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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A01D
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A01D
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 A01D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01D
管理番号 1254866
審判番号 不服2011-5192  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-07 
確定日 2012-04-05 
事件の表示 特願2005-124973「野菜収穫機」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 2日出願公開、特開2006-296332〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年4月22日に出願され,平成22年12月15日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年3月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に,同時に手続補正がなされた。
その後,平成23年7月19日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年9月16日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年3月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年3月7日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正には,特許請求の範囲を次のように補正しようとする補正事項が含まれる(補正箇所に下線を付与した)。

(補正前:平成22年6月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲)
「【請求項1】
機体下部に配設するクローラ走行装置(2)と、機体最前部に配設される掻き込み部(3)と、該掻き込み部(3)の後方に連設される野菜搬送部(4)と、前記クローラ走行装置(2)の後部上方に配設されるコンテナ搬送部(7)と、操作部(90)とを備えて、前記クローラ走行装置(2)を駆動して機体を進行させながら野菜を収穫する自走式の野菜収穫機であって、前記野菜搬送部(4)を構成する搬送装置(40)は、左右の搬送チェーン(43・43)間に搬送棒(44・45)を横架して上面を野菜搬送面(46)とし、該搬送チェーン(43)を、前側の従動スプロケットと後側の駆動スプロケット(51)の間に巻回して斜め上方に搬送駆動するように構成し、該前後の従動スプロケットと駆動スプロケット(51)との間に、該搬送チェーン(43)を緊張するテンションローラー(52)を配置し、該テンションローラー(52)の位置は、前記搬送装置(40)の野菜搬送面(46)と反対側の非搬送面側であって、該駆動スプロケット(51)の近傍で、かつ、該駆動スプロケット(51)の斜め前下方に配置し、前記搬送チェーン(43)の後下部が、後端から水平若しくは前上方へ延びるように緊張させ、前記搬送装置(40)の後端下方に、該搬送装置(40)の後端より落下する野菜をコンテナ搬送部(7)へガイドする落下シュート(85)を配置し、該落下シュート(85)の前上端は、前記搬送装置(40)の後端より下ろした垂線(H)よりも前方に位置し、該落下シュート(85)の前端と野菜搬送面(46)との間にテンションローラー(52)が位置するように配置したことを特徴とする野菜収穫機。」を,
(補正後)
「【請求項1】
機体下部に配設するクローラ走行装置(2)と、機体最前部に配設される掻き込み部(3)と、該掻き込み部(3)の後方に連設される野菜搬送部(4)と、前記クローラ走行装置(2)の後部上方に配設されるコンテナ搬送部(7)と、操作部(90)とを備えて、前記クローラ走行装置(2)を駆動して機体を進行させながら野菜を収穫する自走式の野菜収穫機であって、前記野菜搬送部(4)を構成する搬送装置(40)は、左右の搬送チェーン(43・43)間に搬送棒(44・45)を横架して上面を野菜搬送面(46)とし、該搬送チェーン(43)を、前側の従動スプロケットと後側の駆動スプロケット(51)の間に巻回して斜め上方に搬送駆動するように構成し、該前後の従動スプロケットと駆動スプロケット(51)との間に、該搬送チェーン(43)を緊張するテンションローラー(52)を配置し、該テンションローラー(52)の位置は、前記搬送装置(40)の野菜搬送面(46)と反対側の非搬送面側であって、該駆動スプロケット(51)の近傍で、かつ、該駆動スプロケット(51)の斜め前下方に配置し、前記搬送チェーン(43)の後下部が、後端から水平若しくは前上方へ延びるように緊張させ、前記搬送装置(40)の後端下方に、該搬送装置(40)の後端より落下する野菜をコンテナ搬送部(7)へガイドする落下シュート(85)を配置し、該落下シュート(85)の前上端は、前記搬送装置(40)の後端より下ろした垂線(H)よりも前方に位置し、該落下シュート(85)の前端と野菜搬送面(46)との間にテンションローラー(52)が位置するように配置し、該駆動スプロケット(51)の下部において、前記搬送チェーン(43)を落下方向から逃げる方向へ回動させ、前方へ延びる搬送チェーン(43)と、前記駆動スプロケット(51)と従動スプロケットの下側接線を結ぶ線との間の上側に、角度(α)を構成し、該搬送チェーン(43)と落下シュート(85)の間に構成される三角形状の空間(A)を構成し、該駆動スプロケット(51)の下部と落下シュート(85)の前部との間の距離(B)を、搬送棒(44・45)と落下シュート(85)との間に収穫物が詰まることのない距離としたことを特徴とする野菜収穫機。」と補正する。

