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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1254641
審判番号 不服2011-7165  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-05 
確定日 2012-03-30 
事件の表示 特願2005-176880「パッキン材料及び該パッキン材料を用いたグランドパッキン」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日出願公開、特開2006-349070〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年6月16日の出願であって、平成22年12月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年4月5日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

第2 平成23年4月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年4月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成23年4月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「略紐状に形成されるパッキン材料であって、
膨張黒鉛製テープと開繊された炭素繊維からなる繊維束で構成される積層体を捩じって形成された捩体と、
該捩体の外周面に対して、該捩体の捩り方向と反対方向に巻回される開繊炭素繊維束と、
前記捩体の外周面に巻回された開繊炭素繊維束の少なくとも外周面を覆うように形成されるフッ化エチレン樹脂層からなり、
前記フッ化エチレン樹脂層が、細幅に形成されたシート状のポリテトラフルオロエチレン製テープを巻回して形成され、
前記ポリテトラフルオロエチレン製テープ内部に独立気泡が形成され、
該独立気泡内部にシリコンオイルが内包される
ことを特徴とするパッキン材料。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「フッ化エチレン樹脂層」について、「前記フッ化エチレン樹脂層が、細幅に形成されたシート状のポリテトラフルオロエチレン製テープを巻回して形成され、前記ポリテトラフルオロエチレン製テープ内部に独立気泡が形成され、該独立気泡内部にシリコンオイルが内包される」との限定を付加したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-232806号公報(以下、「引用例1」という。)には、「パッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキン」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【発明の属する技術分野】
本発明は、パッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキンに関し、より詳しくは、常温下、低圧下で使用される場合はもちろん、高温下、高圧下で使用されても十分な耐久性を維持することができ、いずれの場合も高い潤滑性を長期に渡って維持することができ、ひいてはバルブ用、ポンプ用のいずれにも対応することができ、更に、スタフィングボックスに詰め込む全てのグランドパッキンを一種で済ますことができるグランドパッキン、及びその材料に関する。」(段落【0001】)
イ 「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、常温下、低圧下で使用される場合はもちろん、高温下、高圧下で使用されても十分な耐久性を維持することができ、いずれの場合も高い潤滑性を長期に渡って維持することができ、更に、スタフィングボックスに詰め込む全てのグランドパッキンを一種で済ますことができるグランドパッキン、及びその材料の提供を目的とする。」(段落【0005】)
