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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C21C
管理番号 1253779
審判番号 無効2009-800121  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-06-02 
確定日 2012-02-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3685781号発明「ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3685781号は、平成14年11月19日に出願された特願2002-334665号の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」という。)について、平成17年6月10日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、本件審判は、本件発明1?5についての特許の無効を請求するものであり、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成21年 6月 2日:審判請求書提出(請求人)
8月24日:答弁書及び訂正請求書提出(被請求人)
10月 9日:弁駁書提出(請求人)
11月26日:口頭陳述要領書提出(請求人)
12月 3日:口頭陳述要領書提出(被請求人)
10日:口頭審理及び口頭審理調書作成
17日:上申書提出(請求人)
22日:上申書提出(被請求人)


2.訂正の認否

2-1.訂正の内容

被請求人が、訂正請求書により求めた本件特許明細書についての訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1?7よりなる(下線部が訂正箇所)。

訂正事項1:特許請求の範囲

【請求項1】
溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられることを特徴とする、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。
【請求項2】
溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、黒鉛球状化処理終了後に取鍋内のスラグを取鍋から排出する排滓処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置と前記排滓処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置及び排滓処理装置へ移動させられることを特徴とする、ダクタイル鋳物用溶融鋳
鉄の溶製設備。
【請求項3】
前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段は、ローラーが回転することによってローラー上に搭載された取鍋を移動させるローラーテーブル方式であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。
【請求項4】
前記搬送台車は1つの直線上を走行し、前記取鍋移送手段は、その取鍋の移動方向が当該搬送台車の走行方向に対して実質的に直行する方向に設けられていることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。
【請求項5】
前記搬送台車は、レーザーセンサーによって、その位置が検出されることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。

訂正事項2:段落0010

【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ダクタイル鋳鉄管等のダクタイル鋳物を製造する際に、保持炉で貯留・滞留された元湯を取鍋に受け、次いで、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置に搬送してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製し、更に、必要に応じて取鍋内のスラグを除去するまでの工程において、極めて少ない操作員で、取鍋の移動及び黒鉛球状化処理を行うことが可能である、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備を提供することである。

訂正事項3:段落0011

【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための第1の発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備は、溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられることを特徴とするものである。

訂正事項4:段落0012

【0012】
第2の発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備は、溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、黒鉛球状化処理終了後に取鍋内のスラグを取鍋から排出する排滓処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置と前記排滓処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置及び排滓処理装置へ移動させられることを特徴とするものである。

訂正事項5:段落0018

【0018】
図1に示すように、本実施の形態におけるダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備では、保持炉1と、取鍋7内にMg等の黒鉛球状化剤を添加するための、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置8と、取鍋7内のスラグを排出するための排滓処理装置11とが水平方向に並んで配置されており、そして、これらの装置に沿ってほぼ直線状に伸びる一対のレール6,6が配置され、このレール6,6上に、その上を走行する搬送台車4が配置されている。

訂正事項6:段落0035

【0035】
以上説明したように、上記構成のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備を用いることにより、保持炉1で貯留・滞留された元湯を取鍋7に受け、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置8に搬送してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製し、次いで、排滓処理装置11に搬送して取鍋7内のスラグを排出し、その後、このダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を遠心鋳造機等の鋳造設備の配置された場所に搬送するまでの工程において、取鍋7をクレーン等によって吊り上げることがないため、ほとんどの作業を自動運転で行うことが可能となり、省力化並びに省力化に伴う生産性の向上が達成される。

訂正事項7:段落0037

【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、ダクタイル鋳物を製造する際に、保持炉で貯留・滞留された元湯を取鍋に受け、次いで、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置に搬送してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製し、更に、必要に応じて取鍋内のスラグを除去するまでの工程において、取鍋をクレーン等によ
って吊り上げる必要性がないため、ほとんどの作業を自動化することが可能となり、極めて少ない操作員で一連の作業に対処することが可能となる。その結果、省力化並びに省力化に伴う生産性の向上が達成され、工業上有益な効果がもたらされる。

2-2.訂正要件の検討

訂正事項1?7が、規定の訂正要件を満足するか否かについて検討する。
訂正事項1は、請求項1、2に記載された「黒鉛球状化装置」を「ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化装置」に訂正するものであり、発明特定事項を限定するものと認められるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。次に、訂正事項2?7は、発明の詳細な説明に記載された「黒鉛球状化装置」を「ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化装置」に訂正するものであり、特許請求の範囲の記載との整合性をとるものと認められるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。
そして、本件特許明細書には、本件訂正前の段落0019に「黒鉛球状化処理装置8は、・・・(中略)・・・ワイヤーフィーダー法等の適宜の添加手段にによって添加する装置であり、本実施の形態例では、純Mgが内装され、外部を鋼板で被覆した鉄被覆Mgワイヤーを、ワイヤーフィーダー法によって取鍋7内の元湯に添加する方法を用いている。」と記載されているから、訂正事項1?7はいずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3.まとめ

