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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1254005
審判番号 不服2009-19853  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-16 
確定日 2012-03-16 
事件の表示 特願2004- 18489「表面実装薄型コンデンサ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日出願公開、特開2005-216929〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年1月27日の出願であって、平成21年4月23日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月15日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年10月16日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、その後、平成23年7月26日付けで審尋がされ、同年9月21日に回答書が提出されたものである。


2.補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年10月16日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成21年10月16日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?12を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?12と補正するとともに、発明の詳細な説明の補正を行うものであって、補正前後の請求項1、5及び9は各々以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
金属芯線(11)と、該金属芯線の両面を覆うエッチド層(12)とから成る金属箔(10)を母材として用いた表面実装薄型コンデンサであって、前記金属箔の両端部が陽極として使用され、前記金属箔の中央部分の表面上に陰極(15,16)が形成され、前記表面実装薄型コンデンサは、前記陽極と前記陰極との境界に形成されたレジスト樹脂(13)と、前記金属箔の中央部分にある前記エッチド層の内部および表面に導電性ポリマーの重合により形成された導電性ポリマー層(14)とを備え、該導電性ポリマー層の表面上に前記陰極(15,16)が形成された前記表面実装薄型コンデンサにおいて、
前記レジスト樹脂(13)が、前記陽極側の前記エッチド層と前記導電性ポリマー層との間を遮断するように形成されており、
前記導電性ポリマー層(14)の一部分(14a)が前記レジスト樹脂(13)上に這い上がって形成されており、
該導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように形成された再レジスト樹脂(17)を更に有することを特徴とする表面実装薄型コンデンサ。」
「【請求項5】
金属芯線(11)と、該金属芯線の両面を覆うエッチド層(12)とから成る金属箔(10)を母材として用いた表面実装薄型コンデンサを製造する方法であって、
前記金属箔の両端部である陽極と、前記金属箔の中央部分の表面上に形成されるべき陰極(15,16)との境界部分にある、前記エッチド層を除去する工程(S2)と、
該除去した部分にレジスト樹脂(13)を充填する工程(S3)と、
前記金属箔の中央部分にある前記エッチド層の内部および表面に導電性ポリマーを重合して導電性ポリマー層(14)を形成する工程(S6)と、
前記導電性ポリマー層の表面上に前記陰極(15,16)を形成する工程(S7,S8)と
を含み、
前記導電性ポリマー層(14)の一部分(14a)が前記レジスト樹脂上に這い上がって形成されており、
該導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように再レジスト樹脂(17)を形成する工程(S9)を更に含む表面実装薄型コンデンサの製造方法。」
「【請求項9】
金属芯線(11)と、該金属芯線の両面を覆うエッチド層(12)とから成る金属箔(10)を母材として用いた表面実装薄型コンデンサを製造する方法であって、
前記金属箔の両端部である陽極と、前記金属箔の中央部分の表面上に形成されるべき陰極(15,16)との境界部分にある、前記エッチド層を圧縮する工程(S2A)と、
該圧縮した部分にレジスト樹脂(13)を充填する工程(S3)と、
前記金属箔の中央部分にある前記エッチド層の内部および表面上に導電性ポリマーを重合して導電性ポリマー層(14)を形成する工程(S6)と、
前記導電性ポリマー層の表面上に前記陰極(15,16)を形成する工程(S7,S8)と
を含み、
前記導電性ポリマー層(14)の一部分(14a)が前記レジスト樹脂上に這い上がって形成されており、
該導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように再レジスト樹脂(17)を形成する工程(S9)を更に含む表面実装薄型コンデンサの製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】
金属芯線(11)と、該金属芯線の両面を覆うエッチド層(12)とから成る金属箔(10)を母材として用いた表面実装薄型コンデンサであって、前記金属箔の両端部が陽極として使用され、前記金属箔の中央部分の表面上に陰極(15,16)が形成され、前記表面実装薄型コンデンサは、前記陽極と前記陰極との境界に形成されたレジスト樹脂(13)と、前記金属箔の中央部分にある前記エッチド層の内部および表面に導電性ポリマーの重合により形成された導電性ポリマー層(14)とを備え、該導電性ポリマー層の表面上に前記陰極(15,16)が形成された前記表面実装薄型コンデンサにおいて、
前記レジスト樹脂(13)が、前記陽極側の前記エッチド層と前記導電性ポリマー層との間を遮断するように形成されており、
前記導電性ポリマー層(14)の一部分(14a)が前記レジスト樹脂(13)上に這い上がって形成されており、
前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界で、前記導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように、前記レジスト樹脂(13)上および前記陰極(15,16)上に形成された再レジスト樹脂(17)を更に有することを特徴とする表面実装薄型コンデンサ。」
「【請求項5】
金属芯線(11)と、該金属芯線の両面を覆うエッチド層(12)とから成る金属箔(10)を母材として用いた表面実装薄型コンデンサを製造する方法であって、
前記金属箔の両端部である陽極と、前記金属箔の中央部分の表面上に形成されるべき陰極(15,16)との境界部分にある、前記エッチド層を除去する工程(S2)と、
該除去した部分にレジスト樹脂(13)を充填する工程(S3)と、
前記金属箔の中央部分にある前記エッチド層の内部および表面に導電性ポリマーを重合して導電性ポリマー層(14)を形成する工程(S6)と、
前記導電性ポリマー層の表面上に前記陰極(15,16)を形成する工程(S7,S8)と
を含み、
前記導電性ポリマー層(14)の一部分(14a)が前記レジスト樹脂上に這い上がって形成されており、
前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界で、前記導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように、前記レジスト樹脂(13)上および前記陰極(15,16)上に再レジスト樹脂(17)を形成する工程(S9)を更に含む表面実装薄型コンデンサの製造方法。」
「【請求項9】
金属芯線(11)と、該金属芯線の両面を覆うエッチド層(12)とから成る金属箔(10)を母材として用いた表面実装薄型コンデンサを製造する方法であって、
前記金属箔の両端部である陽極と、前記金属箔の中央部分の表面上に形成されるべき陰極(15,16)との境界部分にある、前記エッチド層を圧縮する工程(S2A)と、
該圧縮した部分にレジスト樹脂(13)を充填する工程(S3)と、
前記金属箔の中央部分にある前記エッチド層の内部および表面上に導電性ポリマーを重合して導電性ポリマー層(14)を形成する工程(S6)と、
前記導電性ポリマー層の表面上に前記陰極(15,16)を形成する工程(S7,S8)と
を含み、
前記導電性ポリマー層(14)の一部分(14a)が前記レジスト樹脂上に這い上がって形成されており、
前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界で、前記導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように、前記レジスト樹脂(13)上および前記陰極(15,16)上に再レジスト樹脂(17)を形成する工程(S9)を更に含む表面実装薄型コンデンサの製造方法。」

