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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1254847
審判番号 不服2010-22510  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-06 
確定日 2012-04-05 
事件の表示 特願2006-511103「キャリア残留型信号の生成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月29日国際公開、WO2005/091532〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2004年3月22日を国際出願日とする出願であって、平成22年7月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審により平成23年10月19日付けで拒絶理由を通知し、同年12月26日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について
本願請求項1?4に係る発明は、平成23年12月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
特定波長を有する光波を発生する光源と、SSB光変調器と該SSB光変調器の入力部と出力部とを結ぶバイパス用光導波路とを同一基板上に形成した光変調部とを有し、
該光源から出射する光波を該光変調部へ入射し、該光変調部より出射する光波が、0次のベッセル関数に係るキャリア成分と特定の高次のベッセル関数に係る特定信号成分とを含み、該特定の高次のベッセル関数以外の信号成分を抑圧すると共に、該キャリア成分と該特定信号成分の光強度の比率が略1に設定され、
該SSB光変調器は、2つのサブ・マッハツェンダー型光導波路をメイン・マッハツェンダー型光導波路の分岐導波路に入れ子型に組み込むものであり、
該SSB光変調器を構成する2つのサブ・マッハツェンダー型光導波路又はメイン・マッハツェンダー型光導波路は、各マッハツェンダー型光導波路内の2つの分岐導波路と該分岐導波路に変調電界又は直流バイアス電界を印加する電極との配置が、該2つの分岐導波路に対して非対称構造を有する部分を備えることを特徴とするキャリア残留型信号の生成装置。」


3.引用発明
特開2004-80409号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(a)第2頁?第3頁
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無線変調信号を基地局からリモートアンテナ局まで光ファイバ伝送し、前記リモートアンテナ局において、前記受信した光信号を光電気変換することで、アンテナより端末機に無線送信する無線光融合通信システムおよび無線光融合通信方法に関するものである。」

(b)第6頁
「【0024】
【発明の実施の形態】
図1は本発明における第1の実施例である無線光融合通信システムの構成を説明するための概略図である。図2(a)および(b)は光周波数軸上における発振周波数f_(01)、発振周波数f_(02)、中間周波数f_(IF)、無線周波数f_(RF)の関係を説明するための図である。図1において、無線光融合通信システムは、基地局123と、リモートアンテナ局130と、前記基地局123と前記リモートアンテナ局130とを接続する光ファイバ伝送路129と、無線端末機134とから構成されている。
【0025】
前記基地局123は、発振周波数f_(01)で単一モード発振するレーザ光源124と、前記レーザ光源124の発振周波数f_(01)と所望の間隔となる無線周波数f_(RF)に対応している発振周波数f_(02)を発振するレーザ光源125と、情報信号DATAで変調された中間周波数(IF)帯変調信号を発生する中間周波数帯信号(IF)発生器126と、変調器127と、光混合器128とから構成されている。
【0026】
基地局123において、発振周波数f_(01)で単一モード発振するレーザ光源124の出力は、キャリア非抑圧型の光単側波帯(光SSB)変調器127に入力される。また、当該変調器127には、中間周波数帯信号発生器126によって生成された中間周波数f_(IF)の中間周波数帯信号(IF)が変調信号として入力される。この結果、図2(a)に示すような、光周波数軸上で光キャリアがSSB変調された信号光(f_(01)+f_(IF))を得る。
【0027】
なお、本実施例では、キャリア非抑圧型の光単側帯波(光SSB)変調器127に中間周波数帯信号を入力することで、キャリア残留型光SSB信号を得ているが、光変調器としてキャリア非抑圧型の光両側帯波(光DSB)変調器を用いて、キャリア残留型光DSB信号を得ても、以降同様の効果が得られる。また、キャリア残留型光DSB信号を得る方法としても図1のように光源の外部に変調器を設けるのではなく、直接中間周波数帯信号で光源を変調させることも可能である。
【0028】
前記信号光(f_(01)+f_(IF))と、前記発振周波数f_(01)とは異なる発振周波数f_(02)で、単一モード発振するレーザ光源125の出力光が光混合器128に入力されて混合される。前記光混合器128の出力は、光ファイバ伝送路129によってリモートアンテナ局130まで伝送される。この時のリモートアンテナ局130で受信された光信号スペクトラムは、図2(b)に示されているように、発振周波数f_(01)と発振周波数f_(02)との間隔は、所望のRF周波数f_(RF)に対応している。」

したがって、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「基地局123において、発振周波数f_(01)で単一モード発振するレーザ光源124の出力は、キャリア非抑圧型の光単側波帯(光SSB)変調器127に入力され、
また、当該キャリア非抑圧型の光単側帯波(光SSB)変調器127には、情報データで変調された中間周波数f_(IF)の中間周波数帯信号(IF)を変調信号として入力することでキャリア残留型光SSB信号を得て、
キャリア残留型光SSB信号と、前記発振周波数f_(01)とは異なる発振周波数f_(02)で、単一モード発振するレーザ光源125の出力光が光混合器128に入力されて混合され、前記光混合器128の出力は、光ファイバ伝送路129によってリモートアンテナ局130まで伝送する無線光融合通信システム。」

