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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1254811
審判番号 不服2010-28570  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-17 
確定日 2012-04-06 
事件の表示 特願2004-561009「電気機械」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日国際公開、WO2004/057729、平成18年 3月30日国内公表、特表2006-511185〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年7月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年12月19日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成20年11月13日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成21年5月21日付けで意見書及び手続補正書が提出され、これに対し、平成21年9月24日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成22年4月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものの、これに対し、平成22年8月10日付けで補正の却下の決定がされるとともに、拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年12月17日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.平成22年12月17日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「電気的な機械、特に電気モータであって、ケーシング(2)と該ケーシング(2)を閉鎖するカバー(3,4)とを有し、該カバー(3,4)にロータ(5)を回転可能に支承するためのA軸受(8)とB軸受(7)とが配置されている形式のものにおいて、A軸受(8)とB軸受(7)との少なくとも1つの軸受シェル(7.1,7.2,8.1,8.2)をそれぞれ軸方向に作用する押圧力で負荷するばねエレメント(7.3,8.3)が設けられており、それぞれ1つのばねエレメント(7.3,8.3)により負荷された軸受シェル(7.1,7.2,8.1,8.2)が滑り座として構成されており、A軸受(8)とB軸受(7)との外側の軸受シェル(7.1,8.2)が前記カバー(3,4)に配置され、A軸受(8)とB軸受(7)の内側の軸受シェル(7.2,8.1)が滑り座でロータ(5)の軸に支承され、A軸受(8)とB軸受(7)の内側の軸受シェル(8.1,7.2)がそれぞれ1つのばねエレメント(7.3,8.3)によって押圧力で軸方向に負荷されており、ロータ(5)が軸受(7,8)の間の中間位置で安定するようにばねエレメント(7.3,8.3)のばね力が反対に向けられていることを特徴とする、電気機械。」
と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ばねエレメント(7.3,8.3)」を「それぞれ1つのばねエレメント(7.3,8.3)」と限定し、ばねエレメントの作用とその力の方向を特定するために「ロータ(5)が軸受(7,8)の間の中間位置で安定するようにばねエレメント(7.3,8.3)のばね力が反対に向けられている」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭64-16236号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「2.特許請求の範囲
(1) 特にディスクドライブのアクチュエータに使用されるようになったステップモータであって、
モータハウジングと、
ハウジングの内部のステータと、
ステータに対して移動可能であり且つモータ軸に固定され、前記モータ軸を駆動するために前記モータに加えられるパルスに応答するロータと、
前記軸を回転可能に支持するボールベアリングと、
前記ボールベアリングを半径方向の変形に抗してしっかりと支持するものであって、前記ボールベアリングを囲みモータハウジングとベアリングの外レースとの間の半径方向の空間を充填する手段と、
前記モータ軸の重要でない僅かな軸線方向の変形を許容するが前記モータ軸を重要な半径方向の変形を拘束するため、前記ベアリングを軸線方向の変形に抗して弾性支持する手段とを含むことを特徴とするステップモータ。」(特許請求の範囲(1))

・「(3) 半径方向に間隔を隔てたデータトラックをもつディスクに対して少なくとも1つの磁気ヘッドを位置決めするためのキャリッジと、ハウジングをもったモータと、ボールベアリングによって支持され且つハウジングの環状包囲部分の内部に位置決めされた駆動軸と、前記駆動軸と前記キャリッジとの間に接合され、前記ディスクに対して支持された前記キャリッジ及びトランスデューサを位置決めするためのバンドと、前記ボールベアリングを前記ハウジングに向かう半径方向の変形に抗してしっかりと支持するための手段とを有するディスクドライブにおいて、
前記ボールベアリングをしっかりと支持するための前記手段は、ボールベアリングの外レースと前記ハウジングのエンドベルとの間の前記ボールベアリングの各々を囲む硬質エラストマーのリングと、前記ベアリングを軸線方向において弾性的に負荷を及ぼし、前記バンドに加えられる力に応答して前記ロータ及び前記ベアリングの重要でない僅かな軸線方向の変形を許容するための手段とを含むことを特徴とするディスクドライブ。
(4) ボールベアリングを弾性的に負荷するための前記手段は、前記ボールベアリングの外レースと前記ハウジングのエンドベルの壁との間に置かれたプレロードばねからなることを特徴とする請求項(3)記載のディスクドライブ。」(特許請求の範囲(3)、(4))

