• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1254683
審判番号 不服2010-21017  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-17 
確定日 2012-03-27 
事件の表示 特願2004-515050「処理チャンバ内の圧力の制御装置及びその作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月31日国際公開,WO2004/001230,平成17年10月 6日国内公表,特表2005-530094〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,2003年(平成15年) 6月20日(パリ条約による優先権主張 2002年(平成14年) 6月20日,英国)を国際出願日とする特許出願であって,平成22年 5月12日付けで拒絶査定がなされ,この査定を不服として,同年 9月17日に本件審判請求がなされるとともに,手続補正がなされた。
そして,この出願の請求項1?21に係る発明は,平成22年 9月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうちの請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項4】
処理チャンバ(10)内の圧力を制御する装置であって,
前記処理チャンバの出口と流体連通状態にある入口を備えた第1のポンプユニット(14)と,流量制御ユニット(18)を介して前記第1のポンプユニットの出口と流体連通状態にある入口を備えた第2のポンプユニット(16)と,を有し,
前記流量制御ユニット(18)は,第1のポンプユニットの出口のところの流体圧力を制御する可変の流通性を有する可変流量制御装置(20;28)を含み,
更に,前記第1のポンプユニットの温度限界及び/又はモータ失速限界を超えることなしに,前記可変流量制御装置の制御によって変化させることができるチャンバ圧力範囲を増大させるように,前記第1のポンプユニットの速度を制御する制御手段を有し,前記制御手段は,前記可変流量制御装置の流通性を変化させることによって,前記処理チャンバの圧力を前記増大させたチャンバ圧力範囲にわたって制御することを特徴とする装置。」

2.引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2002-147365号公報(以下,「引用例」という。)には,「真空排気系の排気圧制御装置」に関し,図面とともに次の事項が記載又は示されている。

A:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体やLCDなどの薄膜製造装置に必要な高真空を発生させる分子ポンプのロータの熱負荷及びモータの過負荷を低減させるのに好適な真空排気系の排気圧制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】分子ポンプはアルミ合金製のロータが高速で回転し,半導体などの薄膜製造装置の生成チャンバーから分子量の大きなプロセスガスなどの排気を行うのに使用されるが,その生成プロセス時に分子ポンプの吸気圧力をある圧力に制御する必要がある。
【0003】従来,分子ポンプの吸気圧力の制御方法としてポンプの排気口に配置された調節弁の開閉調整により排気口圧を変化させ,それにより吸気圧を制御する方法が知られている。」

B:「【0004】
【発明が解決しようとする課題】この従来の方法によれば調節弁の開度を小に調整してポンプの背圧を上昇させると該ポンプの負荷が増大し,ロータが過熱してアルミ合金の耐熱温度の約120℃を超えると破損したりしてその信頼性を低下させ,又,これにより該ポンプのモータが過負荷になると該モータの制御が困難になる問題点があった。
【0005】本発明はこれらの問題点を解消し,分子ポンプのロータの熱負荷と該分子ポンプのモータの過負荷を低減するのに好適な真空排気系の排気圧制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の目的を達成すべく生成チャンバーの排気口に分子ポンプの吸気口を接続すると共に,該分子ポンプの排気口に調節弁を介在して補助ポンプを接続した真空排気系において,前記チャンバーに設けた真空圧センサと,該真空圧センサからの圧力信号により前記調節弁の開閉を制御するバルブ制御装置と,前記分子ポンプのロータ駆動モータの供給電流及び回転速度を検知し該モータの負荷増大に応じて所定の回転速度範囲に下げる制御をするモータ電源制御装置とを具備したことを特徴とする。」

