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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1254626
審判番号 不服2008-19903  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-05 
確定日 2012-03-28 
事件の表示 平成10年特許願第540692号「呼吸欠損細胞におけるポリペプチド合成法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月24日国際公開、WO98/41640、平成14年 4月 9日国内公表、特表2002-510965〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、1998年3月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年3月17日、米国)を国際出願日とする出願であって、当審において平成23年6月20日付で拒絶の理由が通知され、平成23年9月21日付手続補正書で特許請求の範囲について補正がなされると共に意見書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成23年9月21日付手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される、以下のとおりのものである。

「ポリペプチド製造法であって:
(a)5-アミノレブリン酸シンターゼが欠損しているアスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌の呼吸欠損変異体の細胞に、5-アミノレブリン酸シンターゼをコードする第1の核酸配列及び前記ポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含む核酸構築物を導入し、これにより、前記第1の核酸配列の発現により前記の呼吸欠損が補完され;
(b)前記核酸構築物が導入されたアスペルギルス(Aspergillus)属を培養し;そして
(c)前記アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌の培養物から前記ポリペプチドを採取する;
工程を含んで成る方法。」


第2 引用例
1.当審による拒絶の理由で引用された、本願優先日前の1990年2月20日に頒布された刊行物である米国特許第4902620号明細書(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)
「本発明は、組換えDNAを含有するホスト細胞を維持し選択するための新規な方法である。ここで、選択可能な表現型をコードするDNAと、有用なペプチドをコードするDNAとは、同じものである。前述のDNAは、酵母及び関連生物種においてδアミノレブリン酸を最終的に発現するための、δアミノレブリン酸シンターゼ(ALAS)を発現するのに有用である。本発明は、関連する組換えDNA、クローニングベクター及び遺伝子組換え体を包含する。」(1欄6?15行)

(1-2)
「ALAは、市販され利用可能となっている培地中には通常存在していない。それゆえ、ALAS遺伝子を有するベクターをALAが欠損した酵母細胞に挿入することは、成長培地を操作することなくホスト細胞を選択し維持する効果的な手段である。このベクターを失ったホスト細胞は、標準酵母培地では成長することができなくなり、培地から消滅する。」(2欄6?14行)

(1-3)
「ベクターを維持し選択する本方法は、広く応用が利くものであり、ALAのみをコードするベクターに限定されない。本方法は、任意の機能を有するポリペプチド、例えば、ヒトプレインシュリン・・・ヒト酵素、ヒトホルモン及び、研究や商業上の価値のある実質的にあらゆるポリペプチドやタンパク質などの発現も付加的にコードするベクターにも適用され得る。
本方法及びプラスミドはほとんどすべての標準酵母株において利用可能であるが、ALA欠損株は特に有利である。」(5欄60行?6欄7行)

(1-4)
EXAMPLE10には、EXAMPLE7の手法に基づいて、ALA欠損酵母変異体が構築されたことが記載されている(12欄)。

以上のことから、引用例1には、5-アミノレブリン酸シンターゼ(「δアミノレブリン酸シンターゼ」と同義である。)を欠損している酵母の変異体が構築されたこと、及び、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子を有するベクターを当該酵母変異体に導入することによって、標準培地で成長できるようになるものの、当該ベクターが導入されなければ成長できないものであることが記載されていると認められる。
また、一般に、ホスト細胞である酵母に、目的とするポリペプチドをコードする遺伝子とともに選択マーカーを有する核酸構築物を導入することによって、目的とするポリペプチドを生産することができることは、本願優先日前の当業者に周知の技術的事項であったといえ(上記記載事項(1-3)参照。)、かつ、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子が選択マーカーとなり得ることも引用例1の記載から理解することができるから、引用例1には、上記酵母変異体をホスト細胞とし、目的とするポリペプチドをコードする外来遺伝子とともに5-アミノレブリン酸シンターゼをコードする遺伝子を選択マーカーとする核酸構築物を導入し、該マーカーにより選択された当該酵母変異体の培養物から目的とするポリペプチドを採取する、ポリペプチドの製造方法も記載されていると認められる。
2.当審による拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、Curr Genet, 1993, Vol.23, p.501-507(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-1)
「5アミノレブリン酸(ALA)シンターゼの構成遺伝子は、多くの生物種に存在するALAシンターゼ遺伝子において見いだされる高度に保存されたアミノ酸配列に基づくオリゴヌクレオチドプローブを用いて、糸状菌アスペルギルス・ニデュランスからクローン化され配列決定された。このクローン化された遺伝子であるhemAは、5’に転写されないmRNAである92ヌクレオチド(nt)と1つのイントロン(64nt)を有している。推定アミノ酸配列(648アミノ酸)は、C末端453アミノ酸において酵母ALAシンターゼと64%の同一性を示す。」(501頁左欄要約、1?10行)