よって、訂正事項1?7よりなる本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。


3.本件発明の認定

本件訂正は認容できるから、本件発明1?5は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲において、請求項1?5に記載された事項(上記「訂正事項1」参照)により特定されるとおりのものと認める。


4.当事者の主張

4-1.請求人

請求人は審判請求書において、「本件発明1?5についての特許はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、以下に示す甲第1?3号証を提出し、「本件発明1?5は、甲第1号証および第2号証に記載された発明並びに周知技術(甲第3号証)に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきもの」であると主張する。
その後、弁駁書、口頭陳述要領書及び上申書においても前記主張をすると共に、周知技術について以下に示す甲第4?7号証を提出した。

甲第1号証:特開平9-182958号公報
甲第2号証:特開平11-207458号公報
甲第3号証:「鋳造工場の自動化・省力化マニュアル」
財団法人 素形材センター,平成7年3月31日,p.312?313
甲第4号証:「鋳造工場の自動化・省力化マニュアル」
財団法人 素形材センター,平成7年3月31日,p.88?93
甲第5号証:特開昭55-115910号公報
甲第6号証:「改訂4版 鋳物便覧」
丸善株式会社, 昭和61年1月20日,p.560?565
甲第7号証:「鋳造工場の自動化・省力化マニュアル」
財団法人 素形材センター,平成7年3月31日,p.313?314

4-2.被請求人

被請求人は答弁書において、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の主張に反論する。
その後、口頭陳述要領書及び上申書においても前記反論をすると共に、周知技術について以下に示す参考資料1を提出した。

参考資料1:「鋳造工学便覧」
丸善株式会社,平成14年1月31日,p.174?177


5.甲各号証の記載

本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1,2号証には、以下の摘記事項がそれぞれ記載されている。

5-1.甲第1号証

摘記1-1:段落0006?0007

【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、鋳造品の製造において、鋳型に溶湯を注入する際、溶湯が装入された取鍋を、保持炉等から注湯機まで搬送し着脱する作業を自動化することにより、危険作業を回避するとともに、取鍋搬送を安定化し、さらに時間短縮等、作業の効率化を図ることを目的とする。また、必要に応じて、溶湯の自動計量および自動記録も行うことを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明は、取鍋を載置する台車、台車走行用のレール、台車の走行機構、注湯機の位置に台車を停止させる停止機構、台車と注湯機の位置決め固定機構、台車と注湯機の間の取鍋移送機構から構成され、前記位置決め固定機構は、スライド軸および該軸の軸方向スライド機構と、該軸の嵌入具とからなり、該嵌入具の入側がテーパをもって拡大されていることを特徴とする溶湯取鍋の自動搬送装置である。・・・(後略)・・・

摘記1-2:段落0012

【0012】台車2と注湯機11の間の取鍋移送機構としては、台車2上にローラコンベア9、注湯機11上にローラコンベア10を設けている。・・・(後略)・・・

摘記1-3:段落0015

【0015】
【実施例】図1?図4に示す本発明装置により、保持炉1に装入されている1550℃の溶融鋳鉄を、台車2上の取鍋3に移入し、台車2を自動走行させ、10?18m離れた注湯機11の位置に搬送し、自動停止させ、取鍋3を注湯機11上に移送した。・・・(後略)・・・

5-2.甲第2号証

摘記2-1:段落0015

【0015】注湯台車装置7は、注湯取鍋6から造型枠2に溶湯を注湯するものであり、合金成分材投入装置9から合金成分材を受け取る合金成分材投入位置と、各保持炉8a?8cから溶湯を受け取る溶湯投入位置と、枠体搬送装置3上の造型枠2に注湯する注湯位置とにわたって巡廻移動する注湯台車23を有し、注湯台車23上に、注湯取鍋6と、注湯取鍋6を任意の鋳込角度に傾動制御するACサーボモーターからなる傾動装置24と、注湯取鍋6における残湯量を計測するロードセルからなる重量計測装置25と、傾動装置24を制御するコントローラ26とを有している。

摘記2-2:段落0018

【0018】次に、注湯台車装置7は、造型するワークがねずみ鋳鉄品である場合には、保持炉8a?8bに対向する位置に移動し、1ロット分の溶湯を保持炉8a?8bから注湯取鍋6に受け取る。造型するワークが球状黒鉛鋳鉄である場合には、保持炉8cに対向する位置に移動する。この場合に、FCD処理装置10は、保持炉8cから1ロット分の溶湯を調製取鍋装置16に受け取り、調製取鍋装置16を球状化剤投入装置15へ移動して球状化剤を受け取り、原点に復帰して調製した溶湯を注湯取鍋6に投入する。