・「〔問題点を解決するための手段〕
本発明のこれらの及びその他の目的は、ハウジングと、これの内部に置かれたステータと、バンドを巻いたり解いたりしこれによりキャリッジを位置決めするため、モータ軸を駆動するステータに対して位置決めできるロータとをもったステップモータを有する電磁アクチュエータを提供することによって達成される。駆動軸は、軸を回転可能に支持するボールベアリングを通過している。ボールベアリング自体は、ベアリングの溝を構成するモータハウジングの環状のエンドベル部分に嵌まり込んでいる。」(公報3頁右上欄14行?左下欄5行)

・「次いで、ロータの両側のエンドベルの内部端壁とベアリングの両方の外レースとの間に、プレロードばねを据え付ける。これらのばねの据え付けはロータを効果的に浮動させ、半径方向の変形を最小にしたり或いは半径方向の変形部品を除去したりした状態で、軸線方向におけるロータの僅かな変形を許容する。
」(公報3頁左下欄8行?左下欄14行)

・「ディスクドライブに通常使用されているようなステップモータ10が、第2図に示されている。全体として37で示すモータロータはモータハウジング11の内部に軸12で支持され、この軸に2つのベアリング30の内レースが固定されている。2つのスペーサリング40が、ロータ37を軸12に位置決めするのに役立つ。ベアリング30の各々の外レースは、エンドベル39に取り付けられている。ステータ38はエンドベル39間にクランプされている。モータのハウジングの両方のエンドベルに溝をあけることによって、ステップモータを改造する。次いで、ベアリング30の各々の内レースを軸12にプレス嵌めする。
この段階の後、ベアリング30の各々の端部とモータハウジングのエンドベル39の内壁との間にプレロードばね36を据え付ける。最後に、ベアリング30の外レースを支持するために、エラストマー33をモータエンドベルの溝34に注入する。この注入されたエラストマー33はベアリングの外レースを囲むリングを形成し、モータハウジング11とモータベアリングとの間の溝によって定められた空間を満たす。
装置の作動を以下に示す。ベアリング30の外レースとエンドベル39の内壁との間のエラストマーは、バンドからの力或いは衝撃と振動によるロータの半径方向の変形を防止する。これは、エラストマーがエンドベル39の溝34の中に捕捉されているからである。従って、溝34の一方の側壁を構成するベアリングの外レースは、半径方向においてきわめて剛に保持されている。しかしながら、ロータ37は、軸線方向に加えられた荷重に応答して、軸線方向において移動することができる。これは、エラストマーが僅かな軸線方向の運動を許すからである。2つのプレロードばね36は加えられた荷重に抗して、過度の運動を防止する。従って、ロータ38は軸線方向で移動して、バンド及びプーリ装置の調整不良及び回転振れを補整することができる。」(公報4頁左上欄13行?左下欄11行)

・図2には、2つのプレロードばね36のそれぞれ1つがボールベアリング30の外レースとエンドベル39の壁との間に置かれている点が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ステップモータ10であって、エンドベル39を有し、モータ軸12に固定されたモータロータ37と前記モータ軸12を回転可能に支持する2つのボールベアリング30であって、ボールベアリング30自体は、ボールベアリング30の溝を構成するモータハウジングの環状のエンドベル39部分に嵌まり込んでいる形式のものにおいて、2つのボールベアリング30を軸線方向において弾性的に負荷を及ぼす2つのプレロードばね36のそれぞれ1つがボールベアリング30の外レースとハウジングのエンドベル39の壁との間に置かれており、モータロータ37が支持されている駆動軸12に2つのボールベアリング30の内レースが固定され、モータロータ37は、軸線方向に加えられた荷重に応答して、軸線方向において移動することができ、ボールベアリング30の各々の外レースは、エンドベル39に取り付けられるステップモータ10。」