(2-2)
「その酸化還元能力のため、鉄を含むポルフィリンヘムは、真核生物の代謝において、中心的な役割を果たしている。ヘムは、呼吸関連のシトクロム及びヘモグロビンの重要な構成要素であることに加えて、例えば、酸素ラジカルの解毒や脂肪酸及びステロールの代謝に関係する酵素など、多くの酵素の補欠分子族である。ヘムは、制御分子としても機能し、転写、翻訳、タンパク質安定性、輸送及び様々な細胞機能の集合などで、様々なレベルで存在する(・・・)。」(501頁左欄「Introduction」の項、1?右欄1行)

(2-3)
「菌類において、ヘムの合成の第1段階は、5-アミノレブリン酸(ALA)を生成するためのグリシンとスクシニルcoAの縮合反応を含み、反応はミトコンドリアにおいて5-アミノレブリン酸シンターゼ(・・・)により触媒される。」(501頁右欄18?22行)

(2-4)
「酸素圧、炭素現及び熱ショックにおける変動に応じてhemA遺伝子の転写制御が一見して欠失することは驚くことではない。この遺伝子は偏性好気性菌であるアスペルギルス属において必須のようであり、それゆえ、恒常的に発現しているようである。」(506頁右欄17?22行)

(2-5)
引用例2のFig.2及び3には、アスペルギルス・ニデュランスのhemA遺伝子及びそれがコードするタンパク質のアミノ酸配列が記載されている。

3.当審による拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、Curr Genet, 1992, Vol.21, p. 447-453(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(3-1)
「遺伝的欠陥の補完に基づいた形質転換計画された実験プログラムにおいて、因子を組み合わせることにより、最初の形質転換効率は40倍に改善された。この形質転換率は、低いものではあるが、遺伝子置換実験において尿酸レダクターゼをコードする遺伝子(uaZ)が破壊された形質転換体を得るのには十分であった。これら新しいuaZ-株は唯一の窒素源として尿酸を利用することができず、尿酸レダクターゼ発現ベクターを用いた第2の形質転換実験により、野生型表現形に直接復帰した。」(要約)

(3-2)
450頁右欄1行?452頁左欄14行は、「uaZ遺伝子座のインビボ破壊」という項であり、遺伝子ターゲティングにより尿酸レダクターゼをコードする遺伝子を破壊する方法として、niaDをuaZに挿入することが記載されている。

(3-3)
「ほとんどの子嚢菌に関する遺伝学研究は、N.crassa及びA.nidulansに集中していた。これらの2つの種は、組換えDNA技術の最初の開発にも使用され、続いて産業上興味のある他の菌類に首尾よく適用された(・・・)。A.flavusは、分子アプローチが行われた菌株のより最近の例の1つである。」(452頁左欄16?23行)


第3 対比・判断
1.対比
本願発明1と、引用例1に記載された事項とを対比すると、両者は、
「ポリペプチド製造法であって:
(a)5-アミノレブリン酸シンターゼが欠損している真核生物の変異体の細胞に、5-アミノレブリン酸シンターゼをコードする第1の核酸配列及び前記ポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含む核酸構築物を導入し;
(b)前記核酸構築物が導入された真核生物を培養し;そして
(c)前記真核生物の培養物から前記ポリペプチドを採取する;
工程を含んで成る方法。」である点で一致し、
上記5-アミノレブリン酸シンターゼが欠損している真核生物の変異体が、前者では「アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌の呼吸欠損変異体」であって、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子の導入により、「呼吸欠損が補完される」ものであるのに対し、後者では、「標準培地では成長できない酵母の変異体」であって、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子の導入により、「標準培地で成長できる」ようになる点(以下、「相違点」という。)で相違する。

2.当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例3に記載されるように、アスペルギルス属糸状菌は目的タンパク質を工業的に製造するためのホスト細胞としてよく使用されているものであるから(上記記載事項(3-3)参照。)、様々な微生物を用いて外来タンパク質を製造しようとする当業者であれば、引用例1のポリペプチド製造法においてホスト細胞として用いている酵母に代えて、アスペルギルス属糸状菌を採用することに容易に発想することである。