6.引用発明の認定

甲第1号証(摘記1-1?1-3参照)には、口頭審理において、両当事者が確認した次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「溶融鋳鉄が装入された保持炉と、保持炉に装入されていた溶融鋳鉄を移入される取鍋と、注湯機と、を備えた装置であって、前記保持炉と前記注湯機との間には、取鍋を載置して自動走行すると共に載置した取鍋をその上で移送するためのローラコンベア9を有する台車と、注湯機上で取鍋を移送するためのローラコンベア10と、が設けられており、前記取鍋は、前記台車と前記ローラコンベア10との間を移送され、前記台車、前記ローラコンベア9及び前記ローラコンベア10によって保持炉から注湯機へ移送させられる、溶湯取鍋の自動搬送装置。」

7.当審の判断

7-1.本件発明1について

本件発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「溶融鋳鉄」「台車」「ローラコンベア9」は、それぞれ本件発明1の「(溶解炉で溶解された)元湯」「搬送台車」「取鍋移動手段」に相当する。さらに、引用発明の「ローラコンベア10」は、台車との間で取鍋を移送する点で、本件発明1の「取鍋移送手段」、引用発明の「溶湯取鍋の自動搬送装置」は、溶融鋳鉄鋳造品の製造設備である点で、本件発明1の「溶融鋳鉄の溶製設備」に相当する。そして、引用発明においても、取鍋は、「吊り上げられることなく」移送されるものと認められる。
してみると、本件発明1のうち、
「溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、を備えた溶融鋳鉄の溶製設備であって、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から移動させられる、溶融鋳鉄の溶製設備。」の点は、引用発明と一致し、以下の点で両者は相違する。

相違点1(下線部):本件発明1が、「取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備」であるのに対し、引用発明は、当該黒鉛球状化処理装置を備えていない溶湯取鍋の自動搬送装置である点。

相違点2(下線部):本件発明1が、「保持炉と黒鉛球状化処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられる」のに対し、引用発明は、保持炉と注湯機との間には、取鍋を載置して自動走行すると共に載置した取鍋をその上で移送するためのローラコンベア9を有する台車と、注湯機上で取鍋を移送するためのローラコンベア10と、が設けられており、前記取鍋は、前記台車と前記ローラコンベア10との間を移送され、前記台車、前記ローラコンベア9及び前記ローラコンベア10によって保持炉から注湯機へ移送させられる点。

次に、相違点について検討する。

相違点1について:
甲第2号証には、注湯取鍋及び注湯台車からなる注湯台車装置と共に、調製取鍋装置と球状化剤投入装置からなるFCD装置を設け、球状黒鉛化鋳鉄のワーク(=ダクタイル鋳物)を製造すること(摘記2-1,2-2参照)が記載されている。そして、前記「注湯取鍋」「注湯台車」は、引用発明の「取鍋」「台車」に相当し、球状化剤投入装置として、ワイヤーフィーダー法によるものは周知(要すれば、甲第4?6号証参照)と認められる。
しかし、前記球状化剤投入装置は、調整取鍋内の溶湯に球状化剤を添加するものであって、注湯取鍋内の溶湯に球状化剤を添加するものではない。また、甲第3?7号証によって、注湯取鍋内の溶湯に球状化剤を添加することが周知技術であるとも認められない。
してみると、引用発明において、取鍋内の溶融鋳鉄に黒鉛球状化剤を添加すること、すなわち、相違点1を解消することは、当業者が容易になし得たことではない。

なお、相違点1に関し、請求人は審判請求書、口頭陳述要領書及び上申書において、「甲第2号証において、調整取鍋は、実施例として記載されているにすぎず、注湯取鍋内の溶湯に球状化剤を添加することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である」旨主張している。
しかしながら、調整取鍋を使用しない黒鉛球状化処理について、甲第2号証には記載も示唆もない。
したがって、前記主張は、甲第2号証の記載に基づくものではないから採用できない。

相違点2について:
甲第1号証には、引用発明の「ローラコンベア10」について、注湯機上に設けることしか記載されていない。一方、甲第2号証には、球状化剤投入装置を含むFCD装置を、保持炉と注湯台車装置の間に設けることしか記載されていない。すなわち、保持炉と黒鉛球状化処理装置との間に、取鍋移動手段を有する搬送台車と取鍋移送手段を設置し、取鍋を、搬送台車、取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させることについて、甲第1,第2号証には記載も示唆もない。また、甲第3?7号証によって、このような搬送手段の配置が周知技術であるとも認められない。
してみると、引用発明において、相違点2を解消することは、当業者が容易になし得たことでない。

