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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1254872
審判番号 不服2011-9689  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-09 
確定日 2012-04-05 
事件の表示 特願2007- 5836「歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月24日出願公開、特開2008-168844〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成19年1月15日の出願であって,平成23年2月3日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成23年5月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2.原査定
原査定における拒絶の理由の一つは,以下のとおりのものと認める。
「この出願の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2005-239132号公報
2.特開2005-178422号公報
3.特開2004-359114号公報」

第3.平成23年5月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成23年5月9日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の概要
本件補正は,特許請求の範囲及び明細書を対象とするもので,請求項1については,補正前に
「アウターパネルと,断面形状が略台形である溝状の骨部に囲まれる凸部を有するインナーパネルからなり,該凸部の端部から中央部までの2/3以上が連続した面であり,前記骨部の底が前記アウターパネルに近接して対向することを特徴とする歩行者保護性に優れる自動車用フードパネル。」
とあるのを,次のとおりに補正するものである。
「アウターパネルと,断面形状が略台形である溝状の骨部に囲まれる凸部を有するインナーパネルからなり,該凸部の端部から中央部までの2/3以上が連続した面であり,前記骨部の底の幅が10?100mmであり,前記骨部同士の間隔を骨部の底の幅の2倍以上とし,前記骨部の底が前記アウターパネルに近接して対向することを特徴とする歩行者保護性に優れる自動車用フードパネル。」

請求項1の補正は,補正前に記載された発明を特定する事項である「骨部」について,上記下線のように限定するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-239132号公報(以下「引用例」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「【0001】
本発明は,FRP(繊維強化プラスチック)製自動車用外板部材に関し,とくに,衝撃荷重を効果的に吸収できるようにした,FRP製ボンネット等に用いて好適な自動車用外板部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,自動車には,衝突時等における安全性を高めることが要求されており,とくに,衝撃的な外力が加わった際の乗員側の安全性とともに,事故時の歩行者保護性能を高めることが要求されている。自動車が歩行者に衝突した際には,歩行者は,自動車の前部やボンネット等に対し,脚や頭部に衝撃荷重を受けることになるが,とくに死亡事故の低減には,頭部へのダメージを低減することが不可欠であると言われている。したがって,とくに頭部にダメージを与えやすい自動車側部位,とくにボンネットに対しては,衝突事故時にも極力衝撃力を吸収でき,頭部へのダメージを小さく抑えることが求められている。」
(b)「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に,本発明の望ましい実施の形態について,図面を参照しながら説明する。
図1および図2は,本発明の一実施態様に係る自動車用外板部材を示しており,とくに本発明を自動車のボンネットに適用した場合を示している。図1および図2において,1は自動車用外板部材としてのボンネットを示しており,図示例では,自動車用外板部材1は,表側FRP層2と裏側FRP層3との間に,弾性体や発泡材等からなるコア材4が介在されたサンドイッチ構造に構成されており,本実施態様では,この部材1の外面,とくに裏面側に,ほぼ直線状に延びる溝状の凹部5が設けられている。本実施態様では,凹部5は,自動車の進行方向Aに関し,ほぼ0°/90°の方向に延設されており,両方向に延びる複数の凹部5により,自動車用外板部材1は格子状に複数の略矩形エリア6に区画されている。この凹部5の延設方向は,効率のよい衝撃エネルギー吸収の点から,0°/90°の方向に対し,±20°の範囲内にあることが好ましい。上記のような溝状の凹部5を設けることにより,ボンネットの幅方向中央部での,自動車の進行方向に延びる中心面0BLにおける断面は,たとえば図2に示すようになる。
【0023】
なお,本発明は,サンドイッチ構造に構成された部分を有する自動車用外板部材の,サンドイッチ構造部分の範囲が,図4,図5に示すように,部材の外周部と中央部分に分かれている構成も含む。すなわち,図4,図5に示すように,自動車用外板部材1aは,表側FRP層2aと裏側FRP層3aとの間に,弾性体や発泡材等からなるコア材4aが介在されたサンドイッチ構造部分を有しており,このサンドイッチ構造部分が部材の外周部と中央部分に分かれて配置されているとともに,両サンドイッチ構造部分間が凹部5aに形成されている。また,図1,図2に示した態様も含めて,凹部5,5aは,FRPの単板構造,すなわちコア材4,4aが介在しない構造のものを含む。さらに,凹部5,5aの幅は,必要に応じて任意の幅に設定することができる。」
(c)「【0027】
また,本発明に係る自動車用外板部材においては,上記のような溝状の凹部を設けずに,あるいは凹部とともに異なる部位に,丘状の凸部を設け,凸部を設けた部位の強度,剛性を局部的に高めるとともに,相対的に,凸部を設けない部位の強度,剛性を局部的に弱める構成とすることもできる。たとえば図7に,表裏のFRP層12,13間にコア材14を介在させたサンドイッチ構造の自動車用外板部材15を示すように,たとえば面側に凸部16を設け,この部位の強度,剛性を局部的に高めるとともに,相対的に,凸部を設けない標準部17の強度,剛性を局部的に弱める構成とすることができる。」