(2-2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-354746号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】この種の直流モータは、図4(イ)(ロ)にその一例の概略を示す如く、有底の中空円筒状としたケース本体2と該ケース本体2の先端開口部を塞ぐように取り付けるエンドキャップ3とからなるモータケース1内に、複数の磁極4にそれぞれコイル5を巻回させてなる電機子6と、絶縁材製のスリーブ7を介して周方向に配列した整流子8とが同軸上に並べて固定してある回転軸9を収納させて、該回転軸9の負荷側と反負荷側の両端部を、上記モータケース1の両端面部であるエンドキャップ3とケース本体2の底部に組み付けたラジアルボールベアリング10に回転自在に支持させて、負荷側軸端部をエンドキャップ3から外部へ長く突出させるようにし、且つ上記ケース本体2の内面に、S極とN極の界磁磁極となる永久磁石11を、上記電機子6の外側に所要の隙間が保持されるように非接触に対向配置して固定し、更に、上記エンドキャップ3の内周面に、一対のブラシ12を、上記整流子8と接するように対向配置してブラシホルダー13を介し固定した構成として、直流電流をブラシ12から整流子8を通して電機子6のコイル5に流すようにすることにより、永久磁石11と電機子6の磁極4との間で反発、吸着を繰り返し行わせるようにして、電機子6を回転させて回転軸9を回転させるようにしてあり、又、電機子電圧を制御することで回転軸9の回転数を変えることができるようにしてある。14はスリーブ7の端面とエンドキャップ3のボールベアリング10との間及び回転軸9の段付部9aとケース本体2の底部のボールベアリング10との間の隙間を埋めるために適宜配置するようにしたリング状のシムプレートを示す。」

・「【0004】すなわち、上記直流モータにおいて、回転軸9を支持するために用いられているボールベアリング10は、図4(ロ)に拡大して示す如く、インナーレース10aとアウターレース10bの間に多数のボール10cを転動自在に保持させた構造となっていて、インナーレース10a及びアウターレース10bとボール10cとの間には組付公差(たとえば、0.2?0.4μm)が存在するため、回転数が上昇するに連れ、上記組付公差に基づくがた付きがスラスト方向の振動成分として大きく発達して回転エネルギーロスが発生する結果、本来は電機子電圧に比例するはずの回転数の上昇率が途中で頭打ちになり、たとえば、60000rpm以上の回転数が得られる機能を有する高速回転用直流モータであっても、55000rpm程度までしか回転数を上昇させることができないという問題がある。
【0005】又、ボールベアリング10のインナーレース10aの内径面と回転軸9との間にも、組立上必要な径方向の微小隙間が存在するため、この微小隙間に基いてラジアル方向に振動が発生することがあり、このラジアル方向の振動も回転数の上昇率を頭打ちさせる一因となっていた。
【0006】そこで、本発明は、モータケースに組み付けられているボールベアリングの組付公差に基づくがた付きを抑えて、回転軸の回転数の上限値を高めることができるようにしょうとするものである。」

・「【0011】図1(イ)(ロ)は本発明の実施の一形態を示すもので、図4(イ)(ロ)に示したと同様に、電機子6と整流子8が同軸上に並べて固定してある回転軸9を、モータケース1の両端面部となるエンドキャップ3とケース本体2の底部に組み付けてある負荷側と反負荷側のボールベアリング10に回転自在に支持させるようにしてある小型の高速回転用直流モータにおいて、上記モータケース1内に位置する回転軸9上の負荷側と反負荷側のボールベアリング10と隣接する各部位に、それぞれのOリング15を装着し、且つ該各Oリング15を、負荷側と反負荷側のボールベアリング10のインナーレース10aの内側面にそれぞれ1枚のシムプレート14を介し押し当てるようにして、インナーレース10aにスラスト方向の押付力を付与するようにする。
【0012】図1(イ)(ロ)において、図4(イ)(ロ)と同一部分には同一符号が付してある。
【0013】かかる構成としてあるため、負荷側と反負荷側のボールベアリング10には、共にインナーレース10aに対し、Oリング15の弾発力に基づくスラスト方向の押付力が回転軸9の端の方向へ向けて付与されることになるため、ボールベアリング10の組付公差に基づくがた付きを吸収することができる。したがって、回転軸9は、高速回転させてもスラスト方向に振動することがなく、電機子電圧の値に比例した回転数で安定した回転を行うことになり、従来の直流モータの場合よりも回転数の上限値を高くすることができる。」

