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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G |
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管理番号 | 1253999 |
審判番号 | 不服2010-25989 |
総通号数 | 149 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-17 |
確定日 | 2012-03-14 |
事件の表示 | 特願2005- 94374「蛇行防止ガイド付エンドレスベルト」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日出願公開、特開2006-276387〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成17年3月29日の出願であって、平成22年5月12日付けで通知した拒絶理由に対し、同年7月9日付けで手続補正がなされたが、同年8月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、その後、当審から送付した、審査官により作成された前置報告書の内容についての平成23年3月8日付けの審尋に対して、同年4月26日付けで、当審の審尋に対する回答書が提出され、その後、当審において、同年8月23日付けで通知した拒絶理由に対して、同年10月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであって、「蛇行防止ガイド付エンドレスベルト」に関するものと認める。 第2 当審の拒絶理由通知の概要 平成23年8月23日付けで通知した拒絶理由通知で指摘した事項には、次の点が含まれる。 「第2 本願を特許することができない理由(拒絶理由)について 1.平成22年11月17日付けの手続補正について (略) 2.本願発明について (略) 3.発明の詳細な説明の記載について 本願の特許要件を検討するにあたり、まず、本願発明に関連する発明の詳細な説明の記載について、当審の考えるところを開陳する。 本願の発明の詳細な説明には、「エンドレスベルトが蛇行により破壊する」(【0004】)、「ベルトの駆動に伴う応力集中」(【0006】)という本願発明が解決しようとする課題が記載され、当該課題を解決するための構成として、【0017】には、「ここで、ベルト内面に貼り付ける補強テープの表面動摩擦係数が、0.4以下であることが好ましい。つまり、ベルトの内周面は、ベルト駆動時のロール屈曲部のストレス、ベルト端部に施した蛇行防止用のリブ接着部へのストレス、ベルトエッジ部へのストレス等の応力がかかることから、補強テープとベルト間における動摩擦係数を所定範囲内にすることで、こうした応力を逃がすことが好ましい。本発明では、補強テープの表面動摩擦係数が、0.4以下であることが好ましいことを見出したものである。」と記載されている。 ここで、当該記載における「表面動摩擦係数」と「動摩擦係数」とが、同じ物理指標を指すのかについて、本願は明確でない。 そして、当該記載の「表面動摩擦係数」と「動摩擦係数」とは、「補強テープ」の「表面動摩擦係数」として同じ物理指標を指し、その異なる記載は単なる誤記であるとみられなくもないが、他方、 ・「エンドレスベルト」と「補強テープ」とは、「粘着剤層」を介して貼 り付けられ、配設されているのであるから(【0026】参照)、間に 「粘着剤層」を有する「補強テープとベルト間における動摩擦係数」は 、少なからず粘着剤層」の影響を受けるものであること ・それに対して、「補強テープの表面動摩擦係数」とは、その値を測定す る方法が【0018】に記載されており、相手材として鋼球を用いて「 補強テープ」上を移動させて測定してものであり、他の構成に影響され ない「補強テープ」の「表面」の物理指標を指すものであること から、両者は、全く異なる物理指標を指すものであると解するのが相当である。 したがって、上述の見地に立てば、【0017】の記載は、「ベルト内面に貼り付ける補強テープの表面動摩擦係数」を「0.4以下」とすることにより、その原理・機序等は不明ではあるが、その結果「補強テープとベルト間における動摩擦係数が所定範囲内」となり、発生した「応力を逃がすこと」ができるものとした技術思想を開示するものであるということができる。 4.具体的な拒絶理由について(記載不備) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 本願の発明の詳細な説明には、「エンドレスベルトが蛇行により破壊するという課題に対して、高精度に駆動する耐久寿命の長いエンドレスベルトを提供することを目的とする。」(【0004】参照。)、「ベルトの駆動に伴う応力集中を緩和し、エンドレスベルト本体の破壊を防止する」(【0006】参照。)という本願発明が解決しようとする課題が記載されている。 さらに、前記課題を解決するための構成として、一応、ベルトの内面あるいは内外両面に粘着層または接着層を介して補強テープを配設し、該補強テープ上に粘着層または接着層を介して蛇行防止ガイドを貼り付けて形成された蛇行防止ガイド付エンドレスベルトにおいて、該ベルトの内面に配設された前記補強テープの表面動摩擦係数を0.4以下とする構成が記載されている。