なお、相違点2に関し、請求人は口頭陳述要領書において、「本件発明1の取鍋移送手段も、引用発明の取鍋移送機構(=ローラコンベア10)も、レールと取鍋を用いる作業位置の間で取鍋を搬送することについて同一の構成・作用を有するから、作業位置が黒鉛球状化処理装置であるか注湯機であるかは、実質的な差異とはならない」旨主張している。
しかしながら、前記「作業位置」なる概念は、本件発明1の発明特定事項ではないし、甲第1号証に記載された技術的事項でもない。
したがって、前記主張は、本件特許明細書や甲第1号証の記載に基づくものではないから採用できない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証および第2号証に記載された発明並びに周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7-2.本件発明2?5について

本件発明2は、本件発明1に対し、さらに排滓処理装置を備えることを発明特定事項としたものであり、本件発明3?5は、本件発明1,2における発明特定事項の一部を限定したものであると認められる。
してみると、本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を具備するものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証および第2号証に記載された発明並びに周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。


8.むすび

請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1?5の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられることを特徴とする、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。
【請求項2】
溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、黒鉛球状化処理終了後に取鍋内のスラグを取鍋から排出する排滓処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置と前記排滓処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置及び排滓処理装置へ移動させられることを特徴とする、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。
【請求項3】
前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段は、ローラーが回転することによってローラー上に搭載された取鍋を移動させるローラーテーブル方式であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。
【請求項4】
前記搬送台車は1つの直線上を走行し、前記取鍋移送手段は、その取鍋の移動方向が当該搬送台車の走行方向に対して実質的に直行する方向に設けられていることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。
【請求項5】
前記搬送台車は、レーザーセンサーによって、その位置が検出されることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する設備に関し、詳しくは、溶融状態の鋳鉄を収容した取鍋を、クレーン等で吊り上げることなく移動させ、溶解炉で溶解された溶融鋳鉄(本発明では「元湯」と称す)からダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する設備に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ダクタイル鋳鉄管等のダクタイル鋳物は鋼材と同等の引張強度を有し、その伸び及び靱性等の機械試験値は普通鋳鉄の十数倍に達し、更に、普通鋳鉄と同等の優れた耐食性を有しており、そのため、これらの特性が要求される地中埋設管等のより厳しい環境下での各種配管材等で広く利用されている。
【0003】
このダクタイル鋳物は、鉄スクラップを主たる鉄源原料としてキュポラ或いは電気炉によって溶解された元湯に、金属Mg等の黒鉛球状化剤を添加して、C:3?4質量%(以下「%」と記す)、Si:2?3%、Mn:0.2?0.5%、Mg:0.01?0.06%を含有するダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製し、これを遠心鋳造機等の鋳造設備によって鋳造することで製造されている(例えば、特許文献1参照)。この場合に、黒鉛球状化剤である金属Mg、Si、希土類金属等の添加歩留まりを向上させるため、元湯には黒鉛球状化剤が添加される前に必要に応じて脱硫処理が施されている。
【0004】
溶解炉で溶解された元湯をダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製する際には、通常、溶解炉で溶解された元湯を一旦保持炉に装入し、保持炉で貯留・滞留させて温度や成分等を均質化させた後に保持炉から所定量の元湯を取鍋に装入し、取鍋内で黒鉛球状化剤を添加する、或いは取鍋内の元湯を分湯して分湯した元湯に黒鉛球状化剤を添加した後に元湯と併せることによって黒鉛球状化処理が行われており、従来、元湯を収容した取鍋及び黒鉛球状化処理が施された後の溶湯を収容した取鍋は、クレーンやホイスト等によって吊り上げられて、保持炉や黒鉛球状化処理装置の間を搬送されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平6-246415号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