C:「【0007】
【発明の実施の形態】1は本発明の分子ポンプの排気系制御装置,2は半導体やLCDなどの薄膜製造装置である生成チャンバーを示し,該生成チャンバー2の排気口2aに分子ポンプ3の吸気口3aが接続されていると共に該生成チャンバー2はプロセスガス源2bが接続されている。
【0008】前記分子ポンプ3の排気口は管路9により補助ポンプ5に接続されていると共に該管路9に調節弁4が介在している。
【0009】6は真空圧センサを示し,該真空圧センサ6は前記チャンバー2に設けられ,該真空圧センサ6と前記調節弁4はバルブ制御装置7からの信号線7aと7bによってそれぞれ接続され,該真空圧センサ6からの検出信号に応じて該バルブ制御装置7により該調節弁4の開閉を制御するようにした。
【0010】更に,前記分子ポンプ3内のロータ駆動モータ3bを信号線8aでモータ電源制御装置8に接続し,該モータ電源制御装置8は該ロータ駆動モータ3bの供給電流と回転速度とを検知し該モータ3bの負荷増大に応じて所定の回転速度範囲に下げる制御をする。」

D:「【0011】図2においてそのモータの制御方法を説明する。
【0012】モータ入力電流を縦軸にとり,Y1は最大電流値を示し,回転速度を横軸にとり,X1は定格回転数を示す。
【0013】この種の用途の分子ポンプにおける従来のモータの制御方法ではモータ電流値をマイコンにフィードバックして制御し図2の点線で示す特性を持ち,定格回転速度においてプロセスガス負荷が増大すると回転速度は僅かに低下するが,その低下の割合は最大電流値の時でも約1%程度と少なく,又,プロセスガス負荷が増大した場合では最大定格出力で連続運転を行うと分子ポンプのロータが過熱してロータ形成しているアルミ合金の耐熱温度約120℃を超えてしまい,ロータの強度上,変形を起こしたり,破損したりする危険な状態となる。
【0014】これに対して,本発明の装置におけるモータの制御方法では,モータ3bの入力電流と回転速度とをモータ電源制御装置8のマイコンにフィードバックして制御し,図2の実線で示すモータ入力電流・回転速度特性が得られるように制御している。
【0015】即ち,モータ電源制御装置8はロータ駆動モータ3bの負荷の増大を入力電流値で検知し,それに応じて該モータ3cの回転速度を定格回転速度の30乃至70%の範囲となる様に予め設定しており,この範囲を超えると該モータ3bへの供給電流値を低下させて,前記図2の実線で示す特性が得られるように回転速度を低下させている。
【0016】この制御によりロータ駆動モータ3bの最大出力は著しく低下し,過大なプロセスガス負荷が加えられた場合には分子ポンプのロータ3cの回転速度が低下して該プロセスガス負荷によるロータ駆動モータ3bの負荷が下がり,ロータ3cの過熱を防止することができる。
【0017】尚,補助ポンプ5は分子ポンプの負荷を減少させ,調節弁4を小型にすることができる。」

E:「【0019】本発明の分子ポンプの排気圧制御装置1は半導体やLCDなどの薄膜製造装置の生成チャンバー2に接続して用いられ,該生成チャンバー2内を分子ポンプ3により高真空にしてからプロセスガスを導入して薄膜を生成させ,この生成プロセス時に分子ポンプ3の吸気圧力をある圧力に制御する必要があるが,本発明では該分子ポンプ3の排気口圧を変化させて吸気圧を制御している。
【0020】例えば,ある圧力となっている生成チャンバー2の圧力をこれより高い圧力に設定する場合は,バルブ制御装置7により分子ポンプ3の排気口に接続している調節弁4の開度を下げ,該分子ポンプ3の排気口圧を上昇させる。
【0021】排気口圧が上がると分子ポンプ3の吸気口圧力も上昇し,分子ポンプ3のロータ3cの回転抵抗が増大し,ロータ駆動モータ3bの負荷が増えるとモータ電源制御装置8はモータ回転数を自動的に低下させる。
【0022】この様にモータ負荷が増えてもある値以上にはならないのでロータ3cの過熱を防止することができ,又,モータの過負荷による同期外れを防止することができる。
【0023】又,バルブ制御装置7とモータ電源制御装置8は直接に接続していないが,真空圧センサ6の検出信号を入力したバルブ制御装置7により調節弁4の開閉が制御されると分子ポンプ3の回転数が受動的に制御されて,これら両制御装置7,8は,あたかも連動するように分子ポンプを制御することができる。」

