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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1254184
審判番号 不服2010-25953  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-17 
確定日 2012-03-22 
事件の表示 特願2007- 19062「バッテリ残量判定装置、およびバッテリ残量判定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月14日出願公開、特開2008-185445〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年1月30日の出願であって、平成22年4月15日付けで明細書及び特許請求の範囲についての手続補正(以下、「補正1」という。)がなされ、平成22年8月20日付け(送達日:同年8月25日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年11月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで明細書及び特許請求の範囲についての手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審より平成23年8月17日付けで当審より審尋を行ったところ、請求人より同年9月27日付けで回答書が提出された。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、以下の(1)に示される本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を、以下の(2)に示される本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に補正することを含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、
前記バッテリの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記バッテリの温度を検出する温度検出手段と、
予め定められた複数の特定電流値および特定温度値に対応させて、複数のしきい値が格納されたデータを記憶するメモリと、
前記データに格納されている前記複数のしきい値の中から、前記電流検出手段、および前記温度検出手段がそれぞれ検出した出力電流値、および検出温度に対応するしきい値を特定し、特定した該しきい値が、前記電圧検出手段が検出した出力電圧よりも大きな場合には、前記バッテリの残量は前記しきい値に対応する残量値未満である旨を示す検知信号を出力する制御部と、
を有することを特徴とするバッテリ残量判定装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、
前記バッテリの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記バッテリの温度を検出する温度検出手段と、
予め定められた不連続の複数の特定電流値および予め定められた不連続の複数の特定温度値に対応させて、電圧値である複数のしきい値が格納されたデータを記憶するメモリと、
前記データに格納されている前記複数のしきい値の中から、前記電流検出手段、および前記温度検出手段がそれぞれ検出した出力電流値、および検出温度に対応するしきい値を特定し、特定した該しきい値が、前記電圧検出手段が検出した出力電圧よりも大きな場合には、前記バッテリの残量は前記しきい値に対応する残量値未満である旨を示す検知信号を出力する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記出力電流値または前記検出温度が前記データにおける特定電流値および特定温度値と異なる場合、前記特定電流値または前記特定温度値の中の前記出力電流値または前記検出温度を挟んだ前後1つずつの値に対するしきい値を用いて算出した補間値を、前記出力電流値および前記検出温度に対応するしきい値とし、
前記メモリには、特定電流値または特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では、該しきい値の変化が小さな範囲よりも、前記特定電流値および前記特定電流値に対応するしきい値が多く格納されることを特徴とするバッテリ残量判定装置。」

なお、アンダーラインは、補正箇所を示すために請求人が付したものである。

2 本件補正についての当審の判断
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「複数の特定電流値」について、「不連続の」との限定を付加し、同じく「特定温度値」について、「予め定められた不連続の複数の」との限定を付加し、同じく「複数のしきい値」について、「電圧値である」との限定を付加し、同じく「制御部」について、「前記制御部は、前記出力電流値または前記検出温度が前記データにおける特定電流値および特定温度値と異なる場合、前記特定電流値または前記特定温度値の中の前記出力電流値または前記検出温度を挟んだ前後1つずつの値に対するしきい値を用いて算出した補間値を、前記出力電流値および前記検出温度に対応するしきい値とし、」との限定を付加し、同じく「メモリ」について、「前記メモリには、特定電流値または特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では、該しきい値の変化が小さな範囲よりも、前記特定電流値および前記特定電流値に対応するしきい値が多く格納される」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)について以下検討する。

(1)本願補正発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を認定するに当たり、まず、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の「前記メモリには、特定電流値または特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では、該しきい値の変化が小さな範囲よりも、前記特定電流値および前記特定電流値に対応するしきい値が多く格納される」との記載について検討する。
上記記載における「しきい値の変化が大きな範囲」は、その直後の「該しきい値の変化が小さな範囲」と対比の関係にある記載であるから、該「しきい値の変化が大きな範囲」はひとまとまりの記載である。
したがって、上記「特定電流値または特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲」との記載において、「特定電流値または特定電流値に対する」が上記「しきい値の変化が大きな範囲」を修飾することになる。
つまり、「特定電流値」または「特定電流値に対する」が、上記「しきい値の変化が大きな範囲」を修飾することになるが、このうち前者の「特定電流値」による修飾の場合には明らかに文意が不明となる。
また、後者の「特定電流値に対する」による修飾の場合には、上記記載全体の文意が技術的な観点からみても明確で妥当な内容となる。

一方、この点に関連する本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、
「【0032】
図3は、温度およびしきい値の関係の一例を示すグラフである。また、図4は、電流としきい値の関係の一例を示すグラフである。
【0033】
図3および図4において、しきい値の変化が大きな範囲では、しきい値を数多くメモリ7に格納する。反対に、しきい値の変化が小さな範囲では、メモリに7格納するしきい値の数を少なくする。この場合、メモリ7に格納されるデータには、広範囲な電流または温度に対して、高精度を維持するのに必要最低限の数のしきい値が示されていることになる。これにより、メモリ7を大容量化する必要がなくなる。」と記載されている。
当該記載、図3及び図4の記載によれば、「しきい値を数多くメモリ7に格納する」のは、温度または電流に対する「しきい値の変化が大きな範囲」であり、「メモリに7格納するしきい値の数を少なくする」のは、温度または電流に対する「しきい値の変化が小さな範囲」である。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌してみても、請求項1の上記「しきい値の変化が大きな範囲」を修飾するのは、「特定電流値」ではなく、「特定電流値に対する」であると解すべきである。

よって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の上記「前記メモリには、特定電流値または特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では、該しきい値の変化が小さな範囲よりも、前記特定電流値および前記特定電流値に対応するしきい値が多く格納される」との記載中の「特定電流値または特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では」は、本来、「特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では」と記載すべきところを誤って記載したものであり、明らかな誤記であると認められる。