(2)補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると、以下のとおりである。
(2-1)補正事項1
補正前の請求項1の「前記導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように」の前に「前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界で、」を追加して、補正後の請求項1とすること。

(2-2)補正事項2
補正前の請求項1の「前記導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように」と「形成された再レジスト樹脂(17)を更に有する」との間に「、前記レジスト樹脂(13)上および前記陰極(15,16)上に」を追加して、補正後の請求項1とすること。

(2-3)補正事項3
補正前の請求項5の「該導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように」を「前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界で、前記導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように」と改めて、補正後の請求項5とすること。

(2-4)補正事項4
補正前の請求項5の「導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように」と「再レジスト樹脂(17)を形成する工程(S9)」との間に「、前記レジスト樹脂(13)上および前記陰極(15,16)上に」を追加して、補正後の請求項5とすること。

(2-5)補正事項5
補正前の請求項9の「該導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように」を「前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界で、前記導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように」と改めて、補正後の請求項9とすること。

(2-6)補正事項6
補正前の請求項9の「導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように」と「再レジスト樹脂(17)を形成する工程(S9)」との間に「、前記レジスト樹脂(13)上および前記陰極(15,16)上に」を追加して、補正後の請求項9とすること。

(2-7)補正事項7
補正前の明細書の0020段落、0022段落及び0024段落を、各々、補正後の明細書の0020段落、0022段落及び0024段落と補正すること。

(3)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
(3-1)補正事項1、3及び5について
補正事項1、3及び5は、各々、補正前の請求項1、5及び9に係る発明の発明特定事項である「再レジスト樹脂(17)」を「前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界」に形成するように減縮する補正であるから、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本願の願書に最初に添付した明細書の0041段落の「Ag層16形成後、レジスト樹脂13上面からAg層16にかけて、再レジスト樹脂17を塗布することにより、上述したレジスト樹脂13上への電導性ポリマー層14の這い上がり部分14aを覆う」という記載、及び、本願の願書に最初に添付した図面の図1からみて、「再レジスト樹脂17」がレジスト樹脂(13)と陰極(15,16)との境界に形成されていることは自明であるから、補正事項1、3及び5は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。したがって、補正事項1、3及び5は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。

(3-2)補正事項2、4及び6について
補正事項2、4及び6は、各々、補正前の請求項1、5及び9に係る発明の発明特定事項である「再レジスト樹脂(17)」を「前記レジスト樹脂(13)上および前記陰極(15,16)上に形成」するように減縮する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「再レジスト樹脂(17)」がレジスト樹脂(13)上および陰極(15,16)上に形成されることは、本願の願書に最初に添付した明細書の0041段落、及び、本願の願書に最初に添付した図面の図1に記載されているものと認められるから、補正事項2、4及び6は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。したがって、補正事項2、4及び6は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3-3)補正事項7について
補正事項7は、特許請求の範囲の補正と整合を取るためのものであり、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。したがって、当該補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3-4)以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものであり、同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含んでいるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて、以下において更に検討する。

(4)独立特許要件についての検討
(4-1)補正後の発明
本件補正による補正後の本願の請求項1?12に係る発明は、平成21年10月16日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、上記(1)の「補正後」の請求項1に記載したとおりのものである。

(4-2)引用刊行物に記載された発明
(4-2-1)引用例1
(4-2-1-1)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平8-273983号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。以下同じ)。

a.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は陽極基体にアルミ箔又はアルミ板を用いるアルミ固体コンデンサに関するものである。」