ウ 「【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、平繊された帯状の炭素繊維束の片面若しくは両面に膨張黒鉛テープを積層一体化してなる第1の積層テープを捩じって糸状体とし、複数の補強繊維或いは補強線材を互いに略平行に配置してなる補強材、又は織物を帯状に裁断してなる補強材の片面或いは両面に膨張黒鉛テープを積層一体化して第2の積層テープとし、この第2の積層テープを前記糸状体の周囲に巻回してなることを特徴とするパッキン材料である。
請求項2記載の発明は、前記第2の積層テープに代えて、平繊された帯状の炭素繊維束の片面若しくは両面に膨張黒鉛テープを積層一体化してなる第3の積層テープを前記糸状体の周囲に巻回してなることを特徴とする請求項1に記載のパッキン材料である。」(段落【0006】)
エ 「第1実施形態に係るパッキン材料(2)(図6参照)は、平繊された帯状の炭素繊維束(7)(図2、3参照)の片面若しくは両面に膨張黒鉛テープ(6)を積層一体化してなる第1の積層テープ(4)を捩じって糸状体(20)とし、複数の補強繊維或いは複数の補強線材(10)(図7参照)を互いに略平行に配置してなる補強材(11)又は織物を帯状に裁断してなる補強材の片面(図7(a)参照)或いは両面(図7(b)参照)に膨張黒鉛テープ(60)を積層一体化して第2の積層テープ(12)(図6、7参照)とし、この第2の積層テープ(12)を前記糸状体(20)の周囲に巻回してなるものである。
図2は、第1の積層テープ(4)を捩じるときの様子を示している。第1の積層テープ(4)は、図3に示す積層シート(5)を帯状に裁断して形成される。積層シート(5)は、膨張黒鉛シート(61)に、平繊された帯状の炭素繊維束(以下、平繊繊維束と称する)(7)を接着剤層(8)を介して積層一体化することにより構成される。接着剤層(8)は、接着剤本来の役目と、補強材の役目とを兼ね備えている。」(段落【0008】、【0009】)
オ 「平繊繊維束(7)は、炭素繊維束などの強化繊維束を元幅から所要の幅に適宜平に拡げた帯状の繊維集合体である。この平繊繊維束(7)は機械的強度に優れており、また、その機械的強度等の諸性質が、-200°C?+600°Cの間で殆ど変化せず、低温特性、高温特性が共に優れている。従って、平繊繊維束(7)は、常温域は勿論のこと、過酷温度環境下においても確実に膨張黒鉛シート(61)を補強することができる。また、平繊繊維束(7)は優れた潤滑性及びシール性を有しているので、これが外側に位置するように糸状体(20)を構成すれば、潤滑性及びシール性に優れたパッキン(1)を得ることができる。また、平繊繊維束(7)は耐食性および耐磨耗性に優れているので、化学プラント等の過酷環境下でも長期間の使用に耐えることができる。」(段落【0018】)
カ 「糸状体(20)は、第1の積層テープ(4)を捩じって糸状にしたものである。第1の積層テープ(4)が平繊繊維束(7)の片面にのみ膨張黒鉛シート(6)を有している場合には、該テープ(4)の捩じり加工において、平繊繊維束(7)が外側に位置するように加工しても、或いは膨張黒鉛シート(61)が外側に位置するように加工してもそのいずれでもよいが、平繊繊維束(7)が内側に位置するように捩れば、パッキンを構成したときに該繊維の一部がパッキンの外面に露出しないようにすることができる。」(段落【0023】)
キ 「第2の積層テープ(12)は、複数の補強繊維或いは複数の補強線材(10)からなる補強材(11)又は織物を帯状に裁断してなる補強材の片面或いは両面に、膨張黒鉛テープ(60)を積層一体化したものである。
第2の積層テープ(12)は、固体潤滑材の役目と補強部材の役目を果たし、また、平繊繊維束の繊維がパッキン材料(2)の表面に髭状にはみ出すのを防止することができる。
因みに、平繊繊維束の繊維がパッキン材料(2)の表面に髭状にはみ出すと、これを加圧成形したグランドパッキンの表面にも髭状繊維がはみ出る。この髭状繊維は、回転軸等の軸部材の早期磨耗の原因となり、ひいてはバルブ等からの流体漏れを引き起こす原因となる。」(段落【0029】)
ク 「第2の積層テープ(12)は、糸状体(20)の外周面に一重若しくは二重に巻回される(図6に示す例では一重)。二重に巻回すれば、潤滑性、シール性を更に向上させることができる。二重にする場合、互いの巻回方向を逆向きとし、相互に交差するように巻回すると、パッキン材料(2)のシール性、耐久性を一層高めることができる。また、互いの巻回方向が逆向きとなるように二重に巻回すると、左回転、右回転のいずれの向きに回転する回転軸に対しても同程度のシール性、耐久性を発揮することができる。」(段落【0033】)
