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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1254500
審判番号 不服2010-12255  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-07 
確定日 2012-03-29 
事件の表示 特願2003-322064「画像処理装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月 7日出願公開、特開2005- 94152〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本願は、平成15年9月12日の出願であって、手続の概要は以下のとおりである。
拒絶理由通知 :平成20年9月26日(起案日)
手続補正(特許請求の範囲、明細書の補正)
:平成20年11月27日
拒絶理由通知(最後) :平成21年6月9日(起案日)
手続補正(特許請求の範囲、明細書の補正)
:平成21年8月17日
手続補正の却下(平成21年8月17日付け手続補正)
:平成22年3月1日(起案日)
拒絶査定 :平成22年3月1日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成22年6月7日
手続補正(特許請求の範囲、明細書の補正)
:平成22年6月7日
前置審査報告 :平成22年7月7日
審尋 :平成23年10月4日(起案日)
回答書 :平成23年12月8日

また、本願発明は、平成22年6月7日付け手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、「画像処理装置及び方法」に関するものと認める。

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成21年6月9日付け拒絶理由通知に記載した理由であるところ、平成21年6月9日付け拒絶理由通知で通知された拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
「理由A.省略
理由B.
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に「上記画像変換手段は、該画像変換手段の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記第2の画素数に変換されるときの高域成分の増加量を設定する」と記載されており、また、請求項6に「上記画像変換工程では、該画像変換工程での出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記第2の画素数に変換されるときの高域成分の増加量を設定する」と記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、上記画像変換手段及び画像変換工程に対応する画像変換部20において、いったいどのようにして第2の画素数に変換されるときの高域成分の増加量を設定するや、設定された高域成分の増加量を実現するために、いったいどのようにして画像変換を行うのかについて、何ら具体的に記載されていない。
すなわち、発明の詳細な説明には、「このとき、画像変換部20では、この周波数特性の減衰分だけ解像度軸強度を上げる。」(段落【0086】)としか記載されておらず、「この周波数特性の減衰分だけ解像度軸強度を上げる」ために、図2に記載のような画像変換部20における何をどのようにするのかが何ら具体的かつ明確に記載されていない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

第3 平成22年6月7日付け手続補正書での補正内容、審判請求人の前記審判請求書での主張
1.審判請求人は、平成22年6月7日付け手続補正書において、特許請求の範囲の【請求項1】、【請求項5】、明細書の段落【0008】、【0009】について、以下のとおりの補正をしている(下線部は補正箇所)。
「【請求項1】
入力された第1の画素数からなる第1の画像信号の種類及び/又はそのS/Nに応じて、該第1の画像信号の水平方向の周波数特性を調整する第1の周波数特性調整手段と、
上記第1の周波数特性調整手段によって周波数特性の調整された上記第1の画像信号を、上記第1の画素数よりも多い第2の画素数からなる第2の画像信号に変換し、上記第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換手段と、
最終的な出力の周波数特性が水平方向と垂直方向とで略々同程度となるように、上記第2の画像信号の水平方向及び垂直方向の周波数特性を調整する第2の周波数特性調整手段とを備え、
上記画像変換手段は、 注目している上記第1の画像信号の画素である注目画素を、その注目画素に対応する上記第2の画像信号の性質に応じて、所定のクラスに分類するクラス分類を行うクラス分類手段と、 上記注目画素の予測値を、その注目画素のクラスに対応して予測する予測手段とを有し、 上記画像変換手段は、該画像変換手段の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記新たに創造される高域成分の増加量を設定する
画像処理装置。

【請求項5】
入力された第1の画素数からなる第1の画像信号の種類及び/又はそのS/Nに応じて、該第1の画像信号の水平方向の周波数特性を調整する第1の周波数特性調整工程と、
上記第1の周波数特性調整工程にて周波数特性の調整された上記第1の画像信号を、上記第1の画素数よりも多い第2の画素数からなる第2の画像信号に変換し、上記第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換工程と、 最終的な出力の周波数特性が水平方向と垂直方向とで略々同程度となるように、上記第2の画像信号の水平方向及び垂直方向の周波数特性を調整する第2の周波数特性調整工程とを有し、
上記画像変換工程は、 注目している上記第1の画像信号の画素である注目画素を、その注目画素に対応する上記第2の画像信号の性質に応じて、所定のクラスに分類するクラス分類を行うクラス分類工程と、 上記注目画素の予測値を、その注目画素のクラスに対応して予測する予測工程とを有し、 上記画像変換工程では、該画像変換工程での出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記新たに創造される高域成分の増加量を設定する
画像処理方法。

