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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1254189
審判番号 不服2010-29085  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-24 
確定日 2012-03-22 
事件の表示 特願2009-140027「トルクリミッタ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日出願公開、特開2011- 27122〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年6月11日の出願であって、平成22年9月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年12月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。
2.平成22年12月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年12月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
エンジン側部材からトランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限するためのトルクリミッタ装置であって、
前記エンジン側部材に連結され摩擦連結面(14b)を有するドライブ部材(5)と、
前記摩擦連結面(14b)に近接し軸方向に第1厚みを有するとともに軸方向に貫通する複数の孔(20b)が形成された外周面と、前記複数の孔(20b)に装着され前記第1厚みよりも厚い第2厚みを有する摩擦材(26)と、前記外周面において前記複数の孔(20b)の内周側に形成された複数の窓孔と、を有する入力側プレート(20)と、
前記トランスミッション側の軸に係合可能な出力側部材(22)と、
前記入力側プレート(20)の複数の窓孔のそれぞれに支持され、前記入力側プレート(20)と前記出力側部材(22)とを円周方向に弾性的に連結する複数のトーションスプリング(23)と、
前記摩擦材(26)を前記ドライブ部材(5)の摩擦連結面(14b)との間で狭持して、前記ドライブ部材(5)から前記トランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限する伝達トルク制限部(7)と、
を備えたトルクリミッタ装置。
【請求項2】
前記入力側プレート(20)の複数の孔(20b)及び摩擦材(26)は円周方向に等角度間隔で配置されている、請求項1に記載のトルクリミッタ装置。
【請求項3】
複数の前記摩擦材(26)は、対応する前記孔(20b)に対して円周方向に隙間のない状態で圧入されている、請求項2に記載のトルクリミッタ装置。
【請求項4】
前記伝達トルク制限部(7)は、前記摩擦材(26)を前記ドライブ部材(5)の摩擦連結面(14b)に押圧するプレッシャリング(32)を有し、前記ドライブ部材(5)の摩擦連結面(14b)及び前記プレッシャリング(32)の少なくともいずれか一方には、前記摩擦材(26)の内周側に配置され、前記入力側プレート(20)の側面に近づくように突出する突起(42)(43)を有している、請求項1から3のいずれかに記載のトルクリミッタ装置。
【請求項5】
前記ドライブ部材(5)と前記入力側プレート(20)との間に設けられ、前記入力側プレート(20)を前記ドライブ部材(5)から離れる側に付勢する付勢部材(45)をさらに備えた、請求項1から4のいずれかに記載のトルクリミッタ装置。
【請求項6】
前記伝達トルク制限部(7)は、
前記摩擦材(26)を前記ドライブ部材(5)の摩擦連結面(14b)との間で挟持するプレッシャリング(32)と、
リング状に形成され、内周部が前記プレッシャリング(32)を前記ドライブ部材(5)側に押圧するコーンスプリング(33)と、
前記ドライブ部材(5)に装着され、前記コーンスプリング(33)の外周部を支持する支持部材(34)と、を有している、請求項1から5のいずれかに記載のトルクリミッタ装置。
【請求項7】
エンジン側部材からトランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限するためのトルクリミッタ装置であって、
前記エンジン側部材に連結され摩擦連結面(14b)を有するドライブ部材(5)と、
軸方向に貫通する少なくとも1つの孔(20b)を有し軸方向に第1厚みを有するプレート本体と、前記孔(20b)に装着され前記第1厚みより厚い第2厚みを有する摩擦材(26)と、を有する摩擦連結用プレート(20)と、
前記トランスミッション側の軸に係合可能な出力側部材(22)と、
前記摩擦用連結プレート(20)と前記出力側部材(22)とを円周方向に弾性的に連結するダンパー機構(23)と、
