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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1253279
審判番号 不服2010-23754  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-21 
確定日 2012-03-07 
事件の表示 特願2007-194559「有機発光ディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月 3日出願公開、特開2008-153191〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年(2007年)年7月26日(パリ条約による優先権主張 2006年12月13日 大韓民国)の出願(特願2007-194559号)であって、平成22年2月16日付けで拒絶理由が通知され、同年5月24日付けで手続補正がなされ、同年6月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成23年5月30日付けで審尋がなされ、同年8月30日付けで回答書が提出された。

第2 平成22年10月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成22年10月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、平成22年5月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4に係る発明が補正され、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明である、
「複数の薄膜トランジスタ素子を含む基板と、
前記基板上に形成されたディスプレイ領域と、を備え、
前記ディスプレイ領域は、
前記薄膜トランジスタ素子と電気的に連結された第1電極を備え、画素領域を定義する基本層と、
前記基本層が形成された領域の上部に、該基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさに蒸着される有機膜層と、
前記基本層と前記有機膜層とを完全に覆う構造で形成された第2電極層と、を備え、
前記基本層は、複数の前記第1電極の間に介在され、所定厚さに形成された画素定義膜をさらに備え、
前記画素定義膜は第1電極の間に間隔を形成するように設けられ、
前記第2電極層は前記画素定義膜及び有機膜層の全ての外郭をカバーするように設けられる有機発光ディスプレイ装置。」とされた。

なお、平成22年5月24日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項4は、それぞれ、次のとおりである。
「【請求項1】
複数の薄膜トランジスタ素子を含む基板と、
前記基板上に形成されたディスプレイ領域と、を備え、
前記ディスプレイ領域は、
前記薄膜トランジスタ素子と電気的に連結された第1電極を備え、画素領域を定義する基本層と、
前記基本層が形成された領域の上部に、該基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさに蒸着される有機膜層と、
前記基本層と前記有機膜層とを完全に覆う構造で形成された第2電極層と、を備える有機発光ディスプレイ装置。」
「【請求項4】
前記基本層は、複数の前記第1電極の間に介在され、所定厚さに形成された画素定義膜をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の有機発光ディスプレイ装置。」

そして、この補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項4に係る発明に対して、「記画素定義膜」について「第1電極の間に間隔を形成するように設けられ」る補正事項、及び、「第2電極層」について「画素定義膜及び有機膜層の全ての外郭をカバーするように設けられる」ことを特定する補正事項からなる。これらの補正事項は、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とするものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものを含む。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成22年10月21日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-6137号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(後述の「イ 引用例1に記載された発明の認定」において発明の認定に直接関係する記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気光学装置およびその製造方法、ならびに電子機器に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、エレクトロルミネッセンス(以下、ELと略記する)表示装置などの電気光学装置においては、基板上に複数の回路素子、陽極、EL物質などの電気光学物質、陰極などが積層され、それらを封止基板によって基板との間に挟んで封止した構成を具備しているものがある。具体的には、発光物質を含む発光層を陽極および陰極の電極層で挟んだ構成を具備しており、陽極側から注入された正孔と、陰極側から注入された電子とを蛍光能を有する発光層内で再結合し、励起状態から失括する際に発光する現象を利用している。
このような電気光学装置には、陰極を光透過性として、発光層から放射される光を、陰極を通して基板とは反対側に取り出すタイプの装置があった。このタイプの装置では、仕事関数が大きく陽極としての性能がよいITO(Indium Tin Oxide)などを用いているが、この材料は透明であるため、その基板側の下地層として銀(Ag)あるいはアルミニウム(Al)などの反射性を有する金属層を設
けていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の電気光学装置では、反射性の陽極を形成するために金属層を下地層として形成する必要があるので製造プロセスが複雑になっていた。その結果、製造効率が低下し、製造コストが高くつくという問題があった。
またこのような構成によれば、陽極の下方に光は透過させないが、良好な表示特性を備える反射性を陽極に付与するためには、陽極の平坦性が確保する必要があるので、陽極の下方のスペースが有効利用できないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、発光層から放射される光を基板と反対側の他方の電極側に反射する電気光学装置の表示性能を低コストで向上させることが可能となる電気光学装置およびその製造方法、ならびにそれを用いた電子機器を提供することを目的とする。」

