• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25B
管理番号 1254204
審判番号 不服2011-13700  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-28 
確定日 2012-03-22 
事件の表示 特願2006-150489号「圧縮機装置および冷媒循環装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日出願公開、特開2007-322022号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成18年5月30日の出願であって、平成23年3月23日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年3月29日)、これに対し、同年6月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、平成23年10月20日付けで当審により拒絶理由通知がなされ、平成23年12月20日付けで意見書の提出がなされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年10月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「冷媒の吸入圧力よりも高圧の潤滑油を溜める貯油室を有する圧縮機、凝縮器、減圧手段、および蒸発器を備え、前記圧縮機、前記凝縮器、前記減圧手段、および前記蒸発器に冷媒を循環する冷媒循環装置に用いられ、前記圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部とを備えた圧縮機装置において、
前記圧縮機を停止する停止指令を検出する停止指令検出手段と、前記停止指令検出手段により停止指令を検出すると、前記圧縮機より吐出される高圧側の冷媒圧力と、前記圧縮機に吸入される低圧側の冷媒圧力との差圧を縮小する差圧縮小手段と、前記差圧縮小手段により前記差圧を小さくした後に前記圧縮機を停止する停止手段と、を備え、前記減圧手段は、前記圧縮機から吐出する冷媒を減圧する膨張弁であって、前記差圧縮小手段は、高圧側の冷媒圧力が低下するように、前記膨張弁を制御すると共に前記電動機部の回転数を減少させることを特徴とする圧縮機装置。」

3.刊行物について
(1)当審による拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-159573号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
a)「【請求項3】密閉ケースに軸方向が略水平となる状態に配置される電動機部および圧縮機部を収容しかつ潤滑油を充填してなる流体圧縮機を備えたものにおいて、前記流体圧縮機の停止に際し前記電動機部の回転数を徐々に減少させる制御手段、を具備したことを特徴とする冷凍サイクル装置。」(【特許請求の範囲】。下線は当審にて付与。以下同様。)
b)「【産業上の利用分野】この発明は、被圧縮流体としての冷媒ガスを圧縮する流体圧縮機を備えた冷凍サイクル装置に関する。」(段落【0001】)
c)「停止時は、図10に示すように、電動機部の回転数Nが二段構えではあるものの急激に減少され、その減少時に流体圧縮機に大きな振動が生じ、起動時と同じく騒音等の問題を引き起こしてしまう。また、実際に停止してから冷凍サイクルの高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psとの圧力バランスがとれるまでに長い時間を要してしまう。
高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psとの圧力バランスがとれるまでの期間、密閉ケース内のシリンダの吐出部と吸込部との間に圧力差が存在する。この圧力差の影響で、密閉ケース内に集溜する潤滑油の油面がシリンダの吐出部付近まで上昇し、シリンダ内に流入することがある。流入した油は低圧側圧力Psが低いことを受けてシリンダの吸込部へと流れ、そこから冷凍サイクルの吸込管へと逆流してそこに溜まり込んでしまう。こうなると、次の起動時、吸込管に溜まり込んだ油がシリンダへと吸込まれていわゆる液圧縮が生じ、流体圧縮機の寿命に悪影響を与える。