b.「【0016】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明のアルミ固体コンデンサ素子の製造工程を示す図である。図1(a)に示すように、アルミ箔又はアルミ板の表面をエッチング処理し、粗面化してなる長方形の陽極基体1の端部の所定範囲の外周面にエポキシ樹脂やポリビニルアルコ-ル樹脂等の絶縁樹脂を印刷して形成した絶縁樹脂層2を設ける。
【0017】次に、前記陽極基体1の絶縁樹脂層2が設けられていない部分に、図1(b)に示すように、陽極基体1を構成するアルミ箔又はアルミ板の表面を化成処理してアルミ陽極酸化皮膜からなる誘電体層1aを形成する。更に、後に詳述する電解酸化重合法で導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3を形成する。
【0018】上記電解酸化重合により導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3の形成は、特公平5-58856号公報に記載されているように、0.5wt%(重量パーセント)ピロ-ル、0.5wt%アンモニウムボロ・ジサリシレ-ト、0.5wt%純水を含むアセトニトリル溶液中に、前記アルミ箔又はアルミ板からなる陽極基体1の絶縁樹脂層2が形成されていない部分を浸漬し、陽極基体1を陽極にし、対向電極を陰極にして電解酸化重合を行うことにより、該絶縁樹脂層2が形成されていない陽極基体1の表面に導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3が形成される。次に前記誘電体層1a上の格子欠陥等の欠陥部に接する部分の導電性高分子層3を部分的に絶縁化処理する。この絶縁化処理は特開昭64-32621号に詳細に開示しているのでここでは省略する。
【0019】更に、図1(c)に示すように絶縁樹脂層2の端部を削除し陽極基体1の端部表面を露出させる。該露出させた陽極基体1の表面に銅メッキからなる金属メッキ層4を形成して陽極外部電極端子接続部5とすると共に、導電性高分子層3の表面にも銅メッキからなる金属メッキ層4を形成して陰極外部電極端子接続部7とし、これをコンデンサ素子Ceとする。なお、上記例では絶縁樹脂層2の端部を削除してから、陽極基体1の露出面及び導電性高分子層3上に金属メッキ層4を形成しているが、導電性高分子層3上に金属メッキ層4を形成してから、絶縁樹脂層2の端部を削除し、陽極基体1の露出面に金属メッキ層4を形成してもよい。
【0020】導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3の表面に金属メッキ層4を形成する方法は、1wt%の硫酸銅水溶液又は1wt%の酢酸銅、1wt%の硝酸を含む水溶液中に前記導電性高分子層3が形成された陽極基体1の導電性高分子層3の形成部分を含む所定部分を浸漬し、陽極基体1を陰極にし、対向する電極を陽極として、0.1V?10Vの直流電圧を印加し、電解メッキにより、導電性高分子層3の表面に銅メッキからなる金属メッキ層4を形成する。また、絶縁樹脂層2の端部を削除した陽極基体1の表面にも同様な方法で、陽極基体1を露出させる銅メッキからなる金属メッキ層4を形成する。
【0021】上記のように構成したコンデンサ素子Ceの陽極外部電極端子接続部5と陰極外部電極端子接続部7に、図2に示すように、ニッケル・鉄合金(42%Ni)又は銅板からなる陽極外部電極端子9及び陰極外部電極端子10を接続し、コンデンサ素子Ceの全表面にエポキシ樹脂等の樹脂モールド層8の外装を施して、アルミ固体コンデンサとする。」

c.「【0022】図3は本発明のアルミ固体コンデンサ素子の製造工程を示す図である。図3(a)に示すように、アルミ箔又はアルミ板の表面をエッチング処理し、粗面化してなる長方形の陽極基体1の両端部の所定範囲の外周面にエポキシ樹脂やビニルアルコ-ル樹脂等の絶縁樹脂を印刷して形成した絶縁樹脂層2、2を設ける。次に図3(b)に示すように、絶縁樹脂層2、2が設けられていない陽極基体1の表面(絶縁樹脂層2と2に挟まれた陽極基体1の表面)に上記と同様の方法で、アルミ陽極酸化皮膜層からなる誘電体層1a、導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3を形成する。
【0023】次に、上記と同様誘電体層1a上の格子欠陥等の欠陥部に接する部分の導電性高分子層3を部分的に絶縁化処理し、続いて図3(c)に示すように、陽極基体1の両端の絶縁樹脂層2の端部を削除し陽極基体1の端部表面を露出させる。次に図3(d)に示すように該露出させた陽極基体1の表面に、上記と同様な方法で銅メッキからなる金属メッキ層4を形成して陽極外部電極端子接続部5とすると共に、導電性高分子層3の表面にも銅メッキからなる金属メッキ層4を形成して陰極外部電極端子接続部7とし、これをコンデンサ素子Ceとする。なお、上記例では両端の絶縁樹脂層2の端部を削除してから、陽極基体1の両端部の露出面及び導電性高分子層3上に金属メッキ層4を形成しているが、導電性高分子層3上に金属メッキ層4を形成してから、両端の絶縁樹脂層2の端部を削除し、陽極基体1の両端の露出面に金属メッキ層4を形成してもよい。
【0024】上記のように構成されたコンデンサ素子Ceの陽極外部電極端子接続部5と陰極外部電極端子接続部7に図2に示すように、陽極外部電極端子9及び陰極外部電極端子10を接続し、コンデンサ素子Ceの全表面にエポキシ樹脂等の樹脂モールド層8の外装を施すことにより、アルミ固体コンデンサが得られる。この場合、2個の陽極外部電極端子接続部5にそれぞれ陽極外部電極端子9を接続すると共に、陰極外部電極端子接続部7に1個又は2個の陰極外部電極端子10を接続することにより、3端子又は4端子形のアルミ固体コンデンサとなる。このように3端子又は4端子形とすることにより、外部電極端子接続部のインピーダンスを低くすることができる。」

d.図3には、誘電体層1a、導電性高分子層3及び陰極外部電極端子接続部7が陽極基体1の両面に形成されたアルミ固体コンデンサ素子が記載されている。

(4-2-1-2)摘記事項c及びdからみて、陽極基体1は、両面に誘電体層1a、導電性高分子層3及び陰極外部電極端子接続部7が形成されており、陽極基体1の表裏両面がエッチング処理により粗面化されていることは明らかである。

(4-2-1-3)摘記事項bにおける0018段落の「0.5wt%(重量パーセント)ピロ-ル、0.5wt%アンモニウムボロ・ジサリシレ-ト、0.5wt%純水を含むアセトニトリル溶液中に、前記アルミ箔又はアルミ板からなる陽極基体1の絶縁樹脂層2が形成されていない部分を浸漬し、陽極基体1を陽極にし、対向電極を陰極にして電解酸化重合を行うことにより、該絶縁樹脂層2が形成されていない陽極基体1の表面に導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3が形成される。」という記載、及び、摘記事項cにおける0022段落の「上記と同様の方法で、アルミ陽極酸化皮膜層からなる誘電体層1a、導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3を形成する」という記載からみて、図3に記載されたアルミ固体コンデンサ素子における導電性高分子層3は、ピロールを電解酸化重合させて形成されたものであることは明らかである。

