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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1253854
審判番号 不服2011-3546  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-17 
確定日 2012-03-15 
事件の表示 特願2005-43382「車両用クラッチレリーズ軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成18年8月31日出願公開、特開2006-226478〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年2月21日の出願であって、平成22年11月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年2月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成23年2月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年2月17日付けの手続補正を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
互いに同心的に配置されかつ相対回転する内輪及び外輪と、両輪間を転動する転動体であるボールと、前記ボールを保持する保持器と、前記外輪の内周面に取り付けられた接触型のシール部材とを含み、前記外輪は、円筒状の外輪本体と、該外輪本体と一体であり、該外輪本体の一端から半径方向内方に延在する外輪フランジ部とからなり、前記内輪が入力部材より力を受けガイド軸に沿って移動することによって、回転する前記外輪の前記外輪フランジ部がクラッチ装置の回転部材に当接するようになっている車両用クラッチレリーズ軸受であって、
前記外輪は、内周面に形成した前記転動体が転動する軌道面と、前記軌道面を挟んで前記外輪フランジ部の反対側に形成した前記シール部材を組み付けるための溝と、前記軌道面と前記溝との間において前記軌道面に隣接して外径側にくぼんでおり且つ周方向に連続している超仕上げ時に砥石と前記外輪フランジ部との干渉を避けるための逃がし部とを有し、さらに、前記溝と前記逃がし部との間には、半径方向内方に延在する短フランジ部が形成されていることを特微とする車両用クラッチレリーズ軸受。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
互いに同心的に配置されかつ相対回転する内輪及び外輪と、両輪間を転動する転動体であるボールと、前記ボールを保持する保持器と、前記外輪の内周面に取り付けられた接触型のシール部材とを含み、前記外輪は、円筒状の外輪本体と、該外輪本体と一体であり、該外輪本体の一端から半径方向内方に延在する外輪フランジ部とからなり、前記内輪が入力部材より力を受けガイド軸に沿って移動することによって、回転する前記外輪の前記外輪フランジ部がクラッチ装置の回転部材に当接するようになっている車両用クラッチレリーズ軸受であって、
前記外輪は、内周面に形成した前記転動体が転動する軌道面と、前記軌道面を挟んで前記外輪フランジ部の反対側に形成した前記シール部材を組み付けるための溝と、前記軌道面と前記溝との間において前記軌道面に隣接して外径側にくぼんでおり且つ周方向に連続している超仕上げ時に砥石と前記外輪フランジ部との干渉を避けるための逃がし部とを有し、さらに、前記溝と前記逃がし部との間には、前記シール部材を組み付けるための溝の深さを確保するために半径方向内方に延在する短フランジ部が形成されていることを特微とする車両用クラッチレリーズ軸受。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「短フランジ部」に関し、「半径方向内方に延在する」を「前記シール部材を組み付けるための溝の深さを確保するために半径方向内方に延在する」とその構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「シール組付用の溝11fに隣接して短フランジ部11hを設けることで、溝11fを浅くした場合でも外輪11の肉厚を確保しつつ、シール部材15の固定を確実に行えるようにしている。」(段落【0015】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開昭49-68146号公報
(2)刊行物2:米国特許第4946295号明細書(特許日:1990年8月7日)
(3)刊行物3:実願昭52-147803号(実開昭54-73442号)のマイクロフィルム

(刊行物1)
刊行物1には、「軸受組立体」に関して、図面(特に、Fig.1?4を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、拗音及び促音は小書きで表記した。
