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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1253823
審判番号 不服2010-6536  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-29 
確定日 2012-03-15 
事件の表示 特願2000- 71903「化粧材」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月25日出願公開、特開2001-260300〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 出願の経緯
本願は、平成12年3月15日の出願であって、平成21年12月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月29日に拒絶査定を不服として審判請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成21年9月28日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「架橋性樹脂の架橋物からなるバインダーと該架橋性樹脂の架橋物よりも高硬度の粒子とを含有する塗工組成物から形成された耐摩耗性樹脂層が、基材の表面に設けられ、耐摩耗性樹脂層の平均膜厚をtとし、粒子の平均粒径をdとした場合、下記(1)式を満足する化粧材であって、前記粒子がWadellの実用球状度が0.80?0.97である、表面がシランカップリング剤で処理されてなる無機粒子であると共に、前記耐摩耗性樹脂層が平均架橋間分子量が300?700である架橋密度であることを特徴とする耐摩耗性を有する化粧材。
d≦t・・・・・・・・・・(1)」

3 引用発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特許第2740943号公報(以下、「引用例」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】 架橋性樹脂からなるバインダーと該架橋性樹脂よりも高硬度の球状粒子とを含有する塗工組成物から形成された耐摩耗性樹脂層が、基材の表面に設けられ、耐摩耗性樹脂層の平均膜厚をt(mm)とし、球状粒子の平均粒径をd(mm)とした場合、下記の(1)式を満足することを特徴とする耐摩耗性を有する化粧材。
0.3t≦d≦2.0t・・・・・・・・・・(1)」

(2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建築物の床面、壁面、天井等の内装、家具ならびに各種キャビネットなどの表面装飾用材料として用いられる化粧材に関し、特に表面の耐摩耗性が要求される用途に使用される化粧材に関する。」

(3)「【0010】球状粒子5は、真球状、あるいは球を偏平にした楕円球状ならびに該真球や楕円球状に近い形状等のように、表面が滑らかな曲面で囲まれていればよい。球状粒子5は、特に粒子表面に突起や角のない、いわゆるカッティングエッジのない球状が好ましい。球状粒子は同じ材質の不定形の粒子と比較して、表面樹脂層それ自身の耐摩耗性を大きく向上させると共に、塗工装置を摩耗させず、塗膜の硬化後もこれと接する他の物を摩耗させず、更に塗膜の透明度も高くなるという特徴があり、カッティングエッジがない場合特にその効果が大きい。」

(4)「【0014】球状粒子5の材質は架橋性樹脂よりも高硬度であればよく、無機粒子及び有機樹脂粒子のいずれも用いることができる。」

(5)「【0018】球状粒子5はその粒子表面を処理することができる。例えば・・・表面をシランカップリング剤で処理することで、バインダーとして使用する架橋性樹脂との間の密着性や塗工組成物中での粒子の分散性が向上する。」

(6)「【0025】本発明において、耐摩耗性樹脂層3を基材2の表面に形成するためのバインダーとして用いる架橋性樹脂4は、・・・、未架橋状態で球状粒子を分散させて塗工した後、架橋させ、硬化させて塗膜は完成される。
【0026】架橋性樹脂は、その架橋密度が高くなるほど耐摩耗性は向上するが、柔軟性は低下する。・・・。架橋密度は例えば下記の数2の式に示す平均架橋間分子量で表すことができる。
【0027】
【数2】平均架橋間分子量=全体の分子量/架橋点の数
但し、全体の分子量は、Σ(各成分の配合モル数×各成分の分子量)であり、架橋点の数は、Σ[{(各成分の官能基数-1)×2}×各成分のモル数]である。
【0028】・・・柔軟性を有する基材を用いた場合には平均架橋間分子量が300?700のものを用いるのが更に好ましく、上記範囲であれば柔軟性及び耐摩耗性ともに良好な化粧材が得られる。」