(4-2-1-4)以上によれば、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「アルミ箔の表裏両面をエッチング処理し、粗面化してなる長方形の陽極基体1の両端部の所定範囲の外周面に絶縁樹脂を印刷して形成した絶縁樹脂層2、2を設け、絶縁樹脂層2、2が設けられていない陽極基体1の表面にアルミ陽極酸化皮膜層からなる誘電体層1a、ピロールを電解酸化重合させて導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3を形成し、陽極基体1の両端の絶縁樹脂層2の端部を削除し陽極基体1の端部表面を露出させ、露出させた陽極基体1の表面に、方法で銅メッキからなる金属メッキ層4を形成して陽極外部電極端子接続部5とするとともに、導電性高分子層3の表面にも銅メッキからなる金属メッキ層4を形成して陰極外部電極端子接続部7としたアルミ固体コンデンサ素子。」

(4-2-2)引用例2
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開2003-7571号公報(以下「引用例2」という。)には、図1及び図2とともに以下の記載がある。

a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は導電性高分子からなる固体電解質層を備えた固体電解コンデンサおよびその製造方法に関するものである。」

b.「【0002】
【従来の技術】従来、この種の固体電解コンデンサは、図2に示すように構成されていた。すなわち、図2において、エッチング処理により粗面化層14を備えた弁作用金属13は、この弁作用金属13の粗面化層14上に設置されたレジスト材19により陽極引き出し部12とコンデンサ素子部11に区分されている。そして、コンデンサ素子部11は粗面化層14の表面に陽極酸化により誘電体酸化皮膜15を設け、この上に固体電解質層16およびカーボン層17、銀ペイント層18を順次形成し、その後、陽極引き出し部12とコンデンサ素子部11にそれぞれ端子が接続され(図示せず)、コンデンサ素子全体がモールド成形により外装樹脂で被覆されている。
【0003】ここで、固体電解質層16を形成する場合、電解酸化重合により形成する方法と、化学酸化重合により形成する方法とが知られており、電解酸化重合法の場合には誘電体酸化皮膜15上に予め二酸化マンガン層を形成し、この二酸化マンガン層上に固体電解質層16を形成するものであり、また、化学酸化重合法の場合には誘電体酸化皮膜15上に直接固体電解質層16を形成するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図2に示す固体電解コンデンサにおいて、粗面化層14を備えた弁作用金属13がレジスト材19により陽極引き出し部12とコンデンサ素子部11に区分されているが、レジスト材19と粗面化層14の隙間を通して固体電解質層16がコンデンサ素子部11から陽極引き出し部12に到達して絶縁不良を引き起こしたり、あるいは絶縁破壊にいたる場合がしばしば散見された。このためレジスト材19の形成幅を広くしたり、弁作用金属13との密着性が高い材料を用いるなどの工夫も検討されてはいるが、数多くの生産ロットについて常に安定した効果を得ることは難しく、コスト上からも安定した低い絶縁不良率にすることは大きな課題であった。
【0005】本発明は上記従来の課題を解決するもので、比較的簡便な方法でありながら導電性高分子層が陽極引き出し部に到達して絶縁不良を引き起こしたりあるいは絶縁破壊にいたる確率を格段に引き下げ、かつ従来の生産性を損なわない固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。」

c.「【0019】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)図1は本発明の実施の形態1におけるアルミ固体電解コンデンサのコンデンサ素子の構成を示し、(a)は断面図、(b)は禁止帯部の要部拡大断面図であり、同図において、(イ)はコンデンサ素子の陰極部、(ロ)は禁止帯部、(ハ)は陽極引き出し部である。
【0020】上記コンデンサ素子の陰極部(イ)は、アルミニウム箔を電気化学的に粗面化して形成された粗面化層1と、この粗面化層1の表面に形成された誘電体酸化皮膜層2、さらにこの表面上に固体電解質層3、カーボン層4、銀ペースト層5が順次形成されている。また、禁止帯部(ロ)は、アルミニウム箔の粗面化層1の一部を粗面化層1の表面積に比して小さい表面積になるようにした第一の禁止帯6と、この第一の禁止帯6の一部をさらに小さい表面積にした第二の禁止帯7と、この第二の禁止帯7を塞ぐとともに、第一の禁止帯6の表面に絶縁部材8が形成されている。この絶縁部材8は、第一の禁止帯6の帯幅と同等もしくは狭く形成する。
【0021】具体的には、大きさ3mm×4mmのアルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理して粗面化層を形成し、次いで0.3%燐酸二水素アンモニウム水溶液を用いて印加電圧12V、水溶液温度70度で30分間の条件で陽極酸化を行うことによりアルミニウム箔の粗面化層1の表面に誘電体酸化皮膜層2を形成した。
【0022】次に、このアルミニウム箔の所定の位置にプレス加工して第一の禁止帯6を形成し、次いで第一の禁止帯6の一部を同じくプレス加工にて第二の禁止帯7を形成し、さらに第二禁止帯7を塞ぐように第一の禁止帯6の表面に耐熱性シリコーン系接着剤で耐熱テープを貼り付けて絶縁部材8を形成して、陰極部(イ)と陽極引き出し部(ハ)に区分した。
【0023】次に、上記陰極部(イ)を硝酸マンガン30%水溶液に浸漬し自然乾燥させた後300℃で10分間の条件で熱分解処理を行うことによって、固体電解質層3の一部となるマンガン酸化物層を形成した。
【0024】続いて、ピロールモノマー0.5mol/リットルとプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム0.1mol/リットルを予め混合した後に溶媒である水とpH調整剤としてプロピルリン酸エステルを添加しpHを2に調整した固体電解質形成用重合液を用い、この重合液中に上記コンデンサ素子の陰極部(イ)を浸漬し、この陰極部(イ)の表面に重合開始用電極を近接させ、電解酸化重合を行い導電性高分子の固体電解質層3を形成した。その後、この固体電解質層3の表面にコロイダルカーボン懸濁液を塗布、乾燥することによって得られるカーボン層4および銀ペーストを塗布乾燥することによって得られる銀ペースト層5を形成し、カーボン層4と銀ペースト層5を併せて陰極引き出し部となる導電体層を形成してコンデンサ素子を作製した。
【0025】最後に、上記コンデンサ素子の導電体層に陰極引き出しリードを取付け、一方、陰極引き出し部にも陽極引き出しリードを取付けて、このそれぞれのリード端子の一部が露出するようにエポキシ樹脂で外装してアルミ固体電解コンデンサを作製した。」