クレーンやホイストは、製鉄業や金属加工業では重量物の搬送手段として、広く且つ一般的に使用されている。そして、空中を搬送ルートとしているため、特別の搬送ルートを設ける必要がないと云う利点を有している。
【0007】
しかしながら、溶湯の収容された取鍋をクレーンで搬送する場合には、万が一の場合を踏まえ、通常、搬送ルート直下には他の製造用設備は配置されることがない。従って、搬送ルート直下に相当する場所、並びに万が一の場合に影響を受けると予想される場所は、空けた状態とする必要があり、工場敷地の有効活用の観点からは、優れた搬送手段とは云い難い。
【0008】
又、クレーンやホイストを用いて搬送する際には、クレーン又はホイストを運転する操作員が必要であると同時に、地上ではクレーンフックの状況等を確認する玉掛け操作員が必要となる。この場合、稼働率の高いクレーンでは、操作員が常時クレーンに搭乗してクレーンを運転する必要があるが、稼働率が高いクレーンと云えども、作業の空き時間が必ず発生し、クレーンに搭乗した操作員はその期間待機することになる。尚、現在、クレーン運転の無人化が推進されてはいるが、溶湯を収容した取鍋のクレーンによる搬送作業は、重大事故を防止する観点から未だ無人化には至っていない。
【0009】
このように、従来、保持炉から黒鉛球状化処理装置を経て、元湯からダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する際に、溶湯はクレーン等の吊り上げ手段を有する搬送装置によって搬送されているため、搬送装置を運転する専用の操作員を必要とすると共に、作業の都度に玉掛け操作員の指示・合図を必要としており、労働生産性が必ずしも高い作業であるとは云い難く、ダクタイル鋳物の製造コストを上昇させる一つの要因であった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ダクタイル鋳鉄管等のダクタイル鋳物を製造する際に、保持炉で貯留・滞留された元湯を取鍋に受け、次いで、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置に搬送してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製し、更に、必要に応じて取鍋内のスラグを除去するまでの工程において、極めて少ない操作員で、取鍋の移動及び黒鉛球状化処理を行うことが可能である、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための第1の発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備は、溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられることを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備は、溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と、保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と、取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と、黒鉛球状化処理終了後に取鍋内のスラグを取鍋から排出する排滓処理装置と、を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって、前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置と前記排滓処理装置との間には、取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と、取鍋を移動させる取鍋移送手段と、が設置されており、前記取鍋は、前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し、吊り上げられることなく、前記搬送台車、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置及び排滓処理装置へ移動させられることを特徴とするものである。
【0013】
第3の発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備は、第1又は第2の発明において、前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段は、ローラーが回転することによってローラー上に搭載された取鍋を移動させるローラーテーブル方式であることを特徴とするものである。
【0014】
第4の発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記搬送台車は1つの直線上を走行し、前記取鍋移送手段は、その取鍋の移動方向が当該搬送台車の走行方向に対して実質的に直行する方向に設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
第5の発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記搬送台車は、レーザーセンサーによって、その位置が検出されることを特徴とするものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1?図6は、本発明の実施の形態例を示す図であって、図1は、本発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備の全体構成を示す平面概略図、図2及び図3は、図1に示す搬送台車5の拡大図であって、図2が側面図で図3が平面図、図4及び図5は、図1に示すローラーテーブル9の拡大図であって、図4が側面図で図5が平面図、図6は、図1に示す排滓処理装置11の概略側面図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態におけるダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備では、保持炉1と、取鍋7内にMg等の黒鉛球状化剤を添加するための、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置8と、取鍋7内のスラグを排出するための排滓処理装置11とが水平方向に並んで配置されており、そして、これらの装置に沿ってほぼ直線状に伸びる一対のレール6,6が配置され、このレール6,6上に、その上を走行する搬送台車4が配置されている。