(a)「本発明は新しい軸受組立体に広く関係するものである。更に特に本発明は軸受組立体の予荷重と気密とに、特殊な方法で働く特殊シール体系を有する新しい軸受組立体に関するものである。」(第1頁右下欄第1?4行)
(b)「第1?4図において、本発明の好適実施例であるクラッチゆるめ用軸受組立体10は、一般に内側レース12と、外側レース14と、多数のボールの減摩要素16と、リテイナー即ちかご18と、21に示す第1シール装置と、22に示す第2シール装置とを有していることを示している。24に示す軸受組立体の内部は、適当な軸受グリースで好適に潤滑され、そして軸受組立体10は、たとえば静止している内側レース12から延長された取付用支持フランヂ26を利用して装架される。
第3図は第1シール部材21を更に詳しく示していて、該シール部材は32,34で示す接触面でレース部材14の外側にはりつけられる輪状の環状フランヂ部30を具えている。シール部材21は又、半径方向に向いたフランヂ36を具え、該フランヂ部には可撓縁即ちシール38が適当に取付られ、環状溝39とシール38のシール面40とがシール接触をする。
第4図は第2シール部材22を更に詳しく示していて、該シール部材はレース部材14の内側円周面43に適当にはりつけられる円形フランヂ部42を具えている。シール部材22は又半径方向内方に向いた部分44を具え、該部には相対的に可撓的なシール縁即ちシール46が適当にはりつけられ、レース部材12とシール46のシール面47とが接触している。」(第2頁左上欄第16行?左下欄第2行)
(c)「第5、こゝに現わす軸受組立体の非常に重要な利点としてわかることは、クラッチゆるめ用の軸受組立体においてその軸受組立体が実際に自動車用に使われた場合、自動車クラッチが働いていないために軸受組立体の現実の外力が取除かれている時間はいちゞるしく長い。(中略)本発明はこの発明の軸受組立体が予荷重をかけて、軸受不働時に面損傷をおこす可能性を取去ってあるから、この問題を解決している。(第3頁右上欄第16行?左下欄第11行)
(d)Fig.2から、外側レース14は、軌道面を挟んで外側レース14フランヂ部の反対側に、軌道面に隣接して平坦部を具備していることが看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
互いに同心的に配置されかつ相対回転する内側レース12及び外側レース14と、内側レース12及び外側レース14間を転動する転動体であるボール16と、前記ボール16を保持するかご18と、前記外側レース14の外周面に取り付けられた接触型の第1シール装置21とを含み、前記外側レース14は、円筒状の外側レース14本体と、該外側レース14本体と一体であり、該外側レース14本体の一端から半径方向内方に延在する外側レース14フランヂ部とからなるクラッチゆるめ用軸受組立体10であって、
前記外側レース14は、内周面に形成した前記ボール16が転動する軌道面と、前記軌道面を挟んで前記外側レース14フランヂ部の反対側に、前記軌道面に隣接して平坦部とを有しているクラッチゆるめ用軸受組立体10。

(刊行物2)
刊行物2には、「情報センサーを備えた軸受」に関して、図面(特に、FIG.1を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。翻訳は当審による仮訳である。
(e)「この発明は、情報センサーを備えた軸受に関する。より具体的には、この発明は、情報センサーを備えたハウジングに搭載されるシール軸受に関する。
フランスの特許第2,574,501号に記載された軸受は、固定リング中の溝に搭載されるシーリング・エレメント上に搭載されるセンサーを備えている。
センサーの位置およびその接続はシールを組み立てるときに決定され、その後には変更できない。これらの条件の下で、センサーおよび接続エレメントは、センサーにより送られる信号を処理する回路の位置と両立しない角度位置をあまりにも頻繁に占有する。
この発明によると、この問題は、センサーが内外輪間の環状空間の中に伸びる環状部分をもつ環状サポート中で支持されるので、解決される。センサーの方向を向いている軸方向延長部を備えているシールが環状空間中のシールを搭載するための円筒状サポートを構成する一方、前記サポートの表面上に環状に分布している開口部が固定リングの環状リングの中に開口し、かつ、開口部を通過して前記溝に入るリテーナにより半径方向に横切られている。
この方法により構築された軸受は、シールの事前分解を行うことなくセンサーを軸方向に脱着することおよび軸受環境の機能としてセンサーを正しく位置づけることを可能にする。
この発明およびその長所は、以下の記述および図面を参照することによりさらによく理解できるであろう。図面の内容は、次のとおりである。
図1は、この発明の好ましい実施態様の部分断面図を示している。
図2は、図1に示した構造の正面図である。
これらの図面を参照する。図1に示した軸受は、外輪1および内輪2をもっている。これらは、要求に応じて、軸受の用途に従って固定することも、回転するようにすることもできる。