d.「【0031】このようにして得られた実施の形態1?6のアルミ固体電解コンデンサと、従来の技術の項で説明した図2に示した従来の固体電解コンデンサについて、その製品の基本となる電気性能と漏れ電流歩留まりを比較した結果を(表1)に示す。
【0032】
【表1】略
【0033】この(表1)から明らかなように、本発明の実施の形態1?6のアルミ固体電解コンデンサは、従来のアルミ固体電解コンデンサと比較して、基本となる電気性能については同等であるが、漏れ電流歩留まりについては明らかに本発明のアルミ固体電解コンデンサの方が優れている。
【0034】上記実施の形態1は、プレス加工により圧縮形成された第一の禁止帯6および第二の禁止帯7と絶縁部材8により、陰極材の陽極側へのパスが抑制されることで両極間の絶縁抵抗が保たれ不要な漏れ電流を削減することができる。」

(4-2-3)引用例3
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平7-94369号公報(以下「引用例3」という。)には、図1、図2、図5及び図6とともに以下の記載がある。

a.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は各種電子機器に利用される固体電解コンデンサに関するものである。」

b.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来の固体電解コンデンサにおいては、図5および図6ではアルミエッチド箔1の陽極引出し部と陰極引出し部とを明確に分離するためにアルミエッチド箔1の表面の所定の部分にアルミエッチド箔1を二分する絶縁物帯部2を設けており、また図7および図8では、タンタル焼結体8の陽極引出し部と陰極引出し部とを明確に分離するために、タンタル焼結体8におけるタンタルリード線7の付け根の部分に絶縁物帯部9を設けているため、アルミエッチド箔1の一方の表面を硝酸マンガン水溶液に浸漬し、熱分解を10回繰り返して二酸化マンガンの固体電解質層4を形成する場合、あるいはタンタル焼結体8の陰極引出し部を硝酸マンガン水溶液に浸漬し、熱分解を10回繰り返して二酸化マンガンの固体電解質層11を形成する場合、陽極引出し部に這い上がろうとする硝酸マンガン水溶液の這い上がりも絶縁物帯部2,9により抑制でき、これにより、陽極引出し部と陰極引出し部とを明確に分離することが可能となるが、固体電解質層4,11の上に陰極引出し導電体層5,12を形成する場合、図5,図6および図7,図8に示すように、陰極引出し導電体層5,12を絶縁物帯部2,9の上まで形成すると、固体電解質層4,11と絶縁物帯部2,9との境界面の不連続部分に陰極引出し導電体層5,12を構成する材料が浸み込んで誘電体となる陽極酸化皮膜3,10と直接接触するおそれがある。
【0007】この場合、誘電体となる陽極酸化皮膜3,10に欠陥部分が存在したり、後工程もしくは固体電解コンデンサの使用時に陽極酸化皮膜3,10に欠陥部分が生じた場合は、陽極酸化皮膜3,10を修復する能力のない陰極引出し導電体層5,12を構成する材料と欠陥部分とが直接接触して漏れ電流を増大させたり、短絡させたりして固体電解コンデンサの耐圧特性や漏れ電流特性に大きな影響を与え、これが不良率および故障率を増加させる大きな原因のひとつとなっていた。
【0008】本発明は上記従来の問題点を解決するもので、誘電体となる陽極酸化皮膜に欠陥部分が存在したり、後工程もしくは固体電解コンデンサの使用時に陽極酸化皮膜に欠陥部分が生じたとしても、その欠陥部分に陰極引出し導電体層を構成する材料が直接接触することのない固体電解コンデンサを提供することを目的とするものである。」

c.「【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例を添付図面にもとづいて説明する。
【0013】(実施例1)図1,図2に示すように、幅3mm、長さ5mmの短冊状に切断されたアルミニウム箔を塩酸などの水溶液中で電気化学的にエッチングして表面積を拡大させた弁作用金属としてのアルミエッチド箔21を用い、そしてこのアルミエッチド箔21の端面から3mmの長さの部分に、ポリイミドを基材とする幅1.5mmの粘着テープを帯状に貼り付けた絶縁物帯部22を設けてアルミエッチド箔21を二分し、その後、アルミエッチド箔21の表面に70Vで化成することにより誘電体となる陽極酸化皮膜23を形成した。
【0014】その後、絶縁物帯部22により二分されたアルミエッチド箔21の陰極引出し部となる一方の表面を低濃度の硝酸マンガン水溶液に浸漬し、250℃で10分間行う熱分解を10回繰り返して二酸化マンガンの固体電解質層24を形成した。
【0015】さらにその後、ポリイミドを基材とする幅1.5mmの粘着テープよりなる絶縁物帯部22と二酸化マンガンの固体電解質層24との境界部上にエポキシ樹脂からなる幅約1mmの別の絶縁物層25を形成し、その後、この別の絶縁物層25の一部を覆うようにしてグラファイト層、銀ペイント層からなる陰極引出し導電体層26を固体電解質層24の上に形成して固体電解コンデンサ素子27を構成した。」

