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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1254482
審判番号 不服2009-13745  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-03 
確定日 2012-03-29 
事件の表示 特願2003-134386「水処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 2日出願公開、特開2004-337665〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年5月13日の出願であって、平成21年2月20日付けで拒絶理由が通知され、平成21年4月22日付けで意見書及び明細書に係る手続補正書が提出され、平成21年5月21日付けで拒絶査定がなされ、平成21年8月3日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に明細書に係る手続補正書が提出されたものであり、その後、平成23年8月30日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、平成23年11月2日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成21年8月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年8月3日付けの手続補正を却下する。
[理由]
平成21年8月3日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は次のとおりに補正された。
【請求項1】 長尺の管状を成し、軸線に沿って延びる紫外線照射手段を収納し、内周面と前記紫外線照射手段との空間に被処理水を流通させる紫外線照射部と、
前記紫外線照射部の上流に隣接して設けられ、前記被処理水にオゾンガスまたはオゾン含有ガスを混合させる酸化剤混合部とを有し、
前記酸化剤混合部は、酸化剤供給手段から前記オゾンガスまたは前記オゾン含有ガスが供給される酸化剤吸引口が形成されるとともに所定の断面積まで絞られた最小断面積部と、前記最小断面積部から前記紫外線照射部と同じ太さの大通路部まで広がるテーパ状の錐形部とを備え、
前記紫外線照射手段は、前記オゾンガスまたは前記オゾン含有ガスが混合された前記被処理水に紫外線を照射して前記被処理水中のTOCを分解する水処理装置であって、
前記オゾンガスまたは前記オゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上であり、かつ、前記被処理水中に混合されるオゾン分子が、重量基準で前記被処理水中のTOCの7.5倍以上である
ことを特徴とする水処理装置。
【請求項2】 前記紫外線照射部を通過後の処理水を前記最小断面積部の上流に戻す循環流路をさらに設けた
ことを特徴とする請求項1記載の水処理装置。

