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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1254324
審判番号 不服2008-25671  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-06 
確定日 2012-03-21 
事件の表示 特願2003-576082「溶媒からの水分離」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月25日国際公開、WO03/78033、平成17年 7月 7日国内公表、特表2005-519746〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年3月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年3月11日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年12月10日付けで拒絶理由通知が通知され、平成20年6月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月30日付けで拒絶査定され、これに対し、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同年11月5日付けで手続補正書が提出されたものである。その後、当審から平成23年5月16日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、同年8月17日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成20年11月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年11月5日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成20年11月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を、補正前の、平成20年6月10日提出の手続補正書により補正された、
「【請求項1】
溶媒から残留水を分離する方法であって、
残留水を含む溶媒を含む溶液を収容する容器を提供する段階であって、前記容器は前記溶液が該容器から流出することを可能にする開口部を有する、容器を提供する段階と、
フッ素重合体の材料の層を含む膜層を用いて前記容器からの溶液の流れを阻止する段階であって、前記膜の材料は、25psi(172kPa)以上のIPAバブルポイントを有し、前記膜は、前記容器の開口部と直列に配置される、溶液の流れを阻止する段階と、
支持された膜の第1面と比べて支持された膜の第2面にかかる圧力を減少させ、これにより膜を介した溶媒の流量を増加させる段階と、
1.0ppmよりも小さいか又は等しい水レベルを有する溶媒を与えるために、前記溶媒から前記水を除去する段階と、
を備え、
前記膜層はフッ素重合体の材料の単一層であることを特徴とする方法。」
から、
「【請求項1】
溶媒から残留水を分離する方法であって、
残留水を含む溶媒を含む溶液を収容する容器を提供する段階であって、前記容器は前記溶液が該容器から流出することを可能にする開口部を有する、容器を提供する段階と、
フッ素重合体の材料の層を含む膜層を用いて前記容器からの溶液の流れを阻止する段階であって、前記膜の材料は、25psi(172kPa)以上のIPAバブルポイントを有し、前記膜は、前記容器の開口部と直列に配置される、溶液の流れを阻止する段階と、
支持された膜の第1面と比べて支持された膜の第2面にかかる圧力を減少させ、これにより膜を介した溶媒の流量を増加させる段階と、
1.0ppmよりも小さいか又は等しい水レベルを有する溶媒を与えるために、前記溶媒から前記水を除去する段階と、
を備え、
前記膜にかかる圧力を減少させる段階は、真空を適用することによって行われ、
前記真空は、8”Hg(27kPa)よりも大きくかつ22”Hg(75kPa)までであり、
前記膜層はフッ素重合体の材料の単一層であることを特徴とする方法。」
とする補正を含むものである。

2.補正の適否
上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「支持された膜の第1面と比べて支持された膜の第2面にかかる圧力を減少させ」ることについて「前記膜にかかる圧力を減少させる段階は、真空を適用することによって行われ、前記真空は、8”Hg(27kPa)よりも大きくかつ22”Hg(75kPa)までであり」と限定するものであって、当該限定事項は、出願当初の本願明細書の【特許請求の範囲】の【請求項7】に記載されている。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか検討する。

