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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60H
管理番号 1253858
審判番号 不服2011-6918  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-03 
確定日 2012-03-15 
事件の表示 特願2007-262780号「移動体用冷房装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年4月30日出願公開、特開2009-90793号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年10月6日の出願であって、平成23年1月26日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年1月28日)、これに対し、平成23年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
そして、平成23年7月5日付けで審尋がなされ、それに対して平成23年7月20日に回答書が提出され、さらに、平成23年10月27日付けで拒絶理由通知がなされ、それに対して平成23年11月10日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年4月3日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「移動体の移動によって空気管内に導入された空気流に対して水分による気化冷却を行った後、前記気化冷却された空気管内空気流と移動体室内空気との間の熱交換を行うことによって移動体室内を冷房することを特徴とする移動体用冷房装置。」

第3 引用例
1.当審の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開2003-35460号公報(以下「引用例1」という。)には、「空気調和装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与。以下、同様。)

ア.段落【0012】?【0014】
「【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態を図面により説明する。図1において、車両に搭載される空気調和装置1が示されており、この空気調和装置1は、空気流路2aを形成する空調ケース2の上流側に送風機3を設け、この送風機3の回転によって、図示しないインテーク切替装置を介して、外気又は内気を吸引し、下流側へ圧送するようになっている。
送風機3の下流側には、蒸発器4が配され、この蒸発器4は、冷媒を圧縮する圧縮機5と、この圧縮機5によって圧縮された冷媒を放熱する放熱器6と、冷媒を減圧する膨張弁7などと共に配管結合されて冷凍サイクル8を構成しており、圧縮機5の稼動により冷媒を循環させ、膨張弁7で減圧された冷媒を蒸発器4へ供給し、この蒸発器4を通過する空気を冷却するようになっている。
蒸発器4の下流側には、図示しないヒータコアやヒータコアの通過空気量を調節するエアミックスドアが配置され、蒸発器4及びヒータコアによって温調された空気を、空調ケース2の最下流側に設けられた吹出口から車室へ供給する構成となっている。」
イ.段落【0022】?【0026】
「図4において、この発明に係る空気調和装置の他の構成例がしめされている。この空気調和装置1においては、空調ケース2内の蒸発器4の上流側にドレン蒸発器11が配置され、これら蒸発器4及びドレン蒸発器11の下方には、蒸発器4から発生する凝縮水22を蓄えるドレン貯留槽19がケース2の内側に形成されている。
ドレン蒸発器11は、図5にも示されるように、一対のヘッダ部13,14とこれらヘッダ部を連通する複数のチューブ15とを有して構成されており、一方のヘッダ13に放熱器6に空気流路2aに開口する流入口16が形成され、他方のヘッダ14に空調ケースの外側に開放された流出口17が形成され、これらヘッダ13,14及びチューブ15によって、内部に空調ケース内に導入された空気の一部を通過させる空気通路が形成されている。
また、空調ケース2内には、ドレン貯留槽19に溜められた凝縮水22を吸い上げるポンプ23と、一方のヘッダ(上流側のヘッダ)13内に挿入されてポンプ23で吸い上げた凝縮水をドレン蒸発器11の空気通路に噴霧する噴射ノズル24とが設けられ、これら、凝縮水22を吸い上げるポンプ23と凝縮水を空気通路に噴霧する噴射ノズル24とによって、ドレン貯留槽19に蓄えられた凝縮水22をドレン蒸発器11の空気通路に供給する凝縮水供給手段が構成されている。
尚、25は、ヘッダ13に残留した余剰凝縮水をドレン貯留槽19へ戻すための戻し通路である。また、その他の構成は、前記構成例と同様であるので、同一箇所に同一番号を付して説明を省略する。
このような構成においては、蒸発器4で発生する凝縮水が、ドレン貯留槽19に蓄えられてドレン蒸発器11の空気通路内に供給されるので、この凝縮水は、空気通路に通過する空気により各チューブ15内に分散され、ドレン蒸発器11のフィン間を通過する空気流路2aの空気と熱交換して蒸発し、空調ケース外へ排出されることとなり、凝縮水を蒸発させるために使われる潜熱により、ドレン蒸発器11を通過する空気を冷却させることができるようになる。即ち、蒸発器4によって空気中の水分を凝縮するために捨てていた冷力を、ドレン蒸発器11を通過する空気を冷却するために回収することが可能となり、空気の冷却能力を向上させることができるようになる。」

上記記載を検討する。まず、記載アの「空気調和装置1は・・・インテーク切替装置を介して、外気又は内気を吸引し、下流側へ圧送する」ものであり、空気調和装置1は内気、すなわち、車室内の空気を蒸発器4で冷却して空気調和を行うものということができ、記載イによれば、ドレン蒸発器11も車室内の空気を冷却するものである。
そして、記載イによれば、ドレン蒸発器11へ流入する空気は空調ケース内に導入された空気、すなわち、車室内の空気の一部であり、その空気に凝縮水を噴霧して、凝縮水が蒸発することによる潜熱によりドレン蒸発器11を通過する空気を冷却して、空調ケース外へ排出されるものである。ここで、ドレン蒸発器11による車室内の空気の冷却作用は、次のように理解できる。すなわち、ドレン蒸発器11の空気通路(ヘッダ13)内に噴霧された凝縮水が蒸発することによる潜熱により空気通路(ヘッダ13)内の空気流から熱を奪った後、空気通路(チューブ15)においてドレン蒸発器11を通過する車室内の空気との間の熱交換により、ドレン蒸発器11による車室内の空気の冷却が行われる。