外輪1および内輪2は、保持器4中に支持されているボール3のための軌道面をもっている。それは、これらのボールを適切な角度かつ適切な位置に保持する。
この発明のこの実施態様では固定されるものとされる外輪1は、支持面5およびセンサー8を保持する環状部材17を搭載するための溝6をもっている。
環状部材18の軸部分7は、シール10の芯金9に対向している軸方向開口部をもっている。図に示すように、芯金9は、センサー8に向かって軸方向に伸びる部分をもち、かつ、それにより外輪1および内輪2を分け隔てている環状空間12中のシールのための円筒状の接触面11を与えている。
シールの接触面11が接している外輪1の内側表面は、溝6および溝13を備えている。溝13には、芯金9に取付けられたパッキン14が嵌められている。
芯金9の接触面11は、円周方向に離隔配置されている複数の穴15をもっている。これらの穴は、溝6に通じている。
センサー8は、軸部分7により適切な角度に調整され、かつ、適切な位置に保持される。
軸部分は、このために、半径方向に穴15経由で伸びて溝6に達する抜け止めピン16を備えている。一例として、センサー8は、エンコーダ19からの磁界を検知するために使用できる。
延長部7の壁中に長手方向の切り込みを作り、その結果の区間の一端を半径方向の外側に向けて曲げることにより作成される舌片により、ピン16を形成する。各ピン16は、斜面17を備えている。延長部が環状空間12に挿入されたとき、斜面17の働きによりピン16は半径方向に曲がる。
図1から分かるように、延長部7の端部20の表面(それは、軸受の内部に面している)は、芯金9またはシール10のパッキン14に軸方向の予荷重を加える。この予荷重は、芯金9またはパッキン14を外輪1の肩部21に平らに押し当てる働きをする。シール10を構成している材料の柔軟性も延長部の表面20に対抗力を及ぼし、その働きによりピン16は溝6の側面を背にして支持される。
環状延長部7は、半径方向突起部22をもっている。これは、センサー8へのリードおよびセンサーにより与えられる情報を伝送するリードを含んでいる。突起部22は、環状サポート18の角度的位置決めも容易にする。この目的のために、ハウジング30の外側面は、突起部22を受ける放射状のノッチをもっている。したがって、シール10の回転は阻止される。」(明細書の第1頁第1欄第4行?第2欄第31行)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「内側レース12」は本願補正発明の「内輪」に相当し、以下同様にして、「外側レース14」は「外輪」に、「内側レース12及び外側レース14」は「両輪」に、「ボール16」は「ボール」に、「かご18」は「保持器」に、「第1シール装置21」は「シール部材」に、「外側レース14フランヂ部」は「外輪フランジ部」に、「クラッチゆるめ用軸受組立体10」は「車両用クラッチレリーズ軸受」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「平坦部」は、「平坦な部分」である限りにおいて、本願補正発明の「逃がし部」にひとまず相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点1?4を有する。
<一致点>
互いに同心的に配置されかつ相対回転する内輪及び外輪と、両輪間を転動する転動体であるボールと、前記ボールを保持する保持器と、前記外輪に取り付けられた接触型のシール部材とを含み、前記外輪は、円筒状の外輪本体と、該外輪本体と一体であり、該外輪本体の一端から半径方向内方に延在する外輪フランジ部とからなる車両用クラッチレリーズ軸受であって、
前記外輪は、内周面に形成した前記転動体が転動する軌道面と、前記軌道面に隣接して平坦な部分とを有している車両用クラッチレリーズ軸受。
(相違点1)
本願補正発明は、「前記内輪が入力部材より力を受けガイド軸に沿って移動することによって、回転する前記外輪の前記外輪フランジ部がクラッチ装置の回転部材に当接するようになっている」のに対し、引用発明は、本願補正発明の構成を具備しているかどうか明らかでない点。
(相違点2)
本願補正発明は、前記接触型のシール部材が、前記外輪の「内周面」に取り付けられ、前記外輪が、「前記軌道面を挟んで前記外輪フランジ部の反対側に形成した前記シール部材を組み付けるための溝」を具備しているのに対し、引用発明は、第1シール装置21が外側レース14の外周面に取り付けられているものの、本願補正発明の構成を具備していない点。
(相違点3)
本願補正発明は、「前記軌道面と前記溝との間において前記軌道面に隣接して外径側にくぼんでおり且つ周方向に連続している超仕上げ時に砥石と前記外輪フランジ部との干渉を避けるための逃がし部とを有し」ているのに対し、引用発明は、軌道面を挟んで外側レース14フランヂ部の反対側に、軌道面に隣接して平坦部とを有しているものの、本願補正発明の構成を具備していない点。
(相違点4)
本願補正発明は、「前記溝と前記逃がし部との間には、前記シール部材を組み付けるための溝の深さを確保するために半径方向内方に延在する短フランジ部が形成されている」のに対し、引用発明は、本願補正発明の構成を具備していない点。