3.独立特許要件について
3-1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の出願日前である2002年(平成14年)1月10日に国際公開された刊行物である国際公開第02/02211号(以下、「引用刊行物」という)には、次の事項が記載されている。
ア 「1.A method for separating residual water from a solvent, comprising the steps of :
providing a reservoir containing a solution comprising solvent containing residual water, the reservoir having an opening to allow the solution to drain from the reservoir,
resisting the flow of the solution from the reservoir with a membrane layer comprising a first layer of fluoropolymer and a second layer of fluoropolymer, said membrane positioned in the series with the reservoir opening,
decreasing the pressure on the second side of said supported membrane relative to the first side of supported membrane to thereby increase the flow rate of the solvent through the membrane;
therein removing said water from said soluvent to provide a solvent with a water level of less than or equal to 1.0 ppm.」(7頁3?14行)
(訳は、国際公開第02/02211号のファミリーである特表2004-501756号公報の対応箇所の記載を援用、以下同じ。)
(訳:【請求項1】
溶媒から残留水を分離する方法であって、
残留水を含有する溶媒を含む溶液を収容しかつ該溶液を吐出することのできる開口部を有する容器を準備するステップと、
フッ素重合体からなる第1層及びフッ素重合体からなる第2層を含みかつ前記容器の開口部に連続的に配置された膜層を用いて、前記容器から前記溶液が流れるのを阻止するステップと、
前記膜層を介した前記溶媒の流速を増加させるために、支持された前記膜層の第1面に対して、支持された前記膜層の第2面にかかる圧力を減少させるステップと、
を備え、
前記溶媒から前記水を除去して水含有率が1.0ppm以下の溶媒を得ることを特徴とする方法。)
イ 「8.The method of claim 1 wherein the step of decreasing the pressure on the second side of the membrane relative to the first side of membrane is done by applying a vacume 」(7頁27?29行)
(訳:【請求項8】
請求項1記載の方法において、
前記膜層の前記第1面に対して前記膜層の前記第2面にかかる圧力を減少させるステップは、真空状態を利用することによって行うことを特徴とする方法。)
ウ 「10.The method of claim 8 wherein the vacuum ranges from about 1-15"Hg.」(7頁31行)
(訳:【請求項10】
請求項8記載の方法において、
前記真空状態は約1?15″Hgの範囲で変動することを特徴とする方法。)
エ 「More specifically, it is an object of the invention to provide a method and apparatus and inproved membrane design to improve the purification flow rate of a solvent/water mixture or emulsion through said membrane, to remove water, without adversely effecing membrane performance.」(2頁15?18行)
(訳:より具体的には、この発明の目的は、水を除去するために、膜の性能に不都合な影響を与えることなく前記膜を介した溶媒/水の混合物又はエマルジョンの浄化流速を改良するための方法及び装置及び改善された膜構成を提供することにある。」
オ 「The concentrator/extractor apparatus 100 comprises a column 102 and fluoropolymer material layers 104 and 105. Preferably, fluoropolymer layer 104 is laminated to fluoropolymer layer 105 to provide a membrane type construction. 」(3頁11?13行)
(訳:この凝縮/抽出装置100は、カラム102とフッ素重合体材料層104,105とを備えている。好ましくは、フッ素重合体層104は、膜型構造を提供するためにフッ素重合体層105に張り付けられている。)
カ 「The membrane comprises layers 104 and 105 are preferably characterized as follows:
Pore Size: 0.05 to 0.2 microns;
Bubble Point; Individual between 24.0 psi and 34.0 psi (47mm membrane; isoprppanol at 21℃)
WEP; 50.0 psi minimum individual
Gurley Number; Mean≦30.0 seconds (100 cc air through 1 in2 orifice, 4.88"water pressure drop)
Thickness: Preferably 1.0 mils to 20 mils.
The following definitions apply to the abobe:
・・・
Water entry pressure: The pressure at which water permeates through th membrane. This is a visual test.」(3頁24行?4頁9行)
(訳:この膜は、好ましくは次のように特徴付けられる層104,105から構成される:
細孔サイズ:0.05?0.2ミクロン;
バブルポイント:24.0プサイ(psi)と34.0プサイとの間のものが一個(47mm膜;21℃のイソプロパノール)
WEP:50.0プサイ最小個体
ガーレイナンバー(Gurley number):平均30.0秒以下(1インチ四方のオリフィスを介して100ccの空気、4.88″の水圧降下)
厚さ:好ましくは1.0ミルから20ミル。
次の規定が上記に適用される:
・・・
水流入圧(WEP):膜を介して水が通り抜ける箇所の圧力。この圧力は視覚分析である。)
キ 「For example, 10ml of methylenechloride may take about 4 minutes to flow through with a 5"Hg vacuum, but the same sample through the same membrane may only take 15-20 second at 6"Hg. This is a singnificant time savungs.」(5頁1?3行)
(訳:例えば、10mlの塩化メチレンは、5″Hgの真空度で通過させると約4分間かかるだろう。しかし、6″Hgでは、同一の膜を用いて同一のサンプルを通過させた場合15?20秒しか掛からないだろう。これは大幅な時間の節約である。)

