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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1254006
審判番号 不服2010-7264  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-06 
確定日 2012-03-16 
事件の表示 特願2003-342694「固体電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-109277〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年9月30日の出願であって、平成21年5月7日付けの拒絶理由通知に対して、同年7月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月28日付けで拒絶査定がされ、それに対して、平成22年4月6日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。


2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成21年7月13日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回するとともに、導電性ポリマーをセパレータで保持したコンデンサ素子を備えた固体電解コンデンサにおいて、陰極電極箔として表面に厚みが0.01?3μmのカーボンからなる皮膜を形成したプレーン箔を用いた固体電解コンデンサ。」


3.引用刊行物に記載された発明
(1)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平11-219861号公報(以下「引用例」という。)には、図1、図3及び図11とともに以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。以下同じ。)。

a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は陽極としてアルミニウムやタンタルなどの弁作用を有する金属を用い、弁金属酸化皮膜を誘電体とし、陰極として導電性ポリマー層を用いた電解コンデンサおよびその製造方法に関するものである。」

b.「【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の電解コンデンサは、弁金属多孔体を陽極とし、弁金属多孔体の表面および空孔表面全体に形成した誘電体酸化皮膜と、誘電体酸化皮膜上に形成した陰極としての導電性ポリマー層と、表面に形成された誘電体酸化皮膜の内部の金属部分と電気的に接合された陽極用集電体と、陰極導電性ポリマー層と電気的に接合された陰極用集電体とを具備する電解コンデンサにおいて、陰極用集電体が金属の板もしくは箔であり、少なくとも表面が粗面化され、あるいは、表面にカーボン粒子を埋め込まれ、又は、表面にカーボン薄膜層が形成されており、導電性ポリマー層と物理的に直接接合しているものである。
【0010】この構成により、陰極用集電体と導電性ポリマー層の間に種々の中間層(カーボンや銀等のペースト層)を介さずに、陰極用集電体を導電性高分子層に接合し、かつ、陰極用集電体金属と導電性ポリマー層の間の界面の接触抵抗を小さくして、全体としてのインピーダンスの低減を図るものである。」

c.「【0025】本発明において、陰極用集電体には、主として金属からなるシート(板または箔)が利用される。陰極用集電体の材質は、それ自体の固有抵抗が小さくかつイオンマイグレーションの少ない金属から、ニッケル、銅、ステンレス鋼、アルミニウムが選ばれることが好ましい。陰極用集電体は、特に、導電性ポリマー層と接する表面にカーボン粒子を埋め込んだ金属シートが好ましく、また、カーボンを表面層に形成した金属シートも利用できる。カーボン粒子又はカーボン層により、金属の自然酸化皮膜層を介さずに導電性ポリマーと陰極集電体金属とを接合させることができ、導電性ポリマー層と陰極用集電体との界面接触抵抗を減少させることができ、さらに低い抵抗で高周波応答性の高い電解コンデンサが得られる。」

d.「【0032】(実施の形態1)具体的には、本発明の第1の電解コンデンサは、図1(A)に示すように、弁金属多孔体1は、多孔質弁金属箔を積層あるいは捲回して形成した陽極構造体とし、かつ、陰極用集電体2の表面を粗面化した金属シートが利用できる。金属シートは、あるいは図3(B)に示すように表面にカーボン粒子22が埋め込まれたものが利用される。金属シートは、図3(C)のように表面にカーボン薄膜層23が形成された金属シートで藻よい。この集電体は、多孔体をなす弁金属箔の表面に対して直交するように配置されている。また、本発明の電解コンデンサは、図1(B)に示すように、弁金属多孔体4を、弁金属粉末を焼結して形成した燒結体で構成し、陰極用集電体上に配置されている。」

e.「【0065】(実施の形態5)本発明の第7の製造方法は、陽極用弁金属多孔体が多孔質弁金属箔であり、陰極用集電体が1?5Vの電圧で化成処理された粗面化された弁金属箔であり、陽極箔と陰極箔がセパレータを介して積層あるいは捲回された構造を有する電解コンデンサの製造方法である。
【0066】まず、陽極用多孔質弁金属箔の表面および空孔表面全体に誘電体酸化皮膜を形成した。一方、陰極用弁金属箔に1?5Vの電圧で化成処理を施した。その後、両箔を、セパレータを介して積層あるいは捲回し、例えば図11に示すように、両箔およびセパレータと垂直な端面全体に電解酸化重合用の電極21を取り付けた。その後、重合により導電性高分子となるモノマーを含む溶液に、電極を取り付けた弁金属多孔質構造体を浸漬し、前記の実施の形態4の第1の製造方法と同様にして、取り付けた電極を電解酸化重合用の陽極として多孔質構造体内の間隙内の溶液を通じて電流を流した。これにより、電解酸化重合を行って導電性ポリマー層を成長させ、多孔質構造体の空孔内部に導電性高分子を充足させ、本発明の電解コンデンサを製造した。」

