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審決分類 |
審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 G06N 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06N |
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管理番号 | 1254181 |
審判番号 | 不服2010-22375 |
総通号数 | 149 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-05 |
確定日 | 2012-03-22 |
事件の表示 | 特願2004-164620「情報処理装置、情報処理方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月27日出願公開、特開2005- 25730〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成16年6月2日(国内優先権主張;平成15年6月13日)の出願であって、平成17年4月4日付けで手続補正書が提出され、平成20年4月9日付けで拒絶理由通知がなされ、同年6月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されるとともに、平成21年4月27日付けで再度拒絶理由通知(最後)がなされ、平成21年7月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成22年6月30日付けで拒絶査定(同年7月6日送達)がなされ、これに対し、同年10月5日に審判請求がなされるとともに同日に手続補正がなされたものである。 なお、同年11月8日付けで審査官から前置報告がなされ、平成23年4月22日付けで当審より審尋(同年4月26日発送)がなされたが、回答がなされなかった。 2.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に記載の装置(以下、「本願装置」という。)は、上記平成22年10月5日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 移送元に積載される一又は複数の物体を所定の場所を介して移送先に所望の積載順序で積み替える方法を、解候補の集合から成る解空間を対象に解探索することで求める情報処理装置であって、 前記所定の場所において形成可能な積み山の数又は前記各積み山の識別番号と、前記複数の物体夫々の識別情報とを初期条件として入力する初期条件入力手段と、 前記初期条件入力手段により入力された前記初期条件を記憶する初期条件記憶手段と、 前記初期条件記憶手段に記憶される前記複数の物体夫々の識別情報に対応して、前記所定の場所における積み山の識別番号を値として取る変数を設定し、前記初期条件記憶手段に記憶される前記積み山の数又は前記各積み山の識別番号から、前記所定の場所において前記複数の物体が積み替えられ得る前記積み山を判断し、前記複数の物体毎に当該判断した前記積み山の識別番号を、前記複数の物体夫々の識別情報に対応して設定した変数に割り当てていき、前記複数の物体毎に設定された各変数に割り当てられる前記積み山の識別番号の値の組み合わせを更新しながら解候補を決定していく解探索処理手段とを有することを特徴とする情報処理装置。」 3.原査定の拒絶の理由の概要 平成22年6月30日付けの拒絶査定の理由は、平成21年4月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由2,4によって拒絶をすべきものであるというものであり、その備考の欄には、以下の事項が記載されている。 「備考 ・理由2について 請求項1-7 本願の請求項1-7は、複数の物体を移送先に積み替える問題について、当該問題の解候補の集合からなる解空間を対象に解探索を行うための数学的な手順を特定したものであって、解空間の規模を縮小させるという数学的課題を解決するために、積み山番号を値として取る変数を用意するというアルゴリズム上の工夫をしただけのものであるから、本願の請求項に記載された内容を全体として考察すれば、本願発明の本質が自然法則を利用したものであるとは認められない。 次に、請求項1-7を「ソフトウェア関連発明」としてみても、これらの請求項は、通常の情報処理において一般的に使用される「記憶手段」を、通常の態様で用いることを特定しているにすぎず、また、上記数学的な計算手順を、各手順ごとに「?手段」と表現して記載しているにすぎないものであって、それらの各計算手順を行うためにハードウェア資源をどのように用いているのかが具体的に特定されていないから、上記請求項1-7には、ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されたものが記載されているとは認められない。 