「【0025】
次に、本実施形態のEL表示装置1の具体的な態様を図2?4を参照して説明する。図2はEL表示装置1の構成を模式的に示す平面図である。図3は図2のA-B線に沿う断面図、図4は図2のC-D線に沿う断面図である。
【0026】
図2に示す本実施形態のEL表示装置1は、電気絶縁性を備える基板20と、図示略のスイッチング用TFTに接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる図示略の画素電極域と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線103…と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図中一点鎖線枠内)とを具備して構成されている。また画素部3は、中央部分の実表示領域4(図中二点鎖線枠内)と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)とに区画されている。
【0027】
実表示領域4には、それぞれ画素電極を有し、赤、緑、青の三原色に対応する表示領域R、G、Bがマトリクス状に配置されている。A-B方向には、表示領域R、G、Bが離間して反復配列され、C-D方向には、それぞれの同一色に対応する表示領域が離間して配列されている。
また、実表示領域4の図中両側には、走査線駆動回路80、80が配置されている。この走査線駆動回路80、80はダミー領域5の下側に位置して設けられている。
【0028】
さらに実表示領域4の図中上側には、検査回路90が配置されている。この検査回路90はダミー領域5の下側に位置して設けられている。この検査回路90は、EL表示装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する不図示の検査情報出力手段を備え、製造途中や出荷時の表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。
【0029】
走査線駆動回路80および検査回路90の駆動電圧は、所定の電源部から駆動電圧導通部310(図3参照)および駆動電圧導通部340(図4参照)を介して印加されている。また、これら走査線駆動回路80および検査回路90への駆動制御信号および駆動電圧は、このEL表示装置1の作動制御を司る所定のメインドライバなどから駆動制御信号導通部320(図3参照)および駆動電圧導通部350(図4参照)を介して送信および印加されるようになっている。なお、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80および検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバなどからの指令信号である。
【0030】
EL表示装置1は、図3および図4に示すように、基板20と封止基板30とが封止樹脂40を介して貼り合わされている。基板20、封止基板30および封止樹脂40とで囲まれた領域には、光透過性を有する乾燥剤45が挿入されるとともに、例えば窒素ガスなどの不活性ガスが充填された不活性ガス充填層46が形成されている。
【0031】
基板20は、その上にシリコン層などを設けて電子回路を形成することができる絶縁性の板状部材であればどのようなものでもよく、光透過性を有する必要はない。
封止基板30は、例えばガラス、石英、プラスチックなどの光透過性と電気絶縁性を有する板状部材を採用することができる。
また封止樹脂40は、例えば熱硬化樹脂あるいは紫外線硬化樹脂からなるものであり、特に熱硬化樹脂の一種であるエポキシ樹脂よりなることが好ましい。
【0032】
また、基板20上には、陽極23…を駆動するための駆動用TFT123…などを含む積層構造を有する回路部11(回路層)が形成され、回路部11の上部には駆動用TFT123…に接続されたそれぞれの陽極23…が図2の表示領域R、G、Bの位置に対応して形成されている。実表示領域4内の各陽極23の上層には機能層110が形成され、その上層には、電子注入を容易化するバッファ層222と、電子注入を行う陰極50が形成されている。それぞれの陽極23の間には、図2のA-B方向およびC-D方向に無機物バンク層221aおよび有機物バンク層221bがそれぞれ基板20側から積層されたバンク221が設けられ、機能層110を区画して、機能層110から放射される光を規制する長円形状の画素表示部26を形成している。
なおダミー領域5では、各ダミー陽極23a上を無機物バンク層221aが覆うように形成され、その上層に機能層110が設けられている。ダミー電極23aは、回路部11内の配線と接続されていない点を除いて陽極23と同様の構成とされている。
【0033】
ダミー領域5を実表示領域4の周囲に配置することにより、実表示領域4の機能層110の厚さを均一にすることができ、表示ムラを抑制することができる。即ち、ダミー領域5を配置することで、表示素子を、例えばインクジェット法によって形成する場合における吐出した組成物の乾燥条件を実表示領域4内で一定にすることができ、実表示領域4の周縁部で機能層110の厚さに偏りが生じるおそれがない。
【0034】
また回路部11には、走査線駆動回路80、検査回路90およびそれらを接続して駆動するための駆動電圧動通部310、340、350、駆動制御信号導通部320などが含まれている。
【0035】
陽極23は、印加された電圧によって、正孔を機能層110に注入する機能を備える。陽極23には、仕事関数が高く良好な正孔注入性能を有するITO(Indium Tin Oxide)などが採用できる。
【0036】