この発明は上記の事情を考慮したもので、・・・第3および第4の発明の冷凍サイクル装置は、停止時の振動を抑えて騒音の問題を解消できるとともに、停止時の高圧側圧力と低圧側圧力との圧力バランスにかかる時間を短縮して潤滑油が吸込側に逆流する事態を防ぐことができ、これにより液圧縮を回避して流体圧縮機の寿命への悪影響を解消できることを目的とする。」(段落【0011】?【0014】)
d)「【実施例】以下、この発明の一実施例について図面を参照して説明する。図2に示すように、流体圧縮機1は、軸方向が略水平の状態に配置され且つ両端が閉塞される密閉ケ?ス2を有し、その密閉ケース2に電動機部3および圧縮機部4を収容することにより構成される。
密閉ケース2は、両端が開口する円筒状のケース本体2aと、この一端開口部にたとえば溶接手段によって設けられ、これを閉塞する蓋体2bおよび他端開口部を閉塞する上蓋部2cとからなる。
圧縮機部4は回転体であるシリンダ5を有しており、このシリンダ5の外周面に上記電動機部3の構成要素となるロ?タ6が、後述する非磁性体で薄肉円筒状のカバー体11を介して外嵌保持されている。ロータ6は、環状の永久磁石により成る。」(段落【0042】?【0044】)
e)「一方、密閉ケース2には潤滑油が充填されていて、その潤滑油が密閉ケース2の内底部に集溜して油溜り部26が形成される。この油溜り部26の潤滑油に、電動機部3および圧縮機部4の一部が浸漬するとともに、上記主,副軸受8,9にそれぞれ設けられる油吸上げ管27a,27bの端部が浸漬する。」(段落【0063】)
f)「このように構成される流体圧縮機1に対し、図1の制御回路が付属される。図1において、40は制御部で、流体圧縮機1をはじめとする冷凍サイクル機器の全般にわたる制御を行なう。この制御部40に、タイミング信号発生部41、回転数指示信号入力部42、制御信号入力部43、およびモータ駆動制御部44が接続される。」(段落【0066】)
g)「また、モータ駆動制御部44は、インバータ回路51の出力周波数F、つまり各相巻線に対する通電切換の周波数を、制御部40からの指示周波数に応じて変化させる。これにより、電動機部3の回転数Nが変化する。
制御部40は、主として次の機能手段を備える。
[1]流体圧縮機1の起動に際し、電動機部3の回転数Nを徐々に増大させる制御手段。
[2]流体圧縮機1の停止に際し、電動機部3の回転数Nを徐々に減少させる制御手段。
つぎに、上記の構成の作用について、図3のフローチャートを参照して説明する。」(段落【0070】?【0072】)
h)「圧縮された冷媒ガスは、所定の圧力まで上昇したところで、吐出部Da,Db側の圧縮室17A,17Bから各導出案内孔21,22を介して密閉ケース2の内部空間内に導出され、充満する。
この高圧化した冷媒ガスは、吐出管23から密閉ケース2外部の冷凍サイクル機器に導かれる。圧縮運転中において、上記ブレード16は圧力バランスの発生などの理由で、吸込部Sもしくは吐出部Da,Db方向へ移動する力を受けるが、この両端面がブレードストッパ25に当接し、かつ衝止されるので、いずれの方向への移動も全くない。よって、ブレード16は螺旋状溝での突没移動のみ円滑に行い、高い圧縮効率を保持する。
しかる後、空気調和機から運転停止の指令が入ると、インバータ回路51の出力周波数Fが徐々に低下され、その低下の途中で二度、出力周波数Fが一定時間tずつ所定値N2 ,N1 にそれぞれ維持される。これにより、図8に示すように、電動機部3の回転数Nが徐々にかつ段階的に減少する。
このように、流体圧縮機1の停止に際して電動機部3の回転数Nを徐々にかつ段階的に減少させることにより、流体圧縮機1の振動を従来(図10)に比べてかなり抑えることができる。よって、騒音等の問題を解消できる。
また、電動機部3の回転数Nが徐々にかつ段階的に減少することにより、実際の停止後、高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psとの圧力バランスが短時間のうちに完了する。
