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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1253283
審判番号 不服2011-12181  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-08 
確定日 2012-03-07 
事件の表示 特願2005-331180「金属材の耐食性評価方法と金属材、並びに金属材の腐食促進試験装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月 7日出願公開、特開2007-139483〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月16日の特許出願であって、平成22年11月19日付けの拒絶理由通知に対し平成23年1月31日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年2月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
さらに、同年7月19日付けで審尋がなされ、回答書が同年9月22日付けで請求人より提出されたものである。

第2 平成23年6月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年6月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明について
本件補正は、補正前の特許請求の範囲(平成23年1月31日付けの手続補正書により補正されたもの)の請求項1の記載:
「 【請求項1】
下記(A)工程と下記(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、
下記(A)工程において、金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径は1?300μm、塩分付着量は0.1?10000mg/m^(2)であり、かつ、下記(A)工程の所要時間は10分以内であり、
さらに下記(B)工程において、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とすることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に、塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程」
を、
「 【請求項1】
下記(A)工程と下記(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、
下記(A)工程において、金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径は1?300μm、塩分付着量は10?10000mg/m^(2)であり、かつ、下記(A)工程の所要時間は20秒以内であり、
さらに下記(B)工程において、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とすることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に、一流体スプレーノズルまたは二流体スプレーノズルを使用した塩水スプレーにより塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程」
と補正する(下線は補正箇所を示す。)ことを含むものである。
上記補正により、請求項1に記載した発明の塩分付着量の下限値は「0.1mg/m^(2)」から「10mg/m^(2)」に変更されると同時に、(A)工程の所要時間も「10分以内」から「20秒以内」に変更された。

同時に、明細書の段落【0077】の【表6】における、補正前の「実施例5」が、「参考例5」に、同段落【0078】の【表7】における補正前の「実施例8」が「参考例8」に、そして同段落【0082】の【表10】における補正前の「実施例5」、「実施例8」が、それぞれ「参考例5」、「参考例8」と補正されている。

願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、明細書の段落【0029】に「特に、エアコン室外機などの家電製品が使用される屋外環境における塩分付着量は、沖縄などの塩害地域を想定する場合10?10000mg/m^(2)の範囲であり、」という記載があり、【表6】?【表7】に上記の実験条件が具体的に示されている実施例には、塩分付着工程である(A)工程の所要時間が10秒(実施例1,3,6)、15秒(実施例2,7?12、但し実施例8は該所要時間15秒ではあるが塩分付着量が1mg/m^(2)である。)、20秒(実施例4)、5分(実施例5)である具体例が記載されているが、それらの結果を示す【表10】には、「塩水付着後の評価」および「腐食試験後の評価」が、実施例1?12はすべて「○(均一)」と、本件補正前の塩分付着量および(A)工程の所要時間であれば、結果に差がないことが記載されている。
また、(A)工程の所要時間については、明細書の段落【0031】に「さらに、(A)工程において、金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる時間(以下、所要時間と称す)は10分以内とする。10分を越えて試験片を塩水に接触させると塩水溶液による試験片の腐食が進行することがあり、実際の腐食環境における腐食との相関が低くなるためである。」と記載されているだけである。明細書の段落【0030】に「塩分付着量の制御は、塩水濃度、噴霧圧力、噴霧時間などを調整して行えばよい。」と記載されているように、塩分付着量と(A)工程の所要時間との関係から、塩分付着量の下限値を上げると補正前の下限値の場合には許容される短い(A)工程の所要時間が許容されなくなることは予測されるとしても、塩分付着量の下限値の変更とともに該所要時間を「10分以内」から「20秒以内」に変更すべき理由等は何ら記載も示唆もされていない。
そして、本件補正により上記【表6】、【表7】および【表10】において記載されている具体例が、実施例と、「参考例」とに区別され、同等の結果が得られる具体例ではないことに変更されたものであるが、それらの具体例の間に結果について何らかの相違があることは当初明細書等の記載から自明の事項であるとも認められない。

そうすると、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明では同等の結果が得られる具体例が、同等の結果ではない具体例となる発明に変更されているので、塩分付着量の下限値を「10mg/m^(2)」に変更すると同時に、(A)工程の所要時間も「20秒以内」に変更することを含む上記補正は、新たな技術的意義を追加するものであることは明らかであり、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でない新たな技術的事項を含むものである。

2.補正後の請求項2に記載された発明について
また、本件補正は、特許請求の範囲に、
「 【請求項2】
下記(A)工程と下記(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、
下記(A)工程において、金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径は150μm、塩分付着量は1000mg/m^(2)であり、かつ、下記(A)工程の所要時間は15秒であり、
さらに下記(B)工程において、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とすることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に、一流体スプレーノズルまたは二流体スプレーノズルを使用した塩水スプレーにより塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程」
を追加する補正を含むものである。