明細書段落【0008】
上述した目的を達成するために、本発明に係る画像処理装置は、入力された第1の画素数からなる第1の画像信号の種類及び/又はそのS/Nに応じて、該第1の画像信号の水平方向の周波数特性を調整する第1の周波数特性調整手段と、上記第1の周波数特性調整手段によって周波数特性の調整された上記第1の画像信号を、上記第1の画素数よりも多い第2の画素数からなる第2の画像信号に変換し、上記第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換手段と、最終的な出力の周波数特性が水平方向と垂直方向とで略々同程度となるように、上記第2の画像信号の水平方向及び垂直方向の周波数特性を調整する第2の周波数特性調整手段とを備え、上記画像変換手段は、注目している上記第1の画像信号の画素である注目画素を、その注目画素に対応する上記第2の画像信号の性質に応じて、所定のクラスに分類するクラス分類を行うクラス分類手段と、上記注目画素の予測値を、その注目画素のクラスに対応して予測する予測手段とを有し、上記画像変換手段は、該画像変換手段の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記新たに創造される高域成分の増加量を設定するものである。
また、本発明に係る画像処理装置は、入力された第1の画素数からなる第1の画像信号の周波数特性を調整する第1の周波数特性調整手段と、上記第1の周波数特性調整手段によって周波数特性の調整された上記第1の画像信号を、上記第1の画素数よりも多い第2の画素数からなる第2の画像信号に変換する画像変換手段と、最終的な出力の周波数特性が水平方向と垂直方向とで略々同程度となるように、上記第2の画像信号の水平方向及び垂直方向の周波数特性を調整する第2の周波数特性調整手段とを備え、上記第1の周波数特性調整手段は、上記画像変換手段の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記第1の画像信号の水平方向の周波数特性を調整するものである。

段落【0009】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係る画像処理方法は、入力された第1の画素数からなる第1の画像信号の種類及び/又はそのS/Nに応じて、該第1の画像信号の水平方向の周波数特性を調整する第1の周波数特性調整工程と、上記第1の周波数特性調整工程にて周波数特性の調整された上記第1の画像信号を、上記第1の画素数よりも多い第2の画素数からなる第2の画像信号に変換し、上記第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換工程と、最終的な出力の周波数特性が水平方向と垂直方向とで略々同程度となるように、上記第2の画像信号の水平方向及び垂直方向の周波数特性を調整する第2の周波数特性調整工程とを有し、上記画像変換工程は、注目している上記第1の画像信号の画素である注目画素を、その注目画素に対応する上記第2の画像信号の性質に応じて、所定のクラスに分類するクラス分類を行うクラス分類工程と、上記注目画素の予測値を、その注目画素のクラスに対応して予測する予測工程とを有し、上記画像変換工程では、該画像変換工程での出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記新たに創造される高域成分の増加量を設定するものである。
また、本発明に係る画像処理方法は、入力された第1の画素数からなる第1の画像信号の周波数特性を調整する第1の周波数特性調整工程と、上記第1の周波数特性調整工程にて周波数特性の調整された上記第1の画像信号を、上記第1の画素数よりも多い第2の画素数からなる第2の画像信号に変換する画像変換工程と、最終的な出力の周波数特性が水平方向と垂直方向とで略々同程度となるように、上記第2の画像信号の水平方向及び垂直方向の周波数特性を調整する第2の周波数特性調整工程とを有し、上記第1の周波数特性調整工程では、上記画像変換工程での出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記第1の画像信号の水平方向の周波数特性を調整するものである。」

