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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1254689
審判番号 不服2011-813  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-13 
確定日 2012-03-27 
事件の表示 特願2001-510597「インピーダンス整合変換器」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月25日国際公開、WO01/05522、平成15年 2月 4日国内公表、特表2003-504169〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成12年7月19日(パリ条約による優先権主張1999年7月21日、米国(US))を国際出願日とする出願(2001年特許願第510597号。以下、「本件出願」という。)につき、平成22年9月3日付けで拒絶査定(発送日:同年9月13日)がなされたところ、これに対し、平成23年1月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成23年1月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成23年1月13日付けの手続補正を却下する。

2 補正却下の決定の理由
(1)平成23年1月13日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容

本件補正は、本件出願の明細書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正することを含むものである。

ア.本件補正前の請求項1(平成22年8月10日付け手続補正書)
「【請求項1】その間で厚さを決めている第1(14、104)および第2(20、102)の変換器表面と、
前記第1および第2の変換器表面の間を延び、圧電材料からなり、テーパが付けられた複数のピラー(16、50、60、70、112)とを備え、前記ピラーの少なくとも1つが、前記第2の変換器表面の第2の断面より広い第1の断面を前記第1の変換器表面に有する、映像カテーテルに使用するための変換器要素(10、80、90、100)であって、
前記複数のピラーが合体して前記第1の変換器表面(14、104)全体を形成し、前記第2の変換器表面の音響インピーダンスが、前記第1の変換器表面の音響インピーダンスより小さいことを特徴とする変換器要素。」

イ.本件補正後の請求項1(平成23年1月13日付け手続補正書)
「【請求項1】その間で厚さを決めている第1(14、104)および第2(20、102)の変換器表面と、
前記第1および第2の変換器表面の間を延び、圧電材料からなり、テーパが付けられた複数のピラー(16、50、60、70、112)とを備え、前記複数のピラーは、超音波信号を発生させるように構成され、前記ピラーの少なくとも1つが、前記第2の変換器表面の第2の断面より広い第1の断面を前記第1の変換器表面に有する、映像カテーテルに使用するための変換器要素(10、80、90、100)であって、
前記複数のピラーが合体して前記第1の変換器表面(14、104)全体を形成し、前記第2の変換器表面の音響インピーダンスが、前記第1の変換器表面の音響インピーダンスより小さいことを特徴とする変換器要素。」

(なお、下線部が補正箇所である)

(2) 本件補正の適否について
本件補正について、本件補正前の請求項1に係る発明の「テーパが付けられた複数のピラー(16、50、60、70、112)」の構成に、「前記複数のピラーは、超音波信号を発生させるように構成され、」という構成を付加することにより、本件補正前の請求項1に係る発明の「テーパが付けられた複数のピラー(16、50、60、70、112)」の構成を、さらに、限定し、特定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
そうすると、本件補正は減縮する補正を含む補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前(以下、単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) 独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(ア)引用刊行物記載の発明
(3A)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先権主張日前に頒布された特開平7-115231号公報(以下、「引用刊行物A」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与したものである。以下、同様である。)

(3A-1)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、超音波の発信または受信を行う圧電材に係り、詳しくは、複数の材料から構成される複合圧電材に関するものである。」

(3A-2)「【0004】さらに、この複合圧電体の特徴として、各相の混合比率の調整によって、全体としての音響インピーダンスを制御できるという点がある。一般に、音響インピーダンスの異なる材料の界面に超音波が入射する場合、超音波の反射が生じ、伝播効率が低下する。複合圧電体の前記の特徴を生かせば、例えば、水中に超音波を送信する場合には、高分子材料の構成比率を大きくし、逆に鋼材などに接触させて超音波を送受信する場合には、圧電セラミクスの比率を大きくさせて、いずれも音響インピーダンスの整合を図り、界面での反射を抑制し、超音波の送受信効率を高めることが可能である。