一般に、停止時は、高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psとの圧力バランスがとれるまでの期間、密閉ケース2内のシリンダ5の吐出部Da,Dbと吸込部Sとの間に圧力差が存在する。この圧力差の影響で、密閉ケース2内に集溜する潤滑油の油面がシリンダ5の吐出部Dbの導出案内孔22付近まで上昇し、そこから油がシリンダ5内に流入する心配がある。仮に、流入すると、流入した油は図2に破線矢印で示すように、低圧側圧力Psが低いことを受けてシリンダ5の吸込部Sへと流れ込み、そこから吸込管18へと逆流してそこに溜まり込んでしまう。こうなると、次の起動時、吸込管18に溜まり込んだ油がシリンダ5へと吸込まれていわゆる液圧縮が生じ、流体圧縮機1の寿命に悪影響を与えてしまう。
しかしながら、上記したように、高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psと圧力バランスが短時間のうちに完了するので、潤滑油がシリンダ5および吸込管18へと逆流する事態を未然に防ぐことができる。これにより、上記のような液圧縮を回避して流体圧縮機1の寿命への悪影響を解消できる。」(段落【0086】?【0092】)
i)「第3の発明の冷凍サイクル装置は、流体圧縮機の停止に際し電動機部の回転数を徐々に減少させる構成としたので、停止時の振動を抑えて騒音の問題を解消できるとともに、停止時の高圧側圧力と低圧側圧力との圧力バランスにかかる時間を短縮して潤滑油が吸込側に逆流する事態を防ぐことができ、これにより液圧縮を回避して流体圧縮機の寿命への悪影響を解消できる。」(段落【0098】)

上記a?iの記載事項及び図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「停止時の振動を抑えて騒音の問題を解消できるとともに、停止時の高圧側圧力と低圧側圧力との圧力バランスにかかる時間を短縮して潤滑油が吸込側に逆流する事態を防ぐことができ、これにより液圧縮を回避して流体圧縮機の寿命への悪影響を解消できることを目的とし、
圧縮された冷媒ガスが内部空間内に充満する密閉ケース2を有する流体圧縮機1を備えた冷凍サイクル装置に用いられ、密閉ケース2に圧縮機部及び電動機部3を収容した流体圧縮機1において、
制御部40が付属され、制御部40に運転停止の指令が入ると、制御部40の機能手段は、高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psと圧力バランスを短時間のうちに完了すべく電動機部3の回転数Nを徐々に減少させ、その後、流体圧縮機1を停止させる流体圧縮機1。」

(2)同じく、当審による拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-2047号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
a)「【請求項1】 コンプレッサから吐出させた冷媒を、車外側熱交換器で放熱させ、膨張弁で減圧し、車内側熱交換器で気化させた後、コンプレッサに戻して循環させる冷凍サイクルを備えた車両用空調装置において、
前記車内側熱交換器による冷房能力の要・不要を検出する検出手段と、
該検出手段での検出結果に基づいて前記膨張弁の開度を増大させた後、前記コンプレッサを停止させる制御手段とを設けたことを特徴とする車両用空調装置。」(【特許請求の範囲】)
b)「【発明の属する技術分野】本発明は、車両用空調装置に関するものである。」(段落【0001】)
c)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記車両用空調装置では、最低限高サイド圧力による運転が予め設定した一定時間継続するまでは、コンプレッサは通常通り駆動し続けるので、余分な動力が消費される。
また、外気温度や車速の増加に伴ってコンプレッサの駆動回転数が大きくなるので、その状態でコンプレッサを停止すると、受けるショックが大きく、乗員が違和感や不快感を受ける。すなわち、コンプレッサをオン・オフすると、図3に示すように、コンプレッサの入口低圧側と出口高圧側の各冷媒圧力(実線)が目標値(2点鎖線)に対して大きく変動する。
そこで、本発明は、余分な動力消費とオン・オフ時のショックを抑制しつつ、コンプレッサを駆動制御することのできる車両用空調装置を提供することを課題とする。」(段落【0003】?【0005】)
