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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02N
管理番号 1254523
審判番号 不服2011-780  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-13 
確定日 2012-03-29 
事件の表示 特願2006-136058「エンジン始動用蓄電池の劣化判別方法および劣化判別装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月29日出願公開、特開2007-309100〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成18年5月16日の出願であって、平成22年4月30日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年6月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、平成22年6月24日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
エンジン始動用セルモータに電力を供給するエンジン始動用蓄電池の劣化判別方法であり、
セルモータ駆動前の蓄電池電圧V0を計測し、
セルモータ駆動時に発生する蓄電池電圧脈動において、
セルモータ起動直後における電圧ボトム値のうちn回目(n≧2)の電圧ボトム値VSnを計測し、
前記V0と前記VSnを比較して前記蓄電池の劣化を判別するエンジン始動用蓄電池の劣化判別方法。」

3.引用刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶理由において引用された刊行物である特開2002-122060号公報(以下、「刊行物」という。)には、例えば、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0009】また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、バッテリから供給される電力によって始動する内燃機関本体と、前記内燃機関本体の少なくとも始動前に前記バッテリから供給される電力によって作動する始動準備装置とを備える内燃機関の制御装置において、前記始動準備装置を作動させた後、前記内燃機関本体を始動させ、この始動時における前記バッテリの電圧変化及び前記内燃機関の機関温度を検出し、検出された値が所定条件を満たした場合には前記始動準備装置を停止させることを特徴とする。」(段落【0009】)

(イ)「【0010】本発明では、バッテリの電圧変化及び内燃機関の機関温度からバッテリ状態を検出するため、バッテリの劣化状態を判定することができる。バッテリが劣化していると判断される場合、内燃機関本体の始動及び始動準備装置の作動双方の電力消費が行われる場合には、始動前のバッテリ電圧が規定値以上であっても、始動準備装置を停止させるので、内燃機関本体の始動を向上させることができる。」(段落【0010】)

(ウ)「【0013】図1は、内燃機関の制御装置を搭載した車両のシステム構成図である。この車両は、車体BDY内に内燃機関EGNを搭載している。
【0014】内燃機関EGNは、バッテリBから供給される電力によって始動する内燃機関本体と、内燃機関本体の少なくとも始動前にバッテリBから供給される電力によって作動する始動準備装置とを備えている。
【0015】内燃機関本体は、複数気筒のシリンダを含むシリンダブロックCB、シリンダブロックCB内に空気及び燃料を供給すると共に燃焼後の排気ガスを排気するシリンダヘッドCH、上記シリンダの直線往復運動を回転運動に変換するクランクシャフトCS、始動時にクランクシャフトCSを回転させるスタータモータMを備えている。」(段落【0013】ないし【0015】)

(エ)「【0035】また、バッテリ状態の検出に、バッテリ電圧Vの降下幅(変化量)ΔVを用いることもできる。
【0036】図5は、バッテリ電圧Vの時間依存性を示すグラフである。本例においても、ヒータHへの通電を開始し、続いて、スタータモータMを回転させ、バッテリ状態が正常である場合には、ヒータHへの通電を持続し、劣化している場合にはヒータHへの通電を禁止する。
【0037】バッテリ状態が正常であるかどうかは、時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な時刻におけるバッテリ電圧の初期値(12V)からの変化量ΔV、又は上記期間内の適当な微小期間におけるバッテリ電圧の初期値からの変化量ΔVの時間平均値と、水温(内燃機関の温度)S_(T)に基づく。なお、瞬間値も時間平均値もバッテリ電圧の変化量ΔVであることには変わりないので、説明では、これらを総称してバッテリ電圧の変化量ΔVと呼称する。
【0038】図6は、バッテリ電圧変化量ΔVと水温S_(T)との関係を示すグラフである。バッテリ電圧変化量ΔVと水温S_(T)との関係が斜線領域R(劣化)内に位置する場合、バッテリは劣化している。換言すれば、検出された変化量ΔVが、水温S_(T)から一意的に決定される閾値THよりも大きな変化量ΔVである場合、バッテリは劣化している。逆に、変化量ΔVと水温S_(T)との関係が領域R(正常)内に位置する場合、バッテリ状態は正常である。換言すれば、検出された変化量ΔVが、水温S_(T)から一意的に決定される閾値TH以下の変化量ΔVである場合、バッテリ状態は正常である。」(段落【0035】ないし【0038】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(エ)及び図面の記載からみて、次のことが分かる。

(オ)上記(ア)ないし(エ)及び図面の記載から、刊行物には、スタータモータMに電力を供給する内燃機関始動用バッテリの劣化状態を判定する方法が記載されていることが分かる。

(カ)上記(エ)及び図5の記載から、スタータモータM回転前のバッテリ電圧の初期値を計測しているといえる。

(キ)上記(エ)及び図5の記載から、スタータモータM回転時にバッテリ電圧脈動が発生していることが分かり、該バッテリ電圧脈動が発生している期間を含むスタータモータM起動直後における時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な時刻にバッテリ電圧を計測しているといえる。

(ク)上記(エ)及び図5の記載から、バッテリ電圧の初期値と時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な微小期間に計測したバッテリ電圧を比較してバッテリの劣化状態を判定しているといえる。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