以下、上記相違点1?4について検討する。
(相違点1について)
クラッチレリーズ軸受において、内輪が入力部材より力を受けガイド軸に沿って移動することによって、回転する外輪の外輪フランジ部がクラッチ装置の回転部材に当接するようにすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3の第1及び6図から、自動車用クラッチレリーズ軸受において、インナレース19が入力部材より力を受けガイド軸に沿って移動することによって、回転するアウタレース221の側板235がクラッチ装置のダイヤフラムスプリング46に当接する構成が看取できる。本願明細書の段落【0003】に従来技術として記載された実願昭56-37675号(実開昭57-150628号)のマイクロフィルムの第1図から、内輪3が入力部材より力を受けガイド軸に沿って移動することによって、回転する外輪2のフランジ部22がクラッチ装置のダイヤフラムばね4に当接する構成が看取できる。)にすぎない。
してみれば、引用発明のクラッチゆるめ用軸受組立体10に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものである。
(相違点2について)
クラッチレリーズ軸受軸受において、軌道面を挟んで外輪フランジ部の反対側に形成したシール部材を組み付けるための溝を具備することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3の第6図には、自動車用クラッチレリーズ軸受において、軌道面を挟んで側板235の反対側に形成したシールド板28を組み付けるための溝が図示されている。)にすぎない。
してみれば、引用発明の外側レース14の軌道面に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、軌道面を挟んで外側レース14フランヂ部の反対側に形成したシール部材を組み付けるための溝を設けて、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものである。
(相違点3について)
クラッチレリーズ軸受において、軌道面を砥石により超仕上げ加工することは、従来周知の技術手段(例えば、特開2000-88003号公報には、「上記S-C鋼板の焼入れ品は、熱処理変形が少なく、SCM材浸炭処理品よりも極表層の硬さが低く、かつ均一な断面硬さを有するから、簡単な研削加工(超仕上げ等の他の仕上げ加工も含む)を施すだけで良好な面粗さが得られる。(中略)逆に内輪3aを固定側(側板2に当接する)とし、外輪3bを回転側(ダイヤフラムスプリングに当接する)とする場合も、(中略)上記と同様に外輪3bをS-C鋼板の焼入れ品、内輪3aをSCM鋼板の浸炭処理品とすればよい。」(第4頁第5欄第32?48行、段落【0025】及び【0026】参照)と記載されている。なお、本願明細書の段落【0005】には、「ボールが転動する際、軌道面の微細な凹凸によりボールと軌道面に発生する応力集中を抑えるために、外輪11’の軌道面11d’は、超仕上げ加工により研磨する必要がある。」と記載されている。)にすぎない。
また、引用発明の軌道面を挟んで外側レース14フランヂ部の反対側の軌道面に隣接した平坦部は、刊行物1のFig.2から、(図面上、外側レース14の軌道面の左端部と比較して)外径側にくぼんでおり且つ周方向に連続していることが看取できるから、上記従来周知の技術手段である超仕上げ時に砥石と外側レース14フランヂ部との干渉を避けることが可能な構成となっている。
してみれば、上記(相違点2について)における判断の前提下において、引用発明の外側レース14の軌道面に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、軌道面を砥石により超仕上げ加工するとともに、引用発明の軌道面と溝との間において軌道面を挟んで外側レース14フランヂ部の反対側の軌道面に隣接した平坦部を、外径側にくぼんでおり且つ周方向に連続している超仕上げ時に砥石と外側レース14フランヂ部との干渉を避けるための逃がし部とすることにより、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものである。
ちなみに、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「上記引用文献1(特開昭49-68146号公報)(注:本審決の「刊行物1」に対応する。)には、審査官殿がご指摘のように、『外輪は、円筒伏の外輪本体と、該外輪本体と一体であり、該外輪本体の一端から半径方向内方に延在する外輪フランジ部とからなり、軌道面に隣接して逃がし部を有するクラッチレリーズ軸受』が記載されている。」(【本願が特許されるべき理由】「(c)刊行物の説明」の項を参照)と述べている。
