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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1254121
審判番号 不服2008-3624  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-14 
確定日 2012-03-23 
事件の表示 特願2005-107897「毛髪繊維の処理方法及び該方法の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日出願公開、特開2005-290004〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年4月4日(優先権主張2004(平成16)年4月2日 フランス(FR))の出願であって、平成19年10月26日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成19年11月20日)、これに対し、平成20年2月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年3月14日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成20年3月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年3月14日付けの手続補正を却下する。

1.補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲請求項1の記載(平成19年2月22日付け手続補正書によるもの):
「【請求項1】
化学的な酸化剤の付加的適用を含まない毛髪繊維の処理方法において、以下の工程:
- セラミドを含有せず、チオール化合物から選択される少なくとも一の還元剤、及びポリマーではない少なくとも一の化粧品用活性剤を含有する還元組成物であって、前記還元剤が還元組成物の全重量に対して5重量%未満である還元組成物を毛髪繊維に適用する適用工程;
- 少なくとも60℃の温度で、任意の毛髪繊維のすすぎ工程の前又は後に実施される、加熱用アイロンを用いた毛髪繊維の温度上昇工程;
からなることを特徴とする方法。」を、
「【請求項1】
化学的な酸化剤の付加的適用を含まない毛髪繊維の処理方法において、以下の工程:
- セラミドを含有せず、チオール化合物から選択される少なくとも一の還元剤、及びポリマーではない少なくとも一の化粧品用活性剤を含有する還元組成物であって、前記還元剤が還元組成物の全重量に対して5重量%未満である還元組成物を毛髪繊維に適用する適用工程;
- 120℃?220℃の範囲の温度で、任意の毛髪繊維のすすぎ工程の前又は後に実施される、加熱用アイロンを用いた毛髪繊維の温度上昇工程;
からなることを特徴とする方法。」
と補正することを含むものである。なお、下線部は補正箇所を示す。

2.独立特許要件についての検討
特許請求の範囲請求項1についての上記の補正は、加熱用アイロンを用いた毛髪繊維の温度上昇工程が実施される温度を「少なくとも60℃」から「120℃?220℃の範囲」に限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-1.引用刊行物等の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2(特開2002-356408号公報;以下、「引用例」という。)には、下記の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】カチオン性界面活性剤、高級アルコールおよび油分を主たる成分とし、還元剤を2?11重量%含有し、かつpHが7?12であることを特徴とするヘアトリートメント。
【請求項2】請求項1記載のヘアトリートメントを毛髪に塗布し、3?30分間放置した後、水洗し、水分が一部残った状態に乾燥した後、上記毛髪を温度が60?220℃のカール用ヘアアイロンのロッド部に巻き付けて加熱処理して毛髪にカール性を付与することを特徴とする毛髪のセット方法。
【請求項3】請求項1記載のヘアトリートメントを毛髪に塗布した後、3?30分間放置し、水洗し、水分が一部残った状態に乾燥した後、上記毛髪を温度が60?220℃のカール用ヘアアイロンのロッド部に巻き付けて加熱処理して毛髪にカール性を付与し、上記毛髪をカール用ヘアアイロンのロッド部からはずした後、上記毛髪に酸化剤を含有するヘアトリートメントを塗布し、3?30分間放置した後、水洗し、乾燥して仕上げることを特徴とする毛髪のセット方法。
【請求項4】請求項1記載のヘアトリートメントを毛髪に塗布し、3?30分間放置した後、水洗し、水分が一部残った状態に乾燥した後、上記毛髪を温度が60?220℃のストレート用ヘアアイロンのプレート部に挟んで加熱下でプレスして毛髪にストレート性を付与することを特徴とする毛髪のセット方法。
【請求項5】請求項1記載のヘアトリートメントを毛髪に塗布し、3?30分間放置した後、水洗し、水分が一部残った状態に乾燥した後、上記毛髪を温度が60?220℃のストレート用ヘアアイロンのプレート部に挟んで加熱下でプレスして毛髪にストレート性を付与し、上記毛髪をストレート用ヘアアイロンのプレート部からはずした後、上記毛髪に酸化剤を含有するヘアトリートメントを塗布し、3?30分間放置した後、水洗し、乾燥して仕上げることを特徴とする毛髪のセット方法。」(特許請求の範囲)