f.「【0106】(実施例7)セパレータを介し陽極リード線12を取り付けた30V化成の陽極箔と、陰極リード線14を取り付けた2V化成の陰極箔とを重ねて巻きとって、一般的なアルミニウム電解コンデンサの構造を有する100μF用のコンデンサ素子を作製した。予め、素子全体の空孔内部を、化学酸化重合したポリピロールで薄く被覆した。この素子の底面に図11に示すように電解酸化重合用の電極21としてのニッケル金属板を取り付け、全体を実施例1と同様にしてピロールモノマーを含む重合液中に浸漬し、底面に取り付けたニッケル金属を重合用の電極として素子の空間部の溶液を通じて電流を流すことにより、電解酸化重合により導電性ポリマー層で素子の内部の隙間を充足した。
【0107】このコンデンサは120Hzで95μF、1kHzで93μFの静電容量を示した。また、インピーダンス特性は図12に示すように良化し、特に共振点におけるインピーダンスは従来のタンタル電解コンデンサと比較しても1桁低いコンデンサが得られた。」

(2)上記摘記事項e及びfによれば、引用例には、セパレータを介し陽極リード線12を取り付けた30V化成の陽極箔と、陰極リード線14を取り付けた2V化成の陰極箔とを重ねて巻きとって形成したコンデンサ素子に導電性ポリマー層を形成した電解コンデンサが記載されている。この場合、陰極箔は化成により粗面化されているものである。
また、上記摘記事項b、c及びdからみて、引用例には、陰極用集電体として表面が粗面化された金属箔に代えて、表面にカーボン薄膜層が形成された金属箔を用いることが記載されていることも明らかである。

(3)以上によれば、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「陽極リード線12を取り付けた陽極箔と、表面にカーボン薄膜層が形成され、陰極リード線14を取り付けた陰極箔とをセパレータを介して重ねて巻きとって形成したコンデンサ素子に導電性ポリマー層を形成した電解コンデンサ。」


4.本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「陽極箔」及び「陰極箔」は、各々、本願発明の「陽極電極箔」及び「陰極電極箔」に相当する。また、引用発明の「陽極箔と、」「陰極箔とをセパレータを介して重ねて巻きとって」という構成は、本願発明の「陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回する」という構成に相当する。

(2)引用発明において「導電性ポリマー層」が「セパレータ」に保持されていることは自明であるから、引用発明は、本願発明の「導電性ポリマーをセパレータで保持したコンデンサ素子」に相当する構成を有していることは明らかである。

(3)引用発明の「カーボン薄膜層」は、本願発明の「カーボンからなる皮膜」に相当するから、引用発明は、本願発明の「陰極電極箔として表面にカーボンからなる被膜を形成した箔を用いた」に相当する構成を有していることは明らかである。

(4)引用発明の「電解コンデンサ」は、電解質としてポリピロール等の導電性ポリマーを用いるものであるから、本願発明の「固体電解コンデンサ」に相当する。

(5)以上によれば、本願発明と引用発明とは、
「陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回するとともに、導電性ポリマーをセパレータで保持したコンデンサ素子を備えた固体電解コンデンサにおいて、陰極電極箔として表面にカーボンからなる被膜を形成した箔を用いた固体電解コンデンサ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本願発明においては、「カーボンからなる皮膜」の「厚みが0.01?3μm」であるのに対して、引用発明においては、そのような特定をしていない点。

(相違点2)本願発明においては、「カーボンからなる皮膜を形成」する「陰極電極箔」が「プレーン箔」であるのに対して、引用発明においては、そのような特定をしていない点。