ここで,引用例には,図2に示される自動車用外板部材(ボンネット)の裏側FRP層3に関して,凹部5の箇所で分割された複数の部材とされる旨の説明はされていないこと,また,図7には,裏側FRP層13が1枚の板材からなるものが示されていることから,図2に示される裏側FRP層3は,全体がつながった1枚の板材からなり,凹部5の位置においてへこむ形状を呈していると解される。
そして,記載事項(a)?(c)及び図面の記載によれば,引用例において,次のことがいえる。
・裏側FRP層3の凹部5は,断面形状が略台形である溝状を呈している。
・裏側FRP層3の凹部5を形成しない部分は「凸部」ということができ,この「凸部」は端部から中央部までが連続した面をなしている。
・凹部5同士の間隔は,凹部5の底の幅の2倍を大きく上回っている。

以上を総合すると,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「表側FRP層2と,断面形状が略台形である溝状の凹部5に囲まれる凸部を有する裏側FRP層3からなり,該凸部の端部から中央部までが連続した面であり,凹部5同士の間隔が少なくとも凹部5の底の幅の2倍以上である歩行者保護性に優れる自動車用ボンネット。」

3.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを比較する。
引用発明の「表側FRP層2」,「裏側FRP層3」,「凹部5」,「ボンネット」は,それぞれ本願補正発明の「アウターパネル」,「インナーパネル」,「骨部」,「フードパネル」に相当する。
本願補正発明における「凸部の端部から中央部までの2/3以上が連続した面」は,請求項4の記載からみても,打ち抜き穴の存在を前提とするものではない。引用発明は,「凸部の端部から中央部までが連続した面」となっているから,本願補正発明における「凸部の端部から中央部までの2/3以上が連続した面」との要件を備える。
したがって,本願補正発明と引用発明は,本願発明の表記にしたがえば,
「アウターパネルと,断面形状が略台形である溝状の骨部に囲まれる凸部を有するインナーパネルからなり,該凸部の端部から中央部までの2/3以上が連続した面であり,骨部同士の間隔を骨部の底の幅の2倍以上とした歩行者保護性に優れる自動車用フードパネル。」
の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は,骨部の底の幅が10?100mmであるのに対して,引用発明は,凹部5の底の幅寸法が明らかでない点。
[相違点2]
本願補正発明は,骨部の底がアウターパネルに近接して対向するのに対して,引用発明は,そのような構成となっているのか明らかでない点。

相違点1について検討する。
引用発明において,衝撃力吸収性等の観点から,凹部5の底の幅を好適化することは,当業者にとって通常の創作能力の発揮に過ぎない事項というべきである。実際,引用例の段落【0023】には,「凹部5,5aの幅は,必要に応じて任意の幅に設定することができる。」と記載されている(記載事項(b)参照)。
また,例えば,本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-119592号公報には,歩行者と衝突したときに衝撃を吸収することが可能なエンジンフードのインナーパネルの切り起こし部に関し,スロットの幅Wを50?100mm,配置間隔Dを100?200mmの範囲とするのが好ましいとした記載がある(段落【0021】等参照)。そして,具体的に【表2】には,幅Wを50mm,間隔Dを100mmなどとした例が記載されている。このような数値は,凹部ないしは骨部としたときにも特別の数値とは考えられないことから,引用発明において,例えば,格子状をなす溝状の凹部5に関し,凹部5の底の幅を50mmとして,本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易想到の範囲ということができる。
相違点2について検討する。
引用例の図7とその説明によれば,凹部5に対応する標準部17において,表裏のFRP層はコア材14を介して対向しているのであるから,この状態は,表裏のFRP層が近接して対向しているといい得る。
すると,この図7にあるような技術を参照して,引用発明の凹部5においても表裏のFRP層を近接させて対向させるようにして,本願補正発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者にとって想到容易といえる。

以上のことから,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.まとめ
以上のとおりであるから,本件手続補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第4.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本願発明」という。「第3」の「1.本件補正の概要」参照。)。

第5.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は,前記「第3」の「2.引用刊行物」に記載したとおりである。

第6.対比・判断
本願発明は,本願補正発明から,前記「第3」の「1.本件補正の概要」に記載した限定を外したものである。
してみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第3」の「3.対比・判断」に記載したとおり,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-03 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-23 
出願番号 特願2007-5836(P2007-5836)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 善邦  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 川向 和実
栗山 卓也
発明の名称 歩行者保護性に優れた自動車用フードパネル  
代理人 青木 篤  
代理人 青木 篤  
代理人 永坂 友康  
代理人 永坂 友康  
代理人 亀松 宏  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 亀松 宏  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  

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