(3A-3)「【0012】図1は本実施例における1-3結合型複合圧電材の構成を示し、図2にはその断面形状を示す。複合圧電材1は板状をなしている。この複合圧電材1は、PZTからなる圧電セラミクス2と、シリコンゴム,ポリウレタン等の高分子樹脂材料3とから構成されている。圧電セラミクス2は角錐状となっており、同圧電セラミクス2が縦横(マトリックス状)に多数配置されている。より詳しくは、圧電セラミクス(PZT)2は高さ方向での断面が正方形をなす角錐である。そして、各圧電セラミクス2の間に高分子樹脂材料3が充填されている。」

(3A-4)「【0024】このように本実施例においては、圧電セラミクス(圧電材料)2を含む複数の材料から構成される板状の複合圧電材1において、各材料の構成比率を厚み方向に連続的に変化させた。即ち、柱状構造体を有し、その柱状構造体の断面積が厚み方向に連続的に変化させた。
【0025】その結果、圧電セラミクス2の体積分率が板状の複合圧電材1の厚み方向に連続的に変化しており、複合圧電材1の音響インピーダンスが圧電セラミクス2の体積分率の関数であることから、板状の複合圧電材1の前面での音響インピーダンスと、板状の複合圧電材1の背面での音響インピーダンスが異なる構造となる。よって、板状の複合圧電材1において、音響インピーダンスの大きい材料と接する側はPZT等の圧電セラミクス2の体積分率を増加させて、音響インピーダンスを大きくする。一方、音響インピーダンスの小さい材料と接する側はPZT等の圧電セラミクス2の体積分率を小さくする。この結果、板状の複合圧電材1の前面と背面との両界面での音響インピーダンスの不連続は無くなる。よって、複合圧電材1の両面とも音響的整合がとられるため、整合層を別途挿入する必要は無くなる。又、整合層による整合ではないため、任意の周波数の超音波に対して音響的整合が達せられ、複数の周波数成分を有するパルス状の超音波に対しても、完全に整合を取ることが可能となる。」

(3A-5)図5には、角錐状の複数の圧電セラミクス2を離間して配置することが描かれている。

上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-1)?(3A-5)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「縦横(マトリックス状)に多数配置された圧電セラミクス2の体積分率が板状の複合圧電材1の厚み方向に連続的に変化した柱状構造体からなる超音波の発信を行う複合圧電材1であって、
圧電セラミック2は、音響インピーダンスの大きい材料と接する側が圧電セラミクス2の体積分率を増加させ、音響インピーダンスの小さい材料と接する側は圧電セラミクス2の体積分率を小さくして、角錐状にした複合圧電材。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3B)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先権主張日前に頒布された特開平7-30998号公報(以下、「引用刊行物B」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(3B-1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は一般に超音波プローブに関し、更に詳細には音響画像用の超音波プローブに関する。」

(3B-2)「【0003】たとえば、医療用超音波プローブは、患者の身体の中の心臓の組織または胎児の組織構造のような、各種解剖学的部分の画像データを集めるのに便利で正確な方法を医師に提供する。一般に、注目する心臓または胎児の組織は組織構造を取り巻く身体の流体媒体の音響インピーダンスとは異なる音響インピーダンスを備えている。動作中、このような医学用プローブは、次にプローブの全部から患者の身体の媒体内に音響的に結合される音波の広帯域信号を発生するので、信号が患者の身体に伝えられる。典型的には、この音響結合はプローブの前部を押して患者の腹部の表面に接触させることにより行われる。代わりに、プローブの前部を患者の身体内にカテーテルを通して挿入するというような、更に侵入的な手段が使用される。」

(3B-3)「【0007】これまで知られている音響結合改善機構では得られる成果が限られており、製造、信頼性、および性能上の問題が新たに生じていた。たとえば、これまで知られている一つの機構は高重合体圧電素子の超音波プローブを備えている。各高重合体圧電素子は圧電材料と重合体材料との複合ブロックから構成されている。たとえば、図15は典型的な圧電複合変換器の断面図である。図示のように、一つの圧電セラミック板が網目状に切断されて細かく分割され、多数の棒状圧電セラミック極1が2次元に配列されるようになっている。マイクロバルーン(中空部材)6を含む樹脂7が圧電セラミック極1の間の隙間を埋めるように鋳込まれている。樹脂は圧電セラミック極1を保持するように硬化されている。電極4は圧電セラミック極1および樹脂7の両端面に設けられて圧電セラミック変換器を形成するようになっている。・・・」