ここで、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子は多くの生物種において存在するものであって(引用例2の記載事項(2-1)参照。)、5-アミノレブリン酸シンターゼは真核生物において、呼吸関連のシトクロム及びヘモグロビンの重要な構成要素であり、かつ他にも様々な機能に関連するヘムの生合成の第一段階を触媒する酵素であること(引用例2の記載事項(2-2)及び(2-3)参照。)及び、呼吸がミトコンドリアを有する真核生物のエネルギー生産のために必須の営みであることを考慮すると、偏性好気性の真核生物であるアスペルギルス属糸状菌にとって、5-アミノレブリン酸シンターゼは生存に必須の酵素であることは、当業者が容易に予想することである。そして、引用例2にも、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子が偏性好気性のアスペルギルス属の微生物にとって必須であることが示唆されているのであるから(上記記載事項(2-4)参照。)、当業者であれば、アスペルギルス属糸状菌にとって、呼吸に関連する5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子の欠損は、無酸素下におけると同様に、呼吸欠損により増殖力が欠損するか致死的となるものであり、そして、このような呼吸欠損変異体に当該遺伝子を導入すれば選択的増殖が生ずる程度まで救済されることは理解できることであって、引用例1に記載の酵母の場合と同様に、アスペルギルス属糸状菌においても、5-アミノレブリン酸シンターゼの遺伝子が選択マーカーとして機能し得ることは、当業者が容易に想到することである。
そして、「5-アミノレブリン酸シンターゼが欠損しているアスペルギルス属糸状菌の呼吸欠損変異体」を得るために、引用例2に記載の既にクローニングされた5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子(上記記載事項(2-5)参照。)に対して、引用例3に記載された手法(上記記載事項(3-2)参照。)を適用し、アスペルギルス属糸状菌の5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子を破壊することは、当業者ならば容易になし得たことである。
以上のことから、引用例1に記載の「標準培地では成長できない酵母の変異体」に代えて、「アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌の呼吸欠損変異体」を採用し、5-アミノレブリン酸シンターゼをコードする核酸配列を含む核酸構築物を導入することによって「呼吸欠損が補完」されるようにすることは、当業者が引用例1?3に基づいて容易に想到し得たことである。

そして、本願明細書の記載をみても、本願発明1が従来技術からは予期できない格別な効果を奏するものとも認められない。

3.請求人の主張
請求人は平成23年9月21日付意見書において、下記の点を主張する。
(1)引用例2の506頁右欄第17?22行の記載における、「The product of this gene is likely to be essential in the obligate aerobe Aaspergillus, and therefore, also likely to be expressed constitutively.」(この遺伝子は偏性好気性菌であるアスペルギルス属において必須であるようであり、それゆえ、構成的に発現しているようである。)は、実験の結果ではなく、著者の仮定であって、引用例2には、5-アミノレブリン酸シンターゼの存在がアスペルギルス属微生物の生存のために必須であり、当該酵素の欠失はアスペルギルス属微生物に対して致死的であることは示されていない。
(2)平成20年11月6日付審判理由補充書において、参考資料3?7に基づいて説明したとおり、ある微生物において、「致死的である」遺伝子が他の微生物においては「致死的ではない」という現象は微生物界において広く知られている現象であるから、引用例1に記載されている酵母に関する手法を糸状菌に適用することを動機付けるものはない。
(3)実験1及び2の結果によれば、本願発明の方法により、目的とするポリペプチドを製造することができるものである。

以下、上記主張について検討する。
主張(1)について
請求人の指摘する引用例2の記載は、著者の見解を示したものかもしれないが、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子がアスペルギルス属糸状菌において、生存に必須であることを示唆する記載である以上、当該記載に接した当業者であれば、引用例1の酵母と同様に、アスペルギルス属糸状菌においても、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子は必須であって、この遺伝子の欠損は致死的であることは、当業者が容易に想到することである。
また、引用例2には、この記載以外にも、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子は多くの生物種において存在すること、及び、5-アミノレブリン酸シンターゼは真核生物において、呼吸をはじめ様々な機能に関連するヘムの生合成の第一段階を触媒する酵素であることが記載されていることを考慮すれば、偏性好気性真核生物であるアスペルギルス属糸状菌において、5-アミノレブリン酸シンターゼは、生存のために必須であることは、当業者であれば容易に想到し得ることは、上記2.で述べたとおりである。

主張(2)について
平成20年11月6日付審判理由補充書において提示された参考資料3?7に記載された酵素はいずれも5-アミノレブリン酸シンターゼとは異なる酵素であって、その機能が異なるものであるから、これらの例があるからといって、5-アミノレブリン酸シンターゼは酵母で致死的であっても、アスペルギルス属糸状菌では、そうではない根拠にはならない。
そして、そもそも、引用例2には、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子は多くの生物種において存在するものであって、5-アミノレブリン酸シンターゼは真核生物において、呼吸をはじめ様々な機能に関連するヘムの生合成の第一段階を触媒する酵素であることが記載されており、5-アミノレブリン酸シンターゼ遺伝子がアスペルギルス属の微生物にとって必須であることが示唆されているのであるから、アスペルギルス属糸状菌において、5-アミノレブリン酸シンターゼは、生存のために必須であって、これを選択マーカーとして用いることは当業者が容易に想到し得ることは、上記2.で述べたとおりである。

主張(3)について
実験1及び2は、単に、本願発明の方法により、目的とするタンパク質を製造することができたことを示したものであり、このような結果は引用例1?3の記載から当業者が予測し得る範囲のことであって、格別顕著なものとは認められない。


第4 むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-31 
結審通知日 2011-11-01 
審決日 2011-11-14 
出願番号 特願平10-540692
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 明日香  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 冨永 みどり
平田 和男
発明の名称 呼吸欠損細胞におけるポリペプチド合成法  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 中村 和広  
代理人 中村 和広  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  

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