機能層110は、発光層を備えたものであればどのような構成でもよいが、例えば陽極23側から順に、正孔の注入効率を向上する正孔注入層と正孔の輸送効率を向上する正孔輸送層とを備えた正孔注入/輸送層70(図5(b)参照)および有機EL層60(発光層、図5(b)参照)を備えたものを採用できる。このような正孔注入/輸送層70を陽極23と有機EL層60の間に設けることにより、有機EL層60の発光効率、寿命などの素子特性が向上する。そして、有機EL層60では、陽極23から正孔注入/輸送層70を経て注入された正孔と、陰極50からの注入された電子とが結合して蛍光を発生させる構成が形成されている。
【0037】
正孔注入層を形成するための材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、または、それらのドーピング体などが採用できる。例えば、ポリチオフェン誘導体では、PEDOTにPSS(ポリスチレンスルフォン酸)をドープしたPEDOT:PSSが採用できる。より具体的な一例を挙げれば、その一種であるバイトロン-p(Bytron-p:バイエル社製)などを好適に用いることができる。
正孔輸送層を形成するための材料は、正孔を輸送できれば周知のどのような正孔輸送材料であってもよい。例えば、そのような材料として、アミン系、ヒドラゾン系、スチルベン系、スターバスト系などに分類される有機材料が種々知られている。
【0038】
有機EL層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。
また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料、あるいは、ルブレン、ペリレン、9,10-ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドンなどの材料をドープして用いることができる。
【0039】
次に、バンク221を形成する無機物バンク層221aおよび有機物バンク層221bは、いずれも陽極23の周縁部上に乗上げて形成されている。無機物バンク層221aは、有機物バンク層221bに比べて陽極23よりも中央側寄りに延ばされて形成されている。なお、バンク221は光を透過させない材料で構成されていてもよいし、無機物バンク層221aと有機物バンク層221bとの間に遮光層を配置して光を規制するようにしてもよい。
無機物バンク層221aは、例えば、SiO_(2)、TiO_(2)、SiNなどの無機材料を採用することができる。無機物バンク層221aの膜厚は、50?200nmの範囲が好ましく、特に150nmがよい。膜厚が50nm未満では、無機物バンク層221aが正孔注入/輸送層70より薄くなり、正孔注入/輸送層70の平坦性を確保できなくなるので好ましくない。また膜厚が200nmを越えると、無機物バンク層221aによる段差が大きくなって、有機EL層60の平坦性を確保できなくなるので好ましくない。
【0040】
有機物バンク層221bは、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂などの通常のレジストから形成されている。この有機物バンク層221bの厚さは、0.1?3.5μmの範囲が好ましく、特に2μm程度がよい。厚さが0.1μm未満では、機能層110の厚さより有機物バンク層221bが薄くなるので好ましくない。また、厚さが3.5μmを越えると、バンク221による段差が大きくなり、有機物バンク層221b上に形成する陰極50のステップガバレッジを確保できなくなるので好ましくない。また、有機物バンク層221bの厚さを2μm以上にすれば、陰極50と陽極23との絶縁を高めることができる点でより好ましい。
このようにして、機能層110は、バンク221より薄く形成されている。
【0041】
また、バンク221の周辺には、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域が形成されている。
親液性を示す領域は、無機物バンク層221aおよび陽極23であり、これらの領域には、酸素を反応ガスとするプラズマ処理によって水酸基などの親液基が導入されている。また、撥液性を示す領域は、有機物バンク層221bであり、4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理によってフッ素などの撥液基が導入されている。
なお、本実施形態における親液性制御層の「親液性」とは、少なくとも有機物バンク層221を構成するアクリル、ポリイミドなどの材料と比べて親液性が高いことを意味するものとする。
【0042】
陰極50は、図3または4に示すように、実表示領域4およびダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されている。陰極50は、陽極23の対向電極として、電子を機能層110に注入する機能を備える。また本実施形態では、機能層110から発光する光を陰極50側から取り出すので、光透過性を備える必要がある。そのために光透過性であって、仕事関数が低い材料から構成される。
そのような材料として、例えばフッ化リチウムとカルシウムの積層体を機能層110側に設けて第1の陰極層とし、その上層に例えば、Al、Ag、Mg/Agなどの積層体からなる第2の陰極層とした積層体を採用することができる。その際、光透過性は、それぞれの層厚を、光透過性を有するまでに薄くすることによって得ることができる。陰極50のうち、第2の陰極層のみが画素部3の外側まで延出されている。
【0043】
なお第2の陰極層は第1の陰極層を覆って、酸素や水分などとの化学反応から保護するとともに、陰極50の導電性を高めるために設けられる。したがって、化学的に安定で仕事関数が低く、かつ光透過性が得られるならば、単層構造でもよく、また金属材料に限るものではない。さらに第2の陰極層上に、例えばSiO_(2)、SiNなどからなる酸化防止用の保護層を設けてもよい。」