(4-3)補正発明と引用発明との対比
(4-3-1)引用発明の「陽極基体1」は、補正発明の「金属箔(10)」に相当するものであり、「アルミ箔の表裏両面をエッチング処理し、粗面化してなる」ものであることから、補正発明の「金属芯線(11)」及び「金属芯線の両面を覆うエッチド層(12)」に相当するものから構成されていることは明らかである。

(4-3-2)引用発明の「陽極外部電極端子接続部5」は、補正発明の「陽極」に相当するものであり、「陽極基体1の両端の絶縁樹脂層2の端部を削除し陽極基体1の端部表面を露出させ、露出させた陽極基体1の表面に、方法で銅メッキからなる金属メッキ層4を形成して」形成されるものであることから、当然に「陽極基体1の両端」に形成されるものである。したがって、引用発明は、補正発明の「金属箔の両端部が陽極として使用され」に相当する構成を有している。

(4-3-3)引用発明の「陰極外部電極端子接続部7」は、補正発明の「陰極」に相当するものであり、引用例1の図3等からみて、「陽極基体1」の両端部を除く中央部分に形成されているものである。したがって、引用発明は、補正発明の「金属箔の中央部分の表面上に陰極(15,16)が形成され」に相当する構成を有している。

(4-3-4) 引用発明における「端部を削除し」た後の「絶縁樹脂層2」は、「陽極外部電極端子接続部5」と「陰極外部電極端子接続部7」との境界に位置していることは明らかであるから、補正発明の「前記陽極と前記陰極との境界に形成されたレジスト樹脂(13)」に相当する。

(4-3-5)引用発明は、「ピロールを電解酸化重合させて導電性ポリ・ピロ-ル膜からなる導電性高分子層3を形成」するものであるから、引用発明は、補正発明の「導電性ポリマーの重合により形成された導電性ポリマー層(14)とを備え」に相当する構成を有している。

(4-3-6)補正発明の「記エッチド層の内部および表面に」「形成された導電性ポリマー層(14)」とは、本願の明細書の0008?0011段落を参照するに、誘電体膜が形成されたエッチド層の微細孔に入り込んで導電性ポリマーが形成されるものにほかならないものである。そして、引用発明においても「導電性高分子層3」は、「陽極基体1」の「粗面化」された面上の「誘電体層1a」の上に形成されるものであり、粗面に入り込んで形成されることは明らかである。したがって、引用発明は、補正発明の「エッチド層の内部および表面に」「形成された導電性ポリマー層(14)とを備え」に相当する構成を有している。

(4-3-7)引用発明の「アルミ固体コンデンサ素子」は平板状であり、薄型化されていることは明らかであるから、補正発明の「薄型コンデンサ」に相当する。

(4-3-8)以上によれば、補正発明と引用発明とは、
「金属芯線(11)と、該金属芯線の両面を覆うエッチド層(12)とから成る金属箔(10)を母材として用いた薄型コンデンサであって、前記金属箔の両端部が陽極として使用され、前記金属箔の中央部分の表面上に陰極(15,16)が形成され、前記表面実装薄型コンデンサは、前記陽極と前記陰極との境界に形成されたレジスト樹脂(13)と、前記金属箔の中央部分にある前記エッチド層の内部および表面に導電性ポリマーの重合により形成された導電性ポリマー層(14)とを備え、該導電性ポリマー層の表面上に前記陰極(15,16)が形成された薄型コンデンサ。」
である点で一致し、以下の4点で相違する。

(相違点1)補正発明は、「レジスト樹脂(13)が、前記陽極側の前記エッチド層と前記導電性ポリマー層との間を遮断するように形成されて」いるのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

(相違点2)補正発明は、「導電性ポリマー層(14)の一部分(14a)が前記レジスト樹脂(13)上に這い上がって形成されて」いるのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

(相違点3)補正発明は「前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界で、前記導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように、前記レジスト樹脂(13)上および前記陰極(15,16)上に形成された再レジスト樹脂(17)を更に有する」のに対して、引用発明は、再レジスト樹脂について特定していない点。

(相違点4)補正発明は、コンデンサが「表面実装」であることを特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

(4-4)相違点についての検討
(4-4-1)相違点1について
(4-4-1-1)陽極と導電性ポリマー層が遮断されていない状態となっている場合には、陽極と陰極とが短絡した状態となるため、固体電解コンデンサが正常な動作をしないことは技術常識からみて明らかである。引用発明においては、固体電解コンデンサが正常に動作しているのであるから、陽極と導電性ポリマー層とが遮断されている状態にあることは明らかである。つまり、引用発明も、補正発明と同様に「レジスト樹脂(13)が、前記陽極側の前記エッチド層と前記導電性ポリマー層との間を遮断するように形成されて」いるという構成を備えていると認められるから、相違点1は実質的なものではない。

(4-4-1-2)以下、相違点1が実質的なものであったと仮定して検討する。上記(4-2-2)によれば、引用例2には、固体電解コンデンサを形成するアルミニウム箔を陰極部(イ)と陽極引き出し部(ハ)の間の位置でプレス加工して粗面化層を圧縮した第一の禁止帯6及び第二の禁止帯7を形成し、さらに第二禁止帯7を塞ぐように第一の禁止帯6の表面に耐熱性シリコーン系接着剤で耐熱テープを貼り付けて絶縁部材8を形成することにより、固体電解質層の陽極引き出し部への到達による絶縁不良等を防止する技術が記載されている。
上記「絶縁部材8」は、補正発明の「レジスト樹脂(13)」に相当するものである。そして、該「絶縁部材8」は、その下方にアルミニウム箔を粗面化層を圧縮した第一の禁止帯6及び第二の禁止帯7を備えており、これらの作用により固体電解質層の陽極引き出し部への到達を防止している。したがって、引用例2に記載された発明は、補正発明の「レジスト樹脂(13)が、前記陽極側の前記エッチド層と前記導電性ポリマー層との間を遮断するように形成されて」という構成を備えていることは明らかである。
引用発明と引用例2に記載された発明は、いずれも固体電解コンデンサに関する技術であり、一般に、固体電解コンデンサにおいて、絶縁不良を防止することは、当業者が常に念頭に置いている課題であるから、引用発明において、引用例2に記載された「レジスト樹脂(13)が、前記陽極側の前記エッチド層と前記導電性ポリマー層との間を遮断するように形成され」という構成を採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。