2 補正の適否の判断(補正の目的の適否)
(1)上記補正事項において,「駆動スプロケット(51)の下部において、搬送チェーン(43)を落下方向から逃げる方向へ回動させ、前方へ延びる搬送チェーン(43)と、前記駆動スプロケット(51)と従動スプロケットの下側接線を結ぶ線との間の上側に、角度(α)を構成し」とは,「前後の従動スプロケットと駆動スプロケット(51)との間に、該搬送チェーン(43)を緊張するテンションローラー(52)を配置し、・・・前記搬送チェーン(43)の後下部が、後端から水平若しくは前上方へ延びるように緊張させ」た状態を表したものと認められるが,「搬送チェーン(43)と落下シュート(85)の間に構成される三角形状の空間(A)」とは,搬送チェーン(43)のどこと落下シュート(85)のどこの間に形成される空間のことか不明りょうである。
なお,本願の【図7】には,空間(A)として,鎖線にて三角形が示されているが,【図7】において,搬送チェーン(43)は,後端から水平若しくは前上方へ延びるものではなく,また,【図7】において点線で示される三角形は,搬送チェーン(43)と落下シュート(85)によって区切られたものではなく仮想の空間にすぎず,搬送チェーンと落下シュートの間に構成される空間の形状を客観的に特定したものとはいえない。

また,上記補正事項において,「駆動スプロケット(51)の下部と落下シュート(85)の前部との間の距離(B)を、搬送棒(44・45)と落下シュート(85)との間に収穫物が詰まることのない距離とした」とされているが,搬送チェーン(43)のどこと落下シュート(85)のどこの間の距離を指すのか不明瞭である。
なお,【図7】においてBで示される距離は,上記の仮想の三角形の垂直辺の長さを指示しており,距離を特定することができない。
また,距離(B)が,駆動スプロケット(51)の下部と落下シュート(85)の前部との間の最短部分の距離を示すとしても,距離は狭くても広くても,収穫物は詰まることがないから,「収穫物が詰まることのない距離」との記載は曖昧であって,上記記載は,駆動スプロケット(51)の下部と落下シュート(85)の前部との間の距離を限定しているものともいえない。

したがって,上記補正事項は,特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しない。また,請求項の削除又は誤記の訂正を目的とする補正にも該当しない。

3 むすび
以上のとおり,本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年3月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年6月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,前記「第2 1(補正前)」に記載されたとおりのものである(以下,請求項1に係る発明を,「本願発明」という。)。

2 引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-21038号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面と共に,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付与)。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機体を進行させながら玉葱を収穫する自走式の玉葱収穫機に関する。」,