「【図3】



イ 引用例1に記載された発明の認定
上記の【0036】、【0037】には、機能層110における正孔注入/輸送層70は、いずれも、有機の材料を用いることができることが記載されている。また、【図3】から、バッファ層222は、陽極23及びバンク221からなる領域の上部に形成され、陽極23及びバンク221からなる領域とほぼ同じ大きさに形成されていること、及び、陰極50は、陽極23及びバンク221からなる領域、機能層110、バッファ層222の全てを完全に覆っていること、が見て取れる。
よって、上記記載(図面の記載も含む)を総合すれば、引用例1には、
「電気絶縁性を備える基板20と、スイッチング用TFTに接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3とを具備して構成されるEL表示装置1であって、
画素部3は、中央部分の実表示領域4と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5とに区画され、
基板20上には、陽極23を駆動するための駆動用TFT123などを含む積層構造を有する回路部11が形成され、回路部11の上部には駆動用TFT123に接続されたそれぞれの陽極23が表示領域R、G、Bの位置に対応して形成され、
実表示領域4内の各陽極23の上層には機能層110が形成され、その上層には、電子注入を容易化するバッファ層222と、電子注入を行う陰極50が形成され、それぞれの陽極23の間には、バンク221が設けられ、機能層110を区画して、機能層110から放射される光を規制する長円形状の画素表示部26を形成し、
機能層110は、有機の正孔注入/輸送層70および有機EL層60を備えたものであり、
バッファ層222は、陽極23及びバンク221からなる領域の上部に形成され、陽極23及びバンク221からなる領域とほぼ同じ大きさに形成され
陰極50は、陽極23及びバンク221からなる領域、機能層110、バッファ層222の全てを完全に覆っているEL表示装置1。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明の対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

(ア)引用発明の「基板20」であって、その上に「スイッチング用TFT」や「駆動用TFT123などを含む積層構造を有する回路部11」が形成された「基板20」が、本願補正発明の「複数の薄膜トランジスタ素子を含む基板」に相当する。

(イ)引用発明の「基板20」上の「中央部分の実表示領域4と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5とに区画され」た「画素部3」が、本願補正発明の「前記基板上に形成されたディスプレイ領域」に相当する。

(ウ)引用発明の「駆動用TFT123に接続されたそれぞれの陽極23」が、本願補正発明の「前記薄膜トランジスタ素子と電気的に連結された第1電極」に相当する。そして、引用発明の上記「駆動用TFT123に接続されたそれぞれの陽極23」及び上記「陽極23の間」に形成され「機能層110を区画」する「バンク221」からなる層が、本願補正発明の「前記薄膜トランジスタ素子と電気的に連結された第1電極を備え、画素領域を定義する基本層」に相当する。