(4-4-1-3)以上より、相違点1は実質的なものではなく、実質的なものと認めたとしても、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4-4-2)相違点2について
引用発明において、固体電解質である導電性高分子3は絶縁樹脂層2に接するように形成されており、そのような場合には、本願出願時の技術常識からみて、前記固体電解質は、補正発明のレジスト樹脂(13)に相当する絶縁樹脂層2を這い上がるように形成されることが通常である。したがって、相違点2は実質的なものとはいえない。

(4-4-3)相違点3について
(4-4-3-1)上記(4-2-3)によれば、引用例3には、アルミエッチド箔21を絶縁物帯部22で二分し、アルミエッチド箔21の表面に陽極酸化皮膜23を形成した後、二分されたアルミエッチド箔21の陰極引出し部となる一方の表面に固体電解質層24を形成した固体電解コンデンサ素子であって、絶縁物帯部22と固体電解質層24との境界部上に別の絶縁物層25を形成するものが記載されている。
上記「絶縁物帯部22」及び「別の絶縁物層25」は、各々、補正発明の「レジスト樹脂(13)」及び「再レジスト樹脂(17)」に相当するものであるから、引用例3に記載された発明は、補正発明の「前記レジスト樹脂(13)と前記陰極(15,16)との境界で、」「前記レジスト樹脂(13)上」「に形成された再レジスト樹脂(17)を更に有する」という構成を備えたものである。

(4-4-3-2)また、固定電解コンデンサの陰極部と陽極部の境界に形成されるレジスト樹脂上及び陰極上に再レジスト樹脂を形成することにより、固体電解質等の陽極部への流出を防止することは、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である下記周知例1及び2に記載されるように、当業者における周知技術にすぎないものである。

a.周知例1:特開2001-185456号公報
上記周知例1には、図1とともに以下の記載がある。
「【0015】
【実施例】以下、本発明の固体電解コンデンサの基本構造について図面を参照して説明する。図1において、1は陽極となる弁作用金属としてタンタル微粉末からなる焼結体表面に陽極酸化皮膜を形成してなるコンデンサ素子で、2はこのコンデンサ素子1の表面に付着したパルプ3を取り込んで形成された複合導電性高分子層で、4はこの複合導電性高分子層2上に形成したカーボン層で、5はこのカーボン層4上に形成した陰極となる銀塗料層で、6は前記焼結体に埋設された陽極リード線で、7は陽極リード線に設けられた這い上がり防止部で、8は前記這い上がり防止部7に付着したパルプを取り込んで形成した第1の樹脂被覆部で、9は前記第1の樹脂被覆部8と接して陽極リード線の植出された面を被覆した第2の樹脂被覆部である。」
「【0017】(実施例1)陽極として大きさが3.9×3.3×1.6mm3のタンタル焼結体を用い、陽極リード線としてタンタル線を用いた重量が約100mgの陽極体に、前記陽極リード線の根元に這い上がり防止部としてテフロンワッシャを被せ、0.05wt%燐酸水溶液中で90℃、40Vで180分陽極酸化し、脱イオン水の流水により洗浄して、乾燥を行いコンデンサ素子とした。なお、この状態をコンデンサと見立て化成液中の容量を測定した結果104μFであった。
【0018】次に、このコンデンサ素子をブチルアルコール50gと3,4-エチレンジオキシチオフェン50gとを混ぜ合わせてなるモノマー溶液に7分間浸漬し、次に遷移金属イオンを含む酸化剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄40gを60gのブタノールに溶解させて得た酸化剤溶液に15分間浸漬し、化学酸化重合を行い、コンデンサ素子を構成する陽極酸化皮膜上に導電性高分子層を形成し、ブタノールによる洗浄を5分間行った後、105℃で5分間乾燥した。導電性高分子層が所望の厚さになるまで、モノマー溶液への浸漬-乾燥までの重合回数を10回繰り返した。
【0019】次に、このようにして導電性高分子層を形成したコンデンサ素子を、パルプ2wt%,合成糊0.05wt%懸濁液に素子の上面まで浸漬して這い上がり防止部のテフロンワッシャにもパルプが付くようにコンデンサ素子表面にパルプを付着させる。この場合、懸濁液は撹拌され、パルプが流動している中に浸漬することで効果的にコンデンサ素子表面へのパルプの付着を行うことができ、特に機械的強度が求められるコンデンサ素子エッジ部により効果的に付着できる。しかして、このようにパルプを付着したコンデンサ素子を105℃で5分間乾燥した。なお、パルプ層が所望の厚さになるまで、懸濁液への浸漬から乾燥までの工程を2回繰り返した。
【0020】次に、表面にパルプが付着されたコンデンサ素子の這い上がり防止部の上にエポキシ樹脂を吐出し、当該部に付着したパルプを含んで第1の樹脂部を形成した。
【0021】次に、表面にパルプが付着されたコンデンサ素子を、再びモノマー溶液に7分間浸漬し、酸化剤溶液に15分間浸漬して化学酸化重合を行い、ブタノールによる洗浄を5分間行った後、105℃で5分間乾燥する工程を5回繰り返し、コンデンサ素子表面に所望の厚さのパルプを取り込んだ複合導電性高分子層を形成した。しかして、この複合導電性高分子層の上に、カーボン層、このカーボン層の上に陰極となる銀塗料層を形成し、この銀塗料層の上に陰極引出端子を、前記陽極体から引出した陽極線に陽極引出端子を前記這い上がり防止部に極力近接して取付け、トランスファーモールドにより樹脂外装を行い、前記陰極引出端子及び陽極引出端子を所定の位置に折曲げてチップ状の固体電解コンデンサを完成した。
【0022】(実施例2)陰極となる銀塗料層を形成した後に、陽極リード線が植出された面をエポキシ樹脂で被覆し第2樹脂部を形成する以外は実施例1と同様に完成したものである。」