F:「【0025】
【発明の効果】このように本発明によると,真空圧センサの検出信号に応じて調節弁の開閉を制御するバルブ制御装置と共に分子ポンプの負荷が増大すると回転数を下げる制御をするモータ電源制御装置とにより,危険なロータ熱負荷及びモータの過負荷を減少させる効果を有する。」

G:摘記事項E及び図1からみて,「バルブ制御装置7は,調節弁4の開度を変化させること」は明らかである。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「生成チャンバー2に接続された分子ポンプ3の吸気圧力を制御するための分子ポンプ3の排気圧制御装置1であって,前記生成チャンバー2の排気口2aと接続された吸気口3aを備えた分子ポンプ3と,調節弁4を介して前記分子ポンプ3の排気口と接続された補助ポンプ5と,を有し,前記調節弁4は,前記分子ポンプ3の排気口圧を制御するために開度を変化させる調節弁4を含み,更に,前記分子ポンプ3のロータの耐熱温度を超えないように,前記分子ポンプ3の回転速度を制御するモータ電源制御装置8を有し,前記モータ電源制御装置8とあたかも連動するように分子ポンプ3を制御するバルブ制御手段7は,前記調節弁4の開度を変化させることによって,生成チャンバー2に接続された分子ポンプ3の吸気圧力を制御する,分子ポンプ3の排気圧制御装置1。」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「生成チャンバー2」は前者の「処理チャンバ」に相当し,以下同様に,「分子ポンプ3の排気圧制御装置1」は「装置」に,「排気口2a」は「出口」に,「吸気口3a」は「入口」に,「分子ポンプ3」は「第1のポンプユニット」に,「調節弁4」は「流量制御ユニット」又は「可変流量制御装置」に,「排気口」は「出口」に,「補助ポンプ5」は「第2のポンプユニット」に,「排気口圧」は「出口のところの流体圧力」に,「分子ポンプ3のロータの耐熱温度」は「第1のポンプユニットの温度限界」に,「分子ポンプ3の回転速度」は「第1のポンプユニットの速度」に,「モータ電源制御装置8」及び「バルブ制御手段7」は併せて「制御手段」にそれぞれ相当する。
また,「生成チャンバー2に接続された分子ポンプ3の吸気圧力を制御」すれば,「生成チャンバー2内の圧力を制御」することになるから,後者の「生成チャンバー2に接続された分子ポンプ3の吸気圧力を制御するための分子ポンプ3の排気圧制御装置1」は,前者の「処理チャンバ内の圧力を制御する装置」に相当し,後者の「生成チャンバー2の排気口2aと接続された吸気口3aを備えた分子ポンプ3」は,前者の「処理チャンバの出口と流体連通状態にある入口を備えた第1のポンプユニット」に相当し,後者の「調節弁4を介して分子ポンプ3の排気口と接続された補助ポンプ5」は,前者の「流量制御ユニットを介して第1のポンプユニットの出口と流体連通状態にある入口を備えた第2のポンプユニット」に相当し,後者の「調節弁4は,分子ポンプ3の排気口圧を制御するために開度を変化させる調節弁4を含」む態様は,前者の「流量制御ユニットは,第1のポンプユニットの出口のところの流体圧力を制御する可変の流通性を有する可変流量制御装置を含」む態様に相当する。
そして,後者の「分子ポンプ3のロータの耐熱温度を超えないように,前記分子ポンプ3の回転速度を制御するモータ電源制御装置8を有し,前記モータ電源制御装置8とあたかも連動するように分子ポンプ3を制御するバルブ制御手段7は,調節弁4の開度を変化させることによって,生成チャンバー2に接続された分子ポンプ3の吸気圧力を制御する,分子ポンプ3の排気圧制御装置1」と,前者の「第1のポンプユニットの温度限界及び/又はモータ失速限界を超えることなしに,可変流量制御装置の制御によって変化させることができるチャンバ圧力範囲を増大させるように,前記第1のポンプユニットの速度を制御する制御手段を有し,前記制御手段は,前記可変流量制御装置の流通性を変化させることによって,処理チャンバの圧力を増大させたチャンバ圧力範囲にわたって制御する,装置」とは,先に述べたように「生成チャンバー2に接続された分子ポンプ3の吸気圧力を制御」すれば,「生成チャンバー2内の圧力を制御」することになるから,「第1のポンプユニットの温度限界を超えることなしに,前記第1のポンプユニットの速度を制御する制御手段を有し,前記制御手段は,可変流量制御装置の流通性を変化させることによって,処理チャンバの圧力を制御する,装置」の点で少なくとも共通する。
そうすると,両者は,
「処理チャンバ内の圧力を制御する装置であって,
前記処理チャンバの出口と流体連通状態にある入口を備えた第1のポンプユニットと,流量制御ユニットを介して前記第1のポンプユニットの出口と流体連通状態にある入口を備えた第2のポンプユニットと,を有し,
前記流量制御ユニットは,第1のポンプユニットの出口のところの流体圧力を制御する可変の流通性を有する可変流量制御装置を含み,
更に,前記第1のポンプユニットの温度限界を超えることなしに,前記第1のポンプユニットの速度を制御する制御手段を有し,前記制御手段は,前記可変流量制御装置の流通性を変化させることによって,前記処理チャンバの圧力を制御する,装置。」
の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。