d)「【発明の実施の形態】以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。
図1は、第1実施形態に係る車両用空調装置の冷凍サイクルCを示す。この冷凍サイクルCでは、コンプレッサ1から吐出された冷媒(ここでは、CO2を使用)が、車外側熱交換器2、膨張弁3、及び、車内側熱交換器4を介してコンプレッサ1に戻って循環する。コンプレッサ1及び膨張弁3は、制御装置5によって駆動制御される。
コンプレッサ1は、図示しないエンジンの動力によって駆動可能である。コンプレッサ1の駆動回転数は調整可能であり、冷媒の吐出容量を自由に設定することができる。コンプレッサ1の出口側配管には高圧力検出センサ6が設けられ、入口側配管には低圧力検出センサ7が設けられている。」(段落【0012】?【0014】)
e)「車内側熱交換器4の冷房能力が必要とされていると判断すれば、通常通り車内空調制御を続行するが、必要とされていないと判断すれば、現時点でのコンプレッサ1の検出吐出容量と、膨張弁3の検出開度とをそれぞれ記憶する(ステップS3,S4)。そして、コンプレッサ1を停止しても、乗員に違和感や不快感等を与えることがない目標吐出容量を決定する(ステップS5)。ここでは、コンプレッサ1から冷媒を吐出可能な最小値に決定している。そして、ステップS3で記憶した検出吐出容量とステップS5で決定した目標吐出容量とに基づいて、吐出容量を減少させる際のステップ量を決定する(ステップS6)。このステップ量は、吐出容量を何段階で減少させるのかによって自由に設定することができる。こうして決定したステップ量に従って順次所定時間経過する毎に吐出容量を減少させる(ステップS7)。この間、コンプレッサ1からの吐出容量の減少度合い(ステップ量)に従ってエアミックスドア13の回動位置を補正する(ステップS8)。なお、エアミックスドア13の回動位置の補正は、これ以降、コンプレッサ1が停止するまで続行する。
コンプレッサ1の吐出容量がステップS3で決定した目標吐出容量に到達すれば(ステップS9)、続いて、コンプレッサ1を停止しても、乗員に違和感や不快感等を与えることがないような膨張弁3の開度を決定する(ステップS10)。そして、ステップS4で記憶した膨張弁3の検出開度とステップS10で決定した膨張弁3の目標開度とに基づいて、膨張弁3の開度を増大させる際のステップ量を決定する(ステップS11)。ステップ量の決定方法は、前述のコンプレッサ1の吐出容量を減少させる場合と同様に、開度を何段階で増大させるのかによって自由に設定することができる。ステップ量が決定されれば、このステップ量に従って所定時間経過する毎に膨張弁3の開度を減少させ(ステップS12)、目標開度に到達すれば(ステップS13)、コンプレッサ1の駆動を停止する(ステップS14)。なお、この間も、前記ステップS8と同様に、エアミックスドア13の回動位置を補正する(ステップS15)。
このように、車内側熱交換器4による冷房能力が必要とされない場合、コンプレッサ1を停止する前に、その駆動回転数を低減し、かつ、膨張弁3の開度を増大させるので、コンプレッサ1を停止しても、乗員が違和感や不快感を受けるような衝撃は発生しない。また、この間、エアミックスドア13の回動位置を調整することにより、所望の送風温度を得るようにしているので、車内空調は常に適切な状態に維持される。」(段落【0021】?【0023】)

上記a?eの記載事項及び図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「余分な動力消費とオン・オフ時のショックを抑制しつつ、コンプレッサを駆動制御することを目的とし、
コンプレッサ1、車外側熱交換器2、膨張弁3、及び、車内側熱交換器4を具備する冷凍サイクルCに用いられ、駆動回転数が調整可能であり、冷媒の吐出量を自由に設定できるコンプレッサ1において、
車内側熱交換器4の冷房能力が必要とされていないと判断すれば、制御装置5による駆動制御により、コンプレッサ1を停止する前にその駆動回転数を減少し、かつ、膨張弁3の開度を増大させ、コンプレッサ1の駆動を停止するコンプレッサ1。」

4.対比