4.本願発明と引用発明1の一致点・相違点
引用発明1の「発振周波数f_(01)」は、特定の波長(c/f_(01):cは光速)を有するものであり、本願発明の「特定波長」に相当する。

引用発明1の「発振周波数f_(01)で単一モード発振するレーザ光源124」は、本願発明の「特定波長を有する光波を発生する光源」に相当する。

引用発明1の「レーザ光源124の出力」が入力される「キャリア非抑圧型の光単側波帯(光SSB)変調器127」は、本願発明の「光変調部」と「光源から出射する光波」が入射されている点で共通する。

引用発明1の「レーザ光源124」及び「キャリア非抑圧型の光単側波帯(光SSB)変調器127」から構成される「装置」は、キャリア残留型光SSB信号を発生しているから、本願発明の「キャリア残留型信号の生成装置」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明1の一致点・相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「特定波長を有する光波を発生する光源と、光変調部とを有し、
該光源から出射する光波を該光変調部へ入射する、キャリア残留型信号の生成装置。」

[相違点1]
本願発明では、光変調部の「SSB変調器」が、2つのサブ・マッハツェンダー型光導波路をメイン・マッハツェンダー型光導波路の分岐導波路に入れ子型に組み込むものであり、前記2つのサブ・マッハツェンダー型光導波路又は前記メイン・マッハツェンダー型光導波路は、各マッハツェンダー型光導波路内の2つの分岐導波路と該分岐導波路に変調電界又は直流バイアス電界を印加する電極との配置が、該2つの分岐導波路に対して非対称構造を有する部分を有し、「光変調部」がSSB光変調器と該SSB光変調器の入力部と出力部とを結ぶバイパス用光導波路とを同一基板上に形成したものであって、該光変調部より出射する光波が、0次のベッセル関数に係るキャリア成分と特定の高次のベッセル関数に係る特定信号成分とを含み、該特定の高次のベッセル関数以外の信号成分を抑圧しているのに対して、引用発明1の光単側波帯(光SSB)変調器127を、そのような構成にする記載がない点。

[相違点2]
本願発明では、光変調部から出射する光波のキャリア成分と特定信号成分の光強度の比率が略1に設定されるのに対して、引用発明1ではそのようなキャリア残留型信号に設定する記載がない点。

5.相違点の検討

[相違点1について]
特開2002-258228号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(a)第2?3頁
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、単一側波帯(SSB)光変調方式を用いて光ファイバ通信に用いられる単一側波帯信号光を生成する方法およびその回路に関し、特に90度ハイブリッド回路の使用を回避できる単一側波帯信号光の生成方法およびその回路に関する。」

(b)第5頁
「【0034】図1は本発明の実施の一形態を示すブロック図である。図1に示された単一側波帯信号光の生成回路は、10Gb/sのSSB光変調器10を有する送信器に2値のNRZ(Non Return to Zero)データ信号を適用したものである。波長1.55μmの半導体レーザ20から出力する搬送波光aを、SSB光変調器10で変調しSSB信号光bを得る。ここで、SSB光変調器10は、上記図10での従来例で用いられているニオブ酸リチウム基板上にマッハツエンダ干渉計11に駆動用のマッハツエンダ干渉計12,13を2重に集積したものを備えている。」(下線は当審で付与、以下同様。)

(c)第6?7頁
「【0049】図6では、光フィルタの機能が、SSB光変調器50を構成するニオブ酸リチウム基板上に集積されている。SSB光変調器50は、光変調部51、光フィルタ部52および局部発振光路53により構成される。更に、フィードバック回路として受光器61、残留強度変調成分検出器62、および制御器63が備えられている。
【0050】光変調部51は上述したものと同一なので説明を省略する。光フィルタ部52は非対称マッハツエンダ干渉計で構成されており、一方のアームの電極に電界をかけることにより、中心周波数を制御することができる。受光器61は光フィルタ部52の出力を受け、残留強度変調成分検出器62を介して残留強度変調成分を受けた制御器63が光フィルタ部52の電極の電界を制御して上述した機能を発揮する。
【0051】局部発振光路53は、ホモダイン検波受信に必要な局部発振光として、搬送波光aを分岐した導光路である。局部発振光路53は、分岐された搬送波光aに電極から位相制御用バイアスを供給して光位相を適切に調整しており、出力側で光フィルタ部52から出力されるSSB信号光に足して送出している。この結果、受信側では一般に広く使われている直接検波受信器が使えるため、システム総合で、小型・低コスト化を図ることができる。」

(d)図1を参照すると、「ニオブ酸リチウム基板上にマッハツェンダ干渉計11に駆動用のマッハツェンダ干渉計12,13を2重に集積した」「SSB光変調器10」は、2つのサブ・マッハツェンダー型光導波路12,13をメイン・マッハツェンダー型光導波路11の分岐導波路に入れ子型に組み込んだ構成であると認められる。