3-2.引用発明
引用刊行物には、記載事項ア?ウによれば「溶媒から残留水を分離する方法であって、残留水を含有する溶媒を含む溶液を収容しかつ該溶液を吐出することのできる開口部を有する容器を準備するステップと、フッ素重合体からなる第1層及びフッ素重合体からなる第2層を含みかつ前記容器の開口部に連続的に配置された膜層を用いて、前記容器から前記溶液が流れるのを阻止するステップと、前記膜層を介した前記溶媒の流速を増加させるために、支持された前記膜層の第1面に対して、支持された前記膜層の第2面にかかる圧力を減少させるステップと、を備え、前記膜層の前記第1面に対して前記膜層の前記第2面にかかる圧力を減少させるステップは、真空状態を利用することによって行われ、前記真空状態は約1?15″Hgの範囲で変動するものである、前記溶媒から前記水を除去して水含有率が1.0ppm以下の溶媒を得る方法」が記載され、上記「フッ素重合体からなる第1層及びフッ素重合体からなる第2層を含」む「膜層」について、記載事項オ、カに「フッ素重合体層104は、膜型構造を提供するためにフッ素重合体層105に張り付けられている」こと、「層104,105から構成される」膜層は、「バブルポイントが24.0プサイ(psi)と34.0プサイとの間」であることが記載されている。

これらの記載事項を整理すると、引用刊行物には、
「溶媒から残留水を分離する方法であって、残留水を含有する溶媒を含む溶液を収容しかつ該溶液を吐出することのできる開口部を有する容器を準備するステップと、フッ素重合体層104がフッ素重合体層105に張り付けられている膜型構造の膜層であって、バブルポイントが24.0psiと34.0psiとの間である膜層を含み、かつ前記容器の開口部に連続的に配置された膜層を用いて、前記容器から前記溶液が流れるのを阻止するステップと、前記膜層を介した前記溶媒の流速を増加させるために、支持された前記膜層の第1面に対して、支持された前記膜層の第2面にかかる圧力を減少させるステップと、を備え、前記膜層の前記第1面に対して前記膜層の前記第2面にかかる圧力を減少させるステップは、真空状態を利用することによって行われ、前記真空状態は約1?15″Hgの範囲で変動するものである、前記溶媒から前記水を除去して水含有率が1.0ppm以下の溶媒を得る方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3-3.対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(1) 引用発明の「残留水を含有する溶媒を含む溶液を収容しかつ該溶液を吐出することのできる開口部を有する容器を準備するステップ」は、本願補正発明の「残留水を含む溶媒を含む溶液を収容する容器を提供する段階であって、前記容器は前記溶液が該容器から流出することを可能にする開口部を有する、容器を提供する段階」に相当する。
(2) 引用発明の「容器の開口部に連続的に配置された膜層を用いて、前記容器から前記溶液が流れるのを阻止するステップと、前記膜層を介した前記溶媒の流速を増加させるために、支持された前記膜層の第1面に対して、支持された前記膜層の第2面にかかる圧力を減少させるステップ」とは、容器の開口部に膜層を配置して開口部を膜層で封止し、膜層の一方の面にかかる圧力を他方の面よりも減少させて膜層を通して容器内の溶媒を通過させることを意味することは明らかであるから、本願補正発明の「フッ素重合体の材料の層を含む膜層を用いて前記容器からの溶液の流れを阻止する段階であって、」「前記膜は、前記容器の開口部と直列に配置される、溶液の流れを阻止する段階と、支持された膜の第1面と比べて支持された膜の第2面にかかる圧力を減少させ、これにより膜を介した溶媒の流量を増加させる段階」に相当するといえる。
(3) 引用発明の「フッ素重合体層104がフッ素重合体層105に張り付けられている膜型構造の膜層」は、フッ素重合体の材料からなる点で、本願補正発明の「フッ素重合体の材料の層を含む膜層」と共通する。
(4) 引用刊行物の記載事項オによれば、引用発明の膜層のバブルポイントもイソプロパノールを使用して測定しており、引用発明の膜層の「バブルポイントが24.0psiと34.0psiとの間である」ことは、本願補正発明における「膜の材料は、25psi(172kPa)以上のIPAバブルポイントを有し」ていることと、IPAバブルポイントの値が25psi(172kPa)以上で34.0psiまでの間において重複する。
(5) 引用発明の「前記膜層の前記第1面に対して前記膜層の前記第2面にかかる圧力を減少させるステップは、真空状態を利用することによって行われ」ることは、本願補正発明の「前記膜にかかる圧力を減少させる段階は、真空を適用することによって行われ」ることに相当する。
(6) 引用発明の「溶媒から残留水を分離する方法であって」、「前記溶媒から前記水を除去して水含有率が1.0ppm以下の溶媒を得る方法」は、本願補正発明の「溶媒から残留水を分離する方法であって」、「1.0ppmよりも小さいか又は等しい水レベルを有する溶媒を与えるために、前記溶媒から前記水を除去する段階と、を備え」ている「方法」であることに相当する。