以上の点を踏まえ、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を、以下のとおり認定する。

「バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、
前記バッテリの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記バッテリの温度を検出する温度検出手段と、
予め定められた不連続の複数の特定電流値および予め定められた不連続の複数の特定温度値に対応させて、電圧値である複数のしきい値が格納されたデータを記憶するメモリと、
前記データに格納されている前記複数のしきい値の中から、前記電流検出手段、および前記温度検出手段がそれぞれ検出した出力電流値、および検出温度に対応するしきい値を特定し、特定した該しきい値が、前記電圧検出手段が検出した出力電圧よりも大きな場合には、前記バッテリの残量は前記しきい値に対応する残量値未満である旨を示す検知信号を出力する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記出力電流値または前記検出温度が前記データにおける特定電流値および特定温度値と異なる場合、前記特定電流値または前記特定温度値の中の前記出力電流値または前記検出温度を挟んだ前後1つずつの値に対するしきい値を用いて算出した補間値を、前記出力電流値および前記検出温度に対応するしきい値とし、
前記メモリには、特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では、該しきい値の変化が小さな範囲よりも、前記特定電流値および前記特定電流値に対応するしきい値が多く格納されることを特徴とするバッテリ残量判定装置。」(以下「本願補正発明」という。)

(2)引用発明
(2-1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-224701号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

<記載事項1>
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、バッテリ劣化判断装置に係り、特に特に車両に搭載される搭載されるバッテリが劣化しているか否かを判断するバッテリ劣化判断装置に関する。」

<記載事項2>
「【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の一実施形態によるバッテリ劣化判断装置について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるバッテリ劣化判断装置が用いられる車両の全体構成を示すブロック図である。本実施形態においては、ハイブリッド車両に適用した場合について説明する。
・・・・・
【0018】バッテリ26とインバータ24との間にはバッテリ26の出力電流を検出する電流検出器30が設けられ、その検出値は信号線30aを介してバッテリ監視装置32へ出力される。また、バッテリ26は、10個のサブバッテリを直列に接続してなる構成であり、各々のサブバッテリには電圧検出器及び温度検出器(各々図示省略)が設けられ、それらの検出電圧及び検出温度は信号線26a及び26bを介して各々バッテリ監視装置32へ出力される。
【0019】バッテリ監視装置32は、バッテリ26の状態、例えば残容量や温度を監視しており、信号線32aを介してバッテリ26の残容量を、信号線32bを介してバッテリ26の出力電流をモータ制御装置22へ出力する。」

<記載事項3>
「【0027】次に、本発明の一実施形態によるバッテリ劣化判断装置について詳細に説明する。図2は、本発明の一実施形態によるバッテリ劣化判断装置の構成を示すブロック図である。図2に示された本実施形態のバッテリ劣化判断装置は、図1中のバッテリ監視装置32内に設けられる。このバッテリ劣化判断装置は、本実施形態においては、CPU(中央処理装置)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)(何れも図示省略)等を備えた一般的なコンピュータによって実現される。以下に示す処理はROM内に格納されたプログラムをCPUが逐次読み出して実行することにより実現される。
【0028】図2において、40は電流検出器であり、図1中の電流検出器30相当するものである。また、42は温度検出器、44は電圧検出器であり、各々前述したサブバッテリに設けられる温度検出器及び電圧検出器に相当する。電流検出器40、温度検出器42、及び電圧検出器の検出結果は一次遅れフィルタ46,48,50にそれぞれ入力される。一次遅れフィルタ46,48,50はいわゆるローパスフィルタである。尚、一次遅れフィルタ46,48,50へ入力される信号は電流検出器40、温度検出器42、及び電圧検出器44の検出値をサンプリング及び量子化してディジタル化されている。尚、温度センサ42の一次遅れフィルタ48は、温度センサ検出値に含まれるノイズ(電気的なノイズ)を除去するためのものであり、バッテリ26の応答特性とは無関係である。よって一次遅れフィルタ48は省略しても良い。
【0029】電気回路によるローパスフィルタの最も簡単なものはコンデンサと抵抗とからなる回路であるが、本実施形態による一次遅れフィルタ46,48,50はソフトウェアで実現されている。つまり、前回の一次遅れフィルタ46,48,50の出力をDn-1、今回の出力をDn、現在検出された値をDとすると一次遅れフィルタ46,48,50は、以下の式で表される。
Dn=τ1Dn-1+τ2D
【0030】ここで、τ1,τ2は一次遅れフィルタ46,48,50の時定数を決定する変数であり、τ1+τ2=1なる関係がある。ここで、一次遅れフィルタ46,48,50の特性を考えてみると、変数τ2の値を大きくすると、現在検出された値Dが今回の出力Dnに与える影響は大となる、逆に変数τ2の値を小さくすると、現在検出された値Dが今回の出力Dnに与える影響は小となる。
【0031】よって、変数τ2の値を大とすると、一次遅れフィルタ46,48,50の変数は小となり、変数τ2の値を小とすると、一次遅れフィルタ46,48,50の変数は大となる。換言すると変数τ1の値を大とすると、一次遅れフィルタ46,48,50の変数は大となり、変数τ1の値を小とすると、一次遅れフィルタ46,48,50の変数は小となる。変数τ1,τ2の一例を示すと、下式のような値が考えられる
Dn=0.95Dn-1+0.05D」

<記載事項4>
「【0033】56は、残容量判定マップであり、バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度、バッテリ26の出力電流、及びバッテリの出力電圧の関係を示したマップを用い、一次遅れフィルタ46から出力される電流値と一次遅れフィルタ48から出力される温度値とからバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求めるものである。」