(1b)「【0015】
まず、玉葱収穫機1の全体的な構成について、図1、図2、図3を用いて説明する。
本実施例の玉葱収穫機1は、自走式の歩行型に構成されており、クローラ走行装置2を駆動して機体を畝に沿って前進させながら、畝から引き抜かれて畝上に置かれている玉葱を拾い上げてコンテナ30に収穫する。玉葱は、ピックアップ部3により掻き込むように取り入れられ、第1搬送部4に受け渡されて後方へ搬送される。次いで、第1搬送部4から第2搬送部5に受け継がれ、第2搬送部5によりさらに後方へ搬送される。第2搬送部5の終端まで搬送された玉葱は、選別部6に移送され、該選別部6での選別後、コンテナ搬送部7上のコンテナ30中へ収納される。
【0016】
図1に示すように、玉葱収穫機1において、ピックアップ部3が機体最前部に配設され、該ピックアップ部3の下方に第1搬送部4の前部が配置され、該第1搬送部4が後上がりに傾けて連設され、該第1搬送部4の後部の下方に第2搬送部5の前端部が配置され、該第2搬送部5が前記第1搬送部4よりも傾斜角度を大きくして後上がりに傾けて連設されている。さらに、第2搬送部5の終端側の後下方に選別部6が連設されている。つまり、玉葱の搬送経路に沿って前から順に、ピックアップ部3、第1搬送部4、第2搬送部5、選別部6が配置されて、機体前部において作業機を構成している。なお、第1搬送部4と第2搬送部5とにより玉葱搬送部が構成され、また、第1搬送部4と第2搬送部5との間を受継部9としている。
【0017】
機体下部には、左右一対のクローラ走行装置2が配置されて畝間を走行するようにしており、該クローラ走行装置2はフレームに取り付けられて支持されている。フレームは、前後方向に配置される前後フレーム11と、左右方向に配置され、前後フレーム11を連結するための連結フレーム10とにより形成されている。前後フレーム11は、クローラ走行装置2を支持する左右の前後フレーム11L・11Rと、該左右の前後フレーム11L・11Rの左右略中央に配置される前後フレーム11Mとからなり、中央の前後フレーム11Mの後部が右寄りに折り曲げられて、右側の前後フレーム11Rの後端に接続されて構成されている。
【0018】
フレーム上には、コンテナ搬送部7が支持されている。つまり、コンテナ搬送部7はクローラ走行装置2の上方に配置される。また、フレーム後部には、エンジン12、ミッションケース13等が配設され、支持されている。ミッションケース13の上方には、操作部8が配設されており、該操作部8より後方に向けてハンドル14が突設されている。また、エンジン12の後方には油圧ポンプ15、エンジン12の上方には燃料タンク16がそれぞれ配設されている。
そして、エンジン12、ミッションケース13、油圧ポンプ15および操作部8は、右側の前後フレーム11Rと中央の前後フレーム11Mとの間に配置されている。」,

(1c)「【0019】
フレームの前部上には、左右の支柱17・17が立設され、また、右側の支柱17の外側にチェーンケース37が立設されている。チェーンケース37により後述するスプロケット123a・125aやチェーン125等を覆っている。左右の支柱17・17の上端部間には支持軸20が回転可能に横架されており、該支持軸20によって第2搬送部5の終端側が支持されている。また、左右の支柱17・17の下部前方位置の第2搬送部5の下後側には、支持軸21が横架されており、該支持軸21の両端にアーム22・22の後端部が回動可能に固定されている。左右のアーム22・22は前下がりに傾斜して支持され、該アーム22・22の先端部にゲージ輪23・23が回転自在に支持されている。ゲージ輪23はクローラ走行装置2の前方に配置される。」,

(1d)「【0022】
前記左右中央の前後フレーム11M上に、昇降シリンダ18の基部が枢支されるとともに、該昇降シリンダ18のシリンダロッドの先端が支持軸21の左右略中央に枢結されている。
また、昇降シリンダ18は油圧シリンダにより構成され、図示しない切換バルブを介して油圧ポンプ15と接続されており、該油圧ポンプ15からの圧油を切換バルブを操作する作業機昇降レバー36の操作により昇降シリンダ18を伸縮させることによって、作業機を昇降する。この場合、作業機およびゲージ輪23が一体として、支持軸20を中心に回動する。そして、昇降シリンダ18を収縮させて作業機を作業位置まで降下させて収穫作業を行い、また一方では、昇降シリンダ18を伸長させて作業機を上昇させて機体旋回や非収穫時の走行を行う。」,