したがって、上記(1)?(6)の検討から、両者は、「溶媒から残留水を分離する方法であって、残留水を含む溶媒を含む溶液を収容する容器を提供する段階であって、前記容器は前記溶液が該容器から流出することを可能にする開口部を有する、容器を提供する段階と、フッ素重合体の材料の層を含む膜層を用いて前記容器からの溶液の流れを阻止する段階であって、前記膜の材料は、25psi(172kPa)以上で34.0psiまでの間のIPAバブルポイントを有し、前記膜は、前記容器の開口部と直列に配置される、溶液の流れを阻止する段階と、支持された膜の第1面と比べて支持された膜の第2面にかかる圧力を減少させ、これにより膜を介した溶媒の流量を増加させる段階と、1.0ppmよりも小さいか又は等しい水レベルを有する溶媒を与えるために、前記溶媒から前記水を除去する段階と、を備え、前記膜にかかる圧力を減少させる段階は、真空を適用することによって行われる方法。」の発明である点で一致し、
次の点で、相違する。

<相違点1>本願補正発明は、「膜層はフッ素重合体の材料の単一層」であるのに対して、引用発明は、「フッ素重合体層104がフッ素重合体層105に張り付けられている膜型構造の膜層」である点。
<相違点2>本願補正発明は、「真空は、8”Hg(27kPa)よりも大きくかつ22”Hg(75kPa)まで」であるのに対して、引用発明は、「真空状態は約1?15″Hgの範囲で変動する」ものである点。

3-4.判断
上記<相違点1>及び<相違点2>について検討する。
(1) 上記相違点に係る、本願補正発明の膜層が「フッ素重合体の材料の単一層」であること、及び「真空は、8”Hg(27kPa)よりも大きくかつ22”Hg(75kPa)まで」とすることに関して、本願明細書には、以下の記載がある。
サ 「さらに他の代わりの実施例では、本発明は、フッ素重合体材料の単一層の使用を当てにする。より詳細には、図1を参照すると、フッ素重合体層105は、完全に排除することができ、フッ素重合体層104は次いで、効率的に水を分離するために自立して用いられる。そのような実施例では、フッ素重合体層104は好ましくは、拡大されたフッ素重合体膜から選択される。拡大されたフッ素重合体とは、他のものの間で、フッ素重合体が、一つ又は複数の次の特性によって特徴づけることができることを意味する。
IPAバブルポイント:≧25psi(172kPa)、好ましくは28.8psi(199kPa)
アルコールの流れ:60?70秒(47mmのディスクを介して27.5”Hgで100mlのイソプロパノール)
水の全体圧力:100psi(690kPa)(水が最初に膜を突破する圧力)」(【0025】)
シ 「上で参照された単一層の拡大された種類の膜の利点を確かめるために、従来技術の膜に対して並列比較(side-by-side comparison)が行われた。特に、拡大されたフッ素重合体膜は、フッ素重合体層105なしに、図1の装置に配置された。水は、約5mlの塩化メチレン溶媒と一緒にカラム102内の膜の頂部に位置させられた。15”Hg(51kPa)の真空が、膜の底面に適用された。約3?5分後、付加的な溶媒が加えられ、膜を通過する水がない場合、真空レベルは16”Hg(54kPa)まで増加された。これは、約22”Hg(75kPa)の真空に到達するまで繰り返された。この真空レベルで、水は膜を通過し始めた。これは冷却水を使用することによって観測された。」(【0026】)
ス 「上述の実験は、特許文献1に開示されたように、商標「Zelfluor」の下で販売されている膜を用いて繰り返され、水が約8″Hgでそのような膜を突破し始めるのが観測された。したがって、そのような並列比較は、膜が、ずっと高い真空レベルで十分な水の除去を与えることができるということを立証する。」(【0027】)
セ 「加えて、さらに他の並列比較が、従来技術の同様の商業的に利用できるフッ素重合体膜を用いて実施された。特に、キャストフッ素重合体膜材料(・・・)の他の例である、パーツ#C3918-47としてLab Glassから利用できるフッ素重合体膜である。この試験では、細孔寸法に関係のある測定であるIPAバブルポイントが決定された。膜はイソプロピルアルコールを用いて湿らされ、空気泡の流れが見られる間、空気圧が適用される。結果は以下にリストされている:
1 拡大された試験 従来技術膜 フッ素重合体膜
IPAバブルポイント 8?10psi ≧25psi
(55-69kPa) (172kPa)」(【0028】)