ケ 「次に、本発明の第2実施形態について説明する。図13は、第2実施形態に係るパッキン材料を示す図である。
第2実施形態に係るパッキン材料(2)は、第1実施形態における第2の積層テープ(12)に代えて、平繊された帯状の炭素繊維束(7)の片面若しくは両面に膨張黒鉛テープ(6)を積層一体化してなる第3の積層テープ(21)を、第1実施形態における糸状体(20)の周囲に巻回してなることを特徴とするものである。
糸状体(20)は、第1実施形態の場合と同様のものを使用することができる。第3の積層テープ(21)は、第1の積層テープ(4)と同様のものとすることができる。
第3の積層テープ(21)が帯状の炭素繊維束(7)の片面にのみ膨張黒鉛テープ(6)を有している場合には、帯状の炭素繊維束(7)が内側に位置するように該テープ(21)が巻回されることが好ましい。パッキンを構成したときに炭素繊維束(7)が外面に露出しないようにするためである。」(段落【0041】)
コ 「【発明の効果】
請求項1、2に記載のパッキン材料は、常温下、低圧下で使用される場合はもちろん、高温下、高圧下で使用されても十分な耐久性を維持することができ、いずれの場合も高い潤滑性(低トルク性)を長期に渡って維持することができる。更に、平繊繊維束の髭状繊維がパッキン材料表面に露出するのを防止して軸磨耗の防止を図ることができる。
従って、バルブ用或いはポンプ用のいずれに使用してもそれぞれに必要な機能を十分に発揮することができる。
このパッキン材料は、耐圧力性、耐熱性、潤滑性の全てにおいて高い性能を発揮するから、スタフィングボックスに詰め込む全てのグランドパッキンをこの材料一種で形成することができる。」(段落【0052】)
サ 上記ケの「第3の積層テープ(21)が帯状の炭素繊維束(7)の片面にのみ膨張黒鉛テープ(6)を有している場合には、帯状の炭素繊維束(7)が内側に位置するように該テープ(21)が巻回されることが好ましい。」との記載からみて、平繊された帯状の炭素繊維束(7)の外面だけに膨張黒鉛テープ(6)を積層一体化してなる第3の積層テープ(21)が記載されていると認められる。そして、この第3の積層テープ(21)は、「糸状体(20)の外周面に対して巻回される、平繊された帯状の炭素繊維束(7)と、前記糸状体(20)の外周面に巻回された平繊された帯状の炭素繊維束(7)の外周面を覆うように形成される膨張黒鉛テープ(6)」から構成されているということができる。

これら記載事項を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「糸状に形成されるパッキン材料(2)であって、
膨張黒鉛テープ(6)と平繊された帯状の炭素繊維束(7)で構成される第1の積層テープ(4)を捩じって形成された糸状体(20)と、
該糸状体(20)の外周面に対して巻回される、平繊された帯状の炭素繊維束(7)と、
前記糸状体(20)の外周面に巻回された平繊された帯状の炭素繊維束(7)の外周面を覆うように形成される膨張黒鉛テープ(6)からなるパッキン材料。」

(2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-65441号公報(以下、「引用例2」という。)には、「パッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキン」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
タ 「【発明の属する技術分野】本発明は、パッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキンに関し、より詳しくは、回転軸が高速回転する流体機器の軸封部に高PV値下(回転軸の周速20m/sec以上)で使用されても或いは流体機器の往復摺動部のシールに超高圧下で使用されても、十分な潤滑性、耐久性、及びシール性を有することができ、耐久性、耐圧性、耐熱性、潤滑性(低トルク性等)、耐薬品性、シール性、低公害性、製造コストの低減、等の様々な面において高品質であり、しかも、弁棒等の接触金属を電食させない万能型のパッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキンに関する。」(段落【0001】)