(エ)引用発明の「機能層110」上に形成された「電子注入を容易化するバッファ層222」は、電子注入/輸送の機能を有する層であるといえるから、引用発明の「有機の正孔注入/輸送層70および有機EL層60を備えた」「機能層110」と、その上の上記「電子注入を容易化するバッファ層222」を合わせた部分(層)は、正孔注入/輸送・発光・電子注入/輸送の機能を有する機能層であるといえる。
一方、本願補正発明の「有機膜層」は、本願明細書の発明の詳細な説明の【0044】?【0046】の
「【0044】
前述した基本層210の上部には、少なくとも有機発光層223を備える有機膜層220が形成されている。この有機発光層223は、低分子または高分子有機物で備えられる。高分子有機物で形成される場合には、大慨、正孔輸送層(HTL:Hole Transport Layer)及び発光層(EML:Emission Layer)が備えられた構造を有し、このとき、前記HTLにPEDOTを使用し、EMLにPPV(Poly-Phenylene Vinylene)系及びポリフルオレン系など高分子有機物質を使用する。
【0045】
低分子有機物で形成される場合、図3に示したように、ホール注入層(HIL:Hole Injection Layer)221、ホール輸送層(HTL:Hole Transport Layer)222、発光層(EML:Emission Layer)223、電子輸送層(ETL:Electron Transport Layer)224、電子注入層(EIL:Electron Injection Layer)225が単一あるいは複合の構造で積層されて形成されうる。このとき、使用可能な有機材料として銅フタロシアニン(CuPc)、N,N-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン(NPB)、トリス-8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)などをはじめとして多様な物質が使われうる。
【0046】
これらの有機膜層220は、常に何れも備えられねばならないものではなく、これらの有機膜層220のうち、必要に応じて選択的に備えられる。また、図3には示されていないが、正孔阻止層(HBL:Hole Blocking Layer)が発光層223と電子輸送層224との間にさらに介在されることもあるなど、必要に応じて多様な有機膜がさらに備えられることもある。また、第1電極211がカソード電極の役割を行い、第2電極230がアノード電極の役割を行う場合には、前述した有機膜層220の配列順序が変わることもある。」
の記載から、ホール注入層/ホール輸送層、及び、電子輸送層/電子注入層のいずれか1層又は複数の層を含みうる、発光層を備えた層であるといえる。
したがって、引用発明の「有機の正孔注入/輸送層70および有機EL層60を備えた」「機能層110」と、その上の上記「電子注入を容易化するバッファ層222」を合わせた部分(層)と、本願補正発明の「有機膜層220」は、「正孔注入/正孔輸送、及び、電子注入/電子輸送の機能の層を含みうる、発光層を備えた層」(以下「発光層を備えた機能層」という。)である点で一致しているといえる。
よって、引用発明の「有機の正孔注入/輸送層70および有機EL層60を備えた」「機能層110」と「陽極23及びバンク221からなる領域の上部に形成され、陽極23及びバンク221からなる領域とほぼ同じ大きさに形成され」る「電子注入を容易化するバッファ層222」からなる層と、本願補正発明の「前記基本層が形成された領域の上部に、該基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさに蒸着される有機膜層」とは、「前記基本層が形成された領域の上部に、該基本層が形成された領域と同程度の大きさに形成される『発光層を備えた機能層』」である点で一致する。

(オ)引用発明の「陽極23及びバンク221からなる領域、機能層110、バッファ層222の全てを完全に覆っている」「陰極50」が、本願補正発明の「前記基本層と前記有機膜層とを完全に覆う構造で形成された第2電極層」に相当する。

(カ)引用発明の「バンク221」が、本願補正発明の「画素定義膜」に相当するから、引用発明の「陽極23の間には、バンク221が設けられ、機能層110を区画して、機能層110から放射される光を規制する長円形状の画素表示部26を形成」することが、本願補正発明の「前記基本層は、複数の前記第1電極の間に介在され、所定厚さに形成された画素定義膜をさらに備え」ること、及び、「前記画素定義膜は第1電極の間に間隔を形成するように設けられ」ることに相当する。

(キ)引用発明の「陰極50は、陽極23及びバンク221からなる領域、機能層110、バッファ層222の全てを完全に覆っている」ことが、本願補正発明の「前記第2電極層は前記画素定義膜及び有機膜層の全ての外郭をカバーするように設けられる」ことに相当する。

