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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1254479
審判番号 不服2009-1441  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-15 
確定日 2012-03-29 
事件の表示 特願2008-8943「体液漏出防止方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年5月15日出願公開、特開2008-110987〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成12年4月3日に出願した特願2000-100955号の一部を,平成20年1月18日に新たに特許出願としたものであって,同年5月23日付けで拒絶理由が通知され,同年7月28日に意見書及び補正書が提出され,同年8月27日付けで再度拒絶理由が通知され,同年11月21日に意見書が提出され,同年12月10日付けで拒絶査定がされ,これに対して平成21年1月15日に審判が請求され,平成23年10月18日付けで当審において拒絶理由が通知され,同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成23年12月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け、該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入することを特徴とする体液漏出防止方法。」

第3 当審における拒絶理由の概要
平成23年10月18日付けで通知された拒絶理由の概要は,本願発明は,その出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,また,本願発明は,その出願前国内または外国において頒布された下記の刊行物4?8に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,との理由を含むものである。

第4 刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開2001-288001号公報(平成23年10月18日付けの拒絶理由通知の刊行物1)
刊行物2:特開2001-288002号公報(同拒絶理由通知の刊行物2)
刊行物3:特開2002-275001号公報(同拒絶理由通知の刊行物3)
刊行物4:実用新案登録第3064506号公報(同拒絶理由通知の刊行物4)
刊行物5:特開平7-265367号公報(同拒絶理由通知の刊行物5)
刊行物6:国際公開第00/13576号(同拒絶理由通知の刊行物6)
刊行物7:特開平9-262297号公報(同拒絶理由通知の刊行物7)
刊行物8:特開平10-165505号公報(同拒絶理由通知の刊行物8)

1 刊行物1の記載事項
本願の出願日前に頒布された刊行物1には,次の事項が記載されている。
(1-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 内部に噴出ガスと液体とを含有し、噴出口を備えた蓄圧体と、
体液漏出防止剤を内蔵し、入口部と出口部の開口部を備え、上記入口部が上記噴出口と接続可能な容器と、
上記容器の上記出口部に一端部が接続可能で、他端部に注入孔が形成された供給管とを備え、
上記容器の上記入口部と上記噴出口との間に、容器内部の上記体液漏出防止剤の第1仮封止機構を有し、
上記容器の上記出口部または上記供給管に容器内部の上記体液漏出防止剤の第2仮封止機構を有することを特徴とする体液漏出防止装置。
【請求項2】 内部に噴出ガスと液体とを含有し、噴出口を備えた蓄圧体と、
体液漏出防止剤を内蔵し、入口部と出口部の開口部を備え、上記入口部が上記噴出口と接続可能な容器と、
上記容器の上記出口部に一端部が接続可能な供給管を備え、
上記供給管の出口部には、前部及び横部とに注入孔が形成されていることを特徴とする体液漏出防止装置。
・・・
【請求項5】 上記供給管は鼻から咽喉部に挿入される挿入管であって、
上記挿入管には、この先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分を示すマークが設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の体液漏出防止装置。
・・・
【請求項7】 挿入管の内径が2?8ミリメートルであることを特徴とする請求項5または6記載の体液漏出防止装置。」
(1-b)「【0033】供給管は鼻に挿入される細長いパイプ状の挿入管16からなり、中間部分16aが1回転している。その一端には容器の出口部12との接続部17が形成され、他端には注入孔18が形成されている。接続部17には、容器8の出口部12に外挿される外挿管部19が形成され、外挿管部19の段部にパッキン20が配置され、外挿管部19の先端には接続時の嵌合をしやすくするために溝19aが設けられている。この溝19aは、容器8の出口部12に設けても良い。」
(1-c)【0042】体液漏出防止剤9としては、高吸水ポリマが知られている。本発明では、この知られた材料を使用しても良い。」
(1-d)「【0044】
この実施例の操作を説明する。
【0045】
蓄圧体1が一体になった容器8の出口部12を上に向けて、容器8内の体液漏出防止剤9が漏れ出ないように維持して、保護キャップ15を取り外す。そして、この出口部12に挿入管16の外挿管部19を接続する。その後、挿入管16を遺体の鼻孔から挿入する。場合によっては、挿入管16に油脂、ゼリー、グリセリン等の潤滑剤を塗り、挿入し易くしても良い。
【0046】
挿入管16のマーク21が鼻先になったら挿入を止める。そして、蓄圧体1の蓋部材7を取り外し、押圧部4を押すと、蓄圧体1のガスと液体が体液漏出防止剤9を内蔵する容器8に送られるとともに、これらの混在物が挿入管16を通って先端の注入孔18から咽喉部に注入される。先端の第1注入孔18aと側部の第2注入孔18bから注入されるので、どれかの注入孔が詰まっているか若しくは出にくい場合でも咽喉部に速やかにかつ撒き散らすことなく、集中的に導入される。」

2 刊行物2の記載事項
本願の出願日前に頒布された刊行物2には,次の事項が記載されている。
(2-a)「【請求項3】 両親媒性ゲルからなる体液漏出防止剤が入れられた注入シリンダと、該注入シリンダ内を摺動するピストンと、該注入シリンダの先端に設けられた注入管とを有する注入器を用意し、該注入器の注入管を遺体の体腔に装填し、その後上記ピストンを押圧し、上記注入シリンダ内の両親媒性ゲルを該注入管から体腔内に導入することを特徴とする体液漏出防止方法。
【請求項4】 注入管の先端に挿入管が備えられた注入器を用意し、該挿入管を鼻孔から咽喉部に挿入し、該挿入管を通って咽喉部に両親媒性ゲルを導入することを特徴とする請求項3記載の体液漏出防止方法。
【請求項5】 挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にマークが設けられた挿入管を用意し、該マークが鼻先に達するまで該挿入管を鼻孔に挿入し、その後注入シリンダ内の両親媒性ゲルを注入管から咽喉部に導入することを特徴とする請求項4記載の体液漏出防止方法。
【請求項6】 挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にストッパが設けられた挿入管を用意し、該ストッパが鼻先に当たるまで該挿入管を鼻孔に挿入し、その後注入シリンダ内の両親媒性ゲルを注入管から咽喉部に導入することを特徴とする請求項4記載の体液漏出防止方法。
【請求項7】 先端前部と先端側部に導入開口部が形成された挿入管を用意し、該挿入管を鼻孔から咽喉部に挿入し、注入器から該挿入管内に両親媒性ゲルを導入し、両親媒性ゲルを上記複数の導入開口部から咽喉部に装填することを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれかに記載の体液漏出防止方法。
【請求項8】 両親媒性ゲル粉末を内蔵し、両側に開口部を有する容器を用意し、一方の開口部に連接される挿入管を体腔に装填し、他方の開口部に連接される圧縮ガス供給機から圧縮ガスを該容器に噴射し、該容器内の両親媒性ゲル粉末を挿入管を通って体腔に装填することを特徴とする体液漏出防止方法。
【請求項9】 圧縮ガス供給機から圧縮ガスと液体を容器に噴射し、両親媒性ゲル粉末、圧縮ガス、液体の混在物を挿入管を通って体腔に装填することを特徴とする請求項8記載の体液漏出防止方法。」
(2-b)「【0054】供給管は鼻に挿入される細長いパイプ状の挿入管(56)からなり、中間部分(56a)が1回転している。その一端には容器の出口部(52)との接続部(57)が形成され、他端には注入孔(58)が形成されている。」
(2-c)「【0060】この実施例の操作を説明する。
【0061】蓄圧体(41)が一体になった容器(40)の出口部(52)を上に向けて、容器(40)内の体液漏出防止剤(48)が漏れ出ないように維持して、保護キャップ(55)を取り外す。そして、この出口部(52)に挿入管(56)の外挿管部(59)を接続する。その後、挿入管(56)を遺体の鼻孔から挿入する。場合によっては、挿入管(56)に油脂、ゼリー、グリセリン等の潤滑剤を塗り、挿入し易くしても良い。
【0062】挿入管(56)のストッパ(62)が鼻先になったら挿入を止める。そして、蓄圧体(41)の蓋部材(47)を取り外し、押圧部(44)を押すと、蓄圧体(41)のガスと液体が体液漏出防止剤(48)を内蔵する容器(40)に送られるとともに、これらの混在物が挿入管(56)を通って先端の注入孔(58)から咽喉部に注入される。先端の第1注入孔(58a)と側部の第2注入孔(58b)から注入されるので、どれかの注入孔が詰まっているか若しくは出にくい場合でも咽喉部に速やかにかつ撒き散らすことなく、集中的に導入される。」

3 刊行物3の記載事項
本願の出願日前に頒布された刊行物2には,次の事項が記載されている。
(3-a)「【請求項11】 請求項1ないし10のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材を注入シリンダに入れ、注入シリンダの先端に取り付けた注入管の先端を体腔に投入し、注入シリンダ内のゼリー状体液漏出防止材を注入管を介して、体腔の所定位置に投入し、ゼリー状体液漏出防止材が体液を吸収することで体液漏出を防止することを特徴とする体液漏出防止方法。」
(3-b)「【0033】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1により、本発明に係わるゼリー状体液漏出防止材を鼻孔奥の咽喉部に充填する場合の充填方法を説明する。ゼリー状の体液漏出防止材8を注入器1に入れる。注入器1は、その先端に保護キャップ3を被せた注入口2を備え、フイルムパック(図示せず)で包んでシールした状態にしておく。それと、咽喉部B等の体腔に挿入される挿入管4を用意しておく。挿入管4は、一端に注入器1の注入口2に接続される接続部5を有し、他端に鼻孔Aに挿入される開口部6を有する。挿入管4は挿入しやすいように先端が先細に形成され、開口部6を挿入方向及び側方に開口している。
【0034】図1は、このようにして用意された体液漏出防止装置を遺体に使用する状態を示す。Aは鼻孔、Bは咽喉部、Cは舌、Dは気管、Eは食道、Fは頚椎である。使用時には、フイルムパックから注入器1を取り出し、注入器1の注入口2の保護キャップ3を取り外し、代わりに挿入管4の接続部5を被せて接続する。挿入管4の開口部6を鼻孔Aから咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管4のストッパ部7が鼻先Bに当たった時点で挿入を中止する。そして、注入器1のピストン1aを押圧し、注入器1内のゼリー状の体液漏出防止材8を挿入管4を経由して咽喉部Bに注入する。挿入管4の開口部6は挿入方向先端だけでなく、側面にも開口しているので、一部開口部が詰まっても咽喉部Bに導入される。注入器1内の体液漏出防止材8を押出した後は、注入器1と挿入管4を鼻孔Aから取り除く。
【0035】この実施例では、複数の開口部6から咽喉部Bに集中的に体液漏出防止材8が流し込まれる。」
(3-c)「【0036】・・・ ストッパの代わりにマークを付与したものでも、挿入位置のばらつきを防止できる。」

4 刊行物4の記載事項
原出願の出願日前に頒布された刊行物4には,次の記載がある。
(4-a)「【請求項2】 両端に連通口(1a)(1b)を有し、内部に、体液凝固剤(2)を内蔵した容器(1)と、 内部に、エーロゾル噴霧体を充填し、必要に応じて殺菌液、若しくは水を内蔵した蓄圧容器(3)と、殺菌液を内蔵した供給管(4)からなり、前記容器(1)の一方の連通口(1a)に蓄圧容器(3)のノズル口(3a)を連通し、他方の連通口(1b)に殺菌液を入れた供給管(4)を連結し、エーロゾル噴霧体の圧入により、体液凝固剤(2)や殺菌液、若しくは水を遺体内に挿入することを特徴とする体液漏出防止器。」
(4-b)「【0011】
尚、体液凝固剤(2)は、通常、高吸水ポリマの粉末状のものを用いるが、粒状あるいは、場合によってはゲル状のものであってもよい。また、他の素材であってもよく、さらに、エーロゾル噴霧体とは、圧縮ガスをいい、ノズル口を通じてガスを放出する際に、殺菌液や水などを随伴させる目的で用いる気体であり、例えば、ブタン、プロパン、窒素、二酸化炭素などである。」
(4-c)「【0012】
この考案の使用方法の一例を述べると、体液凝固剤(2)を内蔵した容器(1)の両端に設けた連通口(1a)(1b)に装着されたキャップを外し、一の連通口(1a)に、蓄圧容器(3)のノズル口(3a)を、直接、あるいは、供給管を介して連通し、他の連通口(1b)には、殺菌液を入れた供給管(4)を連通し、該供給管の他端を遺体の口腔、鼻孔、耳孔、尿道、肛門などに差し込み、蓄圧容器(3)のバルブ開放ボタンを押すことにより、内部のエーロゾル噴霧体の開放により、体液凝固剤(2)、殺菌液、あるいは水を遺体内に圧入するものである。」
(4-d)「【0006】
【考案が解決しようとする課題】
そこでこの考案は、上記欠点を除去し、確実に体液凝固剤や殺菌液等を遺体内に挿入でき、しかも、その操作も極めて簡単な体液漏出防止器を開発することにある。」

5 刊行物5の記載事項
原出願の出願日前に頒布された刊行物5には,次の記載がある。
(5-a)「【0014】次に、遺体の体液封止について具体的に説明する。前記吸水ポリマーを主とする封止剤は乾燥粉末のままでも使用可能であるが、使用量の誤りを防止するため一定量を包装しておくことが望ましい。例えば、咽喉に対して使用する5gと、鼻孔及び耳孔に対して使用する5gとを、それぞれ縦長の紙袋(所謂ペットシュガー類似の包装状態)に分けて包装しておく等である。そして咽喉に対しては、包装を破ってそのまま咽喉に注ぎ込む。一方の鼻孔および耳孔に対しては、水溶性のシート、例えば繊維の粗い(短い)紙、或いはオブラートに適当量を包み、遺体の各孔部に装填する。」
(5-b)「【0015】乾燥粉末である封止剤の使用量は、例えば、咽喉奥部に対して5g、鼻孔および耳孔に対してそれぞれ2.5g程度である。この処置は、死亡確認後、医療スタッフが直ちに行っても良い。最も多量に体液が戻るのは咽喉からであり、この部位を抑えれば鼻孔および耳孔は、脱脂綿やガーゼなどを詰める処置であっても構わない。」
(5-c)「【0018】尚、この高吸水性粉末を遺体に装填する際には、できるだけ遺体に手を触れない状態で装填可能とすることが望ましい。感染を防止するためである。このため吸水性樹脂粉末を封入させるペットシュガー状の細袋には、その先端部に注入ガイドを設け、粉末が当該ガイドに沿って目的箇所に正確に達するようにしておくことが望ましい。ガイドは、例えば先端部を細く突出させ、その突出部を破って(または鋏で切断して)ガイドから粉末を細流として注ぎ込むよう構成することが出来る。」

6 刊行物6の記載事項
原出願の出願日前に頒布された刊行物6には,日本語に訳して次の記載がある。(日本語訳は刊行物6のファミリーの特表2002-524122号公報によった。)
(6-a)「図1に示されるように、鼻咽腔気管エアウェイ16は、挿入端部14および支持層端部16を有し,通路を規定する中空の延長部材、例えば、円筒形チューブ状部材であることが好ましい。挿入端部14は、角度をなしていることが好ましい。支持層端部16は平らであり,かつ実質的に鼻咽腔気管エアウェイ10の先端に符合するノッチまたは他のマーキングを含んでおり、装置挿入後、使用者が装置を患者にさらに位置づける際の補助となる。」(第4頁第14?21行)
(6-b)「


(6-c)「パルスオキシメーターセンサーエレメント20、22、および24は、鼻咽腔気管エアウェイ10の圧壁体部分12内に配置されることが好ましい。また、パルスオキシメーターセンサーエレメント20、22、および24は、鼻咽腔気管エアウェイ10の通路に配置してもよい。」(第4頁第22?25行)

7 刊行物7の記載事項
原出願の出願日前に頒布された刊行物7には,次の記載がある。
(7-a)「【0010】次にカテーテル1の使用方法の一例について説明する。例えば非(審決注:「被」の誤記と認める。以下,同じである。)挿管時の麻酔もしくは集中治療室で必要な場合、非計測者の鼻孔より中咽頭までカテーテル1を挿入し、コネクター6に接続チューブを接続し、さらに接続チューブを呼気ガス濃度計のモニターに接続する。」
(7-b)「【0004】
【発明の実施の形態】図1は本発明の呼気ガス濃度検出用カテーテル1(以下「カテーテル1」)の概略図で、カテーテル1は外側カテーテル2の中に内側カテーテル4を配置することにより構成される。
【0005】外側カテーテル2と内側カテーテル4は、例えばポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーン等(いわゆる柔軟性を有する材料)より構成し、外側カテーテル2の直径を5Fから12F、内側カテーテル4の直径を3Fから10Fの範囲に選定し、外側カテーテル2の先端部3を円錐台状に形成することにより被計測者の鼻孔に挿入する際に、被計測者に与える苦痛や違和感が殆どなく、挿入も容易で、中咽頭部に容易に留置することができる。また円錐台状の先端部3のみを外側カテーテル2本体の構成材料よりさらに柔らかい材料よりなるソフトチップに置換することができる。」

8 刊行物8の記載事項
原出願の出願日前に頒布された刊行物8には,次の記載がある。
(8-a)「【0025】請求項3を用いる方式では、先に請求項1のチューブ(図1)を挿入したのち、請求項3のチューブ(図6)をもう一方の鼻孔より同様にゆっくり咽頭まで挿入し、請求項2(図3、図4)のマスク様テープを用いて口と鼻孔を閉鎖したのち、あとで挿入した請求項3のチューブを介して陽圧式人工呼吸を開始し、同時に体外式心マッサージを開始する。」
(8-b)「【図1】


(8-c)「【図6】



第5 当審の判断
1 分割の適否について
(1)原出願の記載事項
原出願である特願2000-100955号の出願当初の明細書には以下の事項が記載されている。
(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 内部に噴出ガスと液体とを含有し、噴出口を備えた蓄圧体と、
体液漏出防止剤を内蔵し、入口部と出口部の開口部を備え、上記入口部が上記噴出口と接続可能な容器と、
上記容器の上記出口部に一端部が接続可能で、他端部に注入孔が形成された供給管とを備え、
上記容器の上記入口部と上記噴出口との間に、容器内部の上記体液漏出防止剤の第1仮封止機構を有し、
上記容器の上記出口部または上記供給管に容器内部の上記体液漏出防止剤の第2仮封止機構を有することを特徴とする体液漏出防止装置。
【請求項2】 内部に噴出ガスと液体とを含有し、噴出口を備えた蓄圧体と、
体液漏出防止剤を内蔵し、入口部と出口部の開口部を備え、上記入口部が上記噴出口と接続可能な容器と、
上記容器の上記出口部に一端部が接続可能な供給管を備え、
上記供給管の出口部には、前部及び横部とに注入孔が形成されていることを特徴とする体液漏出防止装置。
【請求項3】 上記供給管の上記前部注入孔は先細になった先端部に開口していることを特徴とする請求項2記載の体液漏出防止装置。
【請求項4】 上記供給管の上記横部に形成される注入孔は、異なる方向に向けて複数形成されていることを特徴とする請求項2または3記載の体液漏出防止装置。
【請求項5】 上記供給管は鼻から咽喉部に挿入される挿入管であって、
上記挿入管には、この先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分を示すマークが設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の体液漏出防止装置。
【請求項6】 上記マークは挿入管の外周に設けられたストッパーを有することを特徴とする請求項5記載の体液漏出防止装置。
【請求項7】 挿入管の内径が2?8ミリメートルであることを特徴とする請求項5または6記載の体液漏出防止装置。
【請求項8】 挿入管の内径が4?6ミリメートルであることを特徴とする請求項5または6記載の体液漏出防止装置。
【請求項9】 蓄圧体には噴出ガスと液体とが1:1?5の容量割合で含有されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の体液漏出防止装置。
【請求項10】 上記液体は殺菌液と水分とが1:2?6の容量割合で含有されていることを特徴とする請求項9記載の体液漏出防止装置。
【請求項11】 体液漏出防止剤が両親媒性ゲルの粉末または微粒子であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の体液漏出防止装置。
【請求項12】 両親媒性ゲルがジメチルアクリルアミドを主成分とすることを特徴とする請求項11記載の体液漏出防止装置。
【請求項13】 上記第1仮封止機構が、上記容器の入口部に設けられた多孔質体もしくは薄膜からなり、
上記第2仮封止機構が、上記容器の出口部に設けられた取外し可能なキャップとU字状もしくはO字状に形成された供給管からなることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の体液漏出防止装置。
【請求項14】 体液漏出防止剤の供給スピードは2?10ml/secであることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の体液漏出防止装置。
【請求項15】 体液漏出防止剤の供給スピードは4?8ml/secであることを特徴とする請求項14記載の体液漏出防止装置。
【請求項16】 上記容器の入口部と上記蓄圧体の噴出口との間に蛇腹状管部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし15のいずれかに記載の体液漏出防止装置。
【請求項17】 上記容器の出口部には体液漏出防止剤の漏出防止用の保護キャップが取り外し可能に取付けられており、
上記供給管の一端部に、上記容器の出口部に外挿可能な中空段部が設けられ、
上記段部に上記段部と上記容器の出口部との間でシールするシール部材が配置されていることを特徴とする請求項1ないし16のいずれかに記載の体液漏出防止装置。」
(b)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
一般的に行なわれている遺体の口、鼻等にガーゼ、脱脂綿等を装填する方法では、漏出体液が多い場合には、ガーゼ、脱脂綿等では不十分であって、対外に漏れ出たりしている。また新しいガーゼ、脱脂綿等と交換する必要があり、煩わしいだけでなく、遺体体液を介して病原菌が感染する危険性があり、交換時にはその周辺に漏出体液の悪臭が残るなどの問題がある。
【0007】
特開平7-265367号公報のように咽喉部に上記樹脂粉末を装填しようとしても、装填するための手段がなくては、咽喉部までに装填することが困難である。
【0008】
特開平10-298001号公報では、出来るだけ流動性を確保するために、高吸水ポリマの微粉末を使用することを述べている。しかし、鼻孔や耳孔の入口部分に入れるのであれば、この公報のように微粉末を注射器のようなシリンダで投入しても充填できるが、奥までは充填できない。特に、奥まで充填するために、急速にシリンダを動かすと、先端から出る微粉末が飛び散るだけで、かえって遺体周辺を汚すだけである。
【0009】
即ち、特開平7-265367号公報や特開平10-298001号公報のように粉末をそのまま遺体に充填する方法では、粉末を押圧しても粉末自体の密度が上がるだけで、充填器内をスムーズに流れないので、シリンダを使用しても充填することが困難である。また、飛び出る粉末が拡散するので、粉末を固めて栓をしたい所に粉末を留めることが困難であり、場合によっては、遺体外に出て遺体周辺を汚す恐れがある。さらに、粉末をそのまま遺体に装填する場合には、体液の少ない遺体に対しては微粉末がこぼれ出るか又はゲルが溶けて漏れ出る可能性がある。
【0010】
粉末をそのまま遺体に装填するだけではうまくいかないので、実際の現場では、相変わらずガーゼや脱脂綿で応急処置しているだけであり、ガーゼや脱脂綿に代わる体液漏出技術の実現が強く望まれている。
【0011】
本発明の第1の目的は、微粉末をそのまま遺体に充填するだけでは、遺体の体液漏出を防止できないことに着目して、体液漏出防止剤に少し液体を加えて遺体に充填するようにしたものである。特に、使用時に体液漏出防止剤に水分を加えられるが、使用しない状態では、体液漏出防止剤は微粉末の状態で保持され、水分と混ざり合わないようにしてあることを特徴とする。
【0012】
第2の目的は、充填時、体液漏出防止剤に水分を加えるとともに、圧縮ガスを利用して充填することにより、体液漏出防止剤がスムーズに充填されるようにしたことを特徴とする。」
(c)「【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は、本発明にかかわる体液漏出防止装置を遺体の鼻から挿入し、咽喉部で体液漏出を防止する場合の実施例である。蓄圧体1は、内部に噴出ガスと液体とを含有し、上部に噴出口2を備えている。押圧部材3は、噴出口2を押圧する押圧部4、一端が噴出口2に接続され、他端が外部に接続される連通ダクト5及び蓄圧体上部に嵌合する嵌合部6を有する。押圧部材3には、不用意に押圧部4が押圧されるのを防止するために、蓋部材7が被されている。」
(d)「【0040】
蓄圧体1に入れる噴出ガスと液体との割合は、液体が少なすぎると体液漏出防止剤9がスムーズに挿入管16内を流れないとともに、体液が多くない遺体の場合に体液漏出防止剤9が咽喉部でゲル化しないで、鼻孔から漏出する場合があった。液体が多すぎると容器8内または挿入管16内でゲル化が進み、挿入管16内で詰まる場合があった。テスト結果、噴出ガスと液体との割合が1:1?5の容量割合、特に1.5?3の割合が良かった。」
(e)「【0044】
この実施例の操作を説明する。
【0045】
蓄圧体1が一体になった容器8の出口部12を上に向けて、容器8内の体液漏出防止剤9が漏れ出ないように維持して、保護キャップ15を取り外す。そして、この出口部12に挿入管16の外挿管部19を接続する。その後、挿入管16を遺体の鼻孔から挿入する。場合によっては、挿入管16に油脂、ゼリー、グリセリン等の潤滑剤を塗り、挿入し易くしても良い。
【0046】
挿入管16のマーク21が鼻先になったら挿入を止める。そして、蓄圧体1の蓋部材7を取り外し、押圧部4を押すと、蓄圧体1のガスと液体が体液漏出防止剤9を内蔵する容器8に送られるとともに、これらの混在物が挿入管16を通って先端の注入孔18から咽喉部に注入される。先端の第1注入孔18aと側部の第2注入孔18bから注入されるので、どれかの注入孔が詰まっているか若しくは出にくい場合でも咽喉部に速やかにかつ撒き散らすことなく、集中的に導入される。」

(2)判断
ア 分割要件の解釈について
特許法第44条第1項には,「特許出願人は、願書に添付した明細書又は図面について補正することができる期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定され,分割出願の明細書又は図面に記載された事項が原出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることが必要であり,また,「発明を包含する」ものであるから,原出願の出願当初の明細書又は図面にその分割出願に係る発明が完成された発明として記載されていることがその前提として必要であると認められる。
そして,「発明が完成したというためには,その技術手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,かつ,これをもって足りるものと解するのが相当である」(最高裁昭和61年10月3日判決 昭和61年(オ)454号)とされている。

イ 分割の適否について
原出願の出願当初の明細書には,「図1は、本発明にかかわる体液漏出防止装置を遺体の鼻から挿入し、咽喉部で体液漏出を防止する場合の実施例である。」(摘記c参照),「上記供給管は鼻から咽喉部に挿入される挿入管であって、上記挿入管には、この先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分を示すマークが設けられている」(摘記a参照),「挿入管16のマーク21が鼻先になったら挿入を止める。そして、蓄圧体1の蓋部材7を取り外し、押圧部4を押すと、蓄圧体1のガスと液体が体液漏出防止剤9を内蔵する容器8に送られるとともに、これらの混在物が挿入管16を通って先端の注入孔18から咽喉部に注入される。先端の第1注入孔18aと側部の第2注入孔18bから注入されるので、どれかの注入孔が詰まっているか若しくは出にくい場合でも咽喉部に速やかにかつ撒き散らすことなく、集中的に導入される。」(摘記e参照)と記載され,本願発明の「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け、該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入すること」に一部対応する事項が記載されている。
しかしながら,原出願の出願当初の明細書では,「体液漏出防止剤」のほかに「蓄圧体1のガスと液体」も含む「混在物」を「咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入」している(摘記e参照)のであって,「体液漏出防止剤」のみを「咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入」してはいない。
また,原出願の出願当初の明細書又は図面の他の記載をみても,「蓄圧体1のガスと液体」を用いずに,「体液漏出防止剤」を「咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入」することは記載されていない。
そうすると,本願発明には,「該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ために,「蓄圧体のガス及び液体」を用いずに「体液漏出防止剤」を導入する場合を含むものとなり,原出願の出願当初の明細書又は図面に記載のない新たな技術的事項を実質的に追加することになるので,本件分割出願は,原出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものとは認められない。
さらに,原出願の出願当初の明細書では,発明の目的について「微粉末をそのまま遺体に充填するだけでは、遺体の体液漏出を防止できないことに着目して、体液漏出防止剤に少し液体を加えて遺体に充填するようにしたものである。」,「充填時、体液漏出防止剤に水分を加えるとともに、圧縮ガスを利用して充填することにより、体液漏出防止剤がスムーズに充填されるようにした」(摘記b参照)と記載されており,「蓄圧体1に入れる噴出ガスと液体との割合は、液体が少なすぎると体液漏出防止剤9がスムーズに挿入管16内を流れないとともに、体液が多くない遺体の場合に体液漏出防止剤9が咽喉部でゲル化しないで、鼻孔から漏出する場合があった。」(摘記d参照)との記載からすれば,「体液漏出防止剤」を「蓄圧体1に入れる噴出ガスと液体」とともに「咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入」しなければ,発明の目的が達成できなくなるものと認められる。
そうすると,「蓄圧体のガス及び液体」を用いずに「該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入すること」については原出願の出願当初の明細書又は図面に記載がなく,本願発明において,「蓄圧体のガス及び液体」を用いない場合は,発明の目的とする効果を挙げられないのであるから,「蓄圧体のガス及び液体」を用いるとの発明特定事項を含まない「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け、該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入することを特徴とする体液漏出防止方法。」が原出願の出願当初の明細書又は図面に完成された発明として記載されていたとは認められない。

ウ 小括
よって,本願は適法な分割出願とは認められないので,出願日の遡及を認めることができず,出願日は平成20年1月18日となる。

2 刊行物に記載された発明(引用発明)
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には,「蓄圧体1が一体になった容器8の出口部12」に「挿入管16の外挿管部19を接続」し,「その後,挿入管16を遺体の鼻孔から挿入」し,「挿入管16のマーク21が鼻先になったら挿入を止め」,「蓄圧体1のガスと液体が体液漏出防止剤9を内蔵する容器8に送られるとともに、これらの混在物が挿入管16を通って先端の注入孔18から咽喉部に注入され」,「咽喉部に」「集中的に導入される」ことが記載され(摘記1-d参照),さらに,「供給管は鼻から咽喉部に挿入される挿入管であって、」「挿入管には、この先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分を示すマークが設けられている」(摘記1-a参照)ことが記載されている。
さらに,刊行物1には,「供給管は鼻に挿入される細長いパイプ状の挿入管16からなり、・・・その一端には容器の出口部12との接続部17が形成され、他端には注入孔18が形成されている。」(摘記1-b参照)ことが記載されている。
すると,刊行物1には,
「体液漏出防止剤を内蔵する容器の出口部に挿入管の外挿管部を接続し、挿入管は接続部が一端に形成され、他端に注入孔が形成され、挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分を示すマークが設けられ、その後、挿入管を遺体の鼻孔から挿入し,挿入管のマークが鼻先になったら挿入を止め、蓄圧体のガスと液体と容器内の体液漏出防止剤の混在物が挿入管を通って先端の注入孔から咽喉部に集中的に導入する体液漏出防止方法」の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

(2)刊行物2に記載された発明
刊行物2には,「蓄圧体(41)が一体になった容器(40)の出口部(52)」に「この出口部(52)に挿入管(56)の外挿管部(59)を接続」し,「その後、挿入管(56)を遺体の鼻孔から挿入」し,「挿入管(56)のストッパ(62)が鼻先になったら挿入を止め」,「蓄圧体(41)のガスと液体が体液漏出防止剤(48)を内蔵する容器(40)に送られるとともに、これらの混在物が挿入管(56)を通って先端の注入孔(58)から咽喉部に注入され」,「咽喉部に」「集中的に導入される」ことが記載され(摘記2-c参照),さらに,「挿入管を鼻孔から咽喉部に挿入し」,「挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にストッパが設けられた挿入管」であって(摘記2-a参照),「供給管は鼻に挿入される細長いパイプ状の挿入管(56)からなり、・・・その一端には容器の出口部(52)との接続部(57)が形成され、他端には注入孔(58)が形成されている。」(摘記2-b参照)ことが記載されている。
すると,刊行物2には,
「体液漏出防止剤を内蔵する容器の出口部に挿入管の外挿管部を接続し、挿入管は接続部が一端に形成され、他端に注入孔が形成され,挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にストッパが設けられ、その後、挿入管を遺体の鼻孔から挿入し,挿入管のストッパが鼻先になったら挿入を止め、蓄圧体のガスと液体と容器内の体液漏出防止剤の混在物が挿入管を通って先端の注入孔から咽喉部に集中的に導入する体液漏出防止方法」の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

(3)刊行物3に記載された発明
刊行物3には,「注入器1の注入口2」に「挿入管4の接続部5を被せて接続」し,「挿入管4の開口部6を鼻孔Aから咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管4のストッパ部7が鼻先Bに当たった時点で挿入を中止」し,「注入器1内のゼリー状の体液漏出防止材8を挿入管4を経由して」,「開口部から咽喉部に集中的に体液漏出防止材が流し込まれる」ことが記載され(摘記3-b参照),「挿入管4は、一端に注入器1の注入口2に接続される接続部5を有し、他端に鼻孔Aに挿入される開口部6を有する」ものであることも記載されている(摘記3-b参照)。
すると,刊行物3には,
「体液漏出防止材が入った注入器の注入口に挿入管の接続部を被せて接続し、挿入管は接続部が一端に形成され、他端に開口部が形成され、挿入管にストッパが設けられ、その後、挿入管を遺体の鼻孔から挿入し,挿入管のストッパが鼻先に当たった時点で挿入を止め,注入器内の体液漏出防止材が挿入管を経由して咽喉部に集中的に導入する体液漏出防止方法」の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されているといえる。

(4)刊行物4に記載された発明
刊行物4には,「体液凝固剤(2)を内蔵した容器(1)の両端に設けた連通口(1a)(1b)に装着されたキャップを外し、一の連通口(1a)に、蓄圧容器(3)のノズル口(3a)を、直接、あるいは、供給管を介して連通し、他の連通口(1b)には、殺菌液を入れた供給管(4)を連通し、該供給管の他端を遺体の鼻孔に差し込み、蓄圧容器(3)のバルブ開放ボタンを押すことにより、内部のエーロゾル噴霧体の開放により、体液凝固剤(2)、殺菌液、あるいは水を遺体内に圧入する」こと(摘記4-c参照),これによって「体液漏出防止」する(摘記4-a参照)ことが記載されている。
すると,刊行物4には,
「体液凝固剤を内蔵した容器の両端に設けた、一の連通口に、蓄圧容器のノズル口を、連通し、他の連通口には、殺菌液を入れた供給管を連通し、該供給管の他端を遺体の鼻孔に差し込み、蓄圧容器のバルブ開放ボタンを押すことにより、内部のエーロゾル噴霧体の開放により、体液凝固剤、殺菌液、あるいは水を遺体内に圧入することを特徴とする体液漏出防止方法」の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されている。

3 対比・判断
(1)刊行物1に記載された発明を引用発明とした場合について
引用発明1の「挿入管」は本願発明の「供給管」に相当する。
また,引用発明1の「外挿管部」は接続部なので,「挿入管」の「一端」部を容器に接続しており,挿入管の「先端部」は「挿入管」の「他端」部で「注入孔」が形成されている。
そして,引用発明1では,「挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分を示すマークが設けられ,挿入管を遺体の鼻孔から挿入し,挿入管のマークが鼻先になったら挿入を止め」るので,本願発明の「該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け」ることに相当する。
すると,本願発明と引用発明1とは,
「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け」する「体液漏出防止方法」である点で一致し,
(i)前者が「供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」のに対して,
後者が「供給管を通して蓄圧体のガスと液体と容器内の体液漏出防止剤との混在物を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」点(以下,「相違点(i)」という。)で一応相違する。
しかしながら,「蓄圧体のガスと液体と容器内の体液漏出防止剤との混在物」の中に「体液漏出防止剤」も含まれているから,「供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ものといえ,相違点(i)は実質的な相違とはいえない。
よって,本願発明は刊行物1に記載された発明である。

(2)刊行物2に記載された発明を引用発明とした場合について
引用発明2の「挿入管」は本願発明の「供給管」に相当する。
また,引用発明2の「外挿管部」は接続部なので,「挿入管」の「一端」部を容器に接続しており,挿入管の「先端部」は「挿入管」の「他端」部で「注入孔」が形成されている。
そして,引用発明2では,「挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にストッパが設けられ,挿入管を遺体の鼻孔から挿入し,挿入管のストッパが鼻先になったら挿入を止め」るので,本願発明の「該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け」ることに相当する。
すると,本願発明と引用発明2とは,
「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け」する「体液漏出防止方法」である点で一致し,
(i’)前者が「供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」のに対して,
後者が「供給管を通して蓄圧体のガスと液体と容器内の体液漏出防止剤との混在物を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」点(以下,「相違点(i’)」という。)で一応相違する。
しかしながら,「蓄圧体のガスと液体と容器内の体液漏出防止剤との混在物」の中に「体液漏出防止剤」も含まれているから,「供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ものといえ,相違点(i’)は実質的な相違とはいえない。
よって,本願発明は刊行物2に記載された発明である。

(3)刊行物3に記載された発明を引用発明とした場合について
引用発明3の「体液漏出防止材」,「注入器」,「挿入管」,「開口部」は本願発明の「体液漏出防止剤」,「容器」,「供給管」,「注入孔」に相当する。
すると,本願発明と引用発明3とは,
「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から挿入し、上記供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入することを特徴とする体液漏出防止方法」である点で一致し,
(ii)前者が「該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するまで挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け」,「咽喉部に達した注入孔」から「体液漏出防止剤」を導入しているのに対して,後者は「挿入管の他端に開口部が形成され」,「挿入管にストッパが設けられ,挿入管を遺体の鼻孔から挿入し,挿入管のストッパが鼻先に当たった時点で挿入を止め,開口部」から「体液漏出防止材」を導入している点(以下,「相違点ii」という。)で一応相違している。
しかしながら,刊行物3に「ストッパの代わりにマークを付与したものでも、挿入位置のばらつきを防止できる。」と記載される(摘記3-c参照)ように,ストッパは挿入位置を定めるためのものであり,「挿入管」の開口部を挿入する位置は咽喉部であることは明らかであるから,ストッパは「挿入管」の「開口部」が咽喉部に挿入されるためのものといえ,「挿入管のストッパが鼻先に当たった時点で挿入を止め」ることは,「供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するまで挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け」することと同じことである。
すると,相違点(ii)は文言上の相違にすぎない。
よって,本願発明は刊行物3に記載された発明である。

(4)刊行物4?8に記載された発明を引用発明とした場合について
仮に,本願が適法な分割出願であったとしても,以下に述べるように,本願発明は,原出願の出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物4?8に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

ア 引用発明4との対比
引用発明4の「体液凝固剤」は本願発明の「体液漏出防止剤」に相当する。
また,引用発明4の「供給管の他端」には,「開口部」があり,そこから体液凝固剤などが遺体内に圧入されるので,本願発明の「注入孔」に相当する。
さらに,引用発明4において,供給管の一端は「体液凝固剤を内蔵した容器」の「連通口」と接続し,容器の大きさを考えれば,容器は鼻孔内に通常導入されないので,供給管の一端は鼻孔から遺体の外に置かれていると推認できる。
そこで,本願発明と引用発明4とを対比すると,両者は,
「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け、該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記注入孔から導入することを特徴とする体液漏出防止方法。」である点で一致し,
以下の2点で一応相違している。
(iii)供給管の注入孔が形成された他端部を,前者が「鼻孔から咽喉部に達するように挿入し」,体液漏出防止剤を「上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」のに対して,後者が「鼻孔に挿入し」,体液漏出防止剤を「遺体内に」圧入している点(以下「相違点(iii)」という。)
(iv)前者が「体液漏出防止剤」を導入しているのに対して,後者は「体液凝固剤、殺菌液、あるいは水を」圧入している点(以下「相違点(iv)」という。)

イ 相違点の検討
(ア)相違点(iii)について
刊行物5には,「遺体の体液封止について」「吸水ポリマーを主とする封止剤は乾燥粉末のままでも使用可能であ」り,「咽喉に対しては」,「そのまま咽喉に注ぎ込む」こと(摘記5-a参照),「最も多量に体液が戻るのは咽喉からであり、この部位を抑えれば鼻孔および耳孔は、脱脂綿やガーゼなどを詰める処置であっても構わない」こと(摘記5-b参照)が記載されている。
さらに,「高吸水性粉末を遺体に装填する際には」,「吸水性樹脂粉末を封入させるペットシュガー状の細袋」の「先端部に注入ガイドを設け、粉末が当該ガイドに沿って目的箇所に正確に達するようにしておくことが望ましい」こと(摘記5-c参照)も記載されている。
そうすると,刊行物5の記載は,体液漏出防止剤(高吸水性粉末)を遺体内に導入するに際しては,咽喉に体液漏出防止剤を導入することが必要で,ガイドでその目的箇所に正確に達するようにすることが示唆されているといえる。
そして,引用発明4においても,「確実に体液凝固剤・・・を遺体内に挿入」(摘記4-d参照)することを課題としているところ,その課題に適合する刊行物5の上記示唆に基づいて,咽喉部に体液漏出防止剤を導入し,その際にガイドに沿って咽喉部に正確に導入しようとすることは当業者が容易に想到することと認められる。
一方,刊行物6には,「鼻咽腔気管エアウェイ16」が記載され(摘記6-a参照),図面(摘記6-b参照)も参照すれば,これが鼻孔から咽喉部に達する挿入管であることがわかる。
また,刊行物7には,「鼻孔より中咽頭までカテーテル1を挿入し」(摘記7-a参照)と記載されているから、これも鼻孔から咽喉部に達する挿入管である。
さらに,刊行物8には,「チューブ(図6)をもう一方の鼻孔より同様にゆっくり咽頭まで挿入し」と記載され(摘記8-a参照),図面(摘記8-b,8-c参照)も参照すれば,チューブが鼻孔から咽喉部に達する挿入管であることがわかる。
そうすると,刊行物6?8に記載されるように,鼻孔から咽喉部に達する挿入管は,各技術分野で用いられており,鼻孔から咽喉部に達する挿入管そのものは周知技術であるといえる。
そして,引用発明4において,刊行物5の上記示唆に基づいて,体液漏出防止剤を,ガイドに沿って咽喉部に正確に導入しようとするに際して,実際に咽喉部に体液漏出防止剤を正確に導入する技術手段を具現化するために,引用発明4において,鼻孔から咽喉部へ物を導入する機能を有する技術手段として,そのような機能を有する周知の鼻孔から咽喉部に達する挿入管を選択して,鼻孔から咽喉部に到達した挿入管の注入孔から正確に体液漏出防止剤を集中的に咽喉部に導入することは,発明の具現化のために当業者が当然に行う技術的事項といえるから,当業者が適宜なし得る設計事項であり,格別の困難性が認められない。

(イ)相違点(iv)について
引用発明4の「体液凝固剤、殺菌液、あるいは水」には,「体液漏出防止剤」に相当する「体液凝固剤」も含まれているから,「供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ものといえ,相違点(iv)は実質的な相違とはいえない。

ウ 効果について
本願発明の効果は,「体液漏出防止剤が飛び散って遺体周辺を汚すことなく、該体液漏出防止剤を遺体の咽喉部に注入することができる」というものである(本願明細書【0016】)。
しかしながら,上記イで述べたように,引用発明4において,刊行物5の示唆にしたがって,周知の鼻孔から咽喉部に達する挿入管を適用し,これを「鼻孔から咽喉部に達するように挿入し」,体液漏出防止剤を「上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ことによって,上記の効果は当然に得られる効果であって,刊行物4,5の記載及び刊行物6?8に記載された周知の鼻孔から咽喉部に達する導入管の構造から,当業者が十分予測し得るものと認められる。

4 まとめ
以上のとおり,本願は適法な分割出願ではなく,本願発明は,本願の出願日前に頒布された刊行物1?3に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,仮に,本願が適法な分割出願であるとしても,本願発明は,原出願の出願日前に頒布された刊行物4?8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 請求人の主張について
1 請求人の主張の概要
請求人は,平成23年12月26日付けの意見書において,以下の主張をしている。
(a)「原出願の最初に添付した明細書又は図面には、蓄圧体のガスと液体を用いる発明の他、「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入」すること、及び、「供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け、該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ことも記載されています。
つまり、本願の請求項1にかかる体液漏出防止方法も、原出願の最初に添付した明細書又は図面に記載されており、この発明を出願人が公開しているので、公開の代償として一定期間独占権を付与するという特許制度の趣旨から考えれば、本願の請求項1にかかる体液漏出防止方法の発明も特許が付与されてしかるべきであると思料します。
そして、原出願は上述の如く、蓄圧体のガスと液体を用いる発明、及び「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入し、該供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け、該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」発明の二以上の発明を包含する特許出願であったといえる以上、その一部を新たな特許出願として出願した本願は、出願日の遡及効が認められる出願であると思料します。そうでなければ、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願として出願する機会を出願人に与えて出願人の保護を図るという、分割出願の規定を設けた趣旨に反することになると思料します。」
(b)「刊行物4では、当該刊行物4の段落[0012]に記載されているように、「供給管の他端を遺体の口腔、鼻腔、耳孔、尿道、肛門などに差し込み」とあり、具体的にどこまで差し込むのか全く不明です。仮に、供給管を鼻孔から鼻腔まで差し込んだと仮定して体液漏出防止剤を導入しても、体液漏出防止剤が遺体の舌の付け根の落ち込みによって遮られて鼻腔よりも奥側の咽喉部にまで達することはなく、逆に、体液漏出防止剤が鼻孔から逆流する恐れもあります。体液漏出防止剤が咽喉部にまで達しないと、咽喉部に繋がる口や耳から体液が漏出してしまい、体液漏出防止剤を注入することの効果が十分に発揮されません。
このことに対し、体液漏出防止剤を耳、口、鼻の全てに導入することが考えれますが、このようにすると処置者の手間が増えるとともに、体液漏出防止剤の使用量も増えてしまい、好ましくありません。
また、刊行物4には、供給管を差し込んだ後に供給管の容器との接続部が鼻孔を基準にして遺体内に位置するのか、遺体外に位置するのかも不明です。仮に、供給管の容器との接続部が鼻孔を基準にして遺体内に位置していた場合、処置者が接続部を目視することができません。すなわち、供給管と容器との接続が緩かったり、また、体液漏出防止剤の導入の途中で緩んだ場合に、そのことを処置者が発見できずに、体液漏出防止剤の導入作業を進めてしまい、やがて供給管が容器から外れて体液漏出防止剤が遺体の周囲に飛び散ることが考えられます。」
(c)「刊行物5については、当該刊行物5の段落[0018]に記載されているように、「(例えば太針類似の注出口から)粉粒を射出出来る」ものであり、太針をどこにどこまで挿入するか何ら開示も示唆もされていませんし、太針と容器との接続部が鼻孔を基準にして遺体内に位置するのか、遺体外に位置するのかも何ら示唆されていません。
また、刊行物5の段落[0018]には、「吸水性樹脂粉末を封入させるペットシュガー状の細袋には、その先端部に注入ガイドを設け、粉末が当該ガイドに沿って目的箇所に正確に達するようにしておくことが望ましい。ガイドは、例えば先端部を細く突出させ、その突出部を破って(または鋏で切断して)ガイドから粉末を細流として注ぎ込むよう構成することが出来る。」と記載されていますが、そもそも、細袋を鼻孔から鼻孔よりも奥側へ挿入すること自体、不可能であると思料します。また、刊行物5の「ガイド」は粉末を細流として鼻孔に注ぎ込む用途のものであり、具体的な形状について一切記載はなく、本願発明のように体液漏出防止剤を咽喉部まで導入することができるものではありません。また、刊行物5には、体液漏出防止剤を咽喉部に集中的に導入することについても何ら開示も示唆もされていません。」
(d)「刊行物6?8に記載されているものは、遺体ではなく、生体の治療時に使用されるものであり、本願発明とは技術分野が異なっています。しかも、刊行物6?8の発明は全て呼気を流通させるものであり、体液漏出防止剤のようなものを流通させるという考えは示唆すらなされていません。よって、遺体の体液漏出防止方法の技術分野に属する当業者が、生体の治療時に使用される発明を適用し、供給管を用いて体液漏出防止剤を遺体の咽喉部に集中的に導入するという、本願発明の体液漏出防止方法に想到することはできないものであると思料します。
また、生体の治療時に使用される刊行物6?8のものと、遺体の処置時に使用される刊行物4、5のものとは使用する対象が全く異なっていますし、刊行物6?8のものは医師が使用するのに対し、刊行物4、5のものは看護師等の遺体処置者が使用するのであり、使用者も異なっています。よって、刊行物4、5のものと刊行物6?8のものとを組み合わせること自体に困難性があると思料します。」
(e)「本願発明では、特に、「供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入」すること、「供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け」ること、及び、「体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ことを最も特徴としています。
「供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入」することにより、供給管が鼻孔や鼻腔内で留まったままにならず、その後の体液漏出防止剤の導入作業時に、体液漏出防止剤を咽喉部に集中的に導入することが可能になります。また、体液漏出防止剤の導入時に逆流する恐れもなくなります。
しかも、体液漏出防止剤を咽喉部に集中的に導入することにより、胃等から咽喉部に上がってきた体液を咽喉部において体液漏出防止剤によって封止し、体液が口、耳、鼻まで達しないようにすることができます。つまり、体液漏出防止剤を咽喉部に導入するだけで、口、耳、鼻からの体液の漏出を防止することができるので、処置が簡単になるとともに、体液漏出防止剤の使用量を少なくすることができます。」

2 検討
(1)主張(a)について
上記「第5 1(2)イ」で述べたように,原出願の出願当初の明細書又は図面には,「体液漏出防止剤を内蔵した容器に供給管の一端部を接続した状態で、該供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入」すること,及び,「供給管の一端部を鼻孔から遺体外へ位置付け、該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ことに一部対応する記載はある。
しかしながら,原出願の出願当初の明細書では,「体液漏出防止剤」のほかに「蓄圧体1のガスと液体」も含む「混在物」を「咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入」している(摘記e参照)のであって,「体液漏出防止剤」のみを「咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入」しておらず,原出願の出願当初の明細書又は図面の他の記載をみても,「蓄圧体1のガスと液体」を用いずに,「体液漏出防止剤」を「咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入」することは記載されていない。
そうすると,本願発明には,「該供給管を通して上記容器内の体液漏出防止剤を上記咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入する」ために,「蓄圧体のガス及び液体」を用いずに「体液漏出防止剤」を導入する場合を含むものとなり,原出願の出願当初の明細書又は図面に記載のない新たな技術的事項を実質的に追加することになるので,本件分割出願は,原出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものとは認められない。
さらに,原出願の出願当初の明細書の記載からすれば,「体液漏出防止剤」を「蓄圧体1に入れる噴出ガスと液体」とともに「咽喉部に達した上記注入孔から該咽喉部に集中的に導入」しなければ,発明の目的が達成できなくなるものと認められるから,「蓄圧体のガス及び液体」を用いるとの発明特定事項を含まない本願発明が,完成された発明として原出願の出願当初の明細書又は図面に記載されていたとは認められない。

(2)主張(b)について
請求人の主張(b)は,本願発明と引用発明4との相違を述べるものであり,引用発明4において,「 供給管を差し込んだ後に供給管の容器との接続部が鼻孔を基準にして遺体内に位置するのか、遺体外に位置するのかも不明」としているが,引用発明4において,供給管の一端は「体液凝固剤を内蔵した容器」の「連通口」と接続し,容器の大きさを考えれば,容器は鼻孔内に通常導入されないので,供給管の一端は鼻孔から遺体の外に置かれていると推認できる。
そうすると,本願発明と引用発明4との相違点については,「第5 3(4)ア」に記載したとおりであって,それ以外の相違点は認められない。

(3)主張(c)について
請求人の主張(c)は,刊行物5には,「細袋を鼻孔から鼻孔よりも奥側へ挿入すること自体、不可能であ」り,「刊行物5の「ガイド」は粉末を細流として鼻孔に注ぎ込む用途のものであり、具体的な形状について一切記載はなく、本願発明のように体液漏出防止剤を咽喉部まで導入することができるものでは」なく,「刊行物5には、体液漏出防止剤を咽喉部に集中的に導入することについても何ら開示も示唆もされて」いないことを主張するものである。
しかしながら,上記「第5 3(4)イ(ア)」で述べたように,刊行物5には,体液漏出防止剤を遺体内に導入するに際しては,咽喉に体液漏出防止剤を導入することが必要で,ガイドでその目的箇所に正確に達するようにすることが示唆されているといえる。
そして,「細袋を鼻孔から鼻孔よりも奥側へ挿入すること自体、不可能であ」り,「刊行物5の「ガイド」は粉末を細流として鼻孔に注ぎ込む用途のものであり、具体的な形状について一切記載はなく、本願発明のように体液漏出防止剤を咽喉部まで導入することができるものでは」ないとしても,刊行物5の上述の示唆に基づいて,引用発明4において,咽喉に集中的に体液漏出防止剤を導入し,ガイドでその目的箇所である咽喉部に正確に達するようにしようとすることは,当業者が容易に想到し得たことであって,その際の鼻孔から咽喉部までのガイドとして周知の鼻孔から咽喉部へ達する挿入管を選択することは当業者が適宜なし得たことと認められる。

(4)主張(d)について
請求人の主張(d)は,「刊行物6?8に記載されているものは、遺体ではなく、生体の治療時に使用されるものであり、本願発明とは技術分野が異な」り,「刊行物6?8の発明は全て呼気を流通させるものであり、体液漏出防止剤のようなものを流通させるという考えは示唆すらなされて」いないので,「遺体の体液漏出防止方法の技術分野に属する当業者が、生体の治療時に使用される発明を適用し、供給管を用いて体液漏出防止剤を遺体の咽喉部に集中的に導入するという、本願発明の体液漏出防止方法に想到することはできない」と主張するものである。
しかしながら,刊行物6は,「パルスオキシメーターセンサーエレメント20、22、および24は、鼻咽腔気管エアウェイ10の通路に配置してもよい」(摘記6-c参照)と,刊行物7には,「カテーテル1は外側カテーテル2の中に内側カテーテル4を配置する」(摘記7-b参照)と,刊行物8には,「先に請求項1のチューブ(図1)を挿入したのち、請求項3のチューブ(図6)をもう一方の鼻孔より同様にゆっくり咽頭まで挿入し」(摘記8-a参照)とそれぞれ記載されるように,「刊行物6?8の発明は全て呼気を流通させる」ものではあるが,センサーや内部チューブなどの物品も挿入管から導入されるものである。
そして,刊行物6?8に記載される鼻孔から咽喉部へ達する挿入管は,遺体で用いられ,遺体処置者が使用するものではなく,体液漏出防止剤を流通させるものではないが,人体の鼻孔から咽喉部へ物を導入するという機能を有するものであり,遺体でも,生体であっても,人体の鼻孔から咽喉部へ物を導入するという機能に何ら変わりはなく,この鼻孔から咽喉部への挿入管を用いる技術分野が異なったとしても,同様の機能を発揮することは明らかであるから,引用発明4において,鼻孔から咽喉部に確実に体液漏出防止剤を導入するとの目的を達するために,このような周知の鼻孔から咽喉部への導入管を適用することは当業者が適宜なし得たことと認められる。
よって,主張(d)を採用することはできない。

(5)主張(e)について
請求人の主張(e)は,「「供給管の注入孔が形成された他端部を遺体に鼻孔から咽喉部に達するように挿入」することにより、供給管が鼻孔や鼻腔内で留まったままにならず、その後の体液漏出防止剤の導入作業時に、体液漏出防止剤を咽喉部に集中的に導入することが可能になり」,「体液漏出防止剤の導入時に逆流する恐れもなくなり」,「体液漏出防止剤を咽喉部に導入するだけで、口、耳、鼻からの体液の漏出を防止することができるので、処置が簡単になるとともに、体液漏出防止剤の使用量を少なくすることができ」との本願発明の格別の効果を主張するものである。
しかしながら,上記「第5 3(4)ウ」で述べたように,引用発明4において,体液漏出防止剤を周知の鼻孔から咽喉部への挿入管を用いて,「鼻孔から咽喉部に達するように挿入し」すれば,必然的に,供給管が鼻孔や鼻腔内で留まったままにならず,体液漏出防止剤を咽喉部に集中的に導入することになり,体液漏出防止剤の導入時に逆流する恐れもなくなるものであるから,これらの効果は,上記構成から当然に得られる自明の効果といえる。
そして,刊行物5の「最も多量に体液が戻るのは咽喉からであり、この部位を抑えれば鼻孔および耳孔は、脱脂綿やガーゼなどを詰める処置であっても構わない」(摘記5-b参照)と記載されているから,「体液漏出防止剤を咽喉部に導入するだけで、口、耳、鼻からの体液の漏出を防止することができる」との効果が得られることは,この記載から当業者が十分予測し得ることと認められる。
よって,主張(e)も採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当するか,そうでなくとも,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので,本願は,その他の請求項を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-26 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願2008-8943(P2008-8943)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A01N)
P 1 8・ 121- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康吉住 和之  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 小出 直也
橋本 栄和
発明の名称 体液漏出防止方法  
代理人 竹内 宏  
代理人 今江 克実  
代理人 杉浦 靖也  
代理人 村田 幸雄  
代理人 藤田 篤史  
代理人 二宮 克也  
代理人 原田 智雄  
代理人 竹内 祐二  
代理人 前田 弘  
代理人 嶋田 高久  
代理人 関 啓  

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