5.相違点についての当審の判断
(1)相違点1について
(1-1)陰極電極箔へのカーボン等の皮膜の形成を真空蒸着等により行うことは、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された下記の周知例1に記載されているように、当業者において慣用的に行われている技術である。また、カーボン皮膜を真空蒸着等により形成すれば、10オングストローム(0.001μm)?100μmといった膜厚を実現可能であることは、本願の出願前に日本国内において頒布された下記の周知例2に記載されているように、当業者において周知である。
そして、引用例の摘記事項b及びcに記載されるように、引用発明において解決すべき課題は、陰極用集電体と導電性ポリマー層の間の界面の接触抵抗を小さくして、インピーダンスを低減することにあることを考慮すれば、カーボンからなる皮膜を形成するに際し、上記実現可能な膜厚の範囲において、インピーダンスが小さくなるような適切な厚みを実験的に求めて設定することは、当業者が容易になし得たことである。

a.周知例1:特開2001-196270号公報
上記周知例1には、図1及び図2とともに、以下の記載がある。
「【0032】図1は本発明の固体電解コンデンサの構成を示した部分断面斜視図であり、図2は同コンデンサ素子の要部を拡大した概念図である。図1および図2において、エッチング処理により表面を粗面化した後に陽極酸化法により誘電体酸化皮膜9を形成したアルミニウム箔からなる陽極箔1と、アルミニウム箔をエッチング処理した表面にチタン、ジルコニウム、ハフニウムの少なくとも1種の金属または化合物もしくは炭素系材料の被覆層11を形成した陰極箔2とを樹脂を主体とする不織布からなるセパレータ3を介して巻き取ることによりコンデンサ素子10を作製し、上記陽極箔1と陰極箔2との間に導電性高分子の固体電解質4を形成してコンデンサ素子10が構成されている。
【0033】このコンデンサ素子10を有底円筒状のアルミニウムケース8に収納すると共に、アルミニウムケース8の解放端をゴム製の封口材7により陽極箔1及び陰極箔2のそれぞれから導出した外部導出用の陽極リード5と陰極リード6を封口材7を貫通するように封止して構成したものである。
【0034】次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】(実施例1)アルミニウム箔をエッチング処理により表面を粗面化した後に陽極酸化法により誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と、アルミニウム箔をエッチング処理した表面に真空蒸着法により金属のチタンを被覆した陰極箔との間にスパンボンド法により製造されたポリエチレンテレフタレート製の不織布からなるセパレータ(厚さ50μm、秤量25g/m^(2)、密度0.5g/cm^(3))を介在させて巻回することにより巻回形のコンデンサ素子を得た(このコンデンサ素子にアジピン酸アンモニウムの10重量%エチレングリコール溶液を含浸させた際の周波数120Hzにおける静電容量は700μFであった。)。
【0036】続いて、このコンデンサ素子をポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸1.0%水溶液中に浸漬して引き上げた後、150℃で5分間乾燥処理を行い、陽極箔と陰極箔の誘電体酸化皮膜上ならびにセパレータ繊維上にポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸の層を形成した。
【0037】続いて、このコンデンサ素子を複素環式モノマーであるエチレンジオキシチオフェン1部と酸化剤であるp-トルエンスルホン酸第二鉄2部と重合溶剤であるn-ブタノール4部を含む溶液に浸漬して引き上げた後、85℃で60分間放置することにより化学重合性導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンを陽極箔と陰極箔の間に形成した。
【0038】続いて、このコンデンサ素子を水洗-乾燥した後、樹脂加硫ブチルゴム封口材(ブチルゴムポリマー30部、カーボン20部、無機充填剤50部から構成、封口体硬度:70IRHD[国際ゴム硬さ単位])と共にアルミニウム製の外装ケースに封入した後、カーリング処理により開口部を封止し、更に陽極箔、陰極箔から夫々導出された両リード端子をポリフェニレンサルファイド製の座板に通し、リード線部を扁平に折り曲げ加工することにより面実装型の固体電解コンデンサを作製した(サイズ:直径10mm×高さ10mm、定格電圧10V)。
「【0044】(実施例7)上記実施例1において、真空蒸着法により金属のチタンを被覆した陰極箔の代わりに、真空蒸着法によりカーボンを被覆した陰極箔を用いた以外は実施例1と同様に面実装型の固体電解コンデンサを作製した。」