なお、出願人は、平成21年7月13日付けの意見書において、『本願発明は、解候補の集合から成る解空間を対する解探索処理を対象としており、解空間の規模を縮小させると、それが解探索処理という情報処理の時間の短縮に結びつく自然法則上の特性を解空間の生成(解候補の決定)に反映させた発明』である旨を述べ、本願発明は『自然法則を利用した技術的思想の創作』であると主張している。しかしながら、数学的に定式化された問題の解探索を高速に行うために、解探索で用いる変数を設定し当該変数に値を割り当てることは、専ら数学的考察に基づくものであって、何らかの自然法則上の特性に対する考察を含むものではないから、これをもって「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるということはできない。 したがって、請求項1-7に記載されたものは特許法第29条第1項柱書にいう自然法則を利用した技術的思想の創作にあたるとは言えず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。 ・理由4.(2)について 請求項1-7 平成21年7月13日付けの手続補正による補正後の請求項1,6,7の「前記所定の場所において前記複数の物体が積み替えられ得る前記積み山を判断し、当該判断した前記積み山の識別番号を、前記複数の物体夫々の識別情報に対応して設定した変数に割り当てていき、当該変数に割り当てられる前記積み山の識別番号の値の組み合わせを更新しながら解候補を決定していく」において、どのような情報をどのように用いて、どのような演算を行うことにより、上記「判断」、「割り当て」、「更新」、及び「決定」等の各処理を行うのかが具体的に記載されていないから、解探索処理の処理内容が依然として不明確である。 よって、請求項1-7に係る発明は明確でない。」 4.請求人の主張 これに対し、審判請求人は、審判請求の理由において、次のとおり主張している。 「…(中略)… ・補正事項の説明 請求項1、6、7の補正は、出願当初の明細書の段落[0030]、[0045]等に記載した事項に基づいて行ったものあるとともに、明瞭でない記載の釈明を目的としたものです。 ・理由2について 本願の請求項1-7は、情報処理装置又はその動作方法が構築されているといえる程度に、「ソフトウェアによる情報処理」或いは「ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段」が特定されているため、特許法上の「発明」に該当するものです。 ・理由4.(2)について 審査官殿は、「「前記所定の場所において前記複数の物体が積み替えられ得る前記積み山を判断し、当該判断した前記積み山の識別番号を、前記複数の物体夫々の識別情報に対応して設定した変数に割り当てていき、当該変数に割り当てられる前記積み山の識別番号の値の組み合わせを更新しながら解候補を決定していく」において、どのような情報をどのように用いて、どのような演算を行うことにより、上記「判断」、「割り当て」、「更新」、及び「決定」等の各処理を行うのかが具体的に記載されていないから、解探索処理の処理内容が依然として不明確である」とご指摘されております。 しかしながら、初期条件記憶手段において記録される積み山の数又は積み山の識別番号から、所定の場所において複数の物体が積み替えられる可能性のある積み山を判断できることは当然です。 また、判断した積み山の識別番号を、複数の物体夫々の識別情報に対応して設定した変数に割り当てる、という表現は明確なものと考えます。 さらに、解探索処理において、変数に割り当てる値の組み合わせを更新しながら解候補を決定していく、という処理は自明なものです。 従って、請求項1-7の記載は明確であると思料致します。 」 5.当審の判断 (1)29条柱書(成立性)について。 ア.本願装置が自然法則を利用した技術的思想の創作であるか否かについて検討するに、本願装置は、請求項1記載のとおり「初期条件入力手段」、「初期条件記憶手段」および「解探索処理手段」より構成される「情報処理装置」である。そして、請求項1の文言上からは必ずしも「コンピュータ」や「コンピュータソフトウエア」を必要とするものではないものの、本願発明の詳細な説明を参酌し、当該技術分野の技術常識を勘案すれば、これは入出力装置やメモリやCPUなどからなる「コンピュータ」としてのハードウエア上で所定の「コンピュータソフトウエア」を動作させることによって実現されるものであることは明らかである。 イ.当該ハードウエアの採用について検討するに、該ハードウエア自体は自然法則を利用して動作するものではあるものの、本願装置を全体として考察すると、該ハードウエアには何らの特徴も認められず、その本質はハードウエアが利用する自然法則に向けられているものではない。したがって、このようなハードウエアの採用は「情報処理装置」(所謂「コンピュータ」)の単なる使用に過ぎないものであり、これによって本願装置が自然法則を利用した技術的思想の創作であると認めることはできない。 ウ.