(特に、【0010】【0012】【0017】【0026】参照。) また、【0017】には、「ここで、ベルト内面に貼り付ける補強テープの表面動摩擦係数が、0.4以下であることが好ましい。つまり、ベルトの内周面は、ベルト駆動時のロール屈曲部のストレス、ベルト端部に施した蛇行防止用のリブ接着部へのストレス、ベルトエッジ部へのストレス等の応力がかかることから、補強テープとベルト間における動摩擦係数を所定範囲内にすることで、こうした応力を逃がすことが好ましい。本発明では、補強テープの表面動摩擦係数が、0.4以下であることが好ましいことを見出したものである。」と記載されており、当該記載は、「ベルト内面に貼り付ける補強テープの表面動摩擦係数」を「0.4以下」とすることにより、その原理・機序等は不明ではあるが、その結果「補強テープとベルト間における動摩擦係数が所定範囲内」となり、発生した「応力を逃がすこと」ができるとした技術思想を開示するものであるということができる。(上記「第2 3.」を参照。) ここで、本願発明は、「エンドレスベルト」と「補強テープ」とを、「粘着層または接着層」を介して貼り付けられるものであり、「補強テープとベルト間における動摩擦係数」は、少なからず当該「粘着層または接着層」の影響を受けることを考慮すると、その原理・機序等は不明ではあるが、本願発明の「ベルト内面に貼り付ける補強テープの表面動摩擦係数」を「0.4以下」とすることにより、補強テープとベルト間における動摩擦係数を所定範囲内とするものであるということができる。さらに、発生した「応力を逃がす」という本願発明が解決しようとする課題を解決するにあたり、「エンドレスベルト」と「補強テープ」とを貼り付ける「粘着層または接着層」の構成の影響は無視できない。 しかし、請求項1は、「エンドレスベルト」と「補強テープ」とを貼り付けるための「粘着層または接着層」について、その具体的構成を何ら特定していない。すなわち、本願発明は、いかなる「粘着層または接着層」を用いても当該課題が解決されるとは認められない。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、本願発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」 第3 手続補正書、意見書の内容 これに対して、請求人より、平成23年10月18日付けで手続補正書及び意見書が提出されたところ、その概要は次のとおりである。 1.補正された特許請求の範囲 特許請求の範囲は、次の記載になった。 「【請求項1】 樹脂製のエンドレスベルトに粘着層あるいは接着層を介して蛇行防止ガイドが配設されるエンドレスベルトにおいて、 ベルトの内面あるいは内外両面に補強テープを施し、 前記ベルトの内面に貼り付けられる補強テープの表面動摩擦係数が、0.4以下であり、 前記ベルトの内面に粘着層を介して貼り付けられる前記補強テープ上に、両面テープを介して前記蛇行防止ガイドが形成され、当該粘着層の層厚みが50μm以下であり、 前記ベルトの内面に粘着層を介して貼り付けられる前記補強テープの幅が、当該補強テープ上に形成される前記蛇行防止ガイドの幅より大きいことを特徴とする蛇行防止ガイド付エンドレスベルト。」 2.意見書の内容 また、請求人は、意見書にて、次のように反論している。 「1.拒絶理由の要点 (略) 2.本願発明の説明 (略) 3.補正の根拠 (略) 4.特許法第36条第6項第1号の規定を満足することについて 拒絶理由において「エンドレスベルトと補強テープとを貼り付けるための粘着層・・の構成の影響は無視できない」と指摘され、この指摘に従い、本願明細書の記載に基づいて粘着層の層厚みを上記のとおり補正しました。 本願発明は、本願発明者の試行錯誤の末に初めて明らかにされたものであり、本願明細書および実施例1-2および比較例1-3にそれを証明しています。すなわち、本願発明は、ベルト内面に補強テープを貼り付け(50μm以下の粘着層)ることで、この補強テープ(表面動摩擦係数が0.4以下)がエンドレスベルトに生じる応力を吸収(緩和)させることができます。 よって、補正後の請求項1に係る発明は特許法第36条第6項第1号の規定を満足しています。 5.結語 以上の通り、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されており、特許法第36条第6項第1号の規定を満足しています。よって、本願発明は特許されるべきものと確信致しますので、再度ご審理の上、特許審決をいただきたく存じます。」 第4 当審の判断 1.「エンドレスベルト」と「補強テープ」とを貼り付けるための「粘着層または接着層」について、その具体的構成を何ら特定していない点について まず、拒絶理由通知にも示したが、本願の請求項1に係る発明は、「エンドレスベルト」と「補強テープ」とが「粘着層または接着層」を介して貼り付けられるものである。 そして、「補強テープとベルト間における動摩擦係数」は、少なからず当該「粘着層または接着層」の影響を受けることを考慮すると、その原理・機序等は不明ではあるが、本願の請求項1に係る発明の「ベルト内面に貼り付ける補強テープの表面動摩擦係数」を「0.4以下」とすることにより、補強テープとベルト間における動摩擦係数を所定範囲内とするものであるということができる。