(b)「【0002】
【従来の技術】ヘアトリートメントは、カチオン性界面活性剤、高級アルコールおよび油分を主たる成分とし、主として、毛髪に柔軟性を付与し、かつ毛髪の触感や外観を好適に変化させる目的で使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のヘアトリートメントでは、毛髪にカール性を付与したり、毛髪にストレート性を付与することができなかった。
【0004】従って、本発明は、上記のような従来技術における問題点を解決し、毛髪を損傷させることなく、毛髪にカール性を付与したり、毛髪にストレート性を付与することができるヘアトリートメントを提供することを目的とする。」(明細書段落【0002】?【0004】)

(c)「【0007】
【発明の実施の形態】本発明のヘアトリートメントが従来のヘアトリートメントと特に異なっている点は、還元剤を含有していることであるが、この還元剤としては、例えば、チオグリコール酸やチオグリコール酸アンモニウムなどのチオグリコール酸塩類、システインやシステイン塩酸塩などのシステイン酸塩類、N-アセチルシステインやシステアミンなどのシステイン誘導体、チオグリセリルアルキルエーテル、メルカプトアルキルアミド、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩などを用いることができる。」(明細書段落【0007】)

(d)「【0008】そして、上記還元剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができるが、そのヘアトリートメント中の含有量は、2?11重量%であることが必要であり、特に4?11重量%であることが好ましい。還元剤のヘアトリートメント中の含有量が2重量%より少ない場合は、毛髪にカール性またはストレート性を付与することができず、還元剤のヘアトリートメント中の含有量が11重量%より多い場合は、毛髪が損傷を受け、毛髪の艶や均一なスベリ(滑り)感が低下するようになる。」(明細書段落【0008】)

(e)「【0016】そして、油分としては、例えば、アボカド油、シアバターのような植物油脂、ミンク油、卵黄油などの動物油脂、マッコウ鯨油、ミツロウ、ラノリンなどの動物性ロウ、ホホバ油などの植物性ロウ、モンタンロウなどの鉱物性固体ロウ、パラフィン、ポリエチレン、ワセリンなどの炭化水素、オレイン酸などの高級脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピルなどのエステル類、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素オイル、ジメチルポリシロキサン、環状シロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーンなどのシリコーンオイルなどを用いることができる。」(明細書段落【0016】)

(f)「【0018】本発明のヘアトリートメントは、上記成分を水または水を主剤とする媒体中に溶解または分散を分散させることによって調製される。その際、必要に応じて、例えば、ジチオグリコール酸またはその塩類などのような反応調整剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの各種界面活性剤、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、プルランまたはその誘導体、カラギーナン、キサンタンガム、各種アルキロールアミドなどの増粘剤、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリンなどの湿潤剤、コラーゲン、ケラチン、絹、大豆タンパク、小麦タンパクなどの動植物由来のタンパク質の加水分解物やその誘導体、防腐剤、安定剤、抗炎症剤、着色剤、キレート剤、香料などを適宜含有させることができる。」(明細書段落【0018】)

(g)「【0028】本発明において、カール用ヘアアイロンのロッド部の温度(ただし、表面温度)を60?220℃に設定しているのは、カール用ヘアアイロンのロッド部分の温度が60℃より低い場合は、温度が低すぎるために毛髪に充分なカール性を付与することができず、カール用ヘアアイロンのロッド部の温度が220℃より高い場合は、毛髪が損傷を受け、毛髪の艶や均一なスベリ感が低下するという理由によるものである。」(明細書段落【0028】)

(h)「【0038】本発明において、ストレート用ヘアアイロンのプレートの温度を60?220℃に設定しているのは、ストレート用ヘアアイロンのプレート部の温度が60℃より低い場合は、温度が低すぎるために毛髪に充分なストレート性を付与することができず、ストレート用ヘアアイロンのプレート部の温度が220℃より高い場合は、毛髪が損傷を受け、毛髪の艶や均一なスベリ感が低下するという理由によるものである。」(明細書段落【0038】)

2-2.対比・判断
上記引用例の特許請求の範囲請求項2には、「カチオン性界面活性剤、高級アルコールおよび油分を主たる成分とし、還元剤を2?11重量%含有するヘアトリートメント」を「毛髪に塗布し、3?30分間放置した後、水洗し、水分が一部残った状態に乾燥した後、温度が60?220℃のカール用ヘアアイロンのロッド部に巻き付けて加熱処理して毛髪にカール性を付与することを特徴とする毛髪のセット方法」が記載されており、また同じく請求項4には、「カチオン性界面活性剤、高級アルコールおよび油分を主たる成分とし、還元剤を2?11重量%含有するヘアトリートメント」を「毛髪に塗布し、3?30分間放置した後、水洗し、水分が一部残った状態に乾燥した後、温度が60?220℃のストレート用ヘアアイロンのプレート部に挟んで加熱下でプレスして毛髪にストレート性を付与することを特徴とする毛髪のセット方法」が記載されている(上記記載(a)参照)ことから、上記引用例には、「カチオン性界面活性剤、高級アルコールおよび油分を主たる成分とし、還元剤を2?11重量%含有するヘアトリートメントを毛髪に塗布し、3?30分間放置した後、水洗し、水分が一部残った状態に乾燥した後、温度が60?220℃のヘアアイロンで加熱処理して毛髪にカール性もしくはストレート性を付与する毛髪のセット方法」の発明が記載されているものと認められる(以下、この発明を「引用発明」という)。

そこで本願補正発明と、上記引用発明とを比較すると、両者の対応関係は以下のとおりである。

i)「化学的な酸化剤の付加的適用を含まない」について
引用例の特許請求の範囲請求項3及び5には、加熱処理後の毛髪にさらに酸化剤を含有するヘアトリートメントを塗布する毛髪のセット方法が記載されており(上記記載(a)参照)、「酸化剤を含有するヘアトリートメントを塗布する」という記載のない請求項2及び4に基づく引用発明が「化学的な酸化剤の付加的適用を含まない」ものであることは明らかである。

ii)「毛髪繊維の処理方法」
引用発明において使用されている「ヘアトリートメント」は、毛髪に柔軟性を付与し、かつ毛髪の感触や外観を好適に変化させる目的で使用される従来のヘアトリートメントに、さらにカール性やストレート性を付与するという機能を持たせたものであり(上記記載(b)参照)、このようなヘアトリートメントを用いた引用発明の「毛髪のセット方法」は、本願補正発明の「毛髪繊維の処理方法」に相当する。

iii)「セラミドを含有せず」
引用例には、ヘアトリートメントに必要に応じて各種添加剤を添加できることが記載されており(上記記載(f)参照)、「セラミド」も添加剤として使用され得るものではあるが、引用発明のヘアトリートメントの必須成分は、カチオン性界面活性剤、高級アルコール、及び油分だけであり、セラミドを含有しないものも当然含まれているものである。

iv)「チオール化合物から選択される少なくとも一の還元剤」
引用例には還元剤の具体例として、チオグリコール酸、システインやシステイン誘導体が挙げられていることから(上記記載(c)参照)、引用発明の「還元剤」は、本願補正発明の「チオール化合物から選択される少なくとも一の還元剤」に相当する。

v)「少なくとも一の化粧品用活性剤」
引用発明は主たる成分として「カチオン性界面活性剤、高級アルコール、および油分」を含むものであり、これらの成分は、本願補正発明の「少なくとも一の化粧品用活性剤」に相当する。

vi)「還元組成物」
引用発明の「ヘアトリートメント」は、還元剤と化粧品活性剤を含有するものであるから、本願補正発明の「還元組成物」に相当する。

vii)「任意の毛髪繊維のすすぎ工程の前又は後」
引用発明においては、還元剤を含有するヘアトリートメントを毛髪に塗布し、3?30分間放置した後、水洗してから加熱処理を行っていることから、加熱処理は「任意の毛髪繊維のすすぎ工程の後」に行われている。

本願補正発明と、上記引用発明の対応関係は上記i)?vii)のとおりであるから、両者は、

「化学的な酸化剤の付加的適用を含まない毛髪繊維の処理方法において、以下の工程:
- セラミドを含有せず、チオール化合物から選択される少なくとも一の還元剤、及び少なくとも一の化粧品用活性剤を含有する還元組成物であって、還元組成物を毛髪繊維に適用する適用工程;
- 任意の毛髪繊維のすすぎ工程の後に実施される、加熱用アイロンを用いた毛髪繊維の温度上昇工程;
からなることを特徴とする方法。」

である点で一致し、一方、次の点で相違している。

(相違点1)
本願補正発明においては、「ポリマーではない少なくとも一の化粧品用活性剤を含有する」のに対して、引用発明においては、「カチオン性界面活性剤、高級アルコール、および油分」を含有する点。

(相違点2)
本願補正発明においては、還元剤が「還元組成物の全重量に対して5重量%未満である」のに対して、引用発明においては、ヘアトリートメント中の還元剤の含有量が「2?11重量%」である点。

(相違点3)
本願補正発明においては、加熱用アイロンを用いた毛髪繊維の温度上昇工程が「120℃?220℃の範囲の温度」で行われるのに対して、引用発明においては、ヘアアイロンでの加熱処理が「60?220℃」の温度で行われている点。

<相違点1についての検討>
「ポリマーでない」という用語について、本願明細書において明確に定義されてはいないが、平成18年7月26日付けの拒絶理由通知に対応して提出された平成19年2月22日付け手続補正書において、出願時の請求項1における「非重合性活性剤から選択される少なくとも一の化粧品用活性剤」が「ポリマーではない少なくとも一の化粧品用活性剤」と補正された経緯からみて、出願時において「非重合性化粧品用活性剤」として明細書中で説明されていたものが、本願補正発明における「ポリマーではない化粧品用活性剤」に該当するものと認められる。
これに対して、本願明細書段落【0006】には用いられる化粧品用活性剤について以下の記載がある。
「これ又はこれらの非重合性の化粧品用添加剤(類)は、ロウ、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性又は双性イオン性の界面活性剤、抜毛に抗する活性剤、抗フケ剤、金属イオン封鎖剤、乳白剤、染料、サンスクリーン剤、ビタミン類、及びプロビタミン類、脂肪酸、脂肪アルコール、エステル、真珠光沢顔料、鉱物性、植物性又は合成油、並びに香料及び防腐剤、及びそれらの任意の組合せからなる群から典型的には選択される。
還元組成物において適切な化粧品用活性剤として使用され得るビタミン類又はプロビタミン類には、ビタミンA、B3(ナイアシンアミド)、B5、C、E、F及びプロビタミンB5が含まれる。」
上記記載からすれば、引用発明において化粧品用活性剤として使用されている「カチオン性界面活性剤」及び「高級アルコール」は、本願補正発明における「ポリマーでない」化粧品用活性剤に該当するから、引用発明が、「ポリマーでない少なくとも一の化粧品用活性剤を含有する」という要件を満たすことは明らかである。
したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

<相違点2についての検討>
本願明細書段落【0033】には、還元剤の含有量について「還元組成物に使用されるチオール基含有化合物(類)は、典型的には、還元組成物の全重量に対して0.1?30重量%、好ましくは0.5?20重量%、より好ましくは1?10重量%である。特に好ましい実施態様において、還元組成物に使用されるチオール基含有化合物(類)は、還元組成物の全重量に対して5重量%未満である。」と記載されているが、何を基準としてこのような範囲を定めたのかは不明であり、結局のところ本願補正発明において還元剤を「還元組成物の全重量に対して5重量%未満である」とする理由は不明である。
しかし、本願明細書段落【0004】には、「特に本発明の目的は、毛髪へのダメージを制限しつつ、毛髪繊維の性質を変化させ、毛髪のボリュームをコントロールし、特に柔軟性、光沢、コーミングの容易性に関し、毛髪に付与される美容的利点を高めることができ、同時に着色された毛髪の色調をより良好に保持できる毛髪繊維の処理方法を提供することにある」という記載があり、還元剤の作用に関するこの出願当時の技術常識を併せて考えると、還元剤の含有量がこれらの目的のいくつかを達成するために寄与していることは推測できるものである。
一方、引用発明においては、還元組成物であるヘアトリートメント中の還元剤の含有量は「2?11重量%であることが必要」であるとされ、「還元剤のヘアトリートメント中の含有量が2重量%より少ない場合は、毛髪にカール性またはストレート性を付与することができず、還元剤のヘアトリートメント中の含有量が11重量%より多い場合は、毛髪が損傷を受け、毛髪の艶や均一なスベリ(滑り)感が低下するようになる」と記載されており(上記記載(d)参照)、還元剤の含有量の範囲については、本願補正発明において好ましいとされている1?10重量%とほぼ重複し、また、還元剤の含有量によって影響を受ける毛髪のカール性やストレート性、毛髪の損傷の程度、毛髪の艶や均一なスベリ感などは、本願補正発明の上記目的における毛髪のボリューム、毛髪のダメージ、毛髪の光沢やコーミングの容易性などと共通している。
そして、還元剤が着色された毛髪に影響を与えることは技術常識としてこの出願時に広く知られていることなどを考え合わせると、引用発明において、毛髪のカール性やストレート性、毛髪の損傷の程度、毛髪の艶や均一なスベリ感、着色された毛髪の色調の保持性等を考慮して、還元剤の含有量を2?11重量%の範囲内のさらに狭い範囲である5重量%未満に限定することは、当業者が実施に当たり適宜なし得ることである。
なお、請求人は請求の理由において、還元剤の含有量について「一方、本願当初明細書実施例では、還元剤であるチオグリコール酸を1.1g、すなわち1.1%しか含まない還元組成物が十分な効果を有することが記載されております。かくして、本願発明は引用文献2からは想到し得ないような少量の還元剤を含有するものであり、引用文献2に記載もしくは示唆されるものではありません。」と主張している。
しかしながら、明細書段落【0041】に記載されている実施例は、全体量100gに対して単に還元剤を1.1g配合した還元組成物をを用いて毛髪を処理し、「結果として、毛髪繊維は、良好なテクスチャー、良好にコントロールされたボリューム、良好な色調、及び効果の長時間にわたる持続性が示されている」ことが記載されているのみで、どのように効果の確認を行ったのか、従来例と比較してどのように優れているのかが実験結果をもって具体的に示されているわけではないから、還元剤を1.1%しか含まない還元組成物が十分な効果を有するかどうかは不明である。また、還元剤を1.1%しか含まない還元組成物が十分な効果を有するものであると仮定したとしても、本願補正発明における還元剤の含有量は「還元組成物の全重量に対して5重量%未満」とされているだけであって「1.1%しか含まない」ものに限定されているわけではないから、請求人の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。

<相違点3についての検討>
本願明細書段落【0039】には、アイロンによる毛髪繊維の温度上昇工程について「毛髪繊維の温度は、好ましくは60℃?250℃、より好ましくは120℃?220℃の範囲の温度で上昇する」と記載されているが、何を基準としてこのような範囲を定めたのかは不明であり、本願補正発明において加熱用アイロンを用いた毛髪繊維の温度上昇工程を「120℃?220℃の範囲」に特定する理由は不明である。しかし、本願明細書段落【0004】に記載されている本願補正発明の目的を勘案し、かつこの出願時の技術常識を併せて考えると、アイロンによる毛髪繊維の温度上昇工程の温度がこれらの目的のいくつかを達成するために寄与していることは推測できるものである。
一方、引用発明において、ヘアアイロンのロッド部もしくはプレートの温度を「60℃?220℃」に設定しているのは、60℃より低い場合は温度が低すぎるために毛髪に充分なカール性もしくはストレート性を付与することができず、220℃より高い場合は 毛髪が損傷を受け、毛髪の艶や均一なスベリ感が低下するという理由によるものであり(上記記載(g)(h)参照)、ヘアアイロンの温度によって影響を受ける毛髪のカール性やストレート性、毛髪の損傷の程度、毛髪の艶や均一なスベリ感などは、本願補正発明の上記目的における毛髪のボリューム、毛髪のダメージ、毛髪の光沢やコーミングの容易性などと共通している。
したがって、引用発明において、毛髪のカール性やストレート性、毛髪の損傷の程度、毛髪の艶や均一なスベリ感等を考慮して、ヘアアイロンのロッド部もしくはプレートの温度を60℃?220℃の範囲内のさらに狭い範囲である120℃?220℃の範囲に限定することは、当業者が実施に当たり適宜なし得ることである。

上記相違点1は実質的な相違点ではなく、相違点2及び3に挙げられた構成は当業者であれば容易に導き出すことができるものであって、このような構成を採用した効果も予測される範囲内のものであって、格別のものではない。
したがって本願補正発明は、引用例に記載された発明、及びこの出願日前周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3.むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成20年3月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成19年2月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明は以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
化学的な酸化剤の付加的適用を含まない毛髪繊維の処理方法において、以下の工程:
- セラミドを含有せず、チオール化合物から選択される少なくとも一の還元剤、及びポリマーではない少なくとも一の化粧品用活性剤を含有する還元組成物であって、前記還元剤が還元組成物の全重量に対して5重量%未満である還元組成物を毛髪繊維に適用する適用工程;
- 少なくとも60℃の温度で、任意の毛髪繊維のすすぎ工程の前又は後に実施される、加熱用アイロンを用いた毛髪繊維の温度上昇工程;
からなることを特徴とする方法。」(以下、「本願発明」という)

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は、前記II.2.2-1.に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断
前記II.2.2-2.で検討した本願補正発明は、上記本願発明において、加熱用アイロンを用いた毛髪繊維の温度上昇工程が実施される温度を「少なくとも60℃」から、さらに「120℃?220℃の範囲」に限定するものであり、言い換えれば本願発明の構成要件にさらなる構成要件を付加したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.2.2-2.において検討したとおり、引用例に記載された発明、及びこの出願日前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明及びこの出願の出願日前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願日前に頒布された上記引用例に記載された発明、及び本願出願日前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-31 
結審通知日 2011-09-27 
審決日 2011-10-17 
出願番号 特願2005-107897(P2005-107897)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 森井 隆信
秋月 美紀子
発明の名称 毛髪繊維の処理方法及び該方法の使用  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 義教  

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