁性層(第2のピンド層)=AP1)とが積層された積層構造(3層構造)を有しており、いわゆるシンセティック反強磁性ピンド層である。」(本願の発明の詳細な説明の段落【0043】)と記載されており、引用発明の「第2磁性層、非磁性中間層、第1磁性層の順に積層されてなる固定磁性層」に関し、「この構成により、前記第2磁性層14と第1磁性層19の磁化方向は互いに反平行状態にされる。これはいわゆる積層フェリ構造と呼ばれる。」(段落【0042】)と記載されていることから、引用発明の「第2磁性層、非磁性中間層、第1磁性層の順に積層されてなる固定磁性層」は、本願発明の「第1のピンド層と、反強磁性結合層と、第2のピンド層」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。 <一致点> 「ニッケル鉄合金(NiFe)により構成された下部シールド層と、 シード層と、 反強磁性ピンニング層と、 第1のピンド層と、 反強磁性結合層と、 第2のピンド層と、 非磁性スペーサ層と、 フリー層と、 保護層と、がこの順に積層された積層構造を有しており、 前記シード層が、 第1のシード層と、 第2のシード層と、がこの順に積層された積層構造を有しているCPP-GMR再生ヘッド。」 一方、次の点で相違する。 <相違点> [相違点1] 本願発明は、「第1のシード層」の材料が「タンタル(Ta)」に限定されているのに対し、引用発明の「下地層」の材料は、「Ta」以外にも「Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上で形成され」たもの(Taを除く。)を包含している点。 [相違点2] 本願発明は、「反強磁性ピンニング層」の材料が「イリジウムマンガン合金(IrMn)」に限定されているのに対し、引用発明の「反強磁性層」の材料は、「元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料」であって「イリジウムマンガン合金」以外の反強磁性材料である場合を包含している点。 [相違点3] 本願発明は、「第2のシード層」の材料が「ニッケルクロム合金(NiCr)」であるのに対し、引用発明の「シードレイヤ」の材料は、「NiFe合金、NiFeCr合金やCrなど」である点。 [相違点4] 引用発明の「下地層」の「膜厚」は、「50Å以下程度」(当審注:「5nm以下程度」と同義である。)であるのに対し、本願発明の「第1のシード層」は、「0.3nm以上1nm以下の範囲内の厚さ」に限定されている点。 [相違点5] 本願発明は、「第2のシード層」が「3nm以上6nm以下の範囲内の厚さを有する」ものに限定されているのに対し、引用発明の「シードレイヤ」は、厚さに関する限定を有していない点。 (4)判断 [相違点1]について 本願の発明の詳細な説明には、「第1のシード層」の材料に関し「タンタル(Ta)」に限定する理由や、他の材料とした場合と比較した結果が具体的に記載されていないため、該限定をしたことにより当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されていることを確認することができる具体的な根拠を見いだせないことを勘案すると、引用発明において「下地層」の材料を単に「Ta」に限定する程度のことは当業者であれば容易になし得ることである。 [相違点2]について 本願発明の「反強磁性ピンニング層」の材料に関し「イリジウムマンガン合金(IrMn)」に限定する理由や他の材料とした場合と比較した結果が具体的に発明の詳細な説明に記載されていないため該限定をしたことにより当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されていることを確認することができる具体的な根拠を見いだせないことを勘案すると、引用発明において単に「反強磁性層」の材料を「イリジウムマンガン合金」に限定する程度のことは当業者であれば容易になしうることである。 [相違点3]について 第2引用例には、 下からシードレイヤ、反強磁性層、固定磁性層、非磁性材料層、およびフリー磁性層の順に積層され、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子、および、該磁気検出素子のシードレイヤの材料に関し、「Crと元素X(ただし元素Xは、Fe、Ni」等「から1種以上選択されて成る」ものとすることが記載されている。 第2引用例に記載されている「磁気検出素子」は、下から「シードレイヤ」、「反強磁性層」、「固定磁性層」、「非磁性材料層」、「フリー磁性層」の順に積層された磁気検出素子である点で、引用発明の「磁気検出素子」と共通する。 「Crと元素X(ただし元素Xは、Fe、Ni」「から1種以上選択されて成る」材料とは具体的にはCrFe、CrNi、CrFeNiであること、および、本願発明の「第2シード層」の材料に関する比較例が記載されていないなど本願の発明の詳細な説明には「第2シード層」の材料を「ニッケルクロム合金(NiCr)」に限定したことにより当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されていることを確認することができる具体的な根拠を見いだせないことを勘案すると、第2引用例の記載に基づき、引用発明において「シードレイヤ」の材料を「NiFe合金、NiFeCr合金やCrなど」に代えて「ニッケルクロム合金(NiCr)」とする程度のことは、当業者であれば容易に着想しうることである。 [相違点4]について 引用発明の「下地層」の「膜厚」は、「50Å以下程度」の範囲から選択されるところ、本願発明の「第1のシード層」の厚さに関する比較例が記載されていないなど発明の詳細な説明には「0.3nm以上1nm以下の範囲内」に限定したことにより当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されていることを確認することができる具体的な根拠を見いだせないことを勘案すると、引用発明において単に「下地層」の厚さを「0.3nm以上1nm以下の範囲内」に限定する程度のことは当業者であれば容易になしうることである。 [相違点5]について 第2引用例には、 下からシードレイヤ、反強磁性層、固定磁性層、非磁性材料層、およびフリー磁性層の順に積層され、前記フリー磁性層の磁化が前記固定磁性層の磁化と交叉する方向に揃えられた磁気検出素子のシードレイヤに関し、膜厚を「20Å以上で130Å以下」(当審注:2nm以上で13nm以下)とすることが記載されている。 厚さの好ましい範囲を決定することは当然なすべきことであること、および、本願発明の「第2のシード層」の厚さに関する比較例が記載されていないなど発明の詳細な説明には「3nm以上6nm以下の範囲」に限定したことにより当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されていることを確認することができる具体的な根拠を見いだせないことを勘案すると、引用発明において「シードレイヤ」の厚さを単に「3nm以上6nm以下の範囲」に限定する程度のことは当業者であれば容易になしうることである。 したがって,本願発明は,第1引用例および第2引用例に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり,本願の請求項9に係る発明は,第1引用例および第2引用例に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-10-07 |
結審通知日 | 2011-10-11 |
審決日 | 2011-10-24 |
出願番号 | 特願2005-192727(P2005-192727) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石坂 博明 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
早川 学 山田 洋一 |
発明の名称 | CPP-GMR再生ヘッドおよびその製造方法、ならびにシード層 |
代理人 | 三反崎 泰司 |