2.また、審判請求人は、審判請求書の中で、前記拒絶の理由B.で指摘した事項について、概要、次のとおり主張している。
「C.理由B(特許法第36条)について
上記平成21年6月9日付け拒絶理由通知書の理由Bにおいて指摘された記載不備については、手続補正書により特許請求の範囲の記載を補正することで、不備の解消を図りました。
すなわち、上記手続補正書により、特許請求の範囲の請求項1の記載を補正し、
『上記第1の周波数特性調整手段によって周波数特性の調整された上記第1の画像信号を、上記第1の画素数よりも多い第2の画素数からなる第2の画像信号に変換し、上記第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換手段』との旨を明記すると共に、
『上記画像変換手段は、
注目している上記第1の画像信号の画素である注目画素を、その注目画素に対応する上記第2の画像信号の性質に応じて、所定のクラスに分類するクラス分類を行うクラス分類手段と、
上記注目画素の予測値を、その注目画素のクラスに対応して予測する予測手段とを有し、
上記画像変換手段は、該画像変換手段の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記新たに創造される高域成分の増加量を設定する』
との旨を明記し、記載の明瞭化を図りました。

本願発明に用いられる画像変換手段の具体的構成及び作用につきましては、発明の詳細な説明の欄の段落〔0016〕、〔0020〕?〔0079〕や図面の図1?図8等に詳細に説明しており、段落〔0078〕には、
『ここで、以上説明した画像変換部20における処理は、SD画像と所定の予測係数との線形結合によりHD画像の予測値を求める適応処理を行うことで、SD画像には含まれていない高域成分を復元するものであるため、画像変換部20からの出力信号は、入力信号と比較して高域成分が強調されたものとなる。すなわち、画像変換部20は、高域成分ほど増加した周波数特性を有する。この結果、図8に模式的に示すように、画像変換部20の入力信号が平坦なものであったとしても、画像変換部20からの出力信号は、高域成分ほど強調されたものとなる。』との旨を記載しています。
この『SD画像には含まれていない高域成分を復元する』点につきましては、段落〔0041〕に、
『なお、適応処理は、SD画像には含まれておらずHD画像に含まれている成分が再現される点で、補間処理とは異なる。すなわち、適応処理では、式(1)を見る限りは、いわゆる補間フィルタを用いての補間処理と同一であるが、その補間フィルタのタップ係数に相当する予測係数wが、教師データyを用いての、いわば学習により求められるため、HD画像に含まれる成分を再現することができる。すなわち、容易に高解像度の画像を得ることができる。このことから、適応処理は、いわば画像(の解像度)の創造作用がある処理ということができる。』
との記載や、段落〔0081〕の『画像変換部20により新たに創造された周波数成分には、ランダムなパターンの信号が殆ど含まれていない』、段落〔0082〕の『画像変換部20が創造する高域の周波数領域』との記載等から、本願発明に用いられる画像変換装置は、段落〔0020〕?〔0079〕に記載したような構成を有するいわゆるクラス分類適応予測処理による解像度創造を行うものであることが明らかです。すなわち、本願発明に用いられる画像変換装置は、SD画像と所定の予測係数との線形結合によりHD画像の予測値を求める適応処理を行うことで、SD画像には含まれていない高域成分を創造するものであり、高解像度の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整することにより、任意の高解像度のHD画像に変換することができます。

本願発明が解決しようとする課題につきましては、本願明細書の段落〔0006〕に、
『ところで、この画像変換装置では、解像度軸強度を変えることにより、SD画像を任意の高解像度のHD画像に変換することができる。しかしながら、解像度軸強度を上げすぎると、中域から周波数特性が強調されることにより出力信号にプリシュート/オーバーシュートが発生するため、解像度軸強度を上げる程度は限られていた。また、入力信号に含まれる高域成分が強調されてくることから、S/N(Signal/Noise)の観点からも解像度軸強度を上げる程度は限られていた。』
との旨が記載されています。
また、段落〔0079〕には、段落〔0020〕?〔0079〕や図面の図1?図8等に詳細に記載した画像変換部20を用いる場合に、
『しかしながら、このように高域成分が強調された場合、出力信号のプリシュート/オーバーシュートが目立つと共にS/Nが悪化し、画質の劣化を生じる虞がある。』
との旨を記載しています。
このような問題点を解決するために、本願発明(の画像処理装置1)においては、段落〔0080〕に記載したように、
『画像変換部20における周波数特性を考慮し、その前段の画像処理部11(詳しくは周波数調整回路15)において、その逆特性を示すように、具体的にはLPF(Low-Pass filter)の特性を示すように周波数特性を調整する』ものであり、
『この結果、図9(A)に模式的に示すように、画像処理部11の入力信号が平坦なものであった場合、画像処理部11からの出力信号(画像変換部20の入力信号)は、高域成分ほど減衰したものとなり、画像変換部20からの出力信号は、平坦なもの』
となります。
また、本願発明は、段落〔0085〕に記載したように、
『以上の説明では、画像変換部20の周波数特性の逆特性を示すように、周波数調整回路15の周波数特性を調整するものとしたが、反対に、周波数調整回路15において、例えば入力された映像信号の帯域やS/Nに応じて周波数特性を調整し、画像変換部20において、その調整分だけ解像度軸強度を変化させるように』する構成も含むものです。
従いまして、上記補正を行うことによって、上記拒絶理由通知書の理由Bにおいて指摘された記載不備は解消されたものと思料します。」