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された発明の「圧縮された冷媒ガスが内部空間内に充満する密閉ケース2を有する流体圧縮機1」は、「圧縮された冷媒ガス」は吸入冷媒ガスよりも高圧にされたものであるから、本願発明の「冷媒の吸入圧力よりも高圧の潤滑油を溜める貯油室を有する圧縮機」及び「圧縮機装置」に相当し、以下同様に、
「冷凍サイクル装置」は、流体圧縮機1に加えて、凝縮器、減圧手段及び蒸発器を備えるものであることは明らかであるから、「圧縮機、凝縮器、減圧手段、および蒸発器を備え、圧縮機、凝縮器、減圧手段、および蒸発器に冷媒を循環する冷媒循環装置」に、
「圧縮機部」は、「冷媒を圧縮する圧縮機構部」に、
「電動機部3」は、「圧縮機構部を駆動する電動機部」に、
「制御部40が付属され、制御部40に運転停止の指令が入る」ことは、
制御部40が運転停止の指令を判別する機能を有するものであるから、「圧縮機を停止する停止指令を検出する停止指令検出手段」を備え、「停止指令検出手段により停止指令を検出する」ことに、
「制御部40の機能手段は、高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psと圧力バランスを短時間のうちに完了すべく電動機部3の回転数Nを徐々に減少させ」ることは、機能手段は、高圧側圧力と低圧側圧力との間の差圧を縮小させる手段といえることから、「圧縮機より吐出される高圧側の冷媒圧力と、圧縮機に吸入される低圧側の冷媒圧力との差圧を縮小する差圧縮小手段」を備えること、及び、「差圧縮小手段は、高圧側の冷媒圧力が低下するように」「電動機部の回転数を減少させる」ことに、
「その後、流体圧縮機1を停止させる」ことは、「差圧縮小手段により差圧を小さくした後に圧縮機を停止する停止手段」に、
それぞれ相当する。

したがって、上記両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「冷媒の吸入圧力よりも高圧の潤滑油を溜める貯油室を有する圧縮機、凝縮器、減圧手段、および蒸発器を備え、前記圧縮機、前記凝縮器、前記減圧手段、および前記蒸発器に冷媒を循環する冷媒循環装置に用いられ、前記圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部とを備えた圧縮機装置において、
前記圧縮機を停止する停止指令を検出する停止指令検出手段と、前記停止指令検出手段により停止指令を検出すると、前記圧縮機より吐出される高圧側の冷媒圧力と、前記圧縮機に吸入される低圧側の冷媒圧力との差圧を縮小する差圧縮小手段と、前記差圧縮小手段により前記差圧を小さくした後に前記圧縮機を停止する停止手段と、を備え、前記差圧縮小手段は、高圧側の冷媒圧力が低下するように、前記電動機部の回転数を減少させる圧縮機装置。」

[相違点]
本願発明では、減圧手段は、圧縮機から吐出する冷媒を減圧する膨張弁であって、差圧縮小手段は、高圧側の冷媒圧力が低下するように、膨張弁を制御すると共に電動機部の回転数を減少させるのに対して、刊行物1に記載された発明では、減圧手段を具備するが、それが膨張弁であるか否か明らかでないとともに、差圧縮小手段は、高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psと圧力バランスを短時間のうちに完了すべく電動機部3の回転数を徐々に減少させる点。

5.当審による判断
上記相違点について検討する。
本願発明と刊行物2に記載された発明とを対比する。
刊行物2に記載された発明の「コンプレッサ1」は、その構成及び機能からみて、本願発明の「圧縮機」及び「圧縮機装置」に相当し、以下同様に、
「車外側熱交換器2」と「車内側熱交換器4」は、「凝縮器」あるいは「蒸発器」に、
「膨張弁3」は、「減圧手段」及び「減圧手段は、圧縮機から吐出する冷媒を減圧する膨張弁」であることに、
「車内側熱交換器4の冷房能力が必要とされていないと判断」することは、当該判断を受けてコンプレッサ1を停止するものであるから、「コンプレッサ1の停止指令」を検出する手段を具備することと実質的に等しいといえ、「圧縮機を停止する停止指令を検出する停止指令検出手段と、停止指令検出手段により停止指令を検出する」ことに、
「冷凍サイクルC」は、「冷媒循環装置」に、