チ 「【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、回転軸が高速回転する流体機器の軸封部に高PV値下(回転軸の周速20m/sec以上)で使用されても或いは流体機器の往復摺動部のシールに超高圧下で使用されても、十分な潤滑性、耐久性、及びシール性を有することができ、耐久性、耐圧性、耐熱性、潤滑性(低トルク性等)、耐薬品性、シール性、低公害性、製造コストの低減、等の様々な面において高品質であり、しかも、弁棒等の接触金属を電食させない万能型のパッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキンの提供を目的とする。」(段落【0003】)
ツ 「【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、炭化繊維糸、炭素繊維糸、アラミド樹脂繊維糸、フェノール樹脂繊維糸、ガラス繊維糸、麻糸、アスベスト繊維糸、開繊された炭素繊維束のうち少なくともいずれか一種を基材とし、この基材を撚ったものの外周面に、ポリテトラフルオロエチレンからなるテープを巻回してなることを特徴とするパッキン材料である。」(段落【0004】)
テ 「第1実施形態に係るパッキン材料(1)は、開繊された帯状の炭素繊維束(以下、開繊繊維束と称する)を基材(2)とし、この基材(2)を撚ったものの外周面に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと称する)からなるテープ(3)を巻回してなるものである。」(段落【0012】)
ト 「PTFEからなるテープ(3)は、固体潤滑材の役目を果たすものである。PTFEは、優れた潤滑性及びシール性を有しているので、潤滑性及びシール性に優れたパッキン材料(1)を得ることができる。更に、PTFEは、耐食性及び耐磨耗性にも優れているので、高圧下のもとで高速回転の軸に強く接触しても、長期間、殆ど磨耗しない。」(段落【0016】)
ナ 「このテープ(3)は、基材(2)を撚ったものの外周面に一重若しくは二重に巻回される(図1に示す例では二重)。二重に巻回すれば、潤滑性、シール性を更に向上させることができる。二重にする場合、互いの巻回方向を逆向きとし、相互に交差するように巻回すると、パッキン材料(1)のシール性、耐久性を一層高めることができる。また、互いの巻回方向が逆向きとなるように二重に巻回すると、左回転、右回転のいずれの向きに回転する回転軸に対しても同程度のシール性、耐久性を発揮することができる。尚、テープ(3)は、少なくとも縁部同士が重なり合うように巻回される。これにより、基材(2)が露出しない。」(段落【0018】)
ニ 「また、テープ(3)は、シリコンオイルを含んだものであることが好ましい。その含有量は特に限定されるものではないが、好ましくはテープ(3)中の成分として3重量%程度とされる。テープ(3)は、PTFE粉末を圧延ロールによって延伸することにより構成することができるが、その粉末状態のときにシリコンオイルを含めることにより、テープ(3)の成形性、成型後の他部材へのなじみ性を高めることができる。
また、テープ(3)は、色分け用の顔料を含むものであることが好ましい。パッキン材料(1)の種類毎に顔料の色を変えることにより、パッキン材料(1)の種類を色によって容易に見分けることができるテープ(3)は、上記した如く、PTFE粉末を圧延ロールによって延伸することにより構成することができるが、できれば延伸した後に焼成し、独立気泡を持ったものとすることが好ましい。焼成過程を経ることにより、高圧に対する耐久性が格段に向上する。」(段落【0019】、【0020】)
ヌ 「このような第1実施形態或いは第2実施形態に係るパッキン材料(1)を編組し、その編組したものを加圧成形することにより、本発明に係るグランドパッキンを得ることができる。編組の形態は特に限定されるものではないが、例えば、一本又は複数本のパッキン材料(1)を編組して丸編紐、角編紐等の編紐や、丸打紐、角打紐等の紐体(図4乃至7参照)を得ることができる。打紐の場合には、四つ打ち、八つ打ち、十六打ち、十八打ち、二十四打ち、三十二打ち等、任意の打ち方が可能である。」(段落【0029】)