上記「第1の樹脂被覆部」及び「第2の樹脂被覆部」は、各々、補正発明の「レジスト樹脂(13)」及び「再レジスト樹脂(17)」に相当する。そして、上記「第2の樹脂被覆部」は、0022段落における陰極となる銀塗料層を形成した後に形成されるものである旨の記載、及び、図1の記載によれば、「陰極となる銀塗料層」の上に形成されていることは明らかである。

b.周知例2:特開2000-243665号公報
上記周知例2には、図5及び図6とともに以下の記載がある。
「【0035】(実施の形態5)図5は本発明の実施の形態5におけるアルミ固体電解コンデンサの構成を示し、(a)は斜視図、(b)は要部拡大断面図である。図5において、51は粗面化されたアルミ箔のコンデンサ素子部で、このコンデンサ素子部51は、シリコーンのポリシロキサンが2量体?5量体の低分子シリコーンにより形成された禁止帯52とその禁止帯52を塞ぐように貼り付けられたシリコーンレジストテープ53により陽極引き出し部54と区分されている。55はコンデンサ素子部51の表面に形成された誘電体酸化皮膜で、さらにこの表面上にはポリピロールよりなる導電性高分子層56、カーボン層および銀塗料層よりなる導電体層57が順次積層形成されている。レジストテープ53の効果を確認するために、レジストテープ幅がそれぞれ禁止帯とほぼ同じものと禁止帯幅より約0.4mm幅広の2条件の試料を作製した。
【0036】図6は実施の形態5で得られたコンデンサ素子の組立、外装状態を示す断面図で、禁止帯61とレジストテープ62により区分された陽極引き出し部64とコンデンサ素子部63にそれぞれ陽極端子65と陰極端子66を接続しエポキシよりなる外装樹脂67によりモールド樹脂外装した後、突出した陽極端子65、陰極端子66が外装樹脂67の側面および底面に沿って折り曲げられている。」

上記「禁止帯52」、「シリコーンレジストテープ53」及び「カーボン層および銀塗料層よりなる導電体層57」は、各々、補正発明の「レジスト樹脂(13)」、「再レジスト樹脂(17)」及び「陰極(15,16)」に相当する。そして、上記「シリコーンレジストテープ53」は、上記「禁止帯52」よりも幅広に形成されること、及び、図5の記載からみて、「カーボン層および銀塗料層よりなる導電体層57」の上に形成されていることは明らかである。

(4-4-3-3)引用発明、引用例3に記載された発明及び上記周知技術は、いずれも固体電解コンデンサに関する技術であり、一般に、固体電解コンデンサにおいて、固体電解質層や陰極層の陽極側への流出を防止することは、当業者が常に念頭に置いている課題であるから、引用発明において、引用例3に記載された発明の「別の絶縁物層25」を採用すること、及び、レジスト樹脂上及び陰極上に再レジスト樹脂を形成するという周知技術を採用することは、当業者であれば適宜になし得たことである。

(4-4-3-4)また、上記(4-4-2)にて示したとおり、固体電解質は、レジスト樹脂層を這い上がるように形成されるものであり、このことは、上記周知技術においても例外ではない。したがって、引用発明において、上記周知技術を採用するに際しては、再レジスト樹脂は、当然に固体電解質層の這い上がり部分を覆うように形成されることになる。
したがって、上記周知技術は、補正発明の「導電性ポリマー層の這い上がり部分(14a)を覆うように、」という構成を当然に含むものである。

(4-4-3-5)以上より、相違点3は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4-4-4)相違点4について
一般に電子部品の実装形態として、通常は挿入実装及び表面実装の2つがあるが、2つのうちどちらを選択するのかは、当業者が適宜に選択すべき事項にすぎないものである。
また、例えば、上記(4-4-2-2)において示した周知例2の陽極端子及び陰極端子は、図6に示された形状からみて表面実装をするためのものであることは明らかであることからみても、固体電解コンデンサの実装形態としての「表面実装」が当業者において周知であるともいえる。
したがって、引用発明における実装形態として「表面実装」を選択することは、当業者が容易になし得たことである。

(4-4-5)以上検討したとおり、補正発明は、周知例1及び2に記載された周知技術を勘案することにより、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4-5)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、補正発明が特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

(5)補正の却下についてのむすび
本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものであるが、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明
平成21年10月16日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成21年6月10日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記2.(1)の「補正前」の請求項1に記載したとおりのものである。

一方、本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平8-273983号公報(引用例1)、特開2003-7571号公報(引用例2)及び特開平7-94369号公報(引用例3)には、上記2.(4-2)に記載したとおりの事項及び発明が記載されているものと認められる。
そして、上記2.(4)において検討したとおり、補正発明は、周知技術を勘案することにより、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記補正発明から技術的限定を省いた本願発明についても、同様に、周知技術を勘案することにより、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-13 
結審通知日 2012-01-18 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2004-18489(P2004-18489)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01G)
P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑原 清  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 酒井 英夫
近藤 幸浩
発明の名称 表面実装薄型コンデンサ及びその製造方法  
代理人 池田 憲保  
代理人 福田 修一  

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