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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02N
管理番号 1253301
審判番号 不服2010-6728  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-31 
確定日 2012-03-09 
事件の表示 特願2009-121414「電力装置、電力発生方法、電力装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日出願公開、特開2010-273408〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年5月19日の特許出願であって、同年11月26日付けで拒絶査定がなされ、平成22年3月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付で特許請求の範囲が補正され、さらに、平成23年2月24日付けで当審の拒絶理由が通知され、平成23年5月25日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年3月31日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「少なくとも一端が固定され、空間または媒質を伝播する波動を受信して共振する共振部と、
前記共振部に結合して形成され、前記共振部の共振に応じて電圧を発生する圧電素子と、
前記圧電素子の対向する面にそれぞれ形成され、前記発生した電圧を出力する第1電極および第2電極と、を含み、
前記共振部は、共振周波数の異なる少なくとも2つの共振体を含む電力装置。」

3.引用例
当審の拒絶理由に引用した特開平6-46539号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、数ミリメートル、或いはそれ以下の大きさの微小機械であるマイクロマシンに関し、特にマシン外部から無索でエネルギーが供給されるマイクロマシンに関するものである。」

・「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、マイクロマシンにおいては、可能な限りの小形化が図られているから、電磁波の受信面積(受光面積)には限りがある。然も、太陽電池等の光起電力素子の電力変換効率は低く、現状では高々20?30%程度である。
【0007】又、管壁検査等のためにマイクロマシンを無索方式にて管内へ装入し、管内のマイクロマシンへ電磁波を供給する場合、電磁波の送信源は管の入口に設置されることになるから、マイクロマシンが管の奥部へ進行するにつれて、マイクロマシンに到達する電磁波のエネルギーは弱まる。
【0008】仮に、マイクロマシンを所定位置まで移動させることが出来たとしても、その位置にて管壁検査等の本来の動作を行なわしめる際、電力不足が生じる虞れがある。
【0009】本発明の目的は、無索方式のマイクロマシンにおいて、電力不足の生じる虞れのない電力システムを提供することである。
【0010】
【課題を解決する為の手段】本発明に係るマイクロマシンにおける電力システムにおいては、光線、マイクロ波、音波等の複数種類のエネルギー線を受信すべき複数のエネルギー線受信手段と、各エネルギー線受信手段によって受信されたエネルギー線を電力に変換する複数の起電力手段とをマイクロマシンに搭載している。
【0011】又、必要に応じて、前記起電力手段によって変換された電力を蓄電する手段を装備する。」

・「【0013】又、マイクロマシン本来の動作を行なうべき所定位置に近接して、例えば音波発信器(61)を配置し、該音波発信器(61)からマイクロマシンへ向けてエネルギー線である音波を放射すれば、音波エネルギーは殆ど弱まることなく、マイクロマシンに到達し、所定動作のための動力を充分に賄うことが出来る。」

・「【0017】
【発明の効果】本発明に係るマイクロマシンにおける電力システムによれば、例えば全ての電力を光起電力によって賄う場合よりも大きな起電力を得ることが出来るから、電力不足の生ずる虞れはない。」

・「【0019】本実施例では、外部から照射すべきエネルギー線として、レーザ光線、マイクロ波、音波、及び磁力線の4種類を用いる。」

・「【0026】管(9)の外壁には、第3のエネルギー線となる超音波を発すべき音波発信器(61)が設置されている。該音波発信器(61)からの超音波は管壁を経て管(9)内へ放射され、マイクロマシンユニット(1)の後部に突設した音起電力素子(6)へ到達する。
【0027】音起電力素子(6)は、圧電材料からなる振動板であって、例えば入射音波の強度が20mW/mm2、受音面積が25mm2、変換効率が0.2%の場合、1mWの電力を発生する。」

・「【0031】上記本体及び駆動脚の伸縮駆動機構には、図4に示す如き積層型圧電アクチュエータ(4)が採用出来る。積層型圧電アクチュエータ(4)は、圧電セラミックス片(43)を挟んで両側に、正電極(41)及び負電極(42)を対向配備して構成され、両電極(41)(42)間へ所定電圧Vdを印加することによって、圧電セラミックス片(43)が鎖線の如く伸縮するものである。」

・「【0038】上記マイクロマシンユニット(1)によれば、全てのエネルギー線の供給を同時に受けた場合、最大出力が40mWを越えることになり、例えば光起電力素子(3)のみによる電力供給では困難な高負荷作業が可能となる。」

・図1には、振動板である音起電力素子6の一端が固定されている点が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「少なくとも一端が固定され、入射音波が到達する振動板と、
前記振動板は圧電材料からなり、前記振動板の振動に応じて電圧を発生する前記圧電材料と、
を含む電力システム。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)本願の出願当初の明細書の【0019】の「本実施形態の電力装置20は、空間または媒質を伝搬する波動を受信することで電力を発生する装置である。なお、本実施形態における波動とは、周期的な交流成分をもつ信号を示し、たとえば、音波、超音波などの波を含む概念である」なる記載を踏まえると、後者の「入射音波」が前者の「空間または媒質を伝播する波動」に相当するといえるので、
後者の「入射音波が到達する振動板」が前者の「空間または媒質を伝播する波動を受信して共振する共振部」に相当する。

(イ)後者の「振動板は圧電材料からな」る態様と
前者の「共振部に結合して形成され」た態様とは、
「共振部により駆動されるように形成され」ているとの概念で共通する。