(3B-4)「【0026】各圧電セラミック素子のそれぞれの前面と一体になっているそれぞれの不活性の圧電セラミック層402は実質上、各圧電セラミック素子のバルク音響インピーダンスと検査中の所要媒体との間の音響インピーダンス整合を行う。たとえば、医療用画像用途では、それぞれの不活性の圧電セラミック層は各圧電セラミック素子のバルク音響インピーダンスと検査中の患者の身体の媒体の音響インピーダンスとの間の音響インピーダンス整合を行う。詳細図2に示したとおり、アレイの各圧電素子401と一体のそれぞれの不活性圧電層402は溝405を備えセラミックれは各圧電セラミック素子のそれぞれの前面に設けられて圧電セラミック層の音響インピーダンスを制御する。好適実施例では、溝は各圧電セラミック素子のそれぞれの仰角寸法Eに沿って互いに実質上平行に設けられている。
【0027】図1および図2に示したとおり、それぞれの金属電極対は各圧電セラミック素子の圧電セラミック材料に電気的に結合されている。各圧電セラミック素子のそれぞれの電極対は各圧電セラミック素子のそれぞれの背面に結合されたそれぞれの背面電極406を備え、更に各圧電セラミック素子のそれぞれの前面に設置された溝の中に突出してこれと接触しているそれぞれの前面電極407を備えている。背面電極406、前面電極407のこの構成は圧電層が実質上確実に電気機械的に不活性にしておくのに役立つ。適合材料、好適には空気、が各電極に隣接する溝の中に設けられている。本明細書で後に更に詳しく説明するように、適切な代りの適合材料、たとえばポリエチレン、を空気の代りに使用することができる。所定の適合材料はそれと関連する音響インピーダンスZconformalを備えている。
【0028】それぞれの電圧信号を各圧電セラミック素子に結合されているそれぞれの電極対に加えることにより、各圧電セラミック素子のバルク残存部分は励起されて所要共振周波数を有する音響信号を発生する。それぞれの導体408は各電極に結合されて電圧信号を加える。音響信号は各圧電セラミック素子のそれぞれの長手寸法に沿う伝播時に圧電セラミック素子の長手方向共振モードにより支持される。アレイの各圧電セラミック素子により発生されるそれぞれの音響信号はそれぞれの不活性の圧電セラミック層から共に、検査中の身体の媒体に伝えられる音響ビームとして発生する。たとえば、医療用画像用途では、音響ビームは患者の身体内に伝えられる。アレイの各圧電セラミック素子に加えられるそれぞれの電圧信号の位相は、音響ビームが身体を通して掃引するとき音響ビームの方位角操舵および長手方向焦点合せを行うように制御される。図1に分解図で示してある音響レンズは圧電セラミック素子に音響的に結合して音響ビームの高さ方向の焦点合せを行う。」

(3B-5)「【0061】他の代わりの実施例では、急変する「階段」パターンの代りに、滑らかな溝輪廓をエッチして、圧電セラミック素子に、広い周波数応答または改善された音響感度のような、高揚した音響性能を与えている。たとえば、このような代りの実施例は、各々が滑らかな「V」輪廓を有して圧電セラミック素子の前面に突入している溝を備えている。このような代りの実施例は先に図4?図7に関して説明したと同様の仕方で作られる。たとえば、本発明の不活性の圧電セラミック層の他の代りの実施例を図10に示す。先に説明した図5の場合のように、図10はスラブと一体を成す不活性の圧電セラミック層902、層に亘って延在する溝、およびスラブのバルク残存部分903を有する圧電材料のスラブを示している。先に説明した図5と対照的に、図10の溝は滑らかな「V」輪廓を有する溝905を備えている。図示のように、溝は、ピッチP、幅W、および深さDを有するようにスラブにエッチされる。」