<記載事項5>
「【0038】図5は、充電末期(残容量が80%)又は放電末期(残容量が20%)となる点を求める際に用いられる、バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係を予め求めたバッテリ残容量修正マップ図である。図5(a)は、バッテリの残容量が80%である場合の、バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係を示すバッテリ残容量修正マップであり、図5(b)は残容量が20%の場合である。
【0039】図5(a)中符号m1が付された面は、残容量を80%に設定した場合のバッテリ残容量修正マップを示しており、図5(b)中符号m2が付された面は、残容量を20%に設定した場合のバッテリ残容量修正マップを示す。仮に、バッテリの残容量が電流又は温度の変化に依存しないとすると、バッテリ残容量修正マップm1,m2は平面になる。図5において、バッテリ残容量修正マップm1,m2が平面でないことから、バッテリの残容量はバッテリの温度、出力電流値、及び出力電圧値に依存することが確認できる。
【0040】バッテリの出力電圧に基づいて残容量を測定する場合には、まずバッテリの温度、バッテリの出力電流を測定する。次に、測定された温度及び出力電流から、残容量が80%又は20%である場合の出力電圧値を求める。残容量が80%である場合の出力電圧値(上限電圧値)は、図5(a)に示したバッテリ残容量修正マップm1を用い。残容量が20%である場合の出力電圧値(下限電圧値)は、図5(b)に示したバッテリ残容量修正マップm2を用いる。そして、実際に測定されたバッテリの出力電圧値と上限電圧値又は下限電圧値とを比較し、バッテリの出力電圧値が上限電圧値以上となった場合には充電末期であると判断し、下限電圧値以下となった場合には放電末期であると判断する。
【0041】尚、図1に示したバッテリ26は、前述したように10個のサブバッテリからなり、各々には電圧検出器が設けられている。本実施形態においては、サブバッテリの何れかの出力電圧が上限電圧値となった場合にバッテリ26の残容量が80%であると判断し、また、サブバッテリの何れかの出力電圧が下限電圧値となった場合にバッテリ26の残容量が20%であると判断する。
【0042】比較器58は、残容量判定マップ56を用いて求められた上限電圧値及び下限電圧値と一次遅れフィルタ50から出力された電圧値とを比較し、当該電圧値が上限電圧値以上の値であるか又は下限電圧値以下の電圧値であるかを判断する。比較器58は現在の電圧値が上限電圧値以上の値であるか又は下限電圧値以下の値であると判断した場合にはその旨を出力する。修正手段60は、比較器58の出力に応じて、積算手段54から出力される値をリセットする。
【0043】つまり、修正手段60は、現在の電圧値がバッテリ26の残容量80%の場合に示される電圧値である旨の信号が比較器50から出力された場合には、積算手段54から出力される値をリセットし、バッテリ26の現在の残容量を80%に設定する。同様に、現在の電圧値がバッテリ26の残容量20%の場合に示される電圧値である旨の信号が比較器50から出力された場合には、積算手段54から出力される値をリセットし、バッテリ26の現在の残容量を20%に設定する。また、現在の電圧値がバッテリ26の残容量が80%と20%の間の場合に示される電圧値である旨の信号が比較器50から出力された場合には、積算手段54から出力される値を残容量とする。
【0044】60は劣化判定手段であり、修正手段60から出力される残容量に基づいてバッテリ26が劣化しているか否かを判定する。」

(2-2)引用刊行物に記載された発明
上記記載事項1ないし5及び図面の記載から、以下の技術事項が読み取れる。

(2-2-1)
上記記載事項1には、「【発明の属する技術分野】この発明は、バッテリ劣化判断装置に係り、特に特に車両に搭載される搭載されるバッテリが劣化しているか否かを判断するバッテリ劣化判断装置に関する。」と記載されている。
したがって、引用刊行物には、バッテリ劣化判断装置の発明が記載されている。

(2-2-2)
上記記載事項2には、「バッテリ26とインバータ24との間にはバッテリ26の出力電流を検出する電流検出器30が設けられ、その検出値は信号線30aを介してバッテリ監視装置32へ出力される。また、バッテリ26は、10個のサブバッテリを直列に接続してなる構成であり、各々のサブバッテリには電圧検出器及び温度検出器(各々図示省略)が設けられ、それらの検出電圧及び検出温度は信号線26a及び26bを介して各々バッテリ監視装置32へ出力される。」と記載されている。
ここで、10個のサブバッテリは直列に接続されているから、上記電流検出器30は、サブバッテリの出力電流を検出する電流検出器でもある。
また、上記記載事項3には、「図2は、本発明の一実施形態によるバッテリ劣化判断装置の構成を示すブロック図である。・・・・・40は電流検出器であり、図1中の電流検出器30相当するものである。また、42は温度検出器、44は電圧検出器であり、各々前述したサブバッテリに設けられる温度検出器及び電圧検出器に相当する。」と記載されている。
したがって、これらの記載及び図2の記載から、バッテリ劣化判断装置は、サブバッテリの出力電圧を検出する電圧検出器44と、サブバッテリの出力電流を検出する電流検出器40と、サブバッテリの温度を検出する温度検出器42とを有するとの技術事項が読み取れる。

(2-2-3)
(ア)
上記記載事項4には、「56は、残容量判定マップであり、バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度、バッテリ26の出力電流、及びバッテリの出力電圧の関係を示したマップを用い、一次遅れフィルタ46から出力される電流値と一次遅れフィルタ48から出力される温度値とからバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求めるものである。」と記載されている。

この記載からみて、当該記載が、一次遅れフィルタ46から出力される電流値と一次遅れフィルタ48から出力される温度値により残容量判定マップ56を参照し、該残容量判定マップ56におけるバッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)の「バッテリ26の温度、バッテリ26の出力電流、及びバッテリの出力電圧の関係」を用いて、上記電流値及び温度値に対応するバッテリの出力電圧値、すなわち、バッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)を求めることを意味していることは明らかである。

そうすると、残容量判定マップ56における上記「バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度、バッテリ26の出力電流、及びバッテリの出力電圧の関係」とは、バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度及びバッテリ26の出力電流に対するバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係であるといえる。

したがって、「バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度及びバッテリ26の出力電流に対するバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係を示した残容量判定マップ56」との技術事項が読み取れる。

このことは、以下に示すように、上記記載事項5におけるバッテリ残容量修正判定マップに関する記載からも裏付けられることである。
すなわち、上記記載事項5には、「【0038】図5は、充電末期(残容量が80%)又は放電末期(残容量が20%)となる点を求める際に用いられる、バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係を予め求めたバッテリ残容量修正マップ図である。図5(a)は、バッテリの残容量が80%である場合の、バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係を示すバッテリ残容量修正マップであり、図5(b)は残容量が20%の場合である。」、「【0040】バッテリの出力電圧に基づいて残容量を測定する場合には、まずバッテリの温度、バッテリの出力電流を測定する。次に、測定された温度及び出力電流から、残容量が80%又は20%である場合の出力電圧値を求める。残容量が80%である場合の出力電圧値(上限電圧値)は、図5(a)に示したバッテリ残容量修正マップm1を用い。残容量が20%である場合の出力電圧値(下限電圧値)は、図5(b)に示したバッテリ残容量修正マップm2を用いる。」と記載されている。

これらの記載からみて、「バッテリの残容量が80%又は20%である場合の、バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係を予め求めたバッテリ残容量修正マップ」が上記記載事項4における「残容量判定マップ56」に相当するものであること、また、測定された温度及び出力電流によりバッテリ残容量修正マップを参照し、該バッテリ残容量修正マップにおけるバッテリの残容量が80%又は20%である場合の「バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係」を用いて、上記測定された温度及び出力電流に対応するバッテリの出力電圧値、すなわち、残容量が80%である場合の出力電圧値(上限電圧値)又は残容量が20%である場合の出力電圧値(下限電圧値)を求めることは明らかである。