前記摩擦材(26)を前記ドライブ部材(5)の摩擦連結面(14b)との間で狭持して、前記ドライブ部材(5)から前記トランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限する伝達トルク制限部(7)と、
を備え、
前記伝達トルク制限部(7)は、前記摩擦材(26)を前記ドライブ部材(5)の摩擦連結面(14b)に押圧するプレッシャリング(32)を有し、前記ドライブ部材(5)の摩擦連結面(14b)及び前記プレッシャリング(32)の少なくともいずれか一方には、前記摩擦材(26)の内周側に配置され、前記摩擦連結用プレート(20)の側面に近づくように突出する突起(42)(43)を有している、
トルクリミッタ装置。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的にみて、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記外周面に内周側に形成された窓孔」を「前記外周面において前記複数の孔(20b)の内周側に形成された複数の窓孔」と限定するとともに、同じく、「前記入力側プレートと前記出力側部材とを円周方向に弾性的に連結するダンパー機構」を「前記入力側プレート(20)の複数の窓孔のそれぞれに支持され、前記入力側プレート(20)と前記出力側部材(22)とを円周方向に弾性的に連結する複数のトーションスプリング(23)」と限定するものであって、これは、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2008-280033号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
本発明は、複数の動力源(例えばエンジンと電気モータ)を有するハイブリッド駆動装置のダンパに関するものである。」
(い)「【0007】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、第1の動力源及び第2の動力源によって生じる変動トルクを抑制しながら伝達するダンパであって、第1の動力源及び第2の動力源による変動トルクが所定値に達すると動力の伝達を抑制するリミッタ機構を備えるようにした。」
(う)「【0012】
ハイブリッド駆動装置は、第1の動力源であるエンジン10と、第2の動力源である電動モータ20と、エンジン10と電動モータ20との間に配設され両者間の変動トルクを抑制するハイブリッド駆動装置用ダンパ30と、電動モータ20とダンパ30との間に配設される遊星歯車機構40と、図示しない駆動輪に動力を伝達する減速機構50と、遊星歯車機構40のリングギヤ41側と減速機構50とを連結するベルト60と、遊星歯車機構40に連結する発電モータ70と、インバータ80を介して発電モータ70及び電動モータ20と電気的に接続するバッテリー90とを備える。
【0013】
エンジン10の出力はダンパ30を介して遊星歯車機構40のキャリア42に連結されており、発電モータ70は遊星歯車機構40のサンギヤ43に連結されており、エンジン10の駆動によって発生した電気エネルギーをバッテリー90に充電するものである。また、電動モータ20の出力はリングギヤ41に連結されている。
【0014】
上記構成のハイブリッド駆動装置の作動について簡単に説明する。エンジン10のみが駆動しているときには、エンジン10の出力がダンパ30を介して遊星歯車機構40のキャリヤ42に出力され、キャリア42全体がエンジン10の出力軸11を中心として回転する。これによってリングギヤ41が回転し、ベルト60を介して減速機構50に動力が伝達され、図示しない駆動輪を駆動させる。このとき、サンギヤ43も回転させられて発電モータ70が発電作用し、バッテリー90が充電される。次に、エンジン10が停止して電動モータ20のみが駆動すると、リングギヤ41が回転してベルト60を介して減速機構50に動力が伝達される。このとき、キャリヤ42自体はその位置を変えずに自転するだけであるので、エンジン10側には電動モータ20の動力が伝達されない。更に、エンジン10と電動モータ20の両方をそれぞれ駆動させて減速機構50に動力を伝達することも可能である。このような動力源の切替え(電動モータ20の駆動・非駆動の切替え)は、車速やアクセル開度等の各種信号によって図示しない制御装置により切替えられる。
【0015】
本発明の主旨であるダンパ30について説明する。図2は、本発明の第1の実施の形態におけるダンパ30の一部切欠き平面図、図3は図2のA-A断面図である。
【0016】