(3B-6)「【0062】更に他の実施例は各圧電セラミック素子のそれぞれの前面の代りの配列の溝を備えている。たとえば、各圧電セラミック素子に設けられた溝が実質上互いに平行に配列されている図2に詳細に示した好適実施例と対照的に、更に他の好適実施例を図11に示すが、これでは各圧電セラミック素子1001は各圧電セラミック素子のそれぞれの前面に実質上互いに垂直に設置された第1および第2の組の溝1005、1006を有するそれぞれの不活性の圧電セラミック層1002を備えている。金属膜が各素子の前面にスパッタされて溝に突入し且つそれと接触するそれぞれの前面電極1007を形成している。溝に設けられる適合材料として空気が使用されている。図11に示すように溝が配列されているので、圧電セラミック層の結合性は1-3である。先に説明したように、溝は深さD、幅W、およびピッチPを有するようにダイシング機を使用して圧電セラミック素子に切り込まれる。代りに、溝をフォトリソグラフィおよび化学的エッチング材を使用して圧電セラミック素子に選択的にエッチするか、またはレーザを使用して削摩する。」

(イ)本願補正発明と引用発明との対比・判断
(イ-1)本願補正発明と引用発明とを対比する。
(i)引用発明の「圧電セラミクス2の体積分率を増加させて」「音響インピーダンスの大きい材料と接する側」の面、及び「圧電セラミクス2の体積分率を小さくした」「音響インピーダンスの小さい材料と接する側」の面は、その構成・機能からみて、本願補正発明の「その間で厚さを決めている第1(14、104)および第2(20、102)の変換器表面」に相当する。

(ii)引用発明の「縦横(マトリックス状)に多数配置された圧電セラミクス2の体積分率が板状の複合圧電材1の厚み方向に連続的に変化した柱状構造体」は、その構成・機能からみて、本願補正発明の「前記第1および第2の変換器表面の間を延び、圧電材料からなり、テーパが付けられた複数のピラー(16、50、60、70、112)」に相当する。

(iii)引用発明の複合圧電材は、超音波の発信を行うものであるから、引用発明の「縦横(マトリックス状)に多数配置された圧電セラミクス2の体積分率が板状の複合圧電材1の厚み方向に連続的に変化した柱状構造体」が、超音波信号を発生させることは明らかであり、さらに、圧電セラミック2からなる柱状構造体は、音響インピーダンスの大きい材料と接する側が圧電セラミクス2の体積分率を増加させ、音響インピーダンスの小さい材料と接する側は圧電セラミクス2の体積分率を小さくして、角錐状になっているから、本願補正発明の「ピラー」と同様に、「前記第2の変換器表面の第2の断面より広い第1の断面を前記第1の変換器表面に有する」ことは明らかである。
また、本願補正発明では、「前記複数のピラーは、」「前記ピラーの少なくとも1つが、前記第2の変換器表面の第2の断面より広い第1の断面を前記第1の変換器表面に有する」と記載されていることから、「複数のピラーが」「前記第2の変換器表面の第2の断面より広い第1の断面を前記第1の変換器表面に有する」ことを含むことは明らかである。
そうすると、引用発明の「縦横(マトリックス状)に多数配置された圧電セラミクス2の体積分率が板状の複合圧電材1の厚み方向に連続的に変化した柱状構造体」と、本願補正発明の「前記複数のピラー」とは、「前記複数のピラーは、超音波信号を発生させるように構成され、前記複数のピラーが、前記第2の変換器表面の第2の断面より広い第1の断面を前記第1の変換器表面に有する変換器要素(10、80、90、100)」である点で共通する。

(iv)引用発明の「圧電セラミック2は、音響インピーダンスの大きい材料と接する側が圧電セラミクス2の体積分率を増加させ、音響インピーダンスの小さい材料と接する側は圧電セラミクス2の体積分率を小さく」することは、その構成・機能からみて、本願補正発明の「前記第2の変換器表面の音響インピーダンスが、前記第1の変換器表面の音響インピーダンスより小さい」ことに相当する。