(1e)「【0038】
図1、図2、図6に示すように、第2搬送部5は、左右一対の搬送チェーン62・62、複数の搬送体63・63・・・、駆動スプロケット64、従動スプロケット65、駆動軸としての支持軸20、従動軸67、左右一対の側板68・68、天板69、ビニールガイド70等により構成され、玉葱を後上方へ搬送するために備えられている。第2搬送部5の左右両側部には側板68・68が取り付けられており、該左右の側板68・68によって搬送チェーン62・62、搬送体63・63・・・等を側方から覆っている。搬送チェーン62・62は、駆動スプロケット64と従動スプロケット65との間に巻回され、後上がりに傾けて配置されている。この場合、搬送チェーン62・62の傾斜角度は、搬送チェーン53・53の傾斜角度よりも大きくなっている。つまり、玉葱は、第2搬送部5において、第1搬送部4よりも急角度で後上方へ搬送される。駆動スプロケット64は支持軸20に固設され、該支持軸20は左右の支柱17・17に回転自在に軸受支持されている。また、従動スプロケット65は従動軸67に固設され、該従動軸67は前記左右のブラケット27・27に回転自在に軸受支持されている。
第2搬送部5の上部には天板69が配置されており、該天板69の前端部が左右の側板68・68に固定されている。天板69の後端部から後方の選別部6に向けてビニールガイド70が垂れ下がっている。
【0039】
搬送チェーン62・62の間には、複数の搬送体63・63・・・が取り付けられて支持されている。搬送体63は、左右両端に対向配置される一対の枠部材63a・63aと、該枠部材63a・63a間に架設される複数本(本実施例では2本)の第1搬送棒63b・63b、および複数本(本実施例では3本)の第2搬送棒63c・63c・・・とにより形成される。枠部材63aは側面視略「コ」字状に形成され、対向して設けられる一対の側部部材と、該側部部材の一方の端部間を接続する底部部材よりなっている。なお、枠部材63aを、「U」字状、円弧状等、その他の形状としてもよい。
そして、「コ」字状の開放された部分が玉葱の搬送方向(前側で略上方)を向くように、一方の側部部材を搬送チェーン62に取り付けている。また、両側部部材の中途部の間には、連結部材63dが底部部材と略平行に取り付けられている。連結部材63dにより、枠部材63a(搬送体63)を補強するとともに、玉葱の左右方向への移動を規制し、玉葱が搬送チェーン62・62と接触することを防止して、玉葱の損傷の防止を図っている。なお、搬送体63のサイズは枠部材63aによって定まり、収穫される玉葱のサイズに合わせて、枠部材63aのサイズを調節すればよい。」,

(1f)「【0047】
図1、図3に示すように、選別部6は、第2搬送部5の後下方に配置され、該第2搬送部5の後端からコンテナ30に移送するときに腐った玉葱等を選別するとともに、コンテナ搬送部7のコンテナ30に収納するために設けられている。選別部6には選別滑り台90が備えられており、作業者は、左側方に位置して選別滑り台90に移送されてくる玉葱の状態を確かめ、不良の玉葱があれば、選別滑り台90から取り出すことによって、選別作業を行う。」

(1g)「【0048】
選別滑り台90は上面および左側面が開放されて形成されており、この開放されている左側面にはシャッター92が開閉(回動)可能に設けられている。シャッター92は、該シャッター92の左側面に付設されているレバー92aを操作することによって、回動軸91を中心に回動する。そして、シャッター92が回動することにより、選別滑り台90の左側面の下端部分が閉じたり(図1に示す状態)、開いたりする。また、選別滑り台90の底面90aは右側が持ち上げられ、左下がりに傾斜している。このため、選別滑り台90に移送された玉葱は左側に転がる。この選別滑り台90の底面90aは、第2搬送部5から玉葱が開放される部分(終端)よりも下方に設けられており、第2搬送部5の終端で開放された玉葱は、底面90aに達するまでの間、自由落下する。このように、第2搬送部5の終端と、選別滑り台90の底面90aとの間に、玉葱が自由落下する区間を設けているので、第2搬送部5の搬送体63と底面90aとの間に、玉葱が挟まれることがなくなり、これにより、玉葱が損傷することを防止できる。底面90aにはゴム等の弾性部材が貼設されており、第2搬送部5から落下する玉葱への衝撃を緩和して玉葱を傷つけないようにしている。選別滑り台90の左側面の下端部から、左下方に配置されるコンテナ搬送部7のコンテナ30に向けて、収納ガイド93が垂れ下がっている。収納ガイド93の終端には錘用の棒94が取り付けられており、該棒94はコンテナ搬送部7のコンテナ30の底面まで達している。または、コンテナ30の側板上に引っ掛けられるようにしている。」。