【0019】
尚、保持炉1とは、キュポラや電気炉等の溶解炉(図示せず)で溶解された元湯(溶融鋳鉄)を、遠心鋳造機等の鋳造設備で鋳造される前に一旦収容する容器であり、内壁が耐火物で構成され、低周波誘導等によって収容された元湯を加熱することが可能な炉である。黒鉛球状化処理装置8は、元湯に黒鉛球状化剤を添加して元湯中の黒鉛を球状化し、元湯からダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する装置であり、黒鉛球状化剤として、純Mg、Fe-Si-Mg合金、Ni-Mg合金、Cu-Mg合金、希土類金属等を用い、置注ぎ法、蓋付取鍋添加法、プランジャ法、圧力添加法、ワイヤーフィーダー法等の適宜の添加手段によって添加する装置であり、本実施の形態例では、純Mgが内装され、外部を鋼板で被覆した鉄被覆Mgワイヤーを、ワイヤーフィーダー法によって取鍋7内の元湯に添加する方法を用いている。又、排滓処理装置11は、溶製されたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄上に浮遊するスラグを除去して、鋳造されるダクタイル鋳物の品質を高める装置であり、本実施の形態例では、取鍋7を傾斜させた状態として、排滓ステーション13で滓ポット12内にスラグを排出する方法を用いている。
【0020】
保持炉1とレール6との間には、取鍋7を移動するための取鍋移送手段として、搬送台車4の走行方向に対して直交する方向に、ローラーテーブル2及びローラーテーブル3が配置され、同様に、黒鉛球状化処理装置8とレール6との間には、ローラーテーブル9及びローラーテーブル10が配置され、又、排滓処理装置11とレール6との間には、ローラーテーブル14が配置されている。搬送台車4には、搬送台車4上で、搬送台車4の走行方向に対して直交する方向に取鍋7を移動させるための取鍋移動手段として、ローラーテーブル5が設置されている。
【0021】
このローラーテーブル5は、図2及び図3に示すように、中央部が凹部形状の複数個のローラー19が、搬送台車4に取り付けられた軸受22によって回転自在に保持され、縦方向に並んで2列配置された構成であり、各ローラー19は、搬送台車4に取り付けられたローラー駆動電動機23によって、減速機24及び伝達機24Aを介して回転可能に設置されている。取鍋7は、取鍋7の底面に配置した一対のレール25をローラー19の凹部に乗せた状態でローラーテーブル5に支持され、ローラー19が回転することによってローラー19上を移動するようになっている。ローラーテーブル5には、取鍋7が移動しないように固定するためのストッパー(図示せず)が設置されていると共に、取鍋7の位置を検出するためのリミットスイッチ(図示せず)が複数設置されている。
【0022】
搬送台車4には台車駆動電動機21が取り付けられており、台車駆動電動機21の作動により、レール6上の車輪20が回転して搬送台車4が走行する。レール6の延長線上には、搬送台車4の全経路に渡って搬送台車4に向かってレーザー光を発信し、搬送台車4からの反射レーザー光を受信するレーザーセンサー33が設置されており、搬送台車4の所在位置は、レーザーセンサー33によって常時監視されるようになっている。レーザーセンサー33によって所在位置を監視することにより、±10mm以下の高い精度で位置検出ができるうえに、測定原理上、原点補償を行う必要がなく、どの位置にあっても、又、計測途中で何らかのトラブルが発生して計測が一旦遮断した場合でも復帰後直ちに位置検出が可能であり、搬送台車4の位置検出手段としては極めて好ましい。これに対してリミットスイッチの場合には、計測途中で何らかのトラブルが発生して計測が一旦遮断した際には、一旦原点に戻って補償する必要があり、測定が煩雑になる。
【0023】
ローラーテーブル2,3,9,10,14の構成を、図4及び図5に示すローラーテーブル9の例で説明する。図4及び図5に示すように、ローラーテーブル9は、架台27によって基礎32に固定されており、ローラーテーブル9の構成は、前述した搬送台車4のローラーテーブル5と実質的に同一である。即ち、中央部が凹部形状の複数個のローラー19が、軸受22によって回転自在に保持され、縦方向に並んで2列配置された構成であり、各ローラー19は、ローラー駆動電動機23によって、減速機24及び伝達機24Aを介して回転可能に設置されている。取鍋7は、その底部に設けた一対のレール25をローラー19の凹部に乗せた状態で支持され、ローラー19が回転することによってローラー19上を移動するようになっている。又、ローラーテーブル9には、取鍋7の位置を検出するためのリミットスイッチ(図示せず)が複数設置されている。このように、ローラーテーブル9の構造は、搬送台車4のローラーテーブル5の構造と実質的に同一となっているが、これは、取鍋7が搬送台車4とローラーテーブル2,3,9,10,14との間を行き来するので、その支持方法及び移動方法が搬送台車4とローラーテーブル2,3,9,10,14とで同一になっているためである。
【0024】