本願装置によって入力・記憶及び処理の対象となる「識別番号」「識別情報」は「積み山」「物体」なるものに対応するものであり、一方、現実に存在する「積み山」や「物体」は自然法則に従う物理的な実体である。しかしながら、本願装置における「積み山」や「物体」は、現実に存在する「積み山」や「物体」に限られるものではなく、人間が頭の中で想像した「積み山」や「物体」であることも当然想定されている。したがって、「識別番号」「識別情報」が「積み山」「物体」なるものに対応するものであることをもって、直ちに、本願装置を自然法則を利用した技術的思想の創作と言うことはできない。 エ.本願装置は「移送元に積載される一又は複数の物体を所定の場所を介して移送先に所望の積載順序で積み替える方法を、解候補の集合から成る解空間を対象に解探索することで求める」ものであるところ、その処理は解を求めることで終わり、現実に存在する「積み山」や「物体」を処理対象とする何らかの機器等(例えばコンベアやマニピュレータ等)に対する制御又はその制御に伴う処理を具体的に行うものとは言えず、この点からも本願装置を自然法則を利用した技術的思想の創作と認め得るものではない。 オ.「初期条件入力手段」は、要は単に「識別番号」や「識別情報」を入力する機能を有しているに過ぎず、入力対象である「積み山」や「物体」の物理的性質や技術的性質に特に適合した入力手順や入力装置が採用されているわけでもない。 また、「初期条件記憶手段」は、単に「識別番号」や「識別情報」を記憶する機能を有しているに過ぎず、記憶の対象である「積み山」や「物体」の物理的性質や技術的性質に特に適合した記憶フォーマットや特有の記憶素子を採用しているわけでもない。 そして、「解探索処理手段」は「前記初期条件記憶手段に記憶される前記複数の物体夫々の識別情報に対応して、前記所定の場所における積み山の識別番号を値として取る変数を設定し、前記初期条件記憶手段に記憶される前記積み山の数又は前記各積み山の識別番号から、前記所定の場所において前記複数の物体が積み替えられ得る前記積み山を判断し、前記複数の物体毎に当該判断した前記積み山の識別番号を、前記複数の物体夫々の識別情報に対応して設定した変数に割り当てていき、前記複数の物体毎に設定された各変数に割り当てられる前記積み山の識別番号の値の組み合わせを更新しながら解候補を決定していく」というものであるが、ここで採用されるアルゴリズムは、要は「識別番号」と「識別情報」の対応関係を変更して所定の条件を満たす対応関係を探索すると言う手法によるものである。そして、この手法に用いられている法則は”解候補を変更しながら調べれば解が得られる”と言うことに尽き、ここでも「積み山」や「物体」の物理的性質や技術的性質に特に適合した情報処理を具体的に行っているわけではない。 したがって、本願装置が対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うものと認めることもできず、この点からも自然法則を利用した技術的思想の創作と認め得るものではない。 カ.本願装置における「初期条件入力手段」における処理内容は、要は単に「識別番号」と「識別情報」を入力する機能を有しているに過ぎず、本願装置における「初期条件記憶手段」は、単に「識別番号」と「識別情報」を記憶する機能を有しているに過ぎず、また、「解探索処理手段」では、要は単に「識別番号」と「識別情報」の対応関係を変更して所定の条件を満たす対応関係を探索するという処理を行うものに過ぎないので、ハードウエア資源をどのように用いているのかに関しては何ら具体的な特定がなされていないものであり、到底ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段と言えるものではない。 したがって、本願装置が、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されているものと言えるものでもないことは明らかである。 キ.この点に関し、請求人は、平成21年7月13日付けの意見書の「(5-2)理由2について」において、本願発明が「所定の場所において形成可能な積み山の数又は各積み山の識別番号と、前記複数の物体夫々の識別情報とを初期条件として入力し、複数の物体夫々の識別情報に対応して、所定の場所における積み山の識別番号を値として取る変数を設定し、積み山の数又は各積み山の識別番号から所定の場所において複数の物体が積み替えられ得る積み山を判断し、当該判断した積み山の識別番号を、複数の物体夫々の識別情報に対応して設定した変数に割り当てていき、当該変数に割り当てられる前記積み山の識別番号の値の組み合わせを更新しながら解候補を決定していく」ことを特徴とする、本特徴により、「移送元に積載される一又は複数の物体を所定の場所を介して移送先に所望の積載順序で積み替える方法を、解候補の集合から成る解空間を対象に解探索することで求める」際に、当該解空間の規模を大幅に縮小させ、解探索時間を短縮させることが可能、即ち本願発明は、解候補の集合から成る解空間を対する解探索処理を対象としており、解空間の規模を縮小させると、それが解探索処理という情報処理の時間の短縮に結びつく自然法則上の特性を解空間の生成(解候補の決定)に反映させた発明であり、この技術的思想の創作(解空間の生成(解候補の決定))は本願発明全体にわたる必須構成要件によって成立、従って、本願発明が単なる数学の理論及び人為的な取決めのみに基づいたものではなく、自然法則を利用した技術的思想の創作である、旨主張しているが、上記の如く、本願装置の処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されているとはいえないものであり、ソフトウエアとハードウエアが如何に協働しているのかを把握できないないものである以上、その解空間の規模の縮小や情報処理の時間の短縮等の効果を奏し得るものとは到底認め得るものではない。 