上記記載事項及び認定事項を総合して、ドレン蒸発器11を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「送風機3により空調ケース内に導入された車室内の空気の一部をドレン蒸発器11へ流入し、ドレン蒸発器11の空気通路(ヘッダ13)内に噴霧された凝縮水が蒸発することによる潜熱により空気通路(ヘッダ13)内の空気流から熱を奪った後、空気通路(チューブ15)においてドレン蒸発器11を通過する車室内の空気との間の熱交換を行うことによって車室内の空気を冷却するドレン蒸発器11。」

2.当審の拒絶の理由に引用された刊行物である、再公表特許01/029492号(以下「引用例2」という。)には、「冷却装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.3ページ2?4行
「技術分野
本発明は、水が気化するときに周囲から気化熱を奪うことを利用することにより、少ない消費電力で効率よく対象となる空間を冷却する冷却装置に関する。」
イ.3ページ20行?4ページ12行
「 発明の開示
本発明は、このような技術的背景のもとになされたものであり、その目的は、簡易な構造で、消費電力が少なく、総体的なコストを小さくできる冷却装置を提供することである。
上記の目的を達成するために、第一の発明である冷却装置は、冷却対象空間の上部に配置された空気流通路と、前記空気流通路に空気を流すとともに、前記空気流通路を経た空気を前記冷却対象空間外へ排出する送風手段と、前記空気流通路の下部に設けられ、供給された水を保持するとともに前記空気流通路を流れる空気によって保持している水を気化させる水保持手段と、前記水保持手段の下側にあって水保持手段と熱的に接触するとともに、前記冷却対象空間の空気と接触して冷却対象空間の熱を吸収する吸熱部とを備え、前記空気流通路に空気を流し、前記水保持手段からの水の気化を促進させて前記吸熱部の温度を下げ、その結果、前記冷却対象空間の空気から熱を吸収して冷却対象空間を冷却することを特徴とする。
第二の発明である冷却装置は、第一の発明において、前記水保持手段と吸熱部が一体構造とされていることを特徴とする。
第三の発明である冷却装置は、第一又は第二の発明において、前記空気流通路に流す空気の湿度あるいは温度のうちいずれか一方又は両方を下げる手段を設けたことを特徴とする。
第四の発明である自動車用冷却装置は、第一、第二又は第三の発明に係る冷却装置を自動車に取り付け、前記自動車の車内を冷却対象空間とすることを特徴とする。」
ウ.4ページ21行?5ページ20行
「〔実施形態1〕
実施形態1では、本発明の冷却装置を自動車用の冷房装置として用いる場合を説明する。図1は、実施形態1に係る冷却装置の全体を概略的に示した図、図2は、図1の冷却装置を拡大して示した図である。
本実施形態に係る冷却装置は、図1に示すように、主として、自動車の上部に設けられた空気流通路10及びファン11と、自動車の内部に設けられたタンク12及び給水ポンプ13などから構成されている。空気流通路10は、自動車の屋根でもある上板20と、これと平行に置かれた下板21によって挟まれた空間として形成されている。この空気流通路10の中を、ファン11によって外部から取り入れられた空気が、自動車の前部から後部に向かう方向に流れる。
下板21の表面には、気化シート22が貼り付けられている。気化シート22は、本発明の「水保持手段」に対応する。気化シート22は、水を吸収し易く、かつ拡散し易い繊維状の素材、例えば綿を所定の大きさに裁断したものである。気化シート22には、自動車の内部に設けられたタンク12に蓄えられいる水が供給される。この水は、給水ポンプ13によってタンク12から吸い上げられ、自動車の前部側から滴下するという方法で、気化シート22に供給される。滴下された水は、気化シート22を構成する繊維の毛管現象によって後部側へ拡散し、気化シート22の全体が速やかに湿った状態になる。
この状態で、ファン11を回転させ、空気取入口14から外部の空気を取り込み、そして空気流通路10を流通させると、気化シート22に保持されている水は、空気流通路10内を流れる空気と密に接触する。これにより、図2に示すように、気化シート22に保持されている水の気化が促進され、通常の場合に比べて蒸発量が大幅に増える。なお、空気取入口14を前部に設けたことにより、自動車の走行中は、自動的に外気が空気取入口14から空気流通路10へ流れ込む。従って、自動車の速度に応じて空気取入口14の開度を調節できる手段を設ければ、走行中はファン11を駆動しなくてよい場合もある。一方、走行中に前部に設けられた空気取入口14から導入される空気の量が多すぎて気化シート22が乾燥してしまう場合には、導入される空気が適量となるよう、空気取入口14の向きを横に向けるなどしてもよい。」
エ.6ページ11?27行
「ところで、水は気化するときに、1cc当たり約580カロリーの気化熱を周囲から吸収する。このため、空気流通路10に空気を流し、気化シート22において水を強制的に気化させて蒸発量を増やすと、通常よりも多くの熱が吸収され、気化シート22と接している下板21の温度は急速に低下する。気化した水分は、空気流通路10内を流れる空気とともに、自動車の後部の排気口15から外部へ排出されるので、車内の湿気(絶対湿度)が多くなることはない。
自動車の車内の天井部分には、多数のフィン23が取り付けられている。このフィン23は、下板21とともに本発明の「吸熱部」を構成する。フィン23は、薄くて細長い板状の金属部材からなり、これらが、その長手方向が自動車の進行方向と平行となるように一定間隔をおいて取り付けられている。各フィン23は、前述の下板21と熱伝導率の高い素材を介して熱的に接触している。このため、水の気化によって下板21の温度が下がると、それに伴ってフィン23の温度も下がる。フィン23の後部側には、ファン24が設けられている。このファン24を回転させて、車内の天井部分の空気をフィン23と平行に前部側に向けて流すと、低温のフィン23は空気から熱を吸収し、空気の温度を下げる。冷やされた空気は下降するので、しばらくすると、車内全体の温度が下がる。このようにして、車内を冷房することができる。」