そうすると、バッテリ残容量修正マップにおける上記「バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係」とは、バッテリの温度及びバッテリの出力電流値に対する残容量が80%である場合の出力電圧値(上限電圧値)又は残容量が20%である場合の出力電圧値(下限電圧値)の対応関係であるといえる。
したがって、バッテリ残容量修正判定マップについても、残容量判定マップ56に関する上記技術事項と同様の技術事項が読み取れる。

(イ)
また、上記記載事項4の「56は、残容量判定マップであり、バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度、バッテリ26の出力電流、及びバッテリの出力電圧の関係を示したマップを用い、一次遅れフィルタ46から出力される電流値と一次遅れフィルタ48から出力される温度値とからバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求めるものである。」との記載における上記「一次遅れフィルタ46から出力される電流値」、「一次遅れフィルタ48から出力される温度値」は、上記記載事項3の「電流検出器40、温度検出器42、及び電圧検出器の検出結果は一次遅れフィルタ46,48,50にそれぞれ入力される」との記載及び図2の記載からみて、電流検出器40、温度検出器42の検出結果を一次遅れフィルタ46,48を介して出力した電流値、温度値であり、電流検出器40、温度検出器42は、上記(2-2-2)から、サブバッテリの出力電流を検出する電流検出器40、サブバッテリの温度を検出する温度検出器42であるから、「サブバッテリの出力電流を検出する電流検出器40の検出結果を一次遅れフィルタ46を介して出力した電流値」、「サブバッテリの温度を検出する温度検出器42の検出結果を一次遅れフィルタ48を介して出力した温度値」である。

ここで、一次遅れフィルタ48は、上記記載事項3の「一次遅れフィルタ46,48,50はいわゆるローパスフィルタである。・・・・・温度センサ42の一次遅れフィルタ48は、温度センサ検出値に含まれるノイズ(電気的なノイズ)を除去するためのものであり」との記載からみて、温度検出器の検出値に含まれるノイズを除去するローパスフィルタであり、一次遅れフィルタ46、50についても、上記記載事項3の記載からみて、同様に、各検出値に含まれるノイズを除去するローパスフィルタであると認められる。
したがって、上記「一次遅れフィルタ46から出力される電流値」、「一次遅れフィルタ48から出力される温度値」は、「サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値」、「サブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値」である。

そうすると、これらの「サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値」及び「サブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値」により、上記(ア)に述べたように、残容量判定マップ56を参照するのであるから、参照される側の残容量判定マップ56が示す「関係」、すなわち、上記(ア)で示した「バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度及びバッテリ26の出力電流に対するバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係」も、バッテリ26全体を一括したバッテリ単位での温度及び出力電流に対する電圧値の対応関係ではなく、実際は、サブバッテリ単位での対応関係、すなわち、「サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のサブバッテリの温度及びサブバッテリの出力電流に対するサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係」であるといえる。

このことは、以下に示すように、上記記載事項5の記載からも裏付けられることである。
すなわち、上記記載事項5には、「【0038】・・・バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係を示すバッテリ残容量修正マップ」、「【0040】バッテリの出力電圧に基づいて残容量を測定する場合には、まずバッテリの温度、バッテリの出力電流を測定する。次に、測定された温度及び出力電流から、残容量が80%又は20%である場合の出力電圧値を求める。残容量が80%である場合の出力電圧値(上限電圧値)は、図5(a)に示したバッテリ残容量修正マップm1を用い。残容量が20%である場合の出力電圧値(下限電圧値)は、図5(b)に示したバッテリ残容量修正マップm2を用いる。そして、実際に測定されたバッテリの出力電圧値と上限電圧値又は下限電圧値とを比較し、バッテリの出力電圧値が上限電圧値以上となった場合には充電末期であると判断し、下限電圧値以下となった場合には放電末期であると判断する。 【0041】尚、図1に示したバッテリ26は、前述したように10個のサブバッテリからなり、各々には電圧検出器が設けられている。本実施形態においては、サブバッテリの何れかの出力電圧が上限電圧値となった場合にバッテリ26の残容量が80%であると判断し、また、サブバッテリの何れかの出力電圧が下限電圧値となった場合にバッテリ26の残容量が20%であると判断する。」と記載されている。

これらの記載によると、測定された温度及び出力電流により、すなわち、上記(2-2-2)に示したように、サブバッテリの温度及び出力電流の測定値により、バッテリ残容量修正マップを参照して、該バッテリ残容量修正マップにおける「バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係」を用いて、バッテリ残容量修正マップ残容量が80%又は20%である場合の出力電圧値(上限電圧値又は下限電圧値)を求め、これを実際に測定されたバッテリの出力電圧値(実際に測定されているのは、上記(2-2-2)で述べたように、サブバッテリの出力電圧値である。)と比較することにより、バッテリ26の残容量が80%又は20%であると判断するのであり、この判断は、バッテリ全体を単位として行われるのではなく、サブバッテリの何れかの出力電圧が上限電圧値となった場合にバッテリ26の残容量が80%であると判断し、サブバッテリの何れかの出力電圧が下限電圧値となった場合にバッテリ26の残容量が20%であると判断する、すなわち、サブバッテリ単位で行われるものである。

さらに、上記記載事項5には、「【0042】比較器58は、残容量判定マップ56を用いて求められた上限電圧値及び下限電圧値と一次遅れフィルタ50から出力された電圧値とを比較し、当該電圧値が上限電圧値以上の値であるか又は下限電圧値以下の電圧値であるかを判断する。」と記載されており、この記載にあるように、「残容量判定マップ56を用いて求められた上限電圧値及び下限電圧値」と「一次遅れフィルタ50から出力された電圧値」、すなわち、サブバッテリの出力電圧を検出する電圧検出器44の検出結果からノイズを除去した電圧値(上記記載事項3及び図2の記載参照)とを比較するのであるから、上記「残容量判定マップ56を用いて求められた上限電圧値及び下限電圧値」が、サブバッテリに関する「上限電圧値及び下限電圧値」であることは明らかである。