(v)本願発明の「複合圧電材」が、本願補正発明の「変換器要素」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「その間で厚さを決めている第1および第2の変換器表面と、
前記第1および第2の変換器表面の間を延び、圧電材料からなり、テーパが付けられた複数のピラーとを備え、
前記複数のピラーは、超音波信号を発生させるように構成され、前記複数のピラーが、前記第2の変換器表面の第2の断面より広い第1の断面を前記第1の変換器表面に有する変換器要素であって、
前記第2の変換器表面の音響インピーダンスが、前記第1の変換器表面の音響インピーダンスより小さいことを特徴とする変換器要素。」
である点で一致し、次の相違点(あ)及び相違点(い)で相違する。

・相違点(あ)
変換器要素が、本願補正発明では「映像カテーテルに使用するための変換器要素」であるのに対して、引用発明では、どのような技術分野において使用されるのか明確でない点。

・相違点(い)
本願補正発明が、「前記複数のピラーが合体して前記第1の変換器表面(14、104)全体を形成し」ているのに対して、引用発明の複数の圧電セラミクス2の柱状構造体素がそれぞれ離間して配置されている点。

(イ-2)当審の判断
そこで、上記相違点(あ)及び相違点(い)について判断する。
・相違点(あ)について
超音波を発生させる複合圧電材料を、映像カテーテルに用いることは周知である。
例えば、上記引用刊行物Bの(3B-1)に、
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は一般に超音波プローブに関し、更に詳細には音響画像用の超音波プローブに関する。」と記載され、同(3B-2)に、「【0003】・・・プローブの前部を患者の身体内にカテーテルを通して挿入するというような、更に侵入的な手段が使用される。」と記載され、同(3B-3)に、
「【0007】・・・これまで知られている一つの機構は高重合体圧電素子の超音波プローブを備えている。各高重合体圧電素子は圧電材料と重合体材料との複合ブロックから構成されている。たとえば、図15は典型的な圧電複合変換器の断面図である。」と記載されている。(下線は、当審で付与したものである。以下、同様である。)
また、特開平5-220152号公報の段落【0043】に、
「さらに、ロケータ62とアレイ振動子63および治療用振動子64は、共に適当な材料でつくった短冊状のセラミック圧電体と樹脂を交互に繋ぎ合わせてカテーテルの外周に配列する複合圧電体で形成すれば、同一の振動子で兼用することができる。この場合は、複合圧電体およびセラミック圧電体の各方向の寸法を適当に定め、複合圧電体全体の径方向共振を治療用超音波に、セラミック圧電体のアレイ方向に垂直な厚み振動を血管の横断面像観察用超音波に、さらにカテーテルの軸方向の共振をカテーテル先端の位置表示用超音波に利用できる。また一つの振動子にロケータ62、アレイ振動子63および治療用振動子64のいずれか2つの機能をもたせることもできる。」と記載され、同段落【0017】に、
「・・・この血栓溶解装置は、血栓部位に体外から治療用超音波を照射する超音波照射器20と、体外から血栓位置をモニタするための超音波プローブ21と、血栓位置に経皮的に挿入されるカテーテル22と、カテーテル22の先端外周に装着された超音波トランスデューサ23と、システム本体25からなる。システム本体25は、超音波照射器20と超音波プローブ21および超音波トランスデューサ23に接続され、超音波プローブ21により得られる断層像情報および超音波トランスデューサ23により得られる血管横断面の断層像情報を画像化すると共に、超音波トランスデューサ23の位置を表示し、かつ血栓に照射する超音波を制御する機能を有する。」と記載されている。
そして、複合圧電材をどのような用途に使用するかは当業者が適宜なし得る選択的事項にすぎないことから、引用発明の「複合圧電材」を周知の技術分野である映像カテーテルに用いて、本願補正発明のごとく、変換器要素が、「映像カテーテルに使用するための変換器要素」とすることは、当業者であれば容易になし得るものである。