しかしながら、この追加補正により、請求項の全項数は補正前の7から8へと増加されており、補正前の特許請求の範囲の請求項1?7と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?8とを対比すると、上記補正後の請求項2に対応する請求項は存在しない。
そして、請求項2を追加することは審理負担を増すことになる。
そうすると、このような請求項の追加は、請求項の削除には該当しないし、対応する請求項が存在しないのであるから特許請求の範囲の減縮にも該当しない。さらに、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないことは明らかである。

したがって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年6月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなるので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成23年1月31日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1は以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という)
「 【請求項1】
下記(A)工程と下記(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、
下記(A)工程において、金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径は1?300μm、塩分付着量は0.1?10000mg/m^(2)であり、かつ、下記(A)工程の所要時間は10分以内であり、
さらに下記(B)工程において、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とすることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に、塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程」

2.引用刊行物等の記載事項
(1)刊行物1(特開2003-329573号公報)
原査定の拒絶の理由に引用されている刊行物1には、図面とともに次の記載がある。
(1a)特許請求の範囲(2頁左欄)
「【請求項1】 下記(A)の工程と下記(B)の工程とからなる工程を1乃至複数回繰り返えして耐食性を評価することを特徴とする金属材の耐食性評価方法。(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程。
(B)金属材に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した乾燥工程と湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを1乃至複数回行う工程。
【請求項2】 前記(A)の工程の時間は10分以内であることを特徴とする請求項1に記載の金属材の耐食性評価方法。
【請求項3】 前記(B)の工程は、乾燥工程と湿潤工程の露点変動が±5℃以内に設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属材の耐食性評価方法。」

(1b)5頁右欄
「【0038】(A)の工程の塩分付着方法は特に限定されず、塩水浸漬、塩水噴霧、塩水滴下等の方法を用い、使用する溶液の塩分濃度を変化させればよい。使用する塩水としては、海塩または人工海塩、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム-塩化マグネシウム混合物、塩化ナトリウム-塩化カルシウム混合物、岩塩等の溶液を用いることができる。」

(1c)14頁左欄?右欄
「【0141】図33は、支配環境因子として塩分量を4水準に設定した腐食促進試験の試験条件を示す図である。塩分付着方法として10分間の塩水浸漬を週2回行い、使用する塩水は人工海水を希釈して準備した。人工海水の塩水濃度(質量%)は3%、0.3%、0.03%の3水準である。なお、予備試験の結果、各塩分濃度に浸漬した後の付着塩分量はそれぞれ、0.6、0.06、0.006g/m^(2)であった。また、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程は露点温度一定条件として、図33の条件を設定し、乾燥と湿潤の間には1時間の移行時間を設定した。
【0142】図34は、図33に示した条件の腐食促進試験(塩水濃度3%:付着塩分量0.6g/m^(2))により得られた塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅と試験時間との関係を示した特性図である。このようなデータが試験条件毎に作成される。ここで塗装鋼材B、Cは実機に使用された実績はなく、実機のデータは得られていない。
【0143】図35は、試験期間28日の塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅と付着塩分量の関係を示した図である。付着塩分量の対数と塗膜の膨れ幅の対数は良好な直線関係があることが分かる。そこで、付着塩分量に対応した膨れ幅を求めることができ、例えば塩分付着量が0.1g/m^(2)における塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅はそれぞれ、0.9、1.7、0.5mmである。ここで、腐食速度が小さく評価に時間がかかる付着塩分量の少ない範囲も直線を外挿することができ、例えば塩分付着量が0.001g/m^(2)における塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅はそれぞれ、0.02、0.05、0.1mmである。このようなデータが試験期間14日、56日についても作成され、付着塩分量と塗装鋼材の膨れ幅の関係を整理して、付着塩分量毎に塗装鋼材の膨れ幅の経時変化を予測することができる。図36は、付着塩分量0.1g/m^(2)における塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅の経時変化を予測した特性図である。」