(1h)【図1】には,前後の従動スプロケット65と駆動スプロケット64との間に,搬送チェーン62を緊張するテンションローラーを配置していること,該テンションローラーの位置は,第2搬送部5の玉葱搬送側の面と反対側の非搬送面側であって,駆動スプロケット64の近傍で,かつ,駆動スプロケット64の斜め前下方であること,選別滑り台90と第2搬送部5の玉葱搬送側の面との間にテンションローラーが位置するように配置されていること,搬送チェーン62の後下部は,後端から前下方へ延びるように緊張させていることが,記載されている。

これらの記載事項を総合すると,上記刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる。
「フレーム下部に配設するクローラ走行装置2と,フレーム最前部に配設されるピックアップ装置3と,該ピックアップ装置3の後方に連設される玉葱搬送部と,前記クローラ走行装置2の後部上方に配設されるコンテナ搬送部7と,操作部8とを備えて,前記クローラ走行装置2を駆動して機体を進行させながら玉葱を収穫する自走式の玉葱収穫機1であって,
前記玉葱搬送部を構成する第2搬送部5は,左右の搬送チェーン62間に枠状の搬送体63を横架して,上面を玉葱搬送側の面とし,該搬送チェーン62を,前側の従動スプロケット65と後側の駆動スプロケット64の間に巻回して斜め上方に搬送駆動するように構成し,該前後の従動スプロケット65と駆動スプロケット64との間に,該搬送チェーン62を緊張するテンションローラーを配置し,該テンションローラーの位置は,前記第2搬送部5の玉葱搬送側の面と反対側の非搬送面であって,該駆動スプロケット64の近傍で,かつ,該駆動スプロケット64の斜め前下方に配置し,前記搬送チェーン62の後下部が,後端から前下方へ延びるように緊張させ,
前記第2搬送部5の後端下方に,該第2搬送部5の後端より落下する玉葱をコンテナ搬送部7へガイドする選別滑り台90を配置し,該選別滑り台90と第2搬送部5の玉葱搬送側の面との間にテンションローラーが位置するように配置されている,玉葱収穫機1。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-279011号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面と共に,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付与)。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マルチ栽培により圃場に植生された収穫物を収穫する収穫機および収穫方法に関する。」

(2b)「【0030】そして、この掘起体22にて前記機体1の前進に伴い土中に存在する玉葱Tが掘り起こされ、この掘り起こされた玉葱Tは前記搬送コンベヤ23の搬送始端に供給される。
【0031】この搬送コンベヤ23は、前記掘起体22にて掘り起こされこの掘起体22から送られてくる玉葱Tを前記収容部25に向けて搬送するものである。
【0032】そして、この搬送コンベヤ23は、従動回転体41を有し、この従動回転体41は前記掘起体22の後端縁部の近傍に位置して前記両側枠7間に橋架されている。また、この従動回転体41と離間対向して原動回転体42が前記両側枠7の後端部間に橋架され、これら原動回転体42および従動回転体41に搬送用無端体43が回行可能に取り付けられている。この搬送用無端体43は例えば複数のリンクロッド44にて構成され、この搬送用無端体43による搬送中にはこの搬送用無端体43の振動等により各リンクロッド44間から適宜に土等が落下する。
【0033】前記収容部25は、前記搬送コンベヤ23の搬送終端部からシュート46を通って送られてくる玉葱Tを収容するコンテナ47を備えている。また、前記機体1の側枠7の後端部にはコンテナ台48が高さ位置調節可能に取り付けられ、このコンテナ台48に前記コンテナ47が着脱自在に載置される。なお、両側枠7の後端部には左右一対の支持輪50が高さ位置調節可能に取り付けれらている。」