以上の記載事項によると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「架橋性樹脂からなるバインダーと該架橋性樹脂よりも高硬度の球状粒子とを含有する塗工組成物から形成された耐摩耗性樹脂層が、基材の表面に設けられ、耐摩耗性樹脂層の平均膜厚をt(mm)とし、球状粒子の平均粒径をd(mm)とした場合、下記の(1)式を満足することを特徴とする耐摩耗性を有する化粧材であって、前記球状粒子は、表面がシランカップリング剤で処理されてなる無機粒子であると共に、前記架橋性樹脂が平均架橋間分子量が300?700である架橋密度である耐摩耗性を有する化粧材。
0.3t≦d≦2.0t・・・・・・・・・・(1)」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「架橋性樹脂からなるバインダーと該架橋性樹脂よりも高硬度の球状粒子とを含有する塗工組成物から形成された耐摩耗性樹脂層」は、上記「3(6)」のとおり、未架橋状態の架橋性樹脂に球状粒子を分散させて塗工した後、架橋させ、硬化させて完成されるものだから、本願発明における「架橋性樹脂の架橋物からなるバインダーと該架橋性樹脂の架橋物よりも高硬度の粒子とを含有する塗工組成物から形成された耐摩耗性樹脂層」に対応し、
耐摩耗性樹脂層の平均膜厚t(mm)と、球状粒子の平均粒径d(mm)の関係について、引用発明における範囲「0.3t≦d≦2.0t」における下限値「0.3t」は、本願発明における範囲「d≦t」に含まれる。
したがって、両者は

「架橋性樹脂の架橋物からなるバインダーと該架橋性樹脂の架橋物よりも高硬度の粒子とを含有する塗工組成物から形成された耐摩耗性樹脂層が、基材の表面に設けられ、耐摩耗性樹脂層の平均膜厚をtとし、粒子の平均粒径をdとした場合、下記(1)式を満足する化粧材であって、前記粒子が、表面がシランカップリング剤で処理されてなる無機粒子であると共に、前記耐摩耗性樹脂層が平均架橋間分子量が300?700である架橋密度である耐摩耗性を有する化粧材。
d≦t・・・・・・・・・・(1)」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明に係る粒子は、Wadellの実用球状度が0.80?0.97である点。

5 判断
上記相違点について検討する。
引用発明における「球状粒子」とは、上記「3(3)」のとおり、真球状、あるいは球を偏平にした楕円球状ならびに該真球や楕円球状に近い形状等のように、表面が滑らかな曲面で囲まれていればよいものである。
また、引用例には、上記「3(3)」のとおり、不定形粒子に比べ、球状粒子は滑らかな表面を有し、該粒子の表面を接触物がすべり易く、応力が分散されることが記載されている。
そして、球状粒子において、真球状、すなわちより真球に近い粒子の方が、より滑らかな表面を有し、より応力を分散し得ることは、本願出願時における技術常識であり、また、「真球状」の粒子のWadellの実用球状度が0.80より大きい値となることも、本願出願時における技術常識である。
さらに、本願発明は、「Wadellの実用球状度」を「0.80?0.97」であると特定するものであるが、本願明細書の段落【0068】?【0070】(実施例4?5)には、Wadellの実用球状度が0.65である不定形アルミナ(平均粒径d=20μm)を用いた場合にも、手触り感が良好で、Wadellの実用球状度が0.80である球状α-アルミナ(平均粒径d=18μm)を用いた実施例3(段落【0067】)と同程度の耐摩耗性を有することが記載されていることから、本願発明における粒子のWadellの実用球状度の下限値である「0.80」に、臨界的意義は認められず、また、その上限値については、生産性を考慮して適宜決定し得るものであることは、本願出願時における技術常識であるから、本願発明における上限値「0.97」にも臨界的意義は認められない。
したがって、引用発明における「球状粒子」として、より真球に近い粒子、すなわちWadellの実用球状度が0.80より大きく0.97より小さい球状粒子を採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、その効果も当業者が予測できる範囲のものである。

なお、請求人は審判請求書の3ページ16?23行において、「本願発明は、球状無機粒子の球状度を限定することにより、・・・引用文献2、3の効果を凌駕する優れた効果を奏するものであり、これにより発明に至ったものであります。」と主張しているが、本願の請求項1には、「粒子」が「球状」であるとは明記されておらず、また、例えば、粒子の投影像が正方形である粒子のWadellの実用球状度は0.80であるように、Wadellの実用球状度は粒子形状が球に近いことを表す値ではないことは、本願出願時の技術常識から明らかであることから、「球状無機粒子の球状度を限定する」とする請求人の主張は失当である。

6 むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-11 
結審通知日 2012-01-19 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2000-71903(P2000-71903)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 瀬良 聡機
一ノ瀬 薫
発明の名称 化粧材  
代理人 金山 聡  

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