(1d)14頁右欄?15頁左欄
「【0148】(実施例2)図39は、3箇所の場所で或る製品の或る部位に使用された化成処理鋼材Aの白さび発生期間(日数)と付着塩分量との関係を示したものである。このようなデータが上記の処理(S22)に多数利用されることになる。・・・(中略)
化成処理鋼材Aの白さび発生期間は、付着塩分量との相関が高いことがわかる。そこで、実施例1と同じ試験条件で、3水準の塩分量を4水準に変更して腐食促進試験を行い、化成処理鋼材の耐食性評価を行った。ここで、人工海水の塩水濃度(質量%)は3%、0.3%、0.03%、0.003%の4水準である。なお、予備試験の結果、各塩分濃度に浸漬した後の付着塩分量はそれぞれ、0.6、0.06、0.006、0.0006g/m^(2)であった。
【0151】図40は、付着塩分量と化成処理鋼材A、B、Cの白さび発生日数との関係を示した図である。試験期間は60日まで実施しており、化成処理鋼材Cについては塩分付着量0.0006g/m^(2)の条件では60日間で白錆が発生していない。」
(1e)15頁左欄?右欄
「【0156】(実施例3)或る地域において、エアコン室外機の腐食実態調査を行った。エアコン室外機の塗膜膨れ幅は海岸からの距離(離岸距離)との相関があり、環境因子として付着塩分量が多いほど塗膜膨れ幅が大きくなることが分かった。また、この地域における環境計測を行い、一日の温度と相対湿度の変化を調べた。
【0157】次に、塩分量を4水準に設定した腐食促進試験を実施した。塩分付着方法として10分間の塩水浸漬を週2回行い、使用する塩水は人工海水を希釈して準備した。人工海水の塩水濃度(重量%)は3%、0.3%、0.03%、0.003%の4水準である。なお、予備試験の結果、各塩分濃度に浸漬した後の付着塩分量はそれぞれ、0.6、0.06、0.006、0.0006g/m^(2)であった。また、乾燥と湿潤を繰り返す工程は、環境計測の結果を参考にして、表10に示す露点温度一定条件を設定した。」

(1f)そして、上記記載にある図35,37,39、40には、横軸を0.0001?1g/m^(2)の範囲の付着塩分量とする金属材の腐食と付着塩分量との関係を示すグラフが記載されている。

これらの記載および図面を勘案すると、刊行物1には、次の発明が記載されている。
「下記(A)工程と下記(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、
下記(A)工程の所要時間は10分以内であり、
さらに下記(B)工程において、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とすることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に、塩化物イオンを含む塩分を噴霧により付着させる工程
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程」(以下、「刊行物1発明」という。)

(2)刊行物2:特開2002-143150号公報
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物2には、図面とともに次の記載がある。
(2a)2頁左欄
「【0002】
【従来の技術とその課題】従来より、金属材料の腐食量の推定や評価の際に必要な腐食促進試験装置として、JIS-Z2371において規定されている塩水噴霧試験装置が用いられてきている。また、ISO-9227において規定されているCASS試験法においても、金属腐食の促進試験として塩水噴霧試験が規定されている。
【0003】さらに、海塩による腐食促進試験法に用いる塩水噴霧試験装置として、表面処理鋼板の自動塩水噴霧試験装置が特開平09-178646号公報に開示されている。しかしながら、これら従来の方法においては、腐食の原因である塩水を霧状にして試験片に噴霧するか、もしくは塩水を直接シャワー状にして試験片に吹き付けるため、試験片が常時濡れた状態にあり、実際に自然環境に置かれている材料の腐食条件とはかけ離れたものであった。」

(2b)2頁左欄
「【0004】一方、この出願の発明者らは、腐食の起こらない金の試験片を実際の海岸と塩水噴霧試験装置内に設置し、試験片上に付着する塩粒子の顕微鏡観察を試みた。試験片を実際の海岸に固定し、海から飛来し試験片上に付着した海塩粒子を走査電子顕微鏡によって観察した。添付した図面の図1は、海岸で採取した海塩粒子の走査電子顕微鏡写真を示したものである。
【0005】図1に示したように、実環境で採取した海塩粒子はそのサイズが約30μm程度と小さく、中心に塩の結晶が析出している。これに対し、従来の促進試験装置内で採取した塩粒子は、全体が濡れていて走査電子顕微鏡などでは観察不可能な大きな塩の固まりが形成されていた。すなわち、従来の腐食促進試験装置においては、実際の環境と全く異なる塩粒子を付着させているため、腐食の状況が本質的に異なっており、そのため、腐食促進試験装置で評価した結果が実環境の結果と合致しないという問題点があった。
【0006】そこで、この発明は、自然環境での海塩粒子の付着状況を再現できる腐食促進試験装置を提供することを課題とする。」

3.本願発明と刊行物1発明との対比
本願発明における、金属材の表面に塩化物イオンを含む塩水を所定の粒径サイズで所定の塩分付着量に付着させる(A)工程は、本願明細書の段落【0023】にも「前記(A)工程においては、・・・1?300μmとなるように、塩化物イオンを含む塩水を噴霧して金属材の表面に付着させる。」と説明されているように、塩化物イオンを含む塩水を噴霧して金属材の表面に付着させる工程であるから、本願発明と上記刊行物1発明とを対比すると、両者は、次の点で一致し、
(一致点)
「下記(A)工程と下記(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、
下記(A)工程において、下記(A)工程の所要時間は10分以内であり、
さらに下記(B)工程において、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に、塩化物イオンを含む塩水を噴霧して付着させる工程
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程」
次の点で相違する。
(相違点)
噴霧により金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水が、本願発明では、「金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径は1?300μm、塩分付着量は0.1?10000mg/m^(2)であ」るのに対し、刊行物1発明においては、塩水の噴霧により金属材に塩化物イオンを含む塩水を付着させることは記載されているが、その際の塩水の粒径サイズや塩分付着量については具体的な記載がない点。