ネ 「【発明の効果】請求項1記載の発明は、炭化繊維糸、炭素繊維糸、アラミド樹脂繊維糸、フェノール樹脂繊維糸、ガラス繊維糸、麻糸、アスベスト繊維糸、開繊された炭素繊維束のうち少なくともいずれか一種を基材とし、この基材を撚ったものの外周面に、ポリテトラフルオロエチレンからなるテープを巻回してなることを特徴とするパッキン材料であるから、以下の効果を奏する。すなわち、各種金属からなる回転軸に対し良好ななじみ性を発揮するとともに、耐高温特性、耐高圧特性、耐薬品特性が極めて良好なので、回転軸が高速回転する流体機器の軸封部に高PV値下(回転軸の周速20m/sec以上)で使用されても或いは流体機器の往復摺動部のシールに超高圧下で使用されても、十分な潤滑性、耐久性、及びシール性を有することができ、耐久性、耐圧性、耐熱性、潤滑性(低トルク性等)、耐薬品性、シール性、低公害性、製造コストの低減、等の様々な面において高品質であり、しかも、弁棒等の接触金属を電食させない万能型のパッキン材料とすることができる。」(段落【0032】)

3 対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能又は作用などからみて、後者の「糸状」は前者の「略紐状」に相当し、以下同様に、「パッキン材料(2)」は「パッキン材料」に、「膨張黒鉛テープ(6)」は「膨張黒鉛製テープ」に、「平繊された帯状の炭素繊維束(7)」は「開繊された炭素繊維からなる繊維束」及び「開繊炭素繊維束」に、「第1の積層テープ(4)」は「積層体」に、「糸状体(20)」は「捩体」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「前記糸状体(20)の外周面に巻回された平繊された帯状の炭素繊維束(7)の外周面を覆うように形成される膨張黒鉛テープ(6)」と本願補正発明の「前記捩体の外周面に巻回された開繊炭素繊維束の少なくとも外周面を覆うように形成されるフッ化エチレン樹脂層」とは、どちらも「前記捩体の外周面に巻回された開繊炭素繊維束の少なくとも外周面を覆うように形成される層」である点で共通する。
したがって、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「略紐状に形成されるパッキン材料であって、
膨張黒鉛製テープと開繊された炭素繊維からなる繊維束で構成される積層体を捩じって形成された捩体と、
該捩体の外周面に対して、巻回される開繊炭素繊維束と、
前記捩体の外周面に巻回された開繊炭素繊維束の少なくとも外周面を覆うように形成される層からなるパッキン材料。」

そして、両者は、次の点で相違する(かっこ内は対応する本願補正発明の用語を示す。)。
[相違点1]
本願補正発明は、開繊炭素繊維束が捩体の外周面に対して、「該捩体の捩り方向と反対方向に」巻回されるのに対して、引用発明は、平繊された帯状の炭素繊維束(7)(開繊炭素繊維束)が糸状体(20)(捩体)の外周面に対して、どの方向に巻回されるのか明らかでない点。
[相違点2]
前記捩体の外周面に巻回された開繊炭素繊維束の少なくとも外周面を覆うように形成される層が、本願補正発明においては、「フッ化エチレン樹脂層」であり、「前記フッ化エチレン樹脂層が、細幅に形成されたシート状のポリテトラフルオロエチレン製テープを巻回して形成され、前記ポリテトラフルオロエチレン製テープ内部に独立気泡が形成され、該独立気泡内部にシリコンオイルが内包される 」のに対して、引用発明においては、フッ化エチレン樹脂層ではなく、「膨張黒鉛テープ(6)」である点。

4 判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明は、上記摘記事項イの記載などからみて、シール性や耐久性に優れたパッキン材料を提供することを課題としていることは明らかである。
パッキン材料において、テープを二重に巻回する場合、シール性や耐久性を高めるために、一方のテープに対して他方のテープを逆向きに巻回することは、引用例1(上記摘記事項ク参照)や引用例2(上記摘記事項ナ参照)などに示されるように、当業者にとって従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、パッキン材料のシール性や耐久性を高めるために上記周知技術を適用し、糸状体(20)の外周面に対して、平繊された帯状の炭素繊維束(7)を該糸状体(20)の捩り方向と反対方向に巻回して、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