・相違点(い)について
引用発明では、超音波の発信を行う複合圧電材を配置する際に、圧電セラミクス2の体積分率が厚み方向に連続的に変化した柱状構造体をそれぞれ離間して配置しているが、超音波の発信を行う複合圧電材において、テーパ状に形成された複数の柱状構造体の広い断面側全体を合体させて構成することは周知である。
例えば、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-1)に、
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は一般に超音波プローブに関し、更に詳細には音響画像用の超音波プローブに関する。」と記載され、同(3B-3)に、「【0007】・・・各高重合体圧電素子は圧電材料と重合体材料との複合ブロックから構成されている。たとえば、図15は典型的な圧電複合変換器の断面図である。」と記載され、同(3B-5)に、
「【0061】他の代わりの実施例では、急変する「階段」パターンの代りに、滑らかな溝輪廓をエッチして、圧電セラミック素子に、広い周波数応答または改善された音響感度のような、高揚した音響性能を与えている。たとえば、このような代りの実施例は、各々が滑らかな「V」輪廓を有して圧電セラミック素子の前面に突入している溝を備えている。」と記載されている。
また、特開平4-273698号公報に、
「【0022】図3は、本発明の他の実施例に係る超音波探触子の断面図である。この実施例では、複合圧電体層14が多層構造とされている。すなわち、複合圧電体層14は図の例では3層構造からなり、音響マッチング層18側に近い層ほど樹脂材料部17の割合が多くなっている。従って、複合圧電体層14は音響マッチング層18側ほど音響インピーダンスが小さい。このような構造の超音波探触子は、圧電振動子をダイシングするダイヤモンドブレードの厚さと切断深さを変えることで容易に作製できる。
・・・
【0024】図4は、本発明のさらに別の実施例に係る超音波探触子の断面図である。この実施例では図3の実施例と異なり、複合圧電体層14における樹脂材料部17の割合を厚さ方向に連続的に変化させて、その音響インピーダンスを音響マッチング層18側ほど小さくしている。このような複合圧電体層14は、圧電セラミック材料部16に形成する溝の形状を楔形とすることで実現できる。・・・」と記載されている。
また、同公報の図3、図4には、複数の圧電セラミック材料部16の広い断面側全体が圧電セラミック層13で合体されていることが描かれている。
そうすると、引用発明も上記周知のものもともに、複数のテーパ状の圧電セラミックからなる柱状構造体からなる超音波の発信を行う複合圧電材である点で共通することから、引用発明において、圧電セラミクス2の体積分率が厚み方向に連続的に変化した柱状構造体をそれぞれ離間して配置する代わりに、上記周知例のごとく、テーパ状に形成された複数の柱状構造体の広い断面側全体を合体させる構成を採用して、圧電セラミクス2の体積分率が厚み方向に連続的に変化した柱状構造体の広い断面側全体を合体させるようにし、本願補正発明のごとく、「前記複数のピラーが合体して前記第1の変換器表面全体を形成」するように構成することは当業者が容易になし得るものである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものであって、格別のものでない。