4.相違点についての検討
金属材の表面への塩化物イオンを含む塩水の塩分付着量は、金属材の腐食を支配する環境因子であることは刊行物1にも記載され、具体例における塩水の付着方法は「塩水浸漬」であって、噴霧とは異なるが、0.0001?1g/m^(2)、すなわち0.1?1000mg/m^(2)の塩分付着量の範囲で耐食性評価を行うことが刊行物1に記載されている(前記記載(1c)?(1e)、図35,37,39等参照)から、塩水の付着を塩化物イオンを含む塩水の噴霧により行う場合にも、同様の塩分付着量の範囲で耐食性の評価を行うことに何ら困難性はない。
また、本願発明は、明細書の段落【0018】に「本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、実環境を模擬した金属材の耐食性評価方法と金属材、並びに金属材の腐食促進試験装置を提供することを目的とする。」と記載されているものであるから、塩化物イオンを含む塩水の噴霧により金属材の表面に塩化物イオンを含む塩水を付着させる場合に、実環境における塩化物イオンを含む塩水の金属材表面への付着状況を参照することは、当然の事項であるところ、刊行物2には前記記載(2b)にあるように、顕微鏡観察により「実環境で採取した海塩粒子はそのサイズが約30μm程度と小さく、中心に塩の結晶が析出している。」と記載されている。
その粒子は、観察時にはすべて溶液である塩水の状態ではなく、「中心に塩の結晶が析出している」という記載からみて、少なくとも一部は乾燥し溶解していた塩が析出している状態で観察されているものと認められるが、そうであるとしても、後続の「これに対し、従来の促進試験装置内で採取した塩粒子は、全体が濡れていて走査電子顕微鏡などでは観察不可能な大きな塩の固まりが形成されていた。すなわち、従来の腐食促進試験装置においては、実際の環境と全く異なる塩粒子を付着させているため、腐食の状況が本質的に異なっており、そのため、腐食促進試験装置で評価した結果が実環境の結果と合致しないという問題点があった。」という記載から、金属材の表面全体が噴霧により濡れて、付着した塩水粒子のサイズが走査電子顕微鏡などでは観察不可能な状態には付着させるべきでないことが教示されている。また、噴霧により飛来して金属材の表面に付着した塩水粒子のサイズは、乾燥して水分が蒸発すると縮小することが考えられるものである。
そうすると、金属材の腐食の原因となる海塩の実環境における金属材の表面への付着した状態での粒子サイズが約30μm程度であることを参考にして、(A)工程において噴霧により金属材の表面に塩化物イオンを含む塩水を付着させる場合に、金属材の表面全体が噴霧により濡れて付着した塩水粒子のサイズが顕微鏡などで観察不可能な状態に付着させることなく、付着した塩水の粒子サイズを観察できるような状態で、どのような粒子サイズの塩化物イオンを含む塩水を金属材に付着させれば実環境を模擬した耐食性評価ができるか、好適な金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の粒子サイズを反復実験により求めて、多数の粒子を扱う際の粒子サイズを特定するために通常使用されている平均粒径を用い、決定するようなことは、当業者であれば普通になし得る範囲内の事項である。
その結果、決定された金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径が、約30μm程度を含む1?300μmであることも、当業者が特に想定外の範囲であると考えられるものでもないし、それによる効果も、格別のものとはいえない。
なお,請求人は,回答書において、請求項1を削除し、検査対象の金属材の使用用途を家電製品用に限定する補正案を提示しているが、家電製品用金属材は、刊行物1発明と差違がなく、また、平成23年6月8日付け手続補正書において行った(A)金属材の表面に、塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程を「一流体スプレーノズルまたは二流体スプレーノズルを使用した塩水スプレーにより」と限定した点は、刊行物1発明の噴霧と何ら変わらないので請求人の補正案は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-14 
結審通知日 2011-12-20 
審決日 2012-01-13 
出願番号 特願2005-331180(P2005-331180)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (G01N)
P 1 8・ 561- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
横井 亜矢子
発明の名称 金属材の耐食性評価方法と金属材、並びに金属材の腐食促進試験装置  
代理人 落合 憲一郎  

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