(2) 上記サによれば、本願補正発明において、単一層のフッ素重合体層104は、「拡大されたフッ素重合体膜」から選択され、「拡大されたフッ素重合体膜」とは、「IPAバブルポイント:≧25psi(172kPa)、アルコールの流れ:60?70秒(47mmのディスクを介して27.5”Hgで100mlのイソプロパノール)、水の全体圧力:100psi(690kPa)(水が最初に膜を突破する圧力)」という特性を有するものである。

(3) ここで、本願明細書の【0027】(上記ス)には、特許文献1に開示される「商標「Zelfluor」の下で販売されている膜」を並列比較の実験で用いることが記載されているので、この「商標「Zelfluor」の下で販売されている膜」が本願補正発明の単一層のフッ素重合体膜に該当するものであるか検討しておく。
本願明細書で特許文献1として引用された米国特許第5,268,150号明細書(5欄27?29行)には
「Commercially available membranes found to be particularly suitable, are marketed by Gelman Company under the term Zefluor.」
なる記載があり、本願明細書の「Zelfluor」との記載は「Zefluor」の誤記と推測される。
そして、「Zefluor」商標(ゼフロー)は、現在はポール社(旧ゲルマンサイエンス社)で製造されている、PTFEサポート付PTFEメンブレンである(必要であれば、ポール社のホームページhttp://www.pall.com/pdfs/Laboratory/08.1868_Air_Monitoring_SS.pdf等参照)ことから、本願明細書に記載される「商標「Zelfluor」の下で販売されている膜」も、単一層ではないと推測される。
したがって、上記「商標「Zelfluor」の下で販売されている膜」は、本願補正発明における単一層のフッ素重合体膜には該当せず、並列比較における比較例に相当するものと解される。そして、「水が約8″Hgでそのような膜を突破し始めるのが観測された」との記載も、「商標「Zelfluor」の下で販売されている膜」が比較例であることを裏付けるものである。

(4) 上記(1)?(3)によれば、本願明細書には、上記サ以外には、単一層のフッ素重合体膜の製造方法や入手方法についての記載は見当たらないので、本願補正発明においては、上記サの特性を有する拡大されたフッ素重合体膜から選択される単一層の膜であって、通常の製造方法又は市販の膜等通常入手可能な膜を使用するものと解釈せざるを得ない。

(5) 次に、本願補正発明における単一層のフッ素重合体膜の特性の一つとして本願明細書(上記サ)に記載される「水の全体圧力:100psi(690kPa)(水が最初に膜を突破する圧力)」について検討しておく。
本願明細書の「水の全体圧力(Water entry pressure:WEP):水が膜を通過する圧力。これは視覚による試験である。」(【0014】)との記載によれば、本願明細書に記載される「水の全体圧力」とはWater entry pressure:WEPのことを意味するものである。