(ク)引用発明の「EL表示装置1」が、本願補正発明の「有機発光ディスプレイ装置」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「複数の薄膜トランジスタ素子を含む基板と、
前記基板上に形成されたディスプレイ領域と、を備え、
前記ディスプレイ領域は、
前記薄膜トランジスタ素子と電気的に連結された第1電極を備え、画素領域を定義する基本層と、
前記基本層が形成された領域の上部に、該基本層が形成された領域と同程度の大きさに形成される発光層を備えた機能層と、
前記基本層と前記有機膜層とを完全に覆う構造で形成された第2電極層と、を備え、
前記基本層は、複数の前記第1電極の間に介在され、所定厚さに形成された画素定義膜をさらに備え、
前記画素定義膜は第1電極の間に間隔を形成するように設けられ、
前記第2電極層は前記画素定義膜及び有機膜層の全ての外郭をカバーするように設けられる有機発光ディスプレイ装置。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
発光層を備えた機能層に関して、本願補正発明においては、発光層を備えた機能層が「有機膜層」であるのに対して、引用発明においては、発光層を備えた機能層を形成している機能層110とバッファ層222における機能層110(発光層と正孔注入層/輸送層)は有機層であるといえるものの、バッファ層222(電子注入/輸送層)については有機層であるか否かは明確でない点。

(イ)相違点2
発光層を備えた機能層の形成に関して、本願補正発明においては「基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさに蒸着」されて形成されるのに対して、引用発明の発光層を備えた機能層を形成している機能層110とバッファ層222については、陽極23及びバンク221からなる領域(本願補正発明の「基本層」に相当)とほぼ同じ大きさに形成されるものの「同一か、または若干広い大きさ」という限定はなく、また、形成方法についての特定がない点。

(4)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
発光層を備えた機能層において、「電子注入/輸送層」を有機材料で形成することは、例えば、特開平8-245954号公報(【0006】)、特開2000-106275号公報(【0037】)、特開2004-171951号公報(【0046】【0047】)にも記載されているように周知の技術である。
引用発明において、電子注入/輸送層としての機能を有するバッファ層の材料としてどのような材料を選択するかは当業者が適宜設定し得るところ、上記の周知技術を適用してバッファ層についても有機層とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
まず、基本層の広さの違いについては、「同一か、または若干広い大きさ」とするか「ほぼ同じ大きさ」とするかによって、作用効果に違いが生じるものではなく(仮に、これによって何らかの作用効果が生じたとしても、それは、明細書に記載された作用効果ではない。)この点の相違に技術上の観点における実質的な意義は認められないから、広さの違いに関しては実質的な相違点とはいえない。
次に、形成方法上の違いについては、発光層を備えた機能層の形成として、「蒸着」は周知の技術であり、引用発明においても、上記周知技術を採用して、「蒸着」により形成するとすることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年10月21日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年5月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成22年10月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成22年10月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明の対比
(1)対比
本願発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「基板20」であって、その上に「スイッチング用TFT」や「駆動用TFT123などを含む積層構造を有する回路部11」が形成された「基板20」が、本願発明の「複数の薄膜トランジスタ素子を含む基板」に相当する。

イ 引用発明の「基板20」上の「中央部分の実表示領域4と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5とに区画され」た「画素部3」が、本願発明の「前記基板上に形成されたディスプレイ領域」に相当する。

ウ 引用発明の「駆動用TFT123に接続されたそれぞれの陽極23」が、本願発明の「前記薄膜トランジスタ素子と電気的に連結された第1電極」に相当し、そして、引用発明の「それぞれの陽極23の間」に設けられる「バンク221」が、本願発明の「複数の前記第1電極の間に介在され、所定厚さに形成された画素定義膜」に相当する。よって、引用発明の上記「駆動用TFT123に接続されたそれぞれの陽極23」及び上記「陽極23の間」に形成され「機能層110を区画」する「バンク221」からなる層が、本願発明の「前記薄膜トランジスタ素子と電気的に連結された第1電極を備え、画素領域を定義する基本層」であって、「複数の前記第1電極の間に介在され、所定厚さに形成された画素定義膜をさらに備える」「基本層」に相当する。

エ 引用発明の「実表示領域4内の各陽極23の上層」に形成された「有機の正孔注入/輸送層70および有機EL層60を備えた」「機能層110」と、本願発明の「前記基本層が形成された領域の上部に、該基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさに蒸着される有機膜層」とは、「前記基本層が形成された領域の上部に、形成される有機膜層」である点で一致する。