第4 当審の判断
本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし5に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かについて、上記拒絶理由で指摘した点(理由Bで指摘した点)に関して検討する。

1.上記手続補正書による特許請求の範囲の請求項1、5に係る発明、明細書の段落【0008】、【0009】の補正は、概要、
画像変換手段(工程)が、
第1の画像信号を第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能なものであり、
注目している上記第1の画像信号の画素である注目画素を、その注目画素に対応する上記第2の画像信号の性質に応じて、所定のクラスに分類するクラス分類を行うクラス分類手段(工程)と、上記注目画素の予測値を、その注目画素のクラスに対応して予測する予測手段(工程)とを有するものであり、
また、画像変換手段(工程)がその増加量を設定する高域成分が、新たに創造されるものであること
を発明の特定事項として加えるものであるが、
上記各事項を請求項1、5に係る発明の特定事項として加えることによっても、前記拒絶の理由Bで指摘した「画像変換手段(工程)の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように新たに創造される高域成分の増加量を設定する」とは、画像変換手段(工程)において、どのようにして画像変換されるときの高域成分の増加量を設定するのか、また、設定された高域成分の増加量を実現するためにどのようにして画像変換を行うのか依然として不明であり、特に、画像変換手段(工程)は「クラス分類手段(工程)」と「予測手段(工程)」を有しているが、それらの手段(工程)の何をどのように設定することによって、「該画像変換手段(工程)の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記新たに創造される高域成分の増加量を設定する」のかが依然として不明であり、また、設定された高域成分の増加量を実現するためにどのようにして前記画像変換手段(工程)で画像変換を行うのか依然として不明であり、発明の詳細な説明は、請求項1ないし5に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

2.また、審判請求書における審判請求人の上記主張は、
本願発明に用いられる画像変換装置は、SD画像と所定の予測係数との線形結合によりHD画像の予測値を求める適応処理を行うことで、SD画像には含まれていない高域成分を創造するものであり、高解像度の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整することにより、任意の高解像度のHD画像に変換することができることや、
本願発明は、周波数調整回路15において、例えば入力された映像信号の帯域やS/Nに応じて周波数特性を調整し、画像変換部20において、その調整分だけ解像度軸強度を変化させるようにする構成も含むものであることを主張するものである。
しかしながら、発明の詳細な説明には、画像変換部20で「その調整分だけ解像度軸強度を変化させる」ために、図2に記載されるようなクラス分類部と適応処理部からなる画像変換部20における何をどのようにするのかが何ら具体的かつ明確に記載されていない。
そうすると、上記の各主張によっても、「画像変換手段(工程)の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように新たに創造される高域成分の増加量を設定する」とは、画像変換手段(工程)において、具体的にどのようにして画像変換されるときの高域成分の増加量を設定するのか、また、設定された高域成分の増加量を実現するためにどのようにして画像変換を行うのか依然として不明であり、発明の詳細な説明は、請求項1ないし5に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

3.さらに、本願の請求項1ないし5に係る発明の特定事項である「上記画像変換手段(工程)は、該画像変換手段(工程)の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記新たに創造される高域成分の増加量を設定する」に関し、本願明細書の発明の詳細な説明には、