引用例2には、開繊された帯状の炭素繊維束(開繊炭素繊維束)を基材(2)とし、この基材(2)を撚ったものの外周面に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるテープ(3)を巻回してなるパッキン材料(1)が記載されている(上記摘記事項ツ、テ参照)。即ち、引用例2に記載されたパッキン材料は、「撚った開繊炭素繊維束の外周面を覆うように形成されるフッ化エチレン樹脂層」を有しており、「フッ化エチレン樹脂層が、細幅に形成されたシート状のポリテトラフルオロエチレン製テープを巻回して形成され」るものであるということができる。
また、引用例2には、「テープ(3)は、PTFE粉末を圧延ロールによって延伸することにより構成することができるが、その粉末状態のときにシリコンオイルを含めることにより、テープ(3)の成形性、成型後の他部材へのなじみ性を高めることができる。・・・PTFE粉末を圧延ロールによって延伸することにより構成することができるが、できれば延伸した後に焼成し、独立気泡を持ったものとすることが好ましい。」(上記摘記事項ニ参照)と記載されており、引用例2に記載されたテープ(3)は、本願補正発明の製造方法(本願明細書の段落【0034】には、テープの製造工程に関して、「ポリテトラフルオロエチレン製テープ(51)の製造工程はシリコンオイル含浸工程と、圧延工程と、焼成工程からなる。まず、シリコンオイル含浸工程にて、粉末状のポリテトラフルオロエチレンにシリコンオイルを含浸させる。」、「その後、圧延工程にて、ポリテトラフルオロエチレン粉末が圧延される。シリコンオイル含浸工程にて、ポリテトラフルオロエチレン粉末にシリコンオイルが含浸されているので、ポリテトラフルオロエチレン粉末は延伸が容易となり、非常に平滑な表面を備えるポリテトラフルオロエチレン製シートを得ることができる。圧延工程の後、焼成工程にて、ポリテトラフルオロエチレン製シートが焼成される。」、「焼成工程により、ポリテトラフルオロエチレン製テープ(51)断面内には多数の独立気泡(511)が形成される。この独立気泡(511)の内部には、シリコンオイル含浸工程にて含浸されたシリコンオイルが内包される。」と記載されている。)と同様の製造方法によって製造されるものであることを鑑みると、引用例2には、ポリテトラフルオロエチレン製テープ内部に独立気泡が形成され、該独立気泡内部にシリコンオイルが内包されるものが記載されていると認められる。
また、引用発明の「膨張黒鉛テープ(6)」と引用例2に記載された「フッ化エチレン層」(ポリテトラフルオロエチレンからなるテープ(3))とは、どちらも開繊炭素繊維束の外周面を覆うように形成される層である点で共通しており、また、引用例1には、膨張黒鉛テープを巻回したパッキン材料について、「請求項1、2に記載のパッキン材料は、常温下、低圧下で使用される場合はもちろん、高温下、高圧下で使用されても十分な耐久性を維持することができ、いずれの場合も高い潤滑性(低トルク性)を長期に渡って維持することができる。・・・このパッキン材料は、耐圧力性、耐熱性、潤滑性の全てにおいて高い性能を発揮する・・・」(上記摘記事項コ参照)と記載され、一方、引用例2には、ポリテトラフルオロエチレンからなるテープ(3)を巻回したパッキン材料について、「流体機器の往復摺動部のシールに超高圧下で使用されても、十分な潤滑性、耐久性、及びシール性を有することができ、耐久性、耐圧性、耐熱性、潤滑性(低トルク性等)、耐薬品性、シール性、低公害性、製造コストの低減、等の様々な面において高品質であり」(上記摘記事項ネ参照)と記載されていることからも明らかなように、引用発明の「膨張黒鉛テープ(6)」と引用例2に記載された「フッ化エチレン樹脂層」(ポリテトラフルオロエチレンからなるテープ(3))とは、どちらも耐久性、耐圧性、耐熱性、潤滑性などに優れている点で特性が共通するが、膨張黒鉛テープが「高温下、高圧下」で使用してもそれらの特性を維持できるのに対して、「フッ化エチレン樹脂層」は、「超高温下、超高圧下」で使用しても、それらの特性が得られるのであるから、それらの特性を得る上で、「フッ化エチレン樹脂層」はより好ましいことが示唆されているといえる。
そして、引用発明及び引用例2に記載された発明は、いずれもパッキン材料に関するものであるから同一技術分野に属するものであり、いずれも高圧下におけるパッキン材料の耐久性、潤滑性、シール性などの向上を図ることを課題とする点で課題が共通するものである。