ダンパ30は、エンジン10の出力軸11に連結して出力軸11とともに回転駆動する第1回転部材31と、遊星歯車機構40を介して電動モータ20と連結するとともに第1回転部材31と同軸上に相対回転可能に配設されキャリヤ42に連結するキャリヤ軸43Aと連結する第2回転部材32と、第1回転部材31と第2回転部材32とのそれぞれに対して所定の角度範囲内で相対回転可能に配設される中間部材33と、第2回転部材32及び中間部材33の窓32A、33D内に配設され円周方向に弾縮することで第1回転部材31と第2回転部材32との間の変動トルクを抑制するトーション部材34と、第1回転部材31と第2回転部材32との間の変動トルクが所定値に達すると第1回転部材31から第2回転部材32への動力の伝達を遮断するリミッタ機構35とを備える。
【0017】
中間部材33は、第1中間板33Aと第2中間板33Bとをリベット38にて固定して構成され、内周側には第2回転部材32との間にヒステリシスを発生するためのヒステリシス機構39を配している。4つの窓32A、33D内のトーション部材34は34Aと34Bとの2種類があり、それぞれ異なる変動トルクを抑制する。リミッタ機構35は、トーション部材34の外周側で第1回転部材31の内周に保持されており、第2中間板33Bに連結する板材33Cの両面に形成される摩擦材35Aと、摩擦材35Aを図3左側に付勢する付勢部材である皿バネ35Bと、皿バネ35Bと摩擦材35Aの間に挟持され、第1回転部材31と一体回転可能且つ軸方向変位可能に配設されるプレート35Cとから構成される。第2回転部材32はキャリヤ軸42Aとスプライン結合しており、摩擦材35Aの摩耗に追従して軸方向に変位するよう構成される。摩擦材35Aと接触する箇所には、摩擦係数安定のためにパーカーライジング処理が施されており、長期の使用に際しても安定した摩擦係数を維持している。
【0018】
このように構成されるダンパ30の作用について説明する。エンジン10のみが駆動した場合、第1回転部材31がエンジン10の駆動に伴って回転する。変動トルクが所定値より小さい範囲内においては、リミッタ機構35を介して中間部材33に回転トルクが伝達され、中間部材33が回転する。中間部材33の回転トルクはトーション部材34を介して第2回転部材32に伝達され、変動トルクに応じてトーション部材34が弾縮しながら第2回転部材32が回転する。このように、ダンパ30を介してキャリヤ軸42Aにエンジン10の駆動が伝達される。
【0019】
上記の状態からエンジン10の駆動トルクが大きくなり、第1回転部材31と第2回転部材32との間の変動トルクが所定値に達すると(変動トルクがプレート35Cと第1回転部材31との間での摩擦材35Aの回転方向の保持トルクに達するときに相当)、摩擦材35Aが滑り出し、中間部材33と第2回転部材32との間では所定値以上の変動トルクを伝達しなくなる。尚、第1の実施の形態では、変動トルクの所定値(摩擦材35Aが滑り出すトルク)を、トーション部材34によって抑制可能な変動トルクの2.0?3.0の範囲に設定している。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「遊星歯車機構40のリングギヤ41にベルト60を介して駆動輪に動力を伝達する減速機構50が連結されるとともに電動モータ20の出力が連結され、遊星歯車機構40のサンギヤ43に発電モータ70が連結され、遊星歯車機構40のキャリヤ軸42Aにエンジン10の出力が連結されるハイブリッド駆動装置に使用されるダンパ30であって、
エンジン10の出力軸11に連結され摩擦連結面を有する第1回転部材31と、
第1中間板33Aと第2中間板33Bとをリベット38にて固定して構成される中間部材33であって、板材33Cが第2中間板33Bの外周側に連結され、第1回転部材31の摩擦連結面に近接配置される板材33Cの両面に形成される摩擦材35Aと、4つの窓33Dと、を有する中間部材33と、
遊星歯車機構40のキャリヤ軸42Aにスプライン結合した第2回転部材32と、
中間部材33の4つの窓にそれぞれ支持され、中間部材33と第2回転部材32とを円周方向に弾性的に連結する複数のトーション部材34と、
摩擦材35Aを第1回転部材31の摩擦連結面側に付勢する皿バネ35Bと、皿バネ35Bと摩擦材35Aの間に挟持され、第1回転部材31と一体回転可能且つ軸方向変位可能に配設されるプレート35Cとから構成され、第1回転部材31と第2回転部材32との間の変動トルクが所定値に達すると第1回転部材31から第2回転部材32への動力の伝達を抑制するリミッタ機構35と、
を備えたハイブリッド駆動装置用ダンパ。」
(2-2)引用例2
特開昭63-280937号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「[産業上の利用分野]
本発明は自動車等のクラッチ、オートマチックトランスミッョン等に用いられる摩擦部材に関する。」(第1頁左下欄第20行?右下欄第3行参照)
(き)「本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、接着剤を用いずにライニング材とディスクプレートとを固定することができ、負荷トルクが60kg・m以上の使用にも充分対応することができる摩擦部材を提供するものである。」(第2頁右上欄第11?15行参照)
(く)「[問題点を解決するための手段]