そうすると、バッテリ残容量修正マップ(残容量判定マップ56に相当)が示す上記「バッテリの温度、バッテリの出力電流値、及びバッテリの出力電圧値の関係」、すなわち、上記(ア)で示した「バッテリの温度及びバッテリの出力電流値に対する残容量が80%である場合の出力電圧値(上限電圧値)又は残容量が20%である場合の出力電圧値(下限電圧値)の対応関係」は、バッテリ26全体を一括したバッテリ単位での温度及び出力電流に対する出力電圧の対応関係ではなく、実際は、サブバッテリ単位での対応関係、すなわち、「サブバッテリの温度及びサブバッテリの出力電流値に対するサブバッテリの残容量が80%である場合の出力電圧値(上限電圧値)又は残容量が20%である場合の出力電圧値(下限電圧値)の対応関係」であるといえる。

(2-2-4)
上記(2-2-3)の(ア)で示したように、「バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度及びバッテリ26の出力電流に対するバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係を示した残容量判定マップ56」との技術事項が読み取れる。
そして、上記(2-2-3)の(イ)で示したように、上記「バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度及びバッテリ26の出力電流に対するバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係」とは、「サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のサブバッテリの温度及びサブバッテリの出力電流に対するサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係」である。
また、図2の記載から、バッテリ劣化判断装置は残容量判定マップ56を有することが見て取れる。

以上のことから、バッテリ劣化判断装置は、サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のサブバッテリの温度及びサブバッテリの出力電流に対するサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係を示した残容量判定マップ56を有するとの技術事項が読み取れる。

なお、上記記載事項5に示されるように、バッテリ残容量修正マップ(残容量判定マップ56に相当)は、残容量が80%の場合又は20%の場合に応じて、m1又はm2のマップが対応するので、上記「サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)」のように、「及び」ではなく「又は」とした。

(2-2-5)
(ア)
上記記載事項4には、「56は、残容量判定マップであり、バッテリ26のサブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のバッテリ26の温度、バッテリ26の出力電流、及びバッテリの出力電圧の関係を示したマップを用い、一次遅れフィルタ46から出力される電流値と一次遅れフィルタ48から出力される温度値とからバッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求めるものである。」と記載されている。

ここで、上記「一次遅れフィルタ46から出力される電流値」、「一次遅れフィルタ48から出力される温度値」は、上記(2-2-3)の(イ)で述べたように、「サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値」、「サブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値」である。
また、上記「バッテリ26の残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)及び残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)」は、上記(2-2-4)で述べたように、「サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)」である。

したがって、残容量判定マップ56を用い、サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値とサブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)を求めることが読み取れる。

(イ)
上記記載事項5には、「【0042】比較器58は、残容量判定マップ56を用いて求められた上限電圧値及び下限電圧値と一次遅れフィルタ50から出力された電圧値とを比較し、当該電圧値が上限電圧値以上の値であるか又は下限電圧値以下の電圧値であるかを判断する。比較器58は現在の電圧値が上限電圧値以上の値であるか又は下限電圧値以下の値であると判断した場合にはその旨を出力する。」と記載されている。

この記載における「残容量判定マップ56を用いて求められた上限電圧値及び下限電圧値」は、上記(ア)で述べた「サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)」である。
同じく、上記記載における「一次遅れフィルタ50から出力された電圧値」は、上記(2-2-3)の(イ)において指摘したように一次遅れフィルタ50が検出値からノイズを除去するローパスフィルタであること及び上記記載事項3の記載からみて、「サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値」である。
同じく、上記記載における「現在の電圧値」が、上記「サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値」であり、また、上記「上限電圧値以上の値であるか又は下限電圧値以下の値である」が、「サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値である」であることも明らかである。

したがって、上記記載における「現在の電圧値が上限電圧値以上の値であるか又は下限電圧値以下の値であると判断した場合にはその旨を出力する」は、「サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値であると判断した場合にはその旨を出力する」である。

以上のことから、残容量判定マップ56を用いて求められたサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とサブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値とを比較し、サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値であると判断した場合にはその旨を出力することが読み取れる。

(ウ)
上記(ア)及び(イ)から、残容量判定マップ56を用い、サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値とサブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)を求め、該サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とサブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値とを比較し、サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値であると判断した場合にはその旨を出力することが読み取れる。

(エ)
上記(ウ)に示した一連の処理を実行する主体については、上記記載事項3の「このバッテリ劣化判断装置は、本実施形態においては、CPU(中央処理装置)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)(何れも図示省略)等を備えた一般的なコンピュータによって実現される。以下に示す処理はROM内に格納されたプログラムをCPUが逐次読み出して実行することにより実現される。」との記載からみて、バッテリ劣化判断装置が有するCPUにより処理が実行されるといえる。
このことと、上記(ウ)から、バッテリ劣化判断装置は、残容量判定マップ56を用い、サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値とサブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)を求め、該サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とサブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値とを比較し、サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値であると判断した場合にはその旨を出力するCPUを有するとの技術事項が読み取れる。

(2-2-6)
(2-2-1)?(2-2-5)によれば、引用刊行物には、以下の発明が記載されている。

「サブバッテリの出力電圧を検出する電圧検出器44と、
前記サブバッテリの出力電流を検出する電流検出器40と、
前記サブバッテリの温度を検出する温度検出器42と
前記サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)の前記サブバッテリの温度及び前記サブバッテリの出力電流に対する前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係を示した残容量判定マップ56と、
前記残容量判定マップ56を用い、前記サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値と前記サブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)を求め、該サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)と前記サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値とを比較し、前記サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値であると判断した場合にはその旨を出力するCPUと、
を有することを特徴とするバッテリ劣化判断装置。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(3-1)
引用発明の「サブバッテリ」は本願補正発明の「バッテリ」に相当し、以下同様に、「サブバッテリの出力電圧を検出する電圧検出器44」は「バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段」に、「サブバッテリの出力電流を検出する電流検出器40」は「バッテリの出力電流を検出する電流検出手段」に、「サブバッテリの温度を検出する温度検出器42」は「バッテリの温度を検出する温度検出手段」に相当する。

(3-2)
引用発明の「前記サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)の前記サブバッテリの温度及び前記サブバッテリの出力電流に対する前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係を示した残容量判定マップ56」における「温度」及び「出力電流」に対する「電圧値」の「対応関係」を得るためには、上記「温度」及び上記「出力電流」を予め定めて特定して上記「電圧値」との間の対応関係を求めなければならないことは明らかである。
したがって、引用発明の上記「サブバッテリの温度」、「サブバッテリの出力電流」、「サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)」は、それぞれ、本願補正発明の「予め定められた特定温度値」、「予め定められた特定電流値」、「電圧値であるしきい値」に相当する。