3 対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の「フレーム」は,本願発明「機体」に相当し,以下,同様に,「ピックアップ装置3」が「掻き込み部」に,
「玉葱搬送部」が「野菜搬送部」に,
「玉葱」が「野菜」に,
「玉葱収穫機1」が「野菜収穫機」に,
「第2搬送部5」が「搬送装置」に,
「選別滑り台90」が「落下シュート」に,それぞれ,相当する。
また,刊行物1記載の発明の「枠状の搬送体63」と,本願発明の「搬送棒」とは「搬送部材」である点で共通し,刊行物1記載の発明において,「第2搬送部5の玉葱搬送側の面」と,本願発明の「野菜搬送面」とは,「野菜搬送側の面」である点で共通する。
したがって,両者は,次の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「機体下部に配設するクローラ走行装置と,機体最前部に配設される掻き込み部と,該掻き込み部の後方に連設される野菜搬送部と,前記クローラ走行装置の後部上方に配設されるコンテナ搬送部と,操作部とを備えて,前記クローラ走行装置を駆動して機体を進行させながら野菜を収穫する自走式の野菜収穫機であって,
前記野菜搬送部を構成する搬送装置は,左右の搬送チェーン間に搬送部材を横架して上面を「野菜搬送側の面」とし,該搬送チェーンを,前側の従動スプロケットと後側の駆動スプロケットの間に巻回して斜め上方に搬送駆動するように構成し,該前後の従動スプロケットと駆動スプロケットとの間に,該搬送チェーンを緊張するテンションローラーを配置し,該テンションローラーの位置は,前記搬送装置の野菜搬送側の面と反対側の非搬送面側であって,該駆動スプロケットの近傍で,かつ,該駆動スプロケットの斜め前下方に配置し,
前記搬送装置の後端下方に,該搬送装置の後端より落下する野菜をコンテナ搬送部へガイドする落下シュートを配置した,野菜収穫機。」

<相違点1>
本願発明は,「搬送部材」が「搬送棒」であり,「野菜搬送側の面」が「野菜搬送面」であるのに対し,刊行物1記載の発明は,「搬送部材」が「枠状の搬送体」であり,「野菜搬送側の面」は,直接野菜を搬送する「野菜搬送面」ではない点。

<相違点2>
テンションローラーによって緊張される搬送チェーンの後下部が,本願発明では,後端から水平若しくは前上方へ延びるように緊張されているのに対して,刊行物1記載の発明では,後端から前下方に延びるように緊張されている点。

<相違点3>
落下シュートの前上端が,本願発明は,前記搬送装置の後端より下ろした垂線よりも前方に位置し,該落下シュートの前端と野菜搬送面との間にテンションローラーが位置するように配置しているのに対して,刊行物1記載の発明は,落下シュートの前上端,前端の位置が不明な点。

4 判断
(1)相違点1について
刊行物2には,収穫した玉葱等をコンテナまで搬送する搬送コンベアとして,左右の搬送チェーン間に複数のリンクロッド44(本願発明の「搬送棒」に相当する)を横架して上面を野菜搬送面とした搬送無帯体(同「搬送装置」に相当する。)が記載されており,刊行物1記載の発明において,搬送装置の傾斜が緩い場合に,野菜搬送部材を「枠状の搬送体」に代えて「搬送棒」とし,搬送装置の上面を「野菜搬送面」とすることは,刊行物2記載の発明に基づいて当業者が適宜なしうることである。