本発明の摩擦部材は、周方向に間隔を隔てて並ぶ複数の貫通孔を有する円板状のディスクプレートと、
貫通孔に挿通されてディスクプレートに機械的に係合保持されたブロック状ライニング材と、よりなることを特徴とする。
本発明の摩擦部材は、円板状のディスクプレートと、ブロック状のライニング材とから構成される。
ディスクプレートは周方向に間隔を隔てて並ぶ複数の貫通孔を具備している。この貫通孔に後述のブロック状ライニング材が保持固定される。この貫通孔の形状は特に制限されず、円形、楕円形、あるいは多角形等どのようなものでもよい。又この貫通孔の数は摩擦部材としての使用条件により種々構成することができる。
ここにいうディスクプレートとは、手動式トランスミッションあるいはオートマチックトランスミッションに使用される摩擦部材のコアプレート、あるいはディスクブレーキパッドやドラムブレーキ等のバックメタルをいう。なおディスクプレートは炭素鋼、合金鋼、鋳鉄、鋳鋼、鉄系焼結材料等のいずれで作成されたものでもよい。
ブロック状ライニング材は相手方に押付けられて相手方と摺接するものである。」(第2頁右上欄第16行?右下欄第1行参照)
(け)「[作用]
本発明の摩擦部材では、ライニング材はブロック状をなし、ディスクプレートの貫通孔に挿通されて機械的に係合保持されている。従ってライニング材は貫通孔よりディスクプレートの両側に突出した状態となり、相手部材に組付けられたときにはセパレータによりライニング材の両側から挟持された状態で保持される。従ってライニング材が貫通孔内にただ単に挿通されている状態であっても、ライニング材が脱落するような不具合が防止される。」(第3頁左上欄第11行?右上欄第1行参照)
(こ)「(実施例1)
第1図に本発明の一実施例の摩擦部材の平面図を示す。この摩擦部材、ディスクプレート1と、ライニング材2とより構成されている。ディスクプレート1は外径130mm、内径100mm、厚さ4mmのリング形状をなし、周方向に間隔を隔てて並ぶ直径10mmの貫通孔10が12個設けられている。
ライニング材2はフェノール樹脂より直径10mm、高さ8mmの円柱形状に成形され、貫通孔10に圧入により保持固定されている。即ちライニング材2は第2図に示すように、貫通孔10よりディスクプレート1の両側にそれぞれ2mmずつ突出した状態に固定されている。なお、このライニング材2のせん断強度は800kg/cm^(2)である。」(第3頁右上欄第16行?左下欄第10行参照)
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「エンジン10の出力軸11」は「エンジン側部材」に、「遊星歯車機構40のキャリヤ軸42A」は「トランスミッション側の軸」に、「第1回転部材31」は「ドライブ部材(5)」に、「中間部材33」は「入力側プレート(20)」に、「板材33Cの両面」は「外周面」に、「摩擦材35A」は「摩擦材(26)」に、「4つの窓33D」は「複数の窓孔」に、「スプライン結合した」は「係合可能な」に、「第2回転部材32」は「出力側部材(22)」に、「トーション部材34」は「トーションスプリング(23)」に、「リミッタ機構35」は「伝達トルク制限部(7)」に、それぞれ相当する。後者の「ハイブリッド駆動装置用ダンパ」は、「第1回転部材31から第2回転部材32への動力の伝達を抑制するリミッタ機構35」を備えているので、前者の「トルクリミッタ装置」に相当する。また、前者の「前記複数の孔(20b)に装着され前記第1厚みよりも厚い第2厚みを有する摩擦材(26)」と後者の「板材33Cの両面に形成される摩擦材35A」は、「外周面に設けられる摩擦材」である点で一致する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「エンジン側部材からトランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限するためのトルクリミッタ装置であって、
前記エンジン側部材に連結され摩擦連結面を有するドライブ部材と、
前記摩擦連結面に近接した外周面と、外周面に設けられる摩擦材と、前記外周面において内周側に形成された複数の窓孔と、を有する入力側プレートと、
前記トランスミッション側の軸に係合可能な出力側部材と、
前記入力側プレートの複数の窓孔のそれぞれに支持され、前記入力側プレートと前記出力側部材とを円周方向に弾性的に連結する複数のトーションスプリングと、
前記摩擦材を前記ドライブ部材の摩擦連結面との間で狭持して、前記ドライブ部材から前記トランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限する伝達トルク制限部と、