(ウ)後者の「振動板の振動」が前者の「共振部の共振」に相当し、同様に、
「圧電材料」が「圧電素子」に相当する。

(エ)後者の「を含む電力システム」と
前者の「共振部は、共振周波数の異なる少なくとも2つの共振体を含む電力装置」とは、
「を含む電力装置」なる概念で共通する。

したがって、両者は、
「少なくとも一端が固定され、空間または媒質を伝播する波動を受信して共振する共振部と、
前記共振部により駆動されるように形成され、前記共振部の共振に応じて電圧を発生する圧電素子と、
を含む電力装置。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
共振部と圧電素子との関係に関し、本願発明では、共振部に圧電素子が「結合して」形成されているのに対し、引用発明では、共振部は圧電素子から形成されている点。

[相違点2]
圧電素子に関し、本願発明では、「圧電素子の対向する面にそれぞれ形成され、発生した電圧を出力する第1電極および第2電極と、を含み」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

[相違点3]
共振部に関し、本願発明では、「共振部は、共振周波数の異なる少なくとも2つの共振体」を含むのに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

5.判断
[相違点1、及び、3]について
本願発明において、圧電素子に結合して形成された共振部が、共振周波数の異なる少なくとも2つの共振体を含む電力装置としたことによる技術的な意義は、出願当初の明細書の【0029】の「電力ユニットの共振周波数は、電力装置20を使用する外部の環境などに応じて適宜最適なものにすることができ、たとえば、自然界において可聴な音波の周波数1-4kHzの範囲で決定することができる。また、複数の電力ユニットの共振周波数は、全て異ならせる場合に限られず、一部のみ異ならせたり、全て同一とすることもできる。たとえば、電力装置20を使用する環境において受信できる波動の周波数成分が広範囲にわたっている場合、複数の電力ユニットそれぞれが異なる共振周波数を有するようにし、受信できる波動が特定の周波数成分を多く含んでいる場合、複数の電力ユニットそれぞれがその特定の周波数成分を共振周波数として有するようにすることで、環境に応じて電圧を効率よく出力することができる。」との記載によれば、環境に応じて電圧を効率よく出力することであるものと解することができる。
当審の拒絶理由に引用した特開2001-275370号公報の【0017】には「発電部4は水流3を受けた際に振動板5を振動させるような水の振動を発生させる振動発生手段7および振動板5に固定された圧電素子6から構成される。振動板5は、屈曲振動を発生しやすい金属などの材料により構成することが望ましい。金属以外の合成樹脂等で構成しても良い。」と記載されており、【0025】には「共振周波数が異なる複数の振動板を用いているため、あらゆる振動に対して水力を効率的に電力に変換することが可能となる。」と記載されているように環境に応じて電圧を効率よく出力するために、圧電素子に結合して形成された共振部が、共振周波数の異なる少なくとも2つの共振体を含む電力装置は周知の技術にすぎない。
さらに、引用例のものも、【0019】に「外部から照射すべきエネルギー線として、レーザ光線、マイクロ波、音波、及び磁力線の4種類を用いる」とあり、【0007】に「管壁検査等のためにマイクロマシンを無索方式にて管内へ装入し、管内のマイクロマシンへ電磁波を供給する場合、電磁波の送信源は管の入口に設置されることになるから、マイクロマシンが管の奥部へ進行するにつれて、マイクロマシンに到達する電磁波のエネルギーは弱まる。」とあり、さらに、【0009】に「本発明の目的は、無索方式のマイクロマシンにおいて、電力不足の生じる虞れのない電力システムを提供することである。」と記載されているように、広範囲の周波数を有する波動をその環境に応じて選択することにより電力不足が生じないようにするものであるから、複数の周波数の波動から電力変換を行うことにより電力不足を防止する点が記載されている。
そうすると、電力装置において、環境に応じて電圧を効率よく出力するという一般的な課題を解決するために、引用発明に上記周知の技術を採用することにより相違点1、及び、3に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点2]について
圧電素子の対向する面にそれぞれ形成され、発生した電圧を出力する第1電極および第2電極を設けることは常套手段といえる程度のものである。
現に引用例の【0031】には、「上記本体及び駆動脚の伸縮駆動機構には、図4に示す如き積層型圧電アクチュエータ(4)が採用出来る。積層型圧電アクチュエータ(4)は、圧電セラミックス片(43)を挟んで両側に、正電極(41)及び負電極(42)を対向配備して構成され、両電極(41)(42)間へ所定電圧Vdを印加することによって、圧電セラミックス片(43)が鎖線の如く伸縮するものである。」と記載されているように、駆動機構に圧電素子を使用する場合であるが、圧電素子の対向する面にそれぞれ形成され、発生した電圧を出力する第1電極および第2電極を設ける点が記載されており、駆動機構ではなく、発電機構として圧電素子を使用する際にも同様な電極を設けることは常套手段といえる程度の事項にすぎないといえる。
そうすると、引用発明に上記常套手段の圧電素子の対向する面にそれぞれ形成され、発生した電圧を出力する第1電極および第2電極を採用することにより相違点2に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、上記周知の技術、及び、上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

6.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、上記周知の技術、及び、上記常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-07 
結審通知日 2011-10-11 
審決日 2011-10-31 
出願番号 特願2009-121414(P2009-121414)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仲村 靖  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 槙原 進
大河原 裕
発明の名称 電力装置、電力発生方法、電力装置の製造方法  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 土屋 徹雄  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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