オ 引用発明の「陽極23及びバンク221からなる領域、機能層110、バッファ層222の全てを完全に覆っている」「陰極50」が、本願発明の「前記基本層と前記有機膜層とを完全に覆う構造で形成された第2電極層」に相当する。

カ 引用発明の「EL表示装置1」が、本願発明の「有機発光ディスプレイ装置」に相当する。

(2)一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「複数の薄膜トランジスタ素子を含む基板と、
前記基板上に形成されたディスプレイ領域と、を備え、
前記ディスプレイ領域は、
前記薄膜トランジスタ素子と電気的に連結された第1電極を備え、画素領域を定義する基本層と、
前記基本層が形成された領域の上部に、形成される有機膜層と、
前記基本層と前記有機膜層とを完全に覆う構造で形成された第2電極層と、を備え、
前記基本層は、複数の前記第1電極の間に介在され、所定厚さに形成された画素定義膜をさらに備える有機発光ディスプレイ装置。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

(3)相違点
ア 相違点1
有機膜層に関して、本願発明においては、「基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさ」であるのに対して、引用発明の有機膜層である機能層110は、陽極23(第1電極)の上層に形成され、「基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさ」とはなっていない点。

イ 相違点2
有機膜層の形成に関して、本願発明においては「蒸着」によって形成されるのに対して、引用発明の有機膜層である機能層110については、その点の特定がない点。

4 当審の判断
(1)上記各相違点について検討する。
ア 相違点1について
有機EL表示装置において、発光層を備えた有機膜層を第1電極上の部分にのみ形成することも、第1電極及び画素定義膜を含めた領域全体に渡って形成することも周知である。この点、発光層を備えた有機膜層を「第1電極及び画素定義膜を含めた領域全体(基本層)」に渡って形成することについては、例えば、特開2002-151253号公報(【0041】?【0044】及び【図14】)の記載を参照のこと。
引用発明において、発光層を備えた有機膜層をどのように形成するかは当業者が必要に応じて適宜選択し得ることであるから、上記周知技術を参酌して、「第1電極及び画素定義膜を含めた領域全体(基本層)」に渡って形成することを採用することに格別の困難性はない。そして、その領域の大きさを「基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさ」とすることは単なる設計的事項に過ぎにない。

なお、この点、請求人は、平成23年8月30日付けで提出された回答書において、
「審査官殿は、本願発明の構成A(当審注;上記相違点1に関する構成)について、引用例(特開2002-151253号公報)の図14を参照して“発光層1414(本願発明の有機膜層に相当)は、画素部1403によって規定された領域の上部に、当該領域と同一か、または若干広い大きさに形成されていることが読み取れる”とは述べていますが、実際には、引用例の図14に示される発光層1414は画素定義膜1418の右端部を露出させるように位置し、該画素定義膜1418を完全に覆う構成とはなっていない、すなわち、この引用例には、本願発明の構成Aに相当する構成は示されていません。」
と主張する。
しかしながら、本願発明の元来の主旨は、第2電極が有機膜層を覆って、有機膜層が露出しないようにすることによって水分及び酸素の侵入を防止することにあるのであり(本願明細書の【0029】、【0030】【0049】?【0054】、【0056】等参照)、上記相違点1のように、有機膜層が「基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさ」となる、すなわち、基本層を覆うことに何らの作用効果も生じない。(仮に、これによって何らかの作用効果が生じたとしても、それは、明細書に記載された作用効果ではない。)この点を踏まえれば、有機膜層の領域の大きさを「基本層が形成された領域と同一か、または若干広い大きさ」とすることが単なる設計的事項であることに誤りはなく、したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

イ 相違点2について
有機膜層の形成として、「蒸着」は周知の技術であり、引用発明においても、上記周知技術を採用して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)本願発明の奏する作用効果
そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項4に係る発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-05 
結審通知日 2011-10-11 
審決日 2011-10-24 
出願番号 特願2007-194559(P2007-194559)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱野 隆  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
伊藤 幸仙
発明の名称 有機発光ディスプレイ装置  
代理人 佐伯 義文  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  

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