ローラーテーブル2,3,10の構成は、ローラーテーブル9の構成と実質的に同一であるが、ローラーテーブル2には、取鍋7の質量や取鍋7内の溶湯質量を測定するためのロードセル(図示せず)が設けられている。ロードセルの設置位置は、例えばローラーテーブル2と架台との間の適宜の位置に設置すればよい。又、ローラーテーブル3には、ローラーテーブル3自体を昇降させる昇降装置(図示せず)が設置されているが、これは、搬送台車4の高さ位置と保持炉1から受湯するローラーテーブル2の高さ位置が異なるために、その差を調整するためのものであり、本発明において特に必要とするものではない。昇降装置は、電動機や圧力シリンダー等を用いた慣用の装置でよい。ローラーテーブル10はローラーテーブル9と実質的に同一である。このように、ローラーテーブル2,3,10はローラーテーブル9と類似しているが、取鍋7のオーバーラン防止板や取鍋7を固定するストッパーは、その目的とする位置に設置されており、従って、その位置は各ローラーテーブルで異なっている。
【0025】
ローラーテーブル14の構成も、取鍋7を移動させる構成は上記構成と実質的に同一であるが、ローラーテーブル14は、排滓処理のために、ローラーテーブル14自体が傾動可能な構成になっている。即ち、図6に示すように、基礎32に基台28が取り付けられており、この基台28に油圧シリンダー29が取り付けられ、この油圧シリンダー29のロッド29aが、基台28に設置された傾動軸31に回転可能として取り付けられた傾動用アーム30に連結されている。ローラーテーブル14は傾動用アーム30と一体的に構成されており、従って、油圧シリンダー29を作動させてロッド29aを伸長させ、傾動用アーム30を傾動させることにより、図中破線で示すように、ローラーテーブル14が傾動して、ローラーテーブル14上に固定された取鍋7が、滓ポット12側に傾斜するようになっている。
【0026】
更に、図1に示すように、本実施の形態では、排滓処理装置11で排滓処理された取鍋7を、遠心鋳造機(図示せず)等の鋳造設備の設置された別棟へ搬送するための棟越搬送台車15が設置されている。棟越搬送台車15にも、搬送台車4と同様に、取鍋7をその上で移動させるためのローラーテーブル16が設置されており、このローラーテーブル16の構成は、搭載した取鍋7の移動方向が棟越搬送台車15の走行方向と同一である点以外は、搬送台車4に取り付けられたローラーテーブル5の構成と同一である。棟越搬送台車15が走行するレール17の延長線上には、棟越搬送台車15の全経路に渡って棟越搬送台車15に向かってレーザー光を発信し、棟越搬送台車15からの反射レーザー光を受信するレーザーセンサー34が設置されており、棟越搬送台車15の所在位置は、レーザーセンサー34によって常時監視されるようになっている。尚、本発明においては、棟越搬送台車15は必ずしも必要ではなく、排滓処理後クレーン等を用いて取鍋7を遠心鋳造機等の鋳造設備まで搬送してもよい。
【0027】
このような構成のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備を用いて、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する方法を以下に説明する。
【0028】
鉄スクラップ等の鉄源とコークス等の炭材とを原料として、キュポラ或いは電気炉等の溶解炉で元湯(溶融鋳鉄)を溶解し、更に、必要に応じて脱硫処理して得られた元湯を一旦保持炉1に収容する。通常、溶解炉と保持炉1との間には、元湯の通過する湯道(図示せず)が設置されており、元湯は連続的に或いは間歇的に溶解炉から保持炉1に供給される。通常、湯道には脱硫装置が設置されている。
【0029】
空の取鍋7をローラーテーブル2上で待機させておき、保持炉1を傾動させ、注湯樋18を介して元湯を取鍋7内に注湯する。ローラーテーブル2に設置されたロードセルによって受湯量を監視し、所定量の元湯が注湯されたなら、保持炉1を水平に起こし、保持炉1からの注湯を停止させる。この状態で、搬送台車及びローラーテーブルの運転を監視する総合制御盤(図示せず)に受湯完了の信号を入力する。以降、取鍋7は、排滓処理装置11に設置したローラーテーブル14に搭載されるまで、総合制御盤によって自動的に移動する構成になっている。
【0030】
受湯完了信号が入力されると、ローラーテーブル2及びローラーテーブル3は自動的に運転し、元湯を収容した取鍋7はローラーテーブル2からローラーテーブル3へ搬送され、ローラーテーブル3で一旦停止し、搬送台車4の高さ位置まで上昇する。この間、搬送台車4は、ローラーテーブル3の前面所定位置に自動的に移動しており、搬送台車4の高さ位置まで上昇された取鍋7は、ローラーテーブル3から搬送台車4上に自動的に移動される。
【0031】
取鍋7が搬送台車4に搭載され、搬送台車4上の所定位置に固定されると、搬送台車4はローラーテーブル9の前面位置まで自動的に走行し、所定の位置で停止する。搬送台車4が所定の位置で停止すると、搬送台車4のローラーテーブル5、ローラーテーブル9及びローラーテーブル10は自動的に運転し、取鍋7はローラーテーブル5からローラーテーブル10へと搬送され、ローラーテーブル10上の所定位置で固定される。取鍋7がローラーテーブル10上の所定位置で固定されたなら、黒鉛球状化処理装置8として設置したワイヤーフィーダー装置によって鉄被覆Mgワイヤーが取鍋7内の元湯に供給され、元湯はダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製される。この鉄被覆Mgワイヤーの供給は、総合制御盤に予め入力された元湯の質量、Mg添加基準量及び歩留り等に基づき、総合制御盤によって自動的に行われる。
【0032】
所定量の鉄被覆Mgワイヤーが添加され、Mgによる黒鉛球状化処理が終了したならば、ローラーテーブル9、ローラーテーブル10、及び搬送台車4のローラーテーブル5が自動的に運転し、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を収容した取鍋7は搬送台車4上に再度搬送される。取鍋7が搬送台車4上の所定位置に固定されると、搬送台車4はローラーテーブル14の前面位置まで自動的に走行し、所定の位置で停止する。搬送台車4が所定の位置で停止すると、ローラーテーブル5及びローラーテーブル14が自動的に運転し、取鍋7はローラーテーブル5からローラーテーブル14へと搬送され、ローラーテーブル14上の所定位置で固定される。