そうすると、引用発明及び引用例2に接した当業者であれば、引用発明において、パッキン材料の耐久性、潤滑性、シール性等のより一層の向上を図るために、糸状体(20)の外周面に巻回された平繊された帯状の炭素繊維束(7)の外周面を覆うように形成される層について、「膨張黒鉛テープ(6)」に代えて引用例2に記載された「フッ化エチレン樹脂層」を採用し、相違点2に係る本願補正発明のように構成することは、格別創意を要することなく容易に想到できたものである。

そして、本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「本願発明(審決注:本審決における「本願補正発明」に相当する。以下同様。)は、『捩体の外周面に対して、該捩体の捩り方向と反対方向に巻回される開繊炭素繊維束』なる構成を備えていることにより、明細書段落[0030]に記載された通り、『捩体の捩りが緩むことが防止され、パッキン材料の形状安定性を高めることが出来る。』という優れた効果を奏することができる。」、「本願発明は、『独立気泡内部にシリコンオイルが内包される』構成を備えることにより、明細書段落[0035]に記載された通り、『ポリテトラフルオロエチレン製テープが断面内部に長期間シリコンオイルを備えることができ、高い潤滑性を長期間発揮することが可能となる。独立気泡内部のシリコンオイルがフッ化エチレン樹脂層の放熱性を高め、パッキン材料が高い放熱性を備えることとなり、摺動特性が向上する。』という優れた効果を奏することができる。」(「(3)本願発明が特許されるべき理由」の項参照)と主張する。
しかしながら、前者の効果については、上記「(1)相違点1について」で述べたとおりであり、また、後者の効果については、上記「(2)相違点2について」で述べたとおりであるから、審判請求人が主張する上記効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。
また、審判請求人は、審尋に対する平成23年11月25日付けの回答書において、「本願発明は引用文献1,2(審決注:それぞれ本審決における「引用例1」及び「引用例2」に相当する。以下同様。)記載の発明の存在を前提とし、引用文献1,2記載の発明では不十分であった性能を改善すべくなされたものであって、その改善効果は、以下に説明する如く、引用文献1,2に記載の発明からは予測し得ない程に極めて顕著なものである。」(「(2)本願発明が特許を受けることができる理由」の項参照)と主張する。
しかしながら、引用例1及び2に記載された発明は、いずれも本願の発明者が発明したものではあるから、出願時において発明者が十分に熟知していた発明であり、それにも拘わらず、本願明細書には、引用例1及び2記載の発明が本願補正発明の前提となった技術であるとの記載はされていない。
そして、上記回答書において初めて、審判請求人は「上記実験結果から明らかな如く、実施例(本願発明)は、比較例1(引用文献1)及び比較例2(引用文献2)と比較して、漏洩量(5サイクル目)が約1/18000及び約1/73000と格段に少ない。しかも、比較例1,2がサイクルを経過する毎に漏洩量が非常に大きくなっている(比較例1:約34倍、比較例2:約450倍)のに対して、実施例はサイクルが増しても漏洩量の増加がみられない。
この実施例(本願発明)の効果は、比較例1(引用文献1)と比較例2(引用文献2)の効果を組み合わせた相加効果のレベルを遥かに超えている相乗効果であり、引用文献1,2からは予測できない程の顕著な効果である。」(「(2)本願発明が特許を受けることができる理由」の項参照)と主張している。
しかしながら、引用発明及び引用例2記載の発明は、いずれもパッキン材料の耐久性、潤滑性、シール性等の向上を図ることを課題とする発明であることから、それらを組み合わせるとともに、捩体の外周面に対して、該捩体の捩り方向と反対方向に開繊炭素繊維束を巻回した本願補正発明においては、より一層の耐久性、潤滑性、シール性等の向上が当然期待できるものであり、本願補正発明の効果は、当業者にとって予期し得ないような格別予想外の顕著な効果であると認めることはできない。
審判請求人は、上記のとおり、本願補正発明の実施例におけるグランドパッキンの漏洩量が比較例1及び比較例2(引用例1の図13及び引用例2の図1に記載された実施例におけるグランドパッキン)に比べて極めて少ないことをもって格別顕著な効果であると主張するが、実験は、あくまで本願補正発明の一例について比較した結果にすぎず、本願補正発明の効果を直接的に示すものではない。言い換えれば、上記実施例についての効果は、本願補正発明に包含される膨大な数の実施例に共通する効果を示すことを認めるに足りる証拠とはならないから、上記実施例の効果は、本願補正発明において常に奏される特有の効果と認めることはできない。