したがって、引用例2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「2つのサブ・マッハツェンダー型光導波路をメイン・マッハツェンダー型光導波路の分岐導波路に入れ子型に組み込んで形成し、搬送波光を変調してSSB信号光を得る光変調部51と、ホモダイン検波受信に必要な局部発振光として、搬送波光aを分岐して、分岐された搬送波光aを、出力側でSSB信号光に足して送出する局部発振光路53とがニオブ酸リチウム基板上に集積されたSSB光変調器50」

引用例2には、SSB光変調器の出力が0次のベッセル関数に係るキャリア成分と特定の高次のベッセル関数に係る特定信号成分とを含む直接的な記載はない。しかし、例えば、米国特許出願公開第2001/0030796号明細書の6頁?7頁の段落番号0099?0100の位相変調されたキャリアの式が示すように、位相変調されたキャリアによって生じるサイドバンドの項がn=1以上の第1種ベッセル関数J_(n)(δ)の項で表され、キャリアの項が0次の第1種ベッセル関数J_(0)(δ)の項で表されることは技術常識である。
また、2つの位相変調された光信号の干渉を利用するマッハツェンダー型変調器において、変調深さを調整するために、合波される光信号の位相変調のかかり具合を非対称にすることは周知技術(例えば、特開平5-264935号公報の段落0014?0015の記載参照)である。
そして、マッハツェンダー型光変調器において、2つの光導波路への光位相変調のかかり方を駆動電圧を異ならせないで非対称にする方法として、電極の断面構造を非対称に構成することは周知技術(例えば、特開平8-86991号公報の「【0024】【発明の実施形態】干渉型光変調器は、いわゆる電気光学効果を応用したものである。すなわち、電気光学効果を持つ物質の屈折率を電界印加により変化させて、物質内を伝搬する光の位相を制御させるものである。したがって、干渉型光変調器において、2つの光導波路を伝搬する光の位相を非対称に変調する具体的な手段としてはいくつかの形態が考えられる。【0025】第1は、各光導波路をそれぞれ異なる駆動電圧で変調する方法である。第2は、駆動電圧は同じくして電極の断面構造を非対称とすることにより光導波路への変調電界のかかり方を非対称にする方法である。第3は、各光導波路でそれぞれ電極長を異ならしめ、光が屈折率変化を感じる導波路長を変える方法である。」という記載及び図9参照)である。
したがって、引用発明1の光変調器127の構成として、引用発明2に記載されたSSB光変調器の構成を採用することにより、2つのサブ・マッハツェンダー型光導波路をメイン・マッハツェンダー型光導波路の分岐導波路に入れ子型に組み込むと共に、SSB光変調器と該SSB光変調器の入力部と出力部とを結ぶバイパス用光導波路とを同一基板上に形成する構成とし、光変調部より出射する光波が、0次のベッセル関数に係るキャリア成分と特定の高次のベッセル関数に係る特定信号成分とを含み、該特定の高次のベッセル関数以外の信号成分を抑圧するように構成することは当業者が容易に想到できたことである。また、引用文献2に記載されたSSB光変調器を構成する2つのサブ・マッハツェンダー型光導波路又はメイン・マッハツェンダー型光導波路においても、位相変調信号の不要な成分を除去してSSB変調信号を作成するために、位相変調の深さを調整する必要性があることは明らかであるから、各マッハツェンダー型光導波路内の2つの分岐導波路と該分岐導波路に変調電界又は直流バイアス電界を印加する電極との配置が、該2つの分岐導波路に対して非対称構造を有する部分を備える構成とすることは、当業者が調整したいマッハツェンダー型光導波路に対して適宜設定しうる設計的事項であり格別なものでない。

[相違点2について]
荘司洋三,浜口清,小川博世、送信電力配分問題を最適化したミリ波自己ヘテロダイン方式による60GHz帯屋内BSデジタル放送伝送システム、映像情報メディア学会誌、2002年8月1日発行、Vol.56/No.8,P.1334-1341の第1336頁の(7)式の説明には、「送信ローカル電力と送信変調信号電力が等しい場合に受信CN比は最大となることがわかり」と記載され、荘司洋三,浜口清,小川博世、ミリ波自己ヘテロダイン通信システムの提案、電子情報通信学会技術研究報告. RCS2000-30, 無線通信システム、2000年6月22日発行,P.1-8の第4頁の式(10)の説明においても最大CN比を得るには、送信ローカル電力と送信変調信号電力が等しい場合であることが記載されているように、送信ローカル電力と送信変調信号電力が等しい場合に最大CN比を得られることは周知技術である。したがって、引用発明においても、送信ローカル信号としてのキャリア成分と、送信変調信号としての特定信号成分の光強度の比率を略1に設定したキャリア残留型信号とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

そして、本願発明の作用効果も引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2012-01-30 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-20 
出願番号 特願2006-511103(P2006-511103)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 稲葉 和生
鈴木 重幸
発明の名称 キャリア残留型信号の生成装置  
代理人 田村 爾  
代理人 田村 爾  

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