・「【0018】
【発明の効果】以上述べた如く、本発明の直流モータによれば、モータケースの両端面部に組み付けたボールベアリングに、回転軸の両端部を回転自在に支持させるようにしてある直流モータにおいて、上記モータケース内に位置する回転軸上の少なくとも一方のボールベアリングに隣接する部位に、該ボールベアリングのインナーレース内側面に押し当てるようにしてOリングを装着してなる構成としてあるので、ボールベアリングの組付公差に基づく回転軸のスラスト方向の振動を抑えることができ、これにより、回転軸の回転数の上限値を高めることができて、性能向上を図ることができ、・・・。」

・図1(ロ)には、2つのインナーレース10aが回転軸9の端の方向へ向けて移動した点が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、(1)「ケース本体2と該ケース本体2の先端開口部を塞ぐように取り付けるエンドキャップ3を設ける」点、(2)【0005】の「ボールベアリング10のインナーレース10aの内径面と回転軸9との間にも、組立上必要な径方向の微小隙間が存在する」との記載、及び、図1(ロ)に、2つのインナーレース10aが回転軸9の端の方向へ向けて移動している点が示されていることから、「回転軸のスラスト方向の振動を抑えるために、軸方向に移動可能なインナーレース10aを滑り座として構成し、負荷側と反負荷側のボールベアリング10のインナーレース10aが滑り座で回転軸9に支承され、インナーレース10aをOリング15の弾発力に基づくスラスト方向の押付力で負荷している」点が開示されているものと認められる。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その作用・機能からみて、後者の「ステップモータ10」が前者の「電気的な機械、特に電気モータ」及び「電気機械」に相当する。

また、後者の「エンドベル39」が前者の「カバー」に相当するので、後者の「エンドベル39を有(し)」する態様と前者の「ケーシングと該ケーシングを閉鎖するカバーとを有(し)」する態様とは、「カバーを有(し)」するとの概念で共通する。

さらに、後者の「モータロータ37」及び「モータ軸12に固定されたモータロータ37」が前者の「ロータ」に相当し、以下同様に「支持する」態様が「支承する」態様に、「2つのボールベアリング30」が「A軸受とB軸受」に、「嵌まり込んでいる」態様が「配置されている」態様にそれぞれ相当し、後者のモータロータ37は回転可能に支持されているモータ軸12に固定されていることから、モータロータ37も回転可能に支持されているといえるので、結局、後者の「モータ軸12に固定されたモータロータ37と前記モータ軸12を回転可能に支持する2つのボールベアリング30であって、ボールベアリング30自体は、ボールベアリング30の溝を構成するモータハウジングの環状のエンドベル39部分に嵌まり込んでいる形式のもの」は前者の「カバーにロータを回転可能に支承するためのA軸受とB軸受とが配置されている形式のもの」に相当する。

そして、後者の「外レース」が前者の「軸受シェル」及び「少なくとも1つの軸受シェル」に相当し、以下同様に「軸線方向」が「軸方向」に、「プレロードばね36」が「ばねエレメント」にそれぞれ相当し、後者の「弾性的に負荷を及ぼす」態様は、弾性的な力で負荷を及ぼすことが明らかであるから、前者の「押圧力で負荷する」態様とは、「力で負荷する」との概念で共通し、後者の「2つのプレロードばね36のそれぞれ1つがボールベアリング30の外レースとハウジングのエンドベル39の壁との間に置かれて(おり)」いる態様が、前者の「ばねエレメントが設けられて(おり)」いる態様に相当し、後者のそれぞれ1つのプレロードばね36が2つのボールベアリング30の外レースを負荷しているのは明らかであるので、結局、後者の「2つのボールベアリング30を軸線方向において弾性的に負荷を及ぼす2つのプレロードばね36のそれぞれ1つがボールベアリング30の外レースとハウジングのエンドベル39の壁との間に置かれて(おり)」いる態様と前者の「A軸受とB軸受との少なくとも1つの軸受シェルをそれぞれ軸方向に作用する押圧力で負荷するばねエレメントが設けられて(おり)」いる態様とは、「A軸受とB軸受との少なくとも1つの軸受シェルをそれぞれ軸方向に作用する力で負荷するばねエレメントが設けられて」いるとの概念で共通する。