(6) ところで、原審の拒絶査定で周知例として引用された国際公開第00/61267号(以下、「周知例1」という。記載内容は、周知例1のファミリーである特表2002-540928号公報の対応箇所の記載を援用。)には、
タ) 非晶質ポリマーからなる一体型多孔質膜は、複合膜と異なり、膜全体、即ち、表面と多孔質基質、バルクまたは本体、が同じ組成を有し、例えば、一体型膜の全体が非晶質フルオロポリマーから製作され、この一体型多孔質膜の製造は、既存のまたは予め形成した多孔質材料の細孔壁面上での表面処理または表面被覆の付着(膜形成)を必要としないこと(2頁23行?3頁2行)、
チ) 所望により、一体型膜は基体または支持体材料上に配置して、支持された膜とすることができること(3頁3行?5行)、
ツ) フッ素を含有する非晶質ハロポリマーの流延用溶液から非溶媒を除去し、ガラス板等から取り外して非支持型の膜を製造すること(7頁1行?8頁6行)、
テ) 実施例1(11頁10?19行)には、同様の製造方法による一体型多孔質膜の製造例が記載され、
上記タ)、ツ)?テ)によれば、周知例1の一体型多孔質膜が単一層のフッ素重合体膜であることは明らかである。
また、上記チ)より、このような単一層の一体型多孔質膜を支持体材料上に配置して、単一層の支持された膜として使用することも周知技術である。

(7) また、特開昭50-22881号公報(以下、「周知例2」という。)の特許請求の範囲(1頁左下欄)、4頁左下欄1行?5頁左上欄5行、及び、実施例10(10頁左下欄9行?11頁右上欄2行)に記載されるとおり、ポリテトラフルオロエチレンのペーストを押出成形によりフィルム等の成形物品とした後、延伸して多孔性物品を製造する方法、このような製法で得られた延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの用途として、混和しない液体を分離する半透膜として使用すること、この際、水相の圧力が水の侵入圧(周知例2のファミリーである米国特許第3,962,153号明細書の対応箇所の記載では、the water entry pressure)を超えない限り、膜は水を透過させないことは、周知技術である。
このような上記周知の延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜がポリテトラフルオロエチレンの単一層であることはその製法からみて自明のことである。

(8) そして、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜において、IPA(イソプロパノール)バブルポイントが3.0kg/cm^(2)(42.7psi)以上である膜は、この出願前周知のものである(必要であれば、特開平3-174452号公報の特許請求の範囲、請求項7、特開平10-118468号公報の【0023】等参照)。

(9) また、国際公開第96/28501号(以下、「周知例3」という。)の1頁7?9行、3頁3?6行及び請求項1?3(11頁3?15行)には、濾過等の用途に使用される多孔質フィルムであって、「交差箇所で融合した実質的に微細フィブリルのみの微細構造を有する不織ウェブから本質的になり、気孔サイズが0.05?0.2 μmであり、バブルポイントが20?55psiである薄くて高強度の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜」及び、その製造方法として、ポリテトラフルオロエチレンのペーストを押出成形によりフィルムとしたものを延伸することが記載されている。
そして、周知例3の5頁22行?6頁2行には、バブルポイントはイソプロパノールを用いて測定することが記載され、実施例の膜の特性データが示された表2(10頁)には、実施例7、8の膜はそれぞれバブルポイントが55psi(379kPa)、49psi(337kPa)であり、WEP(Water Entry Pressure)が320psi(2706kPa)、305psi(2103kPa)であることが記載されている。
なお、ここで、周知例3の表1(9頁)に「Number of Layers 」の欄に、実施例7、8では「3」とあり、3層であることが記載されているが、これは、周知例3の製造方法が、比較的厚い押出成形されたフィルムを使用するために、ペースト状態のテープを2枚以上積層し、ロール間で圧縮することにより所望の厚さのフィルムを得る工程を示しており(周知例3の請求項3及び4頁33?38行参照)、実施例7、8では、延伸前に3枚のペースト状態のテープをロール間で圧縮して比較的厚いフィルムを成形したものであって、延伸後の膜の層が3層であることを示すものではない。
したがって、周知例3の膜も周知例2と同様の延伸法により製造されることからして、ポリテトラフルオロエチレンの単一層であることは明らかである。

(10) 上記(6)?(9)によれば、単一層のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜等のフッ素重合体膜は周知のものであり、IPAバブルポイントが3.0kg/cm^(2)(42.7psi)以上のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜も周知のものである。
そして、それら周知の膜の一つとして、薄くて高強度でありIPAバブルポイントが55psi(379kPa)、49psi(337kPa)程度、WEPが320psi(2706kPa)、305psi(2103kPa)程度のものがあることも、周知例3に記載されるように周知の事項である。