さらに、発生した「応力を逃がす」という本願の請求項1に係る発明が解決しようとする課題を解決するにあたり、「エンドレスベルト」と「補強テープ」とを貼り付ける「粘着層または接着層」の構成の影響は無視できない。 しかし、補正前の請求項1は、「エンドレスベルト」と「補強テープ」とを貼り付けるための「粘着層または接着層」について、その具体的構成を何ら特定していなかった。 当審の拒絶理由通知に対して、請求人は、平成23年10月18日付け手続補正書(以下、「手続補正書」という。)において請求項1に対して、「ベルト」と「補強テープ」とが「粘着層を介して貼り付けられる」点、及び、「当該粘着層の層厚みが50μm以下であ」る点を補正し、同日付け意見書(以下、「意見書」という。)において、「本願発明は、本願発明者の試行錯誤の末に初めて明らかにされたものであり、本願明細書および実施例1-2および比較例1-3にそれを証明しています。すなわち、本願発明は、ベルト内面に補強テープを貼り付け(50μm以下の粘着層)ることで、この補強テープ(表面動摩擦係数が0.4以下)がエンドレスベルトに生じる応力を吸収(緩和)させることができます。」と主張している。 しかし、粘着層の応力を逃がすという特性は、層厚みだけでなく、粘着層の材料等が大きくかかわることは明らかであるから、請求項1において、ベルト内面に粘着層を介して補強テープを貼り付ける際、当該粘着層の層厚みが50μm以下である、すなわちベルトと補強テープとを貼り合わせる粘着層の層厚みを特定することのみでは、エンドレスベルトに発生した応力を逃がすという本願の課題に対応する「エンドレスベルト」と「補強テープ」とを貼り付ける「粘着層または接着層」の具体的構成が十分に規定されたとは認められない。 また、本願の発明の詳細な説明に記載された実施例1から、蛇行防止ガイド部材、エンドレスベルト、補強テープを特定の材料、大きさとし、該エンドレスベルトと該補強テープとを厚さ50μmでその材料は明記されていないが何らかの粘着剤層を介して貼り付け、その原理・機序等は不明ではあるが、「ベルト内面に貼り付ける補強テープの表面動摩擦係数」を「0.4以下」とすることにより、耐久寿命が長いエンドレスベルトが得られたことは認められるが、当該実施例1にはエンドレスベルトと補強テープとの貼り付けに用いた粘着剤層の厚み以外の具体的構成は記載されておらず、他の実施例および比較例をみても、エンドレスベルトと補強テープとの貼り付けを50μmの粘着剤層により行うことによる「粘着層また接着層」の構成の影響が理解できるとはいえない。 そもそも、本願明細書には、補強テープの表面動摩擦係数が所定範囲にない比較例は、「比較例3」のみしか記載されていないが、当該「比較例3」で用いた補強テープについては【0030】に「表面動摩擦係数が0.5である補強テープを用いた」と記載されているだけで、その材質が各実施例の補強テープ(日東電工製NO.31B)と同じものであるか否かすら明示されていない。 仮に、材質が同じであるのなら、表面動摩擦係数を変更するために、何らかの表面処理を行ったということであり、当該表面処理によって補強テープ自体の強度が低下してしまい、結果として、比較例3の耐久性が低下したという可能性も考えられる。また、異なる材質を用いたのであれば、補強テープの材質の強度が、エンドレスベルトの耐久性に直接影響を及ぼすのであって、比較例3の耐久性試験の結果が、補強テープの表面動摩擦係数を0.4以下にすることによって、エンドレスベルトの耐久性を向上できることを示しているとはいえないということになる。 いずれにせよ、本願明細書に、各実施例と比較例3とが記載されているからといって、補正後の請求項1が包含する全ての「蛇行防止ガイド付エンドレスベルト」に、請求人が主張するような効果があるとは、到底認めることができない。 したがって、手続補正書の補正により、「エンドレスベルト」と「補強テープ」とを貼り付ける「粘着層または接着層」の構成の影響が理解できるようにその具体的構成が特定されるとは認められず、また、意見書における上記請求人の主張も採用できない。 よって、出願時の技術常識に照らしても、本願発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 2.まとめ したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲は、依然として、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-12-20 |
結審通知日 | 2012-01-10 |
審決日 | 2012-01-24 |
出願番号 | 特願2005-94374(P2005-94374) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G03G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大森 伸一 |
特許庁審判長 |
木村 史郎 |
特許庁審判官 |
清水 康司 立澤 正樹 |
発明の名称 | 蛇行防止ガイド付エンドレスベルト |
復代理人 | 丹野 寿典 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |