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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C |
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管理番号 | 1254139 |
審判番号 | 不服2010-22290 |
総通号数 | 149 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-04 |
確定日 | 2012-03-19 |
事件の表示 | 特願2005-262599「軸受部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年3月22日出願公開、特開2007-71375〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成17年9月9日の出願であって、その請求項1?3に係る発明は特許を受けることができないとして、平成22年7月6日付けで拒絶査定がされたところ、平成22年10月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成22年6月24日付け、及び平成23年8月11日付けの手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成22年10月4日付けの手続補正は、当審において平成23年6月13日付けで決定をもって却下された。 「【請求項1】 電鋳加工により、マスター軸の外周面に目的の金属を析出させて形成された厚み10?100μmの電鋳部を内周に有すると共に、電鋳部の外周に電鋳部をインサートして射出成形された樹脂部を有し、電鋳部の内周面に動圧発生部が形成され、この動圧発生部を有する内周面と軸部材の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成する軸受部材を製造するに際し、 電鋳部および樹脂部の軸方向両側への伸長変形を許容しつつ樹脂部の外周面に縮径方向の圧迫力を付与して電鋳部の内周面を成形型の凹凸形状に押し当てることにより、電鋳部の内周面に前記成形型の凹凸形状に対応した動圧発生部を型成形し、前記圧迫力の解放による樹脂部のスプリングバックにより電鋳部を拡径させ、成形型を電鋳部の内周から引き抜くことを特徴とする軸受部材の製造方法。」 2.当審における平成23年6月13日付けの拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項 (1)刊行物1:特開2003-56552号公報 (2)刊行物2:特開昭63-242422号公報 (3)刊行物3:特開昭60-30825号公報 (刊行物1) 刊行物1には、「樹脂製軸受部品及びその製造方法」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。 (a)「本発明は、樹脂製軸受部品の軸孔に軸部品を嵌合して、両者が相対的に回転又は摺動又は摺動回転できるように、係合支持する樹脂製軸受部品及びその製造方法に係るものであって、特に高精密な回転又は摺動又は摺動回転を必要とする樹脂製軸受部品及びその製造方法に好適である。」(第2頁第1欄第21?26行、段落【0001】参照) (b)「この種の樹脂製軸受部品は、軽量で慣性力が小さいことや大量生産が可能であること等の理由から、歯車やカムなどを含む一般的な軸受部品から、センサーやポテンショメータ或いはアクチュエータ等の高精密部品の軸受部に至るまで幅広く利用されている。 これら高精密部品の中でも、例えば光学式情報記録再生装置で光学的ピックアップを行うレンズホルダ等における軸受部の場合には、精密な真円度及び内径寸法精度が必要であって、軸とのクリアランスを数μ以下にすることが要求されており、また負荷荷重に対する高い機械的強度と摺動性も必要である。」(第2頁第1欄第28?38行、段落【0002】及び【0003】参照) (c)「図1で示すように電鋳マスターとなるマスター軸1を用い、マスター軸1の非電鋳部2をマスキングした状態で電鋳加工を施し、筒状の電鋳部3を設けた電鋳軸4を造る。 マスター軸1には、剛性などの機械的強度が大きくて摺動性も良く、耐熱性や耐薬品性にも優れた材質で形成されるが、図示の実施形態では、焼き入れ処理を施したステンレス鋼でストレートの円柱状に形成したむく軸を使用しており、ステンレス鋼のなかでも特にSUS420Jなどの使用が望ましい。 マスター軸1の材質は、ステンレス鋼に限定されるものではなく、同等の性能を有して電鋳部3の加工及び電鋳の分離ができる他の材質の使用も可能であり、例えばニッケルクロム鋼その他のニッケル合金やクロム合金などの硬質金属材や、セラミックの表面に硬質金属被膜を施したものなども使用可能である。 マスター軸1の形状は、むく軸だけではなく中空軸や中空部に樹脂材を埋め込んだ中実軸の形態を採ることも可能であり、また樹脂製軸受部品が摺動軸の場合には、横断面が一定ならば多角形状その他の非円形状の形態もあり、更に樹脂製軸受部品の用途によっては、軸の全長に渡って一定の横断面形状ではない形態を採ることも可能である。 非電鋳部2のマスキングは、レジスト処理や絶縁材入りインクをシルク印刷して、非電鋳部2の外周面に対して耐酸性及び非伝導性の被覆材を添着させ、電鋳処理する際にマスター軸1の電鋳部3のみに作用させる保護被膜を形成する。 電鋳部3には、公知の電鋳加工と同様に各種の電鋳金属の使用が可能であるが、図示の実施形態ではマスター軸1と同じステンレス材を用い、マスター軸1からの分離を容易にするために、カーボンなどの摺動材及びサッカリンなどの応力緩和剤を含有させており、電鋳の厚みは略0.2?0.3mm程度である。 なお、マスター軸1に電鋳加工を施した際に、電鋳部3の両端側は非電鋳部2に迫り出し、内周面にテーパ状の面取り部3aが自然に形成されるが、この面取り部3aはマスター軸1から電鋳部3を分離させる際や、軸受部品13の電鋳部3内周面に装着させて使用する軸部品を着脱させる際に役立つ。 すなわち、マスター軸1から電鋳部3を分離させる際には、例えば高温又は低温の高圧エアーを接合部分に吹き付けるなどして両者の熱収縮率の差を利用したり、軸方向に打撃を加えたりするが、高圧エアーを吹き付けるのに面取り部3aは都合が良く、また軸部品を着脱させる際にはガイドとして作用する。 次に、図2で示すように上型5と下型6とを備えた射出成形金型のキャビティ10内に、コアロッドの代わりに電鋳軸4をインサートさせた状態にし、スプール7とランナー8及びゲート9を介して、液晶ポリマー(LCP)などによる樹脂材を注入して射出成形を行う。 なお、樹脂材として液晶ポリマー(LCP)の他に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性ポリマー、これら以外でも同様の機能を発揮する高機能樹脂材を使用することが可能であり、必要に応じて繊維強化剤や潤滑剤となる添加剤を加えても良い。 これにより、図3で示すように電鋳軸4と樹脂成形部11が一体になった樹脂成形品12が得られ、樹脂成形品12から電鋳軸4を引き抜くと、図4で示すように電鋳部3は樹脂成形部11の軸孔内周面に付着した状態で電鋳殻として残余され、非電鋳部2にマスキングしたマスター軸1のみが分離する。 従って、図4で示すように、樹脂成形部11の軸孔内周面に電鋳殻である電鋳部3が一体形成された軸受部品13を得ることができるが、この軸受部品13の軸孔内周面は、マスター軸1の外周面に適合した寸法精度が高いものであり、分離したマスター軸1は電鋳マスターとして繰り返し使用が可能である。 また電鋳部3は、電鋳の基本的性質から外周面が粗面で内周面が円滑面に形成されるので、電鋳部3外周面に対する樹脂成形部11の軸孔内周面の付着力が良好であると共に、軸受部品13の電鋳部3内周面に装着させて使用する軸に対する摺動性も良好であり、研磨などの後処理を格別に行う必要がない。(中略) 第1の実施形態の場合には、電鋳部3をマスター軸1と一体にして射出成形が行われるので、電鋳部3を位置決め精度良く容易にインサートできること、また射出成形後に電鋳部3から分離させたマスター軸1は電鋳マスターとして繰り返し使用が可能で経済的であること、同じ電鋳マスターから多数の軸受部品13を製造するので、寸法精度などにバラツキのない均質の製品が得られる。」(第2頁第2欄第50行?第3頁第4欄第39行、段落【0013】?【0027】参照) したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 【引用発明】 電鋳加工により、マスター軸1の外周面に目的の金属を析出させて形成された厚み略0.2?0.3mm程度の電鋳部3を内周に有すると共に、電鋳部3の外周に電鋳部3をインサートして射出成形された樹脂成形部11を有し、電鋳部3の内周面と軸の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成する軸受部品13の製造方法。 (刊行物2) 刊行物2には、「流体軸受の製造方法」に関して、図面(特に、第2?6図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。 (d)「この発明は、軸とスリーブを有し、スリーブの軸受内径面に動圧発生みぞを有する流体軸受の製造方法に関するものである。」(第1頁左下欄第15?17行) (e)「11は一端側を小径に形成した棒状のパンチであって、小径部の外径面12の一部に動圧発生みぞつき流体軸受のへリングボーン型みぞの形状に対応して形成された複数個の突条13より成るみぞ加工部14が設けられている。15は比較的軟らかい黄銅合金製のスリーブでパンチ11のみぞ加工部14の外径D1より適度に大きい内径d2を有している。17はスリーブ15の外径D2より小さい内径d1の孔18を設け、両端近傍を軸方向外方に向け内径を連続的に増加するテーパー面18a、18bに形成したダイスである。ダイス17はダイスベース19上に載置されている。 そして、パンチ11のみぞ加工部14をスリーブ15内に同軸上に挿入するとともに、該スリーブ15をパンチ11の径差段部11’に軸方向に位置決めし、ダイス17の孔18にパンチ11によりスリーブ15を同軸上に押し通すことによりスリーブ15の内径面16に圧印によりヘリングボーン型の動圧発生みぞ3が成形される。 スリーブ15の内径d2は、ダイス17の孔18を通過後にスプリングバックによりダイス通過時の寸法よりも大きくなるので、内径面16にヘリングボーン型の動圧発生みぞ3が成形されたスリーブ15は、パンチ11のみぞ加工部14から取り外すことができる。 また、上記のスプリングバックの量が少ない場合は、スリーブ15を適度に加熱して熱膨張させ、パンチ11のみぞ加工部14から取り外すことができる。この取り外し方法は、パンチ11の材料である工具鋼より熱膨張係数の大きい黄銅合金製のスリーブに適している。 なお、実施例では、動圧発生みぞがへリングボーン型である場合について説明したが、本発明は他の型の動圧発生みぞにも適用しうる。」(第2頁右上欄第13行?右下頁第6行) (刊行物3) 刊行物3には、「すべり軸受とその製造法」に関して、図面(特に、第1図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、大文字を小文字とした個所がある。 (f)「この発明は、摺動体としての樹脂を金属円筒と一体化したすべり軸受とその製造法に関する。」(第1頁右下欄第18及び19行) (g)「このすべり軸受9の製造法の第一実施例を説明する。 この製造法Aは、例えば、PTFEなど塑性変形しやすい樹脂に適用するもので、アルミ、真鍮、鉄などの押出し、引抜き加工容易な金属を外層とするその製造工程は、次のとおりである。 (1)金属円筒作成工程 金属引抜きパイプ1から突切りにより金属円筒2を得る。(図I参照) (2)凹凸面形成行程 金属円筒2の内面にローレット3による転造、ブローチ(機械加工)などにより凹凸の刻み目4を形成する。(図II参照) (3)組合せ行程 凹凸面を形成した金属円筒2に、該金属円筒2の内径よりも僅かに小さい外径に予め作成した樹脂円筒5を挿入し、組合せ円筒6とする。(図III参照) (4)しごき行程 所定寸法の中芯7に組合せ円筒6を嵌め、引抜用ダイス8を通してしごくと、金属円筒2の0.1?0.8mm程度のしごきにより樹脂円筒5の外周面は、金属円筒2の凹凸の刻み目4に食い込み、両者2,5は完全に一体化し仕上品9すなわちすべり軸受9(以下同じ)となる。(図IV参照) (5)製造仕上げ行程 必要精度によっては、仕上げ品9の外径,内径,端面を機械加工して製品とする。」(第2頁左下欄第8行?右下欄第15行) (h)「上記各実施例においては、すべり軸受の内面は平滑面であるが、動圧溝を成形時に同時に形成したものでも、この発明の二層構造に製造することができる。」(第4頁右上欄下から第3行?左下欄第2行) (i)「特に精密な軸との隙間を要求されるプラスチックの動圧溝付き軸受に対して有効である。」(第4頁右下欄第20行?第5頁左上欄第1行) (j)第1図から、引抜用ダイス8の孔にパンチの中芯7を挿入することにより、組合せ円筒6(金属円筒2及び樹脂円筒5)の軸方向の伸長変形を許容しつつ組合せ円筒6の外周面に縮径方向の圧迫力を付与する構成が看取できる。 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「マスター軸1」は本願発明の「マスター軸」に相当し、以下同様にして、「電鋳部3」は「電鋳部」に、「樹脂成形部11」は「樹脂部」に、「軸」は「軸部材」に、「軸受部品13」は「軸受部材」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点、並びに相違点1及び2を有する。 <一致点> 電鋳加工により、マスター軸の外周面に目的の金属を析出させて形成された電鋳部を内周に有すると共に、電鋳部の外周に電鋳部をインサートして射出成形された樹脂部を有し、電鋳部の内周面と軸部材の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成する軸受部材の製造方法。 (相違点1) 前記電鋳部が、本願発明は、「厚み10?100μm」であるのに対し、引用発明は、厚み略0.2?0.3mm程度である点。 (相違点2) 本願発明は、「電鋳部の内周面に動圧発生部が形成され」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。 (相違点3) 本願発明は、「電鋳部および樹脂部の軸方向両側への伸長変形を許容しつつ樹脂部の外周面に縮径方向の圧迫力を付与して電鋳部の内周面を成形型の凹凸形状に押し当てることにより、電鋳部の内周面に前記成形型の凹凸形状に対応した動圧発生部を型成形し、前記圧迫力の解放による樹脂部のスプリングバックにより電鋳部を拡径させ、成形型を電鋳部の内周から引き抜く」のに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。 そこで、上記相違点1?3について検討する。 (相違点1について) 引用発明の電鋳部3の厚みは、略0.2?0.3mm程度、すなわち、略200?300μm程度である。求められる軸受け性能や軸受サイズ、あるいはその用途、製造コスト等に応じて、電鋳部の厚みを最適な適宜の厚みとすることは、当業者における設計変更の範囲内の事項にすぎない。 してみれば、引用発明の電鋳部3を、求められる軸受け性能や軸受サイズ、あるいはその用途、製造コスト等に応じて、厚み10?100μmとすることにより、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 (相違点2について) 軸受の内周面に動圧発生部を型成形することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3には、「上記各実施例においては、すべり軸受の内面は平滑面であるが、動圧溝を成形時に同時に形成したものでも、この発明の二層構造に製造することができる。」[上記摘記事項(h)参照]と記載されている。)にすぎない。 また、刊行物1には、「高精密部品の中でも、例えば光学式情報記録再生装置で光学的ピックアップを行うレンズホルダ等における軸受部の場合には、精密な真円度及び内径寸法精度が必要であって、軸とのクリアランスを数μ以下にすることが要求されており、また負荷荷重に対する高い機械的強度と摺動性も必要である。」(上記摘記事項(b)参照)、及び「マスター軸1の形状は、(中略)樹脂製軸受部品の用途によっては、軸の全長に渡って一定の横断面形状ではない形態を採ることも可能である。」(上記摘記事項(c)参照)と記載されていることなどに鑑みれば、刊行物1には、引用発明の軸受部品13の軸孔内周面に電鋳部3を有するものにおいても、電鋳部3に動圧発生部を型成形しようとする動機付けが記載又は示唆されているとともに、そのようにすることを阻害するような要因は特段記載されていない。 してみれば、引用発明の軸受部品13の軸孔内周面の電鋳部3に、上記従来周知の技術手段である動圧発生部を型形成して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 (相違点3について) 引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに軸受部材の製造方法に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「パンチ11のみぞ加工部14をスリーブ15内に同軸上に挿入するとともに、該スリーブ15をパンチ11の径差段部11’に軸方向に位置決めし、ダイス17の孔18にパンチ11によりスリーブ15を同軸上に押し通すことによりスリーブ15の内径面16に圧印によりヘリングボーン型の動圧発生みぞ3が成形される。 スリーブ15の内径d2は、ダイス17の孔18を通過後にスプリングバックによりダイス通過時の寸法よりも大きくなるので、内径面16にヘリングボーン型の動圧発生みぞ3が成形されたスリーブ15は、パンチ11のみぞ加工部14から取り外すことができる。」(上記摘記事項(e)参照)と記載されている。 また、離型時に、圧迫力の解放による軸受スリーブ素材のスプリングバックを利用することは、従来周知の技術手段(例えば、特開2002-206534号公報には、「軸受面1bの成形が完了した後、図9に示すように、焼結金属素材1’にコアロッド21を挿入したままの状態で下パンチ23とコアロッド21を連動して上昇させ(図9(2)の状態)、焼結金属素材1’をダイ20から抜く(図9(3)の状態)。焼結金属素材1’をダイ20から抜くと、焼結金属素材1’にスプリングバックが生じ、その内径寸法が拡大するので(図7参照)、動圧溝1cを崩すことなく、焼結金属素材1’の内周面からコアロッド21を抜き取ることができる(図9(4)の状態)。