さらに、引用発明は、「CPU」により、「前記残容量判定マップ56を用い、前記サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値と前記サブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)を求め」るから、「残容量判定マップ56」における上記「対応関係」、すなわち、「温度」及び「出力電流」に対する「電圧値」の対応関係は、CPUがこれにアクセスできるように何らかの形で記憶されているはずである。
一方、本願補正発明の「予め定められた不連続の複数の特定電流値および予め定められた不連続の複数の特定温度値に対応させて、電圧値である複数のしきい値が格納されたデータを記憶するメモリ」も、特定電流値及び特定温度値に対する電圧値であるしきい値の対応関係を記憶しているといえる。

よって、引用発明の「前記サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)の前記サブバッテリの温度及び前記サブバッテリの出力電流に対する前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係を示した残容量判定マップ56」と、
本願補正発明の「予め定められた不連続の複数の特定電流値および予め定められた不連続の複数の特定温度値に対応させて、電圧値である複数のしきい値が格納されたデータを記憶するメモリ」とは、
「予め定められた特定電流値および予め定められた特定温度値に対する電圧値であるしきい値の対応関係を記憶する記憶手段」の点で共通する。

(3-3)
引用発明の「前記残容量判定マップを用い、前記サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値と前記サブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求め」は、サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値とサブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値により、残容量判定マップ56を参照、すなわち、サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)のサブバッテリの温度及びサブバッテリの出力電流に対するサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係を示した残容量判定マップ56を参照し、これらの電流値及び温度値に対応するサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)を求めることを意味している。

したがって、上記対応関係におけるサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の中から、上記電流値及び上記温度値に対応する電圧値(上限電圧値:閾電圧値又は下限電圧値:閾電圧値)を特定することを意味していることは明らかである。

よって、引用発明の上記「前記残容量判定マップを用い、前記サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値と前記サブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求め」と、
本願補正発明の「前記データに格納されている前記複数のしきい値の中から、前記電流検出手段、および前記温度検出手段がそれぞれ検出した出力電流値、および検出温度に対応するしきい値を特定し」とは、
「前記しきい値の中から、前記電流検出手段、および前記温度検出手段がそれぞれ検出した出力電流値、および検出温度に関連する電流値および温度に対応するしきい値を特定し」の点で共通する。

(3-4)
引用発明の「該サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とサブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値とを比較し、サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値であると判断した場合にはその旨を出力する」(以下、「特定事項1」という。)において、「サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値である」ことが、サブバッテリの残容量が80%以上であることを意味すること、同様に、「サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値である」ことが、サブバッテリの残容量が20%以下の値であることを意味することは、各電圧値の技術的意義からみて明らかである。

したがって、引用発明の上記特定事項1の「その旨を出力する」とは、「サブバッテリの残容量が80%以上である旨又はサブバッテリの残容量が20%以下の値である旨を出力する」ことである。

よって、引用発明の上記特定事項1と、本願補正発明の「特定した該しきい値が、前記電圧検出手段が検出した出力電圧よりも大きな場合には、前記バッテリの残量は前記しきい値に対応する残量値未満である旨を示す検知信号を出力する」とを対比すると、
両者は、「特定した該しきい値が、前記電圧検出手段が検出した出力電圧に関連する電圧値との比較において所定の場合には、前記バッテリの残量に関する検知信号を出力する」点で共通する。

(3-5)
引用発明の「CPU」は、本願補正発明の「制御部」と同様に、しきい値を特定し、電圧値との比較に基づいてバッテリの残量値に関する検知信号を出力する機能を担うものであるから、両者は「制御部」の点で一致する。

(3-6)
引用発明の「バッテリ劣化判断装置」は、本願補正発明の「バッテリ残量判定装置」と同様に、バッテリの残量値に関する検知信号を出力する装置であるから、両者は「バッテリ残量判定装置」の点で一致する。

(3-7)
したがって、本願補正発明と引用発明の両者は、

「バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、
前記バッテリの出力電流を検出する電流検出手段と、
前記バッテリの温度を検出する温度検出手段と、
予め定められた特定電流値および予め定められた特定温度値に対する電圧値であるしきい値の対応関係を記憶する記憶手段と、
前記しきい値の中から、前記電流検出手段、および前記温度検出手段がそれぞれ検出した出力電流値、および検出温度に関連する電流値および温度に対応するしきい値を特定し、特定した該しきい値が、前記電圧検出手段が検出した出力電圧に関連する電圧値との比較において所定の場合には、前記バッテリの残量に関する検知信号を出力する制御部と、
を有するバッテリ残量判定装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
記憶手段の記憶内容及び具体的構成に関し、本願補正発明では、「予め定められた不連続の複数の特定電流値および予め定められた不連続の複数の特定温度値に対応させて、電圧値である複数のしきい値が格納されたデータ」を記憶する「メモリ」であるのに対し、引用発明では、「前記サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)の前記サブバッテリの温度及び前記サブバッテリの出力電流に対する前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係」を示した「残容量判定マップ56」であり、上記「不連続の複数の」(二箇所)、上記「複数の」との特定がなく、上記「データ」ではなく上記「対応関係」を記憶するものであり、メモリとの特定もない点。

[相違点2]
検知信号の出力に関し、制御部が、本願補正発明では、「前記データに格納されている前記複数のしきい値の中から、前記電流検出手段、および前記温度検出手段がそれぞれ検出した出力電流値、および検出温度に対応するしきい値を特定し、特定した該しきい値が、前記電圧検出手段が検出した出力電圧よりも大きな場合には、前記バッテリの残量は前記しきい値に対応する残量値未満である旨を示す検知信号を出力する」のに対し、引用発明では、「前記残容量判定マップ56を用い、サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値とサブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求め、該サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とサブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値とを比較し、サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値であると判断した場合にはその旨を出力する」のであり、電流値、温度値、電圧値が、それぞれの検出結果そのものではなくノイズを除去したものであり、求められた下限電圧値と検出結果からノイズが除去された電圧値との比較において、前者が後者より大きい場合にバッテリの残量はしきい値に対応する残量値未満である旨を示す信号を出力することの明示がない点。