【0033】
取鍋7がローラーテーブル14上の所定位置で固定されたことを確認した後、油圧シリンダー29を作動させて取鍋7を傾動し、所定の傾斜角度で保持する。この状態で排滓ステーション13において排滓冶具を用いて取鍋7内のスラグを滓ポット12内に排出する。排滓処理作業が終了したならば、油圧シリンダー29を作動させて取鍋7を水平状態に戻し、予めローラーテーブル14の前面位置に待機させた棟越搬送台車15上に取鍋7を移動させる。
【0034】
取鍋7が棟越搬送台車15に移動し、棟越搬送台車15上の所定位置に固定されたなら、棟越搬送台車15を走行させて取鍋7を遠心鋳造機等の鋳造設備が設置された別棟へ搬送する。鋳造設備における鋳造の際に、取鍋7をクレーン等で吊り上げる必要がある場合には、取鍋7に設置したトラニオン26をクレーン等のフックに直接掛ける、或いはトラニオン26に吊り具を取り付け、取り付けた吊り具をフックに掛ける等によって吊り上げることができる。鋳造された後の空の取鍋7は、棟越搬送台車15、搬送台車4、ローラーテーブル3、ローラーテーブル2の順に搬送され、保持炉1の直下で待機する。
【0035】
以上説明したように、上記構成のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備を用いることにより、保持炉1で貯留・滞留された元湯を取鍋7に受け、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置8に搬送してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製し、次いで、排滓処理装置11に搬送して取鍋7内のスラグを排出し、その後、このダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を遠心鋳造機等の鋳造設備の配置された場所に搬送するまでの工程において、取鍋7をクレーン等によって吊り上げることがないため、ほとんどの作業を自動運転で行うことが可能となり、省力化並びに省力化に伴う生産性の向上が達成される。
【0036】
尚、本発明は上記実施の形態例に限るものではなく、種々の変更が可能である。例えば、保持炉1と黒鉛球状化処理装置8と排滓処理装置11とが横方向に並んで配置されているが、並ぶ必要性はなく、向かい合っていてもよく、又、保持炉1は1基に限らず複数基であってもよい。更に、ローラーテーブルの構成は、取鍋7を移送できる装置である限り、どのような構成としてもよい。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、ダクタイル鋳物を製造する際に、保持炉で貯留・滞留された元湯を取鍋に受け、次いで、ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置に搬送してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製し、更に、必要に応じて取鍋内のスラグを除去するまでの工程において、取鍋をクレーン等によって吊り上げる必要性がないため、ほとんどの作業を自動化することが可能となり、極めて少ない操作員で一連の作業に対処することが可能となる。その結果、省力化並びに省力化に伴う生産性の向上が達成され、工業上有益な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態例を示す図であって、本発明に係るダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備の全体構成を示す平面概略図である。
【図2】図1に示す搬送台車の側面拡大図である。
【図3】図1に示す搬送台車の平面拡大図である。
【図4】図1に示すローラーテーブルの側面拡大図である。
【図5】図1に示すローラーテーブルの平面拡大図である。
【図6】図1に示す排滓処理装置の概略側面図である。
【符号の説明】
1 保持炉
2 ローラーテーブル
3 ローラーテーブル
4 搬送台車
5 ローラーテーブル
6 レール
7 取鍋
8 黒鉛球状化処理装置
9 ローラーテーブル
10 ローラーテーブル
11 排滓処理装置
12 滓ポット
13 排滓ステーション
14 ローラーテーブル
15 棟越搬送台車
16 ローラーテーブル
17 レール
18 注湯樋
19 ローラー
20 車輪
21 台車駆動電動機
22 軸受
23 ローラー駆動電動機
24 減速機
25 レール
26 トラニオン
27 架台
28 基台
29 油圧シリンダー
30 傾動用アーム
31 傾動軸
32 基礎
33 レーザーセンサー
34 レーザーセンサー
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-01-07 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願2002-334665(P2002-334665)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 孔一  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 大橋 賢一
植前 充司
登録日 2005-06-10 
登録番号 特許第3685781号(P3685781)
発明の名称 ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備  
代理人 白銀 博  
代理人 山崎 行造  
代理人 内藤 忠雄  
代理人 石橋 良規  
代理人 石橋 良規  
代理人 石川 泰男  
代理人 石川 泰男  

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