また、上記のように、後者の2つのボールベアリング30の外レースは、それぞれ1つのプレロードばね36により負荷されるものであり、そして、後者においては「モータロータ37が支持されている駆動軸12に2つのボールベアリング30の内レースが固定され、モータロータ37は、軸線方向に加えられた荷重に応答して、軸線方向において移動することができ」ることから、後者の外レースは軸方向において移動可能であるものと認められ、一方、本願補正発明における軸受シェルは、滑り座として構成されているので、引用発明と同様に軸方向において移動可能であるものと認められるので、結局、後者における「モータロータ37が支持されている駆動軸12に2つのボールベアリング30の内レースが固定され、モータロータ37は、軸線方向に加えられた荷重に応答して、軸線方向において移動することができ」る態様と前者における「それぞれ1つのばねエレメントにより負荷された軸受シェルが滑り座として構成されて」いる態様とは、「それぞれ1つのばねエレメントにより負荷された軸受シェルが軸方向に移動可能に構成されて(おり、)」いるとの概念で共通する。

さらに、後者の「取り付けられ」る態様が前者の「配置され」る態様に相当するので、後者の「ボールベアリング30の各々の外レースは、エンドベル39に取り付けられ」る態様が前者の「A軸受とB軸受との外側の軸受シェルがカバーに配置され」る態様に相当する。

そして、後者の「駆動軸12」が前者の「ロータの軸」に相当し、以下同様に「内レース」が「内側の軸受シェル」に、「固定され」る態様が「支承される」態様にそれぞれ相当するので、後者の「モータロータ37が支持されている駆動軸12に2つのボールベアリング30の内レースが固定され」る態様と前者の「A軸受とB軸受の内側の軸受シェルが滑り座でロータの軸に支承され」る態様とは、「A軸受とB軸受の内側の軸受シェルがロータの軸に支承され」るとの概念で共通する。

最後に、後者のプレロードばね36は、ロータを浮動させるものであり(明細書3頁左下欄11行?12行を参照。)、上記のように、2つのボールベアリング30の外レースはそれぞれ1つのプレロードばね36によって軸方向に作用する力で負荷されているので、モータロータ37が2つのボールベアリング30の中間位置で安定するようにプレロードばね36のばね力は反対に向けられているものと認められる。したがって、後者の「2つのボールベアリング30を軸線方向において弾性的に負荷を及ぼす2つのプレロードばね36のそれぞれ1つがボールベアリング30の外レースとハウジングのエンドベル39の壁との間に置かれて(おり)」いる態様と前者の「A軸受とB軸受の内側の軸受シェルがそれぞれ1つのばねエレメントによって押圧力で軸方向に負荷されており、ロータが軸受の間の中間位置で安定するようにばねエレメントのばね力が反対に向けられている」態様とは、「A軸受とB軸受の軸受シェルがそれぞれ1つのばねエレメントによって軸方向の力で軸方向に負荷されており、ロータが軸受の間の中間位置で安定するようにばねエレメントのばね力が反対に向けられている」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「電気的な機械、特に電気モータであって、カバーを有し、該カバーにロータを回転可能に支承するためのA軸受とB軸受とが配置されている形式のものにおいて、A軸受とB軸受との少なくとも1つの軸受シェルをそれぞれ軸方向に作用する力で負荷するばねエレメントが設けられており、それぞれ1つのばねエレメントにより負荷された軸受シェルが軸方向に移動可能に構成されており、A軸受とB軸受との外側の軸受シェルが前記カバーに配置され、A軸受とB軸受の内側の軸受シェルがロータの軸に支承され、A軸受とB軸受の軸受シェルがそれぞれ1つのばねエレメントによって軸方向の力で軸方向に負荷されており、ロータが軸受の間の中間位置で安定するようにばねエレメントのばね力が反対に向けられている電気機械。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明においては、「ケーシングと該ケーシングを閉鎖するカバーとを有し」ているのに対し、引用発明においては、「カバー」を有しているものの、ケーシングの有無及びケーシングとカバーの関係が不明な点。
[相違点2]
軸受シェルを負荷する力に関し、本願補正発明においては「押圧力」であるのに対し、引用発明においては「力」の方向(「押圧力」あるいは「引張力」なのか)が不明な点。
[相違点3]
軸方向に移動可能な軸受シェルに関し、本願補正発明においては、軸受シェルが「滑り座」として構成されているのに対し、引用発明においては軸受シェルが「滑り座」として構成されているかが不明な点。
[相違点4]
A軸受とB軸受の内側の軸受シェルがロータの軸に支承される態様に関し、本願補正発明では、「滑り座」で支承されるのに対し、引用発明においては、「固定」により支承される点。
[相違点5]
ばねエレメントによって負荷される軸受シェルに関し、本願補正発明においては、「内側の軸受シェル」を「押圧力」で負荷しているのに対し、引用発明においては、「力」が負荷されている軸受シェルが「外側の軸受シェル」であり、その「力」の方向(「押圧力」あるいは「引張力」なのか)が不明な点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。
・相違点1について
例えば、引用例2に開示されているように、ケーシング(「ケース本体2」が相当)と該ケーシングを閉鎖するカバー(「該ケース本体2の先端開口部を塞ぐように取り付けるエンドキャップ3」が相当)とを設けることは、電気モータの技術分野における常套手段である。
そうすると、引用発明において、かかる常套手段を採用することにより、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点2、相違点3、相違点4、相違点5について
例えば、引用例2に開示されているように、回転軸のスラスト方向の振動を抑えるために、軸方向に移動可能な軸受シェル(インナーレース10a)を滑り座として構成し(相違点3に対応)、A軸受とB軸受(負荷側と反負荷側のボールベアリング10)の内側の軸受シェル(インナーレース10a)が滑り座でロータの軸(回転軸9)に支承され(相違点4に対応)、内側の軸受シェル(インナーレース10a)を押圧力(Oリング15の弾発力に基づくスラスト方向の「押付力」が相当)で負荷すること(相違点2、相違点5に対応)は、電気モータの技術分野における周知技術である。