を備えたトルクリミッタ装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明は、「入力側プレート」が「前記摩擦連結面に近接し軸方向に第1厚みを有するとともに軸方向に貫通する複数の孔が形成された外周面と、前記複数の孔に装着され前記第1厚みよりも厚い第2厚みを有する摩擦材と、前記外周面において前記複数の孔の内周側に形成された複数の窓孔と、を有する」のに対し、引用例1発明は、「中間部材33」が「第1中間板33Aと第2中間板33Bとをリベット38にて固定して構成される中間部材33であって、板材33Cが第2中間板33Bに連結され、第1回転部材31の摩擦連結面に近接配置される板材33Cの両面に形成される摩擦材35Aと、4つの窓33Dと、を有する」点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
引用例1発明の「摩擦材35A」は「板材33Cの両面に形成される」ものであるが、「第1回転部材31」と「リミッタ機構35」との間に挟持されて摩擦連結し得るものであれば足り、その限りにおいて、「板材33C」にどのようにして設けるかは、構成の簡素化、取付けの作業性等を考慮して適宜設計する事項にすぎない。
引用例2には、上記に摘記したとおり、「自動車等のクラッチ、オートマチックトランスミッョン等に用いられる摩擦部材」に関して、「ライニング材2を、ディスクプレート1の貫通孔10に圧入により保持固定し、貫通孔10よりディスクプレート1の両側にそれぞれ2mmずつ突出した状態で固定する」という事項が示されている。引用例1発明に、引用例2の上記事項を適用して、相違点1に係る本願補正発明の上記事項に想到することは、当業者が容易になし得たものと認められる。
なお、引用例1発明の「板材33C」は「第2中間板33B」に連結されているが、これを単一の部材とするかどうかは、適宜の設計事項にすぎない。
そして、本願補正発明の作用効果も引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が予測し得る程度のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

請求人は、審判請求の理由において、「しかし、仮に刊行物2のプレート及びライニング材の構成を刊行物1に適用できたとしても、当業者であれば、刊行物2の構成を刊行物1における板材33Cに適用するのが自然です。これに対して本願発明では、刊行物1の第2中間板33B(トーションスプリングを支持しているプレート)を外周側に延長し、この延長部に複数の孔を形成し、摩擦材を固定したものであり、単に刊行物2の構成を刊行物1に適用して得られる構成とは明らかに相違します。したがって、単に刊行物2の構成を刊行物1に適用して得られる発明と本願発明とを比較した場合、本願発明では、刊行物1の板材33Cに相当する部材がなく、構成がより簡単になっています。」(刊行物1、2は本審決の引用例1、2である。)と主張し、また、平成23年7月19日付け回答書において、「しかし、本願発明の「入力側プレート(20)」は、「前記摩擦連結面(14b)に近接し軸方向に第1厚みを有するとともに軸方向に貫通する複数の孔(20b)が形成された外周面と、・・・・前記外周面において前記複数の孔(20b)の内周側に形成された複数の窓孔と、」を有するものであって、刊行物1において、本願発明の「入力側プレート」に相当する構成は、刊行物1の第2中間板33B及び板材33Cではなく、第2中間板33Bのみであることは明らかです。」と主張する。本願補正発明の「入力側プレート」が「複数の孔(20b)が形成された外周面」と「前記外周面において前記複数の孔(20b)の内周側に形成された複数の窓孔」とを有することはそのとおりであるが、そのような「入力側プレート」が単一の部材から成るか、それとも、複数の部材を連結したものを含むかまでは必ずしも明確でないとともに、引用例1発明の「第2中間板33B」と「板材33C」を単一の部材とするかどうかが適宜の設計事項にすぎないことは、上述したとおりである。また、1つのプレートの外周側に摩擦材を装着するとともに、その内周側にスプリングを収容する窓孔を設けることは、トルク変動吸収装置ないし摩擦クラッチに関してではあるが、特開2006-90425号公報(特に、段落【0015】、【0032】、【0039】、【図2】)、特開平8-21456号公報(段落【0015】、【0016】、【図2】)に示されており、周知であると認められる。

(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
3.本願発明
平成22年12月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成22年7月21日付け手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
エンジン側部材からトランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限するためのトルクリミッタ装置であって、
前記エンジン側部材に連結され摩擦連結面を有するドライブ部材と、
前記摩擦連結面に近接し軸方向に第1厚みを有するとともに軸方向に貫通する複数の孔が形成された外周面と、前記複数の孔に装着され前記第1厚みよりも厚い第2厚みを有する摩擦部材と、前記外周面に内周側に形成された窓孔と、を有する入力側プレートと、