b.周知例2:特開平5-159984号公報
上記周知例2には、以下の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は基材表面に硬質炭素皮膜を形成した電解コンデンサ用電極箔を使用した電解コンデンサ、特には音響用電解コンデンサに関するものである。」
「【0009】
【課題を解決するための手段】このような課題を解決するために、本発明者らは種々の実験および検討を行なった結果、少なくともいずれか一方の電極箔に硬質炭素皮膜を形成した電極箔を使用すると、優れた再生音を得ることができる電解コンデンサを提供することができることが判明した。
【0010】本発明に係る硬質炭素皮膜とは基材表面に化学気相法(CVD法)や物理蒸着法(PVD法)により得られる機械的に硬い炭素皮膜を言い、非晶質構造、硬質炭素皮膜中にダイヤモンド粒子が存在するもの、多結晶質のダイヤモンド膜状のものなどを含む。
【0011】硬質炭素皮膜の合成法には熱的な原料ガスの分解と放電プラズマを利用したCVD法と、スパッタリング、イオンプレ-ティング、真空蒸着などのPVD法とがあるが、電極箔に熱衝撃を与えないという点では放電プラズマCVD法が最も好ましい。」
「【0014】このような硬質炭素皮膜はCVD法またはPVD法により、特にはCVD法により基材であるアルミニウム箔を使用した陽極箔または陰極箔に、陽極箔および陰極箔の両箔に付着形成するのが好ましい。この硬質炭素皮膜は電極箔表面上に10オングストロ-ム?100μmの範囲で付着形成するのが好ましい。より好ましくは50オングストロ-ム?5000オングストロ-ムの範囲で付着形成するのがよい。硬質炭素皮膜は電極箔の一方の面のみに形成してもよいが、両面に形成するのが好ましい。アルミニウム箔の厚さとしては、10?200μmのものが使用される。アルミニウム箔の純度としては、99.0%以上のものが使用される。特に陽極用のアルミニウム箔としては純度が99.9%以上のものが好適に使用される。陰極用のアルミニウム箔としては純度が99.5%以上のものが好適に使用される。また、陰極用のアルミニウム箔では銅との合金箔が使用されることもある。」

(1-2)また、本願の明細書の0021段落には、本願発明における「0.01?3μm」というカーボンからなる皮膜の厚みが好ましい理由が記載されているが、当該記載は定性的なものにすぎず、実験結果等に裏付けられた具体的な理由ではない。また、同0020?0027段落に記載された実施例及び比較例をみても、カーボンからなる皮膜の厚みが0.3μmのものしか記載がないから、これらの実施例及び比較例は、上記上限値及び下限値において格別顕著な効果を奏することを示すものとはいえない。
また、本願の明細書及び図面を精査しても、他に本願発明において「カーボンからなる皮膜」を「厚みが0.01?3μm」としたことの技術的意義について記載した箇所は存在せず、本願出願時の技術常識を勘案しても、厚みを上記のように定めたことにより、予期しない程度の顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。
よって、本願発明において、「カーボンからなる皮膜」の厚みを「0.01?3μm」としたことの臨界的意義を認めることはできない。

(1-3)したがって、引用発明のカーボン薄膜層について、本願発明の如き厚みを選択することは、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(2)相違点2について
(2-1)引用例には、陰極集電体としてカーボン薄膜層が形成された金属箔を用いる場合に、当該金属箔の表面を粗面化する等の特段の処理を施すことは記載されておらず、図3(C)をみても、カーボン薄膜が形成された金属箔の表面は平滑なものであり、プレーン箔が用いられているものと認められる。したがって、相違点2は実質的なものではない。

(2-2)仮に、相違点2が実質的なものであってとしても、巻回型の固体電解コンデンサにおいて、被覆を形成した金属箔を陰極箔として用いるに際し、該金属箔としてエッチングを施さない箔、すなわち、プレーン箔を用いることは、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された下記の周知例3及び4にも記載されているように、当業者における周知技術であるのだから、引用発明において、金属箔として「プレーン箔」を用いることは、当業者が必要に応じて適宜選択し得たことである。