なお、請求人は、回答書において、「特に、引用例4は、圧電的に活性のバルク層を開示し、その上に、圧電的に不活性の溝付き構造が形成されます。仮に引用例4を修正して、引用例1に記載された圧電的に活性なピラミッド構造を導入したとすると、装置の動作が劇的に変化します。当業者は、そのような装置の動作の劇的な変化を生じさせる組合せを行うとは考えられません。
また、当業者は、引用例1を修正して、引用例4のバルク層を追加することもないと考えます。そのようにすると、引用例1の段落[0003]に記載されている1-3連結体の利点が失われるからです。」旨の主張をしているので、この請求人の主張について検討する。
上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)に、
「【0004】・・・一般に、音響インピーダンスの異なる材料の界面に超音波が入射する場合、超音波の反射が生じ、伝播効率が低下する。・・・」と記載され、又、同(3A-4)に、
「【0024】このように本実施例においては、圧電セラミクス(圧電材料)2を含む複数の材料から構成される板状の複合圧電材1において、各材料の構成比率を厚み方向に連続的に変化させた。即ち、柱状構造体を有し、その柱状構造体の断面積が厚み方向に連続的に変化させた。【0025】・・・板状の複合圧電材1において、音響インピーダンスの大きい材料と接する側はPZT等の圧電セラミクス2の体積分率を増加させて、音響インピーダンスを大きくする。一方、音響インピーダンスの小さい材料と接する側はPZT等の圧電セラミクス2の体積分率を小さくする。この結果、板状の複合圧電材1の前面と背面との両界面での音響インピーダンスの不連続は無くなる。」と記載されていることから、引用発明の、圧電セラミクス2からなる柱状構造体の音響インピーダンスの小さい材料からの発生する超音波は、異なる材料の界面での反射がなくなる、すなわち、圧電セラミクス2からなる柱状構造体の断面積が小さく、音響インピーダンスの小さい材料から超音波が発生することを含むことは明らかである。
他方、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-4)に、
「【0028】・・・アレイの各圧電セラミック素子により発生されるそれぞれの音響信号はそれぞれの不活性の圧電セラミック層から共に、検査中の身体の媒体に伝えられる音響ビームとして発生する。」と記載されていることから、引用刊行物Bの不活性の圧電セラミック層から身体の媒体に音響ビーム、すなわち超音波が発生することは明らかであり、さらに、不活性の圧電セラミック層が、同(3B-5)の段落【0061】に記載の「急変する『階段』パターン」であっても、また、「各々が滑らかな『V』輪廓を有して」いる場合も同様に、断面積の小さい圧電セラミック層から超音波が発生することは明らかである。そして、上記周知例の特開平4-273698号公報の【請求項1】に、「圧電セラミック材料と樹脂材料とからなる複合圧電体層を含む圧電振動子を有し、該圧電振動子の一方の面を超音波送受波面とする超音波探触子において、前記圧電振動子は、前記超音波送受波面側の音響インピーダンスが超音波送受波面と反対側のそれより小さいことを特徴とする超音波探触子。」と記載されていることから、音響インピーダンスの小さい圧電振動子側から超音波が発生することを含むことは明らかである。
そうすると、引用発明の複合圧電材の構造も上記引用刊行物Bに記載された周知の技術の複合圧電材の構造もともに、音響インピーダンスの小さい圧電振動子側から超音波が発生することを含む複合圧電材の構造である点で共通することから、引用発明の複合圧電材の構造として、上記引用刊行物Bに記載された周知の技術を採用することに何ら阻害要因が存在しないものであり、請求人の主張は採用できないものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) 補正却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年1月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?28に係る発明は、平成22年8月10日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?28に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2 (1)」の「ア 本件補正前の請求項1」に記載した以下のとおりのものである。

「【請求項1】その間で厚さを決めている第1(14、104)および第2(20、102)の変換器表面と、
前記第1および第2の変換器表面の間を延び、圧電材料からなり、テーパが付けられた複数のピラー(16、50、60、70、112)とを備え、前記ピラーの少なくとも1つが、前記第2の変換器表面の第2の断面より広い第1の断面を前記第1の変換器表面に有する、映像カテーテルに使用するための変換器要素(10、80、90、100)であって、
前記複数のピラーが合体して前記第1の変換器表面(14、104)全体を形成し、前記第2の変換器表面の音響インピーダンスが、前記第1の変換器表面の音響インピーダンスより小さいことを特徴とする変換器要素。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は上記「第2 2 (3)」の(ア)に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断
上記「第2 2 (3)」の(イ)で検討した本願補正発明は、上記本願発明の「テーパが付けられた複数のピラー(16、50、60、70、112)」の構成に、「前記複数のピラーは、超音波信号を発生させるように構成され、」という構成を付加することにより、本願発明の本件補正前の請求項1に係る発明の「テーパが付けられた複数のピラー(16、50、60、70、112)」の構成を、さらに、限定し、特定して特許請求の範囲を減縮するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに減縮したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2 (3)」の(イ)において検討したとおり、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件出願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-27 
結審通知日 2011-10-31 
審決日 2011-11-11 
出願番号 特願2001-510597(P2001-510597)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 横井 亜矢子
信田 昌男
発明の名称 インピーダンス整合変換器  
代理人 渡邊 徹  
代理人 松下 満  
代理人 井野 砂里  
代理人 弟子丸 健  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 倉澤 伊知郎  

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