上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である被処理水中の「処理対象物質」を「TOC」に限定すると共に、同じく当該請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記オゾンガスまたはオゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上である」ことを「前記オゾンガスまたはオゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上であり、かつ、前記被処理水中に混合されるオゾン分子が、重量基準で前記被処理水中のTOCの7.5倍以上である」ことに限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか、以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2001-25780号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 難分解性有機物を含有した排水に所定量の第1の酸化剤を混入する第1の酸化剤混入手段と、噴出ノズルとディフューザでなり上記第1の酸化剤が混入された排水を動力水として第2の酸化剤を吸引可能に構成されたエゼクタ部と、一端が上記エゼクタ部と連結して筒状に形成され下流端側に排出口を有する反応部外管と、該反応部外管内に所定の間隔を介して同心円筒状に光線が透過可能な部材で形成され上記エゼクタ部側の一端が閉塞され他端により上記反応部外管の下流端側を閉塞する反応部内管と、該反応部内管内に設けられ光線を照射する光源とを備えたことを特徴とする排水処理反応装置。」(特許請求の範囲 請求項1)
(イ)「【請求項2】 第1の酸化剤は過酸化水素で第2の酸化剤はオゾン含有気体としたことを特徴とする請求項1に記載の排水処理反応装置。」(特許請求の範囲 請求項2)
(ウ)「なお、上記の難分解性有機物を含有した排水中の難分解性有機物の分解方法は、オゾンに紫外線を照射して発生するヒドロキシラジカル(以下OHラジカルと称す)等の活性種の強力な酸化反応によるものである。この酸化反応は難分解性有機物との確率的な衝突反応により進行する。OHラジカルは寿命が短く、選択的な反応が無い。したがって、ミクロにみたOHラジカルと難分解性有機物の均一な衝突により反応効率が高くなる。OHラジカルの発生量は原水1に溶け込んだオゾン量、紫外線照射量に強く依存しオゾン量、紫外線照射量にほぼ比例するので、処理すべき原水1のCOD、SS濃度を、処理水6の一部の循環水7を原水1に循環させることにより紫外線の光線透過率を向上させて、所定量のオゾン量に対して、OHラジカルの発生量を向上させることにより分解効率の向上を図っている。」(段落【0004】)
(エ)「【発明の実施の形態】実施の形態1.以下、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。図1はこの発明の実施の形態1による排水処理反応装置の構成を示す断面図である。図において、10は原水貯溜槽(図示せず)よりポンプ11で吸引された難分解性有機物(例えば、廃棄物)、最終処分場の浸出水(例えばDXN_(S))、工場の排水(例えばトリクロロエチレン等)を含有した排水としての原水、12は原水10に所定量の第1の酸化剤としての例えば過酸化水素13を混入する第1の酸化剤混入手段、14は噴出ノズル15とスロート部14aを介したディフューザ16でなり、過酸化水素13が混入された排水10aを動力水として、第2の酸化剤としての例えばオゾン含有気体17を吸引可能に構成されたエゼクタ部、18は一端がエゼクタ部14と連結して筒状に形成され下流端側に排出口18aを有する反応部外管、19は反応部外管18の下流端に結合された連結フランジ、20は反応部外管18内に所定の間隔を介して同心円筒状に紫外線などの光線が透過可能な例えば石英等の部材で形成され、エゼクタ部14側の一端20aが閉塞され他端20bにより連結フランジ19を介し反応部外管18の下流端側を閉塞する反応部内管、21はディフューザ16と反応部外管18および反応部内管20で形成され環状の流路21aを有する反応槽、22は反応部内管20内に設けられ両端に電極22a、22bを有し紫外線などの光線を照射する光源としての紫外線ランプ、23は排出口18aより排出される排水の気液を分離する気液分離タンク、24は気液分離タンク23より排出される処理水、25は気液分離タンク23で分離された残留ガスを吸着分解する排ガス分解塔である。」(段落【0010】)として、第4頁に、この発明の実施の形態1における排水処理反応装置の構成を示す断面図である【図1】が記載されている。
(オ)「上記のように構成された排水処理反応装置は、ポンプ11で圧送される原水10に第1の酸化剤混入手段12によって過酸化水素13が混入される。この過酸化水素13が混入された排水10aはエゼクタ部14を通過して反応槽21内に噴出されるが、エゼクタ部14を通過する時噴出ノズル15とディフューザ16の動力水となりオゾン発生装置(図示せず)で作られたオゾン含有気体17がスロート部14aから吸引され排水10a内に微細な多量の気泡となって混入される。なお、この微細な気泡が多いほど、また、ディフューザ16内圧力が高いほど排水10aへのオゾン含有気体17の溶け込み濃度は高くなる。オゾン含有気体17が溶け込んだ排水と微小な気泡状態のオゾン含有気体は反応槽21の下流側へと移送される。この時、オゾン含有気体17が溶け込んだ排水10a中および微小な気泡状態のオゾン含有気体との気液接触面においてOHラジカルが生成され、排水中に含まれる難分解性有機物がOHラジカルと反応し分解される。また、過酸化水素13と反応しきれずに下流部の反応槽21内に残留するオゾンは、反応槽21の環状の流路21aで紫外線ランプ22による紫外線照射が行われ、さらにOHラジカルを生成する。このOHラジカルは上流部では未分解であった排水中の難分解性有機物の分解処理に寄与する。環状流路21aを通過して紫外線照射により難分解性有機物が分解された処理水は排出口18aから反応槽21外へ排出され、、気液分離タンク23により、処理水24とO_(2)、N_(2)、CO_(2)や残留オゾン等のガスに分離されて、処理水24は後処理装置(図示せず)を介して装置外に放流される。また、残留したオゾンガスは排ガス分解塔24で活性炭などにより吸着分解され、無害なガスとして大気中に排出される。」(段落【0011】)
(カ)「このように実施の形態1によれば、過酸化水素13が混入された排水10aをエゼクタ部14の動力水としてオゾン含有気体17を吸引し、このオゾン含有気体17が溶け込んだ排水を紫外線が照射されている反応槽21の環状の流路21aを通過させるよう構成したので、オゾン含有気体17が溶け込んだ排水中および気液接触面において、効率良くOHラジカルが生成され、排水中に含まれる難分解性有機物がOHラジカルと反応し高効率に分解可能となった。また、環状の流路21aで未反応のオゾンから効率的にOHラジカルを生成させることができ、オゾンの有効利用で難分解性有機物の分解効率が向上する。」(段落【0013】)