[相違点3]
しきい値の特定に関し、制御部が、本願補正発明では、出力電流値または検出温度がデータにおける特定電流値および特定温度値と異なる場合、前記特定電流値または前記特定温度値の中の前記出力電流値または前記検出温度を挟んだ前後1つずつの値に対するしきい値を用いて算出した補間値を、前記出力電流値および前記検出温度に対応するしきい値とするのに対し、引用発明には、そのような特定がない点。

[相違点4]
メモリへのしきい値の格納に関し、本願補正発明は、特定電流値または特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では、該しきい値の変化が小さな範囲よりも、前記特定電流値および前記特定電流値に対応するしきい値が多く格納されるのに対し、引用発明には、そのような特定がない点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用発明の、残容量判定マップ56は、サブバッテリの残容量が一定である場合(80%又は20%)の前記サブバッテリの温度及び前記サブバッテリの出力電流に対する前記サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)の対応関係を示したマップであり、具体的には、上記記載事項4、5、図2、図5(a)、(b)の記載からみて、上記温度及び上記出力電流を独立変数、上記電圧値を従属変数として、これら3変数の対応関係を表現したものである。
このような3変数の対応関係を表現するものとしては、2変数の関数や、3変数の対応関係をテーブルとして表現したものを用いることが技術常識からみて一般的であるところ、引用発明のように、CPU、RAM、ROM等を備えた一般的なコンピュータにより処理する場合においては(上記記載事項3の記載参照)、3変数の対応関係をテーブルとして表現したものを用いることが通例である。(例えば、原査定において引用された特開2006-275549号公報の、特に、段落【0027】の記載及び図4?図6の記載参照。特開2002-236155号公報の、特に、段落【0025】の記載及び図3の記載参照。)

そして、その場合には、各変数は離散的な値であり、離散的な各温度値および各出力電流値に対応させて、各電圧値をメモリにデータとして記憶させることになる。

してみると、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
また、そうでないとしても、上述のごとく、上記3変数の対応関係を表現するものとして、離散的な各温度値および各出力電流値に対応させて、各電圧値をメモリにデータとして記憶させたテーブルを用いることが通例であるから、引用発明において、残容量判定マップ56として該テーブルを採用し上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。

[相違点2]について
引用発明は、残容量判定マップ56を用い、サブバッテリの出力電流の検出結果からノイズを除去した電流値とサブバッテリの温度の検出結果からノイズを除去した温度値とから、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求め、該サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とサブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値とを比較し、サブバッテリの出力電圧の検出結果からノイズを除去した電圧値が、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)以上の値であるか又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)以下の値であると判断した場合にはその旨、すなわち、上記(3)の(3-4)において述べたように、サブバッテリの残容量が80%以上である旨又はサブバッテリの残容量が20%以下の値である旨を出力するものである。
このように、「以上」の値であるか又は「以下」の値であるかを判断した場合には、その旨、すなわち、「以上」である旨又は「以下」である旨を出力するのであるから、「より大きい」値であるか又は「より小さい」値であるかを判断した場合にもその旨、すなわち、「より大きい」値である旨又は「より小さい」値である旨を出力することについての示唆があることは明らかである。

そして、検出器の検出結果から一次遅れフィルタ(ローパスフィルタ)によりノイズを除去するか否かは、検出器の特性、測定環境等に応じて当業者が適宜選択する設計的事項にすぎない。

してみると、引用発明において、残容量判定マップ56を用いて求めたサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とサブバッテリの出力電圧の検出結果である電圧値とを比較し、当該電圧値が上限電圧値より大きい値であるか又は下限電圧値より小さい値であると判断した場合にはその旨、すなわち、サブバッテリの残容量が80%より大きい値である旨又はサブバッテリの残容量が20%より小さい値である旨を出力する、換言すれば、上限電圧値が当該電圧値より小さい値であるか又は下限電圧値が当該電圧値よりも大きい値である場合には、バッテリの残量が80%より大きい旨又はバッテリの残量が20%より小さい旨を出力するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

[相違点3]について
複数の変数の対応関係を記憶したテーブルを変数の具体的な値を用いて参照する場合に、変数の具体的な値がテーブルの変数の値と一致しない場合に、変数の具体的な値を挟んだ前後のテーブルの変数の値に対応する他の変数の値を用いて補間を行うことは、例えば、原査定において引用された上記特開2006-275549号公報、上記特開2002-236155号公報に示されるように本願出願前周知の技術である。(以下、当該周知の技術を「周知技術」という。)
(この点について、上記特開2006-275549号公報の、特に、「【0031】以上の図4?6によって示される温度別のテーブルから、電池温度に対応したテーブルを作成する。たとえば、温度が35度の場合、図4?6にはちょうど対応するデータはない。そこで、図5に示される温度が25度の場合のデータと、図6に示される温度が45度のデータを使用して補間したデータを作成する。その結果、電池温度に適合化されたテーブルをつくることができる。」、「【0033】次に、負荷電流に合わせてテーブルを適合化する。たとえば、動作モードが動画再生モードの場合を例に挙げる。動画再生モードの場合は、動作モードCなので、図2を参照して負荷電流は800mAであることが分かる。しかし、図7の段階ではまだ500mA、1000mA、1500mAについてしか対応関係が用意されていない。800mAは、500mAと1000mAの間にある。そこで、500mAと1000mAについて用意されている対応関係から直線補間によって、800mAについての対応関係を作成する。直線補間することによって、電池電圧と電池残量の関係を1対1で対応付けたテーブルを作成することができる。」との記載及び図4?図7の記載参照。
また、上記特開2002-236155号公報の、特に、「【0025】・・・温度と放電電流をパラメーターとする放電警報電圧は、放電効率と同じように、図3に示すテーブルとしてメモリに記憶される。図のテーブルは、3点の温度と、4点の放電電流から放電効率を特定しているが、ここに示す温度の間、さらに放電電流の間の放電警報電圧は、補間して算出することができる。簡単には直線補間して、温度と電流の間の放電警報電圧を算出できる。」との記載及び図3の記載参照。)