(1)「本件出願人は、SD画像を、そこに含まれていない高域成分をも含むHD画像に変換する画像変換装置を先に提案している(例えば下記特許文献1?3参照)。
【特許文献1】特開平7-193789号公報
【特許文献2】特開平11-55630号公報
【特許文献3】特開2000-134586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、この画像変換装置では、解像度軸強度を変えることにより、SD画像を任意の高解像度のHD画像に変換することができる。しかしながら、解像度軸強度を上げすぎると、中域から周波数特性が強調されることにより出力信号にプリシュート/オーバーシュートが発生するため、解像度軸強度を上げる程度は限られていた。また、入力信号に含まれる高域成分が強調されてくることから、S/N(Signal/Noise)の観点からも解像度軸強度を上げる程度は限られていた。」(段落【0004】ないし【0006】)、

(2)「図2は、以上のような適応処理により、SD画像をHD画像に変換する画像変換部の内部構成例を示している。
SD画像は、クラス分類部101及び適応処理部104に供給されるようになされている。クラス分類部101は、クラスタップ生成回路102及びクラス分類回路103で構成され、そこでは、適応処理により予測値を求めようとするHD画素(注目しているHD画素)(以下、適宜「注目画素」という。)が、その注目画素に対応するSD画像の画素の性質に基づいて、所定のクラスにクラス分類される。
すなわち、クラスタップ生成回路102では、注目画素のクラス分類を行うのに用いる。その注目画素に対応するSD画素(以下、適宜「クラスタップ」という。)として、例えば、注目画素に対して所定の位置関係にある複数のSD画素が、クラス分類部101に供給されるSD画像から抽出され、クラス分類回路103に供給される。クラス分類回路103では、クラスタップ生成回路102からのクラスタップを構成するSD画素の画素値のパターン(画素値の分布)が検出され、そのパターンに予め割り当てられた値が、注目画素のクラスとして、適応処理部104に供給される。」(段落【0042】ないし【0044】)とあり、

(3)「このクラスは、適応処理部104における係数ROM(Read Only Memory)107のアドレス端子(AD)に供給される。」(段落【0050】)、

(4)「予測タップ生成回路105では、適応処理部104に供給されるSD画像から、予測演算回路106において注目画素の予測値を求めるのに用いる、その注目画素に対して所定の位置関係にある複数のSD画素が抽出され、これが予測タップとして、予測演算回路106に供給される。」(段落【0057】)、

(5)「そして、予測演算回路106には、予測タップ生成回路105から予測タップが供給される他、係数ROM107から予測係数も供給される。
すなわち、係数ROM107は、予め学習が行われることにより求められた予測係数をクラス毎に記憶しており、クラス分類回路103からクラスが供給されると、そのクラスに対応するアドレスに記憶されている予測係数を読み出し、予測演算回路106に供給する。
これにより、予測演算回路106には、注目画素に対応する予測タップと、その注目画素のクラスについての予測係数とが供給される。そして、予測演算回路106では、係数ROM107からの予測係数w,w2,・・・と、予測タップ生成回路105からの予測タップ(を構成するSD画素)x1,x2,・・・とを用いて、式(1)に示した演算が行われることにより、注目画素(HD画素)yの予測値E[y]が求められ、これがHD画素の画素値として出力される。
以上の処理が、全てのHD画素を注目画素として行われ、これにより、SD画像がHD画像に変換される。なお、クラスタップ生成回路102及び予測タップ生成回路105では、同一のHD画素を注目画素として処理が行われる。」(段落【0062】ないし【0065】)、