<相違点>
第1のポンプユニットの温度限界を超えることなしに,前記第1のポンプユニットの速度を制御する制御手段を有し,前記制御手段は,可変流量制御装置の流通性を変化させることによって,処理チャンバの圧力を制御するものにおいて,本願発明では,第1のポンプユニットの速度を制御することによって,「可変流量制御装置の制御によって変化させることができるチャンバ圧力範囲を増大させる」ものであるとともに,制御手段は,可変流量制御装置の流通性を変化させることによって,処理チャンバの圧力を「前記増大させたチャンバ圧力範囲にわたって」制御するのに対して,引用発明では,そのような特定はされていない点。

4.相違点の検討・当審の判断
引用例に記載されたものは,生成プロセス時に分子ポンプ3の吸気圧力(即ち,生成チャンバー2内の圧力)をある圧力(設定圧力)にするために,バルブ制御装置7により分子ポンプ3の排気口圧を制御し,排気口圧が上昇すると,分子ポンプ3のロータの過熱を防止するためにモータ電源制御装置8により分子ポンプ3の回転速度を下げるものであるが,生成チャンバー2内の圧力をある圧力(設定圧力)にするためには,分子ポンプ3の回転速度を下げた後にも,バルブ制御装置7による分子ポンプ3の排気口圧の制御は必要なものと解するのが相当である。
そうすると,引用例に記載されたものも,分子ポンプ3の回転速度を下げること(第1ポンプユニットの速度を制御すること)によって,本願発明と同様に,結果的に,「バルブ制御装置7による調節弁4(可変流量制御装置)の制御によって変化させることができるチャンバ圧力範囲を増大させる」ものと認められる。
そして,その場合に,「生成チャンバー2(処理チャンバ)の圧力を増大させたチャンバの圧力範囲にわたって制御すること」は,当業者が適宜なし得る程度の設計的事項に過ぎないことから,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,引用発明,及び,引用例に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。

さらに,本願発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明,及び,引用例に記載された事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって,本願発明は,引用発明,及び,引用例に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願発明(請求項4に係る発明)は,引用発明,及び,引用例に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-26 
結審通知日 2011-10-31 
審決日 2011-11-11 
出願番号 特願2004-515050(P2004-515050)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 藤井 昇
神山 茂樹
発明の名称 処理チャンバ内の圧力の制御装置及びその作動方法  
代理人 大塚 文昭  
代理人 弟子丸 健  
代理人 井野 砂里  
代理人 熊倉 禎男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