上記記載のア?エを総合すると、「空気流通路10に流れる空気をもって気化シート22およびこれに接している下板21を冷却し、この冷却した下板に熱的に接続しているフィン23を介して車内に伝え、車内の空気から熱を吸収するようにした自動車用冷却装置」が記載されている。また、記載ウの「空気取入口14を前部に設けたことにより、自動車の走行中は、自動的に外気が空気取入口14から空気流通路10へ流れ込む」によれば、自動車の走行により外気が導入され、その導入された外気を利用することが記載されている。

上記記載事項及び認定事項を総合すると、引用例2には、次の事項が記載されている。
「空気流通路10に流れる空気をもって気化シート22およびこれに接している下板21を冷却し、この冷却した下板に熱的に接続しているフィン23を介して車内に伝え、車内の空気から熱を吸収するようにした自動車用冷却装置において、空気流通路10に流れる空気として自動車の走行により導入される外気を用いること。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ドレン蒸発器11の空気通路(ヘッダ13)」は、その内部で凝縮水が蒸発して空気流から熱を奪うとともに、「空気通路(チューブ15)」において、ドレン蒸発器11を通過する車室内の空気との間の熱交換を行うものであるから、引用発明の「空気通路(ヘッダ13)」及び「空気通路(チューブ15)」は、本願発明の「空気管」に相当し、以下同様に、「空気通路(ヘッダ13)内の空気流」は「空気管内空気流」に、「ドレン蒸発器11を通過する車室内の空気」は「移動体室内空気」に相当する。また、引用発明において「ドレン蒸発器11」は車室内の空気を冷却するものであるから、引用発明の「車室内の空気を冷却するドレン蒸発器11」は、本願発明の「移動体室内を冷房する」「移動体用冷房装置」に相当する。
そして、引用発明において「送風機3により空調ケース内に導入された車室内の空気の一部をドレン蒸発器11へ流入し、ドレン蒸発器11の空気通路(ヘッダ13)内に噴霧された凝縮水が蒸発することによる潜熱により空気通路(ヘッダ13)内の空気流から熱を奪」うことは、凝縮水が気化することで空気通路内の空気から熱を奪うのであるから、本願発明の「移動体の移動によって空気管内に導入された空気流に対して水分による気化冷却を行」うことと、「空気管内に導入された空気流に対して水分による気化冷却を行」うことで共通する。

そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「空気管内に導入された空気流に対して水分による気化冷却を行った後、前記気化冷却された空気管内空気流と移動体室内空気との間の熱交換を行うことによって移動体室内を冷房する移動体用冷房装置。」

[相違点]
空気管内に導入された空気流について、本願発明では、「移動体の移動によって空気管内に導入された空気流」であるのに対して、引用発明では、「送風機3により空調ケース内に導入された車室内の空気の一部」である点。

第5 当審の判断
引用例2に記載された事項の「空気流通路10に流れる空気をもって気化シート22およびこれに接している下板21を冷却し、この冷却した下板に熱的に接続しているフィン23を介して車内に伝え、車内の空気から熱を吸収するようにした自動車用冷却装置」は、空気流通路10に流れる空気を利用して車内の空気から熱を吸収するものであるから、引用発明の空気通路(ヘッダ13)及び空気通路(チューブ15)内を流れる空気流を利用して車室内の空気を冷却するものと軌を一にする技術ということができる。しかも、両者はいずれも水が蒸発することによる気化熱を利用する点においても同一の技術分野に属するものである。
してみると、引用発明において空気管内に導入する空気流を送風機3により空調ケース内の導入された車室内の空気の一部に代えて、自動車の走行により導入される外気とすることは、引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明、引用例2に記載された事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。

したがって、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-12 
結審通知日 2012-01-19 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2007-262780(P2007-262780)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 一正  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 長浜 義憲
青木 良憲
発明の名称 移動体用冷房装置  

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