(6)「ここで、以上の説明では、画像変換部20の周波数特性の逆特性を示すように、周波数調整回路15の周波数特性を調整するものとしたが、反対に、周波数調整回路15において、例えば入力された映像信号の帯域やS/Nに応じて周波数特性を調整し、画像変換部20において、その調整分だけ解像度軸強度を変化させるようにしても構わない。
例えば、周波数調整回路15では高域成分ほど周波数特性を減衰させるが、入力された映像信号のうち、帯域が狭く高域成分の情報量が少ない映像信号ほど、周波数特性を減衰させることによる弊害が少ないと考えられる。そこで、本実施の形態におけるマイクロコンピュータ28は、入力された映像信号の種類に基づき、1)S信号及びYUV信号、2)CVBS信号、3)RF信号、の順に、周波数調整回路15における周波数特性の減衰量を大きくするように制御する。具体的には、例えば帯域の広いS信号及びYUV信号は2dB程度、CVBS信号は2?3dB程度、帯域の狭いRF信号は6dB程度、それぞれ減衰させる。このとき、画像変換部20では、この周波数特性の減衰分だけ解像度軸強度を上げる。
また、上述の通り、周波数調整回路15で高域成分の減衰量を大きくし、画像変換部20で解像度軸強度を上げることで、映像信号のS/Nを改善することができるため、入力された映像信号のS/Nが悪い場合には、周波数調整回路15における周波数特性の減衰量を大きくし、且つ画像変換部20における解像度軸強度を上げることが有効であると考えられる。そこで、本実施の形態におけるS/N検出回路17は、セレクタ14から供給されたY信号のS/Nを検出し、この検出結果をマイクロコンピュータ28に供給する。マイクロコンピュータ28は、このS/Nの検出結果に応じて周波数調整回路15における周波数特性の減衰量を調節する。例えば、RF信号は、S/Nが悪いことが多いが、このように周波数調整回路15における周波数特性の減衰量を大きくし、画像変換部20における解像度軸強度を上げることで、S/Nを大幅に改善することが可能である。」(段落【0085】ないし【0087】)と記載されている。

上記記載(6)において、画像変換部20では「その調整分だけ解像度軸強度を変化させる」、「この周波数特性の減衰分だけ解像度軸強度を上げる」とあるが、画像変換部20で「その調整分だけ解像度軸強度を変化させる」または「この周波数特性の減衰分だけ解像度軸強度を上げる」ために、上記記載(2)ないし(5)、図2に記載されるような、クラスタップ生成回路、クラス分類回路からなるクラス分類部と、予測タップ生成回路、係数ROM、予測演算回路からなる適応処理部で構成される画像変換部20における何をどのようにするのかが何ら具体的かつ明確に記載されていない。
そうすると、クラスタップ生成回路、クラス分類回路からなるクラス分類部と、予測タップ生成回路、係数ROM、予測演算回路からなる適応処理部で構成される画像変換部のいかなる構成部をどのように設定することにより、画像変換部において、周波数調整回路で調整された周波数特性の調整分だけ解像度軸強度を変化させるのか、すなわち、「画像変換手段(工程)の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように新たに創造される高域成分の増加量を設定する」のかが全く不明であり、発明の詳細な説明は、請求項1ないし5に係る発明の上記特定事項について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

4.また、審判請求人は、平成23年12月8日付けの回答書の中で、概要、以下のような主張をしているので検討する。
「本願発明の画像変換手段は、例えばSD(Standard Definition)画像のような第1の画素数からなる第1の画像信号を、第1の画素数よりも多い第2の画素数からなる例えばHD(High Definition)画像のような第2の画像信号に変換するものですが、通常の補間処理や輪郭強調とは異なり、SD画像とHD画像との相関特性を利用してデジタルマッピング処理を行うことにより、元のSD画像には含まれないHD画像の成分を創造するものです。この新たに高域成分を創造あるいは復元する技術については、本願明細書の段落〔0005〕の特許文献1?3や、段落〔0016〕、〔0020〕?〔0078〕等に記載されており、請求項1にも、画像変換手段の構成として、注目している第1の画像信号の画素である注目画素を、その注目画素に対応する第2の画像信号の性質に応じて、所定のクラスに分類するクラス分類を行い、注目画素の予測値を、その注目画素のクラスに対応して予測する、との旨を記載しています。このように、SD画像をそこに含まれていない高域成分をも含むHD画像に変換する技術は、ソニー株式会社が1997年に開発したDRC(Digital Reality Creation:ソニー社商標)技術とも称されるものです。さらに、本願発明に用いられる画像変換手段は、第1の画素数から第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能なものです。この第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換装置につきましては、1998年開発のDRC-MF(Digital Reality Creation-Multi Function:ソニー社商標)技術を用いた装置あるいはLSIとして、本願発明の出願時点において入手可能なものです。また2001年4月には、映像入力信号や映像表示デバイスなどの使用環境に応じて画質(精細度やノイズ抑制)をコントロールし好みの映像を創造することができるDRC-MF v1の技術が開発され、本願発明の出願時点において、このDRC-MF v1の技術を用いた製品やLSIが市場に供給されており、入手可能なものです。
本願発明は、このような新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換手段自体を要旨とするものではなく、発明を構成する一つの構成要素である画像変換手段として用いているにすぎません。すなわち、発明の構成要素である画像変換手段としては、既に市場に供給されて入手可能な上記DRC-MF v1等の装置やLSIを用いることができ、このような画像変換手段と、第1の周波数特性調整手段と、第2の周波数特性調整手段とを有機的に結合することにより、顕著な効果を実現するものです。
以上述べましたように、本願発明は、新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換手段そのものを要旨とするものではなく、第1の周波数特性調整手段と、画像変換手段と、第2の周波数特性調整手段とからなる構成を特徴とするものであり、補正後の特許請求の範囲の記載は、この点について、明細書等に記載された内容と矛盾するものではなく、また、発明の詳細な説明には各請求項の発明を当業者が実施できる程度に記載されているものと思料します。」