(3)対比、判断
刊行物1には、記載事項(ア)に「難分解性有機物を含有した排水に所定量の第1の酸化剤を混入する第1の酸化剤混入手段と、噴出ノズルとディフューザでなり上記第1の酸化剤が混入された排水を動力水として第2の酸化剤を吸引可能に構成されたエゼクタ部と、一端が上記エゼクタ部と連結して筒状に形成され下流端側に排出口を有する反応部外管と、該反応部外管内に所定の間隔を介して同心円筒状に光線が透過可能な部材で形成され上記エゼクタ部側の一端が閉塞され他端により上記反応部外管の下流端側を閉塞する反応部内管と、該反応部内管内に設けられ光線を照射する光源とを備えた・・・排水処理反応装置」が記載され、記載事項(イ)に「第2の酸化剤はオゾン含有気体」としたことが記載されている。
そして、記載事項(ア)に記載された排水処理反応装置の実施の形態について、記載事項(エ)には、「エゼクタ部14」は「噴出ノズル15とスロート部14aを介したディフューザ16でな」ること、「ディフューザ16と反応部外管18および反応部内管20で形成され環状の流路21aを有する」「反応槽21」を有すること、「光線を照射する光源」として「紫外線ランプ」を用いたことが記載され、記載事項(カ)には、「過酸化水素13が混入された排水10aをエゼクタ部14の動力水としてオゾン含有気体17を吸引し、このオゾン含有気体17が溶け込んだ排水を紫外線が照射されている反応槽21の環状の流路21aを通過させるよう構成したので、オゾン含有気体17が溶け込んだ排水中および気液接触面において、効率良くOHラジカルが生成され、排水中に含まれる難分解性有機物がOHラジカルと反応し高効率に分解可能となった。また、環状の流路21aで未反応のオゾンから効率的にOHラジカルを生成させることができ、オゾンの有効利用で難分解性有機物の分解効率が向上する」ことが記載されている。

これらの記載を総合すると、刊行物1には、
「難分解性有機物を含有した排水に所定量の第1の酸化剤を混入する第1の酸化剤混入手段と、噴出ノズルとスロート部を介したディフューザでなり上記第1の酸化剤が混入された排水を動力水としてオゾン含有気体を吸引可能に構成されたエゼクタ部と、一端が上記エゼクタ部と連結して筒状に形成され下流端側に排出口を有する反応部外管と、該反応部外管内に所定の間隔を介して同心円筒状に光線が透過可能な部材で形成され上記エゼクタ部側の一端が閉塞され他端により上記反応部外管の下流端側を閉塞する反応部内管と、該反応部内管内に設けられた紫外線ランプを備え、ディフューザと反応部外管および反応部内管で形成され環状の流路を有する反応槽を有し、このオゾン含有気体が溶け込んだ排水を紫外線が照射されている反応槽の環状の流路を通過させることにより、排水中に含まれる難分解性有機物を分解処理する排水処理反応装置。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているものと認められる。

本願補正発明と刊行1発明とを対比すると、刊行1発明の「排水」、「オゾン含有気体」が、それぞれ、本願補正発明の「被処理水」、「オゾン含有ガス」に相当することは明らかである。
また、刊行1発明の「反応部内管」と「紫外線ランプ」とを併せたものが、本願補正発明の「紫外線照射手段」に相当することも明らかである。そして、刊行1発明の「反応部外管」は、「管状」であることは明らかであり、刊行物1の【図1】を参酌すると長尺を成すものであるといえる。しかも、刊行1発明の「反応部外管」は、その内部に「所定の間隔を介して同心円筒状に・・・反応部内管と、該反応部内管内に設けられた紫外線ランプとを備え」るものであるから「軸線に沿って延びる紫外線照射手段を収納」するものであるといえ、また、「反応槽」の「環状の流路」は「反応部外管」の内周面と「反応部内管」の外周面の間に形成されるものであることは明らかであるから「内周面と前記紫外線照射手段との空間に被処理水を流通させる」ものであるといえる。よって、刊行1発明の「反応部外管」及びその内部に収容された「反応部内管」と「紫外線ランプ」を総合したものが、本願補正発明の「紫外線照射部」に相当するものと認められる。
そして、刊行1発明の「エゼクタ部」は、「上記第1の酸化剤が混入された排水を動力水としてオゾン含有気体を吸引可能に構成された」ものであるから、本願補正発明の「酸化剤混合部」に相当するものと認められ、この「エゼクタ部」に「酸化剤供給手段からオゾン含有ガスが供給される酸化剤吸引口が形成され」ていることは明らかである。また、刊行1発明の「反応部外管」が「一端が上記エゼクタ部と連結して筒状に形成され下流端側に排出口を有する」ものであることからみて、刊行1発明の「エゼクタ部」が「反応部外管」及びその内部に収容された「反応部内管」と「紫外線ランプ」を総合したものである「紫外線照射部」の「上流に隣接して設けられ」ていることも明らかである。ここで、刊行1発明の「スロート部」は、本願補正発明の「最小断面積部」に相当することは明らかであり、また、刊行1発明の「ディフューザ」はその内部が「テーパ状の錐形部」を成すことは技術常識からみて明らかであり、その「テーパ状の錐形部」が「最小断面積部から前記紫外線照射部と同じ太さの大通路部まで広がる」ものであることも刊行物1の【図1】から見て取れる。
さらに、刊行1発明は、「オゾン含有気体が溶け込んだ排水を紫外線が照射されている反応槽の環状の流路を通過させることにより、排水中に含まれる難分解性有機物を分解処理する」ものであり、「難分解性有機物」が「TOC」に含まれる一成分であることは明らかであるから、刊行1発明の「反応部内管」と「紫外線ランプ」とを併せたものである「紫外線照射手段」は、「前記オゾン含有ガスが混合された前記被処理水に紫外線を照射して前記被処理水中のTOCを分解する」ものであるといえ、刊行1発明の「排水処理反応装置」は「水処理装置」といえるものである。