(11) 一方、引用刊行物の記載事項エによれば、引用発明の目的は「水を除去するために、膜の性能に不都合な影響を与えることなく前記膜を介した溶媒/水の混合物又はエマルジョンの浄化流速を改良する」ことであるところ、膜の透過流速は、膜の厚さが大きく影響し、一般的には、膜の厚さが薄い方が透過流速が高くなることは技術常識である。
してみると、引用発明において、薄くて高強度である単一層のフッ素重合体膜が存在するとの周知技術に基づき、膜の透過流速を速める目的で、フッ素重合体層がフッ素重合体層に張り付けられている膜型構造の膜層に代えて、上記周知のIPAバブルポイントの値を有する単一層のフッ素重合体膜を用いてみることに技術的な困難性は認められない。
その際、単一層の膜であっても支持体材料上に配置して、単一層の支持された膜として使用することは周知例1(上記(6)のチ))に記載されるように周知技術であるから、引用発明において、単一層のフッ素重合体膜を使用するにあたって、支持体(本願補正発明における「遮蔽層106」に相当)上に配置して支持された膜として装置に組み込むことも当業者が適宜行う設計事項である。
そして、上記周知の単一層のフッ素重合体膜は、上記(11)のとおりIPAバブルポイントが55psi(379kPa)、49psi(337kPa)程度、WEPが320psi(2706kPa)、305psi(2103kPa)程度のものであるから、上記(2)に示した本願補正発明における「拡大されたフッ素重合体膜」の特性を備えており、引用発明において周知の単一層のフッ素重合体膜を用いた場合には、本願補正発明と同様の効果を奏するのものといえる。

(12) また、引用刊行物(記載事項キ)には、膜に対する真空度を高めた方が溶媒の通過時間の節約になることが開示されており、溶媒から水を分離することが目的である以上、操作圧力が膜のWEPを超えては、水も通過し始めてしまい、所期の目的が達成できないことは、上記(7)の周知例2に開示される周知技術からも明らかであるから、引用発明において、溶媒の通過時間をさらに短くするために、使用する膜のWEPを超えない範囲内で、膜に対する真空度を高めることは当業者であれば容易に想到しうることである。
その際に、具体的な真空度の数値範囲は、使用する膜のWEP等の特性に応じて適宜設定すべきものであり、WEPが320psi(2706kPa)、305psi(2103kPa)程度の単一層のフッ素重合体膜も周知である以上、このようにWEPの値が大きい膜を使用すれば、引用発明の約1?15″Hg(換算すると、約3.4?50.6kPa)の範囲の真空状態よりも高い真空度とすることが可能であることは当業者であれば自明のことである。
そして、本願明細書全体の記載をみても、本願補正発明において、真空度の数値範囲を「8”Hg(27kPa)よりも大きくかつ22”Hg(75kPa)まで」と特定したことにより、当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

(13) まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年11月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年6月10日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「溶媒から残留水を分離する方法であって、
残留水を含む溶媒を含む溶液を収容する容器を提供する段階であって、前記容器は前記溶液が該容器から流出することを可能にする開口部を有する、容器を提供する段階と、
フッ素重合体の材料の層を含む膜層を用いて前記容器からの溶液の流れを阻止する段階であって、前記膜の材料は、25psi(172kPa)以上のIPAバブルポイントを有し、前記膜は、前記容器の開口部と直列に配置される、溶液の流れを阻止する段階と、
支持された膜の第1面と比べて支持された膜の第2面にかかる圧力を減少させ、これにより膜を介した溶媒の流量を増加させる段階と、
1.0ppmよりも小さいか又は等しい水レベルを有する溶媒を与えるために、前記溶媒から前記水を除去する段階と、
を備え、
前記膜層はフッ素重合体の材料の単一層であることを特徴とする方法。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物及びその記載事項は、前記「第2 3.3-1」及び「第2 3. 3-2」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から「前記膜にかかる圧力を減少させる段階は、真空を適用することによって行われ、前記真空は、8”Hg(27kPa)よりも大きくかつ22”Hg(75kPa)までであり」との限定を除いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3.」に記載したとおり、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1にかかる発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-20 
結審通知日 2011-10-25 
審決日 2011-11-07 
出願番号 特願2003-576082(P2003-576082)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01D)
P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 光子  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 目代 博茂
小川 慶子
発明の名称 溶媒からの水分離  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  

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