前記トランスミッション側の軸に係合可能な出力側部材と、
前記入力側プレートと前記出力側部材とを円周方向に弾性的に連結するダンパー機構と、
前記摩擦材を前記ドライブ部材の摩擦連結面との間で狭持して、前記ドライブ部材から前記トランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限する伝達トルク制限部と、を備えたトルクリミッタ装置。
【請求項2】
複数の前記入力側プレートの孔及び摩擦材は円周方向に等角度間隔で配置されている、請求項1に記載のトルクリミッタ装置。
【請求項3】
複数の前記摩擦材は、対応する前記孔に対して円周方向に隙間のない状態で圧入されている、請求項2に記載のトルクリミッタ装置。
【請求項4】
前記伝達トルク制限部は、前記摩擦材を前記ドライブ材の摩擦連結面に押圧するプレッシャリングを有し、前記ドライブ材の摩擦連結面及び前記プレッシャリングの少なくともいずれか一方には、前記摩擦材の内周側に配置され、前記入力側プレートの側面に近づくように突出する突起を有している、請求項1から3のいずれかに記載のトルクリミッタ装置。
【請求項5】
前記ドライブ部材と前記入力側プレートとの間に設けられ、前記入力側プレートを前記ドライブ部材から離れる側に付勢する付勢部材をさらに備えた、請求項1から4のいずれかに記載のトルクリミッタ装置。
【請求項6】
前記伝達トルク制限部は、
前記摩擦材を前記ドライブ材の摩擦連結面との間で挟持するプレッシャリングと、
リング状に形成され、内周部が前記プレッシャリングを前記ドライブ部材側に押圧するコーンスプリングと、
前記ドライブ部材に装着され、前記コーンスプリングの外周部を支持する支持部材と、を有している、請求項1から5のいずれかに記載のトルクリミッタ装置。
【請求項7】
エンジン側部材からトランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限するためのトルクリミッタ装置であって、
前記エンジン側部材に連結され摩擦連結面を有するドライブ部材と、
軸方向に貫通する少なくとも1つの孔を有し軸方向に第1厚みを有するプレート本体と、前記摩擦連結用プレートの孔に装着され前記第1厚みより厚い第2厚みを有する摩擦材と、を有する摩擦連結用プレートと、
前記トランスミッション側の軸に係合可能な出力側部材と、
前記摩擦用連結プレートと前記出力側部材とを円周方向に弾性的に連結するダンパー機構と、
前記摩擦材を前記ドライブ部材の摩擦連結面との間で狭持して、前記ドライブ部材から前記トランスミッション側の軸に伝達されるトルクを制限する伝達トルク制限部と、
を備え、
前記伝達トルク制限部は、前記摩擦材を前記ドライブ材の摩擦連結面に押圧するプレッシャリングを有し、前記ドライブ材の摩擦連結面及び前記プレッシャリングの少なくともいずれか一方には、前記摩擦材の内周側に配置され、前記摩擦連結用プレートの側面に近づくように突出する突起を有している、
トルクリミッタ装置。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、2、及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は、実質的にみると、本願補正発明の「前記外周面において前記複数の孔(20b)の内周側に形成された複数の窓孔」という事項を「前記外周面に内周側に形成された窓孔」という事項に拡張し、同様に、「前記入力側プレート(20)の複数の窓孔のそれぞれに支持され、前記入力側プレート(20)と前記出力側部材(22)とを円周方向に弾性的に連結する複数のトーションスプリング(23)」という事項を「前記入力側プレートと前記出力側部材とを円周方向に弾性的に連結するダンパー機構」という事項に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。
4.結語
上述のように、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2?7について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-13 
結審通知日 2012-01-17 
審決日 2012-02-09 
出願番号 特願2009-140027(P2009-140027)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 宏和小野 孝朗  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 川本 真裕
倉田 和博
発明の名称 トルクリミッタ装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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