してみると、引用発明において、残容量判定マップ56として、各温度値および各出力電流値に対応させて、各電圧値をメモリにデータとして記憶させたテーブルを採用した場合に、これを用いて、検出されたサブバッテリの出力電流とサブバッテリの温度とから、サブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)とを求めるに際し、上記検出されたサブバッテリの出力電流の値と上記サブバッテリの温度の値がテーブルの電流値、温度値に一致しない場合には、上記周知技術を適用して、上記検出されたサブバッテリの出力電流の値又は上記サブバッテリの温度の値を挟んだ前後の値に対応するサブバッテリの残容量が80%となる電圧値(上限電圧値:閾電圧値)又は残容量が20%となる電圧値(下限電圧値:閾電圧値)を用いて補間を行うようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ここで、残容量判定マップ56として、各温度値および各出力電流値に対応させて、各電圧値をメモリにデータとして記憶させたテーブルを採用することは、上記相違点1に係る本願補正発明の構成の採用を前提とするものであるが、上記「[相違点1]について」で述べたように、上記相違点1は実質的な相違点ではないか、若しくは、上記相違点1に係る本願補正発明の構成を採用することは当業者が適宜なし得る設計的事項であることを勘案すると、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の構成を採用した上で、上記周知技術を適用して、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、全体として、当業者が容易に想到し得ることである。

[相違点4]について
複数の変数の対応関係を記憶したテーブルの記憶容量を削減するために、一方の変数の変化に対して他方の変数の変化が大きな領域では変化が小さい領域よりもデータ量を増やすようにすることは、例えば、特開平11-136938号公報に示されるように常套手段である。
(この点について、上記公報の特に、「【0033】図4は入力電圧と出力電流とデューティとの関係説明図であり、入力電圧Vinが曲線のc<b<aの関係で上昇すると、デューティDUは順次小さくなる。又出力電流IoutがIaを超えて増加した場合は、デューティDUを次第に大きくするとしても、その変化は僅かで済み、出力電流IoutがIa以下の場合は、出力電流Ioutの変化に対応してデューティDUの変化を大きくする必要がある。そこで、出力電流IoutがIaを超えた範囲のデューティDU(制御テーブル11に格納する制御信号DR)を比較的粗いステップで格納し、Ia以下の範囲のデューティDUを細かいステップで格納することにより、メインスイッチ1のデューティDU(オン期間)制御を正確に行わせると共に、制御テーブル11の必要記憶容量を削減することができる。」との記載及び図4の記載参照。)

そして、メモリの記憶容量を削減することは、メモリの使用においておよそすべての場合に要求される一般的な課題である。

したがって、引用発明において、残容量判定マップ56として、各温度値および各出力電流値に対応させて、各電圧値をメモリにデータとして記憶させたテーブルを採用した場合に、メモリの記憶容量を削減するために、各温度値または各出力電流値に対する各電圧値の変化の大きな領域では変化の小さい領域よりもデータ量を増やすようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。

ここで、残容量判定マップ56として、各温度値および各出力電流値に対応させて、各電圧値をメモリにデータとして記憶させたテーブルを採用することは、上記相違点1に係る本願補正発明の構成の採用を前提とするものであるが、上記「[相違点1]について」で述べたように、上記相違点1は実質的な相違点ではないか、若しくは、上記相違点1に係る本願補正発明の構成を採用することは当業者が適宜なし得る設計的事項であることを勘案すると、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の構成を採用した上で、上記常套手段を採用して、上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、全体として、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願補正発明が奏する効果は、引用発明、周知技術及び常套手段から予測し得る範囲内のものであって格別のものではない。

よって、本願補正発明は、引用発明、周知技術及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成22年11月17日付け審判請求書の請求の理由及び平成23年9月27日付け回答書において、概ね以下のような主張をしている。
引用発明の残容量判定マップ56は連続するデータであるのに対して、本願発明のデータは連続するデータではなく不連続なデータである点で、本願発明は引用発明と相違している。また、このような構成を採用することで、本願発明は、適切な特定電流値および特定温度値を定めることによって、データを格納するのに要するメモリの容量を削減することができるという優れた効果を奏するものである。
この構成について引用刊行物等には一切記載がなく、またその示唆となる記載もない。
したがって、上記本願発明の効果は、本願発明に特有のものである。

請求人の上記主張について検討する。
引用刊行物には、残容量判定マップ56のデータが連続であるとの記載は存在しない。
そして、上記(4)の「「相違点1]について」で述べたように、残容量判定マップ56は、温度、出力電流、電圧値を変数として、これら3変数の対応関係を表現したものであり、このような3変数の関係を表現するものとして、離散的な各温度値および各出力電流値に対応させて、各電圧値をメモリにデータとして記憶させたテーブルを用いることが通例である。
したがって、引用発明の残容量判定マップ56のデータも本願発明のデータと同様に不連続なデータであり、また、そうでないとしても、不連続なデータとすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。
そして、このような構成を採用した上で、メモリの記憶容量を削減するために、各温度値または各出力電流値に対する各電圧値の変化の大きな領域では変化の小さい領域よりもデータ量を増やすようにすることも、上記「相違点4]について」で述べたように、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、補正1により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2」の「1」の「(1)」の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。

第4 引用例の記載事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項及び引用発明は、上記「第2」の「2」の「(2-1)」、「(2-2)」に記載したとおりのものである。

第5 本願発明についての判断
本願発明は、上記「第2」の「2」で検討した、本願補正発明を特定するために必要な事項である「複数の特定電流値」についての「不連続の」との限定、同じく「特定温度値」についての「予め定められた不連続の複数の」との限定、同じく「複数のしきい値」についての「電圧値である」との限定、同じく「制御部」についての「前記制御部は、前記出力電流値または前記検出温度が前記データにおける特定電流値および特定温度値と異なる場合、前記特定電流値または前記特定温度値の中の前記出力電流値または前記検出温度を挟んだ前後1つずつの値に対するしきい値を用いて算出した補間値を、前記出力電流値および前記検出温度に対応するしきい値とし、」との限定、及び、同じく「メモリ」についての「前記メモリには、特定電流値または特定電流値に対するしきい値の変化が大きな範囲では、該しきい値の変化が小さな範囲よりも、前記特定電流値および前記特定電流値に対応するしきい値が多く格納される」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明を特定するために必要な事項をすべて含み、さらに上記限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2」の「2」の「(4)」に示したとおり、引用発明、周知技術及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、周知技術及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願発明(請求項1に係る発明)が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-19 
結審通知日 2012-01-24 
審決日 2012-02-09 
出願番号 特願2007-19062(P2007-19062)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅藤 政明  
特許庁審判長 下中 義之
特許庁審判官 越川 康弘
中塚 直樹
発明の名称 バッテリ残量判定装置、およびバッテリ残量判定方法  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  
代理人 緒方 雅昭  

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