したがって、この主張を認めることはできない。 ク.また、仮に、本願装置の処理がその解空間の規模の縮小や情報処理の時間の短縮等の効果を奏し得るものであると仮定しても、これは「積み山」や「物体」そのものではなく、「識別番号」「識別情報」と言う、単なる数学上の変数で表現された後の数学的処理における効果に過ぎないものであり、本願装置の処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されているとは言えないものである以上は、これを、現実のコンピュータにおけるメモリ使用量やレスポンス時間等の自然法則を利用した技術的思想の創作によって奏される効果に、直ちに当て嵌めることはできない。 ケ.そして、他に、本願装置を自然法則を利用した技術的思想の創作とする根拠も見出せない。 よって、本願装置が自然法則を利用した技術的思想の創作であるとは言えない。 コ.したがって、本願請求項1記載の「情報処理装置」は自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するものではなく、特許法第2条で規定される発明の定義を満たしていないため、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たす発明ではない。 また、本願請求項6、7に記載の「情報処理方法」「プログラム」も同様の理由で、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たす発明ではない。 (2)第36条第6項第2号の点について 請求人は審判請求書の「理由4.(2)について」において、解探索処理において、変数に割り当てる値の組み合わせを更新しながら解候補を決定していく、という処理は自明である旨主張している。 しかしながら、請求項1に記載された「前記所定の場所において前記複数の物体が積み替えられ得る前記積み山を判断し、」は、請求項1の記載に「制約条件」について記載されていないことからみても、本願装置は、「制約条件」を考慮することに関して特定していないものを含み(制約条件を考慮しないで、「所定の場所において前記複数の物体が積み替えられ得る」ものは発明の詳細な説明又は図面の、具体的にどこに記載されたものと対応するのかすらも不明である。)、前記制約条件を考慮することに限定されることなく、「積み替えられ得る」ことを如何に判断するのか、更には、「値の組み合わせ」が複数存在するときに、変数に対して当該複数の「値の組み合わせ」をどのような順序又は選択基準で反映すなわち「更新」させていくか、及び、「値の組み合わせ」をどのような基準で「解候補」として「決定」するかは、当業者にとって自明な事項とはいえず、請求項1の記載のみから前記「判断」「更新」及び前記「決定」に係る具体的な処理内容を特定することができず、請求項1に記載される事項によって特定されるものの範囲を明確に把握することは不可能である。 したがって、請求項1は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。 請求項6、7も同様に特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1、6、7に記載のものは、特許法第2条でいう特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないので、特許法第29条第1項書の規定により特許を受けることができない。 また、本願特許請求の範囲の請求項1、6、7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-19 |
結審通知日 | 2012-01-24 |
審決日 | 2012-02-06 |
出願番号 | 特願2004-164620(P2004-164620) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(G06N)
P 1 8・ 14- Z (G06N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北川 純次、北元 健太 |
特許庁審判長 |
山崎 達也 |
特許庁審判官 |
清木 泰 田中 秀人 |
発明の名称 | 情報処理装置、情報処理方法及びプログラム |
代理人 | 國分 孝悦 |