それぞれ相当する。
そして、刊行物2に記載された発明の「制御装置5による駆動制御により、コンプレッサ1を停止する前にその駆動回転数を減少し、かつ、膨張弁3の開度を増大させ」ることと、本願発明の「圧縮機より吐出される高圧側の冷媒圧力と、圧縮機に吸入される低圧側の冷媒圧力との差圧を縮小する差圧縮小手段と、差圧縮小手段により差圧を小さくした後に圧縮機を停止する停止手段と、を備え、」「差圧縮小手段は、高圧側の冷媒圧力が低下するように、膨張弁を制御すると共に電動機部の回転数を減少させる」こととは、前者において、コンプレッサ1の駆動回転数を減少させると、コンプレッサ1の低圧側と高圧側との圧力差が縮小されることから、両者は、「圧縮機より吐出される高圧側の冷媒圧力と、圧縮機に吸入される低圧側の冷媒圧力との差圧を縮小する差圧縮小手段と、差圧縮小手段により差圧を小さくした後に圧縮機を停止する停止手段と、を備え、差圧縮小手段は、高圧側の冷媒圧力が低下するように、膨張弁を制御すると共に圧縮機の回転数を減少させる」ことで共通する。
また、刊行物2に記載された発明の「コンプレッサ1の駆動を停止する」ことは、コンプレッサ1の駆動回転数を減少させた後に、コンプレッサ1の駆動を停止することであるから、本願発明の「差圧縮小手段により差圧を小さくした後に圧縮機を停止する停止手段」を備えることに相当する。
そうすると、刊行物2に記載された発明は、「圧縮機、凝縮器、減圧手段、および蒸発器を備え、前記圧縮機、前記凝縮器、前記減圧手段、および前記蒸発器に冷媒を循環する冷媒循環装置に用いられる圧縮機装置において、
前記圧縮機を停止する停止指令を検出する停止指令検出手段と、前記停止指令検出手段により停止指令を検出すると、前記圧縮機より吐出される高圧側の冷媒圧力と、前記圧縮機に吸入される低圧側の冷媒圧力との差圧を縮小する差圧縮小手段と、前記差圧縮小手段により前記差圧を小さくした後に前記圧縮機を停止する停止手段と、を備え、前記減圧手段は、前記圧縮機から吐出する冷媒を減圧する膨張弁であって、前記差圧縮小手段は、高圧側の冷媒圧力が低下するように、前記膨張弁を制御すると共に前記圧縮機の回転数を減少させる圧縮機装置。」と言い換えることができる。
そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、空気調和装置という同一の技術分野に属する発明であり、また、刊行物1に記載された発明は、「停止時の振動を抑えて騒音の問題を解消できる」ことを目的とし、また、刊行物2に記載された発明は、「オン・オフ時のショックを抑制」することを目的とするものであるから、両者は「停止時の振動等に伴う違和感や不快感を解消する」という共通の課題を解決するものである。
したがって、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明を適用して、冷凍サイクル装置を構成する減圧手段を膨張弁とすると共に、運転停止の指令が入ると、高圧側圧力Pdと低圧側圧力Psと圧力バランスを電動機部3の回転数を徐々に減少させることに加えて、膨張弁3の開度を増大させる制御を行ってからコンプレッサ1を停止させることは、当業者が容易になし得たものである。
そして、本願発明の奏する効果についてみても、刊行物1?刊行物2に記載された発明から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。
よって、本願発明は、刊行物1?刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?刊行物2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-18 
結審通知日 2012-01-24 
審決日 2012-02-06 
出願番号 特願2006-150489(P2006-150489)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 佐野 遵
長崎 洋一
発明の名称 圧縮機装置および冷媒循環装置  
代理人 野々部 泰平  
代理人 矢作 和行  
代理人 久保 貴則  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