そうすると、両者は、
「長尺の管状を成し、軸線に沿って延びる紫外線照射手段を収納し、内周面と前記紫外線照射手段との空間に被処理水を流通させる紫外線照射部と、
前記紫外線照射部の上流に隣接して設けられ、前記被処理水にオゾン含有ガスを混合させる酸化剤混合部とを有し、
前記酸化剤混合部は、酸化剤供給手段から前記オゾン含有ガスが供給される酸化剤吸引口が形成されるとともに所定の断面積まで絞られた最小断面積部と、前記最小断面積部から前記紫外線照射部と同じ太さの大通路部まで広がるテーパ状の錐形部とを備え、
前記紫外線照射手段は、前記オゾン含有ガスが混合された前記被処理水に紫外線を照射して前記被処理水中のTOCを分解する水処理装置」
で一致し、次の点で相違する。

相違点a:本願補正発明は、「前記オゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上であり、かつ、前記被処理水中に混合されるオゾン分子が、重量基準で前記被処理水中のTOCの7.5倍以上である」のに対し、刊行1発明はかかる特定がない点

そこで、相違点aについて検討する。
そもそも、刊行物1の記載事項(ウ)にも記載されているとおり、オゾンに紫外線を照射して発生するヒドロキシラジカル(以下OHラジカルと称す)等の活性種の強力な酸化反応により被処理水中の処理対象物質を分解する方法において、OHラジカルの発生量は被処理水に溶け込んだオゾン量、紫外線照射量に強く依存し、被処理水に溶け込んだオゾン量、紫外線照射量にほぼ比例することは、従来より広く知られているところである。
そして、刊行1発明は、刊行物1の記載事項(オ)及び(カ)に記載のとおり、「酸化剤混合部」である「エゼクタ部」を「噴出ノズルとスロート部を介したディフューザでなり第1の酸化剤が混入された排水を動力水としてオゾン含有気体を吸引可能に構成」したことにより、オゾン含有ガスがスロート部から吸引され被処理水内に微細な多量の気泡となって混入され、さらにオゾン含有ガスが溶け込んだ被処理水に紫外線照射を行うことによりOHラジカルを効率的に発生させることができ、このOHラジカルとの反応により被処理水中の処理対象物質を高効率に分解することができるというものであり、刊行物1の記載事項(オ)には、この微細な気泡が多いほど被処理水へのオゾン含有ガスの溶け込み濃度が高くなることも記載されている。
しかし、この微細な気泡がいかに多くても、吸引されるオゾン含有ガスのオゾン濃度が低ければ、被処理水中に溶け込むオゾン量が少なくなり、充分なOHラジカルの発生量が得られなくなることは、当業者にとって自明の事項である。
してみれば、「酸化剤混合部」を上記の如く構成してオゾン含有ガスを微細な多量の気泡として被処理水内に混入することにより、被処理水へのオゾン含有ガスの溶け込み濃度を高くし、OHラジカルの発生量を増加しようという刊行1発明において、充分なOHラジカルの発生量を得るべく、吸引されるオゾン含有ガスをオゾン濃度の高いものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、その際、このオゾン含有ガスのオゾン濃度を150g/m^(3)(N)以上と特定する程度のことは、例えば、特開2001-170672号公報に記載されているように、オゾンと紫外線を用いて被処理水中の処理対象物質を分解する方法において120g/m^(3)(N)以上、さらには150g/m^(3)(N)以上、200g/m^(3)(N)以上のオゾン含有ガスを用いることが本願出願前広く行われているところであることを考慮すれば、当業者にとって格別困難なことであるとは認められない。
また、被処理水中の処理対象物質はその多くがTOCであるから、被処理水中のTOCと被処理水中に混合されるオゾン分子の量との関係について検討し、被処理水中に混合されるオゾン分子が、重量基準で前記被処理水中のTOCの7.5倍以上と特定することは、当業者が必要に応じて適宜為し得たことであると認められる。