(相違点4について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともにクラッチレリーズ軸受に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、FIG.1とともに、「シールの接触面11が接している外輪1の内側表面は、溝6および溝13を備えている。溝13には、芯金9に取付けられたパッキン14が嵌められている。」(上記摘記事項(e)参照)と記載されている。
上記記載からみて、外輪1の肩部21は、シール10を組み付けるための溝13の深さを確保する機能を有していると認められる。
してみれば、上記(相違点2について)及び(相違点3について)における判断の前提下において、引用発明の外側レース14に、上記刊行物2に記載された技術手段を適用して、溝と逃がし部との間に、シール部材を組み付けるための溝の深さを確保するために半径方向内方に延在する短フランジ部を形成して、上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものである。
本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び従来周知の技術手段が奏する効果以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成23年2月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年6月11日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められる。
「互いに同心的に配置されかつ相対回転する内輪及び外輪と、両輪間を転動する転動体であるボールと、前記ボールを保持する保持器と、前記外輪の内周面に取り付けられた接触型のシール部材とを含み、前記外輪は、円筒状の外輪本体と、該外輪本体と一体であり、該外輪本体の一端から半径方向内方に延在する外輪フランジ部とからなり、前記内輪が入力部材より力を受けガイド軸に沿って移動することによって、回転する前記外輪の前記外輪フランジ部がクラッチ装置の回転部材に当接するようになっている車両用クラッチレリーズ軸受であって、
前記外輪は、内周面に形成した前記転動体が転動する軌道面と、前記軌道面を挟んで前記外輪フランジ部の反対側に形成した前記シール部材を組み付けるための溝と、前記軌道面と前記溝との間において前記軌道面に隣接して外径側にくぼんでおり且つ周方向に連続している超仕上げ時に砥石と前記外輪フランジ部との干渉を避けるための逃がし部とを有し、さらに、前記溝と前記逃がし部との間には、半径方向内方に延在する短フランジ部が形成されていることを特微とする車両用クラッチレリーズ軸受。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「短フランジ部」に関して、「前記シール部材を組み付けるための溝の深さを確保するために半径方向内方に延在する」を、「半径方向内方に延在する」とすることにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成23年9月16日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、「請求項1に対して、・・・補正をする機会を賜りますことを所望いたしております。」と述べるとともに、上記補正の根拠として、「出願当初の図1において、ボール13と、シール部材15とが、その間に保持器14を介在させることなく対峙していることから明らかであるものと思料する。」と述べている。
そこで、念のため、回答書で提示された補正案について一応の判断を示す。
審判請求人が回答書で提示した補正案のように、請求項1に係る発明について、「前記ボールと前記シール部材とは、その間に前記保持器を介在させることなく対峙している」との限定を行ったとしても、車両用クラッチレリーズ軸受において、ボールとシール部材とが、その間に保持器を介在させることなく対峙している構成は、従来周知の技術手段(例えば、特表2001-511240号公報のFIG.2に図示された、車両用クラッチレリーズ軸受において、ボールとシール部材とが、その間に保持器を介在させることなく対峙している構成を参照されたい。)にすぎず、刊行物1に記載された発明に上記従来周知の技術手段の構成を適用して上記補正案のように限定した構成とすることは当業者が容易に想到できたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-10 
結審通知日 2012-01-11 
審決日 2012-02-02 
出願番号 特願2005-43382(P2005-43382)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
所村 陽一
発明の名称 車両用クラッチレリーズ軸受  
代理人 小林 研一  
代理人 田村 敬二郎  

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