「スタータモータMに電力を供給する内燃機関始動用バッテリの劣化状態を判定する方法であり、
スタータモータM回転前のバッテリ電圧の初期値を計測し、
スタータモータM回転時のバッテリ電圧脈動が発生している期間を含むスタータモータM起動直後における時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な微小期間にバッテリ電圧を計測し、
前記バッテリ電圧の初期値と前記時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な微小期間に計測したバッテリ電圧を比較して前記バッテリの劣化を判定する内燃機関始動用バッテリの劣化状態を判定する方法。」

4.対比・判断
本願発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、その構造または技術的意義からみて、刊行物に記載された発明における「スタータモータM」は、本願発明における「エンジン始動用セルモータ」及び「セルモータ」に相当し、以下同様に、「内燃機関始動用バッテリ」は「エンジン始動用蓄電池」に、「劣化状態を判定する方法」は「劣化判別方法」に、「回転」は「駆動」に、「バッテリ電圧」は「蓄電池電圧」に、「バッテリ電圧の初期値」は「蓄電池電圧V0」に、「判定」は「判別」に、それぞれ相当する。

また、刊行物に記載された発明における「スタータモータM回転時のバッテリ電圧脈動が発生している期間を含むスタータモータM起動直後における時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な微小期間にバッテリ電圧を計測し、前記バッテリ電圧の初期値と前記時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な微小期間に計測したバッテリ電圧を比較して」は、本願発明における「セルモータ駆動時に発生する蓄電池電圧脈動において、セルモータ起動直後における電圧ボトム値のうちn回目(n≧2)の電圧ボトム値VSnを計測し、前記V0と前記VSnを比較して」に、「セルモータ起動直後における蓄電池電圧を計測し、前記V0と前記セルモータ起動直後における蓄電池電圧を比較して」という限りにおいて相当する。

したがって、本願発明と刊行物に記載された発明とは、
「エンジン始動用セルモータに電力を供給するエンジン始動用蓄電池の劣化判別方法であり、
セルモータ駆動前の蓄電池電圧V0を計測し、
セルモータ起動直後における蓄電池電圧を計測し、前記V0と前記セルモータ起動直後における蓄電池電圧を比較して前記蓄電池の劣化を判別するエンジン始動用蓄電池の劣化判別方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
セルモータ起動直後における蓄電池電圧を計測し、前記V0と前記セルモータ起動直後における蓄電池電圧を比較することに関し、本願発明では、「セルモータ駆動時に発生する蓄電池電圧脈動において、セルモータ起動直後における電圧ボトム値のうちn回目(n≧2)の電圧ボトム値VSnを計測し、前記V0と前記VSnを比較」するのに対し、刊行物に記載された発明では、「スタータモータM回転時のバッテリ電圧脈動が発生している期間を含むスタータモータM起動直後における時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な微小期間にバッテリ電圧を計測し、前記バッテリ電圧の初期値と前記時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な微小期間に計測したバッテリ電圧を比較して」する点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について判断する。
エンジン始動用蓄電池の劣化判別方法において、セルモータ起動直後における電圧を計測し、セルモータ駆動前の蓄電池電圧V0と前記セルモータ起動直後におけるバッテリ電圧を比較して劣化を判別する際、セルモータの起動時から所定時間経過後(起動した瞬間の電圧が急激に落ち込む期間が経過した後)の蓄電池脈動が発生している期間における電圧を計測し、この電圧と前記V0とを比較することは、本件出願前において周知の技術(例えば、特開2004-132899号公報〔特に、段落【0030】及び図6〕及び特開昭52-88736号公報〔特に、第2ページ右上欄第4ないし14行及び第3図〕参照。以下、「周知技術」という。)である。
また、エンジン始動用蓄電池の劣化判別方法において、セルモータ駆動前の蓄電池電圧V0と電圧ボトム値を比較することは、本件出願前において、周知の技術事項(例えば、特開2003-214248号公報〔特に、段落【0042】及び【0043】並びに図11〕及び特開2006-8038号公報参照。以下、「周知の技術事項」という。)であるといえるので、セルモータ駆動前の蓄電圧V0と比較するバッテリ電圧として、電圧ボトム値を採用することは、当業者が適宜選択し得る設計的事項である。
そうすると、刊行物に記載された発明において、周知技術を適用する際、周知の技術事項を考慮すれば、スタータモータM回転時のバッテリ電圧脈動が発生している期間を含むスタータモータM起動直後における時刻t_(M(ON))から時刻t_(M(OFF))までの期間内の適当な微小期間として、バッテリ電圧脈動が発生している期間における任意の電圧ボトム値を計測し、この電圧ボトム値とバッテリ電圧の初期値を比較してバッテリの劣化を判定するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

また、本願発明の効果も、刊行物に記載された発明並びに周知技術及び周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明並びに周知技術及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明並びに周知技術及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-24 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願2006-136058(P2006-136058)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 安井 寿儀
金澤 俊郎
発明の名称 エンジン始動用蓄電池の劣化判別方法および劣化判別装置  
代理人 永野 大介  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 藤井 兼太郎  

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