次に、オゾン含有ガスのオゾン濃度を150g/m^(3)(N)以上とし、かつ被処理水中に混合されるオゾン分子を、重量基準で被処理水中のTOCの7.5倍以上と特定したことよる効果について検討する。
まず、処理対象物質の分解率について検討すると、オゾン含有ガスのオゾン濃度を高くすることにより処理対象物質の分解率が高くなることは、上述した吸引されるオゾン含有ガスのオゾン濃度と被処理水中に溶け込むオゾン量との関係から当業者が予測し得たことであり、補正後の明細書及び図面の記載を検討してもオゾン含有ガスのオゾン濃度及び被処理水中に混合されるオゾン分子と被処理水中のTOCの関係を上記の如く特定したことにより処理対象物質の分解率に関し当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。
また、高効率な処理が行えるという効果について検討すると、本件補正後の明細書及び図面には、被処理水のTOC濃度を10mg/L、G/L(オゾンガス流量と被処理水流量の比)を0.5として水処理を行った場合、オゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上で高効率な処理が行え、その際の被処理水中に混合されるオゾン分子は、重量基準で被処理水中のTOCの7.5倍以上であったことは記載されている。しかし、本件補正後の明細書及び図面の記載の記載をいかに検討しても、TOC濃度或いはG/L(オゾンガス流量と被処理水流量の比)が上記の条件と異なる条件で水処理を行った場合も、オゾン含有ガスのオゾン濃度を150g/m^(3)(N)以上とし、かつ被処理水中に混合されるオゾン分子を、重量基準で被処理水中のTOCの7.5倍以上としたことにより、それ以外の場合より高効率な処理が行えることを確認するに足る根拠は見いだせない。よって、本件補正後の明細書及び図面の記載からは、オゾン含有ガスのオゾン濃度を150g/m^(3)(N)以上とし、かつ被処理水中に混合されるオゾン分子を、重量基準で被処理水中のTOCの7.5倍以上としたことにより高効率な処理が行えるという効果を確認することができない。
よって、本件補正後の明細書及び図面の記載を検討しても、オゾン含有ガスのオゾン濃度を150g/m^(3)(N)以上とし、かつ被処理水中に混合されるオゾン分子を、重量基準で被処理水中のTOCの7.5倍以上と特定したことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成21年8月3日付けの手続補正は前記2.のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成21年4月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】 長尺の管状を成し、軸線に沿って延びる紫外線照射手段を収納し、内周面と前記紫外線照射手段との空間に被処理水を流通させる紫外線照射部と、
前記紫外線照射部の上流に隣接して設けられ、前記被処理水にオゾンガスまたはオゾン含有ガスを混合させる酸化剤混合部とを有し、
前記酸化剤混合部は、酸化剤供給手段から前記オゾンガスまたは前記オゾン含有ガスが供給される酸化剤吸引口が形成されるとともに所定の断面積まで絞られた最小断面積部と、前記最小断面積部から前記紫外線照射部と同じ太さの大通路部まで広がるテーパ状の錐形部とを備え、
前記紫外線照射手段は、前記オゾンガスまたは前記オゾン含有ガスが混合された前記被処理水に紫外線を照射して前記被処理水中の処理対象物質を分解する水処理装置であって、
前記オゾンガスまたは前記オゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上である
ことを特徴とする水処理装置。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は、前記2.で検討した本願補正発明に関し、被処理水中の「TOC」を「処理対象物質」に拡張し、「前記オゾンガスまたはオゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上であり、かつ、前記被処理水中に混合されるオゾン分子が、重量基準で前記被処理水中のTOCの7.5倍以上である」ことを「前記オゾンガスまたはオゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上である」ことに拡張したものである。
してみると、本願発明1を特定するために必要な事項である被処理水中の「処理対象物質」を「TOC」に限定すると共に、同じく本願発明1を特定するために必要な事項である「前記オゾンガスまたはオゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上である」ことを「前記オゾンガスまたはオゾン含有ガスのオゾン濃度が150g/m^(3)(N)以上であり、かつ、前記被処理水中に混合されるオゾン分子が、重量基準で前記被処理水中のTOCの7.5倍以上である」ことに限定したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)に記載したとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明と同様の理由により、本願発明1も、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-27 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-14 
出願番号 特願2003-134386(P2003-134386)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C02F)
P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馳平 裕美片山 真紀  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 目代 博茂
斉藤 信人
発明の名称 水処理装置  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 曾我 道治  
代理人 大宅 一宏  
代理人 上田 俊一  
代理人 古川 秀利  
代理人 梶並 順  
代理人 吉田 潤一郎  

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