なお、上記実験結果について付言すれば、本願明細書には、開繊炭素繊維束4の幅、膨張黒鉛製テープ23の幅などが記載されていないので、上記実験において、これらの幅をどのような値にしたのかが不明であり、また、引用例2には開繊繊維束2の厚さが記載されていないので、比較例2においてその厚さをどのような値にしたのか不明であることをみても、実験に用いられた実施例、比較例1、比較例2のパッキン材料は、それぞれを正確に再現したものといえるのかどうか疑義が残る。また、実施例の開繊炭素繊維束21の幅や膨張黒鉛製テープ23の幅と、比較例1の平繊繊維束7の幅や膨張黒鉛シート61の幅は異なるし、巻回方向の違いもあるし、巻回回数、巻回ピッチなども不明であり、諸条件が異なることから、これらを単純に比較してシール性を議論することは意味がない。
また、審判請求人は、上記回答書において「審判請求書においても述べたが、本願発明及び引用文献1,2に記載の発明は、いずれも本出願人により実施(製品化)されているが、これら実施品のうち、VOC等の漏れに関する欧州規格(TA-Luft)及び米国規格(API)の両方をクリアできるのは本願発明の実施品のみであり、引用文献1,2記載の発明の実施品はクリアすることができない。この事実からも、本願発明のパッキン材料と引用文献1,2に記載されたパッキン材料とはその性能において顕著な差異を有することが分かるが、今般この顕著な差異は上記実験結果にて数値的に明確に実証された。」(「(2)本願発明が特許を受けることができる理由」の項参照)と主張する。
この主張は、審判請求書で初めてなされたものであり、審判請求書だけでなく、上記回答書においても同様の主張がされているが、その主張の根拠となる証拠が何も示されておらず、にわかには首肯しがたい。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし11に係る発明は、出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「略紐状に形成されるパッキン材料であって、
膨張黒鉛製テープと開繊された炭素繊維からなる繊維束で構成される積層体を捩じって形成された捩体と、
該捩体の外周面に対して、該捩体の捩り方向と反対方向に巻回される開繊炭素繊維束と、
前記捩体の外周面に巻回された開繊炭素繊維束の少なくとも外周面を覆うように形成されるフッ化エチレン樹脂層からなることを特徴とするパッキン材料。」

2 引用例
引用例1及び引用例2の記載事項並びに引用発明は、前記「第2」の「2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」の「1」の本願補正発明から、「フッ化エチレン樹脂層」についての限定事項である「前記フッ化エチレン樹脂層が、細幅に形成されたシート状のポリテトラフルオロエチレン製テープを巻回して形成され、前記ポリテトラフルオロエチレン製テープ内部に独立気泡が形成され、該独立気泡内部にシリコンオイルが内包される」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」の「3」及び「4」に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-03 
結審通知日 2012-02-06 
審決日 2012-02-17 
出願番号 特願2005-176880(P2005-176880)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16J)
P 1 8・ 575- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳楽 隆昌  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 所村 陽一
冨岡 和人
発明の名称 パッキン材料及び該パッキン材料を用いたグランドパッキン  
代理人 清原 義博  

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