これにより、軸受本体1aが完成する。」[第4頁第6欄第2?11行、段落【0020】参照]と記載されている。)にすぎない。 一方、圧入代を有するダイに軸受部材を圧入する場合に、軸受部材の一端面または両端面を拘束する方法や、軸受部材の両端面を拘束せず、軸受部材の軸方向両側への伸長変形を許容する方法は、従来周知の技術手段にすぎない。そして、その際に、どのような圧入方法を採用するかは、軸受部材の良好な製造を行えるように、上記複数の方法の選択肢のうちから好適なもの選択することにより、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 してみれば、上記(相違点2について)における判断の前提下において、引用発明の軸受部品13の動圧発生部の製造方法として、上記刊行物2に記載された構成、及び上記従来周知の技術手段を適用して、電鋳部3および樹脂成形部11の軸方向両側への伸長変形を許容しつつ樹脂成形部11の外周面に縮径方向の圧迫力を付与して電鋳部3の内周面を成形型の凹凸形状に押し当てることにより、電鋳部3の内周面に成形型の凹凸形状に対応した動圧発生部を型成形し、圧迫力の解放による樹脂成形部11のスプリングバックにより電鋳部3を拡径させ、成形型を電鋳部3の内周から引き抜くことにより、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 また、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成23年8月11日付けの意見書(以下、「意見書」という。)において、「本願発明1(注:本審決の「本願発明」に対応する。以下同様。)に係る軸受部材の一端面または両端面を拘束した状態(当該軸受部材の軸方向両側への伸長変形が許容されない状態)で、電鋳部の内周面に動圧発生部を圧縮成形するようにした場合、電鋳部の内周面に動圧発生部が型成形される以前に、樹脂部と電鋳部が分離する、電鋳部が座屈・変形する等の不具合が生じるおそれがあり、最悪の場合、軸受部材が使用不能となります。これに対し、本願発明1では、電鋳部および樹脂部の軸方向両側への伸長変形を許容しながら縮径方向の圧迫力を付与するようにしたので、電鋳部内周面に動圧発生部を型成形(圧縮成形)するのに伴って、樹脂部と電鋳部が分離する、電鋳部が座屈変形するなどの不具合が生じるのを可及的に防止することができます。」(「2.本願発明の特徴」「(2)」の項を参照)と本願発明が奏する作用効果について主張している。 しかしながら、審判請求人は、意見書において、「軸受部材に縮径方向の圧迫力を付与する方法としては、圧入代を有するダイに軸受部材を圧入する方法が代表的であり、圧入時には、軸受部材の一端面または両端面を拘束する方法や、軸受部材の両端面を拘束せず、軸受部材の軸方向の伸長変形を許容する方法を採用することができます。」(「2.本願発明の特徴」「(2)」の項を参照)と述べていること、本願明細書には、「凹凸部成形工程は、軸受部材3の内周面をマスター軸6の成形型Mの外周に配置した状態で、軸受部材3をダイス13の供給部13aに供給し、図示しないパンチで軸受部材3を、ガイド部13bを介して圧迫部13cに圧入することにより行われる。この際、成形型Mと軸受部材3の軸方向の相対スライドを規制するため、パンチからの押圧力はマスター軸6と軸受部材3の双方に作用させるのが望ましい。」(段落【0033】参照)等と記載されていること、などに鑑みれば、圧入代を有するダイに軸受部材を圧入する場合に、成形型と軸受部材が軸方向に相対スライドしないようにして、軸受部材の精度悪化を防止することが可能であれば、軸受部材の一端面または両端面を拘束せず、軸受部材の軸方向両側への伸長変形を許容する方法を採用することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎないことは、上記したとおりである。 よって、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。 4.むすび 結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-13 |
結審通知日 | 2012-01-16 |
審決日 | 2012-02-06 |
出願番号 | 特願2005-262599(P2005-262599) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 関口 勇 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
所村 陽一 常盤 務 |
発明の名称 | 軸受部材の製造方法 |
代理人 | 熊野 剛 |
代理人 | 城村 邦彦 |