(2)相違点2について
本願発明は,明細書段落【0007】に「テンションローラーにより無端体の張り調整ができるとともに、後側のスプロケットから下方へ回り込んだ無端体はテンションローラーにより前方へ張られることになり、無端体後部は従来よりも上方へ持ち上げられるようになる。」と記載されているように,テンションローラーにより搬送チェーンの後下部を緊張させて,上方へ持ち上げるものであり,どの方向に延びるように持ち上げるかは,通常状態での搬送チェーンの緩み具合,搬送装置全体の傾斜に応じて決めうることであって,特に「水平若しくは前上方へ延びるように」緊張させる点に,格別の技術的意義は認められない。
一方,刊行物1記載の発明において,搬送チェーンを緊張させるテンションローラーの位置を変えることにより,搬送チェーンの緊張の程度,すなわち搬送チェーンの後下部の延びる方向を調整できることは自明である。
そして,刊行物1記載の発明において,搬送装置の傾斜が緩い場合や,テンションローラーが駆動スプロケットのすぐ近くに配置されている場合に,搬送チェーンをテンションローラーにより緊張させて,搬送装置の後下部を後端から水平若しくは前上方へ延びるようにすることは,当業者であれば適宜なし得ることである。

(3)相違点3について
刊行物1記載の発明は,落下シュート(選別滑り台90)の前上端がどこに位置するか不明であるが,搬送装置(第2搬送部5)の後端から落下する野菜を確実に受け取ろうとするためには,落下シュートの前上端を,搬送装置の後端に近づけようとすることは当然考慮することである。
そして,刊行物1記載の発明において,野菜搬送部材を「枠状の搬送体」に代えて「搬送棒」としたものにおいて,落下シュートの前上端を,搬送装置の後端に近づけ,搬送装置の後端より下ろした垂線よりも前方に位置させようとすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。
また,刊行物1記載の発明においても,落下シュートと野菜搬送側の面との間にテンションローラーが位置しており,落下シュートの前端と野菜搬送面との間に位置するようにテンションローラーを配置することは当業者が適宜なしうることである。

(4)本願発明の作用効果について
刊行物1記載の発明においても,テンションローラーにより搬送チェーンの張りが調整ができるものと認められ,本願発明の作用効果は,刊行物1及び2記載の発明から当業者が予測しうる程度のことである。

したがって,本願発明は,刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

<付言>
請求人は,回答書において,補正案を提示している。
上記補正案に係る発明は,本願発明に,次の特定事項(下線部参照)を付加したものである。
(a)「該搬送装置(40)は最前部の高さを調節可能とすべく、該駆動スプロケット(51)の駆動軸(50)を中心に、機体に対して上下回動可能に構成」,
(b)「前記搬送装置(40)の下後方において、該搬送装置(40)の後端より落下する野菜をコンテナ搬送部(7)へガイドする落下シュート(85)を機体側に固定して配置」,
(c)「側面視の上下位置において、該落下シュート(85)の前端と野菜搬送面(46)との間にテンションローラー(52)が位置するように配置」。
(d)「該駆動スプロケット(51)の下部において、前記搬送チェーン(43)を落下方向から逃げる方向へ回動させ、 前方へ延びる搬送チェーン(43)と、前記駆動スプロケット(51)と従動スプロケットの下側接線を結ぶ線との間の上側に、角度(α)を構成」
(e)「該搬送チェーン(43)と落下シュート(85)の間に構成される三角形状の空間(A)を構成し、該駆動スプロケット(51)の下部と落下シュート(85)の前部との間の距離(B)を、搬送棒(44・45)と落下シュート(85)との間に収穫物が詰まることのない距離としたこと」

しかし,上記(a)?(d)の事項は,実質的に刊行物1に示されている(記載事項(1b)?(1d)参照)。
また,上記(e)において「三角形状(A)の空間」及び「距離(B)」は,前記「第2 2」に記載のとおり不明瞭であり,また,搬送装置と落下シュートの間に収穫物が詰めることがないようにすることは刊行物1に示されている(記載事項(1g)参照。)
したがって,上記補正案に係る発明も,特許を受けることができないものである。
 
審理終結日 2012-02-01 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-20 
出願番号 特願2005-124973(P2005-124973)
審決分類 P 1 8・ 573- Z (A01D)
P 1 8・ 121- Z (A01D)
P 1 8・ 572- Z (A01D)
P 1 8・ 571- Z (A01D)
P 1 8・ 574- Z (A01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
仁科 雅弘
発明の名称 野菜収穫機  
代理人 矢野 寿一郎  

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