ここで、引用発明は、ロータを軸線方向において僅かに運動させるためのものであるから、回転軸のスラスト方向の振動を抑えることも要求されているといえる。

そうすると、引用発明において、かかる周知技術を採用することにより、相違点2、相違点3、相違点4、相違点5に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、上記相違点を併せ備えた本願補正発明の作用効果について検討してみても、引用発明、上記常套手段及び上記周知技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとは言えない。
したがって、本願補正発明は、引用発明、上記常套手段及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願の発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成21年5月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「電気的な機械、特に電気モータであって、ケーシング(2)と該ケーシング(2)を閉鎖するカバー(3,4)とを有し、該カバー(3,4)にロータ(5)を回転可能に支承するためのA軸受(8)とB軸受(7)とが配置されている形式のものにおいて、A軸受(8)とB軸受(7)との少なくとも1つの軸受シェル(7.1,7.2,8.1,8.2)をそれぞれ軸方向に作用する押圧力で負荷するばねエレメント(7.3,8.3)が設けられており、それぞれ1つのばねエレメント(7.3,8.3)により負荷された軸受シェル(7.1,7.2,8.1,8.2)が滑り座として構成されており、A軸受(8)とB軸受(7)との外側の軸受シェル(7.1,8.2)が前記カバー(3,4)に配置され、A軸受(8)とB軸受(7)の内側の軸受シェル(7.2,8.1)が滑り座でロータ(5)の軸に支承され、A軸受(8)とB軸受(7)の内側の軸受シェル(8.1,7.2)がばねエレメント(7.3,8.3)によって押圧力で軸方向に負荷されていることを特徴とする、電気機械。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載内容は、上記「2.(2)引用例」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.(1)補正後の本願の発明」で検討した本願補正発明の「それぞれ1つのばねエレメント(7.3,8.3)」に対しての「それぞれ1つの」という限定、「ロータ(5)が軸受(7,8)の間の中間位置で安定するようにばねエレメント(7.3,8.3)のばね力が反対に向けられている」という限定を省いたものである。
そうすると、本願発明を特定する事項の全てを含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3)対比」及び「2.(4)判断」に記載したとおり、引用発明、上記常套手段及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、上記常套手段及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-07 
結審通知日 2011-11-11 
審決日 2011-11-22 
出願番号 特願2004-561009(P2004-561009)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 田村 嘉章
神山 茂樹
発明の名称 電気機械  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 高橋 佳大  
代理人 星 公弘  
代理人 二宮 浩康  
代理人 篠 良一  
代理人 久野 琢也  

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