a.周知例3:特開2002-299181号公報
上記周知例3には、以下の記載がある。
「【0012】
【発明の実施の形態】本発明は、電解質層として、導電性ポリマーを用いた巻回型の固体電解コンデンサにおいて、陰極箔上に金属窒化物または弁金属からなる皮膜を形成し、この陰極箔を熱処理することによって、静電容量値が大幅に向上し、さらにインピーダンス特性が向上することが判明することによってなされたものである。
【0013】ここでの熱処理として、200℃以上で1時間以上、好ましくは250℃以上で2時間以上、さらに好ましくは3時間以上の熱処理を施すことが好ましい。熱処理は、陰極箔上に金属窒化物または弁金属からなる皮膜を形成した後に行ってもよいし、皮膜を形成した陰極箔と陽極箔をセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成した後に行ってもよい。
【0014】ここで、この導電性ポリマーとしてはチオフェン誘電体が好ましく、(化1)で示されるチオフェン誘電体を挙げることができる。なかでも反応性が良好で特性の良好な固体電解コンデンサを得ることができる、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。
【化1】略
ここで、XはOまたはS、XがOのとき、Aはアルキレン、またはポリオキシアルキレン、Xの少なくとも一方がSのとき、Aはアルキレン、ポリオキシアルキレン、置換アルキレン、置換ポリオキシアルキレン、ここで、置換基はアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基である。
【0015】以上のように、陰極箔上に金属窒化物または弁金属からなる皮膜を形成し、熱処理を施すことによって、本発明の効果を得るものである。ここで、通常は、陰極箔にはエッチッグ処理を施した金属箔を用いるが、エッチング処理をしない金属箔を用いても、本発明の効果が損なわれることはない。」

b.周知例4:特開2001-85277号公報
上記周知例4には、以下の記載がある。
「【0018】
【発明の実施の形態】本発明は、電解質層として、TCNQ錯塩からなる有機半導体を用いた巻回型の固体電解コンデンサにおいて、陰極箔の表面に酸化皮膜を形成し、さらにその上に、蒸着法によって金属窒化物からなる皮膜を形成することによって、静電容量値が大幅に向上し、さらにインピーダンス特性が向上することを明らかにすることによってなされたものである。
【0019】ここで、この有機半導体としては、N-nブチルイソキノリニウムTCNQ錯塩、N-メチルー3-nプロピルイミダゾルTCNQ錯塩、N-nアルキルイソキノリニウムTCNQ錯塩等を用いることができる。なお、TCNQとは、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンを意味する。また、これらのTCNQ錯塩は、公知の方法により調製することができる。
【0020】また、陰極箔の表面に酸化皮膜を形成し、さらにその上に、TiNを蒸着形成し、この陰極箔を用いてコンデンサを作成し、陰極箔のみの容量を測定したところ、その容量は無限大となることが判明した。これは、陰極箔の上に形成されたTiNが、陰極箔の表面に形成された酸化皮膜の一部を除去し、TiNと陰極箔金属が導通していることを意味する。ここで、電解コンデンサの静電容量Cが、陽極側の静電容量Caと陰極側静電容量Ccとが直列に接続された合成容量となることは、次式により表される。
【数1】略
上式より明らかなように、Ccが値を持つ(陰極箔が容量を持つ)限り、コンデンサの容量Cは陽極側の静電容量Caより小さくなる。言い扱えれば、本発明のように陰極箔表面に蒸着したTiNと陰極箔金属とが導通して陰極箔の容量Ccが無限大となった場合には、陰極箔の容量成分がなくなり、陽極箔と陰極箔の直列接続の合成容量であるコンデンサの容量Cは陽極側の静電容量Caと等しくなって、最大となる。
【0021】そして、本発明のように陰極箔の表面に酸化皮膜を形成し、さらにその上に金属窒化物を形成しているので、この酸化皮膜と金属窒化物の相乗効果によって陰極箔の表面の化学的安定性が向上しているものと思われるが、高周波領域でのインピーダンス特性が向上する。また、この陰極箔の安定性の向上によって、寿命特性の向上も期待できる。
【0022】以上のように、陰極箔の表面に酸化皮膜を形成し、さらにその上に金属窒化物からなる皮膜を形成することによって、本発明の効果を得るものである。ここで、通常は、陰極箔にはエッチッグ処理を施した金属箔を用いるが、エッチング処理をしない金属箔を用いても、上述したような状況であるので、本発明の効果が損なわれることはない。」

(2-3)したがって、相違点2は実質的なものではなく、実質的なものと認めたとしても、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(3)以上より、本願発明は、周知技術を勘案して、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶をすべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-13 
結審通知日 2012-01-18 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2003-342694(P2003-342694)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹口 泰裕  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 酒井 英夫
西脇 博志
発明の名称 固体電解コンデンサ  

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