上記審判請求人の主張は、
本願発明に用いられる画像変換手段は、第1の画素数から第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能なものであること、
本願発明に用いられる画像変換手段は、第1の画素数から第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能なものであり、この第2の画素数に変換するときに新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換装置については、1998年開発のDRC-MF技術を用いた装置あるいはLSIとして、本願発明の出願時点において入手可能なものであること、また2001年4月には、映像入力信号や映像表示デバイスなどの使用環境に応じて画質(精細度やノイズ抑制)をコントロールし好みの映像を創造することができるDRC-MF v1の技術が開発され、本願発明の出願時点において、このDRC-MF v1の技術を用いた製品やLSIが市場に供給されており、入手可能なものであったこと、
本願発明は、このような新たに創造される高域成分の増加量を調整可能な画像変換手段自体を要旨とするものではなく、発明を構成する一つの構成要素である画像変換手段として用いているにすぎないものであることを主張するものである。
しかしながら、発明の詳細な説明には、画像変換手段として、上記「上記DRC-MF技術を用いたLSI」や「DRC-MF v1のLSI」を用いることは記載も示唆もされていないし、さらに、「解像度軸強度を変える」ことや「解像度軸強度を上げる」ことが、上記「DRC-MF」や「DRC-MF v1」技術において「解像度軸の強度を調整する」ことや「解像度軸の強度を上げる」ことを意味することも、発明の詳細な説明には何ら記載も示唆もされていないから、出願人の上記主張を採用することはできない。
そして、発明の詳細な説明には、画像変換手段の具体的構成として、図2に記載のようなクラス分類手段101と適応処理部104を用いた具体例しか記載がなく、当該図2や明細書の段落【0042】?【0065】の記載、さらには、その他の明細書の記載をみても、いったいどのようにして第2の画素数に変換されるときの高域成分の増加量を設定するのかや、設定された高域成分の増加量を実現するために、いったいどのようにして画像変換を行うのかについて、何ら具体的に記載されていない。すなわち、発明の詳細な説明には、「このとき、画像変換部20では、この周波数特性の減衰分だけ解像度軸強度を上げる。」(段落【0086】)としか記載されておらず、「この周波数特性の減衰分だけ解像度軸強度を上げる」ために、図2に記載のような画像変換部20における何をどのようにするのかが何ら具体的かつ明確に記載されていない。
よって、上記各主張によっても、本願の発明の詳細な説明には、当業者が、請求項1ないし5に係る発明の特定事項である「画像変換手段は、該画像変換手段の出力段階における水平方向の周波数特性が略々平坦となるように上記新たに創造される高域成分の増加量を設定する」に関し、その実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載があるものとは認められない。

5.まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし5に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

第5 むすび
したがって、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-26 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願2003-322064(P2003-322064)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國分 直樹  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 乾 雅浩
小池 正彦
発明の名称 画像処理装置及び方法  
代理人 藤井 稔也  
代理人 野口 信博  
代理人 小池 晃  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 祐成 篤哉  

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